(平成30年4月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地及び建物を信託財産とする信託受益権の取得に要した手数料等について、原処分庁が、当該手数料等に係る課税仕入れは、信託財産である商業施設等の賃貸収入を得ることに加え、当該信託受益権の譲渡による対価を得ることを目的としていたものと認められることから、消費税額の控除の計算において、課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに当たるとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該商業施設等は当該信託受益権の取得時において既に事業用に賃貸されており、その取得時に当該信託受益権を譲渡することは確定していないから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 消費税法(平成26年4月1日から平成27年3月31日までの課税期間(以下「平成27年3月課税期間」という。)については平成27年法律第9号による改正前のもの、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税期間(以下「平成28年3月課税期間」といい、平成27年3月課税期間と併せて「本件各課税期間」という。)については平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定し、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定し、同法第2条第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう旨規定している。
  • ロ 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第一第1号は、土地の譲渡及び貸付けを掲げている。
  • ハ 消費税法第14条《信託財産に係る資産の譲渡等の帰属》第1項は、信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に係る資産等取引(資産の譲渡等、課税仕入れ及び課税貨物の保税地域からの引取りをいう。以下同じ。)は当該受益者の資産等取引とみなして、この法律の規定を適用する旨規定している。
  • ニ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れ等については、当該課税仕入れ等を行った日等の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ等に係る消費税額の合計額を控除する(以下「仕入税額控除」という。)旨規定し、同条第2項は、同条第1項の場合において、同項に規定する課税期間における課税売上高が5億円を超えるとき、又は当該課税期間における同条第6項に規定する課税売上割合が100分の95に満たないときは、同条第1項の規定により控除する課税仕入れ等に係る消費税額(以下「課税仕入れ等の税額」という。)の合計額は、同項の規定にかかわらず、同条第2項各号に定める方法により計算した金額とする旨規定している。
     そして、消費税法第30条第2項第1号は、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ等につき、1課税資産の譲渡等にのみ要するもの、2課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び3課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下、上記1ないし3の区分を「用途区分」という。)にその区分が明らかにされている場合には、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等の税額の合計額に、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法により計算した金額とする旨規定している(以下、同号に規定する計算の方法を「個別対応方式」という。)。
  • ホ 消費税法基本通達(以下「基本通達」という。)11−2−20《課税仕入れ等の用途区分の判定時期》は、個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、課税仕入れを課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、昭和○年○月○日に設立され、産業用等に供される機械、器具及び設備等の賃貸借並びに売買等を目的とする法人である。
