(令和元年5月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の従業員であった者が、請求人の仕入れた商品をインターネットオークションで販売して得た収益について、原処分庁が、当該収益は請求人に帰属するものであり、請求人は当該収益を帳簿書類に記載せず隠蔽していたなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分、法人税等及び消費税等の更正処分並びに重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該収益は請求人には帰属しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 国税通則法関係
    • (イ) 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項(平成29年1月1日前に法定申告期限の到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
    • (ロ) 通則法第68条《重加算税》第1項(平成29年1月1日前に法定申告期限の到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)及び国税通則法施行令第28条《重加算税を課さない部分の税額の計算》第1項は、通則法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実のみに基づいて更正があったものとした場合におけるその更正に基づき納付すべき税額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
    • (ハ) 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項(平成23年12月2日前に法定申告期限が到来した国税に係る更正については、平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から、課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定は、その納税義務の成立の日から、それぞれ5年(平成23年12月2日前に法定申告期限が到来した法人税以外の国税に係る更正については、3年)を経過した日以後においてはすることができない旨規定している。
       また、通則法第70条第4項第1号は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての更正決定等は、第1項の規定にかかわらず、同項に規定する期限又は日から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
  • ロ 法人税関係
    • (イ) 法人税法第11条《実質所得者課税の原則》は、事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、同法の規定を適用する旨規定している。
    • (ロ) 法人税法第22条(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とする旨、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項各号に掲げる額とする旨規定し、同項第3号で、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものを規定している。
       また、同条第4項は、同条第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び同条第3項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
    • (ハ) 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項本文及び同項第3号は、青色申告の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
    • (ニ) 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達)2−1−43《損害賠償金等の帰属の時期》は、他の者から支払を受ける損害賠償金の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める旨定めている。
  • ハ 消費税関係
    • (イ) 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
    • (ロ) 消費税法第4条《課税の対象》第1項(平成27年10月1日前に行われた資産の譲渡等については、平成27年法律第9号による改正前のもの。)は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨規定している。
    • (ハ) 消費税法第13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》第1項は、法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとする旨規定している。
    • (ニ) 消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25ほか国税庁長官通達)5−2−5《損害賠償金》は、損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、損害を受けた棚卸資産等が加害者に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、昭和47年3月○日に設立された農業機械機具の販売等を目的とする株式会社であり、その事業年度は、毎年2月1日から翌年1月31日までの期間である(以下、請求人の事業年度は、その末日の属する月により、「平成23年1月期」などという。同様に、復興特別法人税及び地方法人税の課税事業年度を「平成26年1月課税事業年度」など、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の課税期間を「平成23年1月課税期間」などという。)。
  • ロ 請求人は、原処分庁から、昭和48年1月期以降の事業年度につき、法人税の青色申告の承認を受けた。
  • ハ 請求人の、平成23年1月期ないし平成29年1月期(以下「本件各事業年度」という。)における資本金の額は、27,500,000円であった。
  • ニ 請求人の元従業員による行為
    • (イ) G(以下「本件元従業員」という。)は、平成4年に請求人に採用され、本件各事業年度を通じ、商品の仕入れ、在庫の管理及び商品の発送等の事務を担当していた者である。
    • (ロ) 本件元従業員は、本件各事業年度において、H社の運営するインターネットオークションサービスである「J」に、本件元従業員の個人の3つのアカウント(以下「本件各アカウント」という。)を用いて、請求人の仕入れた噴霧器、散布機、高圧洗浄機、チェーンソー、草刈機、発電機、インパクトドライバー、ゴムロール、除草剤、充電器、自動車のレーダー探知機及びドライブレコーダー(以下「本件各商品」という。)を出品して販売する取引を反復継続して行った(以下、この一連の取引を「本件J取引」という。)。
       なお、本件元従業員は、本件J取引と並行して、Jに、本件各アカウントを用いて、本件各商品以外の請求人とは無関係の商品を出品して販売する取引も反復継続して行った(以下、この一連の取引を「本件元従業員個人取引」という。)。
    • (ハ) 本件元従業員は、本件J取引の落札代金を、本件元従業員が管理する本件元従業員名義の4つの銀行口座(以下「本件各口座」という。)で受領した。
    • (ニ) 請求人は、平成29年9月15日、本件元従業員が、請求人が仕入れた商品を請求人から窃取又は横領(以下、本件の判断において特に区別を要しないため、単に「窃取」ということがある。)して本件J取引をしたとして、本件元従業員を懲戒解雇した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 確定申告等
    • (イ) 法人税
       請求人は、本件各事業年度に係る法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに、それぞれ申告した。
       本件各事業年度の確定申告において、本件J取引に係る事実は課税標準等及び税額等の計算の基礎とされていなかった。
       ただし、請求人は、棚卸資産の払出数量の算定において、棚卸減耗損の計算ができない会計処理を行っていたため、本件J取引に係る請求人の仕入れた商品の取得価額は、本件各事業年度の所得の金額の計算上、売上原価の額として、損金の額に算入されていた。
       また、本件各事業年度の確定申告においては、平成23年1月期、平成24年1月期及び平成29年1月期につき、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第67条の5《中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例》(平成28年4月1日前に取得した少額減価償却資産については、平成28年法律第15号による改正前のもの。平成28年4月1日以後に取得した少額減価償却資産については、平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)の規定、平成28年1月期につき、措置法第42条の6《中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)の規定、平成28年1月期及び平成29年1月期につき、措置法第42条の12の4《雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除》(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)の規定(以下、これらを併せて「本件各措置法規定」という。)をそれぞれ適用して、税額が計算されていた。
       当該適用した本件各措置法規定の適用要件を充足していることについては、請求人が、下記ハの(イ)の青色申告の承認の取消処分により「青色申告書を提出する」者に該当しないこととなったか否かを除き、争いはない。
    • (ロ) 復興特別法人税
       請求人は、平成26年1月課税事業年度及び平成27年1月課税事業年度に係る復興特別法人税について、上記(イ)の確定申告書に記載された法人税額に基づき、青色の申告書に、別表2の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
    • (ハ) 地方法人税
       請求人は、平成28年1月課税事業年度及び平成29年1月課税事業年度に係る地方法人税について、上記(イ)の確定申告書に記載された法人税額に基づき、青色の確定申告書に、別表3の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
    • (ニ) 消費税等
       請求人は、平成23年1月課税期間ないし平成29年1月課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に、別表4の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
       本件各課税期間の確定申告においても、本件J取引に係る事実は、課税標準等及び税額等の計算の基礎とされていなかった。
  • ロ 修正申告等(争点外)
     請求人は、平成26年1月期の法人税、平成26年1月課税事業年度の復興特別法人税及び平成26年1月課税期間の消費税等について、それぞれ別表1、別表2及び別表4の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を、平成27年4月30日に提出した(以下、当該修正申告書による修正申告を「本件各修正申告」という。)。これに対し原処分庁は、平成27年5月26日付で、別表1、別表2及び別表4の「賦課決定処分」欄のとおり、本件各修正申告に基づき納付すべき税額を基礎とする重加算税の各賦課決定処分をした。本件各修正申告及び本件各修正申告に係る重加算税の各賦課決定処分は、本件J取引とは無関係の事実に基づくものであり、本件においては、その適法性等について争いがない。
  • ハ 原処分
    • (イ) 法人税の青色申告の承認の取消処分
       原処分庁は、請求人が、本件J取引につき、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録していたものと認められるとして、平成30年2月28日付で、平成23年1月期以後の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をした。
    • (ロ) 法人税等の更正処分等
       原処分庁は、本件各事業年度の法人税、平成26年1月課税事業年度及び平成27年1月課税事業年度の復興特別法人税並びに平成28年1月課税事業年度及び平成29年1月課税事業年度の地方法人税(以下、法人税、復興特別法人税及び地方法人税を併せて「法人税等」という。)について、1本件J取引に係る収益の額として別表5の「差引金額」欄の金額を本件各事業年度の所得の金額に加算し、2本件各措置法規定をいずれも適用せず、平成30年2月28日付で、別表1ないし別表3の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件法人税等各更正処分」という。)をした。
       そして、原処分庁は、請求人が上記1に係る事実を隠蔽又は仮装していたとして、平成30年2月28日付で、別表1ないし別表3の「更正処分等」欄のとおり、本件法人税等各更正処分に基づき納付すべき税額から上記2の事由のみによる更正があったとした場合におけるその更正により納付すべき税額を控除した税額を基礎とする重加算税及び上記2の事由のみによる更正があったとした場合におけるその更正により納付すべき税額を基礎とする過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税等各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ハ) 消費税等の更正処分等
       原処分庁は、本件各課税期間の消費税等について、本件J取引に係る収益の額として別表5の「差引金額」欄の金額(税抜金額)を課税標準額に加算して税額を計算し、平成30年2月28日付で、別表4の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)をするとともに、請求人が本件J取引に係る事実を隠蔽又は仮装していたとして、同日付で、同欄のとおり、本件消費税等各更正処分に基づき納付すべき税額を基礎とする重加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ニ) 通則法第70条第4項第1号の規定の対象とされた処分について
       上記(ロ)及び(ハ)の各処分のうち、平成23年1月期及び平成24年1月期(以下「本件前期各事業年度」といい、平成25年1月期ないし平成29年1月期を「本件後期各事業年度」という。)の法人税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成23年1月課税期間及び平成24年1月課税期間(以下「本件前期各課税期間」といい、平成25年1月課税期間ないし平成29年1月課税期間を「本件後期各課税期間」という。)の消費税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分は、通則法第70条第4項第1号の偽りその他不正の行為により税額を免れた国税についての更正決定等としてされたものである。
  • ニ 審査請求
     請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年5月22日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件J取引による落札代金は請求人に帰属するか否か(争点1)。

