(平成31年3月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、相続により亡Fが納付すべき国税の納付義務を承継したD及びEの滞納国税を徴収するため、亡Fからその生前に不動産の贈与を受けた審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、国税徴収法の規定に基づき第二次納税義務の納付告知処分及び納付催告書による督促処分をしたところ、請求人が、当該不動産は滞納者であるD及びEから贈与されたものではないなどとして、原処分の全部の取消し及び延滞税の減額を求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第32条《第二次納税義務の通則》第1項は、国税局長(徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、政令で定めるところにより、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定し、また、同条第2項は、第二次納税義務者がその国税を同条第1項の納付の期限までに完納しないときは、国税局長は、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨、及び、その納付催告書は、国税に関する法律に別段の定めがあるものを除き、その納付の期限から50日以内に発するものとする旨それぞれ規定している。
  • ロ 徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下、これらの処分を「無償譲渡等の処分」という。)に基因すると認められるときは、無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、無償譲渡等の処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社であるときは、無償譲渡等の処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
  • ハ 国税通則法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項は、相続があった場合には、相続人は、その被相続人が納付すべき国税を納める義務を承継する旨規定し、同条第2項は、相続人が2人以上あるときは、各相続人が承継する国税の額は、納付すべき国税の額を民法第900条《法定相続分》、第901条《代襲相続人の相続分》及び第902条《遺言による相続分の指定》の規定によるその相続分によりあん分して計算した額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は亡F(以下「本件被相続人」という。)の子であり、D及びE(以下、これら2名を併せて「本件相続人ら」という。)は亡Fの姪である。
  • ロ 本件被相続人は、平成20年分の所得税について、納付すべき税額を○○○○円と記載した確定申告書を法定申告期限までにG税務署長へ提出した。
  • ハ 本件被相続人は、平成21年4月1日、本件被相続人が所有していた別表1記載の土地(以下「本件土地」という。)を請求人に対し贈与(以下「本件贈与」という。)し、同月2日付でその旨の所有権移転登記が経由されている。
     なお、平成21年4月1日の現況による本件土地の価額は○○○○円であり、本件贈与に当たって、請求人は、登録免許税○○○○円、不動産取得税○○○○円及び司法書士への事務手数料等○○○○円を支払ったほか、本件土地に設定されていた別表2記載の順位番号2の抵当権及び順位番号3の根抵当権(以下、これらの抵当権及び根抵当権を「本件根抵当権等」という。)に係る債務者H(請求人の兄)の債務○○○○円を引き受けた。
  • ニ 原処分庁は、平成26年4月22日、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、本件被相続人が滞納していた国税について、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ホ 本件被相続人は、平成28年8月○日に死亡し、本件被相続人の相続人のうち本件相続人らを除く全員(請求人を含む。)が相続放棄をしたことから、通則法第5条並びに民法第900条及び第901条の規定に基づき、本件相続人らが別表3記載の本件被相続人の滞納国税に係る納付義務をそれぞれ別表4記載のとおり承継した (以下、別表4記載の各滞納国税を「本件各滞納国税」という。)。
  • ヘ 原処分庁は、本件各滞納国税につき本件相続人らの財産に滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足することがそれぞれ認められ、また、その不足すると認められることが本件贈与に基因するとそれぞれ認められたことから、本件各滞納国税を徴収するため、平成30年2月1日、徴収法第32条第1項及び第39条の各規定に基づき、それぞれ納付すべき限度の額を○○○○円、納付の期限を平成30年3月2日などとする各納付通知書により、請求人に対し、第二次納税義務の各納付告知処分(以下「本件各納付告知処分」という。)をした。
  • ト 原処分庁は、本件各納付告知処分に係る納付すべき限度の額○○○○円について、本件贈与の時における本件土地の価額○○○○円から、本件贈与に当たって請求人が支払った登録免許税○○○○円、不動産取得税○○○○円及び司法書士への事務手数料等○○○○円並びに本件根抵当権等に係る債務引受額○○○○円を控除して算出した。
  • チ 請求人は、平成30年2月8日、本件各滞納国税のうち本税○○○○円をそれぞれ納付した。これにより本件各滞納国税に係る各延滞税(各○○○○円)がそれぞれ確定した。
  • リ 原処分庁は、平成30年3月13日、Dの金融機関に対する普通預金債権○○○○円を差し押さえた上で、取り立て、Dが納付すべき延滞税○○○○円に充当した。
  • ヌ 原処分庁は、Eの納付すべき延滞税○○○○円及びDの納付すべき上記リの充当後の延滞税○○○○円(以下、これらの納付すべき各延滞税を「本件各延滞税」という。)が上記ヘの納付の期限までに完納されなかったことから、請求人に対し平成30年4月2日付で徴収法第32条第2項に基づき各納付催告書を送付してその納付をそれぞれ督促した(以下「本件各督促処分」という。)。
  • ル 請求人は、本件各納付告知処分及び本件各督促処分を不服として、平成30年4月14日に審査請求をした。