  • ロ 請求人は、本件各課税期間において、別表1の「区分」欄のP1ないしP5の「物件」欄記載の物件名に係る土地及び建物(以下、これらの物件を併せて「本件各物件」という。)をそれぞれ信託財産とする各信託受益権(以下、別表1の「区分」欄の順に「本件P1受益権」、「本件P2受益権」、「本件P3受益権」、「本件P4受益権」及び「本件P5受益権」といい、これらを併せて「本件各信託受益権」という。)の全部又はその一部である準共有持分(本件P1受益権については100分の50の準共有持分、本件P4受益権については100分の49の準共有持分)を別表1の「計上年月日」欄の年月日にそれぞれ取得した。
  • ハ 本件各信託受益権の取得に係る手続等は次のとおりである。
    • (イ) 請求人は、本件各信託受益権を取得するに当たり、それぞれ次のAないしE記載の者との間で次の書面を取り交わした(以下、これらの書面のうち次のD記載の書面以外のものを併せて「本件各表明書等」という。)。
      • A 本件P1受益権
         請求人とJ社との間で取り交わした「購入意向表明書」と題する書面。
         当該書面には、J社に係る記載部分に平成27年1月21日の日付の記載及び執行役員の押印があり、また、請求人に係る記載部分には同年2月2日の日付の記載及び常務執行役員の押印がある(以下、当該書面を「本件P1購入意向表明書」という。)。
      • B 本件P2受益権
         請求人とK社との間で取り交わした「購入意向表明書」と題する書面。
         当該書面には、K社に係る記載部分に平成27年7月15日の日付の記載及び代表取締役の押印があり、また、請求人に係る記載部分には同月24日の日付の記載及び常務執行役員の押印がある(以下、当該書面を「本件P2購入意向表明書」という。)。
      • C 本件P3受益権
        • (A) 請求人とL社との間で取り交わした「物件M購入意向表明書兼確認書(信託受益権(土地:準共有持分割合60%))」と題する書面。
           当該書面には、L社に係る記載部分に平成27年7月13日の日付の記載及び代表取締役社長の押印があり、また、請求人に係る記載部分に同月14日の日付の記載及び常務執行役員の押印がある(以下、当該書面を「本件P31購入意向表明書」という。)。
        • (B) 請求人とL社との間で取り交わした「物件Mの購入意向表明書兼確認書(信託受益権(土地:準共有持分割合40%)及び信託受益権(建物))」と題する書面。
           当該書面には、L社に係る記載部分に平成27年7月13日の日付の記載及び代表取締役社長の押印があり、また、請求人に係る記載部分に同月14日の日付の記載及び常務執行役員の押印がある(以下、当該書面を「本件P32購入意向表明書」という。)。
      • D 本件P4受益権
         請求人とN社との間で取り交わした平成27年7月31日付の「信託受益権準共有者間協定書(物件P)」と題する書面(以下「本件P4協定書」という。)。
      • E 本件P5受益権
         請求人とL社との間で取り交わした「購入意向表明書」と題する書面。
         当該書面には、L社に係る記載部分に平成27年12月18日の日付の記載及び代表取締役の押印があり、請求人に係る記載部分に同日の日付の記載及び常務執行役員の押印がある(以下、当該書面を「本件P5購入意向表明書」という。)。
    • (ロ) 請求人は、本件各信託受益権を取得するに当たり、社内の決裁文書としてそれぞれ次の件名のりん議書又は審議書を作成した(以下、これらの文書を併せて「本件各りん議書等」という。)。
       なお、本件各りん議書等の担当者欄、部店長欄及び役員欄には、各担当者等の押印があり、本件各りん議書等の写しを○○部、○○部、○○部、○○部及び○○部等に配付した旨記載がある。
      • A 本件P1受益権
         平成27年1月27日を起案日及び決裁日とする「J社向けブリッジ案件としての物件Qの信託受益権(持分割合50%)取得の件」と題する文書で、J社の執行役員の印が押印された本件P1購入意向表明書の写しが添付されている。
      • B 本件P2受益権
         平成27年7月21日を起案日及び決裁日とする「K私募ファンド向けブリッジ案件としての物件Rの信託受益権取得の件」と題する文書で、K社の代表取締役の印が押印された本件P2購入意向表明書の写しが添付されている。
      • C 本件P3受益権
         平成27年7月14日を起案日及び決裁日とする「S社向けブリッジ案件としての物件Mの信託受益権取得の件」と題する文書で、L社の代表取締役社長の印が押印された本件P31購入意向表明書及び本件P32購入意向表明書の各写しが添付されている。
      • D 本件P4受益権
         平成27年7月28日を起案日及び決裁日とする「N社向けブリッジ案件としての物件pの信託受益権取得の件」と題する文書。
