(平成31年4月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、電気計装工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて、所得税等及び消費税等の各期限後申告を行ったところ、原処分庁が、当該各期限後申告について、それぞれ課税要件事実を隠蔽又は仮装したところに基づくものであるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項は、通則法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人の状況
    • (イ) 請求人は、電気計装工事業を営む個人事業主である(以下、請求人の事業を「本件事業」という。)。
    • (ロ) 請求人は、平成23年9月20日、当時の勤務先であるF社を退職した。
    • (ハ) 請求人は、平成27年ないし平成29年にG社から給与として収入を得ていた。
  • ロ 請求人の市民税・県民税の申告の状況
    • (イ) 請求人の収入金額及び所得金額を○○○○円とする平成25年度の市民税・県民税申告書(以下「本件平成25年度住民税申告書」といい、市民税と県民税を併せて「住民税」という。)が平成25年9月25日付でH市役所に提出された。
    • (ロ) 請求人の収入金額及び所得金額を○○○○円とする平成26年度の住民税の申告書(以下「本件平成26年度住民税申告書」といい、本件平成25年度住民税申告書と併せて「本件各住民税申告書」という。)が平成26年8月28日付でH市役所に提出された。
  • ハ 本件事業に係る会計帳簿等の状況
    • (イ) 請求人が、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対して提示したノートパソコン(以下「本件パソコン」という。)には、平成24年1月から平成28年12月までの本件事業に係る各月の受注先への請求金額、外注工賃等の支払金額及び当該請求金額と支払金額との差額が表示された集計表(以下「本件集計表」という。)のデータが保存されていた。
    • (ロ) 本件パソコンには、本件事業について請求人が受注先へ送付するために作成した平成24年1月分から平成28年12月分までの工事代金請求書(以下「本件請求書」という。)のデータが保存されていた。
  • ニ 本件調査担当職員による質問調査の状況
    • (イ) 本件調査担当職員は、平成29年12月19日、請求人に対して初めて電話連絡をした。その際、本件調査担当職員が自ら税務職員であることを伝えた上で、「個人で事業を行っていますか。」と質問したことに対し、請求人は、「会社員です。」と回答した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成30年1月31日、請求人に対して、質問調査を行ったところ、請求人は、質問応答の要旨を記録した質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)の問答末尾に署名指印するとともに、本件質問応答記録書の各ページに設けられた「確認印」欄に指印した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成24年分の所得税、平成25年分ないし平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」といい、平成24年分ないし平成28年分を併せて「本件各年分」という。)並びに平成26年1月1日から平成26年12月31日まで、平成27年1月1日から平成27年12月31日まで及び平成28年1月1日から平成28年12月31日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書を法定申告期限までに提出しなかった。
  • ロ 請求人は、本件調査担当職員の調査を受けて、平成30年2月9日に本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の各確定申告書に別表1及び別表2の「確定申告」欄のとおり記載して原処分庁に提出した。
  • ハ 原処分庁は、請求人が本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の各期限後申告について、それぞれ課税要件事実を隠蔽又は仮装したところに基づくものであるとして、平成30年2月28日付で、別表1及び別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、この重加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ニ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年5月15日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものか否か(争点1)。

(2) 請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はあるか(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 本件平成25年度住民税申告書について
 請求人は、平成25年度の住民税の申告について、当時婚姻関係にあった元配偶者が行ったと思う旨申述していることから、元配偶者が当該申告を行ったものと推認される。
 なお、元配偶者の当該行為は、家族という関係からその行為を容易に認識することができ、その行為の是正や防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、これを放置したものと認められることから、当該行為は、請求人本人の行為と同一視できると認められる。
イ 本件平成25年度住民税申告書について
 請求人は、本件平成25年度住民税申告書を提出した記憶がなく、どのような経緯で提出されたものかは分からない。
 仮に当時婚姻関係にあった元配偶者が本件平成25年度住民税申告書を提出していたとしても、提出があったとされる時点では既に別居しており、元配偶者が勝手に提出した可能性がある。
ロ 本件平成26年度住民税申告書について
 請求人は、本件平成26年度住民税申告書を、請求人が提出した旨申述していることに加え、本件平成26年度住民税申告書に押印された印影は請求人のものであると認められる。
ロ 本件平成26年度住民税申告書について
