(平成30年12月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、d税務署長が、調査において審査請求人(以下「請求人」という。)から帳簿書類等の提示がなかったとして、請求人の事業所得の金額を推計して所得税等の更正処分等をし、また、課税仕入れに係る消費税額の控除を適用しないで消費税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、推計の必要性及び合理性がないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 所得税法関係
     所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。
  • ロ 消費税法関係
    • (イ) 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項柱書及び同項第1号は、事業者(同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において課税仕入れを行った場合は、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している(以下、同法第30条第1項の規定による控除を「仕入税額控除」という。)。
    • (ロ) 消費税法第30条第7項本文は、上記(イ)の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れに係る消費税額については、適用しない旨規定している。また、同項ただし書は、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者が証明した場合には、この限りでない旨規定している。
    • (ハ) 消費税法施行令(平成30年政令第135号による改正前のもの。以下同じ。)第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項本文は、上記(イ)の規定の適用を受けようとする事業者は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、所定の日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯について

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の事業等について
     請求人は、平成18年以後、自宅を事業所として、○○を営む個人事業者である(以下、請求人が営む事業を「本件事業」という。)。
     なお、請求人は、平成24年分、平成25年分、平成26年分及び平成27年分(以下、これらの年分を併せて「本件各年分」という。)の所得税について、所得税法第143条《青色申告》に規定する青色申告の承認を受けていなかった。
  • ロ 請求人の住所について
     請求人は、平成26年11月14日、e市○町○−○(以下「e自宅」という。)からf市○町○−○(以下「f自宅」という。)に、平成30年6月25日、f自宅から肩書地に、それぞれ住所を異動した。
  • ハ 請求人の確定申告等の状況について
    • (イ) 請求人は、平成24年分の所得税並びに平成25年分、平成26年分及び平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、それぞれ別表1の「確定申告」欄のとおり確定申告書に記載して申告した。
       なお、上記の各確定申告書における事業所得に係る総収入金額の内訳は、別表2のとおりであり、また、当該各確定申告書に添付された「収支内訳書(一般用)」(以下「本件各内訳書」という。)には、要旨、別表3の内容が記載されていた。
    • (ロ) 請求人は、平成24年1月1日から平成24年12月31日まで及び平成25年1月1日から平成25年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成24年課税期間」及び「平成25年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、それぞれ別表4の「確定申告」欄のとおり確定申告書に記載して申告した。
       また、請求人は、平成26年1月1日から平成26年12月31日まで及び平成27年1月1日から平成27年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成26年課税期間」及び「平成27年課税期間」といい、これらの各課税期間と平成24年課税期間及び平成25年課税期間とを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、いずれも確定申告書を提出しなかった。
  • ニ 原処分に係る調査及び更正処分等について
    • (イ) g税務署長所属の調査担当職員(以下「g署調査担当職員」という。)は、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項所定の事前通知を行った上、平成26年8月4日、e自宅に臨場し、所得税等及び消費税等の調査を開始した。
       その後、上記ロのとおり、請求人の住所地の異動に伴い、上記の調査は、f自宅の住所地を管轄するd税務署長所属の調査担当職員(以下「d署調査担当職員」という。)に引き継がれた。
    • (ロ) d署調査担当職員は、平成27年6月23日から平成28年12月8日にかけて、請求人の取引先に対して調査を行い、別表5のとおり、本件各年分の事業所得に係る総収入金額を把握した。
    • (ハ) d税務署長は、平成29年4月28日付で、本件各年分の所得税等について、事業所得の金額を推計し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件所得税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)をし、また、本件各課税期間の消費税等について、別表4の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分又は各決定処分及び過少申告加算税又は無申告加算税の各賦課決定処分をした。
  • ホ 再調査の請求等について
    • (イ) 請求人は、平成29年7月25日、上記ニの(ハ)の各処分を不服として、再調査の請求(以下「本件再調査請求」という。)をした。
    • (ロ) 請求人は、平成29年8月31日、本件再調査請求に係るd税務署長所属の調査担当職員(以下「本件再調査担当職員」という。)に対して、1総収入金額に関する年月日、取引先、収入金額等につき、データベースソフトの「hソフト」上の各データを出力したものとする書面(以下「本件hソフト出力書面」という。)を、2必要経費に関する集計金額、年月日ごとの各支払金額等につき、表計算ソフトの「iソフト」上の各データを出力したものとする書面(以下「本件iソフト出力書面」といい、本件hソフト出力書面と併せて「本件各出力書面」という。)を、また、3請求人の各支払に係る領収書(以下「本件各領収書」という。)を、それぞれ提出した。
       なお、本件hソフト出力書面に記載された本件各年分の収入金額の内訳は別表6のとおりであり、本件iソフト出力書面に記載された必要経費に関する集計金額の内訳は別表7のとおりであり、本件再調査担当職員が本件各領収書を集計した結果等は別表8のとおりであった。
