(平成30年11月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人が、原処分庁の調査を受け相続税の修正申告をした後、相続した土地及び取引相場のない株式の発行会社の有する借地権が広大地に当たるなどとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、その請求の一部は容認したものの、当該土地等の一部は広大地に当たらないなどとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 相続税法関係
    • (イ) 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
    • (ロ) 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成29年9月20日付課評2−46ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)1《評価の原則》(2)は、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいう旨定めている。
    • (ハ) 評価通達24−4《広大地の評価》(以下「広大地通達」という。)は、その地域(広大地通達にいう「その地域」を、以下「その地域」という。)における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地(5,000u以下の地積のもの)で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいう。)を除く。以下「広大地」という。)の価額は、原則として、次に掲げる区分に従い、それぞれ次により計算した金額によって評価する旨定めている。
      • A その広大地が、評価通達13《路線価方式》に定める路線価方式により評価する地域に所在する場合には、その広大地の面する路線の路線価に、評価通達15《奥行価格補正》から同20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額
        (算式)
         広大地補正率 = 0.6 − 0.05 × 広大地の地積 / 1,000u
      • B その広大地が、倍率地域に所在する場合には、その広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1u当たりの価額を評価通達14《路線価》に定める路線価として、上記Aに準じて計算した金額
  • ロ 都市計画法
    • (イ) 都市計画法第8条《地域地区》第1項は、都市計画区域については、都市計画に、同項各号に掲げる地域、地区又は街区を定めることができる旨規定しており、その第1号において、用途地域として、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、準住居地域、商業地域、準工業地域又は工業専用地域などを掲げている。
    • (ロ) 都市計画法第9条第11項は、準工業地域は、主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域とする旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 遺言について
     U(以下「本件被相続人」という。)は、平成24年1月21日付で、本件被相続人の全ての財産を二男であるD(以下「請求人」という。)に相続させる旨の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
  • ロ 相続について
     本件被相続人は、平成25年10月○日(以下「本件相続開始日」という。)時点において、別表1の順号1ないし7の各土地(以下、これらの各土地を順に「本件1土地」、「本件2土地」、「本件3土地」、「本件4土地」、「本件5土地」、「本件6土地」及び「本件7土地」という。)、F社の株式44,160株、G社の株式9,500株及びH社の株式8株(以下、これらの各株式を併せて「本件各株式」という。)などを所有していた。
     本件被相続人は、本件相続開始日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるJ(以下「妻J」という。)、同二男である請求人、同三男であるK及び同四男であるLの4名である。
     なお、請求人は、本件遺言により、本件被相続人の全ての財産を取得した。また、妻J及び請求人は、本件被相続人の死亡により生命保険金を取得した。
  • ハ 各土地の取得等について
    • (イ) 請求人は、本件遺言により、本件1土地ないし本件7土地を取得した。
    • (ロ) 請求人は、本件遺言により、本件各株式を取得した。
    • (ハ) 上記ロの各社は、本件相続開始日において、別表1の順号8ないし12の各借地権(以下、これらの各借地権を順に「本件8借地権」、「本件9借地権」、「本件10借地権」、「本件11借地権」及び「本件12借地権」といい、これらの借地権と上記(イ)の各土地を併せて「本件各土地等」という。)を別表1の「所有者又は借地権者」欄のとおり、それぞれ有している。
    • (ニ) 本件各土地等の所在地及び地積等の状況は、別表1のとおりである。
    • (ホ) 本件各土地等の位置関係及び形状は、別図1の本件各土地等付近の略図のとおりである。
       なお、本件2土地上の一部に本件8借地権、本件3土地上に本件9借地権、本件4土地上に本件10借地権、本件5土地上に本件11借地権及び本件7土地上に本件12借地権が、それぞれ存する。
