(令和元年6月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受けて法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の取締役が取引先に内容虚偽の請求書を発行させた行為は、請求人の行為と同視することができ、請求人に仮装の事実があるとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、上記取締役の行為をもって請求人の行為とは認められないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(平成29年1月1日前に法定申告期限が到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下、請求人の法人税の事業年度、復興特別法人税及び地方法人税(以下、法人税、復興特別法人税及び地方法人税を併せて「法人税等」という。)の課税事業年度並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税期間について、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、平成25年1月1日から平成25年12月31日までの期間は、法人税について「平成25年12月期」、復興特別法人税について「平成25年12月課税事業年度」、消費税等について「平成25年12月課税期間」といい、平成27年1月1日から平成27年12月31日までの期間は、地方法人税について「平成27年12月課税事業年度」という。)。
 また、平成25年12月期ないし平成29年12月期を併せて「本件各事業年度」といい、平成25年12月課税期間ないし平成29年12月課税期間を併せて「本件各課税期間」という。

  • イ 請求人は、平成○年○月○日に設立された建築、土木資材販売等を目的とする株式会社であり、本件各事業年度における代表取締役は、Eである。
  • ロ Gは、平成○年に請求人に採用され、○○課長、○○部長を経て、平成○年○月以降は常務取締役、平成○年○月以降は専務取締役の役職に就いている者である。
  • ハ G専務は、本件各事業年度において、下記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人の取引先に内容虚偽の請求書を発行させ、請求人の経理担当者に当該請求額が正規の請求額であると誤信させて支払処理をさせる方法により、請求人から各取引先を経由して各金員を詐取した(以下、G専務が請求人から各取引先経由で詐取した金員を「本件各金員」という。)。
    • (イ) 架空の請求書を発行させる方法
      • A G専務は、その知人が経営するH社に対し、H社が請求人に営業協力をしていないにもかかわらず、「○○費」名目で請求書を発行するよう依頼した。
      • B H社は、上記Aの依頼を受け、請求人に対して「○○費」名目で架空の請求書を発行し、請求人から当該請求額に相当する金員を受領した。
      • C G専務は、H社から当該請求額に相当する金員を別表1の「H社」欄のとおり受領した。
    • (ロ) 工事代金を水増しした請求書を発行させる方法
      • A G専務は、請求人の外注先であるJ社及びK社(以下「K社」といい、J社と併せて「J社ら」という。また、J社らとH社を併せて「本件各取引先」という。)に対し、代金を水増しした請求書の発行及び当該水増し分の金員のH社への支払を依頼した。
      • B J社らは、上記Aの依頼を受け、請求人に対して代金を水増しした請求書(以下、上記(イ)のBの架空の請求書と併せて「本件各請求書」という。)を発行し、請求人から当該請求額に相当する金員を受領した。そして、J社らは、当該請求に係る水増し分の金員をH社に支払った。
      • C G専務は、H社から当該水増し分の金員を別表1の「J社」欄及び「K社」欄のとおり受領した。
  • ニ 請求人は、本件各事業年度において、総勘定元帳の仕入高勘定に本件各請求書の請求額を計上した。
     なお、請求人は、本件各事業年度における消費税等の経理処理について、税抜経理方式を採用している。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度に係る法人税等について、本件各金員を損金の額に算入して所得金額等及び税額等を計算し、いずれも法定申告期限までに、別表2の「確定申告」欄、別表3の「申告」欄及び別表4の「確定申告」欄のとおりとする確定申告(復興特別法人税については申告)をした。
  • ロ 請求人は、本件各課税期間の消費税等について、本件各金員を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて税額を計算し、いずれも法定申告期限までに、別表5の「確定申告」欄のとおりとする確定申告をした。
  • ハ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、本件各事業年度に係る法人税等について、損金の額から本件各金員を減額するとともに、本件各課税期間の消費税等について、課税仕入れに係る支払対価の額から本件各金員を減額して課税標準等及び税額等を計算し、平成30年6月14日、別表2ないし別表5の「修正申告」欄のとおりとする各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした。
  • ニ 原処分庁は、これに対し、本件各金員については仮装があったとして、平成30年6月20日付で、本件各事業年度に係る法人税等及び本件各課税期間の消費税等について、別表2ないし別表5の「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分を不服として、平成30年9月17日に審査請求をした。