    • (ハ) 再調査審理庁であるd税務署長は、平成29年11月30日付で、平成26年課税期間の消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分について、別表4の「再調査決定」欄のとおり、その一部を取り消し、その他の各処分については、別表1及び別表4の「再調査決定」欄のとおり、いずれも再調査の請求を棄却する再調査決定(以下「本件再調査決定」という。)をした。なお、本件再調査決定に係る再調査決定書の謄本は、平成29年12月13日、請求人に送達された。
       以下、本件各課税期間の消費税等の各更正処分又は各決定処分(ただし、平成26年課税期間の消費税等の決定処分については、その一部が取り消された後のもの。)を「本件消費税等各更正処分等」といい、本件各課税期間の消費税等の過少申告加算税又は無申告加算税の各賦課決定処分(ただし、平成26年課税期間の無申告加算税の賦課決定処分については、その一部が取り消された後のもの。)を「本件消費税等各賦課決定処分」という。
  • ヘ 審査請求について
     請求人は、平成30年1月12日、本件再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。
     なお、請求人は、本件各年分の事業所得に係る総収入金額及び本件各課税期間の消費税に係る課税標準額については争っていない。
  • ト 原処分庁について
     上記ロのとおり、平成30年6月25日の請求人の住所地の異動に伴い、原処分庁は、d税務署長からb税務署長となった。

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2 争点

  • (1) 本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性があるか否か(争点1)。
  • (2) 本件所得税等各更正処分について、d税務署長が行った推計の方法に合理性があるか否か(争点2)。
  • (3) 本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除は認められるか否か(争点3)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
  次のことから、本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性があった。   次のことから、本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性はなかった。
  • イ d署調査担当職員は、請求人に対し、再三にわたり確定申告の基となった全ての帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、本件事業に係る総収入金額及び必要経費の計算の基となる帳簿書類を一切提示しなかった。このような税務調査に対する請求人の非協力によって、原処分庁は、本件事業に係る本件各年分の事業所得の金額を実額により計算することができなかった。
  • イ 原処分庁は請求人が調査に非協力であったと主張するが、請求人としては仕事の都合で忙しく応答できないことはあったが可能な限り対応していたのであって、非協力的な態度をとったことはない。
  • ロ 納税者が再調査の請求に係る調査において提示した資料によって収入及び経費の実額を主張・立証する場合は、課税処分に対する単なる反証ではなく、当該主張をする者自らが主張・証明責任を負うべきであって、単に収入又は経費の実額の一部又は全部を主張・証明するだけでは足りず、収入及び経費の実額を全て主張・証明することを要するべきであると解されている。
     この点、請求人は、本件再調査請求の際に提出した本件各出力書面及び本件各領収書に基づいた実額での所得金額の算定を主張するところ、次の(イ)ないし(ハ)のことからすれば、本件各出力書面の信用性は低く、これに次の(二)及び(ホ)も併せれば、本件各出力書面及び本件各領収書のみでは請求人の収入及び経費の実額を全て主張・証明しているといえない。
  • ロ 本件事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、本件iソフト出力書面及び本件各領収書に基づき算出することができる。
     これに対し、原処分庁は、左記ロのとおり、本件iソフト出力書面の信用性が低い旨主張する。
     しかしながら、請求人は、本件再調査担当職員に、本件各領収書の中には請求人のプライベートなものや確定申告に関係のないものが多数含まれている旨を説明しているのであるから、本件各領収書に本件iソフト出力書面に記載のないものが含まれているのは当然であり、本件再調査担当職員も確定申告に関係のない書類が多数含まれていることを承知の上で持ち帰ったにもかかわらず、そのことが、本件iソフト出力書面の帳簿としての信用性が低いとの主張の根拠になるものではない。
  • (イ) 本件hソフト出力書面に記載されている売上金額は、請求人が取引先に対して請求書を発行したものに限られること。
  • (ロ) 本件各出力書面における本件事業に係る収入金額及び必要経費の金額と、本件各内訳書の金額とが一致しないこと。
  • (ハ) 本件各領収書の集計金額と、本件iソフト出力書面における集計表の金額とが一致しないこと。
  • (二) 本件各領収書の中に本件iソフト出力書面に記載のない経費科目不明の領収書が多数含まれていること。
  • (ホ) 本件iソフト出力書面の集計表及び本件各領収書に示された各支出が、本件事業の遂行上直接関連を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要な支出であるかどうか判然としないこと。

(2) 争点2(本件所得税等各更正処分について、d税務署長が行った推計の方法に合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
  次のことから、本件所得税等各更正処分について、d税務署長が行った推計の方法には合理性がある。   次のことから、本件所得税等各更正処分について、d税務署長が行った推計の方法に合理性はない。
  • イ d税務署長は、請求人に対する調査や取引先に対する調査によって把握した本件各年分の本件事業に係る総収入金額に、請求人と、同一業種で、業態、規模、立地条件等において個別的類似性があるとして選定した各同業者の総収入金額に対する青色申告特別控除前の所得金額の割合の平均値を乗ずるという推計の方法により、本件各年分の事業所得の金額を算定している。この推計方法は、1業種、業態及び規模等において類似性がある同業者にあっては、経験則上、同程度の収入からは同程度の所得が得られるものであり、2同業者間に通常存する程度の営業条件の差異については、各同業者の比率からその平均値を算定する過程において捨象されるものと認められるから、真実の所得金額に近似する蓋然性が高いものということができる。
  • イ 本件事業の内容は、○○並びにこれらの予算管理等と多岐にわたっており、しかも、請求人は、これらの事業を一人で行っている。
     このように、本件事業は、d税務署長が請求人の同業者として選定した○○を事業とする者とはその事業内容を全く異にするものである。
  • ロ d税務署長は、本件各年分において、次の全てに該当する者を請求人の同業者として選定しており、その選定基準及び選定過程は、業種及び業態の同一性、事業所の近接性等からして、請求人との類似性を判別する要件として一応の合理性を有し、適切なものである。
  • ロ そうすると、本件事業に係る必要経費を正当に調査し算出するか、又は、上記イのとおり、本件事業の内容を請求人と同じように一人で行う者を請求人の同業者として改めて選定し、当該同業者の比率に基づいて推計課税を適用すべきである。
  • (イ) ○○を事業としていること。
  • (ロ) 青色申告書により所得税等の確定申告書を提出していること。
