(平成30年9月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、裁判上の和解に基づいて支払われた解決金の額を益金の額に算入するとともに同額を株式の評価損として損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、原処分庁が、株式の評価損が計上できる事実は生じていないなどとして更正処分等をしたのに対し、請求人が、申告において当該解決金を益金の額に算入していた処理は誤りであり、当該解決金は取得した株式の売買代金の返還として支払われたもので、当該解決金相当額は益金の額に算入されず、株式の取得価額を減額すべきであったとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

法人税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨、同条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(第1号)、2上記1に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(第2号)及び3当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(第3号)とする旨、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨それぞれ規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成○年○月○日に設立された、医療及びヘルスケア関連事業の営業、調査、マーケティングの支援等を目的とする法人である
  • ロ J社は、平成○年○月○日に設立された法人で、平成○年○月○日まで、K証券取引所が開設しているL市場に上場していた。
  • ハ 請求人は、J社の株式について、買付価格を1株につき○○○○円として、平成○年○月○日から同年○月○日まで公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を実施した。
  • ニ 本件公開買付け当時のJ社の代表取締役等は次のとおりであった。
    • (イ) M(以下「M氏」という。)は、平成14年12月○日から平成21年4月○日までJ社の代表取締役であって、本件公開買付けの前日においてJ社の筆頭株主であった。
    • (ロ) N(以下「N氏」といい、M氏と併せて「M氏ら」という。)は、平成19年5月○日からJ社の代表取締役であった。
    • (ハ) P(以下「P氏」という。)は、平成17年7月○日にJ社の取締役に就任し、平成21年9月○日に取締役を辞任した。
  • ホ 請求人は、本件公開買付けに先立ち、M氏との間で、平成○年○月○日付「公開買付に関する契約書」(以下「本件契約書」という。)を作成し、公開買付けに関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
    本件契約書には、要旨次のとおり記載されている。
    • (イ) 株式(以下「本件株式」という。)とは、M氏が直接所有するJ社の株式○○○○株を意味する(第1条(定義)の(1))。
    • (ロ) M氏は、請求人に対して、本件契約の締結日及び公開買付けに係る決済がされる日現在において、M氏が請求人に開示したJ社及びその子会社の直近事業年度の計算書類及び連結計算書類は、それぞれ作成された時点において、一般に公正妥当と認められる会計原則に従って作成されており、記載された基準日現在又は対象となる期間におけるJ社及びその子会社の財務状況を正確に表示していることについて、真実かつ正確であることを表明し、保証する(第4条(表明及び保証)1の(4)の1)。
    • (ハ) 請求人又はM氏は、他の当事者に対し、請求人又はM氏が本件契約に含まれている義務若しくは誓約に違反したこと、又は第4条の表明及び保証に違反(以下「表明保証違反」という。)があったことに起因して他の当事者に生じた損害を補償する。表明保証違反を理由とする補償責任については、補償すべき損害等の額の上限は、買付価格に本件株式の数を乗じた金額の50%とする(第6条(補償)の1及び2)。
  • ヘ 請求人は、本件公開買付けにおいて、本件株式(○○○○株)を含むJ社の株式○○○○株を取得し、本件公開買付けの後、同社の株式5,818株を取得して平成○年○月○日に同社を完全子会社とした(以下、本件公開買付け及びその後の株式の取得を併せて「本件公開買付け等」という。)。
  • ト 請求人は、平成22年3月、J社が不適切な会計処理を行っている旨内部通報を受けたため調査委員会を立ち上げ、同委員会による調査を実施したところ、J社において、売上高の前倒し計上等の不適切な会計処理が行われていたことが判明した。
  • チ 請求人及びJ社は、本件公開買付け当時、J社の代表取締役であったM氏らに対し、本件公開買付けに当たってJ社の株式取得のために過大な支払をしたことによる損害が生じたなどとして、平成22年8月12日付で訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。
     本件訴訟における請求人の請求は要旨次のとおりである。