(2) 請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額はいくらか(争点2)。

(3) 請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額がある場合に、当該金額につき、本件各事業年度の損金の額に算入すべき貸倒損失があるか否か(争点3)。

(4) 本件J取引による落札代金が請求人に帰属するとは認められない場合に、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、消費税の課税の対象となるか否か(争点4)。

(5) 本件J取引をしたことを本件元従業員が隠匿していた行為は、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものと評価できるか否か(争点5)。

(6) 請求人は本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものと認められるか否か(争点6)。

(7) 請求人には、法人税の青色申告の承認の取消事由があると認められるか否か(争点7)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件J取引による落札代金は請求人に帰属するか否か。)について

原処分庁 請求人
本件J取引は、本件元従業員が行ったものであるが、次の事情によれば、請求人の行為と同視することができる。
 したがって、本件J取引による落札代金は、請求人に帰属する。
本件J取引は、次のとおり、本件元従業員が請求人から商品を窃取して行ったものであり、窃取以降の行為は、請求人の行為と同視することはできない。
 したがって、本件J取引による落札代金は、請求人に帰属しない。
イ 本件元従業員の地位
 本件元従業員は、請求人から、平成23年4月以降は「管理課長」、平成28年2月以降は「管理部長」の肩書を与えられていたところ、本件各事業年度を通じ、仕入れに係る会計ソフトへの入力作業は本件元従業員に任されるなど、請求人の経理担当者として、職制上重要な地位にあった。
イ 本件元従業員の地位
 請求人が本件元従業員に対して与えた職務範囲は、商品の発注及び在庫管理並びに本社店舗における来訪者対応業務であった。本件元従業員に対しては、来訪者対応業務の一環として、仕入値10万円以下の小物商品の仕入れ及び来訪者に対する販売の権限は与えていたが、それ以外の仕入れは、代表者又は販売部門からの指示等に基づく必要があった。
 このように、本件元従業員は、請求人において重要な地位にあったとはいえない。
ロ 請求人の事業内容と本件J取引の態様との関係等
 請求人は、農業機械機具の販売を業とするところ、本件J取引で販売された商品は、いずれも請求人が仕入れた商品であり、当該商品の送料の大部分も請求人が負担した。
 なお、本件各商品のうち自動車のレーダー探知機は請求人がもともと取り扱っていなかった商品であり、請求人は、本件J取引のために仕入れたといえる。
ロ 請求人の事業内容と本件J取引の態様との関係等
 請求人は、農業機械機具の販売を業とするところ、営業担当者が得意先を訪問して販売する方法を採用しており、オークションその他インターネットを通じた販売方法を採用したことはない。
 インターネットオークションによる取引は、資格審査等なく簡単に出品することが可能で、商品の横流しなどの不正取引にも悪用され得るものであり、本件J取引はその一例である。
 請求人が、オークションの主宰者や落札者に対し、本件J取引の主体が請求人であるという認識を与えるような行為をしたことはなく、落札者において、取引の相手方が請求人であると認識する機会はなかった。
 請求人も、本件J取引の落札者が誰であるかを全く把握することができず、本件J取引の落札代金が入金された本件各口座も、把握していない。
 なお、自動車のレーダー探知機は、請求人がもともと取り扱い、店頭展示もしていた商品であり、請求人が本件J取引のために仕入れをしたことはない。
ハ 請求人の内部管理体制
 請求人の商品の仕入れに係る請求書には、請求人がもともと取り扱っていない商品である自動車のレーダー探知機に係るものも含まれるにもかかわらず、請求人代表者がその内容を確認して確認印を押しており、代表者による確認は、形式的なものにとどまっていた。
 また、請求人においては、請求書と在庫状況とを照合しておらず、在庫管理体制にも不備があった。
 このように、請求人の内部管理体制の不備により、本件J取引が誘発されたものである。
ハ 請求人の内部管理体制
 自動車のレーダー探知機も請求人がもともと取り扱っている商品であり、請求人代表者としては、請求書を見ただけでは本件元従業員の窃取行為を発見することはできなかった。
 請求人代表者は、請求書の内容の確認等をしていたのであり、本件元従業員の行為を見過ごしたのは、代表者が全てに目を行き届かせることが不可能な企業規模に加え、本件J取引を本件元従業員が代表者に知られないようにひそかに行ったものであることによる。
 したがって、請求人の内部管理体制に不備があったとはいえないが、仮に、請求人の内部管理体制に不備があったとしても、それは本件元従業員の窃取行為を誘発したにすぎず、本件J取引までも請求人の行為と同視できる事情には当たらない。

