(平成31年4月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、飲食店を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の事業所得の金額及び課税資産の譲渡等の対価の額を推計の方法により算出して所得税等及び消費税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁が採用した推計方法には合理性がなく、請求人自身が推計する方法により算出した事業所得の金額等の方が実額に近似するとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の事業所得の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の事業所得の金額を除く。)を推計して、これをすることができる旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人の事業の概要
    • (イ) 請求人は、平成○年からa市b町○−○において「J」の屋号で〇〇料理店を個人で営んでいる(以下、当該事業を「本件事業」といい、同所所在の店舗を「本件店舗」という。)。
       なお、請求人は、本件事業のほかに不動産貸付業を営んでいる。
    • (ロ) 平成22年ないし平成28年(以下「本件各年」という。)における本件事業の営業時間は、午前11時から午後2時まで(以下、この時間帯における営業を「昼営業」という。)及び午後5時から午後9時まで(以下、この時間帯における営業を「夜営業」といい、昼営業と併せて「1日営業」という。)であった。
    • (ハ) 請求人の妻であるKは、本件各年において、請求人の事業専従者として本件事業の経理全般等に従事していた(以下、同人を「本件専従者」という。)。
    • (ニ) 本件事業における飲食物の客への提供方法は、店内飲食、持帰り(店内飲食と同じ飲食物を持ち帰ること)及び弁当販売の3つの形態があるが、いずれの場合も、必ず「お会計票」と題する伝票(以下「注文伝票」という。)が作成されていた。
  • ロ 請求人の税務に係る届出の状況
    • (イ) 請求人は、平成17年3月1日、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間を適用開始課税期間として消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を原処分庁に提出した。
    • (ロ) 請求人は、平成20年2月25日、所得税の青色申告承認申請書を原処分庁に提出し、平成20年分以後の所得税につき、青色の申告書により申告書を提出する旨の承認を受けていた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 確定申告について
    • (イ) 請求人は、平成22年分ないし平成28年分の所得税(平成25年分ないし平成28年分については復興特別所得税も含む。以下、これらの年分を併せて「本件各年分」といい、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
       なお、請求人は、平成24年7月20日に損害保険会社から受け取った一時金○○○○円を平成24年分の確定申告書に添付した所得の内訳書に記載したが、これを平成24年分の課税標準に算入していなかった。
       また、請求人は、賃貸用不動産の譲渡に係る消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の額○○○○円を平成28年4月25日に納付したが、これを平成28年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入していなかった。
    • (ロ) 請求人は、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで、平成24年1月1日から平成24年12月31日まで、平成25年1月1日から平成25年12月31日まで、平成26年1月1日から平成26年12月31日まで、平成27年1月1日から平成27年12月31日まで及び平成28年1月1日から平成28年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」、「平成24年課税期間」、「平成25年課税期間」、「平成26年課税期間」、「平成27年課税期間」及び「平成28年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
  • ロ 原処分について
    • (イ) 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)による請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等についての調査(以下「本件調査」という。)により、平成30年2月13日付で、平成22年分以後の所得税について青色申告の承認取消処分(当該処分について請求人は審査請求をしていない。)をするとともに、同日付で、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件所得税等各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税等各賦課決定処分」という。)をした。
       本件所得税等各更正処分は、客の注文等を記載した注文伝票の一部を本件専従者が破棄していたことから、原処分庁が請求人の事業所得の金額を実額により算出できないとして、本件各年の注文伝票のうち、客の注文等を記載したもので残存するもの(以下「残存伝票」という。)から把握される昼営業に係る売上金額(以下「昼営業売上金額」という。)を昼営業に係る注文伝票(以下「昼営業伝票」という。)の枚数で除して昼営業に係る注文伝票1枚当たりの単価(以下「昼営業伝票単価」という。)を算出した上、これに本件各年の注文伝票の購入枚数から客の注文等を記載する用途以外に使用した注文伝票の枚数(以下、当該伝票を「目的外使用伝票」といい、目的外使用伝票の枚数を「伝票ロス分」という。)として24枚を控除した枚数を乗じて算出した請求人の売上金額に基づき、本件各年分の事業所得の金額を推計により算出したものである。
    • (ロ) 原処分庁は、本件各課税期間の消費税等に係る課税資産の譲渡等の対価の額を、上記(イ)と同様の推計方法により算出し、平成24年課税期間ないし平成28年課税期間については、各基準期間の課税売上高が5,000万円を超えたため簡易課税による方法(消費税法第37条に規定する方法をいう。以下同じ。)によらず本則課税による方法(消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する方法をいう。以下同じ。)で再計算を行った上、平成30年2月13日付で、別表2の「更正処分等」欄記載のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、上記(イ)及び(ロ)の各更正処分の前4回にわたって請求人の本件各年分の売上金額を請求人に提示した。なお、推計に用いられた方法は、3回目の提示はおしぼりのレンタル本数及び弁当の売上個数を基礎として請求人の売上金額を算出するものであり、4回目の提示はこれに加えて持帰り弁当の個数を基礎としたものであった。
  • ハ 審査請求について
     請求人は、原処分を不服として、平成30年5月9日に審査請求をした。

2 争点

(1) 原処分庁が採用した推計方法に合理性があるか(争点1)。

(2) 原処分庁が採用した推計方法よりも請求人の主張する推計方法による方が実額に近似するか(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(原処分庁が採用した推計方法に合理性があるか。)について