      • E 本件P5受益権
         平成27年12月15日を起案日及び決裁日とする「T社向けブリッジ案件としてのU社本社兼R&Dセンターに係る信託受益権取得の件」と題する文書で、本件P5購入意向表明書の写しが添付されている。
    • (ハ) 請求人は、本件各信託受益権を取得するに当たり、次のAないしE記載の者との間でそれぞれ次の契約書を取り交わした。
      • A 本件P1受益権
         V社との間で、平成27年1月30日付で締結した「信託受益権売買契約書(物件Q)」と題する契約書。
      • B 本件P2受益権
         X社との間で、平成27年7月24日付で締結した「信託受益権売買契約書」と題する契約書。
      • C 本件P3受益権
         Y社との間で、平成27年7月14日付で締結した「信託受益権売買契約書(物件M)」と題する契約書。
      • D 本件P4受益権
         Z社及びN社との間で、平成27年7月31日付で締結した「信託受益権売買契約書」と題する契約書。
      • E 本件P5受益権
         e社との間で、平成27年12月18日付で締結した「信託受益権売買契約書(物件f)」と題する契約書。
    • (ニ) 請求人は、本件各信託受益権の取得に当たり、別表1の「手数料の支払先」欄記載の各法人から当該取得に係る媒介の役務の提供を受け、それぞれ同表の「手数料の額」欄記載の手数料(以下「本件各手数料」という。)及び「消費税等の額」欄記載の本件各手数料に係る消費税等を支払った。
       なお、請求人は、別表1の「計上年月日」欄の各年月日に本件各手数料及び本件各手数料に係る消費税等を、それぞれリース資産勘定及び仮払消費税勘定に計上した。
  • ニ 請求人が取得した本件各信託受益権に係る本件各物件は、本件各手数料に係る課税仕入れを行った日において、商業施設等として賃貸の用に供されており、当該賃貸は消費税法第2条第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等に該当する。
  • ホ 請求人は、平成27年9月15日、別表1の「区分」欄のP3の信託土地及びこれに付随する資産を信託財産とする信託受益権の100分の60の準共有持分を譲渡し、また、平成28年3月1日、本件P5受益権の1,000分の3の準共有持分を譲渡している。
  • ヘ 請求人は、本件各課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないことから、本件各課税期間における課税仕入れ等の税額を個別対応方式により計算する際に、本件各手数料に係る課税仕入れを課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するとして、当該課税仕入れに係る消費税額の全額を控除して計算した上、本件各課税期間の消費税等の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までにそれぞれ申告した。
  • ト g税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成29年5月26日付で、本件各手数料に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するとして、別表2の「更正処分等」欄のとおり本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
  • チ 請求人は、本件各更正処分等を不服として平成29年8月23日に審査請求をした。

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2 争点

本件各信託受益権の取得に要した本件各手数料に係る課税仕入れは、個別対応方式の計算上、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件各信託受益権の取得に要した本件各手数料に係る課税仕入れは、次のとおり、個別対応方式による計算上、課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当する。 本件各信託受益権の取得に要した本件各手数料に係る課税仕入れは、次のとおり、個別対応方式による計算上、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当する。