  • ニ 本件各土地等の周辺の状況について(別図1及び2参照) 
    • (イ) 本件各土地等の最寄り駅は、M鉄道d線のN駅であり、本件各土地等は、同駅から北西方向へ直線距離で約1,100mに位置する。
    • (ロ) 本件各土地等は、都市計画法第8条第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)のうち、同法第9条第11項に規定する準工業地域(以下、本件各土地等の存する準工業地域を「本件準工業地域」という。)に所在し、都市計画で定められた本件準工業地域における建蔽率(建築基準法第53条《建蔽率》第1項に規定する割合をいう。以下同じ。)は60%、容積率(建築基準法第52条《容積率》第1項に規定する割合をいう。以下同じ。)は200%である。
    • (ハ) 本件準工業地域は、そのおおむね中央部分をa市道e号線(以下「e号線」という。)が東西に横断しており、その幅員は、下記(ホ)の丁字路付近で約12mないし15mである。
       なお、e号線はa市の幹線道路であり、旧県道f線である。
    • (ニ) 本件準工業地域のうちe号線より南側の地域については、そのおおむね中央部分をa市都市計画道路g線(以下「g線」という。)が南北に縦断しており、その幅員は約18mないし24mであって、両側に歩道が存する。
       なお、g線はa市の幹線道路である。
    • (ホ) g線は、その北側においてe号線と接しており、丁字路となっている。
    • (へ) g線は、延長計画はあるものの、本件相続開始日において、上記(ホ)の丁字路から約700m南まで(Pトンネル(Q橋)を通過したところまで)の路線である。
    • (ト) 本件各土地等は、g線沿い及びその付近に存する。
    • (チ) 本件各土地等の東側には、著しく地積の規模の大きいR社の工場の敷地が存する。
  • ホ 本件各土地等の接する道路について
    • (イ) 別図1(本件各土地等付近の略図)及び2(当事者双方の主張地域)のとおり、本件1土地、本件3土地(本件9借地権)、本件4土地(本件10借地権)及び本件8借地権は、g線に接し、本件5土地(本件11借地権)、本件7土地(本件12借地権)は、g線の一本東側に位置するa市道h号線(以下「h号線」という。)に接している。また、本件2土地及び本件6土地は、g線及びh号線のいずれにも接している。
    • (ロ) g線は、上記ニの(ホ)の丁字路から南に向かって下り傾斜となっており、Pトンネルの手前で沿線の土地と段差が生じている。
    • (ハ) S国税局長の評定した平成25年分の財産評価基準書(路線価図)によると、本件6土地の価額は、上記(ロ)の段差のため、g線に接していることの影響は受けないことから、g線には接しないものとし、g線の一本東側に位置するh号線に設定された路線価のみを基に評価することとされている。
       なお、本件6土地は、g線に接する西側部分は擁壁となっており、g線への直接の出入口はない。
  • ヘ 妻Jの遺留分減殺請求について
     妻Jは、平成26年11月10日、請求人に対し、本件相続に係る遺留分減殺請求をした。請求人及び妻Jは、平成27年8月20日、請求人から妻Jに対し、100,000,000円の金銭、G社の株式7,600株及びF社の株式35,200株を交付する旨の合意をした。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 申告
     請求人及び妻Jは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表2の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内の平成26年8月11日に原処分庁に共同で提出した(以下、当該申告を「本件申告」という。)。
  • ロ 修正申告
     請求人及び妻Jは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成27年12月4日、本件相続税について、別表2の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を原処分庁に共同で提出した(以下、当該申告を「本件修正申告」という。)。
  • ハ 賦課決定処分
     原処分庁は、平成27年12月22日付で、請求人に対し、別表2の「賦課決定処分」欄のとおりとする過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、当該賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、本件賦課決定処分による過少申告加算税を「本件過少申告加算税」という。)。
  • ニ 更正の請求
     請求人は、妻Jからの遺留分の減殺請求により価格弁償などを行うことになったこと(上記(3)のヘ)並びに本件各土地等及びその他の土地が広大地に該当するなどとして、平成27年12月17日、本件相続税について、別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
     なお、請求人は、本件申告及び本件修正申告においては、本件各土地等はいずれも広大地に当たらないとしてその価額を評価していた。
  • ホ 更正処分
     原処分庁は、本件更正の請求に対し、平成29年9月27日付で、別表2の「更正処分」欄のとおり、その一部を認容する減額の更正処分(以下、当該更正処分を「本件更正処分」という。)をするとともに、本件過少申告加算税について、別表2の「変更決定処分」欄のとおりとする変更決定処分をした(当該変更決定処分により、本件過少申告加算税は零となった。)。