原処分庁 請求人
原処分庁が採用した推計方法は、次のとおり合理性がある。 原処分庁が採用した推計方法は、次のとおり合理性がない。
イ 推計の基礎となる数値の正確性について イ 推計の基礎となる数値の正確性について
(イ) 請求人は、夜営業よりも昼営業の客が多く、夜営業はしなくてもいいと考えている旨申述している上、実際に平成29年11月8日以降の夜営業は、持帰りを除き行っていない。このことに加え、本件調査担当職員が本件店舗の入店人数を確認した結果からすると、本件事業は昼営業が主体であって、夜営業よりも昼営業の来客者数が多いと推認される。他方、残存伝票に占める昼営業伝票の枚数の割合及び平成26年ないし平成28年の年間来客者数に占める昼営業に係る来客者数の割合は、ともに4割程度にとどまっている。そうすると、本件専従者は、主に昼営業に係る注文伝票を申告しないものとして除き、破棄した蓋然性が非常に高い。そして、昼営業伝票単価は、1日営業伝票単価(残存伝票から把握される1日営業に係る売上金額(以下「1日営業売上金額」という。)を残存伝票の枚数で除した注文伝票1枚当たりの単価をいう。以下同じ。)を下回っているから、昼営業伝票を申告しないものとして除けば、1日営業伝票単価が上がることは容易に推認される。このように、原処分庁が採用した推計方法は、過大な売上金額が算出されることがないよう、1日営業伝票単価ではなく昼営業伝票単価を用いている。 (イ) 売上金額の推計に当たっては、請求人の1日営業伝票単価により売上金額を算出すべきであるにもかかわらず、原処分庁は昼営業伝票単価を用いて売上金額を算出している。
 また、請求人が、夜営業よりも昼営業の客が多く、夜営業はしなくてもいいと考えている旨申述した事実はない。〇〇になったため夜営業を休止せざるを得なくなったのである。
(ロ) 本件調査担当職員は、本件店舗において、平成29年9月頃の必要経費に係る関係書類とともに、裏面に仕入先及び仕入先ごとの支払金額が記載された注文伝票2枚を確認した。そして、請求人は、注文伝票につき、「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、4支払明細以外にも目的外使用伝票として使用している旨主張するが、当該主張を裏付ける資料の提示がなかった。そうすると、原処分庁が認定した伝票ロス分(各年24枚)は、本件調査において実際に確認した枚数(月2枚)に基づいているから、妥当である。 (ロ) 請求人は、目的外使用伝票として1食材・包材の発注、2予約、3買物リスト、4支払明細、5個人メモ等に相当な枚数を使用していた上、注文伝票の購入業者から納品されたとする注文伝票の購入枚数自体が適正な数量を示しているか否か疑義があるにもかかわらず、原処分庁は、推計に当たって、上記4支払明細に使用した年間24枚しか購入枚数から控除しておらず、伝票ロス分を過少に見積もっている。このままでは正常性がない数量であるため、過大な売上金額が推計される。
ロ 推計方法の最適性について ロ 推計方法の最適性について
(イ) 請求人の商品(飲食物)の提供方法は、店内飲食、持帰り及び弁当販売の3つの形態があるが、いずれの場合も必ず注文伝票を作成しているから、注文伝票の使用枚数と売上金額には比例関係があると認められる。そして、原処分庁は、請求人から提示のあった資料により、昼営業売上金額及び昼営業伝票の枚数を把握した上で昼営業伝票単価を算出し、これに基づいて請求人の本件各年分の売上金額を推計している。このように、原処分庁が採用した推計方法は、請求人から提示のあった請求人自身の売上げに係る各資料を基にしたものであり、合理性がある。 (イ) 注文伝票の購入枚数を用いて請求人の売上金額を算出する場合、1注文伝票の購入枚数から残存伝票の枚数及び伝票ロス分を控除した枚数に昼営業伝票単価を乗じて算出した金額に、2申告している売上金額を加える方法が最適である。にもかかわらず、原処分庁が採用した推計方法はこれを用いておらず最適性を欠く。
(ロ) 原処分庁が採用した推計方法は合理性があるから、原処分庁は、原処分庁が採用していない推計方法について、その合理性ないしそれを採用しない理由を説明する立場にない。 (ロ) 次の3つの推計方法により最適性を検討すると、まず、1注文伝票の購入枚数を用いて請求人の売上金額を推計する場合、1日営業伝票単価を用いて売上金額を算出すべきであるところ、このようにして算出された請求人の本件各年分の売上金額の合計額は○○○○円となる。他方、2請求人の本件各年の割箸購入本数に客単価(原処分庁が、請求人の本件各年分の店内飲食売上金額と弁当売上金額の合計額を残存伝票から集計した来客者数で除して算出した金額をいう。以下同じ。)を乗じて算出した場合、請求人の本件各年分の売上金額の合計額は○○○○円となり、また、3請求人のおしぼりレンタル本数及び弁当売上個数にそれぞれ客単価を乗じて算出した場合、請求人の本件各年分の売上金額の合計額は○○○○円となる。このように、1注文伝票の購入枚数を用いた推計は、2割箸購入本数による推計又は3おしぼりレンタル本数及び弁当売上個数による推計に比して過大な売上金額が算出されることからすると、注文伝票の購入枚数を用いた推計方法は最適性を欠く。また、上記のとおり3つの方法により最適性を検討すると、注文伝票の購入枚数(年間24枚を除く。以下本項について同じ。)は正常性がない数量であることが明らかとなることから、購入枚数全てが必ず売上金額に比例するということはなく、正常性がない数量に基づく過大な売上金額が推計されている。
ハ 推計方法の客観性について
 原処分庁が採用した推計方法には合理性があるから、他の推計方法を採用しなかった理由を述べる必要はなく、原処分庁が採用した推計方法の合理性を説明すれば足りる。
 また、原処分庁が、原処分の前4回にわたって請求人に対してした売上金額の提示は、本件調査の途中経過においてしたものにすぎず、これらの提示は原処分庁が採用した推計方法の客観性に影響を与えない。
ハ 推計方法の客観性について
  • (イ) 原処分及びその前4回にわたって原処分庁が推計した請求人の本件各年分の売上金額(推計による売上金額と申告売上金額との差額)の合計額は、原処分における金額(○○○○円)が最も高額であり、かつ、最低額(○○○○円:第2回目)と著しい差額(○○○○円:増加率71.52%)があることから、原処分庁が採用した推計方法には、真実の所得金額に近似した数値が算出されるべき客観性がない。
  • (ロ) 原処分庁が採用した推計方法は、原処分の前4回にわたって提示された推計の方法から変更されており、原処分庁は変更した理由の説明及び妥当性の根拠の開示をすべきところ、それをしていない。このことから、原処分庁が採用した推計方法には、真実の所得金額に近似した数値が算出されるべき客観性がない。また、原処分の前4回のうち1回目及び2回目にされた売上金額の提示は、いずれも本件調査担当職員から原処分庁へ最終結論を報告することを前提にされたものであり、単なる調査経過の提示とは異なる。
ニ その他
 請求人は、商品(飲食物)の提供時には必ず注文伝票を作成しているから、注文伝票の使用枚数と売上金額には比例関係が認められる。そして、注文伝票の使用枚数及び注文伝票1枚当たりの売上金額は、本件各年分ごとに客観的な事実に基づき算出されており、調理人の熟練度等に影響を受けないから、原処分庁が採用した推計方法は合理的である。
 他方、請求人においては、平成26年と平成28年の年間の肉の仕入数量に占める各部位の仕入数量の割合が異なること、年間の売上げに占める肉を使用したメニューの売上割合が不明であること及び調理人の熟練度が異なることから、肉の仕入数量の増減と売上金額の増減に、必ずしも比例関係があるとはいえない。
ニ その他
1本件事業における肉の仕入数量は、平成26年が〇〇〇〇kg、平成28年が6,424.95kgであって〇〇〇〇kg減少しているのに対し、原処分庁が推計した請求人の売上金額は、平成26年分が○○○○円、平成28年分が○○○○円と○○○○円増加している。2調理人が平成26年はM、平成28年は請求人であって両者の調理技術に差があること及び上記各年では調理に使用する肉の部位等を変更したことを踏まえた上で、肉のロス率を平成26年は25%、平成28年は10%として、肉の仕入数量を調理後の消費数量に換算した結果(平成26年:〇〇〇〇kg、平成28年:〇〇〇〇kg)からみても、実質的に売上金額に比例する肉の消費数量自体に差異がない。
 そうすると、平成28年分の売上金額が平成26年分のそれを上回ることはないはずであるから、原処分庁が採用した推計方法は合理性を欠く。