    • (イ) M氏に対する請求は、本件契約に係る表明・保証、取締役の第三者に対する責任、不法行為責任及び金融商品取引法(平成26年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《虚偽記載等のある届出書の提出会社の役員等の賠償責任》第1項に基づく損害賠償請求である。
    • (ロ) N氏に対する請求は、取締役の第三者に対する責任、不法行為責任及び金融商品取引法第22条第1項に基づく損害賠償請求である。
    • (ハ) 本件訴訟において請求人が請求した損害額は○○○○円であり、その内訳は次のとおりである。
      • A 株式対価の過大支払額
        • (A) 本件公開買付け時 ○○○○円
           適正価格を1株45,110円として過大支払額を算出した((○○○○円−45,110円)×○○○○株=○○○○円)。
        • (B) 完全子会社化時 ○○○○円
           適正価格を1株45,110円として過大支払額を算出した((○○○○円−45,110円)×5,818株=○○○○円)。
      • B 調査委員会費用 10,541,895円
      • C 追加監査費用 945,000円
      • D 課徴金 3,600,000円
  • リ N氏は、本件訴訟係属中にP氏に対して訴訟告知をし、これに対して、P氏は、平成24年4月に本件訴訟に補助参加した。また、M氏は、Q弁護士を本件訴訟における訴訟代理人に選任した。
  • ヌ 本件訴訟は、平成27年12月○日に裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立し、平成27年12月○日付和解調書(以下「本件和解調書」といい、本件和解調書で定めた和解条項を「本件和解条項」という。)が作成された。
     本件和解調書の本件和解条項には要旨次のとおり記載されている。
    • (イ) M氏ら及びP氏は、請求人に対し、本件訴訟の解決金(以下「本件解決金」という。)として連帯して○○○○円の支払義務があることを認め、これを平成27年12月30日限り、請求人名義の銀行預金口座に振り込む方法により支払う(第1項)。
    • (ロ) 請求人及びJ社とM氏ら及びP氏は、本件解決金の支払は、請求人によるJ社の株式の取得対価が過大であったことを理由とするものであることを確認する(第2項)。
    • (ハ) 請求人は、M氏らに対するその余の請求を放棄する(第9項)。
    • (ニ) 請求人及びJ社とM氏ら及びP氏は、本件に関し、請求人とM氏ら及びP氏との各間、J社とM氏ら及びP氏との各間には、本件和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する(第12項)。
  • ル 請求人は、平成27年12月25日に、本件和解に基づいてM氏から○○○○円、N氏及びP氏から各○○○○円の合計○○○○円を本件解決金として受領した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税及び平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書にそれぞれ別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限(法人税は、法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により、地方法人税は、地方法人税法(平成29年法律第4号による改正前のもの)第19条第5項の規定により、それぞれ1月間延長されたもの)までに申告した。
     請求人は、本件事業年度の法人税の確定申告において、受領した本件解決金の額(○○○○円)を益金の額に算入するとともに、同額を子会社株式評価損として損金の額に算入した。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査を受け、平成29年6月15日、別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおり記載した本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税の修正申告書を提出し、当該各修正申告に対し、H税務署長は、平成29年7月28日付で別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり法人税及び地方法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ハ H税務署長は、本件調査担当職員の調査に基づき、本件解決金に関し、平成29年7月28日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり本件事業年度の法人税に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)並びに別表2の「更正処分等」欄のとおり本件課税事業年度の地方法人税に係る更正処分(以下、本件更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
  • ニ 請求人は、本件各更正処分等に不服があるとして、平成29年10月27日に審査請求をした。