     なお、原処分庁は、本件更正処分において、本件各土地等はいずれも広大地に当たらないとしてその価額を評価した。
  • ヘ 審査請求
     請求人は、本件更正処分を不服とし、その一部(本件各土地等が広大地に該当しないとされた部分)の取消しを求め、平成29年12月26日に審査請求をした。

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2 争点

本件各土地等は広大地に該当するか否か(具体的には、1本件各土地等の属する「その地域」の範囲、2その地域における標準的な宅地の地積は、戸建住宅の敷地110uないし120u程度か工場の敷地700u程度か及び3本件各土地等の経済的に最も合理的な使用は、道路を開設し戸建住宅の敷地として分割して使用することか工場の敷地として一体で使用することか。)

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3 争点についての主張

請求人 原処分庁
  次の(1)ないし(4)からすると、本件各土地等の属する「その地域」における標準的な宅地の使用は、不特定多数の当事者間で現に取引のある戸建住宅の敷地としての使用であり、その地積は、110uないし120u程度であるから、本件各土地等は、標準的な宅地の地積に比して著しく広大である。そして、本件各土地等の経済的に最も合理的な使用は、いずれも道路を開設し、110uないし120u程度の戸建住宅の敷地に分割して使用することであるから、本件各土地等はいずれも広大地に該当する。したがって、本件各土地等及び本件各株式の価額は、別表3−1及び3−2の「請求人主張額」欄に掲げる金額となる。   次の(1)ないし(3)からすると、本件各土地等の属する「その地域」における標準的な宅地の地積は、700u程度であるから、本件1土地及び本件3土地ないし本件12借地権は、いずれも標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地とはいえず、また、本件2土地の経済的に最も合理的な使用は、700u程度の工場及び事務所(以下、原処分庁欄の主張につき「工場等」という。)の敷地として使用することであり、同土地を羊羹切りに分割する場合には道路等の公共公益的施設用地の負担が必要とならないから、本件各土地等はいずれも広大地に該当しない。したがって、本件各土地等及び本件各株式の価額は、別表3−1及び3−2の「原処分庁主張額」欄に掲げる金額となる。
  • (1) 本件各土地等の属する「その地域」
     広大地通達に定める「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解される。
     そして、次のイないしホの本件各土地等の周辺の状況等を考慮すると、本件各土地等の属する「その地域」は、本件準工業地域のうち、e号線より南側の地域(以下「請求人主張地域」という。別図2の点線部分参照。)である。
    • イ 本件準工業地域内は、用途地域、建蔽率及び容積率等の都市計画法の規制が同一である。
    • ロ 本件準工業地域は、その概ね中央部分を幹線道路であるe号線が東西に横断しているが、その他に本件準工業地域を分断するものはない。
    • ハ 本件各土地等はe号線の南側に位置する。
    • ニ 相続税法第22条及び評価通達1(2)に照らすと、「その地域」は不特定多数の当事者間の自由な取引がある程度含まれた地域でなければならず、請求人主張地域には当該取引が多数存する。
    • ホ 原処分庁は、都市計画法の規制が同一の地域を幅員5m程度の道路で分断していると判断している。
  • (1) 本件各土地等の属する「その地域」
     広大地通達に定める「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解される。
     そして、次のイないしホの本件各土地等の周辺の状況等を考慮すると、本件各土地等の属する「その地域」は、本件準工業地域のうち、e号線より南側の地域で、主に工場等の敷地に利用されている地域である(ただし、著しく規模の大きいR社の工場の敷地は除く。)。
     具体的には、a市b町○−○、○番、○番及び○番(○番については準工業地域に限る。)並びに同○丁目○番ないし○番及び○番ないし○番の街区である(以下、これらの街区を「原処分庁主張地域」という。別図2の実線部分参照。)。
    • イ 本件準工業地域内は、用途地域、建蔽率及び容積率等の都市計画法の規制が同一である。
    • ロ 本件準工業地域は、その概ね中央部分を幹線道路であるe号線が東西に横断している。
    • ハ 本件各土地等はe号線の南側に位置する。
    • ニ 本件各土地等の東側には、本件各土地等の周辺に存する工場に比して著しく規模の大きいR社の工場の敷地が存する。
       また、同じく東側のa市b町○−○、○番及び○番の街区は、工場等の敷地が散見するものの、大部分が戸建住宅の敷地である。
    • ホ 本件各土地等の西側のa市b町○−○、○番及び○番の街区は、工場等の敷地が散見するものの、大部分が戸建住宅の敷地である。
  • (2) 請求人主張地域における標準的な宅地の地積
     次のイないしニからすると、請求人主張地域における宅地の標準的な使用は、戸建住宅の敷地であり、その地積は110uないし120u程度である。したがって、本件各土地等は、いずれも標準的な宅地の地積に比して著しく広大であると認められる。