(2) 争点2(原処分庁が採用した推計方法よりも請求人の主張する推計方法による方が実額に近似するか。)について

請求人 原処分庁
別表3のとおり、請求人の売上金額を店内飲食分及び店外飲食分に区分し、前者はおしぼりのレンタル本数から調理使用分等店内で飲食する客に提供する以外の用途に使用する本数を控除した本数を、後者は弁当箱の購入個数から弁当を購入する客に提供する以外の用途に使用する個数を控除した個数を算出した上、それぞれに対し、各年分ごとに客単価を乗じた金額を合算して推計すべきである。この推計方法の方が、原処分庁が採用した推計方法よりも真実の所得金額に近似する方法である。 請求人は、平成27年頃から調理使用分のおしぼりが増加した旨主張するが、これを裏付ける客観的な証拠資料はない。また、請求人が調理使用分のおしぼりと主張する本数の積算根拠が明らかでない。このように、請求人の主張には不合理な点が多々見受けられる。このことに加え、現状のおしぼりの使用状況が本件各年と同様であると判断することはできず、店内で飲食をする客に提供するおしぼりの本数について、客観的事実に基づいた合理性のある本数を算出することは不可能である。それゆえ、請求人の主張する推計方法には合理性がない。
 仮に、他により合理的な推計方法があるとしても、原処分庁が採用した推計方法に実額課税の代替手段にふさわしい一応の合理性が認められれば推計課税は適法であり、推計方法の優劣を争う主張自体失当である。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 原処分庁が採用した推計方法について
     原処分庁が採用した推計方法は、上記1の(4)のロの(イ)のとおりであるが、具体的には次のとおりである。
    • (イ) 昼営業伝票単価の算出
       原処分庁は、本件各年において、主に昼営業伝票が破棄されたものとして、本件各年分の昼営業売上金額を残存伝票のうちの昼営業伝票の枚数で除して昼営業伝票単価を算出した。
    • (ロ) 注文伝票の購入枚数
       原処分庁は、N社が発行した請求書に基づき、本件各年において請求人が購入した注文伝票の枚数を把握し、これを推計の基礎に採用したが、期首及び期末の未使用分は考慮していない。
    • (ハ) 伝票ロス分
       本件調査担当職員は、平成29年10月19日、本件調査を行った際、同年9月頃の必要経費に係る関係書類とともに、裏面に仕入先及び仕入先ごとの支払金額が記載された2枚の注文伝票を確認した。原処分庁は、本件各年の伝票ロス分について、1か月当たり2枚を使用したとし、これを12倍した24枚と認定した。
    • (ニ) 売上金額及び事業所得の金額の算出
       原処分庁は、上記(イ)の昼営業伝票単価に、同(ロ)の注文伝票の購入枚数から同(ハ)の伝票ロス分を控除した枚数を乗じて算出した金額を、請求人の本件各年分の本件事業に係る売上金額とし、これに家事消費及び雑収入の各金額を加算した収入金額から必要経費等の金額を控除して事業所得の金額を算出した。事業所得の金額の算出過程は、別表4のとおりである。
  • ロ 本件事業について
    • (イ) 本件店舗への来客者数
      • A 平成29年10月3日における本件店舗への来客者数は、午前11時から午後2時までの間が111名、午後5時から午後8時30分までの間が64名であった。
      • B 残存伝票に基づき算出した、平成26年から平成28年までの年間来客者数、昼営業に係る来客者数、夜営業に係る来客者数及び年間来客者数に占める昼営業に係る来客者数の割合は、別表5のとおりである。
    • (ロ) 仕入れ及び物品の購入の状況
      • A 本件各年における本件事業の調理及び肉の仕入れについて、1平成22年から平成24年末までは従業員であったLが、2平成25年1月から平成27年7月までは〇〇であるMが、3その後は請求人が担当していた。
      • B 請求人は、本件各年において、1肉の仕入れについてはP社及びQ社から、2物品(消耗品等)の購入についてはR社及びS社からそれぞれ購入していた。本件各年における各仕入先等との取引日数は、別表6のとおりである。
      • C P社から発行された肉の仕入れに係る請求書には、「豚下ロース」、「豚ヒレ」等の品名とともに仕入数量が記載されており、一度に仕入れた肉の品名は多いときには7つを超えることがあった。
         また、Q社から発行された肉の仕入れに係る納品伝票にも「国産豚ロース(真空)」等の品名とともに仕入数量が記載されており、一度に仕入れた肉の品名の数は1つないし6つであった。
      • D 請求人は、本件各年において、N社から、注文伝票を別表7のとおり1か月間に1ないし3回購入しており、1回の購入枚数は全て1,000枚であった。
         なお、請求人が本件調査担当職員に対して提示した残存伝票は別表8の2欄のとおりである。
      • E 本件事業に係る平成26年及び平成28年における肉の仕入数量、おしぼりのレンタル本数、弁当箱の購入個数及び割箸の購入本数は、別表9のとおりである。
    • (ハ) 予約を受ける場合の注文伝票への記載及びレジ入力
      • A 店内飲食に係る予約については、あらかじめ注文伝票に来店時間、氏名等を記載した上、飲食の提供後、当該注文伝票に基づいてレジ入力を行っていた。
      • B 弁当販売に係る予約については、あらかじめ注文伝票に来店時間、氏名及びメニューを記載した上、それが現金販売の場合は商品の受渡し時に当該注文伝票を用いてレジ入力を行い、掛売りの場合はレジ入力を行わないものの売掛金の支払を受けた時に売上げを計上していた。
    • (ニ) 本件事業に係る会計帳簿等の状況
      • A 請求人は、本件各年分に係る所得税等及び本件各課税期間に係る消費税等の各確定申告について、本件専従者に一任していた。
      • B 本件専従者は、本件各年において、客からの注文等を記載した注文伝票の一部について、売上げの事実をレジ入力せず、売上げに計上しなかった。なお、本件専従者は、レジ入力しなかった注文伝票を営業時間終了後に破棄していた。
      • C 本件専従者は、営業時間終了後に、レジ入力した注文伝票(残存伝票)に基づく1日分の現金売上げの合計額が印字された精算レシートを打ち出し、当該レシートに基づき、平成22年1月1日から同年12月31日までは売上帳に、平成23年1月1日から平成28年12月31日までは金銭出納帳(以下、当該売上帳及び当該金銭出納帳を併せて「本件売上帳等」という。)に売上金額を記載していた。
      • D 本件専従者は、2、3か月に一度、本件売上帳等 を基に営業日ごとの売上金額をパソコン内の売上管理表に入力した上、当該管理表のデータ及び経費の領収書等を関与税理士に提出し、同税理士に総勘定元帳(以下「本件総勘定元帳」という。)の作成並びに所得税等及び消費税等の確定申告書の作成を依頼していた。
    • (ホ) 注文伝票の状況
      • A 本件各年の残存伝票の枚数は、別表8の2欄のとおりであり、このうち昼営業伝票の枚数は別表10の2欄のとおりである。また、残存伝票のうち昼営業伝票を基に算出した本件各年分の昼営業売上金額は別表10の1欄のとおりである。
      • B 残存伝票のうち、平成28年2月2日ないし同月7日分の使用状況についてみると、別表11のとおり、記載された品名等が横線で抹消され又は塗りつぶされたものがあった。
      • C 目的外使用伝票については、食材納品後や買付け後に破棄されていたため、本件調査において把握された2枚のほか現存するものはない。
      • D 請求人は、本件調査後は、本件事業に係る仕入れや物品購入等に必要なメモについて、注文伝票を使用しないこととし(本件調査後は、注文伝票に連番を付して管理している。)、これに代えて、1大学ノート、2買付けメモ・買掛金管理メモ及び3白紙のメモ用紙を使用することとした。平成30年12月5日現在の状況は、次のとおりである。
        • (A) 大学ノート
           T社からの仕入れについて、玉ねぎ、キャベツ等の品目ごとに、「○」印、「×」印等が1日ごとに記載されている。
           また、上記の右横には、N社、U社及びV社からの仕入れについて、バター、マヨネーズ、焼酎等の品目ごとに、「○」印、「×」印等が1週間ごとに記載されている。
        • (B) 買付けメモ・買掛金管理メモ
           それぞれ、連番を付していない未使用の注文伝票に品目及び支払先を記載したものをコピーし、これをメモとして使用している。具体的には、買付けメモには、カレー粉、ホールスパイス等の品目等がコピーにより印字され、その横に「○」印、「×」印等が縦3列にわたり記載されている。また、買掛金管理メモには、T社、P社、Q社等の仕入先の名称がコピーにより印字され、その横に仕入金額がそれぞれ記載されている。なお、買付けメモには四つ折りの折り目がある。
        • (C) メモ用紙
           縦列に「3月」、「4火」、「5水」等と、横列に「X11月分出金」、「つけもの」、「大根・きゅうり」等と記載されている。