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2 争点

本件解決金の額は、所得の金額の計算上、益金の額に算入されるか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件解決金の額は、損害賠償金としての性質を有するものであるから、所得の金額の計算上、益金の額に算入される。 本件解決金の額は、本件株式の売買代金の減額調整金として支払われたものであるから、収益ではなく、J社の株式の取得価額が減額される。
(1) 本件では、本件和解により、請求人が支払を受けた本件解決金の法的性質の解釈が問題となっているところ、課税処分の基礎となった裁判上の和解に基づく権利関係を検討するに当たっては、まずは、当該和解に基づき作成された和解調書に記載された条項の文言解釈が中心となることはもちろんであるが、一般法律行為の解釈と同様、文言とともにその解釈に資すべき他の事情、特に裁判上の和解であるからこそ、訴訟事件の従来の経過等を十分に参酌して、もって当事者の真意を探求してなされるべきである。 (1)  裁判上の和解の解釈に当たって、一般的な和解契約と同様に、和解条項の文言だけではなくて、訴訟の経過その他の解釈に資する事情を勘案する余地はある。ただし、裁判上の和解は、裁判官の関与の下に成立するものであることから、その内容は、原則として、和解条項の文言に即して判断すべきであり、特に裁判上の和解の成立に訴訟代理人である弁護士が関与している場合には、和解条項の文言から離れて、裁判上の和解の成立に至った経過や一方当事者及びその代理人の認識を考慮すべきではない。
(2) これを本件解決金についてみると、請求人とM氏との間で締結された本件契約書の第6条には、M氏に表明保証違反があった場合に、本件株式の売買代金を減額し、請求人に返還する旨の定めはない。
 請求人は、M氏らを被告とする訴訟において法的根拠は様々であるものの、結局、請求人が受けた損害の賠償を訴訟の対象として選択したものであって、売買代金の返還請求権を訴訟の対象としていたものではない。
 請求人は、本件訴訟の提起後本件和解成立前に、原処分庁所属の担当職員から損害賠償請求権が確定したことをもってJ社の株式取得価額の修正を認めることはできないとの回答を得ていたところ、請求人の代理人弁護士は、本件和解条項の第2項の記載について、当該記載の内容どおりでないと本件解決金に課税される蓋然性が高いと考えている旨を○○地方裁判所に申し出ていることから、請求人は、課税対策として本件和解条項の第2項の内容の記載を求めていたと認められる。
 また、M氏の訴訟代理人であるQ弁護士は、和解協議に当たり当事者間で本件解決金の支払の理由について確認した経緯はない旨及び本件和解条項の第2項の削除を依頼する旨を○○地方裁判所に上申したが、裁判を早期に終結させるために本件和解条項の第2項の記載の内容について認めている。
 これらの本件和解に至る経緯からすると、請求人及びM氏の間において、本件株式の売買代金を返還する合意が成立したとはいえない。
(2) 本件では、原処分庁への照会結果からすると、損害賠償金が和解の対象となるか否かによって課税関係に差異が生じる可能性が高かった。しかも、表明保証違反による補償請求は、表明保証違反という契約不適合が生じた場合に、対価の均衡を維持するために、売主の故意又は過失を問わずに金銭の支払を行うものであり、代金の減額調整を図るものであるところ、もともと日本法にない概念であるために、原処分庁が単純な損害賠償請求権であると誤解する可能性もあった。
 そこで、請求人は、そのような誤解を避けるために、和解の対象が表明保証違反による補償請求であり、しかもそこでいう補償請求とは過大となった対価の減額調整を行うもので、本件解決金の法的性質は売買代金の減額調整金であることを明確にするために、本件和解条項の第2項で「前項の解決金の支払は、(略)株式の取得価額が過大であったことを理由とするものであることを確認する」と明記することを○○地方裁判所に求め、最終的には、M氏側がこれを受諾したため、これが本件和解条項とされたのであり、かかる経緯は、本件解決金が売買代金の減額調整金であることを裏付ける事情であるといえる。
 また、Q弁護士は、本件和解条項によれば、本件解決金はJ社の株式取得対価の過大額を埋め合わせる趣旨で払われることを認識した上で、これを受諾した旨を原処分庁に対して申述したのである。
(3) 以上のとおり、本件解決金は損害賠償責任をめぐる紛争を解決するために支払われた損害賠償金と認められる。 (3) 以上のとおり、本件解決金は本件株式の売買代金の減額調整金として支払われたものと認められる。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件公開買付けにおいて、J社の株式を1株当たり○○○○円として、M氏から本件株式(○○○○株)を合計○○○○円で取得したほか、他の株主から○○○○株を合計○○○○円で取得した。
     請求人は、本件公開買付けの後、平成○年○月○日までの間において、J社の株式を1株当たり○○○○円として5,818株を合計○○○○円で取得した。
  • ロ Q弁護士が○○地方裁判所に提出した平成27年12月7日付上申書には、請求人側で作成した和解条項案の第2項(本件和解条項の第2項と同じ。)について、「第2項は、解決金支払いの理由を確認するものですが、和解協議にあたり、当事者間で解決金支払いの理由について確認した経緯はないと理解しております。また、和解にあたり、解決金支払いの理由を定める必要もないと存じますので、同項については、削除をして頂きたく存じます。」と記載され、M氏も「和解金○○○○円は損害賠償に対する解決金であると理解していますし、」「和解金の支払いは当初売買の対価を返還したものではありません。」と申述している。
  • ハ 本件和解の協議において、M氏ら及びP氏の代理人弁護士らは、請求人が取得したJ社の株式の取得対価が過大であったと裁判で認定された事実はないので、和解条項案の第2項を削除するよう上記ロのとおり申し入れたものの、請求人及びJ社側から、同項の文言を記載しないと本件解決金にほぼ確実に課税されるが、同項を入れると課税されない蓋然性が高い旨説明され、同項を入れる案でまとめてもらいたいとの要請があったことから、M氏ら及びP氏はこれを受け入れたものであり、上記ロと併せみれば、本件和解の協議において、本件解決金が本件株式の売買代金の返還である旨の合意はなされていない。