(1) 仕入税額控除は、流通過程における税負担の累積を防止するため、一定の要件の下に、資産等の譲渡に係る税額から仕入税額を控除する制度であるが、消費税法第30条の規定に照らすと、仕入れた資産が、仕入日の属する課税期間中に譲渡されるとは限らないため、控除額の算定においては、仕入れと売上げの対応関係を切断し、当該資産の譲渡が実際に課税資産譲渡に該当したか否かを考慮することなく、仕入れた時点において、課税仕入れに当たるか否かを判断するものとしたと解される。このような制度趣旨に鑑みると、用途区分は、課税仕入れを行った日の状況等に基づき、当該課税仕入れをした事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案し、事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるのかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である。 (1) 仕入税額控除額の算定においては、仕入れと売上げの対応関係は切断されており、個別対応方式における用途区分については、実際に課税資産の譲渡等に該当したか否かを考慮することなく、仕入れた時点において、どの区分に該当するか否かを判断することとされている。そして、判例等によれば、用途区分の判断基準となる課税仕入れを行った日の状況等の認定に当たっては、課税仕入れを行った日の現況に加え、当該課税仕入れをした事業者が有する、その課税仕入れを行った日における確定的な状況の下においての、目的、意図等をも勘案した上で、なお客観的に判断すべきものであるとの規範を示しており、客観性を求められていることからすれば、単なる可能性(蓋然性)だけでなく、第三者が認め得る確乎たる事象・事実が必要と解される。
(2) 本件各手数料に係る用途区分は、本件各信託受益権が請求人に移転又は売買契約が成立し、それに伴い媒介の役務の提供も完了したと認められることから、当該役務の提供の完了の日の状況に基づいて客観的に判断すべきところ、本件各りん議書等において、請求人は、本件各信託受益権につき、その購入前から将来的には譲渡することを方針とするとともに、社内収益率(IRR)の計算においても、その計算期間を本件各信託受益権の取得予定日等から譲渡予定日等又は所有予定期間とし、譲渡を前提として採算性を検討していること、また、請求人は、投資法人等から受領した本件各表明書等の内容を確認・了解の上、本件各信託受益権を売却する意向を有する旨若しくは協議を進めることを確認する旨又は本件P4協定書において売却に関し今後協議を申し入れることができる旨表明等している。
 以上のことからすれば、本件各手数料に係る課税仕入れを行った日の状況によれば、課税資産の譲渡等である住宅以外の貸付けのみを目的としたものであるということも、また、その他の資産の譲渡等に当たる土地の譲渡のみを目的としたものであるということもできないから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当する。
(2) 本件では、本件各信託受益権の取得に当たり、投資法人等から本件各表明書等を受領又は投資法人等と本件P4協定書を締結しているが、本件各表明書等は一切の法的拘束力を持つものではなく、また、本件P4協定書は信託受益権の準共有持分の将来の譲渡を約するものではない。不動産ファンドの取引に伴う商慣行として本件各表明書等の授受又は本件P4協定書の締結が行われているにすぎない。そして、請求人は、本件各信託受益権の取得時において、その譲渡と同時に賃貸の継続も視野に収支状況を検討している。これは本件各物件が常時解約可能な残価リスクのあるオペレーティングリース資産であり、賃貸料収入先である借手側が賃借をいつまで継続するのか等の結果でどのように元本回収を図るかということが考慮されることになり、その意味で、本件各りん議書等の出口シナリオに「売却」と「賃貸継続」が併記されているのは当然といえる。また、社内収益率(IRR)は投下元本の全額回収が前提のため、賃貸期間を仮置きで設定しないと計算できないというだけである。したがって、本件各信託受益権の取得時において、本件各信託受益権の譲渡を行う目的を有していたとする事実はなく、本件各手数料に係る支出についても、本件各信託受益権の譲渡を行う目的をもって行われたものには該当しない。
(3) 請求人の主張の前提となる「確定的な状況の下においての、目的、意図等」の解釈について、裁判例がこのような解釈に基づいたものではないことは明らかであり、請求人の主張はその前提を欠いているとともに、原処分庁が行った事実認定は全て請求人が作成した資料の記載内容を基に行われており、これらの記載内容からすれば、本件各手数料の課税仕入れを行った日における、請求人の目的、意図等は明らかである。 (3) 本件各信託受益権に係る本件各物件は、その取得時において既に事業用に賃貸されており、また、請求人の事業は主として資産の賃貸を業としており、決算報告書上も有形固定資産の「賃貸資産」に計上されている。この会計上の表示科目も一つの客観的な判断材料であり、本件各信託受益権の取得時の目的が賃貸であることを意思表示していることなどから、本件各手数料に係る課税仕入れの用途区分は課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当する。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