(2) 争点2(請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額はいくらか。)について

原処分庁 請求人
イ 請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額 イ 請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額
(イ) 主位的主張
 上記(1)の原処分庁の主張のとおり、本件J取引による落札代金は請求人に帰属し、それが本件元従業員によって横領されたと認められるところ、その額は、本件各口座に振込入金されたJに係る入金額(別表5の「本件各口座の入金額」欄の金額)から、本件元従業員個人取引に係る落札代金(別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の金額)を控除した金額(別表5の「差引金額」欄の金額)となる。
(イ) 原処分庁の主位的主張について
 上記(1)の請求人の主張のとおり、本件J取引による落札代金は請求人に帰属せず、本件各口座及び落札額については、請求人において把握していない。
(ロ) 予備的主張
 仮に、本件J取引による落札代金が請求人に帰属しないとすると、本件元従業員は、請求人に送料を負担させて請求人から商品を窃取したことになるが、これによる請求人の損害額は、当該窃取された商品の請求人における販売額と送料の合計額となる。
 本件元従業員は、本件J取引において、請求人が仕入れた商品を原価割れで販売していた。
 したがって、上記合計額は、別表5の「差引金額」欄の金額を下回らない。
(ロ) 原処分庁の予備的主張について
 本件元従業員が請求人から商品を窃取したことによる請求人の損害額は、当該窃取された商品の仕入額と送料の合計額となる。
 その額は、計算に時間を要しており、本件各事業年度の終了時に確定できる状況になかった。
 原処分庁の主張は、本件元従業員が商品を原価割れで販売したことを前提とするものであるが、本件元従業員が全ての商品を原価割れで販売したか否かは明らかでなく、原処分庁の主張する額は、過大である疑いがある。
ロ 損害賠償請求権の額の益金算入時期 ロ 損害賠償請求権の額の益金算入時期
(イ) 不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生及び確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であるが、本件各事業年度の当時における客観的状況に照らし、通常人を基準にして、損害賠償請求権の存在及び内容等を把握し得ず、権利行使を期待し得ない場合には、本件各事業年度の益金に計上しない取扱いも許される。 (イ) 左記の原処分庁の主張する考え方は、一般論としては争わない。
(ロ) 上記(1)の原処分庁の主張のハのとおり、請求人の内部管理体制には不備があり、請求人が合理的な内部管理体制を整えていれば、上記イの損害賠償請求権の発生は容易に発覚したものである。
 ただし、本件元従業員による個々の横領又は窃取行為のあった時点を具体的に特定するのは困難であるから、本件J取引による落札代金が本件各口座に入金された時点をもって、通常人を基準として権利行使を期待できるようになった時点であるというべきである。
 したがって、本件各事業年度の益金の額に算入すべき請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件J取引による落札代金が本件各口座に入金された時点を基準として各事業年度別に算定した、別表5の事業年度ごとの「差引金額」欄の金額となる。
(ロ) 上記(1)の請求人の主張のハのとおり、請求人の内部管理体制に不備はなく、本件元従業員の窃取行為を発見することは非常に困難であった。
 さらに、上記イの(ロ)のとおり、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件各事業年度の終了時に確定できる状況になかった。
 したがって、本件各事業年度の当時において、通常人を基準として、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権につき、その存在及び内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況があったといえ、本件各事業年度の益金の額に算入すべき請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額はない。
(ハ) 法人税基本通達2−1−43にいう「他の者」とは、法人の役員又は使用人以外の者をいい、本件元従業員は「他の者」に該当しない。
 したがって、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権について、同通達の適用はない。
(ハ) 法人税基本通達2−1−43は、「他の者」から支払を受ける損害賠償金を適用対象としているが、「法人の役員又は従業員以外の者」と明示していないことからすると、法人の役員又は従業員から支払を受ける損害賠償金を一律に同通達の適用対象外と解するべきではなく、本件元従業員は、窃取行為により請求人に損害を加えた者であるから「他の者」に該当すると解するべきである。
 そして、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求は本件各事業年度の当時において未実施であったから、法人税基本通達の定めからしても、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件各事業年度の益金の額に算入されない。

(3) 争点3(請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額がある場合に、当該金額につき、本件各事業年度の損金の額に算入すべき貸倒損失があるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件元従業員は、資産に乏しく、○○を負っており余裕資金がなく、支払能力は皆無であったから、本件各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、その全額が回収不能であることが客観的に明らかであった。
 したがって、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額を本件各事業年度の益金の額に算入すべきであるとしても、当該金額は、貸倒損失として、同時に、損金の額に算入すべきである。
請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額につき、貸倒損失を計上すべき理由はない。

(4) 争点4(本件J取引による落札代金が請求人に帰属するとは認められない場合に、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、消費税の課税の対象となるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件J取引による落札代金が請求人に帰属しないとしても、商品の窃取に基づく請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、その実質は、請求人が行った売買取引の対価と同等の性格を有すると認められるから、消費税法基本通達5−2−5に定めるとおり課税資産の譲渡等の対価に該当し、消費税の課税の対象となる。 本件J取引による落札代金が請求人に帰属するとは認められず、商品の窃取以降の行為は請求人が行ったものではない以上、本件J取引に係る請求人による「資産の譲渡等」がない。損害賠償請求権は、消費税の課税の対象ではない。