  • (ハ) 年間を通じて上記(イ)の事業を営んでいること。
  • (二) 総収入金額が本件事業に係る総収入金額の2分の1以上2倍以内であること。
  • (ホ) 事業専従者がいないこと。
  • (へ) 請求人がe市に住所を有していた平成24年分から平成26年分については、g税務署管内及び同署に隣接する税務署管内で、また、f市に住所を有していた平成27年分については、d税務署管内及び同署に隣接する税務署管内で、それぞれ事業所を有して当該事業を営んでいること。
  • ハ d税務署長は、上記ロの各条件に基づき、機械的に、本件各年分の請求人の同業者(平成24年分8件、平成25年分18件、平成26年分50件及び平成27年分16件)を選定しており、選定件数も各同業者の個別性を平均化するに足りるものということができるから、当該各同業者と請求人との間には類似性があり、また、当該各同業者の総収入金額に対する所得金額の割合の平均値の算定方法にも合理性がある。

(3) 争点3(本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除は認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
  次のことから、本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除は認められない。   次のことから、本件各課税期間の仕入税額控除に係る帳簿の「保存」(消費税法第30条第7項本文)はあり、仮に帳簿の「保存」がなかったとしても、帳簿を保存することができなかったことについて「災害その他やむを得ない事情」(同項ただし書)があるから、本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除が認められるべきである。
  • イ 消費税法第30条第7項は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない部分について仕入税額控除を適用しない旨規定しているが、上記の「保存しない場合」には、事業者が、同項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項の規定に基づく税務職員による検査に当たって、適時にこれらを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合を含むと解するのが相当である。
  • イ 請求人は、次のとおり、帳簿の提示要求を拒否したことはない。
    • (イ) 請求人は、本件各課税期間において、iソフトを使用して必要経費に関する集計表を作成していた。当該集計表が帳簿になり得ることを知ったのは、原処分に対する相談のためにd税務署を訪れた平成29年7月19日であった。
    • (ロ) 請求人は、g署調査担当職員の調査の時に、帳簿の有無に関する質問に対して「帳簿はありません」と申述したことはあるが、「売上げ及び仕入れなどに係る集計表等の作成はしていない」と申述したことはない。
  • ロ この点、請求人は、次のとおり、本件各課税期間における本件事業の帳簿及び請求書等について、通則法第74条の2第1項の規定に基づくg署調査担当職員又はd署調査担当職員による検査に当たって、適時にこれらを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかったというべきであるから、このことは、消費税法第30条第7項所定の帳簿及び請求書等を保存しない場合に当たり、当該保存ができなかったことについて災害その他やむを得ない事情があったとも認められない。
    • (イ) 請求人は、平成26年8月4日、g署調査担当職員に対し、本件事業の売上げ及び仕入れなどに係る集計表等は作成していない旨申述した。また、請求人は、領収書等についてはその場で検討するよう申し出たため、g署調査担当職員は、次回の調査を、同月19日とすることで請求人と合意したが、その後、請求人が調査に応じることはなかった。
    • (ロ) d署調査担当職員は、平成27年5月19日から平成29年4月14日までの間、8回にわたり、請求人に対し、所得税等及び消費税等の各確定申告の基となった帳簿書類の提示を文書で求め、また、平成27年6月3日から平成29年4月14日までの間、14回にわたり、請求人に対し、帳簿書類及びその他の物件の提示がなければ消費税の仕入税額控除が認められない旨を文書で教示したにもかかわらず、請求人は、原処分がされた同月28日までに、本件事業の帳簿及び請求書等をd署調査担当職員に提示しなかった。
    • (ハ) 請求人が、平成28年5月10日、文書を確認したので連絡した旨d署調査担当職員に伝えていることからも、請求人が文書による教示を受けていることは明らかである。
  • ロ 請求人は、次のとおり、g署調査担当職員又はd署調査担当職員から、帳簿を保存し提示することの必要性を正しく教示されていなかったのであるから、集計表を提示しなかったことにつきやむを得ない事情がある。
    • (イ) 請求人は、g署調査担当職員から「集計表」の提示を求められていたら、上記イの(イ)の集計表を提示できたが、「集計表」の有無に関する質問は一切なく、また、「集計表」を提示することの必要性も教示されなかった。
    • (ロ) 請求人は、g署調査担当職員及びd署調査担当職員と電話で話す機会が数回あったが、いずれも帳簿に関する指示、説明はなかった。
    • (ハ) 答弁書には、調査に対する請求人の対応について、「対応がなかった」、「応答がなかった」、「非協力的」などの記載があるが、請求人としては仕事の都合で忙しく応答できないことはあったが可能な限り対応していたのであって、非協力的な態度をとったことはない。原処分庁が主張する請求人の対応の中には、g署調査担当職員又はd署調査担当職員がインターホン越しに又は電話において、請求人に対して、「○○さんですか」、「居留守ですか」と無礼かつ非常識な発言をしたのに対し、請求人は「違います」と当然の対応をしただけのものも含まれており、これらの職員の行動、記録、報告等は、自らの誤った言動を棚に上げ、職員自身に有利な点のみを報告するもので、信用性が低い。
    • (二) 左記ロの(ロ)の各文書が請求人の郵便受けに正しく投かんされた証拠はなく、また、請求人が当該各文書を読み、理解したという証拠もない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) g署調査担当職員による調査について
      • A g署調査担当職員が平成26年8月4日にe自宅において行った調査の内容は、要旨、次のとおりであった。
        • (A) g署調査担当職員は、請求人から本件事業の内容を聴き取るほか、請求人に対して本件事業に係る帳簿の提示を求めた。これに対し、請求人は、必要経費に係る領収書を提示したものの、帳簿を作成していない旨申述した。
        • (B) g署調査担当職員は、請求人から提示を受けた領収書が経費科目ごとに整理されていなかったため、請求人に当該領収書の借用を申し出た。これに対し、請求人は、当該領収書に個人情報の記載があることを理由に、その申出に応じなかった。
        • (C) そこで、g署調査担当職員は、平成26年8月19日の午後2時からe自宅において調査の続きを行う旨を請求人と約した上で、同月4日の調査を終了した。
      • B 請求人は、平成26年8月18日、g税務署長所属の職員に対し、急な用件が入ったため、翌19日に約していた調査の日程を変更したい旨及び新たな日程については追って連絡する旨を電話で伝えた。