 請求人は、本件平成26年度住民税申告書について、その書面が提出されたことは否定しないが、自ら提出した記憶がなく、どのような経緯及び内容で提出されたかは分からない。
ハ よって、本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものと認められる。

(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はあるか。)について

原処分庁 請求人
請求人には、次のとおり、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為がある。 請求人には、次のとおり、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はない。
イ 本件各住民税申告書について、請求人又は元配偶者は、収入金額及び所得金額を○○○○円とした虚偽の申告書を提出しており、当該行為は、次のロ及びハのことを考慮すると、当初から所得税等及び消費税等の納付を免れようとする請求人の意図を外部からもうかがい得る特段の行動と評価できるから、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為である。 イ 請求人は、本件平成26年度住民税申告書を自ら提出した記憶がなく、どのような経緯及び内容で提出されたか不明であり、仮に本件平成26年度住民税申告書を請求人が提出したとしても、当該行為は「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為ではない。
ロ 本件質問応答記録書の内容は、本件調査担当職員が請求人へ本件質問応答記録書の読み聞かせを行い、内容に間違いがないことを確認した上で、請求人の署名及び指印を受けていることから、信用性があるところ、請求人は、本件各住民税申告書の提出について、「利益があることがH市役所に知られると税務署にも知られてしまい、住民税以外に税務署にも税金を払うことになるのが嫌だった。」旨申述している。 ロ 本件質問応答記録書の内容は、正確ではなく、更に請求人が申述していないことまで付け加えられており、事実とは異なる。
 また、本件質問応答記録書の訂正を求めたが、応じられなかった。
 よって、本件質問応答記録書には信用性がない。
ハ 請求人は、本件パソコンを使用して本件集計表を作成し、利益を把握していたこと、及び本件請求書を作成するに当たっては、消費税等に関する知識が不可欠であること、また、本件調査担当職員に対して、「同業者が調査を受けており、いずれ私も確定申告をしなければならないという思いがあったが、確定申告はしなかった。」旨申述していることから、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、確定申告の必要性を認識していた。 ハ 請求人が本件集計表を作成した目的は、本件事業における請求及び支払を正確に行うためであって、利益を把握するためではないし、同業者に関して話したことは、同業者が請求人との取引で生じた税金の一部に負担義務があると思い込み、支払ったという趣旨である。
 また、平成23年にF社を退職してから、税に関して支払うべきものがあるなら通知があるだろうと考えていたため、確定申告の必要性の認識はなかった。
ニ 請求人が、本件調査担当職員からの電話で「個人で事業を行っていますか。」と質問されたのに対し、「会社員です。」と答えたこと(以下「本件電話答弁」という。)は、本件事業に係る収入を明らかにしない意図をもった虚偽答弁と認められ、当該行為からは本件事業に係る収入を明らかにしない意図を合理的に推認でき、当初から所得税等及び消費税等の納付を免れようとする請求人の意図を外部からもうかがい得る特段の行動と評価できるから、「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為である。 ニ 本件電話答弁は、請求人自身、給与収入を得ている会社員との認識であったためであり、虚偽答弁ではない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件平成25年度住民税申告書の署名欄には、手書きで「D1」と記載され、その横の押印欄には「D2」という、いわゆる三文判と思われる印影が存在する。
      そして、この署名欄の筆跡は、請求人や請求人の元配偶者の筆跡と明らかに異なっている。
    • (ロ) 他方、本件平成26年度住民税申告書の署名欄には、ワープロ等で印字されたと思われる文字で「D1」と記名され、その横の押印欄には、「D2」という印影が存在する。この印影は、平成30年1月4日付「預り証」と題する書面中の「預り証(交付用)を、確かに受領しました。」の確認印としての「D2」という印影、同年5月16日付「審査請求書」の「審査請求人」押印欄の押印部分の印影、同年9月14日付当審判所における「質問調書」の末尾の本人署名欄の押印部分の印影、並びに、同年8月22日付及び9月28日付「審査請求人意見書の提出について」の「審査請求人」押印欄の押印部分の印影とそれぞれ一致すると認められる。
    • (ハ) 平成25年3月から平成26年2月までの間、本件事業に係る工事現場がe県f市であり、請求人は、当該工事現場の近隣に滞在していた。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件平成25年度住民税申告書について
      • A 本件平成25年度住民税申告書は、上記イの(イ)のとおり、その押印欄に「D2」なる印影が押されているものの、容易に入手可能な三文判のような印鑑で押印されたものと認められる上、署名欄の「D1」なる手書きで記載された文字の筆跡は請求人の筆跡と明らかに相違していると認められる。
         そして、請求人は、上記イの(ハ)のとおり、本件平成25年度住民税申告書の提出がされた平成25年9月25日を含めて前後約11か月にわたり、住所地であるa県b市g町から遠方であるe県f市内の工事現場の近隣に滞在していたことが常態であったと認められるから、請求人自身が本件平成25年度住民税申告書に押印をすること等が困難な事情があったと認められる。
         また、当審判所の調査によっても、請求人が、その元配偶者を含めて請求人以外の者に対し、本件平成25年度住民税申告書への押印を指示するような委任をした事実を認めることはできず、ましてや本件平成25年度住民税申告書の提出を委任した事実を認めることもできない。