(2) 本件事業及び注文伝票に関する請求人及び本件専従者の答述について

  • イ 請求人は、目的外使用伝票及び肉の仕入れに関し、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
    • (イ) 本件事業では、メモとして使用できる紙を用意していなかったので、注文伝票をメモとして使用していた。
    • (ロ) 毎週水曜日と土曜日にはP社から、毎週月曜日又は火曜日にはQ社から肉を仕入れているが、発注する数量が決まっているわけではない。請求人は、平成27年8月から平成28年末までの間、本件事業における肉の仕入れを担当しており、P社及びQ社から仕入れる肉の部位及び数量を記載するために、注文伝票を1週間に3枚(P社に2枚、Q社に1枚)使用していた。請求人が肉の仕入れを担当していない間も、L及びMに対して同様の方法を指導していた。
    • (ハ) 請求人は、R社に出向いて本件事業に必要な物品を購入する際のメモとして注文伝票を1か月間に1ないし3枚使用していた。
    • (ニ) 請求人は、平成20年頃から平成27年頃までの間、人手不足の時に1週間に1、2回程度本件事業に従事した。また、同時期に、自身で営んでいた不動産貸付業において、入退去の日付、修繕工事の材料のリストアップ、大工の人工賃の支払等の記録に使用するため、注文伝票を1か月間に10枚程度使用していた。
    • (ホ) Mに平成27年7月まで調理及び肉の仕入れを任せていたときは、通常4kgの肉から20人前の食材(料理)が取れるところ、15人前しか取れなかった。請求人が担当することとなった平成27年8月以降は、メニューの値段を変更せずにグラム数を落としたり、ロスを減らしたり、部位を変更したりしたので、肉の仕入金額が減少している。
  • ロ 本件専従者は、レジ入力の状況及び目的外使用伝票に関し、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
    • (イ) 売上げに関し、夜営業に係る分はほとんどレジ入力していたが、昼営業に係る分はレジ入力しないことがあった。
    • (ロ) 肉の仕入れは、平成22年から平成24年末まではL、平成25年1月から平成27年7月まではMが担当していたが、両者ともP社及びQ社から肉を仕入れるに当たり、1週間に3枚の注文伝票を使用していた。
    • (ハ) 本件専従者は、1N社、U社、V社及びT社に対し、本件事業における肉以外の食材と消耗品を発注する担当をしていたため、あらかじめ注文伝票に発注する品目を全て記載しておき、それぞれ必要な数量を書き込んで電話で発注していた。発注に当たって1週間にN社で1枚、U社とV社で1枚、T社で1枚の計3枚の注文伝票を使用していた。また、2S社に出向いて本件事業に必要な物品を購入する際のメモとして1週間に1、2枚、3仕入先等からの請求書に基づく支払金額を管理するため1か月間に2枚、4タルタルソースや弁当用のひじきの毎週の仕込み及び行事の予定を記載するため1週間に2枚の注文伝票を使用していた。
    • (ニ) 客からの注文を受ける際、注文伝票の書き損じや書き直しが1日当たり2、3枚生じていた。

(3) 推計の必要性について

  • イ 所得税法第156条は、所得金額を推計して課税することができる旨規定しており、また、法令上明文の規定はないものの、消費税についても推計による課税が認められると解される。もっとも、課税処分における課税標準の認定は、直接資料に基づく実額計算の方法によるのが原則であることからすると、所得税及び消費税の推計による課税は、1納税義務者が収入及び支出を明らかにし得る帳簿書類を備え付けていない、2帳簿書類の記載が不備、不正確で信用できない、3納税義務者が税務調査に非協力的であるため帳簿書類を検査できないなどの事情により納税義務者の所得等の実額の把握が不可能ないし著しく困難な場合に限られるものと解される。
  • ロ 本件においては、上記(1)のロの(ニ)のBないしDのとおり、本件各年分の本件総勘定元帳及び本件売上帳等に記載されている売上金額は、本件専従者により一部が破棄された注文伝票に係る売上金額が反映されていない過少なものであり、本件総勘定元帳及び本件売上帳等に係る売上金額の記載は不備、不正確で信用できないものであるといえる。また、同Bのとおり、レジ入力しなかった注文伝票は破棄されており、申告に反映されていない売上金額を確認することはできない。そのため、原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額を実額計算の方法で算出することができず、これらを推計の方法により算出する必要性があったものと認められる。