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2 争点

 滞納者であった被相続人が行った無償譲渡等の処分により権利を取得した者は、被相続人の死亡後においても、第二次納税義務を負うか否か。

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3 争点についての主張

(1) 原処分庁

  • イ 第二次納税義務は、対象となる滞納国税について徴収法第39条の各要件の全てを充足したことによって適用されるが、各要件が充足した時期は必ずしも同一とは限らない。本件においては、本件贈与を行った時の主たる納税者は本件被相続人であったものの、滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると判定した時の主たる納税者は本件相続人らであったものであり、要件が充足した時における主たる滞納者が相違しているが、これは、本件被相続人の死亡によって相続が開始され、本件被相続人の滞納国税が本件相続人らに承継されたからであり、当該滞納国税の納付義務の承継が第二次納税義務の適用に影響を及ぼすものではない。
  • ロ したがって、滞納者であった本件被相続人が行った無償譲渡等の処分により権利を取得した請求人は、本件被相続人の死亡後においても、第二次納税義務を負う。

(2) 請求人

  • イ 徴収法第39条は、滞納者である主たる納税者が贈与等を行った場合の規定である。本件各納付告知処分に係る各納付通知書及び本件各督促処分に係る各納付催告書において納税者は本件相続人らである旨それぞれ記載されているところ、本件贈与は、請求人が本件被相続人から受けたものであって、本件相続人らから受けたものではない。原処分庁は、第二次納税義務の要件について、各要件が充足した時期は必ずしも同一とは限らない旨主張するが、これは詭弁である。本件で、徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分を行ったとされた本件被相続人は、かつて滞納者であった者であり、同条適用時は滞納者ではない。本件相続人らが納付義務を承継したからといって、本件被相続人と本件相続人らを同一の「滞納者」として同条の規定を適用するのは誤りである。
  • ロ そうすると、滞納者である主たる納税者が請求人に対して贈与等を行った事実はなく、本件贈与は、本件被相続人の死亡後においては徴収法第39条に規定する滞納者が行ったとの要件を満たさないから、滞納者であった本件被相続人が行った無償譲渡等の処分により権利を取得した請求人は、本件被相続人の死亡後においては、第二次納税義務を負わない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

徴収法第39条は、滞納者が無償譲渡等の処分をし、そのため納税が満足にできないような資産状態に立ち至った場合に、その権利を取得した者に対して直接第二次納税義務を負わせることにより、実質的に詐害行為の取消しをしたのと同様の効果を得るために設けられたものである。そして、徴収法第39条に定める第二次納税義務の成立要件は、1滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合であること、2滞納者の国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき無償譲渡等の処分をしたこと、3上記1の徴収すべき額に不足すると認められることが、上記2の無償譲渡等の処分に基因すると認められることである。
 そうすると、納税者の国税の法定納期限の1年前の日以後に同人がその財産につき無償譲渡等の処分を行い、その後死亡した場合には、死亡後の第二次納税義務を負わせるかどうかの判定をしようとする時の現況において、死亡により相続人に承継された国税につき滞納が生じており、滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められ、かつ、その不足すると認められることが当該無償譲渡等の処分に基因すると認められるときは、当該無償譲渡等の処分により権利を取得した者は第二次納税義務を負うと解するのが相当である。