         したがって、本件平成25年度住民税申告書は、請求人の意思による押印がされたものとは認められず、また、請求人の意思で提出したものと認めることもできない。
      • B 原処分庁は、本件平成25年度住民税申告書の作成及び提出を請求人の元配偶者が行ったものと認定した上で、元配偶者の当該提出行為は、請求人本人の行為と同一視できると認められる旨主張する。
         原処分庁が本件平成25年度住民税申告書の提出を元配偶者が行ったものと主張する根拠は、請求人の本件質問応答記録書のみであるところ、本件質問応答記録書には「(平成25年9月)当時妻と結婚していましたので妻が行ったのだと思います。」との記載がされている。
         しかしながら、元配偶者が当時、g町内に在住していたことは認められるものの、本件平成25年度住民税申告書の署名欄の筆跡は、元配偶者が自署した筆跡とも明らかに異なる上、元配偶者自身も審判所に対する答述において、本件平成25年度住民税申告書の作成や提出に関わったことを認めておらず、また、この答述内容を虚偽であると認めるに足りる証拠もない。
         したがって、元配偶者が本件平成25年度住民税申告書を作成及び提出したことを認めることができないから、原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件平成26年度住民税申告書について
       本件平成26年度住民税申告書の氏名欄には、上記イの(ロ)のとおり、「D1」とワープロ等で印字されたと思われる文字による記名がされ、その横の押印欄には「D2」という印影が存在する。
       そして、この印影は、請求人本人が自署し、かつ、自らが押印したと明らかに認められる審判所における質問調書の末尾の署名押印部分の印影、本件調査担当職員に対する預り証の受領確認部分の印影、審判所に対して提出された審査請求書や意見書などに押印された印影とそれぞれ一致することが認められることから、本件平成26年度住民税申告書の押印欄は、請求人の意思で押印されたものと強く推認される。
       また、請求人は、当審判所に対して、本件平成26年度住民税申告書について、その作成や提出をした記憶がないと言いつつも自ら提出した可能性も考えられる旨をも答述し、自らの意思で押印をした事実を明確に否定していないことを考えれば、本件平成26年度住民税申告書の押印部分は、請求人が自らの意思で押印したものと認められ、そうすると、請求人が自らの意思で本件平成26年度住民税申告書を作成したものと認められる。
       したがって、本件平成26年度住民税申告書は、請求人の意思に基づき作成かつ提出されたものと認められる。

(2) 争点2(請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はあるか。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第2項に規定する重加算税は、同法第66条第1項に規定する無申告加算税に代えて課されるものであるところ、この重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しないことについて隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことそのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、これとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて法定申告期限までに納税申告書が提出されなかったことを要するものである。
     しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     原処分庁は、請求人が本件各住民税申告書を提出した行為及び本件電話答弁等は、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことに該当する旨主張することから、以下のとおり検討する。
    • (イ) 本件各住民税申告書の提出について
      • A 上記(1)のロのとおり、本件各住民税申告書のうち、請求人の意思に基づき提出したものと認めることができるのは、本件平成26年度住民税申告書のみである上、当該書面は、H市役所に提出されたものであって、直接、原処分庁に提出されたものではないことから、仮に、請求人が確定申告の必要性を認識していたとしても、本件平成26年度住民税申告書を提出したことだけでは、直ちに、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することはできない
      • B 原処分庁は、請求人が、確定申告の必要性を認識し、住民税の申告により請求人の所得が税務署に把握されるとの知識を有した上で、当該所得を把握されないために、あえて住民税についても積極的に虚偽の申告をしたと認められることから、本件各住民税申告書を提出した行為は、請求人が、当初から所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことに該当する旨主張する。
         確かに、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人が、本件質問応答記録書において、本件平成26年度住民税申告書を提出した動機について「利益があることがH市役所に知られると税務署にも知られてしまい、住民税以外に税務署にも税金を払うことになるのが嫌だった。」旨を申述していることは事実である。
         しかしながら、本件質問応答記録書の内容を検討するに、請求人は、平成26年度の住民税の申告状況を尋ねる質問に、利益があることがH市役所に知られると税務署にも知られてしまうのが嫌だったと申述する一方、「正直にお話ししますと、どのような経緯で申告したかについては、昔のことですので、覚えていません。」などとも申述し、同一の文書である本件質問応答記録書の中で、請求人の申告状況に関する申述が不合理に変遷しているといわざるを得ない。
         そして、この住民税の申告状況に関する申述内容は原処分庁が主張する請求人の虚偽申告に係る動機となっている事柄であって、これは原処分庁が主張する論拠の根幹部分というべきであり、その根幹部分に係る申述が、同一の文書である本件質問応答記録書の中で不自然に変遷していると評価せざるを得ない。