(4) 争点1(原処分庁が採用した推計方法に合理性があるか。)について

  • イ 法令解釈
     推計課税は、納税者が実額を算出するに足りる帳簿書類を保存せず、あるいは帳簿書類を提出せず税務調査に協力しないため、やむを得ず間接資料により所得金額を認定する方法であるから、推計の方法は最もよく実際の所得金額に近似した数値を算出し得る合理的なものでなければならない。そして、推計方法が合理的であるというためには、1推計の基礎事実(数値)が正確に把握されていること(推計基礎の正確性)、2推計方法として当該事案にとって最適な方法が選択されていること(推計方法の最適性)及び3推計方法自体が具体的に真実の所得金額にできるだけ近似した数値が算出され得るような客観的なものであること(推計方法の客観性)の3点が充足されなければならない。もっとも、推計課税は、いわば納税者側の要因によって実額を把握することが不可能ないし著しく困難な場合に行われるものであるから、上記2については、およそ考えられるあらゆる推計方法との比較において、選択された当該推計方法により算出された所得金額が最も実額に近似すること、すなわち絶対的な合理性まで原処分庁に証明させるべきものではなく、一応の合理性を有することをもって足りるというべきである。
  • ロ 検討
    • (イ) 推計基礎の正確性について
      • A 原処分庁が採用した推計方法において、昼営業伝票単価は、上記(1)のロの(ホ)のA(別表10)のとおり、昼営業に係る残存伝票から把握され、また、注文伝票の購入枚数は、同イの(ロ)のとおり、N社が発行した請求書より把握されているところ、これらの資料はいずれも作成者が業務の正常な遂行のために作成したものと考えられ、その記載内容は正確であると認められる。
         そして、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、購入業者から納品されたとする注文伝票の購入枚数自体が適正な数量を示しているか否か疑義がある旨主張するが、全証拠を検討しても、そのような疑義があることをうかがわせる事情はない。
         なお、原処分庁が採用した推計方法においては、本件各年における注文伝票の購入枚数がそのまま本件各年分の推計の基礎数値とされ、本件各年の期首及び期末の未使用の枚数は考慮されていない。この点、上記(1)のロの(ロ)のD(別表7)のとおり請求人が注文伝票を一度に大量に購入した事実はなく、その購入頻度から、使用する注文伝票の在庫が少なくなった都度購入していたものと認められ、本件各年の期首及び期末の注文伝票の未使用の枚数にさほどの変動はなく、本件各年の期首及び期末における未使用の枚数が本件各年中の使用枚数の認定に与える影響は軽微なものといえるから、本件各年の期首及び期末の未使用の枚数を考慮していないことが、推計基礎の正確性を失わせることにはならない。
      • B また、本件店舗の来客者数の構成をみると、上記(1)のロの(イ)のAの事実からすると、平成29年10月3日における本件店舗の来客者数のうち昼営業に係る来客者数の占める割合は63.4%(小数点以下第2位を四捨五入。以下本項の割合について同じ。)となる。他方、残存伝票に基づき、年間来客者数に占める昼営業に係る来客者数の割合を算出すると、別表5のとおり約4割にとどまっているほか、残存伝票の枚数(別表8の2欄の枚数)に占める昼営業伝票の枚数(別表10の2欄の枚数)の割合は、平成22年が41.7%、平成23年が39.5%、平成24年が40.2%、平成25年が43.3%、平成26年が45.8%、平成27年が44.9%、平成28年が43.0%となっている。このように、実際の来客者数に占める昼営業に係る来客者数の割合と、残存伝票から算出した年間来客者数に占める昼営業に係る来客者数の割合とが齟齬している。
         そして、本件専従者は、当審判所に対し、上記(2)のロの(イ)のとおり、夜営業に係る注文伝票はほとんどレジ入力していた反面、昼営業伝票についてはレジ入力しないことがあった旨答述していることからすれば、上記の齟齬の理由は、本件専従者が主に昼営業の売上げを計上しないものとして、昼営業伝票の一部をレジ入力せず破棄した結果によるものと認められ、実際には、本件事業においては昼営業に係る来客者数が夜営業に係る来客者数を上回っていたものと認められる。
         以上のような事実が認められる本件においては、昼営業伝票単価を推計の基礎数値として用いることは、昼営業に係る来客者数が夜営業に係る来客者数を上回っている本件事業の実態を反映するものとして合理的であるといえる。
      • C この点について、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、売上金額の推計に当たっては1日営業伝票単価を用いるべきである旨主張する。しかしながら、本件においては昼営業伝票単価を用いることが合理的であることは上記Bのとおりである。また、1日営業売上金額、残存伝票の枚数及び1日営業伝票単価は別表12のとおりであるところ、上記Bのとおり、破棄された注文伝票が主に昼営業に係るものであり、夜営業に係る残存伝票が昼営業に係る残存伝票よりも多いことからすると、請求人が主張する1日営業伝票単価(同表の3欄)を用いた推計方法は、夜営業に係る来客者数よりも昼営業に係る来客者数の方が多い本件事業の実態を反映しないことになり合理的であるとはいえない。加えて、1日営業伝票単価を用いると昼営業伝票単価を用いるよりも多額な売上金額が算出されるところ、昼営業伝票単価を用いた推計方法は、真実の売上金額よりも過大に算出されないよう確実に認定し得る数値を用いた堅実な手法であるといえ、請求人にとって不利益な算出方法とはいえず、当該算出方法を特段不合理とする理由は認められない。したがって、請求人の主張には理由がない。
         なお、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、原処分庁がその推計に当たって、伝票ロス分を過少に見積もった点に合理性を欠いている旨主張するが、この点については、後記(ホ)において判断する。
    • (ロ) 推計方法の最適性について
      • A 原処分庁が採用した推計方法は、上記(1)のイのとおり、いわゆる本人比率法を用いるものである。個人事業者である納税者については、営業が通常継続的に行われることから、その業種、業態、規模、場所等に大きな変更がない場合には、業界に共通の経済事情の特段の変動が認められない限り、本人比率による推計方法は、一般に個別的類似性の最も高いものとして同業者比率法に比して優れているといえるが、もともと推計の必要性のある納税者の資料に基づいて算出するものであるから、計数の正確性の面で判断を要する場合が多い。よって、本人比率法は、計数の正確性が担保されれば同業者ごとに種々の差異があることを当然の前提とする同業者比率法に比して、より合理的な推計方法であるということができる。
         これを本件についてみると、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、本件事業における飲食物の客への提供方法は、店内飲食、持帰り(店内飲食と同じ飲食物を持ち帰ること)及び弁当販売の3つの形態があり、そのいずれについても必ず注文伝票が作成されていたことから、注文伝票の使用枚数と売上金額には高い相関関係があるものと認められる。
         また、原処分庁は、推計の基礎となる注文伝票の枚数及び昼営業伝票単価について、請求書、残存伝票等の証拠資料を基に正確に数値を算出して、請求人の本件各年分の売上金額を推計している。さらに、推計の対象となる本件各年分において、請求人について、事業内容や事業規模等の大きな変化及び業界に共通の経済事情に特段の変動があったとは認められない。
         したがって、原処分庁が採用した推計方法は、一応の合理性を有するものであるといえる。
      • B 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、注文伝票の購入枚数を用いて請求人の売上金額を算出する場合、1注文伝票の購入枚数から残存伝票の枚数及び伝票ロス分を控除した枚数に昼営業伝票単価を乗じて算出した金額に、2申告売上金額を加える方法が最適である旨主張する。
         しかしながら、原処分庁が採用した推計方法に一応の合理性が認められることは上記Aのとおりである。このことに加え、上記の請求人が主張する推計方法において原処分における基礎数値と同一の数値を用いると、請求人の本件各年分の売上金額はいずれも原処分の売上金額を上回ることとなるが、請求人は、それを真実の売上金額であると自認するものではなく、その一方で、請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、上記の推計方法とは異なる推計方法の方が真実の所得金額に近似すると主張しており、結局のところ、上記推計方法に係る主張は、原処分庁が採用した推計方法を単に批判するにとどまるものであって理由がない。
         また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、注文伝票の購入枚数を用いた推計によると割箸購入本数等を用いた他の推計によるものに比し過大な売上金額が算出されるから、推計方法の最適性を欠く旨主張する。
         しかしながら、売上金額が過大であるかどうかは合理的な推計方法による計算の結果を踏まえてはじめて判断できるのであって、請求人の上記主張は推計方法の最適性の判断を左右するものではない。
    • (ハ) 推計方法の客観性について
      • A 上記(1)のイのとおり、本件において原処分庁が採用した推計方法は、残存伝票から昼営業伝票単価を算出した上で、注文伝票の購入枚数を基礎に所得金額を推計したものであるところ、上記(イ)のAのとおり、推計の基礎となった資料の記載内容は正確であり、原処分庁において、恣意を介在させずに正確に把握された数値を用いれば、真実の所得金額に近似した額が算出され得るような客観的なものである。そして、全証拠を検討しても、何らかの恣意が介在したことをうかがわせる事情は認められない。
      • B 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハの(イ)のとおり、原処分において推計された請求人の売上金額と原処分の前4回にわたって推計された請求人の売上金額との開差が大きいとして、原処分庁が採用した推計方法には客観性がない旨主張する。しかしながら、請求人の主張するような開差があることが直ちに推計方法の客観性を失わせることにはならない。
         また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハの(ロ)のとおり、原処分庁が採用した推計方法は、原処分の前4回にわたって提示された推計の方法から変更されており、原処分庁は変更した理由の説明及び妥当性の根拠の開示をすべきところ、それをしていないから、原処分庁が採用した推計方法には客観性がない旨主張する。確かに、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件調査担当職員が、本件調査の過程において請求人に提示した推計方法と原処分庁が採用した推計方法とは異なるものであった。しかしながら、調査の過程における推計方法が変更された理由の説明及びその妥当性の根拠の開示がされなかったとしても、そのことが、原処分庁が採用した推計方法の客観性を失わせることにはならない(なお、請求人は、本件調査担当職員が本件調査の過程で行った売上金額の提示について、原処分庁へ最終結論を報告することを前提にしたものである旨主張するが、かかる主張は推計方法の客観性の判断を左右するものではない。)。
         そして、原処分庁が採用した推計方法が客観性を有することは上記Aのとおりであるから、上記の請求人の主張にはいずれも理由がない。
    • (ニ) その他の請求人の主張について
       請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のニの1のとおり、平成26年分と平成28年分を比較すると、肉の仕入数量が減少しているのに対し、原処分庁が推計した売上金額が増加しているから、原処分庁が採用した推計方法には合理性がない旨主張する。