消費税法第30条第1項及び第2項は、上記1の(2)のニのとおり規定しているところ、基本通達11−2−20は、同(2)のホのとおり、個別対応方式により課税仕入れ等の税額を計算する場合において、同(2)のニの用途区分の判定は課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めており、当該取扱いは、上記消費税法第30条が「要するもの」と規定し、「要したもの」とは規定していないことからみて、当審判所においても相当と認められる。
 そして、この場合の課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れの目的及び当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容等を勘案して判断すべきものと解するのが相当と認められる。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件P1受益権について
     請求人は、本件P1受益権の取得に先立ち、J社から上記1の(3)のハの(イ)のAに記載する平成27年1月21日付のJ社の執行役員の押印がある本件P1購入意向表明書を受領しているところ、当該書面には、その内容に法的拘束力はない旨記載があるものの、本件P1受益権を請求人からJ社が取得を行う意向を有していることを表明する旨記載があることから、J社が本件P1受益権の取得を行う意向を表明したものであると認められる。
     そして、請求人は、上記1の(3)のハの(ロ)のAのとおり、本件P1購入意向表明書の写しが添付された平成27年1月27日付の社内の決裁文書を作成し、同日に執行役員の決裁を得ている。当該決裁文書には、本件P1受益権について、h社がグループで運用しているJ社が取得するまでの一定期間請求人が保有するブリッジスキームとして取組の打診があったものである旨、平成28年12月に本件P1購入意向表明書に記載の価格でJ社に譲渡することがメインシナリオである旨、J社が本物件のような優良アセットを取得したいという強い意向を示していることは本件P1購入意向表明書で確認済であり、J社の資金調達に関して特段の懸念もないものと思料される旨、EXITシナリオであるJ社への売却の確度は相応に高いと考えられる旨、J社としても是非取得したい物件である旨及び仮にJ社が取得しなかった場合であっても相応の時間をかけることで投資元本の回収は可能と思料される旨などの記載がある。これらの記載内容からすると、請求人は、本件P1受益権の取得に際して、取得時からの賃貸により収益を享受し、J社が取得しなかった場合の検討を行いつつも、J社への譲渡をメインシナリオとして検討を行っていたものと認められ、請求人において、それらの事項を社内の意思決定として明らかにしていることが認められる。
     また、請求人は、J社に対して、上記1の(3)のハの(イ)のAに記載する平成27年2月2日付の常務執行役員の押印がある本件P1購入意向表明書を交付しているところ、当該書面には、法的拘束力はない旨記載があるものの、本件P1受益権を売却する意向を有することを表明する旨記載されており、請求人がJ社に対して本件P1受益権を売却する意向を表明したものであると認められる。
     そして、上記のとおりの請求人における意思決定を経て、請求人とV社との間で上記1の(3)のハの(ハ)のAの契約書が取り交わされていることからすると、請求人は、本件P1受益権の取得時には、本件P1受益権をJ社に譲渡することを目的としていたものと認められる。
  • ロ 本件P2受益権について
     請求人は、本件P2受益権の取得に先立ち、K社から上記1の(3)のハの(イ)のBに記載する平成27年7月15日付のK社の代表取締役の押印がある本件P2購入意向表明書を受領しているところ、当該書面には、その内容に法的拘束力はない旨記載があるものの、本件P2受益権を請求人からK社に係る委託ファンドが取得を行う意向を有していることを表明する旨記載があることから、K社に係る委託ファンドが本件B受益権の取得を行う意向を表明したものであると認められる。
