(令和元年6月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、共同審査請求人が、相続税の申告をしたところ、原処分庁から、過去に相続時精算課税の選択をした贈与税の申告をしていることから、当該選択をした年分以降の被相続人からの贈与により取得した財産の価額は当該相続税の課税価格に加算すべきであるとして更正処分等を受けたため、当該相続時精算課税の選択をした贈与税の申告は無効であるなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 被相続人の親族関係等
     平成27年7月○日に死亡したE3(以下「本件被相続人」といい、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」という。)の共同相続人は、本件被相続人の配偶者であるE4(平成29年2月○日死亡。以下「本件配偶者」という。)、長男である審査請求人E2(以下「請求人E2」という。)及び養子であり請求人E2の配偶者である審査請求人E1(平成18年6月23日養子縁組。以下、「請求人E1」といい、請求人E2と併せて「請求人ら」という。)である。
     なお、請求人らの子で本件被相続人の養子であるE5(旧姓:E)、E6及びE7(いずれも平成18年6月23日養子縁組。以下、当該3名を併せて「本件孫ら」という。)は、F家庭裁判所において、いずれも本件相続を放棄する旨の申述をし、平成27年8月4日に受理された。
  • ロ 請求人E1が受けた平成18年分の贈与及びその申告等
    • (イ) 平成18年6月28日に、本件被相続人名義のG信用金庫○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件被相続人G口座」という。)から1,100,000円の現金が出金された。
    • (ロ) 平成18年6月28日に、請求人E1名義のH銀行(現、J銀行。以下同じ。)○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件E1H口座」という。)に1,100,000円の現金が入金されたところ、本件E1H口座に係る預金通帳には、当該入金に係る入金額の印字部分の横に「E4より」とのメモ書がされている。
       なお、請求人らは、当該現金の入金に関して、贈与の相手方については争うものの、贈与の事実自体については争わない(以下、当該現金の贈与を「本件18年現金贈与」という。)。
    • (ハ) 請求人E1は、平成18年7月20日に、本件被相続人から、a市d町○−○に所在する建物(家屋番号は○○、種類は共同住宅、総床面積は313.02uであり、以下「本件建物」という。)の贈与を受けた(以下、本件建物の贈与を「本件建物贈与」という。)。
    • (ニ) 請求人E1は、本件建物贈与に係る贈与税について、平成19年3月7日に、贈与者の氏名を本件被相続人、課税価格を〇〇〇〇円及び納付すべき税額を〇〇〇〇円と記載した申告書を原処分庁へ提出した(以下、当該申告書を「本件暦年課税申告書」といい、本件暦年課税申告書に係る申告を「本件暦年課税申告」という。)。
       なお、請求人E1は、平成19年3月5日に、本件被相続人の負担により、贈与税額〇〇〇〇円を納付した。
    • (ホ) 本件被相続人は、本件建物贈与に係る贈与税について、平成19年3月14日に、平成18年法律第10号による改正前の相続税法第2章《課税価格、税率及び控除》第3節《相続時精算課税》の規定を適用した上で、贈与者の氏名を本件被相続人、課税価格を〇〇〇〇円及び納付すべき税額を〇〇〇〇円と記載した請求人E1名義の申告書を原処分庁へ提出した(以下、当該申告書を「本件精算課税申告書」といい、本件精算課税申告書に係る申告を「本件精算課税申告」という。)。
       なお、本件精算課税申告書及び本件暦年課税申告書のいずれにも、本件18年現金贈与については記載されていない。
    • (へ) 本件精算課税申告に伴い、平成19年4月26日に、請求人E1名義のG信用金庫○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件E1G口座」という。)に、上記(ニ)に係る贈与税の還付金〇〇〇〇円及び還付加算金〇〇〇〇円の合計〇〇〇〇円(以下「本件還付金等」という。)が振り込まれた。その後、同年6月4日に、本件被相続人により、本件E1G口座から1,200,000円の現金が出金された。
       なお、請求人E1は、平成23年6月27日に、自ら本件E1G口座を解約した。
  • ハ 請求人E1が受けた平成19年分及び平成20年分のみなし贈与
    • (イ) 請求人E1は、平成19年3月5日に、本件被相続人の負担により、請求人E1の平成18年分の所得税額〇〇〇〇円を納付した。