       確かに、上記(1)のロの(ロ)のE(別表9)のとおり、本件事業における肉の仕入数量は、平成26年に比して平成28年の方が減少している。しかしながら、上記(1)のロの(ロ)のAのとおり、上記各年では、本件事業における主たる調理人が異なっており、調理人の調理技術の高低は調理に必要な肉の数量に影響を与え得ると考えられるところ、上記(2)のイの(ホ)のとおり、請求人は当審判所に対し、1請求人は4kgの肉から20人前の料理を提供できるのに対し、Mは15人前しか提供することができない旨、2調理人がMから請求人になって以降、客に提供する料理に使用する肉の量を減少させたり、部位を変更したりした旨答述している。このことに加え、調理人の変更や調理技術の高低によって使用数量に影響がないと考えられる注文伝票の購入枚数、おしぼりのレンタル本数、弁当箱の購入個数及び割箸の購入本数については、別表8の1欄及び別表9のとおり、平成26年に比して平成28年の方がいずれも増加していることを併せ考えると、肉の仕入数量が減少したからといって直ちに売上金額も減少すべきものであるということはできない。また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のニの2のとおり、平成26年と平成28年とで肉の消費数量に差異がない旨主張するが、請求人がその主張の前提とする肉のロス率を裏付ける事情は見当たらない。
       これらのことからすると、請求人の主張は、原処分庁が採用した推計の合理性の判断を直ちに左右するものではない。
    • (ホ) 原処分庁が採用した推計方法による伝票ロス分について
       原処分庁は、上記(1)のイの(ハ)のとおり、注文伝票の購入枚数から差し引く伝票ロス分を1年間24枚と認定している。他方、請求人は、注文伝票については、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、目的外使用伝票として相当の枚数を使用しており、原処分庁はこれを過少に見積もっている旨主張するが、上記(1)のロの(ホ)のCのとおり、本件各年における目的外使用伝票として使用されていたものは本件調査において把握された2枚のほか現存しない。この点について、請求人及び本件専従者は上記(2)のとおり当審判所に答述することから、以下検討する。
      • A 食材等の発注について
        • (A) 本件事業では、本件調査後に、注文伝票を目的外使用伝票として使用することをやめ、平成30年12月5日の時点では、食材等の発注に当たり大学ノートをメモとして使用している。このノートには上記(1)のロの(ホ)のDの(A)のとおり、多数の品目ごとに「○」印、「×」印等が記載されていることに照らすと、本件専従者は、食材等の購入の要否を毎日又は毎週確認し、これに基づき食材等を発注していたものと認められる。このような食材等の購入の要否の管理は、本件事業の遂行上必要な作業であり、大学ノートに記載するようになる前においても同様の作業が行われていたものと認められる。また、本件専従者は、上記(2)のロの(ハ)の1のとおり、本件事業における肉以外の食材と消耗品を発注するため注文伝票をメモとして使用(1週間にN社で1枚、U社とV社で1枚、T社で1枚の計3枚)していた旨答述するところ、当該答述は、具体的かつ自然であることから信用することができる。
           そうすると、本件事業における食材等の発注については、本件専従者の答述のとおり、注文伝票がメモとして使用されていたと認められる。
        • (B) 請求人は、上記(2)のイの(ロ)のとおり、平成27年8月から平成28年末までの間、本件事業における肉の仕入れを担当しており、仕入れる肉の部位及び数量を記録するために、注文伝票を1週間に3枚(P社に2枚、Q社に1枚)使用し、請求人が肉の仕入れを担当していない間も、L及びMに対して同様の方法を指導していた旨答述する。また、本件専従者も、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件事業における肉の仕入れは、平成22年から平成24年末まではL、平成25年1月から平成27年7月まではMが担当していたが、両者ともP社及びQ社から肉を仕入れるに当たり、注文伝票を1週間に3枚使用していた旨答述する。
           上記(1)のロの(ロ)のCのとおり、P社及びQ社からの肉の仕入れに係る請求書及び納品伝票には複数の品名の記載があることから、本件事業では、両仕入先に対して1回の仕入れでおおむね複数の品目の部位を発注しており、肉の在庫管理及び発注においてメモが必要であったと認められる。また、請求人が上記(2)のイの(ニ)で答述するとおり、L及びMが調理及び肉の仕入れを担当する間も1週間に1、2回本件事業に関与していたことからすると、両者とも請求人の指導の下、請求人と同様の方法で注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
           そして、1年を52週として換算すると、1年間に肉の仕入れに156枚(P社に104枚、Q社に52枚)を使用していたことになるところ、両仕入先が発行した請求書ないし納品伝票に記載された日数は別表6のとおりであり、請求人の答述する使用枚数は、上記換算結果とおおむね整合する。
           以上のことからすると、請求人及び本件専従者の上記各答述は信用することができ、本件事業の肉の仕入れに関し、上記の換算枚数と同程度の注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
      • B 買付けメモ(買い物リスト)について
        • (A) 本件専従者は、上記(2)のロの(ハ)の2のとおり、S社に出向いて本件事業に必要な物品を購入する際のメモとして注文伝票を使用していた旨答述するところ、平成30年12月5日における買付けメモの使用状況は、上記(1)のロの(ホ)のDの(B)のとおりであり、未使用の注文伝票に品目を記載した上でコピーをしたものに、複数回の買付けに当たって「○」印、「×」印等を付した上、これを折りたたんでS社に持参し、買付けを行う物品のリストとして使用していることが認められる。そして、このようなメモの使用方法に変更する前においても、本件事業において購入物品の管理のためのメモが必要であったものと認められる。
           また、本件専従者は、上記のメモとして注文伝票を1週間に1、2枚使用していた旨答述しており、1年を52週として換算すると、1年間に52ないし104枚使用していたことになるところ、本件総勘定元帳から把握できる本件各年のS社の買付日数は別表6のとおりであり、上記換算結果とおおむね整合する。
           そうすると、本件専従者の上記答述は信用することができ、S社での物品購入に関し、上記の換算枚数と同程度の注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
        • (B) 請求人は、上記(2)のイの(ハ)のとおり、R社に出向いて本件事業に必要な物品を購入する際のメモとして注文伝票を1か月間に1ないし3枚使用していた旨答述する。請求人の答述によれば、目的外使用伝票を1年間に12ないし36枚使用していたことになるところ、本件総勘定元帳から把握されるR社での買付日数は別表6のとおりであり、上記枚数と矛盾しない。そうすると、請求人の上記答述は信用することができ、R社での物品購入に関し、上記の換算枚数と同程度の注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
      • C 買掛金管理メモ(支払明細)について
         本件専従者は、上記(2)のロの(ハ)の3のとおり、仕入先等からの請求書に基づく支払金額を管理するため、注文伝票を1か月間に2枚使用していた旨答述するところ、上記(1)のロの(ホ)のDの(B)のとおり、平成30年12月5日における買掛金管理メモの使用状況は買付けメモと同様であった。また、上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件調査においても、客の注文以外に使用したとみられる仕入先及び仕入先ごとの支払金額が記載された2枚の注文伝票が確認されていることからも、本件専従者が答述した使用枚数を裏付けている。そうすると、本件専従者の上記答述は信用することができ、本件事業に係る買掛金管理に関し、上記の枚数の注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
      • D 個人メモについて
         本件専従者は、上記(2)のロの(ハ)の4のとおり、毎週の仕込み及び行事の予定を記載するため、注文伝票を1週間に2枚使用していた旨答述するところ、上記(1)のロの(ホ)のDの(C)のとおり、平成30年12月5日においても、毎週の仕込み及び行事の予定をメモ用紙に記載しており、同様に、本件各年においても毎週の仕込み及び行事の予定の把握は本件事業の遂行上必要があったものと認められる。また、仕込み及び行事の予定という用途が異なること及び平成30年12月5日におけるメモの記載の程度及び内容に照らすと、1週間に2枚使用したとする答述は自然である。そうすると、本件専従者の上記答述は信用することができ、仕込み及び行事の予定に関し、上記の枚数の注文伝票をメモとして使用していたものと認められる。
      • E その他の使用方法について
         請求人は、上記(2)のイの(ニ)のとおり、自身の不動産貸付業に係るメモとして、注文伝票を1か月間に10枚程度使用していた旨答述する。しかしながら、平成27年7月までにおける請求人の本件事業への関与は週に1、2回程度であり、不動産貸付業に係る記録をあえて本件店舗の注文伝票に記載する必要性は乏しく、しかもその使用枚数は肉の仕入れに係る使用枚数に匹敵するものであり、請求人の上記答述は不自然かつ不合理であり信用できない。
         また、本件専従者は、上記(2)のロの(ニ)のとおり、注文伝票の書き損じ等が1日当たり2、3枚あった旨答述する。しかしながら、残存伝票の記載の状況(上記(1)のロの(ホ)のB)をみると、注文を受けたメニューの記載が横線で抹消され又は塗りつぶされ、また、訂正した内容を同一の残存伝票に記載したものが相当数あり、注文伝票の書き損じ等が生じたとしても、注文伝票の記載を修正することによって対応していたものと認められる。したがって、本件専従者の上記答述は信用できない。
         さらに、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、予約に用いた注文伝票の枚数についても伝票ロス分に加えるべきである旨主張する。しかしながら、上記(1)のロの(ハ)のとおり、予約に用いられた注文伝票はいずれも本件事業における売上げのために用いられているのであるから、予約に用いられた注文伝票の枚数を伝票ロス分に加えるべき根拠はなく、請求人の上記主張には理由がない。
      • F 当審判所の認定
         以上に基づき、伝票ロス分を算出すると、まず、P社、Q社、R社及びS社については、別表6記載の日数をもって本件各年の伝票ロス分と認めることができる。
         次に、これ以外については、請求人及び本件専従者の答述した枚数を基礎として、1N社、U社、V社及びT社について1年間に156枚(3枚×52週)、2仕入先等からの請求書に基づく支払金額を管理するために1年間に24枚(2枚×12か月)、3毎週の仕込み及び行事の予定の記載のために1年間に104枚(2枚×52週)を本件各年の伝票ロス分と認めることができる。
         以上のことから、本件各年の伝票ロス分は、別表6の「日数計」欄記載の日数と同一の枚数に、上記の156枚、24枚及び104枚の合計284枚を加えた枚数と認めるのが相当であり、別表13のとおりとなる。
         したがって、原処分庁が認定した伝票ロス分(1年間24枚)には理由がなく、請求人の主張する伝票ロス分については上記を限度として理由がある。
    • (へ) 小括
       以上のことからすると、原処分庁が採用した推計方法は、上記(1)のイの(ハ)で原処分庁が認定した部分を除き、一応の合理性を認めることができる。