      • C 請求人は、平成26年8月27日及び同年9月4日、g署調査担当職員に対し、再度連絡する旨を電話で伝えた。その後、g署調査担当職員は、平成26年9月10日及び同月11日、請求人に架電したが、請求人の応答はなかった。
      • D 請求人は、平成26年9月12日、g署調査担当職員に対し、連絡が遅れて申し訳ない旨及び近々引っ越しを予定している旨を電話で伝えた。g署調査担当職員は、請求人に対し、引っ越した場合には、新たな管轄署の担当者が調査を行うことになる旨を説明するとともに、同月19日に請求人から連絡をもらうことを約した。
      • E g署調査担当職員は、平成26年9月19日、請求人に架電したが、請求人の応答はなかった。
      • F g署調査担当職員は、平成26年9月24日、請求人に架電した。その際、請求人は、できれば引っ越し後に調査をお願いしたい旨を告げた。
      • G g署調査担当職員は、平成26年10月8日から同年11月4日までの間に、請求人に6回にわたり架電したが、いずれも請求人の応答はなかった。その後、g署調査担当職員が、同年11月19日、請求人に架電した際、請求人は、先日、住民票の異動届出を提出し、f自宅に引っ越した旨を告げた。
    • (ロ) d署調査担当職員による調査について
      • A d署調査担当職員は、平成26年12月10日付で、請求人宛に、「連絡依頼票」と題する書面を郵便により送付した。当該書面には、請求人の所得税・消費税等について、調査の事前通知を行う必要があるので、同月16日までに連絡してほしい旨等が記載されていた。
      • B 請求人は、平成26年12月16日、d税務署長所属の職員に対し、上記Aの連絡依頼票が届いたので連絡した旨及び請求人宛に折り返し連絡してほしい旨を電話で伝えた。この伝言を受けたd署調査担当職員は、同日及びその翌日、請求人の携帯電話に各日2回架電したが、いずれも請求人の応答はなかった。
      • C d署調査担当職員は、平成26年12月19日、f自宅のマンションに臨場し、インターホンを通じて請求人と会話したが、請求人は、仕事中で忙しいことを理由に、面談を拒んだ。
         その際、d署調査担当職員は、請求人に、平成26年12月22日に連絡してほしい旨伝えたが、請求人から了承した旨の回答はなかった。
      • D d署調査担当職員は、平成26年12月22日、請求人の携帯電話に2回架電したが、いずれも請求人の応答はなかった。
      • E d署調査担当職員は、平成27年1月6日付で、請求人宛に、要旨、別表9の順号1の内容が記載された「連絡票」と題する書面を、郵便により送付した。
      • F d署調査担当職員は、平成27年1月13日、f自宅に向かっている途中、請求人の電話に応答したd税務署長所属の職員から、請求人が仕事で一日中不在である旨の連絡を受けたことから、要旨、別表9の順号2の内容が記載された「連絡票」と題する書面を、上記Cのマンションの1階メールコーナーにある請求人用の郵便受け(以下「請求人宅郵便受け」という。)に投かんした。
         なお、d署調査担当職員は、d税務署に戻ってから請求人の携帯電話に架電したが、請求人の応答はなかった。
      • G d署調査担当職員は、平成27年2月2日付で、請求人宛に、要旨、別表9の順号3の内容が記載された「連絡票」と題する書面を郵便により送付した。
      • H d署調査担当職員は、平成27年5月19日、f自宅に臨場したが、請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号4の内容が記載された「連絡票」と題する書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • I d署調査担当職員は、平成27年5月26日、f自宅に臨場し、インターホンを通じて、請求人に対し、上記Hの連絡票に記載のとおり伺った旨伝えた。これに対し、請求人は、当該連絡票を見ておらず、もう出掛けるところなので応対できない旨応答した。
         d署調査担当職員は、請求人に対し、本日伺ったことについて記入した連絡票を投かんするので、今回は必ず確認するよう依頼して、要旨、別表9の順号5の内容が記載された「連絡票」と題する書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • J d署調査担当職員は、平成27年6月3日、同月10日及び同月19日、f自宅に臨場したが、いずれも請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号6ないし順号8の内容が記載された「連絡票」と題する各書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • K d署調査担当職員は、平成27年9月2日及び同年10月6日、f自宅に臨場したが、いずれも請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号9及び順号10の内容が記載された「連絡票」と題する各書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • L d署調査担当職員は、平成27年11月12日及び同年12月9日、請求人の携帯電話に架電したが、請求人の応答はなかった。
      • M d署調査担当職員は、平成28年2月17日、請求人宛に、要旨、別表9の順号11の内容が記載された「連絡票」と題する書面を郵便により送付した。
      • N d署調査担当職員は、平成28年4月27日、f自宅に臨場したが、請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号12の内容が記載された「連絡票」と題する書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • O 請求人は、平成28年5月10日、d署調査担当職員に対し、連絡票を確認したので電話した旨、調査の具体的な内容を税務署に赴いて聞きたい旨及びその日時を後日連絡する旨を電話で伝えた。
      • P d署調査担当職員は、平成28年5月20日に2回及び同年6月14日、請求人の携帯電話に架電したが、いずれも請求人の応答はなかった。
      • Q d署調査担当職員は、平成28年6月21日、f自宅に臨場したが、請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号13の内容が記載された「連絡票」と題する書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • R d署調査担当職員は、平成28年9月8日及び同月15日、請求人の携帯電話に架電したが、いずれも請求人の応答はなかった。
      • S d署調査担当職員は、平成28年9月16日、同月27日、同年10月4日、平成29年4月7日、同月11日及び同月14日、f自宅に臨場したが、いずれも請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号14ないし順号19の内容が記載された「連絡票」と題する各書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
      • T d署調査担当職員は、平成29年4月18日、同月20日及び同月21日、f自宅に臨場したが、いずれも請求人が不在であったことから、要旨、別表9の順号20ないし順号22の内容が記載された「連絡票」と題する各書面を請求人宅郵便受けに投かんした。
  • ロ 検討