    • (ロ) 請求人E1は、平成20年6月27日に、本件被相続人の負担により、請求人E1の平成20年度の市民税の額及び県民税の額〇〇〇〇円をそれぞれ納付した。
  • ニ 請求人E1が受けた平成21年分の贈与及びその申告等
    • (イ) 平成21年6月3日に、本件被相続人名義のK銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件被相続人K口座」という。)から2,200,000円の現金が出金された。
    • (ロ) 平成21年6月4日に、本件E1H口座に1,110,000円の現金が入金されたところ、本件E1H口座に係る預金通帳には、当該入金に係る入金額の印字部分の横に「E4より」とのメモ書がされている。
       なお、請求人らは、当該現金の入金に関して、贈与の相手方については争うものの、贈与の事実自体については争わない(以下、当該現金の贈与を「本件21年現金贈与」といい、本件18年現金贈与と併せて「本件各現金贈与」という。)。
    • (ハ) 請求人E1は、本件21年現金贈与に係る贈与税について、平成22年3月11日に、贈与者の氏名を本件被相続人、課税価格を〇〇〇〇円及び納付すべき税額を〇〇〇〇円と記載した申告書を原処分庁へ提出した(以下、当該申告書を「本件21年分申告書」という。)。

(3) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ロ これに対し、原処分庁は、請求人E1は相続時精算課税の選択をした本件精算課税申告をしているから、当該選択をした年分以降の本件被相続人からの贈与により取得した財産の価額は本件相続税の課税価格に加算すべきであるとして、平成29年12月22日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、1請求人E1に対する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)並びに2請求人E2に対する更正処分(以下、請求人E1に対する更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)をした。
     なお、本件相続税の課税価格に加算する本件建物の価額について、本件精算課税申告においては、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達)89《家屋の評価》の定めにより評価しているが、原処分庁は、本件建物は、請求人E1が贈与を受けた時において、その全室が賃貸の用に供されていた貸家であることから、同通達93《貸家の評価》の定めに従い評価した〇〇〇〇円とした。
  • ハ 請求人らは、本件各更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成30年3月16日に、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年6月14日付で、いずれも棄却する旨の再調査決定をした。
  • ニ 請求人らは、本件精算課税申告は無効なものであるなどとして、平成30年7月4日に、再調査決定を経た後の本件各更正処分及び本件賦課決定処分の全部の取消しを求めて審査請求をするとともに、同日、請求人E1を総代として選任し、その旨を当審判所に届け出た。
     なお、請求人らは、上記(2)のハの本件被相続人の負担により請求人E1が納付した平成18年分の所得税並びに平成20年度の市民税及び県民税に相当する金額が、いずれも本件被相続人からの贈与により取得したものとみなされることについては争っていない。

2 争点

(1) 本件精算課税申告は無効なものであるか否か(争点1)。

(2) 本件各現金贈与に係る贈与契約が本件被相続人と請求人E1との間で成立していたか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件精算課税申告は無効なものであるか否か。)について

原処分庁 請求人ら
本件精算課税申告書は、本件被相続人により提出されたものであるが、次のイ及びロのとおり、請求人E1は、本件建物贈与に係る申告手続について、本件被相続人に包括的に委任していたと認められるから、本件精算課税申告は有効なものである。 次のイ及びロのとおり、本件精算課税申告書は、本件被相続人が請求人E1の承諾なく勝手に作成し提出したものであり、また、請求人E1は、本件建物贈与に係る申告手続について、本件被相続人に包括的に委任していたとは認められないから、本件精算課税申告は無効なものである。
イ 請求人E1は、本件暦年課税申告により納付した贈与税が本件還付金等として本件E1G口座に還付されていることを、遅くとも本件E1G口座の解約時点(平成23年6月27日)までには認識していたと認められる。