     そして、請求人は、上記1の(3)のハの(ロ)のBのとおり、本件P2購入意向表明書の写しが添付された平成27年7月21日付の社内の決裁文書を作成し、同日に執行役員の決裁を得ている。当該決裁文書には、本件P2受益権について、K社の顧客投資家向けバリューアッド型ファンド(以下「VAファンド」という。)が組成されるまでのブリッジ対応の取組依頼があったものである旨、平成28年3月にK社が組成するVAファンドに売却する旨、VAファンドの組成及び対象物件の買取り蓋然性は相応にあるものと思料される旨、出口シナリオであるVAファンドへの売却の可能性は相応に高いと考えられる旨、K社としても是非取得したい物件である旨、仮にVAファンドによる取得が困難となった場合においてもh社グループと出口戦略を図れると期待できる旨及び万一出口シナリオが図れない場合においても相応の時間をかけることで投資元本の回収は可能と思料される旨などの記載がある。これらの記載内容からすると、請求人は、本件P2受益権の取得に際して、取得時からの賃貸により収益を享受し、VAファンドが取得しなかった場合の検討を行いつつも、VAファンドへの譲渡を出口シナリオとして検討を行っていたものと認められ、請求人において、それらの事項を社内の意思決定として明らかにしていることが認められる。
     また、請求人は、K社に対して、上記1の(3)のハの(イ)のBに記載する平成27年7月24日付の常務執行役員の押印がある本件P2購入意向表明書を交付しているところ、当該書面には、法的拘束力はない旨記載があるものの、本件P2受益権を売却する意向を有することを表明する旨記載されており、請求人がK社に係る委託ファンドに対して本件P2受益権を売却する意向を表明したものであると認められる。
     そして、上記のとおりの請求人における意思決定を経て、請求人とX社との間で上記1の(3)のハの(ハ)の Bの契約書が取り交わされたことからすると、請求人は、本件P2受益権の取得時には、本件B受益権をK社に係る委託ファンドに譲渡することを目的としていたものと認められる。
  • ハ 本件P3受益権について
     請求人は、本件P3受益権の取得に先立ち、L社から上記1の(3)のハの(イ)のCに記載する平成27年7月13日付のL社の代表取締役の押印がある本件P31購入意向表明書及び本件P32購入意向表明書を受領しているところ、当該各書面には、その内容は法的に拘束するものではない旨記載があるものの、本件P3受益権を請求人からL社が指定する者等が購入等を行う意向を有していることを表明する旨記載があることから、L社が指定する者等が本件P3受益権の購入等を行う意向を表明したものであると認められる。
     そして、請求人は、上記1の(3)のハの(ロ)のCのとおり、本件P31購入意向表明書及び本件P32購入意向表明書の各写しが添付された平成27年7月14日付の社内の決裁文書を作成し、同日に執行役員の決裁を得ている。当該決裁文書には、本件P3受益権について、請求人が一定期間保有した後にL社が運用するS社に売却する簿価下げブリッジスキームでの取組依頼があったものである旨、S社が平成27年秋頃に予定している増資時において、土地の一部(60%)を先行して譲渡する予定であり、残りは平成32年7月末に売却予定である旨、EXIT時のS社への売却については、本件P31購入意向表明書及び本件P32購入意向表明書を通じて相応に確度が高いことが確認できている旨、仮にS社が5年後に取得できなかった場合であっても、h社グループと連携したEXIT戦略が期待できる旨及び万が一h社グループによるEXITシナリオが達成できない場合であっても相応の時間をかけることで投資元本の回収は可能と思料される旨などの記載がある。これらの記載内容からすると、請求人は、本件P3受益権の取得に際して、取得時からの賃貸により収益を享受し、S社が取得しなかった場合の検討を行いつつも、S社への譲渡をEXIT戦略として検討を行っていたものと認められ、請求人において、それらの事項を社内の意思決定として明らかにしていることが認められる。
     また、請求人は、L社に対して、上記1の(3)のハの(イ)のCに記載する平成27年7月14日付の常務執行役員の押印がある本件P31購入意向表明書及び本件P32購入意向表明書を交付しているところ、当該各書面には、法的に拘束するものではない旨記載があるものの、請求人がL社の指定する者等に対して本件P3受益権を優先的に購入することができる権利を付与して協議を進めることを確認する旨記載されており、請求人がL社の指定する者等に対して本件P3受益権を優先的に購入することができる権利を付与して協議を進めることを表明したものであると認められる。
     そして、上記のとおりの請求人における意思決定を経て、請求人とY社との間で上記1の(3)のハの(ハ)のCの契約書が取り交わされたことからすると、請求人は、本件P3受益権の取得時には、本件P3受益権をL社の指定する者等に譲渡することを目的としていたものと認められる。
  • ニ 本件P4受益権について