    • (イ) 所得税法第156条において推計の方法による課税が認められているのは、納税者が帳簿書類の備付け等をしない場合や、税務調査に際し帳簿書類の提出を拒むなどした場合に、各種所得の金額を直接証拠により認定できないとして課税庁が課税を放棄することは、適正な申告をしている誠実な納税者と比較して、租税負担の公平を欠き到底許されないとの観点によるものと解される。したがって、納税者が調査に協力しないため直接資料が入手できないような場合など、税務署長が十分な直接資料を入手できず、いわゆる実額によって所得金額を的確に算定し課税することが不可能又は著しく困難であるときには、推計の必要性があるということができ、推計の方法による課税をすることが許容されるというべきである。
    • (ロ) これを本件についてみると、請求人は、上記イの(イ)のAのとおり、平成26年8月4日、g署調査担当職員による調査に応じたものの、同職員による領収書の借用の申出を拒み、同日後は、仕事や引っ越しを理由に調査のための日程の調整にすら応じなかった。
       また、請求人は、上記イの(ロ)のCのとおり、平成26年12月19日、d署調査担当職員がf自宅に臨場した際、仕事を理由に面談を拒否し、d署調査担当職員が郵便により送付した平成27年1月6日付の「連絡票」(別表9の順号1)において日時を指定した調査についても、調査日の当日、仕事を理由に応じなかった。
       その後も、請求人は、平成27年5月19日から平成29年4月14日までの間、d署調査担当職員が8回にわたり、「連絡票」(別表9の順号4ないし順号7、順号15、順号17ないし順号19)を請求人宅郵便受けに投かんし、請求人に対し、調査に応じるよう依頼し、かつ、確定申告の基となった全ての帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、在宅せず、又は外出する等の理由で、これらの要求に一切応じなかった。
    • (ハ) 上記(ロ)の経緯からすれば、d税務署長は、税務調査における請求人の帳簿書類の不提示によって、十分な直接資料を入手することができず、本件事業に係る本件各年分の請求人の事業所得の金額を実額により的確に算定し課税することができなかったことは明らかであり、本件所得税等各更正処分について、推計の方法による課税の必要性があったものと認めるのが相当である。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、請求人としては仕事の都合で忙しく応答できないことはあったが可能な限り対応していたのであって、非協力的な態度をとったことはない旨主張する。
       しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、d署調査担当職員は、平成26年12月10日付の連絡依頼票をはじめ、平成27年1月6日付のものから平成29年4月21日までの約2年4か月余りの間、22回にわたり、請求人に宛てて、「連絡票」を送付ないし投かんしている。そのうち、平成27年1月6日付、同年5月19日、同月26日、同年6月3日、同月10日、平成28年9月27日、平成29年4月7日及び同月11日に送付ないし投かんした8通の「連絡票」(別表9の順号1、順号4ないし順号7、順号15、順号17及び順号18)には、調査のため請求人の自宅を訪れる日を明記していたが、請求人はd署調査担当職員に何の連絡もせず在宅しなかった。また、平成27年1月13日、同年6月19日、同年9月2日、同年10月6日、平成28年4月27日、同年6月21日、同年9月16日及び同年10月4日の8通の「連絡票」(別表9の順号2、順号8ないし順号10、順号12ないし順号14及び順号16)には、担当者に連絡してほしいと明記していたが、これらにも請求人が応答することはなかった。これら以外に、d署調査担当職員は、平成26年12月16日、同月22日、平成28年5月20日、同年6月14日、同年9月8日及び同月15日、各日1回ないし2回、請求人に架電したが、応答はなく、平成26年12月19日及び平成27年5月26日には、請求人は、臨場したd署調査担当職員とインターホン越しに話をするのみで、面談にすら応じなかった。
       以上の経緯からすれば、請求人が、調査に対し、可能な限りの対応をしていたとも、非協力な態度をとったことがなかったとも、およそ評価することは困難である。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、請求人の事業所得に係る必要経費の金額は、本件再調査請求に係る調査の際に提出した本件iソフト出力書面及び本件各領収書に基づき算出することができる旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、納税者において、真実の所得額が推計の結果を下回る旨主張し、実額をもって原処分における推計額を争うためには、必要経費についての実額の主張・立証のみでは足りず、収入金額についてもその全てを実額により主張・立証する必要があるものと解するのが相当である。
       この点、そもそも、請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、原処分における事業所得の総収入金額について争っていない。そして、本件hソフト出力書面における収入金額の合計(別表6)は、請求人が取引先に対して請求書を発行したものに限られ、取引先から請求人の銀行口座に入金された印税等が含まれていないなど、不正確なものであって、本件各内訳書における総収入金額(別表3)とも相違している。さらに、本件事業に係る必要経費についてみると、本件iソフト出力書面における経費の合計金額(別表7)は、本件各領収書における経費の合計金額(別表8)と相違している上、いずれの合計金額も、本件各内訳書における経費の合計金額(別表3)と相違している。
       以上のことからすれば、本件iソフト出力書面の帳簿としての信用性は低いといわざるを得ず、したがって、請求人の事業所得に係る必要経費の金額を本件iソフト出力書面及び本件各領収書に基づき算出することができるとはいえない。
       なお、請求人は、本件再調査担当職員が資料を持ち帰る前に、あらかじめ、本件各領収書の中には請求人のプライベートなものや確定申告に関係のないものが多数含まれている旨を説明していたことを理由に、本件iソフト出力書面と本件各領収書との齟齬は本件iソフト出力書面の信用性が低いことの根拠とはならない旨主張するが、請求人自ら本件再調査担当職員に対し本件iソフト出力書面と本件各領収書に齟齬があることを説明した事実があるとするならば、同事実は、請求人自身、本件iソフト出力書面の信用性が低いことを自認していたというにすぎないものであって、請求人の上記主張の根拠とはなり得ない。
    • (ハ) したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 争点2(本件所得税等各更正処分について、d税務署長が行った推計の方法に合理性があるか否か。)について

  • イ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) d税務署長は、請求人と業種、業態、事業規模等において類似する個人事業者(以下「本件類似同業者」という。)の事業所得に係る総収入金額に対する所得金額(ただし、青色申告特別控除前の所得金額をいう。)の割合を算出してその平均値(以下「同業者平均所得率」という。)を求め、同業者平均所得率を請求人の総収入金額に乗ずる方法により請求人の本件各年分の事業所得の金額を推計した。
    • (ロ) 上記(イ)の推計において、d税務署長は、別表10のとおり、本件類似同業者について、本件各年分において次の各基準(以下「本件類似同業者抽出基準」という。)の全てを満たす者(平成24年分9件、平成25年分18件、平成26年分53件及び平成27年分16件)として機械的に抽出し、その同業者平均所得率(平成24年分61.75%、平成25年分48.50%、平成26年分39.66%及び平成27年分41.92%)を算出した。