 そして、請求人E1には、本件暦年課税申告が変更又は訂正される以外に本件還付金等に相当する金額の税還付を受けるべき理由がないのであるから、請求人E1は、本件暦年課税申告が、本件被相続人により変更又は訂正されたことを認識していたと認められる。
イ 本件暦年課税申告書は、請求人E1が提出したものであるが、本件精算課税申告書は、本件被相続人が、請求人E1の関知しないところで勝手に作成し提出したものである。現に、本件精算課税申告書の筆跡は本件被相続人のものである。
 また、本件E1G口座に本件還付金等が振り込まれているが、請求人E1は、本件E1G口座をほとんど使用していなかったため、そのことを認識していなかったのであるから、本件還付金等の振込みをもって、本件精算課税申告を追認したとはいえない。
ロ それにもかかわらず、請求人E1は、本件被相続人に対して本件E1G口座に係る預金通帳及び届出印を預け、その返却を受けた後においても、本件被相続人に対し、本件被相続人による本件E1G口座からの1,200,000円の現金出金について何ら異議を述べていない。
 このことのほか、本件建物に係る管理事務並びに贈与税及び所得税の各申告手続は本件相続の開始直前まで本件被相続人が行っていた、本件被相続人には逆らえないなどといった請求人E1の申述も併せ考慮すると、請求人E1は、本件建物贈与に係る申告手続について、本件被相続人に包括的に委任していたと認められる。
ロ 本件被相続人及び請求人E1は、いずれも申告手続に関する知識がないため、請求人E1は、本件被相続人とともに、L農業協同組合へ赴き、相談の上、贈与税及び所得税の各申告手続を行ったものである。
 そして、請求人E1は、本件被相続人と同席し、各申告の内容を承諾した上で、自身の各申告手続を行っていたのであるから、本件建物贈与に係る申告手続について、本件被相続人に包括的に委任していたとは認められない。

(2) 争点2(本件各現金贈与に係る贈与契約が本件被相続人と請求人E1との間で成立していたか否か。)について

原処分庁 請求人ら
本件被相続人は、本件精算課税申告書を提出した時点において、平成18年分以降、本件被相続人から請求人E1に贈与をした場合には、当該贈与の財産の価額が、将来発生する本件被相続人の相続税の課税価格に加算されることを認識したものと認められる。
 しかしながら、本件被相続人G口座から出金された現金が本件E1H口座に入金されたことにより成立した本件18年現金贈与は、本件精算課税申告がされる以前のことであり、本件被相続人が、当該加算の対象とならないようにする必要性は認められないことからすれば、本件被相続人から、直接、請求人E1に対し贈与されたものと認められるため、本件18年現金贈与に係る贈与者は、本件被相続人であると認められる。
 また、請求人E1は、本件21年現金贈与について、贈与者を本件被相続人とする本件21年分申告書を自ら提出していることからすれば、本件21年分申告書のとおり、本件21年現金贈与に係る贈与者も、本件被相続人であると認められる。
 なお、請求人らは、平成21年6月4日付の「贈与契約書」と題する書面(以下「本件21年書面」という。)を後日発見した旨主張するが、請求人E1は、原処分に係る調査及び再調査の請求に係る調査において、本件21年書面の提示はおろか、その存在についての申述もしなかったのであり、審査請求の段階において発見されたというのは極めて不自然であり信用できない。
 以上によれば、本件各現金贈与に係る贈与者は、いずれも本件被相続人であり、本件各現金贈与に係る贈与契約は、いずれも本件被相続人と請求人E1との間で成立していたものと認められる。
本件各現金贈与のいずれについても、請求人E1が本件配偶者から直接現金を渡されたものであり、本件E1H口座に係る預金通帳にも「E4より」とのメモ書がされている。
 また、本件21年現金贈与については、請求人E1が本件配偶者から現金の贈与を受けた旨記載された本件21年書面を後日発見したところ、その内容は上記のメモ書とも整合しており、その信用性は高いものといえる。
 以上によれば、本件各現金贈与に係る贈与者は、いずれも本件配偶者であり、本件各現金贈与に係る贈与契約は、いずれも本件配偶者と請求人E1との間で成立していたものと認められる。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件精算課税申告は無効なものであるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 前記1の(2)のイ及びロの(ハ)のとおり、請求人E1は、本件被相続人と養子縁組をした後、本件被相続人から本件建物の贈与を受けたところ、請求人E1は、本件建物贈与に係る登記手続には関与しておらず、本件被相続人に一任し、必要な書類の準備等を含め本件被相続人が当該手続を行った。
    • (ロ) 請求人E1及び本件被相続人は、L農協へ赴き、相談の上、本件暦年課税申告書を作成した。その際、必要な書類の提示など、相手方との対応は本件被相続人が行い、本件暦年課税申告書の署名押印は請求人E1が自ら行った。