(5) 争点5(本件J取引をしたことを本件元従業員が隠匿していた行為は、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものと評価できるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 本件元従業員が本件J取引をしたことを隠匿していたことにより、本件元従業員に対する損害賠償請求権の発生原因事実が隠蔽されていた。 イ 本件元従業員が本件J取引を隠匿していたことは、専ら個人的な利益を追求した行為であり、これをもって、請求人の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものとは認められない。
ロ 上記イの本件元従業員による隠蔽は、次の事情によれば、請求人による隠蔽と同視できる。 ロ 次の事情によれば、本件元従業員による隠蔽をもって、請求人による隠蔽と同視することはできない。
(イ) 上記(1)の原処分庁の主張のイのとおり、本件元従業員は、請求人の経理担当者として重要な地位にあって、請求人の適正な申告行為に影響を及ぼす立場にあった。 (イ) 請求人は、本件元従業員に対し、経理担当責任者としての地位と権限を与えておらず、上記(1)の請求人の主張のイのとおり、本件元従業員は、請求人において重要な地位にあったとはいえない。
(ロ) 上記(1)の原処分庁の主張のハのとおり、請求人の内部管理体制には不備があり、本件元従業員による不正行為防止のために必要な注意を払っていたとはいえない。 (ロ) 上記(1)の請求人の主張のハのとおり、請求人の内部管理体制に不備はなかった。
(ハ) 本件元従業員による隠蔽に基づいて、請求人の過少申告がされたのであるから、本件元従業員が自らのために隠蔽をしたことは、請求人の隠蔽と同視する妨げにならない。 (ハ) 本件元従業員による隠蔽は、自らの不正行為を請求人に知られないようにするためにしたものであり、本件元従業員の個人的な欲望に基づく行為であって、請求人のためにしたものでないことは明らかである。
ハ したがって、請求人は、本件各事業年度に係る法人税等及び本件各課税期間に係る消費税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものと認められる。 ハ したがって、請求人は、本件各事業年度に係る法人税等及び本件各課税期間に係る消費税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものではない。

(6) 争点6(請求人は本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものと認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(5)の原処分庁の主張のとおり、請求人は、本件前期各事業年度に係る法人税及び本件前期各課税期間に係る消費税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したと認められるところ、当該隠蔽は、「偽りその他不正の行為」に該当するから、請求人は、本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものと認められる。 上記(5)の請求人の主張のとおり、請求人による隠蔽がないのであるから、「偽りその他不正の行為」もないため、本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものではない。

(7) 争点7(請求人には、法人税の青色申告の承認の取消事由があると認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(5)の原処分庁の主張する隠蔽により、本件J取引に係る損害賠償請求権に係る収益を帳簿に記載していなかったのであるから、平成23年1月期につき、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由がある。 上記(5)の請求人の主張のとおり、請求人による隠蔽がないのであるから、請求人には、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由もない。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

原処分関係資料、請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。なお、以下の事実は、特に断らない限り、本件各事業年度、すなわち平成22年2月から平成29年1月までの当時のものである。

  • イ 請求人の事業内容
    • (イ) 請求人は、農業機械機具の販売を事業としており、主な販売方法は、外回りの営業担当者が農業を営む顧客を訪問し、商談を成立させるというものであった。
    • (ロ) 請求人は、請求人名義で、商品をインターネットオークションに出品して販売したり、その他インターネットを通じて商品を販売したことがなかった。
  • ロ 本件元従業員の地位及び権限等
    • (イ) 上記1の(3)のニの(イ)のとおり、本件元従業員は、平成4年に請求人に採用され、以降、平成9年4月に主任に、平成23年4月に管理課長に、平成28年2月には管理部長に昇任し、平成29年9月15日に懲戒解雇されるまでその地位にあって、請求人から給与収入を得ていた。
       ただし、上記の役職の変遷は、本件元従業員の昇給に伴う形式的なものであり、本件各事業年度を通じ、以下の担当業務の内容及び権限に変更はなかった。
    • (ロ) 本件元従業員は、請求人の本社1階の事務室に席があり、商品の仕入れに係る発注、商品の仕入れ及び販売についての販売管理ソフトへの入力、仕入れた商品の倉庫における管理、発送する商品の運送業者への引渡し及び本社店舗における来訪者対応業務を担当していた。
    • (ハ) 本件元従業員が行っていた本社店舗における来訪者対応業務には、顧客に販売した農業機械機具に係る部品の販売、メンテナンスや修理の受付などのほか、請求人の内部において「小物商品」と呼ばれる自動車のレーダー探知機や工具などの農業機械機具以外の商品(以下「小物商品」という。)の販売業務が含まれていた。
    • (ニ) 本件元従業員の行う仕入業務は、自らが販売を担当する農業機械機具の部品及び小物商品については、本件元従業員の判断で行うことができたが、他の商品については、代表者又は販売担当部門からの指示に基づく必要があった。
    • (ホ) 請求人には、本件元従業員以外に、経理事務を担当する従業員がおり、帳簿書類への記入、決算資料の作成及び仕入代金その他の支出の支払事務は、当該経理担当従業員が行い、これらの事務に本件元従業員が関与することはなかった。
    • (へ) 本件元従業員は、請求人の経営方針に関わる会議の構成員とはなっておらず、請求人の経営に関与する立場にはなかった。
  • ハ 本件J取引の態様
    • (イ) 本件元従業員は、本件各事業年度において、請求人の代表者その他の請求人の関係者に無断で本件J取引をした。
    • (ロ) 本件各アカウントのユーザーIDは、いずれも英小文字○○と数字○○とを組み合わせたものであり、いずれも請求人が関与することをうかがわせる文字列は含まれていない。
    • (ハ) 本件元従業員は、本件J取引において販売された商品を、基本的に、荷送り人として本件元従業員の住所及び氏名を記載した伝票を貼付けして、請求人が発送する他の商品と共に運送業者に引き渡して請求人の本社から発送し、その送料を請求人に負担させた。
    • (ニ) 本件元従業員は、本件J取引及び本件元従業員個人取引に係る落札代金及び落札者が負担する送料(以下、落札代金及び落札者が負担する送料を併せて「落札代金等」という。)を、いずれも本件各口座で受領し、落札代金等を生活費等として費消した。
       本件後期各事業年度において、本件元従業員が本件各口座で受領したJに係る落札代金等は、別表6−1のとおりであり、このうち、本件元従業員個人取引に係る落札代金等は、別表6−2のとおりである。
    • (ホ) 本件元従業員は、本件J取引の落札者から領収書の発行を求められた場合には、本件元従業員の個人名で発行した。
  • ニ 本件J取引に対する請求人の対応
    • (イ) 本件元従業員は、平成29年9月5日、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けたところ、同職員から、本件J取引による所得があるとの指摘を受けた。これを受け、本件元従業員は、請求人の代表者に対し、同日頃、請求人の仕入れた商品をJに出品して販売していた旨告白し、その結果、請求人代表者その他本件元従業員以外の請求人関係者が、本件J取引の存在を知るに至った。
    • (ロ) 請求人は、本件元従業員を被告として、L地方裁判所○○支部に対し、平成30年4月頃、請求人が仕入れた商品を権限なくJに出品して販売したことに基づく損害賠償金の一部(当該損害賠償金のうち平成○年○月○日から平成○年○月○日までの間の販売に係るもの)として、○○○○円を請求する訴訟を提起した。これに対し、同裁判所は、平成30年5月○日、請求人の請求を全部認容する判決をし、その後同判決は確定した。
    • (ハ) 請求人は、L地方裁判所に対し、平成30年8月頃、上記(ロ)の判決に基づき債権差押命令の申立てをし、これに対し同裁判所は、平成30年8月○日、本件元従業員が有する預金債権を差し押さえる旨の債権差押命令をした。