2 争点

G専務が本件各取引先に対し本件各請求書を発行させた行為をもって、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽又は仮装したと認められるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 通則法第68条第1項が隠蔽又は仮装の行為主体を「納税者」と規定しているのは、本来的には納税者自身による隠蔽又は仮装の防止を企図したものではあるものの、形式的に隠蔽又は仮装が納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、隠蔽又は仮装に基づく過少申告による納税義務違反の発生の防止という重加算税制度の趣旨及び目的が没却されてしまうことになる。
 そのため、納税者以外の者が隠蔽又は仮装をした場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができる場合には、重加算税を賦課すべきである。
 そして、納税者以外の者の隠蔽又は仮装が納税者本人の行為と同視できるか否かについては、納税者と行為者の関係、行為者による隠蔽又は仮装についての納税者の認識又は認識可能性、行為者による隠蔽又は仮装についての納税者の防止可能性等を総合的に考慮して判断すべきである。
(1) 重加算税制度は、悪質な納税義務違反の発生を防止することを目的とし、納税者に対し主観的責任を追及することを趣旨とする制度である。
 そして、重加算税の賦課は、納税者本人による隠蔽又は仮装を要件としているところ、別人格である自然人の行為を納税者の行為と同視する旨の法令の規定は存在しないのであるから、両者の行為を同視することはできず、身体のない法人に重加算税が課されるのは、別人格である自然人の行為をもって重加算税賦課の要件事実、すなわち納税者による隠蔽又は仮装があったと規範的に評価できる場合に限られる。
 具体的にいうと、納税者が法人の場合については、現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者が、過少申告の認識があるかどうかまでは問わないとしても、その行為の意味を理解しながら隠蔽又は仮装を行った場合に、悪質な納税義務違反を納税者(法人)が行ったものと評価され、主観的責任の追及としての重加算税が課されるものである。
 上記「現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者」とは、典型的には、法人の納税申告の最終責任者としての代表者のほか、経理や申告手続を行う者として法人内で権限を有する経理責任者と経理責任者の下で経理や申告手続事務を実際に行っている担当者をいうと解すべきである。
(2) G専務は、請求人の専務取締役として重要な地位にあり、また、担当営業先の対応について一任された営業担当者としての地位にあったと認められ、請求人の適正な申告行為に影響を及ぼすことが明らかな地位にあった。
 G専務は、請求人から与えられた専務取締役及び営業担当者としての地位を利用し、本件各取引先と通謀して、内容虚偽の本件各請求書を発行させ、請求人に本件各金員に相当する架空仕入れを計上させた。
 そして、本件各金員に相当する架空仕入れは、約5年間もの長期にわたり多額に損金の額に計上されていることから、請求人は十分な監査を行わずにこれを放置していたと評価でき、請求人は、法定申告期限までに不正行為や過少申告を防止するための措置を講ずることができたにもかかわらず、これを怠った。
 以上の事情を総合的に考慮すると、G専務が本件各取引先に対し、本件各請求書を発行させた行為は、納税者である請求人による仮装と同視することができる。
(2) G専務は、請求人の代表者ではなく、別にいる経理担当者を部下とすることもなく、経理や申告手続事務について責任を負うことも、法人の経理や申告納税を行うべき立場にもなかった。
 また、G専務は、経理や税法上の結果を考慮した上で隠蔽若しくは仮装をし、又はするだけの知識と経験を有していなかった。
  したがって、G専務の行為をもって、請求人が法人として悪質な納税義務違反を実現したと評価することはできず、請求人による仮装があったと評価することはできない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法は、法の趣旨に従った納税手続が行われなかった場合や所定の納期限までに国税が完納されなかった場合に、過少申告加算税(第65条)、無申告加算税(第66条)、不納付加算税(第67条)を課することを規定しているところ、重加算税の税率は、他の加算税の税率より2倍以上高いこと、通則法第68条第1項は、他の加算税の規定(第65条ないし第67条)と異なり、その課税要件である隠蔽又は仮装の主体を「納税者」と明示していることなどからすれば、重加算税は、納税義務違反の発生を防止し、納税の実を上げようとする趣旨のものであることは当然として、納税に関して隠蔽又は仮装という反社会的、反道徳的な不正行為を行い、納税を免れようとした者に対する一種の制裁的規定の性質も有するものといえる。したがって、通則法第68条第1項に規定する「納税者」は、基本的に納税者本人(法人の場合は、その代表者)を指すものと解される。
 しかしながら、法人における事業活動、経済活動は、一般的に組織的活動として行われ、その活動に複数の人間が有機的に関与することが多いことは周知のとおりであり、現実には、組織に所属する複数の者がそれぞれの部署において一定の権限を与えられ、その権限と裁量に基づき、法人としての有機的な事業活動を担っているのが常態であるといえる。
 そうすると、法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠蔽又は仮装を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠蔽又は仮装であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、通則法第68条第1項の重加算税の対象となるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