       なお、請求人らは、本件被相続人と同居していたところ、請求人E1は、自身の複数ある印鑑を自ら管理しており、そのうちの一つを使用して本件暦年課税申告書に押印をしたが、本件被相続人も、請求人E1の印鑑の保管場所を知っていた。
       また、本件暦年課税申告に係る贈与税の納税資金については、当初から、本件被相続人が負担することとなっていた。
    • (ハ) 本件精算課税申告書は、本件暦年課税申告書に記載された税額の計算誤りをきっかけとして提出されたものであるが、本件被相続人がM税務署に赴き、相談の上、本件被相続人が請求人E1の名義で署名押印をして、作成し提出されたものであり、また、本件精算課税申告書とともに提出された「相続時精算課税選択届出書」(以下「本件届出書」という。)及び「相続時精算課税に係る財産を贈与した旨の確認書」(以下「本件確認書」という。)についても、本件被相続人が作成したものである。
    • (ニ) 前記1の(2)のロの(へ)のとおり、平成19年6月4日に、本件E1G口座から1,200,000円の現金が出金されているところ、当該出金は、本件被相続人が、請求人E1から本件E1G口座に係る預金通帳及び届出印を預かった上で行ったものである。
    • (ホ) 本件E1G口座に係る預金通帳には、その見開きの1ページ目に平成17年9月20日から請求人E1が解約した平成23年6月27日までの間の取引が印字されているところ、その取引内容は、平成18年2月20日の430,000円の現金出金、平成19年4月26日の〇〇〇〇円(本件還付金等)の振込入金及び同年6月4日の1,200,000円の現金出金のほかは、預金利息に係る入金である。
       なお、本件還付金等の振込入金の部分には、「Mゼイムショ」と印字されている。
    • (へ) 本件被相続人は、平成21年以降、請求人E2及び本件孫らに対して、それぞれ現金の贈与をしているところ、本件暦年課税申告書及び本件精算課税申告書を含め、請求人ら及び本件孫らに係る贈与税の申告書の各控えなど、申告関係書類等の全てを、本件被相続人が保管し管理していた。
  • ロ 請求人E1の答述
     請求人E1は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
    • (イ) 本件建物贈与については、本件被相続人との養子縁組の後、本件被相続人から本件建物を贈与する旨の話があった。そして、本件被相続人が本件建物贈与に係る登記手続を行っているため、これを依頼した司法書士も知らないし、登記手続に必要な書類を用意したという記憶もない。
    • (ロ) 本件暦年課税申告については、本件被相続人から一緒について来るよう言われ、本件被相続人とともにL農協へ赴き、相談の上、申告手続をした。その際、本件被相続人の隣に座っていたものの、必要な書類の提示など、相手方との対応は本件被相続人が行っていた。
       本件暦年課税申告に係る納税資金については、請求人E1には納税に充てるような資金はないから、本件被相続人が考えてくれていたと思う。
    • (ハ) 本件E1G口座が本件還付金等の入金先となっているが、本件被相続人から詳しい話をされないまま、本件E1G口座に係る預金通帳を預け、その後すぐに返却されたと思う。
       本件被相続人が本件E1G口座から1,200,000円の現金を出金するに当たって、本件被相続人に本件E1G口座に係る預金通帳及び届出印を預けたが、その際に、どのように言われて預けたか覚えていないし、これらを返してもらった際に、当該預金通帳の取引内容について確認したかどうかも覚えていない。
    • (ニ) 本件E1G口座は、使用していない口座であったため、平成23年6月27日に解約したが、その際に、本件E1G口座に係る預金通帳の取引内容について確認したかどうか覚えていない。
  • ハ 検討
    • (イ) 納税申告は、私人の公法行為というべきものであり、原則として納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条《期限内申告》等)、納税義務者以外の者が、本人の承諾なく勝手に納税義務者の申告書を作成し提出した場合には、その納税申告は無効であると解される。
       もっとも、納税義務者以外の者が申告書を作成し提出した場合であっても、その者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合は、その納税申告は有効であると解される。
    • (ロ) 本件においては、上記イの(ハ)のとおり、本件精算課税申告書(本件届出書及び本件確認書を含む。)を作成し提出したのは、納税義務者である請求人E1ではなく、本件被相続人である。
       そこで、請求人E1が、本件被相続人に対し、明示又は黙示に本件精算課税申告書による申告行為をする権限を与えていたといえるか否かについて、以下検討する。