(2) 検討

  • イ 本件解決金は本件和解の成立により請求人に支払われたことから、本件解決金の性質の検討に当たっては、まず本件和解調書に記載された条項の文言解釈が中心となることはもちろんであるが、一般法律の解釈と同様、文言とともにその解釈に資するべき他の事情、特に裁判上の和解であるからこそ、本件訴訟の経過等をも十分に参酌して、当事者の真意を探求してなされるべきである。
  • ロ 本件和解条項の第2項の文言は、本件解決金を支払うことになった理由であり、請求人によるJ社の株式の取得対価が過大であった旨記載されているとおり、本件解決金が本件株式(○○○○株)の売買代金の返還であるとの記載ではない。
  • ハ そこで、本件訴訟の経過等について検討する。
    • (イ) 本件訴訟は、本件公開買付けに当たって、J社の株式取得のために過大な支払をしたことにより損害が生じたとして、J社の役員であったM氏ら及びP氏を相手に訴訟が提起されたもので、1本件訴訟の請求は、上記1の (3)のチの(イ)及び(ロ)のとおり、法的根拠は異なるものの、いずれも損害賠償請求である。そして、2上記1の(3)のチの(ハ)のとおり、請求人は、本件訴訟において、M氏から取得した本件株式(○○○○株)について損害額を算定したのではなく、本件株式のほかにもM氏以外の株主からも取得した全ての株式(○○○○株及び5,818株)の取得対価の過大支払額を損害額として請求するとともに、本件株式の取得対価とは異なる損害額(調査委員会費用、追加監査費用及び課徴金の損害額)についても請求していた。また、3本件解決金を支払う義務を負う者としてM氏のほか、本件公開買付け当時J社の役員であったN氏及びP氏を含めている。そうすると、本件訴訟の内容は、M氏から取得した本件株式(○○○○株)の売買代金の返還を求めるものとは認められない。
    • (ロ) その後、本件和解の協議が行われたものの、上記(1)のハのとおり、本件和解の協議においても、本件解決金が本件株式の売買代金の返還である旨の合意はなされていない。
    • (ハ) また、請求人は、上記(1)のイのとおり、J社の株式のうち、本件株式(○○○○株)についてはM氏から取得しているものの、その他の株式○○○○株及び5,818株についてはM氏から取得したものではなく、他方、請求人が受領した本件解決金は、上記1の (3)のルのとおり、M氏ら及びP氏から支払われたものであることから、本件解決金は、その他の株主から取得したJ社の株式○○○○株及び5,818株に関する売買代金の返還として支払われたものではない。
  • ニ 以上のことから、本件解決金の性質は、上記1の(3)のトのJ社の不適切な会計処理に起因し、本件公開買付け等により請求人に生じた損害をJ社の当時の役員らが連帯して賠償金として支払義務を負った損害賠償金と認められ、本件解決金は本件株式の売買代金の返還であるとは認められない。したがって、本件解決金の額は、損害賠償金として、請求人の本件事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入される。

(3) 請求人の主張について

請求人は、本件解決金は本件株式の売買代金の減額調整金として支払われたもので、この点を明確にするため本件和解条項の第2項を明記したことから本件解決金の法的性質は本件株式の売買代金の返還である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のロのとおり、本件和解条項の第2項の文言は、本件解決金を支払うことになった理由が示されたものにすぎず、本件和解に至る協議において、本件解決金が本件株式の売買代金の返還である旨の合意があったと認めることはできない。したがって、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、Q弁護士は、本件和解条項によれば、本件解決金はJ社の株式取得対価の過大額を埋め合わせる趣旨で払われることを認識した上で、これを受諾した旨を原処分庁に対して申述した旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査及び審理においても請求人が主張する申述を認めるに足りる証拠はないことから、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件各更正処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はなく、これに基づき算出した本件事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額並びに本件課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額は、当審判所においても、本件各更正処分の額と同額であると認められる。
 また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても本件事業年度及び本件課税事業年度の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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