    • イ 相続税法第22条及び評価通達1(2)に照らすと、宅地の標準的な使用は、現在の使用状況ではなく、不特定多数の当事者間の自由な取引で土地を取得した者の使用状況により判断すべきである。
       原処分庁主張地域は不合理であるが、その原処分庁主張地域においても、平成元年以降、不特定多数の当事者間での自由な取引により所有権者が変わった土地の使用状況は、借地権者が底地を取得した場合等の例外を除くと、いずれも工場でなく戸建住宅の敷地である。
    • ロ 本件各土地等の近隣には、利用区分が住宅用地である地価公示の標準地等が3地点存するが、利用区分が工場のものはない。
    • ハ 本件各土地等の近隣の戸建住宅の敷地とするための開発事例における1区画の地積は110uないし120u程度である。
    • ニ 700u程度の工場の敷地として使用することを目的とした不特定多数の当事者間での自由な取引は存しない。同取引を前提としない、原処分庁の主張は相続税法第22条及び評価通達1(2)に反する。
  • (2) 原処分庁主張地域における標準的な宅地の地積
     次のイ及びロからすると、原処分庁主張地域における宅地の標準的な使用は、工場等の敷地であり、その地積は700u程度である。したがって、本件2土地を除く本件各土地等は、いずれも標準的な宅地の地積に比して著しく広大とは認められない。
    • イ 原処分庁主張地域に存する宅地の総地積のうち約50%が工場等の敷地であるが、戸建住宅の敷地は約10%に過ぎないことから、原処分庁主張地域における宅地の標準的な使用は工場等の敷地である。
    • ロ 原処分庁主張地域において、工場等の敷地の地積の平均は700u程度である。
  • (3) 本件各土地等の経済的に最も合理的な使用
     次のイ及びロからすると、本件各土地等の経済的に最も合理的な使用は、いずれも道路を開設し、110uないし120u程度の戸建住宅の敷地に分割して使用することである。そして、本件各土地等は、いずれもその形状等からして、いわゆる路地状開発には適さない。
    • イ 土地の価格は経済的に最も合理的な使用に基づき評価されるものであり、経済的に最も合理的な使用は、現在の使用状況を基に判定するのではなく、不特定多数の当事者間の自由な取引により土地を取得した者の使用状況によって判定すべきである。
       原処分庁主張地域は不合理であるが、その原処分庁主張地域においても、平成元年以降、不特定多数の当事者間での自由な取引により所有権者が変わった土地の使用状況は、借地権者が底地を取得した場合等の例外を除くと、いずれも工場でなく戸建住宅の敷地である。
    • ロ 請求人主張地域の宅地の標準的な使用状況は、戸建住宅の敷地であり、その地積は110uないし120u程度である。
  • (3) 本件各土地等の経済的に最も合理的な使用
     次のイないしハからすると、本件各土地等の経済的に最も合理的な使用は、700u程度の工場等の敷地として使用することである。そして、本件2土地は、その接道状況からして、潰れ地を生じさせずに、2区分に分割することができることから広大地に該当しない。
    • イ 本件各土地等の存する用途地域は、各種の住居地域ではなく、主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するために定めた地域である準工業地域に存する。
    • ロ 本件各土地等の周辺は大部分が工場等の敷地であり、本件各土地等は、現にいずれも工場等の敷地として使用されている。
    • ハ 原処分庁主張地域の宅地の標準的な使用状況は工場等の敷地であり、その地積の平均は700u程度である。
  • (4) その他
     原処分庁主張地域に存するe号線沿いのa市b町○−○ほかの土地の所有者の平成20年7月○日相続開始に係る相続税においては、同土地に広大地通達の適用が認められた。本件各土地等に広大地通達の適用が認められないとする原処分庁の主張は、課税の公平に反するものである。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 相続税法第22条について
     相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時の時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
     しかし、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるのではないから、これを個別に評価する方法を採った場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となったりするおそれがある。そこで、課税実務上は、特別の定めのあるものを除き、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によってこれを画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点から見て合理的であり、相続財産の評価に当たっては、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当である。
  • ロ 広大地通達について
     広大地通達は、評価の対象となる宅地の地積が当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものの価額の評価について、減額の補正を行う旨定めている。