      • A 請求人E1に係る申告手続等の状況についてみると、1請求人E1は、本件建物贈与に係る登記手続を本件被相続人に一任していたこと(上記イの(イ))、2本件暦年課税申告書を作成する際の相談において、必要な書類の提示などの対応は本件被相続人が行っていたこと(上記イの(ロ))、3本件暦年課税申告に係る納税資金は本件被相続人が負担していたこと(前記1の(2)のロの(ニ)及び上記イの(ロ))、4請求人E1の印鑑は本件被相続人も使用することが可能な状況であったこと(上記イの(ロ))、5請求人ら及び本件孫らの申告関係書類等の管理は本件被相続人が行っていたこと(上記イの(へ))がそれぞれ認められ、他方、上記ロの請求人E1の答述によっても、請求人E1が主体的に自己に係る申告手続等の必要な手続を行っていたということはうかがわれない。また、上記イの(ロ)のとおり、請求人E1は、本件暦年課税申告書に自ら署名押印をしてこれを提出しているが、上記2及び3の各事情からすれば、請求人E1が主体的に本件暦年課税申告書の作成に関与していたとは認められない。
      • B 加えて、次のとおり、請求人E1は、本件被相続人が本件E1G口座から1,200,000円の現金を出金したことについて、遅くとも本件E1G口座の解約の時には認識した上で、なお当該出金を容認していたものと認めるのが相当である。
        • (A) 上記イの(ハ)ないし(ホ)のとおり、本件精算課税申告書が提出されたことにより、本件E1G口座には本件還付金等が振込入金されており、また、本件被相続人は、本件E1G口座から1,200,000円の現金を出金しているところ、当該出金は、本件還付金等の入金日と近い時期に、ほぼ同額を出金するものであるから、実質的には本件還付金等の出金であるといえる。
           そして、上記イの(ホ)のとおり、本件E1G口座に係る預金通帳には、本件還付金等の振込入金の記録及び1,200,000円の出金の記録が解約の記録と同じページに印字されており、本件還付金等の振込入金の記録には併せて「Mゼイムショ」と印字されているのであるから、請求人E1は、本件E1G口座に係る預金通帳を一見すれば、これらの入出金の内容を認識できたといえる。
        • (B) また、請求人E1は、本件還付金等の入金先口座を本件E1G口座に指定する際と、本件被相続人が本件E1G口座から本件還付金等を出金する際の少なくとも2度、本件E1G口座に係る預金通帳を本件被相続人に預け、その返却を受けているが(上記イの(ニ)及びロの(ハ))、自身の預金通帳を第三者に預けた場合、当該預金通帳の返却を受けた際にその入出金状況を確認することが自然である。加えて、請求人E1は、本件E1G口座を自ら解約しているところ(前記1の(2)のロの(へ))、当該解約は使用していない口座を整理するために行ったものであることからすれば、その際には、解約しても差し支えないかなど、その入出金状況を確認することが通常であり、上記(A)のとおり、解約の際に本件還付金等の入出金状況が一覧できることを併せ考慮すれば、請求人E1は、遅くとも本件E1G口座の解約の際には、本件E1G口座に係る預金通帳を確認し、本件還付金等の入出金状況を確認したものと合理的に推認できる(なお、この点について、請求人E1は、本件E1G口座に係る預金通帳に記録された取引内容を確認したかどうか覚えていない旨答述するが(上記ロの(ニ))、当該答述は、結局、記憶が定かでないというにとどまるものであるから、上記推認を妨げるものではない。)。
        • (C) さらに、請求人E1は、本件被相続人が1,200,000円の現金を出金するに当たって、本件被相続人に対して、本件E1G口座に係る預金通帳及び届出印を預けていること(上記イの(ニ)及びロの(ハ))からすれば、当該出金が本件被相続人によるものであることも認識していたと合理的に推認できる。
        • (D) 以上によれば、請求人E1は、遅くとも本件E1G口座を解約した時には、自身の贈与税に関し、本件還付金等の入金があったこと及び本件被相続人が1,200,000円の現金を出金していたことをいずれも認識していたと認められる。
           他方、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人E1が、本件E1G口座の解約以後も、本件被相続人が本件E1G口座から1,200,000円の現金を出金したことについて異議を述べたり、出金した理由を尋ねたりしたといった事実は認められない。
           そうすると、請求人E1としては、上記の出金について、遅くとも本件E1G口座の解約の時には認識した上で、なお当該出金を容認していたものと認めるのが相当である。