         また、請求人は、当審判所に対し、本件平成26年度住民税申告書を提出した動機に係る上記の「利益があることがH市役所に知られると税務署にも知られてしまい、住民税以外に税務署にも税金を払うことになるのが嫌だった。」という申述内容を否定する答述をしているところ、本件質問応答記録書の申述のように、請求人があえて住民税の申告書を提出するためだけにわざわざH市役所に赴いたというのも不自然である上、請求人が、そもそもいかなる目的のために住民税の申告書の提出が必要だったのかという点が本件質問応答記録書では明らかにされていないため、本件質問応答記録書では重要な部分に関する解明が不足しており、その申述内容も不自然かつ不合理であると評価せざるを得ない。
         よって、本件平成26年度住民税申告書を提出した動機に係る上記の申述は、合理性及び一貫性に乏しく、信用することはできない。
         そうすると、請求人の申述が信用できない以上、仮に上記3の(2)の「原処分庁」欄のハの主張のとおり、請求人が確定申告の必要性を認識していたとしても、その認識だけでは、本件平成26年度住民税申告書の提出について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできないというべきである。
         したがって、本件各住民税申告書の提出について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできない。
      • C 原処分庁は、本件質問応答記録書における申述のほかに、請求人が、本件パソコンを用いて本件集計表を作成し、利益を把握していたこと等から、本件各住民税申告書の提出について、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとも主張する。
         しかしながら、原処分庁の主張は、請求人が確定申告の必要性を認識していたと主張するものと認められるところ、上記Bのとおり、請求人が確定申告の必要性を認識していたとしても、その認識だけでは、本件各住民税申告書の提出について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできない。
         さらに、本件集計表を客観的にみると、上記1の(3)のハの(イ)のとおり、本件事業によって生じる売上等を記載する欄があるものの、本件事業の形態から想定される費用である通信費、宿泊費、車両費及び保険料等を記載する欄がなく、本件事業の利益を計算する目的としては内容が不足しているといわざるを得ない。
         そうすると、請求人が主張するように、本件集計表の作成目的は、本件事業における請求及び支払を正確に行うために作成していたものとも評価できるものであって、利益を把握するためのものではなかったと認められる。
         したがって、本件においては、請求人が本件集計表等の作成をしていたからといって、それが確定申告の必要性を基礎づける一つの要素とはなり得ても、それ以上に、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することはできず、原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件電話答弁について
       原処分庁は、請求人が本件電話答弁をしたことを、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと主張する。
       確かに、請求人が、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、本件電話答弁において、本件調査担当職員に対し、「会社員です。」と答えたことは事実である。
       しかしながら、本件電話答弁は、請求人が本件調査担当職員から、初めて連絡を受けたときの請求人の回答である。請求人は、当審判所に対し、本件調査担当職員が税務職員を名乗ってはいたものの、詐欺などの可能性もあり、詳細にわたる回答を避けつつ答弁していた旨答述するところ、社会通念に照らしてみれば、その答述内容を一概に不合理であると評価することはできない。
       また、請求人は、上記1の(3)のイの(ハ)のとおり、本件電話答弁をした当時、G社から給与として収入を得ていたことが認められるのであって、このことも併せ考えれば、請求人が、本件調査担当職員に対し「会社員です。」と答えたことだけを捉えて、虚偽の答弁であると評価することはできず、このような本件電話答弁について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することもできない。
    • (ハ) 小括
       上記(イ)及び(ロ)からすると、原処分庁が主張する事情をみても、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動を行ったと評価することはできない。
       また、当審判所における調査によっても、請求人が当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動を行ったとするようなことは認められず、そのほか隠蔽又は仮装と評価できる行為も認められない。
       したがって、請求人に通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」と評価すべき行為があるとは認められない。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のロの(ハ)のとおり、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
 また、請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の各期限後申告について、通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」があるとは認められず、当審判所においてこれらの期限後申告に係る各加算税の額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおりであると認められる。
 なお、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分は違法であるから、別紙1ないし別紙8の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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