      • A ○○の事業を営んでいる者のうち、確定申告書又は青色申告決算書に業種名が「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」又は「○○」と記載されている者
      • B 1平成24年分ないし平成26年分は、g税務署並びに同署に隣接するj税務署、k税務署、m税務署、n税務署、p税務署、q税務署及びb税務署、2平成27年分は、d税務署並びに同署に隣接するr税務署、s税務署、t税務署、j税務署及びb税務署の各税務署の管轄区域内に事業所を有する者
      • C 青色申告書により所得税等の確定申告書を提出している者
      • D 事業所得に係る総収入金額が請求人の事業所得に係る総収入金額の2分の1以上2倍以下の者
      • E 事業専従者がいない者
      • F その年を通じて事業を行っていた者
    • (ハ) 本件再調査請求の審理庁であったd税務署長は、本件再調査決定において、以下のとおり、本件類似同業者として抽出し、その同業者平均所得率を算出した。
      • A 平成24年分について
         原処分において本件類似同業者として抽出された9件のうち、別表10の1の「V」については、本件類似同業者抽出基準のEの基準を満たさないため、その1件を除いた8件を基にして算出した同業者平均所得率は、原処分の61.75%を上回る62.18%(小数点第二位未満を切り捨てた後の割合。下記Cにおいて同じ。)となる。
      • B 平成25年分について
         本件類似同業者の件数(18件)及び同業者平均所得率(48.50%)は、いずれも原処分と同じである。
         なお、別表10の2の「X」の総収入金額に誤りがあるが(正しくは○○○○円)、「X」の所得率は変わらない。
      • C 平成26年分について
         原処分において本件類似同業者として抽出された53件のうち、別表10の3の「U」、「Y」及び「ZV」の3件については、本件類似同業者抽出基準のEの基準を満たさない。また、別表10の3の「SS」の総収入金額は○○○○円が正しく、これを基にした「SS」の所得率は23.41%である。これらを踏まえ算出した同業者平均所得率は、原処分の39.66%を上回る39.73%となる。
      • D 平成27年分について
         本件類似同業者の件数(16件)及び同業者平均所得率(41.92%)は、いずれも原処分と同じである。
  • ロ 検討
    • (イ) 推計方法の合理性について
       d税務署長は、上記イの(イ)のとおり、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額に本件類似同業者として抽出した者の同業者平均所得率を乗じる方法により、請求人の本件各年分の事業所得の金額を推計している。
       一般に、業種、業態、事業規模等に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の総収入金額に対し同程度の所得を得るのが通例であり、また、同業者間に通常存する程度の営業条件の差異は、同業者の比率から平均値を算出する過程において捨象される。そうすると、上記の推計方法は、請求人と類似同業者として抽出された者とに類似性が認められ、かつ、その基礎数値等が正確なものである限り、合理性を有すると認められる。
    • (ロ) 本件各年分の事業所得に係る総収入金額の正確性について
       d税務署長は、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、請求人の取引先に対する調査により、本件各年分の事業所得に係る総収入金額を実額で把握している。そして、当審判所の調査の結果においても、請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、それぞれ、別表11の「総収入金額」欄のとおりとなり、d税務署長が把握した額と同額であると認められる。したがって、原処分における請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額は、推計の基礎となる事実として正確に把握されていると認められる。
    • (ハ) 原処分における推計の方法の合理性について
       上記イの(ロ)のとおり、本件類似同業者抽出基準は、業種、業態及び事業内容の類似性、事業規模の近似性及び事業所の近接性からして、請求人との類似性を判別する基準として合理性を有し、その選考過程も適切なものである。そして、その同業者平均所得率の算出に使用した資料は、いずれも帳簿書類等が整っている青色申告者の決算書であるから、その信頼性が高い。また、本件類似同業者抽出基準により抽出された件数も、同業者の個別性を平均化するに足るものということができるため、本件類似同業者抽出基準により抽出された者と請求人との間には類似性がある。したがって、原処分における推計の方法は、一応の合理性を有するものであると認められる。
    • (二) 本件類似同業者の抽出について
       そこで、当審判所において本件類似同業者抽出基準に基づき抽出されるべき本件類似同業者を検討した結果は、以下のとおりである。
      • A 平成26年分について
         別表10の3の「Z」は、平成26年8月1日に開業しており、本件類似同業者抽出基準のFの基準を満たしていないことが認められた。その他の同業者については、本件再調査決定における抽出結果(上記イの(ハ)のC)と同様であることが認められた。これらのことを踏まえると、別表10の3の「U」、「Y」、「Z」及び「ZV」の4件を除いた本件類似同業者49件の所得率(ただし、同「SS」については23.41%)の平均値である39.51%(別表11の平成26年分の3欄)をもって、平成26年分の同業者平均所得率とするのが相当である。
      • B 平成24年分、平成25年分及び平成27年分について
         これらの各年分の類似同業者の件数及び同業者平均所得率は、いずれも、本件再調査決定における抽出結果(上記イの(ハ)のA、B及びD)と同様であることが認められた。したがって、各年分の同業者平均所得率は、別表11の各年分の「本件類似同業者の同業者平均所得率」欄のとおり、平成24年分が62.18%、平成25年分が48.50%及び平成27年分が41.92%とするのが相当である。
         なお、当審判所において算定し直した後の本件類似同業者の件数は、別表11の「本件類似同業者の件数」欄のとおり、平成24年分が8件、平成25年分が18件、平成26年分が49件及び平成27年分が16件であり、同業者の個別性を平均化するに足るものということができる。
    • (ホ) 事業所得の金額の算定について
       上記(イ)ないし(二)を踏まえると、請求人の本件各年分の事業所得の金額は、別表11の「事業所得の金額」欄のとおりとなる。
    • (へ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件事業の内容は、本件類似同業者抽出基準により抽出された同業者の事業内容とは全く異なるから、d税務署長が行った推計の方法には合理性がない旨主張する。
       しかしながら、本件の推計方法に用いられている同業者の平均所得率は、対象となる納税者と同種、同規模の同業者を抽出し、その所得率の平均値を算出するものであるから、率の高いものから低いものまでを含めた全てが平均化され、同業者の間に通常存する程度の事業形態等の差異は、当該平均値に包摂され、個々の同業者の個別具体的な事情は抽象されて客観性、普遍性を持つとされる。その一方で、納税者との間の類似性を徹底的に追求して選定基準を設定すれば、上記の差異は減少する反面、当該基準に該当する同業者数が減少し、平均値に普遍性を認めることができなくなる。