      • C 上記A及びBの各事情に照らすと、請求人E1は、税金の納付や還付の手続も含めて、自己に係る申告手続等について本件被相続人に全て一任しており、本件被相続人に対して、本件被相続人が行った請求人E1に係る申告手続等について異議を述べることなど予定されていなかったとみるのが相当であり、相続時精算課税を選択するか否かについても、他の申告手続等と同様、本件被相続人に対して包括的に委任していたとみるのが相当であるから、本件精算課税申告についても、明示又は黙示に当該申告行為をする権限を本件被相続人に与えていたといえる。
         したがって、本件精算課税申告は有効なものであるというべきである。
  • ニ 請求人らの主張について
     請求人らは、前記3の(1)の「請求人ら」欄のとおり、本件精算課税申告書は、本件被相続人が請求人E1の承諾なく勝手に作成し提出したものであり、また、請求人E1は、本件建物贈与に係る申告手続について、本件被相続人に包括的に委任していたとは認められないから、本件精算課税申告は無効なものである旨主張する。
     しかしながら、上記ハでみたとおり、本件被相続人が本件精算課税申告書を作成し提出したのは、請求人E1が、本件精算課税申告に係る一連の申告手続も含めて、本件被相続人に包括的に委任していたためであると認められる。そうすると、このような包括的な委任があったと認められる以上、請求人E1の明示的な承諾がなかったとしても、本件精算課税申告が無効となるものではない。
     したがって、請求人らの主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各現金贈与に係る贈与契約が本件被相続人と請求人E1との間で成立していたか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 前記1の(2)のロの(イ)のとおり、平成18年6月28日に、本件被相続人G口座から1,100,000円の現金が出金されたところ、当該出金は本件被相続人が行ったものである。そして、本件被相続人は、本件被相続人G口座に係る預金通帳の当該出金に係る出金額の印字部分の横に、自ら「贈与」とのメモ書をした。
       また、前記1の(2)のロの(ロ)のとおり、平成18年6月28日に、本件E1H口座に1,100,000円の現金が入金されたところ、当該入金は請求人E1が行ったものである。そして、請求人E1は、時期は不明であるが、本件E1H口座に係る預金通帳の当該入金に係る入金額の印字部分の横に、自ら「E4より」とのメモ書をした。
    • (ロ) 前記1の(2)のニの(イ)のとおり、平成21年6月3日に、本件被相続人K口座から2,200,000円の現金が出金されたところ、当該出金は本件被相続人が行ったものである。そして、本件被相続人は、本件被相続人K口座に係る預金通帳の当該出金に係る出金額の印字部分の横に、自ら「H、贈与」とのメモ書をした。
       また、前記1の(2)のニの(ロ)のとおり、平成21年6月4日に、本件E1H口座に1,110,000円の現金が入金されたところ、当該入金は請求人E1が行ったものである。そして、請求人E1は、時期は不明であるが、本件E1H口座に係る預金通帳の当該入金に係る入金額の印字部分の横に、自ら「E4より」とのメモ書をした。
       なお、上記の入金のほか、平成21年6月4日には、請求人E2名義のH銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)にも1,110,000円の現金が入金された。
    • (ハ) 請求人らが当審判所に対して提出した本件21年書面には、贈与者を本件配偶者、受贈者を請求人E1として、平成21年6月4日に、現金1,110,000円を贈与する旨の記載があり、それぞれ本件配偶者及び請求人E1の自筆による署名がされているが、押印はいずれもされていない。
  • ロ 請求人E1の申述
     請求人E1は、再調査の請求に係る調査において、その調査担当職員に対し、本件各現金贈与に関し、要旨次のとおり申述した。
    • (イ) 本件配偶者から請求人E1への贈与は、本件被相続人の指示によるものである。
    • (ロ) 請求人E1への贈与については本件配偶者からの贈与とし、請求人E2及び本件孫らについては本件被相続人からの贈与であり、本件被相続人からの指示に基づき各人の預金口座に入金した。
    • (ハ) 贈与された現金については、特に使用目的はなく、本件被相続人から贈与するからと言われ、受け取ったものであり、本件被相続人の相続開始後に定期預金等にしている。
  • ハ 請求人E1の答述
     請求人E1は、当審判所に対し、本件各現金贈与に関し、要旨次のとおり答述するとともに、本件21年書面を証拠として提出した。
    • (イ) 本件18年現金贈与については、事前に贈与の話はなく、平成18年6月28日に、突然自宅の母屋において、本件配偶者から「はい、これ」といった感じで現金1,100,000円を渡された。その際、この現金を渡された理由について、本件配偶者から特に説明はなかった。そして、本件配偶者から現金を渡されたことを忘れないように、入金後、すぐに本件E1H口座に係る預金通帳に自ら「E4より」とのメモ書をした。