(5) 争点2(原処分庁が採用した推計方法よりも請求人の主張する推計方法による方が実額に近似するか。)について

  • イ 法令解釈
     一般に、原処分庁の主張する推計方法に一応の合理性が認められる場合には、特段の反証がされない限り、その推計方法によって算出される課税標準等の額が真実の課税標準等の額に合致するものと事実上の推定をすることができる。しかし、他に採り得る推計方法があること及び他の推計方法によった場合の方がより真実の課税標準等の額に近似すること、すなわち、他の推計方法の方がより合理的な推計方法であることが立証された場合には、この反証によってその事実上の推定は破られることになる。そして、証拠上、課税標準等を算出するいくつかの推計方法があることが認められる場合には、最も合理的であると認められる推計方法によって算出される課税標準等が、真実の課税標準等に合致するものと推認することになる。
  • ロ 検討
    • (イ) 他の代替的な推計方法の主張の可否について
       原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、原処分庁が採用した推計方法に実額課税の代替手段にふさわしい一応の合理性が認められれば推計課税は適法であり、推計方法の優劣を争う請求人の主張自体失当である旨主張する。
       しかしながら、推計による課税は課税標準等についての事実認定の一方法であって、実額課税と別個の課税処分ではないと解すべきであるから、請求人は、原処分庁が採用した方法以外の推計方法を主張し得るというべきである。
    • (ロ) 請求人の主張する売上金額の具体的な算出方法
       請求人が、原処分庁の推計方法よりも真実の所得金額に近似するとして主張する推計方法は、別表3のとおり、店内売上げ及び弁当売上げを区分した上で、次のとおり、それぞれおしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入個数を基にするものである。
      • A 店内売上げについて、店内で飲食する客に提供するおしぼりの本数に客単価を乗じて店内売上げに係る売上金額を算出する。
         上記の店内で飲食する客に提供するおしぼりの本数は、おしぼりのレンタル本数から、店内で飲食する客に提供する以外の用途に使用する本数として次の(A)及び(B)を控除して算出する。
        • (A) 調理使用分
           おしぼりは、1まな板を固定する下敷用として使用するほか、2肉を粗切りした後調理トレイに重ねる際の調理トレイの底敷用と調理トレイの上に重ねた粗切りの肉の最上部の上被用に使用したり、3肉の水分を取るため、肉と肉の間に敷いて使用した上、4水分を取り除いた肉に小麦粉を付ける際、小麦粉を付けた肉と肉の間に敷いて使用する。
           平成26年以前は、キッチンペーパーとおしぼりを併用していたが、平成27年からおしぼりのみの使用に切り替えた。そのため、1日当たり最高30本(平成28年)を見積もった。
        • (B) その他の使用分
           従業員の清掃や手洗いに1日当たり10本及び主に夜営業時に飲食をしない同伴者に対する使用分として1日当たり10本の合計20本(平成28年)を見積もった。
      • B 弁当売上げについて、弁当を購入する客に提供する弁当箱の個数に客単価を乗じて弁当販売に係る売上金額を算出する。
         上記の弁当を購入する客に提供する弁当箱の個数は、弁当箱の購入個数から、弁当を購入する客に提供する以外の用途に使用する個数として次の(A)及び(B)を控除して算出する。
        • (A) 持帰り使用分
           店内飲食の客が食べ残しを自宅に持ち帰る容器として弁当箱を使用している。1か月当たり最高25個(平成28年)を見積もった。
        • (B) 賄い使用分
           本件各年について、従業員の賄い料理を持ち帰るための容器として営業日1日当たり1個を見積もった。
      • C 上記Aの店内売上げ及び上記Bの弁当売上げの金額を合計したものを請求人の本件事業に係る本件各年分の売上金額とする。
    • (ハ) 請求人の主張する推計方法の合理性について
       請求人は、上記(ロ)の推計方法による方が、原処分庁が採用した推計方法よりも真実の所得金額に近似する旨主張する。
       請求人が推計に当たって使用している客単価は、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、請求人の本件各年分の店内飲食売上金額と弁当売上金額の合計額を残存伝票から集計した来客者数で除して算出した金額であるところ、上記(4)のロの(イ)のBのとおり、破棄された注文伝票が主に昼営業に係るものであり、夜営業に係る残存伝票が昼営業に係る残存伝票よりも多いことからすると、請求人が主張する推計方法は、夜営業に係る来客者数よりも昼営業に係る来客者数の方が多い本件事業の実態を反映していないものとなる。
       また、請求人が推計の基礎とするおしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入個数について、客に提供する以外の用途に使用する数量を認定するに足る具体的な証拠はなく、見積りにより算出していることに加え、おしぼりの調理使用分について平成26年以前はキッチンペーパーと併用し、平成27年以降はおしぼりのみの使用に切り替えたことを自認しており、おしぼりの使用方法が変更されていることからすると、数値の正確性・連続性に欠けるおしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入個数を推計の基礎とすることはできない。
       以上のことからすると、原処分庁が採用した推計方法よりも請求人の主張する推計方法の方が合理的であるとはいえず、請求人の主張する推計方法の方が請求人の本件各年分の真実の所得金額に近似するとの請求人の主張には理由がない。