     このような減額の補正を行うこととした趣旨は、1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接影響を与える特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、2当該宅地が評価の時点において経済的に最も合理的に使用されておらず開発行為を要するときに、経済的に最も合理的な開発行為が当該宅地を細分化して戸建住宅を建築することである場合、当該開発行為により道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要になって、いわゆる潰れ地が生じ、評価通達15ないし同20−5による減額の補正では十分といえない場合があることから、このような宅地の価額の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼす事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものと解される。
     しかしながら、評価の時点における当該宅地の属する地域の建物の建築状況等に照らして、経済的に最も合理的な使用が、当該宅地を工場の敷地や中高層の集合住宅等の敷地として一体で使用することである場合には、公共公益的施設用地の負担は必要とならず、潰れ地が生じないため、減額の補正を行う必要はないことから、広大地に該当しない旨も定めている。
     当審判所においても、上記のとおりの広大地通達の取扱いは相当であると解する。
  • ハ 広大地通達に定める「その地域」について
     上記ロの広大地通達の趣旨に照らすと、同通達でいう評価の対象となる宅地の属するその地域とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
  • ニ 標準的な宅地の地積について
     次に、上記ロの広大地通達の趣旨に照らすと、広大地通達にいう「標準的な宅地の地積」とは、評価の対象となる宅地の付近で状況の類似する地価公示の標準地及び都道府県地価調査の基準地の地積並びにその地域における宅地の標準的な使用に基づく平均的な地積を勘案して求めた地積を指すものと解するのが相当である。
  • ホ 経済的に最も合理的な使用が評価の対象となる宅地を工場の敷地として一体で利用することである場合(潰れ地が生じない場合)について
     そして、上記ロの広大地通達の趣旨に照らすと、評価の対象となる宅地の経済的に最も合理的な使用が工場の敷地として一体で利用する場合(潰れ地が生じない場合)とは、その地域における1工場の建築の状況、2用途地域、建蔽率、容積率等の公法上の規制、3道路の幅員、配置等の利便性等から判断して、当該宅地を工場の敷地として一体で使用(又は潰れ地が発生しないように区分して使用)することが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件各土地等の周辺の土地の利用状況
    • (イ) 本件準工業地域のうち、e号線沿いの地域は、工場及び戸建住宅も存するが、交通量の多い幹線道路沿いの地域であることから、ガソリンスタンド、飲食店、パチンコ店及びコンビニエンスストア等の商業施設も多く存する地域である。
    • (ロ) e号線とg線との丁字路の西側の角地には、コンビニエンスストア及びドラッグストアの敷地が存するが、当該商業施設を除くと、g線沿いに存する商業施設は、小規模なクリーニング店1軒のみである。
    • (ハ) 本件準工業地域のうち、g線沿いの地域(g線に接する各土地により構成された地域である。ただし、g線とe号線との丁字路に位置し、e号線にも接する土地及びg線と接するものの同線と段差のある本件6土地以南の土地を除く。以下、当該地域を「g線沿い地域」という。別図3参照。)は、主に中小の工場が建ち並ぶ地域であり、g線沿い地域に存する各土地の利用状況及び地積の概要は別表4のとおりである。
       そして、別表4のとおり、本件準工業地域に存する宅地の中では工場の敷地が、その地積占有割合及びその区画数ともに最も多く、また、工場の敷地の平均は670u程度である。
    • (ニ) 本件準工業地域のうち、e号線より南側の地域(ただし、e号線に接する土地を除く。)であり、かつ、g線より東側に存する地域(ただし、g線沿い地域を除く。)でもある地域(以下「本件東側地域」という。別図3参照。)及び同じくe号線より南側の地域(ただし、e号線に接する土地を除く。)であり、かつ、g線より西側に存する地域(ただし、g線沿い地域を除く。)でもある地域(以下「本件西側地域」という。別図3参照。)は、著しく地積の規模の大きいR社の工場、中小の工場、戸建住宅、共同住宅、駐車場及び畑が混在する地域である。
    • (ホ) 本件東側地域は、R社の工場の敷地を除くと、主に中小の工場及び小規模な戸建住宅が混在する地域である。総地積では規模が著しく大きいR社の工場の敷地があることから工場の敷地が大きくなるものの、区画数では戸建住宅の敷地が多い。
    • (へ) 本件東側地域における工場の敷地の地積は、規模が著しく大きいR社の工場の敷地から150u以下の小規模な工場の敷地まで様々であるが、戸建住宅の敷地の地積は、おおむね150u以下の小規模なものである。
    • (ト) 本件東側地域及び本件西側地域に存する道路の幅員はおおむね5m以下であり、その配置は雑然としており、行き止まり道路も多い。
  • ロ 地価公示地及び都道府県地価調査の基準地の状況 
     本件準工業地域のうちe号線より南側の地域に、本件各土地等と都市計画法上の規制が同一(準工業地域、建蔽率60%、容積率200%)の地価公示の標準地及び都道府県地価調査の基準地は存しない。
  • ハ 開発行為及び建物建築の状況等