    • (ロ) 本件21年現金贈与についても、自宅の母屋において、本件配偶者から封筒に入っていた現金1,110,000円を渡された。そして、上記(イ)と同様、本件E1H口座に係る預金通帳に「E4より」とのメモ書をした。
    • (ハ) 本件21年書面は、本件被相続人に言われたため作成したものであると思うが、本件配偶者から現金を渡された時に作成したという記憶はなく、また作成した時の状況も記憶にない。
  • ニ 検討
    • (イ) 本件各現金贈与に係る原資についてみると、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、1本件各現金贈与の当日又は前日に本件被相続人G口座又は本件被相続人K口座から、本件各現金贈与に見合う現金がそれぞれ出金されていること、2これらに係る各預金通帳に、本件被相続人自ら「贈与」又は「H、贈与」と記載していることのほか、当審判所の調査及び審理の結果によっても、3その原資が本件配偶者から出捐されたものであるとする客観的な証拠も見当たらないことからすれば、本件各現金贈与に係る原資は、本件被相続人の固有の財産である本件被相続人G口座及び本件被相続人K口座から出金された現金であるものと認められる。
    • (ロ) 本件被相続人は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件被相続人G口座及び本件被相続人K口座に係る預金通帳に、自ら「贈与」又は「H、贈与」と記載しているのであるから、本件被相続人は、本件各現金贈与に係る現金を贈与する旨の明確な意思を有していたものと認められる。
    • (ハ) また、本件被相続人は、本件被相続人K口座に係る預金通帳に「H、贈与」と記載しており、この「H」の部分は、H銀行を示すものと考えられるところ、上記イの(ロ)のとおり、本件被相続人K口座から出金された現金は、いずれも請求人らのH銀行の各普通預金口座に入金されていることからすれば、本件被相続人は、当該各入金について、請求人らが現金を入金する各預金口座を指示していたか、あるいは請求人らから入金先の報告等を受けるなど、何らかの関与をしていたものと推認される。
    • (ニ) 他方、前記1の(2)のニの(ハ)のとおり、請求人E1は、本件21年分申告書に、贈与者として本件被相続人の氏名を記載していたことが認められるほか、上記ロによれば、請求人E1は、本件被相続人から贈与するからと言われて、本件各現金贈与に係る現金を受領していたこと、本件配偶者は、本件被相続人の指示により、本件被相続人と請求人E1との間に入っていたにすぎないことがそれぞれ認められる。
    • (ホ) 以上のとおり、1本件E1H口座に入金された本件各現金贈与に係る原資は、本件被相続人の固有の財産である本件被相続人G口座及び本件被相続人K口座から出金された現金であること、2本件被相続人は、本件各現金贈与に係る現金を贈与する旨の明確な意思を有していたこと、3「H、贈与」とのメモ書からは、本件E1H口座に対する入金(平成21年6月4日)について、本件被相続人が何らかの関与をしていたものと推認され、上記ロの請求人E1の申述とも整合するものといえることから、本件各現金贈与に係る贈与者は、いずれも本件被相続人であり、上記(ニ)に照らせば、請求人E1もそれを認識した上で、本件被相続人から贈与を受ける意思で本件各現金贈与に係る現金を受領していたことが認められる。
       したがって、本件各現金贈与に係る贈与契約は、いずれも本件被相続人と請求人E1の間で成立していたものと認められる。
  • ホ 請求人らの主張について
    • (イ) 請求人らは、前記3の(2)の「請求人ら」欄のとおり、本件各現金贈与に係る贈与者は、いずれも本件配偶者である旨主張し、当該主張に沿う証拠として、上記イの(ハ)のとおり記載された本件21年書面を当審判所に提出するとともに、請求人E1は、上記ハの(イ)及び(ロ)のとおり、これと同旨の答述をする。
       そこで、本件21年書面及び請求人E1の答述の信用性等について、以下検討する。
    • (ロ) 本件21年書面について
       本件21年書面については、当審判所の調査及び審理の結果によれば、作成名義人である請求人E1及び本件配偶者がその意思に基づいて作成したものと認められる。
       そうすると、本件21年書面は、請求人E1及び本件配偶者の双方が贈与契約の意思表示を示した文書であるから、特段の事情のない限り、贈与契約があったものと認められることとなる。