     請求人は、本件P4受益権を取得するに当たり、上記1の(3)のハの(ロ)のDのとおり、平成27年7月28日付で社内の決裁文書を作成し、同日に執行役員の決裁を得ているところ、当該決裁文書には、本件P4受益権について、i社が、N社に組み入れる物件として取得を検討していたが、当該物件は平成28年6月末までj社のマスターリース契約が締結されていることから、信託受益権の100分の51の準共有持分のみの取得にとどめ、当該契約終了後に残りの100分の49の準共有持分を取得する方法につき検討を進めるに当たり請求人が引き合いを受けたものである旨、N社はj社とのマスターリース契約が終了する同月末日直後の増資のタイミングで請求人が取得予定の準共有持分を取得し100%所有とする方針である旨、N社が請求人の取得予定の準共有持分を取得する意向は強く、購入の蓋然性は高いものと思料される旨及び仮にN社が購入できない場合には、継続保有によるマーケットの回復を待ち、また、賃料を上昇させることができればN社への売却だけではなく、外部売却への可能性も高まる旨などの記載がある。これらの記載内容からすると、請求人は、本件P4受益権の取得に際して、取得時からの賃貸により収益を享受し、N社が取得しなかった場合の検討を行いつつも、N社への譲渡を出口シナリオとして検討を行っていたものと認められ、請求人において、それらの事項を社内の意思決定として明らかにしていることが認められる。
     また、請求人及びN社との間で、上記1の(3)のハの(イ)のDに記載する本件D協定書を取り交わしており、本件P4協定書は、N社が請求人の保有する本件P4受益権を購入することについて協議の申入れができ、N社及び請求人は誠実に協議するものとする旨記載されており、請求人がN社に対して本件P4受益権の売却について協議することを確認したものであると認められる。
     そして、上記のとおりの請求人における意思決定を経て、請求人、Z社及びN社との間で上記1の(3)のハの(ハ)のDの契約書が取り交わされたことからすると、請求人は、本件P4受益権の取得時には、本件P4受益権をN社に譲渡することを目的としていたものと認められる。
  • ホ 本件P5受益権について
     請求人は、本件P5受益権を取得するに当たり、上記1の(3)のハの(ロ)のEのとおり、平成27年12月15日付で社内の決裁文書を作成し、同日に執行役員の決裁を得ているところ、当該決裁文書には、本件P5受益権について、L社の運用するT社が平成28年2月頃に予定している増資資金を元に取得すべく売主と交渉していたが、年内の契約締結を強く主張され条件が折り合わなかったことから、請求人に対して増資までのブリッジ対応の要請があったものである旨、EXITシナリオは同月の増資後同年4月には本件E受益権をT社に売却することである旨、本件P5受益権を取得する意向は本件P5購入意向表明書で確認済みである旨、T社が予定している増資まで2月程度であり予定どおり売却できる可能性が高いと考える旨及び仮に本件P5受益権をT社が取得できなかった場合には、そのキャッシュフローを享受しながら投下元本の回収を進めることになる旨などの記載がある。これらの記載内容からすると、請求人は、本件P5受益権の取得に際して、取得時からの賃貸により収益を享受し、T社が取得しなかった場合の検討を行いつつも、T社への譲渡をEXITシナリオとして検討を行っていたものと認められ、請求人において、それらの事項を社内の意思決定として明らかにしていることが認められる。
     また、請求人は、上記1の(3)のハの(イ)のEに記載する平成27年12月18日付のL社の代表取締役の押印がある本件P5購入意向表明書を受領しているところ、当該書面には、その内容は法的に拘束するものではない旨記載があるものの、本件P5受益権を請求人からT社等が購入する意向を表明する旨記載があることから、T社等が本件P5受益権を購入する意向を表明したものであると認められる。
     そして、請求人は、L社に対して、上記1の(3)のハの(イ)のEに記載する平成27年12月18日付の常務執行役員の押印がある本件P5購入意向表明書を交付しているところ、当該書面には、法的に拘束するものではない旨記載があるものの、本件P5受益権を優先的に購入することができる権利をT社等に付与して協議を進めることを確認する旨記載されており、請求人がT社等に対して本件P5受益権を優先的に購入することができる権利を付与して協議を進めることを確認したものであると認められる。
     そして、上記のとおりの請求人における意思決定を経て、請求人とe社との間で上記1の(3)のハの(ハ)のEの契約書が取り交わされたことからすると、請求人は、本件P5受益権の取得時には、本件P5受益権をT社等に譲渡することを目的としていたものと認められる。

(3) 当てはめ

上記(2)のとおり、請求人は、本件各信託受益権の取得時から本件各物件の賃貸による収益を享受しつつも譲渡に伴う譲渡収入を得ることを目的として本件各信託受益権を取得したものと認められるところ、上記1の(2)のイないしニのとおり、本件各信託受益権の譲渡は、信託財産である土地及び建物の譲渡として、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に該当し、また、本件各信託受益権に係る本件各物件の賃貸は、事業用資産の貸付けとして課税資産の譲渡等に該当することから、本件各信託受益権の取得に要した本件各手数料に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するものとして区分するのが相当である。