(2) 判断

本件贈与は、上記1の(3)のハのとおり既に滞納者であった本件被相続人がその所有していた本件土地を、その滞納国税の法定納期限(平成21年3月16日)の1年前の日以後である平成21年4月1日に請求人に対し贈与し、同月2日付でその旨の所有権移転登記が経由されたものであるところ、同ホのとおり本件被相続人は平成28年8月○日に死亡し、本件相続人らは、通則法第5条並びに民法第900条及び第901条の規定により、本件被相続人の滞納国税の納付義務をそれぞれ承継している。そして、死亡後の第二次納税義務を負わせるかどうかの判定をしようとする時の現況において、本件被相続人の死亡により本件相続人らに承継された本件各滞納国税につき本件相続人らの財産に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足することがそれぞれ認められること、また、その不足すると認められることが本件贈与に基因することがそれぞれ認められるから、本件贈与により権利を取得した請求人は、第二次納税義務を負うというべきである。

(3) 請求人の主張について

請求人は、本件被相続人はかつて滞納者であった者であって徴収法第39条適用時は滞納者ではない旨、また、本件相続人らが納税義務を承継したからといって本件被相続人と本件相続人らを同一の「滞納者」として同条を適用するのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、滞納者であった被相続人が行った無償譲渡等の処分により権利を取得した者は、被相続人の死亡後においても、第二次納税義務を負うと解するのが相当であることは上記(1)のとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各納付告知処分の適法性について
     上記(1)ないし(3)のとおり、本件各納付告知処分は、請求人の主張によりこれを取り消すべき理由はないが、上記1の(3)のへのとおり、本件各納付告知処分に係る納付すべき限度の額はそれぞれ○○○○円とされているところ、本件相続人らは、本件被相続人の死亡により本件被相続人の滞納国税の納付義務を承継している以上、当該納付すべき限度の額については、民法第900条及び第901条の規定によるその相続分によりあん分した額、すなわち、○○○○円を本件相続人らの相続分(2分の1)であん分して計算した額となる。そうすると、本件各納付告知処分に係る納付すべき限度の額は、それぞれ○○○○円となる。
     なお、本件各納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各納付告知処分は、納付すべき限度の額につき○○○○円を超える部分はいずれも違法となる。
  • ロ 本件各督促処分の適法性について
     徴収法第32条第2項は、その前段で第二次納税義務者が当該第二次納税義務に係る国税をその納付の期限までに完納しないときは、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨規定し、また、その後段で、納付催告書はその納付の期限から50日以内に発するものとする旨規定し、督促処分の要件として当該処分時の事情を要求しているから、その処分の適法性は処分時の事情を基礎として判断すべきである。
     そして、原処分庁は、本件各納付告知処分に係る各納付通知書に記載された第二次納税義務者から徴収しようとする金額の納付の期限であった平成30年3月2日までに、請求人が第二次納税義務者として納付すべき金額を完納していなかったことから、同年4月2日付の各納付催告書により本件各督促処分をしたことが認められ、上記イのとおり、本件各督促処分の基礎となる本件各納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額については、いずれもその一部が取り消されるべきものであるが、本件各督促処分時点においては取り消されておらず、当該限度額の全額が有効に存在していたといえる。したがって、本件各督促処分時点においてはこれを取り消すべき瑕疵は存在しない。
     なお、第二次納税義務の納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額の一部が裁決によって取り消された場合、当該納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額についてなされた督促処分は、取消しを受けた部分については当然に効力を失い、同部分を基礎として滞納処分を行うことはできなくなると解するのが相当である。
     したがって、本件各督促処分は、いずれも適法である。

(5) 延滞税の減額の求めについて

請求人は、本件各延滞税は請求人が主張する期間により再計算された金額とすべきであるとして、本件各延滞税の減額を求めている。
 しかしながら、国税不服審判所に対する審査請求の対象は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項の規定により「国税に関する法律に基づく処分」とされているところ、延滞税は、同法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号並びに同法第60条《延滞税》第1項及び第2項の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではないから、延滞税の減額を求める審査請求は、その対象となる処分の存在を欠く不適法なものである。
 したがって、延滞税の減額を求める審査請求は、通則法第92条《審理手続を経ないでする却下裁決》第2項に規定する審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなものに該当する。

(6) 結論

よって、本件各納付告知処分の一部をそれぞれ取り消すこととし、本件各督促処分に対する審査請求には理由がないから、これを棄却することとする。また、延滞税の減額を求める審査請求は、不適法なものであるからこれを却下することとする。

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