(2) 争点1(本件J取引による落札代金は請求人に帰属するか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 総論
       本件J取引による落札代金が請求人に帰属するか否かについては、法人税法第11条及び消費税法第13条の規定に鑑み、本件J取引の態様と請求人の事業内容との関係、本件J取引を行った本件元従業員の地位及び権限、本件J取引の相手方である落札者の認識、落札代金の費消状況等を総合的に考慮し、実質的には請求人が本件J取引の主体であり、その落札代金を享受していたとみることができるか否かを検討することが相当である。
    • (ロ) 本件J取引の態様と請求人の事業内容との関係について
       上記(1)のイの(イ)及び同ハの(ハ)によれば、請求人の事業内容と本件J取引とは、請求人が仕入れた商品を、請求人の本社から発送して販売したということを限度に符合するが、このこと自体は、本件元従業員が、請求人から商品を窃取し、これを請求人の本社から発送する商品に紛れ込ませて発送したとみても矛盾がない。
       上記(1)のイの(ロ)のとおり、請求人は、もともとインターネットオークションによる商品の販売を行っておらず、同ハの(ロ)のとおり、本件J取引に際しても請求人が関与することをうかがわせる事情のない本件各アカウントが用いられたことからして、本件J取引は、請求人が行ったとみられるような外観を有してはいなかった。
    • (ハ) 本件元従業員の地位及び権限について
       上記(1)のロのとおり、本件元従業員は、一定の業務と権限を任された従業員にすぎず、請求人の経営に関与する地位にもなかった。
       そして、実際に任された業務には、本社店舗における来訪者に対する部品や小物商品の販売とそのための仕入れは含まれるものの、その範囲を超えて自由に商品を仕入れたり、インターネットを通じて商品を販売したりする権限を与えられたとは認められず、本件J取引は、請求人から与えられた権限の範囲外のものである。
    • (ニ) 落札者の認識について
       上記(ロ)の事情に加え、上記(1)のハの(ハ)及び(ホ)のとおり、本件J取引に係る商品の発送は、基本的に本件元従業員の個人名で行われ、領収書の発行も本件元従業員の個人名で行われていたことからすると、落札者が、落札時点までに、取引の相手方が請求人であると認識するような事情は見当たらない。
    • (ホ) 落札代金の費消状況等について
       上記(1)のハの(ニ)のとおり、本件J取引による落札代金は、本件元従業員が管理する本件各口座に入金され、本件元従業員が私的に費消した。
       上記(1)のニのとおり、平成29年9月以降の本件J取引についての請求人の対応をみても、請求人は、本件元従業員に損害を加えられた者としての立場で行動しており、請求人が本件各事業年度において、組織として本件J取引に関与し、何らかの利益を得ていたことをうかがわせる事情はない。
    • (へ) 小括
       上記(ロ)ないし(ホ)の各事情によれば、本件J取引は、本件元従業員が請求人における地位及び権限に基づかずに行ったものであり、客観的にみても請求人を主体とする取引とはいえない態様で行われており、その収益は、本件元従業員が私的に費消し、請求人がこれにより利益を受けたような事情も認められない。そうすると、本件J取引は、本件元従業員が主体となって、請求人から窃取した商品を販売したものであり、その収益は実質的にも本件元従業員が享受したものと認められる。
       したがって、本件J取引による落札代金は、請求人に帰属しないものと認められる。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記イの(ロ)ないし(ホ)の各事情をおおむね前提としながらも、内部管理体制の不備により本件J取引が誘発されたのであるから、本件J取引による落札代金は請求人に帰属すると主張する。
     しかしながら、内部管理体制の不備は、本件元従業員がその地位や権限を越え又は濫用して請求人の行為としてした行為があった場合に、請求人がその責任を負うべきことを基礎付ける事情にはなり得るが、請求人が主体である取引としての外観を有しておらず、取引の相手方も請求人が取引の相手方であるとは認識していない本件J取引について、内部管理体制の不備があるからといって、実質的に請求人が主体の取引であると認めるべきであるとはいえない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 争点2(請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額はいくらか。)について