       そこで、特段の事情の有無について検討すると、1当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人E1は、原処分に係る調査及び再調査の請求に係る調査において、本件各現金贈与の贈与者が誰であるかが問題となっていたにもかかわらず、本件21年書面の存在にはいずれも言及していなかったこと、2上記ハの(ハ)のとおり、請求人E1は、当審判所に対し、本件21年書面の作成状況について記憶していない旨答述していること、3前記1の(2)のニの(ハ)のとおり、請求人E1は、平成22年3月11日に、本件21年現金贈与について贈与者を本件被相続人と記載して贈与税の申告をしたことがそれぞれ認められ、これらの事実に照らせば、本件21年書面は、平成21年6月4日の本件21年現金贈与に際して作成されたものではなく、事後的に(早くとも平成22年3月11日以降)作成されたものと認められる。
       そうすると、本件21年書面については、その内容どおりの贈与の意思表示が本件21年現金贈与に際して存在したとはいえない特段の事情が認められるため、本件21年書面によって本件21年現金贈与の存在を認定することはできないというべきである。
    • (ハ) 請求人E1の答述について
      請求人E1は、上記ハの(イ)及び(ロ)のとおり、当審判所に対し、本件各現金贈与に係る現金については、いずれも本件配偶者から渡されたものであり、これらの現金を本件E1H口座に入金した際に本件E1H口座に係る預金通帳に「E4より」とのメモ書をした旨答述するところ、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、当該預金通帳にはそのような記載のあることが認められる。
       しかしながら、請求人E1は、上記答述の中で、本件配偶者が本件各現金贈与に係る現金を贈与する旨の意思表示をした趣旨の答述はしていないし、現金の出所や本件配偶者が現金を渡す理由についても答述していない上、再調査の請求に係る調査において、本件被相続人から贈与するからと言われ、受け取った旨申述していたのであり、「E4より」との各記載も、いつされたものかが明らかではなく、内容としても単に現金の交付者を示したものとの理解もできることに照らせば、上記の請求人E1の答述から本件各現金贈与の贈与者が本件配偶者であると認めることはできないというべきである。
    • (ニ) その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件各現金贈与に係る贈与者が本件配偶者である旨の請求人らの主張を的確に裏付ける証拠は認められない。
    • (ホ) 以上のとおり、請求人らの主張に沿う各証拠はいずれも採用できず、本件各現金贈与に係る贈与者が本件配偶者であるとは認められないから、請求人らの主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 上記(1)のとおり、本件精算課税申告は有効なものであり、また、上記(2)のとおり、本件各現金贈与に係る贈与契約は、いずれも本件被相続人と請求人E1との間で成立していたものと認められる。
     そうすると、請求人E1は、相続税法第21条の15第1項に規定する「特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者」に該当するから、本件届出書を提出した平成18年分以降、本件各現金贈与を含め、本件被相続人からの贈与により取得した財産の価額を本件相続税の課税価格に加算することとなる。
  • ロ ところで、前記1の(2)のロの(ニ)の請求人E1が本件被相続人の負担により納付した贈与税額〇〇〇〇円と、前記1の(2)のロの(へ)の本件被相続人が本件E1G口座から出金した1,200,000円との差額の〇〇〇〇円も、前記1の(2)のハと同様、請求人E1と本件被相続人との間で、返還の約束がなされていたとは認められず、清算もされていないことなどからすれば、請求人E1が本件被相続人から贈与により取得したものとみなされることとなる。
  • ハ 以上を前提として、当審判所において、請求人らの本件相続税に係る各納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄の各「納付すべき税額」欄のとおり、いずれも本件各更正処分における各納付すべき税額を上回るものと認められる。
     また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人E1に対する更正処分は適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、平成28年法律第15号による改正前の国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 そして、当審判所においても、請求人E1の過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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