    • (イ) g線沿い地域及び本件東側地域における開発行為及び建物建築の状況
       g線沿い地域及び本件東側地域において、本件相続開始日前10年間の開発行為の事例及び建物の建築事例は、別表5の1及び2のとおりである。
       g線沿い地域においては、平成20年に工場の建築事例が1件存し、その敷地の地積は582.58uである(別表5の1)。次に、本件東側地域においては、5件の開発行為の事例が存し、うち3件が戸建住宅の敷地として分譲するための開発行為である(別表5の2)。
       なお、別表5の1及び2の各事例は、本件各土地等の規模(536.25uないし1,902.44u)との類似性及び道路を開設しての戸建住宅の分譲のための開発行為には一定規模の地積が必要であることから、500u以上の土地の開発行為及び500u以上の土地を敷地とする建物の建築について確認したものである。
    • (ロ) 本件東側地域における路地状開発の状況
       戸建住宅の敷地を分譲する場合の開発行為については、道路に接する宅地と路地状部分を有する宅地を組み合わせ、道路(公共公益的施設用地)部分を生じさせない、いわゆる路地状開発が行われる場合があるが、別表5の2に掲げた3件の戸建住宅の敷地を分譲するための開発行為は、いずれも道路を開設する開発行為であり、路地状開発は行われていない。  

(3) 当てはめ

  • イ 本件各土地等が属する「その地域」について
    • (イ) 上記(2)のイの(イ)のとおり、e号線は交通量の多い幹線道路であるから、本件準工業地域は都市計画法上の規制が同一であるものの、e号線により南北に分断されていると認められる。
    • (ロ) また、e号線のように交通量の多い幹線道路に接している土地については、商業施設としての利用に適していることから、e号線に接する地域とe号線に接していない土地とは、その利用上の条件が異なると認められ、現に交通量の多いe号線に接する土地には商業施設が多く存している。
    • (ハ) 次に、上記1の(3)のニの(ニ)のとおり、g線は、幅員の広い幹線道路であるから、本件準工業地域のうちe号線より南側の地域は、g線により東西に分断されていると認められる。
    • (ニ) そして、g線のように幅員の広い道路に接する土地は、工場の敷地として利用する場合には、原材料及び製品の輸送のための車両の出入りに特に適しているが、g線沿い地域の東西に位置する本件東側地域及び本件西側地域は、おおむね幅員5m以下の道路が雑然と配置されている地域であるから、工場の敷地として利用するには、接する道路の条件の劣る地域である。この点からも、本件準工業地域のうちe号線に接する土地を除く、同号線より南側の地域は、土地の利用上の条件が明らかに異なるg線沿い地域とその東西両側の地域(本件東側地域及び本件西側地域)に分かれるものと認められる。
    • (ホ) 以上からすると、本件各土地等の属するその地域は、別図3の審判所認定地域のとおり、g線沿い地域及び本件東側地域の2地域に区分することが相当であると認められる(本件各土地等のうち本件西側地域に存するものはない。)。
       したがって、本件1土地、本件2土地、本件3土地、本件4土地、本件8借地権、本件9借地権及び本件10借地権の属するその地域は、g線沿い地域となり、本件5土地、本件6土地、本件7土地、本件11借地権及び本件12借地権の属するその地域は、本件東側地域となる。
       なお、本件6土地は、g線に接してはいるものの、上記1の(3)のホの(ハ)のとおり、g線に接することの影響を受けないためg線には接しないものとして評価される土地であるから、g線沿い地域ではなく、本件東側地域に属するものと認められる。
    • (へ) 請求人及び原処分庁の主張について
      • A 請求人主張地域
         請求人は、本件各土地等が属するその地域は、上記3の請求人欄の(1)のとおり請求人主張地域である旨主張する。
         しかしながら、請求人主張地域は、本件準工業地域のうち、e号線より南側の全域を一体とするものであるが(別図2の点線部分参照)、当該地域は、上記(イ)ないし(ホ)のとおり、その利用状況、環境等が異なり、幹線道路で交通量の多いe号線沿いの地域、幅員の広い幹線道路であるg線に接するg線沿い地域並びにg線の東西両側に存する幅員5m以下の道路が雑然と配置された本件東側地域及び本件西側地域から構成されていて、上記(1)のハの広大地通達におけるその地域の解釈に照らして、これらをある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域と認めることはできない。
         したがって、請求人の主張には理由がない。
      • B 原処分庁主張地域
         原処分庁は、本件各土地等が属するその地域は、上記3の原処分庁欄の(1)のとおり原処分庁主張地域である旨主張する。
         しかしながら、原処分庁主張地域は、本件準工業地域のうち、e号線より南側の地域について、e号線沿いの地域、g線沿い地域、本件東側地域の一部及び本件西側地域の一部を一体とするものであるが(別図2の実線部分参照)、当該地域は、上記Aの請求人主張地域と同様、その利用状況、環境等が異なると認められる複数の地域から構成されており、これらをある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域と認めることはできない。また、広大地通達に定めるその地域は、上記(1)のハの法令解釈のとおり、用途地域や道路の幅員・配置の状況等を総合勘案して判断するものであり、個々の街区の利用状況のみによって判断するものではなく、現に本件東側地域は、用途地域も利用状況も同じである。