  • イ 総論
     上記(2)のイの(へ)のとおり、本件J取引による落札代金は請求人に帰属しないから、争点2についての原処分庁の主位的主張(本件元従業員が請求人から本件J取引による落札代金を横領したことによる損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額の存在)は、前提を欠く。
     そして、本件元従業員は、本件各事業年度において、請求人から商品を窃取して本件J取引をしたというべきであるから、原処分庁の予備的主張(請求人から商品を窃取したことによる損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額)について検討する。
  • ロ 法令解釈
     法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ(法人税法第22条第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条第4項)。したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものというべきである(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁参照)。なお、ここでいう権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解すべきである。
     そして、不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生及び確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる。
     もっとも、不法行為による損害賠償請求権については、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利が法的には発生しているといえるが、いまだ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえない。
     ただし、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在及び内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断するべきである。
  • ハ 検討
    • (イ) 損害賠償請求権の発生額について
      • A 本件元従業員が請求人から商品を窃取したことによる損害賠償請求権の額は、その窃取された商品の時価により計算すべきである。また、上記(1)のハの(ハ)からすると、本件元従業員は、商品の窃取に際し、請求人に送料を負担させたというべきであるから、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件元従業員が請求人から窃取した商品の時価と請求人に負担させた送料の合計額となると認められる。
         ところで、本件元従業員が請求人から窃取した商品の窃取の時における販売予定価格や、請求人が負担した送料の金額自体を直接証する証拠は、当審判所の調査及び審理の結果によっても認められないものの、本件元従業員が受領した落札代金等の額は、本件各口座の取引履歴等により特定できるところである。そして、Jなどのインターネットオークションにおける取引では、本件各商品のように通常市販されている商品については、インターネットオークション以外の方法で取得する場合より安価な支出で取得することを期待して入札がなされるのが通例であると考えられるから、本件各商品の落札代金の額は、落札者がその商品を一般の販売業者を通じて購入するときの購入額を上回らないものと認められる。さらに、Jにおける取引は第三者との間で入札の仕組みにより価額が形成されることも踏まえると、本件各商品の落札代金の額は、その商品の落札時点における時価の範囲に含まれる額であると認められる。
         そうすると、本件元従業員が受領した本件J取引に係る落札代金等の額を、本件元従業員が請求人から窃取した商品の時価と請求人に負担させた送料の合計額として採用することには、合理性があると認められる。
         したがって、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件元従業員が受領した本件J取引に係る落札代金等の額により計算するのが相当である。
      • B そして、上記損害賠償請求権は、本件元従業員が請求人の仕入れた商品を本件元従業員の支配下に移した時点で発生すると解されるが、上記(1)のロのとおり、請求人の商品管理及び商品発送業務を担当していた本件元従業員が、同ハの(ハ)及び同ニの(イ)のとおり、他の請求人の関係者に知られないように、請求人の正規の発送商品に紛れ込ませて窃取した商品を発送したという事柄の性質上、本件元従業員が窃取した商品を発送した時点を特定することは困難である。
         もっとも、Jにおいては、落札代金等の支払後に商品の発送がされるのが通例であると認められ、また、落札代金等が支払われた以上、出品者としては落札された商品を落札者に遅滞なく発送しなければならないと認められるから、本件元従業員は、遅くとも落札代金等が入金された時には、当該落札代金等に係る各商品を直ちに発送できるよう、自らの支配下に移したと認められる。
         したがって、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、本件J取引に係る各落札代金等が本件各口座に入金された時点において順次発生したと解するのが相当であり、本件各事業年度において、本件J取引に係る各落札代金等の本件各口座への入金により発生したと認められる。
      • C 以上を前提に、本件後期各事業年度において発生した請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額を、事業年度ごとに計算すると、別表6−1の本件元従業員が受領した本件元従業員個人取引を含むJに係る落札代金等の全入金額から、別表6−2の本件元従業員個人取引に係る落札代金等の入金額を控除した額となり、その結果は、別表7の「差引金額」欄のとおりとなる。
         なお、本件前期各事業年度については、下記(8)のロのとおり、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権が発生したとしても、法人税及び消費税等の各更正処分を取り消すべきことになるから、その具体的な額については判断しない。
    • (ロ) 原処分庁主張額との差異についての補足説明
       原処分庁は、上記(イ)とおおむね同様の考え方によりながらも、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、別表5の「本件各口座の入金額」欄の額から「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額を控除した「差引金額」欄の額であると主張し、別表7の「差引金額」欄とは異なる額を主張する。当審判所において、この原処分庁の主張する額とは異なる認定に至った理由は、以下のとおりである。
      • A 本件各口座に入金された落札代金等の額について
         原処分庁は、本件各口座に入金されたJに係る落札代金等の額が別表5の「本件各口座の入金額」欄の額であると主張する。
         しかしながら、当審判所の調査及び審理の結果によれば、別表5の「本件各口座の入金額」欄の額には、別表6−1の(注2)書きのとおり、Jに係る落札代金等ではない入金額が混入していた。
         他方で、別表6−1の(注1)書きのとおり、別表5の「本件各口座の入金額」欄の額の基礎とされなかった本件各口座への本件J取引に係る落札代金等の入金があることが認められた。
         以上を踏まえると、本件各口座に入金されたJに係る落札代金等は、原処分庁の主張する別表5の「本件各口座の入金額」欄の額から、別表6−1の(注2)書きの額を控除し、別表6−1の(注1)書きの額を加えたものとなり、その結果は、別表6−1のとおりとなる。
      • B 本件各口座に入金された落札代金等に含まれる本件元従業員個人取引に係る金額について
         原処分庁は、本件各口座に入金されたJに係る落札代金等に含まれる本件J取引に係る落札代金等の金額を特定するために、落札代金等の全入金額から控除すべき本件元従業員個人取引に係る金額として、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額を主張する。
         しかしながら、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額は、本件元従業員個人取引に係る落札代金の額であって、落札代金と共に本件各口座に入金される落札者が負担する送料が含まれておらず、その結果、原処分庁の主張する別表5の「差引金額」には、請求人とは無関係である本件元従業員個人取引に係る落札者の負担する送料の額が含まれている。
         また、本件元従業員個人取引に係る落札代金等の額は、その入金のあった事業年度の落札代金等の全入金額から控除すべきところ、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の各事業年度に係る額は、各事業年度に落札があった本件元従業員個人取引に係る落札代金の額の合計であって、実際には落札時期と入金時期が異なる事業年度にまたがる取引もあったと認められる。
         したがって、落札代金等の全入金額から控除すべき本件元従業員個人取引に係る額は、本件元従業員個人取引に対応する本件各口座への落札代金等の入金額を具体的に特定した上でこれらを合計して計算すべきである。
         さらに、当審判所の調査及び審理の結果によれば、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額の計算の基礎とされた取引以外にも本件元従業員個人取引があったことが認められる(別表6−2の商品名の左に「※」印により表示した。)。
         以上を踏まえ、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額の計算の基礎とされた取引以外の当審判所の調査及び審理の結果によって認められたものも含む本件元従業員個人取引に対応する本件各口座への落札代金等の入金額を具体的に特定すると、別表6−2のとおりとなる。
         なお、別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額の計算の基礎とされた取引のうちには、本件各口座に対応する入金がなかったと認められる取引が含まれており、これらに係る落札代金等は別表6−2の額には含めていないため、平成27年1月期及び平成28年1月期に係る別表6−2の額は、原処分庁の主張した別表5の「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額よりも少ないこととなった。
      • C 小括
         上記A及びBの結果、当審判所としては、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額について、原処分庁の主張する別表5の「本件各口座の入金額」欄の額から「本件元従業員個人取引の入金額」欄の額を控除した「差引金額」欄の額を採用せず、別表7の「差引金額」欄のとおり認定した。
    • (ハ) 権利行使の期待可能性について
       次に、上記(イ)のとおり本件後期各事業年度において発生したと認められる損害賠償請求権につき、通常人を基準にして、権利の存在及び内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないような客観的状況があったといえるか否かについて検討する。
       本件J取引に係る商品の窃取は、本件後期各事業年度において、反復継続して多数回にわたり行われ、その被害額は、1年当たり1,000万円前後にも上るのであり、その態様は大胆なものであるから、本件後期各事業年度において仕入れに係る資料と売上げ及び棚卸しに係る資料とを照合すれば容易に発覚したものであると認められる。
       そうすると、通常人を基準とすると、本件後期各事業年度において、上記(イ)の損害賠償請求権につき、その存在及び内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないような客観的状況があったとはいえない。
    • (ニ) 小括
       したがって、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、本件J取引に係る各落札代金等が本件各口座に入金した時点において発生し、確定したものといえるから、本件後期各事業年度の益金の額に算入すべき請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、別表7の「差引金額」欄のとおりであると認められる。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、窃取された商品の仕入額と送料の合計額により計算すべきところ、本件元従業員が全ての商品を原価割れで販売したか否かは明らかではなく、本件元従業員が受領した本件J取引に係る落札代金等の額は、損害賠償請求権の額として過大である疑いがある旨主張する。
       しかしながら、上記ハの(イ)のAのとおり、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、窃取された商品の時価と送料の合計額というべきであり、本件各商品の落札代金の額は、本件各商品の時価の範囲に含まれる額であるといえ、落札者がその商品を一般の販売業者を通じて購入するときの購入額を上回らないものと認められることからすれば、仮に、仕入額を上回る落札額でJにおける取引が成立したとしても、本件各商品の販売業者である請求人としては、その商品をその落札額以上で販売するのが通常であり、その仕入額と落札額との差額は、本来請求人が得られたはずの利益として損害賠償請求権の対象となるから、請求人は、本件元従業員に対し、仕入額を上回る落札額に基づく損害賠償請求権を行使できるというべきである。
       したがって、上記ハの(イ)のとおり認定した損害賠償請求権の額が過大なものであるとはいえず、この点についての請求人の主張を採用することはできない。
    • (ロ) 請求人は、本件元従業員の窃取行為を発見することは非常に困難であり、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件各事業年度の当時において確定できる状況になかったから、本件各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権につき、権利行使を期待できない客観的状況があったと主張する。
       しかしながら、上記ハの(ニ)のとおり認定した請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、請求人が本件後期各事業年度の当時において仕入れに係る資料と売上げ及び棚卸しに係る資料とを照合し、窃取された商品を特定した上、その商品に係る価額及びその商品に係る送料に係る資料を保全することで計算することのできた金額を上回らないものと認められる。
       したがって、通常人を基準とすれば、本件後期各事業年度においてその金額を把握し得ないものとはいえず、権利行使を期待できない客観的状況があったとはいえないから、この点についての請求人の主張を採用することはできない。
    • (ハ) また、請求人は、本件元従業員が法人税基本通達2−1−43に定める「他の者」に該当し、同通達の定めからしても、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額は、本件各事業年度の益金の額に算入されないと主張する。
       そこで検討すると、法人税基本通達2−1−43が、損害賠償金について、その支払を受けた時点を基準として、益金の算入時期を定める取扱いを許容しているのは、一般に不法行為に基づく損害賠償請求権が、突発的・偶発的に取得される債権であり、不法行為の相手方の身元や損害の金額その他権利の内容及び範囲が明らかでないことが多いのが通常であるという点に基づくものと考えられ、この取扱いは、当審判所も相当であると認める。しかし、法人の役員や従業員等の法人内部の者により、法人に対する不法行為がなされた場合には、相手方の身元や損害の金額その他権利の内容及び範囲が明らかでないのが一般的であるとはいえない。
       そうすると、不法行為に基づく損害賠償請求権といっても、法人内部の者による不法行為とそれ以外の者による不法行為とでは、その一般的な状況が異なるというべきであり、上記通達の「他の者」には、法人内部の者である従業員は含まれないものと考えるのが合理的である。
       したがって、上記通達を根拠として、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額を本件後期各事業年度の益金の額に算入しない取扱いが許されるということはできず、この点についての請求人の主張も採用することができない。