       このように、同業者の選定基準を設定する際における納税者との間の類似性の追求にはおのずと限界があり、本件類似同業者抽出基準が請求人の主張するような点を考慮していないからといって、その抽出基準が不合理なものであるということはできない。
       なお、本件類似同業者抽出基準により抽出された同業者は、上記(二)のなお書のとおりであり、特に、平成24年分の8件について、請求人の主張するような同業者を抽出するための新たな基準を設けるならば、その件数は更に減少し、場合によっては請求人の事業形態に沿わない基準となる可能性がある。この点、上記イの(ロ)のAのとおり、原処分では、本件各年分を通じて、請求人の類似同業者として、確定申告書又は青色申告決算書に業種名が○○等を職業として記載している者を選定しており、その件数も、同業者の個別性を平均化するに足るものということができるものである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除は認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     事業者が、消費税法施行令第50条第1項の定めるとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2第1項第3号に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条第1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る消費税額については、適用されないものというべきであると解されている(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決・民集58巻9号2458頁参照)。
     また、消費税法第30条第7項ただし書の「その他やむを得ない事情」とは、災害に準ずるような状況又は事業者の責めに帰することができない状況にある事態をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     これを本件についてみると、上記(1)のイの(イ)のAの(A)のとおり、請求人は、平成26年8月4日、g署調査担当職員から帳簿の提示を求められた際、帳簿を作成していない旨申述した。その後、同(ロ)のEないしSのとおり、d署調査担当職員が、平成27年1月以降、請求人宅郵便受けに「連絡票」を投かんするなどの方法によって、18回にわたり、日時を事前に通知した上で請求人の自宅に臨場し、28回にわたり、帳簿書類等の提示要求をし、314回にわたり、その提示がなければ消費税の仕入税額控除が認められない旨を教示したにもかかわらず、請求人は、これらに一度も応じなかった。
     これらのことからすると、請求人による帳簿及び請求書等の保存状況は、「税務職員による検査に当たって適時に帳簿及び請求書等を提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった」場合、すなわち、消費税法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たるものと認められる。
     また、請求人が帳簿及び請求書等の保存をすることができなかったことについて、災害に準ずるような状況又は事業者の責めに帰することができない状況にある事態があったとも認められないから、消費税法第30条第7項ただし書の「その他やむを得ない事情」が生じていたということもできない。
     したがって、本件消費税等各更正処分等について、仕入税額控除は認められない。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のイのとおり、本件各課税期間において、iソフトを使用して必要経費に関する集計表を作成していたが、当該集計表が帳簿になり得ることを知ったのが原処分後であり、調査では集計表の提示要求はなく、したがって、それを拒否したこともない旨主張する。
       しかしながら、上記(1)のイの(ロ)のEないしSのとおり、d署調査担当職員が請求人に対して再三にわたり調査への応対を依頼するとともに帳簿書類等の提示を求めたにもかかわらず、請求人はこれらに一切応じなかったのであるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) また、請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のロのとおり、g署調査担当職員又はd署調査担当職員から、帳簿を保存し提示することの必要性を正しく教示されていなかったのであるから、請求人が帳簿を提示しなかったことについて、やむを得ない事情がある旨主張する。
       しかしながら、そもそも、申告納税制度の下では、納税者は、自己の責任と判断において、課税標準等及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められているものであり、事業所得者が帳簿を保存し提示することが必要か否かも、納税者自身が適切に判断して申告をすべきものであって、請求人が主張するような帳簿の意義について、改めて教示すべきとする義務まで税務職員にあるとは解されない。加えて、上記ロのとおり、d署調査担当職員が、再三にわたり帳簿書類等の提示要求をし、調査のために臨場していたのであって、請求人が主張するような事情の有無にかかわらず、請求人には帳簿及び請求書等を提示することが可能なように態勢を整えて保存し、これを提示する機会が十分にあったというべきであるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) なお、請求人は、請求人が連絡票を読んで理解した証拠がないとも主張するが、上記(1)のイの(ロ)のB及びOによれば、請求人が連絡票を確認したことは明らかである。

(4) 請求人のその他の主張について

請求人は、本件事業を始めた平成18年分の所得税について、当時の住所地を管轄するm税務署の職員から受けた助言に基づき確定申告をし、この確定申告を土台として、その後の年分の所得税等の確定申告をしているにもかかわらず、本件所得税等各更正処分において、事業所得に係る必要経費が認められないのは不当である旨主張する。また、請求人は、平成23年3月にg税務署の職員から受けた指導に基づき、平成22年1月1日から同年12月31日までの課税期間ないし平成25年課税期間の各課税期間の消費税等の確定申告をしており、当該各課税期間の仕入税額控除は認められていたのであるから、本件消費税等各更正処分等においても、同様に仕入税額控除が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件各年分とは異なる年分の所得税等につき、本件各年分とは異なる税務署において確定申告を行って、必要経費を認められたとしても、また、請求人が、本件各課税期間とは異なる課税期間の消費税等につき、本件各課税期間とは異なる税務署の職員の指導を受けて消費税等の確定申告を行った際に、仕入税額控除が認められていたとしても、それらのことから直ちにd税務署長が本件各年分又は本件各課税期間における必要経費や仕入税額控除を是認するものではないのであるから、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件所得税等各更正処分の適法性について

  • イ 平成24年分の所得税の更正処分について