         したがって、原処分庁の主張には理由がない。
  • ロ 各地域の標準的な宅地の地積について
    • (イ) g線沿い地域
       上記(2)のイの(ハ)のとおり、g線沿い地域は、主として中小の工場の敷地として使用されていることから、同地域における宅地の標準的使用は工場の敷地であると認められる。そして、別表4のとおり、工場の地積の平均は670u程度であることからすると、g線沿い地域の標準的な宅地の地積は670u程度であると認められる。そうすると、g線沿い地域に存する本件各土地等のうち、本件3土地、本件4土地、本件8借地権、本件9借地権及び本件10借地権は、その地積が582.58u(670uの0.87倍)ないし891.53u(同1.33倍)であるから、広大地通達に定める標準的な地積に比して著しく地積が広大な土地とは認められない。
       したがって、本件3土地、本件4土地、本件8借地権、本件9借地権及び本件10借地権は、広大地に該当しない。
    • (ロ) 本件東側地域
       上記(2)のイの(ホ)及び(へ)のとおり、本件東側地域は、主として中小の工場の敷地及び戸建住宅の敷地が混在する地域であるから、そのいずれの用途も宅地の標準的な使用であると認められる。そして、工場の敷地については、地積の規模が著しく大きいR社の工場の敷地から150u以下の小規模な工場の敷地まで様々である一方、戸建住宅の敷地については、おおむね150u以下の小規模なものである。そうすると、本件各土地等のうち、本件東側地域に存するものは、仮に戸建住宅の敷地を同地域の標準的な宅地の使用とし、その地積を標準的な宅地の地積であるとした場合には、いずれも著しく広大な土地であると認められる(別表1、別図1及び3参照)。
    • (ハ) 請求人及び原処分庁の主張について
      • A 請求人の主張する標準的な宅地の地積
         請求人は、上記3の請求人欄の(2)のとおり、請求人主張地域における標準的な宅地の使用は、不特定多数の当事者間の自由な取引で土地を取得した者の使用状況により判断すべきであり、当該自由な取引により土地を取得した者は、当該土地を工場の敷地ではなく、戸建住宅の敷地として使用している旨及びその地積は110uないし120u程度である旨主張する。
         しかしながら、請求人の主張する110uないし120u程度の地積は、上記イの(ホ)の当審判所が相当と認めるその地域とは異なるその地域を前提として判断したものであるし、標準的な宅地の地積は、上記(1)のニのとおり、その地域における標準的な宅地の使用状況等により判定すべきである。そして、g線沿い地域の標準的な宅地の使用は、上記(イ)のとおり工場の敷地であるから、g線沿い地域についての請求人の主張には理由がない。
      • B 原処分庁の主張する標準的な宅地の地積
         原処分庁は、原処分庁主張地域における標準的な宅地の使用は工場の敷地であり、その地積の平均は700u程度である旨主張する。
         しかしながら、原処分庁の主張する700u程度の地積は、上記イの(ホ)の当審判所が相当と認めるその地域とは異なるその地域を前提として判断したものであるし、本件東側地域の標準的な宅地の使用は、上記(ロ)のとおり戸建住宅の敷地でもあるから、本件東側地域についての原処分庁の主張には理由がない。
  • ハ 経済的に最も合理的な使用について
    • (イ) g線沿い地域
      • A 経済的に最も合理的な使用
         1g線沿い地域は、都市計画法第9条第11項に規定する、主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するために定められた準工業地域に存し、現に同地域の宅地の標準的な使用は工場の敷地としての使用であること、2g線沿い地域に存する各土地は、いずれも道路幅員の広いg線に接していることから工場の敷地として利用する場合には利便性が優れていること及び3別表5の1のとおり、g線沿い地域においては、500u以上の土地につき、本件相続開始日前10年間において工場が建築された事例は存するが、戸建住宅の敷地とするための開発行為は存しないことからすると、g線沿い地域に存する本件各土地等についての経済的に最も合理的な使用は、戸建住宅の敷地としての使用ではなく工場の敷地として使用することであると認められる。
         そして、上記(2)のイの(ハ)のとおり、g線沿いの地域の工場の敷地の平均は670u程度であることからすると、工場の敷地として利用する場合の地積は670u程度が相当であると認められる。
         そうすると、本件1土地は、g線沿い地域に存する宅地の標準的な地積670uの1.7倍程度の広大な土地であるが、その間口距離(別表1のとおり31.9m)からして、南北2区画に区分(1区画560u程度)することで、道路(潰れ地)を設けずに工場の敷地として経済的に最も合理的な使用をすることが可能であるから、広大地に該当しない。
         また、本件2土地についても、g線沿い地域に存する宅地の標準的な地積670uの2.8倍程度の広大な土地であるが、その間口距離(別表1のとおり70.5m)からして、南北3区画(北、中、南側)に区分(1区画おおむね630u)することで、道路(潰れ地)を設けずに工場の敷地として経済的に最も合理的な使用をすることが可能であるから、広大地に該当しない。
      • B 請求人の主張について