(4) 争点3(請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の額として、本件各事業年度の益金の額に算入すべき金額がある場合に、当該金額につき、本件各事業年度の損金の額に算入すべき貸倒損失があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人の各事業年度の所得の金額の計算において、金銭債権の貸倒損失を法人税法第22条第3項第3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには、当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される。そして、その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである(最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2637頁参照)。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のロの(イ)のとおり、本件後期各事業年度において、本件元従業員は、請求人から給与収入を得ており、その支払能力が皆無であったとはいえず、同ニの(ロ)のとおり、請求人は、本件J取引の発覚後、遅滞なく本件元従業員に対して損害賠償請求訴訟を提起しており、請求人側において、損害賠償請求をすることのできない事情があったとも認められない。
     したがって、本件後期各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の全額が回収不能であったとは認められず、当該損害賠償請求権について、本件各事業年度の損金の額に算入すべき貸倒損失があるとは認められない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件元従業員は、資産に乏しく、○○の支払義務を負っていたから、本件各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、その全額が回収不能であることが客観的に明らかであったと主張する。
     しかしながら、請求人の主張する事情は、仮に認められるとしても、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権の一部の回収が困難であるというにとどまり、その全額が回収不能であることが客観的に明らかであると認めるには至らない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 争点4(本件J取引による落札代金が請求人に帰属するとは認められない場合に、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、消費税の課税の対象となるか否か。)について

  • イ 検討
     上記(2)のイの(へ)のとおり、請求人は、本件J取引の主体であるとは認められないから、本件J取引について、「資産の譲渡等」を行ったとは認められない。また、資産が窃取されたことは、対価を得て行う資産の譲渡ではない以上、「資産の譲渡等」に該当せず、これによる損害賠償金は、資産の譲渡等の対価に該当しないところ、請求人が取得したと認められる損害賠償請求権も、請求人が本件元従業員に商品を窃取されたことに基づくものであって、請求人のした資産の譲渡に対する反対給付として受けるものとみるべき事情はなく、資産の譲渡等の対価であるとは認められないから、消費税の課税の対象となるものではない。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は、実質的に資産の譲渡等の対価に該当すると認められ、消費税法基本通達5−2−5により消費税の課税の対象となると主張する。
     しかしながら、消費税法基本通達5−2−5は、損害を受けた棚卸資産等が加害者に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金のように、納税者と加害者との間における資産等の移転とこれに対する損害賠償金の収受の態様が、資産の譲渡等の場合と変わりがない場合について定めたものであって、本件のように、請求人代表者の知らないところで商品が窃取されたような場合に適用されるものでないことは明らかである。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 争点5(本件J取引をしたことを本件元従業員が隠匿していた行為は、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したものと評価できるか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 上記(5)のイのとおり、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は消費税の課税の対象となるものではないから、本件各課税期間の消費税等については、隠蔽の対象となりうる課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実が存在しない。
    • (ロ) 次に、本件各事業年度に係る法人税等についてみると、上記(3)のハの(イ)のBのとおり、本件各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権が発生しており、当該損害賠償請求権の発生原因事実は、法人税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実であるといえる。もっとも、上記(1)のニの(イ)のとおり、請求人代表者及び本件元従業員以外の請求人の関係者が本件J取引の存在を知ったのは、平成29年9月のことであり、それ以前には、その存在を知らなかったものと認められる。
       そうすると、本件各事業年度において、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権が請求人の帳簿に計上されていなかったことは、請求人においてこれを計上すべき地位にある代表者及び経理事務の担当者が、その損害賠償請求権の存在を知らなかったことによるものであって、請求人がこれを隠蔽したことによるものではないと認められる。
    • (ハ) したがって、請求人が、本件各事業年度に係る法人税等及び本件各課税期間に係る消費税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したとは認められない。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、本件元従業員が本件J取引をしたことを隠匿した行為は、損害賠償請求権の発生原因事実を隠蔽したものと評価され、本件元従業員が請求人の経理責任者としての地位を有していた以上、本件元従業員の隠蔽行為は請求人の行為と同視されると主張する。
     しかしながら、本件元従業員が、本件J取引をしたことを隠匿したこと、すなわち、本件元従業員が、請求人の代表者その他の関係者に知られないように請求人から商品を窃取し、本件J取引をした行為は、損害賠償請求権の発生原因事実そのものであり、これをもって、請求人が損害賠償請求権の発生原因事実を隠蔽したと評価することはできず、また、上記(1)のロの本件元従業員の担当業務に照らせば、本件元従業員が請求人の経理責任者としての地位を有していたともいえない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(7) 争点6(請求人は本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものと認められるか否か。)及び争点7(請求人には、法人税の青色申告の承認の取消事由があると認められるか否か。)について