原処分関係資料、請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件各事業年度において、○○調査及び○○工事の受注を主力事業とし、複数の営業担当者が在籍して営業業務を行っていた。そのうち、○○工事の営業においては、営業担当者が、各現場に適した○のメーカーを選定し、当該メーカーとの間で工事内容、工期及び代金等の打合せを行い、当該メーカーに対して○の納入及び当該メーカー固有の工法による施工工事を発注していた。J社は、請求人の受注工事に関与するメーカーのうちの1社であり、K社は、請求人が○○工事に付随する工事を外注する業者であった。
  • ロ G専務は、本件各事業年度において、請求人の常務取締役又は専務取締役として対外的な営業業務を行っていた。
  • ハ G専務は、本件各事業年度において、請求人の内部で毎週開催される営業会議に出席し、同会議における担当者からの営業状況等の報告に対し、E社長と共に、営業方法等を指導していた。
  • ニ 本件各事業年度において、G専務が担当していた営業業務により受注した取引は、請求人の営業利益の7割程度を占めていた。
  • ホ G専務は、本件各事業年度において、自身が担当者として受注する工事について、メーカー及びその他の外注先業者などの取引先の選定、顧客や取引先との取引金額の交渉をE社長から一任されており、E社長が交渉の場に出向くことはなかった。
  • へ E社長は、工事現場ごとに予算管理を行っており、G専務が担当者として受注した工事についても請求人の利益が確保されているかという点で管理を行っていたが、取引先との取引の詳細な内容までは把握していなかった。
  • ト 本件各事業年度において、請求人からG専務に支払われる報酬は、E社長に次ぐ額であった。

(3) 当てはめ

G専務が本件各取引先に対して本件各請求書を発行させた行為は、いずれも実態のない仕入高が存在するかのように故意に事実をわい曲する行為であり、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装」したことに当たる。
 そして、G専務は、上記(2)のロないしニ及びトのとおり、常務取締役又は専務取締役として対外的な営業業務を行っていたこと、請求人の営業会議においてE社長と共に、営業担当者に対して営業方法を指導していたこと、自身が担当者として受注した取引が請求人の営業利益の7割程度を占めるなどの業績があり、このような実態に即して、E社長に次ぐ報酬を得ていたことを考慮すると、G専務は、請求人内部において請求人の営業業務に対して大きな影響力を有する地位にあったと認められる。
 また、上記(2)のヘのとおり、E社長は、取引先との取引の詳細な内容までは把握しておらず、同ホのとおり、G専務は、自身が担当者として受注する工事について、取引先の選定及び取引先との取引金額の交渉をE社長から一任されていたことからすると、G専務は、請求人内部において取引先と取引内容を協議して確定する権限があったと認められる。
 そうすると、G専務が本件各取引先に対し内容虚偽の本件各請求書を発行させた行為(以下「本件仮装」という。)は、G専務が請求人の内部において有していた上記のような地位及び権限に基づき、請求人の業務として行われた行為であると認められ、請求人において本件仮装を防止するための措置を講じたとも認められないことから、全体として、納税者たる請求人の行為と評価できる。
 したがって、本件仮装は、請求人の行為と同視でき、請求人が課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したと認められ、このことは、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装」したことに当たる。

(4) 請求人の主張について

請求人は、重加算税は悪質な納税義務違反の発生を防止することを目的とし、納税者に対し主観的責任を追及する趣旨であるから、現実に組織として行う法人の申告納税を適正に執り行うべき者が、その行為の意味を理解しながら仮装を行った際に重加算税が課されるものであり、そうすると、G専務は、経理責任者若しくは経理責任者の下で経理や申告手続事務を実際に行っている担当者ではなく、また、経理や税法上の結果を考慮した上で隠蔽若しくは仮装をし、又はするだけの知識と経験を有していなかったことから、請求人に重加算税を課すことはできない旨主張する。
 しかしながら、重加算税の課税要件である「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装」は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を故意にわい曲する行為であれば足り、上記(1)のとおり、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った仮装であれば納税者である法人の行為に当たるのであって、経理又は申告納税に係る事務において行われる行為に限定されるものではない。
 そうすると、G専務が、経理責任者若しくは経理責任者の下で経理や申告手続事務を実際に行っている担当者ではなく、経理や税法上の結果を考慮した上で隠蔽若しくは仮装をし、又はするだけの知識と経験を有していなかったとしても、上記(3)の結論を左右するものではない。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、本件仮装は、請求人による仮装と認められ、請求人は、その仮装されたところに基づき、本件各金員を損金の額及び課税仕入れに係る支払対価の額に含めて本件各事業年度に係る法人税等及び本件各課税期間の消費税等の申告書を提出したと認められることから、本件各修正申告につき通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件を満たしている。
 以上を前提に、本件各修正申告に基づき納付すべき税額を基礎とする重加算税の額を計算すると、別表2ないし別表5の「賦課決定処分」の額と同額となる。
 また、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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