         請求人は、本件各土地等の属するその地域は、請求人主張地域であるとした上で、請求人主張地域における経済的に最も合理的な使用は、不特定多数の当事者間の自由な取引により土地を取得した者の使用状況により判断すべきであり、当該自由な取引により土地を取得した者は、当該土地を工場の敷地ではなく、戸建住宅の敷地として使用している旨及び現にe号線に接する土地について、広大地通達の適用が認められた相続税の事例が存する旨主張する。
         しかしながら、請求人の主張する経済的に最も合理的な使用は、上記イの(ホ)の当審判所が相当と認めるその地域とは異なるその地域を前提として判断したものであるし、経済的に最も合理的な使用が工場の敷地であるか否かについては、上記(1)のホのとおり、その地域における建物の建築状況、公法上の規制及び工場として利用する際の利便性等を総合的に考慮して判断すべきものである。そして、当審判所が相当と認めるg線沿い地域における経済的に最も合理的な使用は、上記Aのとおり工場の敷地であると認められるから、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件東側地域
      • A 経済的に最も合理的な使用
         本件東側地域は、1準工業地域に存し工場の敷地が多く存するものの戸建住宅の敷地も多く存すること、2おおむね幅員5m以下の道路が雑然と配置されており工場の敷地として利用する場合には利便性の劣る地域であること及び3現に、別表5の2のとおり、本件東側地域においては本件相続開始日前10年間で5件の開発行為の事例が認められるところ、戸建住宅の敷地として分譲するための開発行為が3件あり最も多いのに対し、工場の建築及び工場の建築のための開発行為の事例は1件もないことからすれば、本件東側地域に存する本件各土地等の経済的に最も合理的な使用は、工場の敷地ではなく戸建住宅の敷地に分割して使用することであると認められる。
         そして、別表5の2のとおり、戸建住宅の敷地として分譲するための3件の開発行為の事例における戸建住宅の各敷地の規模は100uないし130u程度であり、その平均は110u程度であることから、戸建住宅の敷地として使用する場合の規模は110u程度が相当であると認められる。また、同3件の開発行為の事例は、いずれも道路を開設しての開発行為であり、道路を開設しない路地状開発は行われていないことからすると、本件東側地域に存する本件各土地等についての経済的に最も合理的な使用は、工場の敷地としての使用ではなく、道路(潰れ地)を開設して110u程度の戸建住宅の敷地に分割して使用することであると認められる。
         なお、本件東側地域に存する本件各土地等について、潰れ地が生じないように110u程度の区画にいわゆる羊羹切りに分割(同程度の地積となるよう南北に区分)する開発を想定した場合、いずれも間口距離が十分でないことから、羊羹切りに分割した後の各区画は、間口距離が狭く、かつ、間口・奥行距離のバランスの悪いものとなるので、羊羹切りの開発には適していない(別図1参照)。
         そうすると、本件東側地域に存する本件5土地、本件6土地、本件7土地、本件11借地権及び本件12借地権は、いずれも著しく地積の広大な土地であり、かつ、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地(道路)の負担が必要となると認められることから、広大地に該当するものと認められる。
      • B 原処分庁の主張について
         原処分庁は、本件各土地等の属するその地域は、原処分庁主張地域であるとした上で、原処分庁主張地域における経済的に最も合理的な使用は、工場の敷地である旨主張する。
         しかしながら、原処分庁の主張する最も合理的な使用は、上記イの(ホ)の当審判所が相当と認めるその地域とは異なるその地域を前提として判断したものであるし、当審判所が相当と認めるその地域である本件東側地域における最も合理的な使用は、上記Aのとおり、工場の敷地ではなく戸建住宅の敷地であると認められるから、原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件更正処分の適法性について

以上からすると、原処分庁が本件更正処分において広大地に該当しないとした本件5土地、本件6土地、本件7土地、本件11借地権及び本件12借地権は、いずれも広大地に該当するものと認められるところ、当審判所において、これらの各土地等の価額を算定すると、いずれも別表3−1の「請求人主張額」欄のとおりとなり、また、本件11借地権及び本件12借地権を有するG社の株式の価額を算定すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 これらを前提に、請求人の本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄のとおりとなる。そうすると、本件更正処分のうち、同欄の課税価格及び納付すべき税額を上回る部分の金額は、いずれも違法であり取消しを免れないから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。
 なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。  

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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g線沿い地域及び本件東側地域における本件相続開始日前10年間の建物建築の状況及び開発行為の状況 (省略)

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