上記(6)のとおり、請求人が、本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽したとは認められず、他に請求人に「偽りその他不正の行為」があったとは認められないから、本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、請求人が偽りその他不正の行為により税額を免れたものは認められない。
 また、上記隠蔽が認められず、他に請求人に法人税法第127条第1項に規定する事由があったとは認められないから、青色申告の承認の取消事由があるとも認められない。

(8) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色取消処分
     上記(7)のとおり、請求人に、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消事由があるとは認められないから、本件青色取消処分は違法であって取り消すべきである。
  • ロ 本件前期各事業年度に係る各更正処分及び各賦課決定処分
     上記(7)のとおり、請求人が本件前期各事業年度の法人税及び本件前期各課税期間の消費税等につき、偽りその他不正の行為により税額を免れたものとは認められないから、本件前期各事業年度の法人税の各更正処分及び各賦課決定処分並びに本件前期各課税期間の消費税等の各更正処分及び各賦課決定処分については、いずれも通則法第70条第4項第1号の適用はなく、当該各処分は、通則法第70条第1項の除斥期間の経過後にされたものと認められる。
     したがって、本件前期各事業年度の法人税の各更正処分及び各賦課決定処分並びに本件前期各課税期間の消費税等の各更正処分及び各賦課決定処分は、いずれもその全部が違法であって取り消すべきである。
  • ハ 本件後期各事業年度に係る各更正処分
    • (イ) 本件後期各事業年度に係る法人税等の各更正処分
       上記(2)ないし(4)によれば、本件J取引による落札代金は請求人に帰属せず、当該落札代金を請求人の本件各事業年度の益金の額に算入すべきではないが、本件元従業員に商品を窃取されたことによる損害賠償請求権が本件後期各事業年度において確定したものとして、損害賠償請求権の確定による収益の額を本件後期各事業年度の益金の額に算入すべきであり、その額は、別表7の「差引金額」欄のとおりである。そして、当該金額について、本件後期各事業年度の損金の額に算入すべき貸倒損失は認められない。
       また、上記イのとおり、本件青色取消処分は取り消すべきであるから、請求人は「青色申告書を提出する」者に該当するところ、その他の本件各措置法規定の適用要件を充足していることは、当審判所の調査及び審理の結果によっても認められるから、本件各事業年度の法人税等の計算上、本件各措置法規定を適用するべきである。
       これらを前提に、請求人の本件後期各事業年度に係る法人税等の課税標準等及び税額等を計算すると、別表8、別表9−1及び別表9−2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、納付すべき税額は、平成25年1月期及び平成27年1月期の法人税等については、いずれも原処分における額を上回るが、平成26年1月期、平成28年1月期及び平成29年1月期の法人税等については、いずれも原処分における額を下回る。
       また、本件後期各事業年度に係る法人税等の各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、平成25年1月期及び平成27年1月期に係る法人税等の各更正処分はいずれも適法であるが、平成26年1月期、平成28年1月期及び平成29年1月期に係る法人税等の各更正処分は、別表8、別表9−1及び別表9−2の「審判所認定額」欄を上回る部分が違法であって、いずれもその一部を別紙2、別紙4、別紙5、別紙6、別紙8及び別紙9の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 本件後期各課税期間に係る消費税等の各更正処分
       上記(5)のとおり、請求人は、本件J取引について、「資産の譲渡等」を行ったとは認められず、請求人の本件元従業員に対する損害賠償請求権は消費税の課税の対象となるものではない。
       このことを前提に、請求人の本件後期各課税期間の消費税等の課税標準等及び税額等を計算すると、別表4の「確定申告」欄(平成26年1月課税期間については「修正申告」欄)のとおりとなるから、本件後期各課税期間に係る消費税等の各更正処分は、いずれもその全部が違法であって取り消すべきである。
  • ニ 本件後期各事業年度に係る各賦課決定処分
    • (イ) 本件後期各事業年度に係る法人税等の各賦課決定処分
       上記ハの(イ)のとおり、平成25年1月期及び平成27年1月期に係る法人税等の各更正処分は適法であるが、平成26年1月期、平成28年1月期及び平成29年1月期に係る法人税等の各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
       そして、上記(6)のイの(ハ)のとおり、請求人が本件後期各事業年度に係る法人税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し又は仮装したとは認められないから、本件後期各事業年度に係る法人税等の各更正処分(平成26年1月期、平成28年1月期及び平成29年1月期については上記ハの(イ)の一部取消し後の各更正処分)により納付すべき税額を基礎とする重加算税を課することはできない。
       もっとも、上記各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、本件後期各事業年度に係る法人税等の各賦課決定処分は、上記各更正処分により納付すべき税額を基礎とする過少申告加算税相当額の限度で適法であると認められる。
       以上を前提に、本件後期各事業年度に係る法人税等の各更正処分に係る過少申告加算税の額を計算すると、別紙1ないし別紙9の「課税標準等及び税額等の計算」の「加算税の額の計算」の「裁決後の額」欄のとおりとなる。
       したがって、本件後期各事業年度に係る法人税等の各賦課決定処分は、上記過少申告加算税の額を超える部分が違法であるから、いずれもその一部を別紙1ないし別紙9の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 本件後期各課税期間に係る消費税等の各賦課決定処分
       上記ハの(ロ)のとおり、本件後期各課税期間に係る消費税等の各更正処分は、いずれも全部を取り消すべきであるから、当該各更正処分により納付すべき税額を基礎とする本件後期各課税期間に係る消費税等の各賦課決定処分は、いずれもその全部が違法であって取り消すべきである。

(9) 結論

よって、平成25年1月期及び平成27年1月期に係る法人税等の各更正処分に対する審査請求はいずれも理由がないから棄却し、その他の審査請求はいずれも理由があるから、本件青色取消処分を取り消し、当該審査請求に係るその他の原処分の全部又は一部を取り消すこととする。

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