(6) 原処分の適法性について

  • イ 更正決定等の期間制限について
     国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項第1号は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している(当該規定は、平成23年法律第114号による改正前は通則法第70条第5項第1号に、平成27年法律第9号による改正前は通則法第70条第4項に規定されていた。)ところ、上記(1)のロの(ニ)のとおり、請求人は、本件専従者に申告を一任し、本件専従者は注文伝票の一部をレジ入力せず、営業時間外に当該注文伝票を破棄したところで、本件売上帳等を作成し、確定申告を行っており、このことは、偽りその他不正の行為により税額を免れたものと認めることができる。
     したがって、本件においては、本件所得税等各更正処分、本件所得税等各賦課決定処分、本件消費税等各更正処分及び本件消費税等各賦課決定処分は法定申告期限から7年を経過する日まですることができる。
  • ロ 本件所得税等各更正処分について
    • (イ) 上記(1)ないし(5)及び上記イで認定したことを前提とすると、請求人の本件各年分の売上金額は、別表14の「平成22年分」欄ないし「平成28年分」欄の各5欄のとおりとなる。
       ところで、請求人の所得税等については次の事実が認められることから、それぞれの年分の総所得金額に加算し、又は必要経費に算入すべきである。
      • A 平成24年分の所得税について、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、平成24年7月20日に損害保険会社から受け取った一時金○○○○円を所得の内訳書に記載するも課税標準に算入していなかったことから、一時所得の金額○○○○円(上記一時金から特別控除50万円を控除した後の金額)の2分の1の金額○○○○円を総所得金額に加算する。
      • B 平成28年分の所得税等について、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、平成28年4月25日に納付した消費税等のうち○○○○円を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入していなかったことから、これを必要経費に算入する。
      • C 平成23年分の所得税について、租税特別措置法(平成24年法律第16号による改正前のもの)第28条の2《中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例》第1項に基づき、別表15−1の減価償却資産の取得価額に相当する金額として〇〇〇〇円を同年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入していたところ、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、平成22年分以後の所得税についてされた青色申告の承認取消処分に伴い、請求人は同項を適用することはできず、当該減価償却資産に係る償却費は、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項に基づき計算した金額を必要経費に算入することになる。
         したがって、平成23年分については、別表15−2の金額を超える金額〇〇〇〇円を必要経費から減算し、平成24年分ないし平成28年分の各年分については、同表の金額を必要経費に算入する。
    • (ロ) 以上に基づき、請求人の本件各年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、別表16の「審判所認定額」欄の「所得税(等)の納付すべき税額」欄のとおりとなり、本件所得税等各更正処分における金額をいずれも下回る。そして、本件所得税等各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、本件所得税等各更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 本件所得税等各賦課決定処分について
    • (イ) 過少申告加算税の各賦課決定処分について
       本件所得税等各更正処分は、上記ロのとおりその一部を取り消されるべきであるところ、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、別紙1ないし別紙7の付表の「裁決後の額 B」の1欄(平成23年分は別紙2の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」の39欄)記載の税額となる。そして、本件所得税等各更正処分のその他の部分について納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号(平成22年分ないし平成27年分については平成28年法律第15号による改正前の同条第4項)に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
       以上に基づき、本件各年分の所得税等の過少申告加算税の額を計算すると、平成22年分ないし平成24年分はいずれも原処分における過少申告加算税の額と同額であるか、又はこれを上回り、平成25年分ないし平成28年分については過少申告加算税の額が別紙4ないし別紙7の付表の「裁決後の額 B」における5欄記載のとおりとなり、いずれも原処分における過少申告加算税の額を下回る。
       したがって、平成22年分ないし平成24年分の所得税の過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法であるが、平成25年分ないし平成28年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙4ないし別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 重加算税の各賦課決定処分について
       上記ロのとおり、本件所得税等各更正処分の一部が取り消されることに伴い、重加算税の計算の基礎となる税額は、別紙1ないし別紙3の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」における42欄及び別紙4ないし別紙7の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」における45欄記載の各税額のとおりとなる。そして、上記(1)のロの(ニ)のとおり、請求人は本件専従者に申告を一任し、本件専従者は注文伝票の一部をレジ入力せず、営業時間外に当該注文伝票を破棄したところで、本件売上帳等を作成し、それに基づいて確定申告しており、これらの事実は、通則法第68条《重加算税》第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当するといえ、重加算税の賦課要件を満たしている。
       その結果、本件各年分の所得税等の重加算税の額は、別紙1ないし別紙3の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」における44欄及び別紙4ないし別紙7の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」における47欄記載の各税額のとおりとなり、これらはいずれも原処分における重加算税の額を下回る。
       したがって、本件各年分の所得税等の重加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙7の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ニ 本件消費税等各更正処分について
     上記(1)ないし(5)及び上記イで認定したことを前提として本件各課税期間の課税標準額を計算すると、それぞれ別表17の「平成22年課税期間」ないし「平成28年課税期間」の各欄における「審判所認定額」欄の「消費税」欄の「課税標準額」欄のとおりとなる。これらに基づき、請求人の本件各課税期間の消費税等の額を計算すると(なお、原処分庁は、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、平成24年課税期間における請求人の消費税額を本則課税による方法で計算しているが、同課税期間の基準期間における課税売上高は5,000万円以下であるから簡易課税による方法で計算すべきである。)、別表17の「審判所認定額」欄の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄のとおりとなり、これらはいずれも、原処分における消費税等の額を下回る。
     そして、本件消費税等各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件消費税等各更正処分は、いずれもそれらの一部を別紙8ないし別紙14の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ホ 本件消費税等各賦課決定処分について
    • (イ) 過少申告加算税の各賦課決定処分について
       平成24年課税期間の消費税等の額は、上記ニのとおり簡易課税による方法で計算すべきであり、この結果、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は〇〇〇〇円となる。したがって、平成24年課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
       他方、平成25年課税期間、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分は、上記ニのとおり取り消すべき部分以外の本件消費税等各更正処分を基礎とするものである。そして、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号(平成22年課税期間ないし平成27年課税期間については平成28年法律第15号による改正前の同条第4項)に規定する「正当な理由」があるとは認められない。したがって、平成25年課税期間、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
    • (ロ) 重加算税の各賦課決定処分について
       上記ニのとおり、本件消費税等各更正処分の一部が取り消されることに伴い、本件各課税期間の消費税等の重加算税の計算の基礎となる税額は、別紙8ないし別紙14の「3 課税標準額及び税額等の計算」の「加算税の額の計算」の表の「重加算税」の「裁決後の額 B」の1欄記載の各税額のとおりとなる。そして、上記(1)のロの(ニ)のとおり、請求人は本件専従者に申告を一任し、本件専従者は注文伝票の一部をレジ入力せず、営業時間外に当該注文伝票を破棄したところで、本件売上帳等を作成し、それに基づいて確定申告しており、これらの事実は、通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装に該当するといえ、重加算税の賦課要件を満たしている。
       その結果、本件各課税期間の消費税等の重加算税の額は、別紙8ないし別紙14の「3 課税標準額及び税額等の計算」の「加算税の額の計算」の表の「重加算税」の「裁決後の額 B」の3欄記載の各税額のとおりとなり、これらはいずれも、原処分における重加算税の額を下回る。
       したがって、本件各課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙8ないし別紙14の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る