(4) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、個別対応方式における用途区分については、課税仕入れをした事業者が有する、その課税仕入れを行った日における確定的な状況の下においての、目的、意図等をも勘案した上で、なお客観的に判断する旨主張する。
     しかしながら、上記(1)のとおり、個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととされ、課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れの目的及び当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容等を勘案して判断すべきものと解するのが相当であり、請求人は、本件各信託受益権の取得時において、正に本件各信託受益権を譲渡することを目的としていたと認められることは上記(3)のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
  • ロ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件各表明書等は一切の法的拘束力を持つものではなく、また、本件P4協定書は請求人取得予定持分の将来の譲渡を約するものではないこと及び本件各信託受益権の取得時において、その譲渡と同時に賃貸の継続も視野に収支状況を検討しているが、これは本件各物件の借手側の賃借の継続等の結果でどのように元本回収を図るかということが考慮されることになるため、その意味で「売却」と「賃貸継続」が併記されているのは当然であるなどとして、本件各手数料に係る支出について、本件各信託受益権の譲渡を行う目的をもって行われたものには該当しない旨主張する。
     しかしながら、個別対応方式における用途区分の判定は上記(1)のとおりであり、また、本件各信託受益権の取得時に本件各物件の賃貸のみではなく、本件各信託受益権を譲渡することを目的としていたと認められることは上記(3)のとおりであって、このことは請求人の指摘する各事情を考慮しても、本件各手数料に係る課税仕入れの用途区分の判定が異なることとなるものではない。したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ハ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のとおり、本件各信託受益権に係る本件各物件がその取得時において既に事業用に賃貸されており、また、決算報告書上も有形固定資産の「賃貸資産」に計上されていることも一つの客観的な判断材料であり、その取得の目的が賃貸であることを意思表示していることなどから、本件各手数料に係る課税仕入れの用途区分は課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当する旨主張する。
     しかしながら、本件各信託受益権の取得時において本件各物件の賃貸のみではなく本件各信託受益権を譲渡することを目的としていたと認められることは上記(3)のとおりであり、本件各信託受益権が決算報告書上有形固定資産の「賃貸資産」に計上されていたとしても、会計上の勘定科目の判定基準と消費税法の用途区分の判定基準は異なるものであり、会計上の勘定科目の判定がそのまま本件各手数料に係る課税仕入れの用途区分の判定につながるものではない。したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各信託受益権の取得に要した本件各手数料に係る課税仕入れの用途区分は、個別対応方式の計算上、いずれも課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当する。これに基づき算出した請求人の本件各課税期間における消費税等の納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分と同額であると認められる。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(5)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件各課税期間の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、いずれも棄却することとする。

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