     請求人の平成24年分の総所得金額(事業所得の金額)は、別表11の「事業所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。そして、当該総所得金額に基づいて請求人の平成24年分の納付すべき税額を算出すると、同表の「所得税の納付すべき税額」欄のとおり○○○○円となり、この税額は、平成24年分の所得税の更正処分における納付すべき税額(○○○○円)を上回る。
     また、平成24年分の所得税に係る更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成24年分の所得税の更正処分は適法である。
  • ロ 平成26年分の所得税等の更正処分について
     請求人の平成26年分の総所得金額(事業所得の金額)は、別表11の「事業所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。そして、当該総所得金額に基づいて請求人の平成26年分の納付すべき税額等を算出すると、同表の「所得税等の納付すべき税額」欄のとおり、還付金の額に相当する税額が○○○○円となり、この税額は、平成26年分の所得税等の更正処分における還付金の額に相当する税額(○○○○円)を上回るから、平成26年分の所得税等の更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、平成26年分の所得税等の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
  • ハ 平成25年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分について
     請求人の平成25年分及び平成27年分の総所得金額(事業所得の金額)は、それぞれ別表11の「事業所得の金額」欄のとおり○○○○円及び○○○○円となる。そして、当該各総所得金額に基づいて請求人の納付すべき税額等を算出すると、それぞれ、同表の「所得税等の納付すべき税額」欄のとおり、還付金の額に相当する税額がそれぞれ○○○○円及び○○○○円となり、これらの税額は、平成25年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分における還付金の額に相当する税額と同額になる。
     また、平成25年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成25年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件所得税等各賦課決定処分について

上記(5)のイ及びハのとおり、平成24年分の所得税の更正処分並びに平成25年分及び平成27年分の所得税等の各更正処分は適法であり、同ロのとおり、平成26年分の所得税等の更正処分はその一部を取り消すべきであるが、過少申告加算税の基礎となる税額は、同年分の所得税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分における過少申告加算税の基礎となる税額と同額になる。
 また、本件所得税等各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、当審判所においても本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税の額は、本件所得税等各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件所得税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) 本件消費税等各更正処分等の適法性について

上記(3)のとおり、本件各課税期間において仕入税額控除は認められず、また、本件各課税期間の課税標準額は、本件消費税等各更正処分等における課税標準額と同額になるところ、これらに基づき本件各課税期間の消費税等の額を計算すると、いずれも本件消費税等各更正処分等の消費税等の額と同額になる。
 また、本件消費税等各更正処分等のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件消費税等各更正処分等はいずれも適法である。

(8) 本件消費税等各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分について
     上記(7)のとおり、平成24年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書又は同条第4項が準用する同法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所において、通則法第66条第1項ないし第3項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》の規定に基づいて平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の額を算出すると○○○○円となり、平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分における無申告加算税の額を上回る。
     したがって、平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。
  • ロ 平成25年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分について
     上記(7)のとおり、平成25年課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所において、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9の規定に基づいて平成25年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、平成25年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額になる。
     したがって、平成25年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
  • ハ 平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分について
     上記(7)のとおり、平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等の各決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所において、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9の規定に基づいて平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の額を計算すると、平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分における無申告加算税の額といずれも同額になる。
     したがって、平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(9) 結論

よって、平成26年分の所得税等の更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消し、その他の原処分に対する審査請求はいずれも理由がないので棄却することとする。

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