(令和元年7月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、手書の図面を電子データ化する費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該電子データ化が完了していないにもかかわらず、相手方と通謀して虚偽の証ひょう書類を作成し、当該費用を損金の額に算入したことが事実の仮装の行為に当たるとして、法人税等の重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、相手方と通謀して虚偽の証ひょう書類を作成した事実はないとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、昭和16年2月○日に設立された、石油の輸出入業、精製業及び販売業等を目的とする法人であり、e事業所(以下「本件事業所」という。)及びf事業所を有している。
    • (ロ) 本件事業所には、総務部や工務部のほか五つの部が置かれており、総務部は総務グループ及び購買グループに分かれ、また、工務部はTグループ(以下「Tグループ」という。)、工務グループ及びUグループに分かれている。
    • (ハ) 請求人は、本件事業所及びf事業所における購買業務について、「購買業務管理規則」に基本事項を定めており、同規則第26条には、工事の検収について、要求部署が所定の完成検査の合格を認め、又は試運転後所定の性能を確認するなど工事の完成を確認したときに要求部署が検収し、検収報告書を作成し、購買グループに提出する旨が定められている。
  • ロ 完成図書整理工事(INTEG)について
    • (イ) Tグループ所属のJが作成した平成28年6月20日付の「見積引合仕様書」(以下、「本件仕様書」といい、本件仕様書による工事を「本件工事」という。)には、要旨次の記載がある。
      • A 件名は、完成図書整理工事(INTEG)である。
      • B 本件工事の概要は、INTEG関係の完成図書整理工事に伴い、既存の図面(以下「原図」という。)をCADソフトを利用して電子データ化(以下、この電子データ化されたデータを「本件CADデータ」という。)する工事である。
      • C 工事期間は、平成28年7月20日から平成29年3月20日までである。
      • D 完全検収は、工事完了後完成図書提出の時点とする。
      • E 工事仕様は、「見積引合補足仕様書」(以下「本件補足仕様書」という。)のとおりである。
    • (ロ) 本件補足仕様書には、要旨次の記載がある。
      • A 工事内容の概要は、本件事業所INTEG計装関係の完成図書をCADソフトにより作成するものである。
      • B 本件工事の完成図書の作成内容は、別表1の「作成内容」欄のとおりとする。
      • C 作成した図面については、事前に施工者にて記載ミス、印刷不良等の精査を行った上で、○○として提出すること。
      • D 完成図書の製本は、原則、図面はA4サイズで印刷し、キングファイルにまとめて2部提出すること。
         また、本件CADデータは、CD−ROM等の外部記録媒体に保存して提出すること。
      • E 進捗報告は、原則、1か月に1回進捗状況をまとめ報告すること。
    • (ハ) K社は、平成28年7月20日付で本件工事に係る見積書を作成し、本件事業所に提出した。
    • (ニ) 本件事業所は、平成28年8月8日付の注文書により、本件工事をK社に発注し、K社は、同月18日付の注文請書により、本件工事を受注した。
       上記の注文書及び注文請書には、いずれも本件工事の発注金額を4,050,000円(税込み)及び施工納入期日を平成29年3月20日とする旨記載されている。
    • (ホ) K社は、平成29年3月20日、キングファイル2冊(以下「本件ファイル」という。)を本件事業所に提出した。
       また、K社は、本件工事に係る「検収依頼伝票/検収報告書」(以下「本件検収書」という。)の「責任者」欄にK社L事業所次長のMの記名押印し、「施工完了日」欄に「2017年3月20日」と記載して、本件検収書を本件事業所に提出した。
       さらに、K社は、「工事完了に伴う検収報告のお願いについて」と題する書面(以下「本件検収願い」という。)の「検収年月日」欄に「2017年3月20日」と記載して、本件検収願いを本件事業所に提出した。
    • (へ) Jは、本件検収書の「検収日」欄に「2017年3月20日」と記載し、Tグループ長の決裁を受けた後、本件検収書の「報告日」欄に「2017年3月22日」と記載した上で、本件検収書を本件事業所の総務部購買グループに回付した。
       また、Jは、本件検収願いの「ご確認日」欄に「2017年3月23日」、「ご担当者」欄に「TG J」と記載し、押印した上で、本件検収願いをK社に返還した。
  • ハ 請求人は、平成29年3月20日、本件工事の代金3,750,000円(税抜き)を損金の額に算入するとともに、4,050,000円(税込み)を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に算入した。
  • ニ K社は、平成29年6月末頃、本件CADデータを格納した外部記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)を本件事業所に提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税及び平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書にそれぞれ別表2及び別表3の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項又は地方法人税法第19条第5項により1月間延長されたもの)までに申告した。また、請求人は、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ロ N税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成30年5月29日付で、請求人が、実際には本件記録媒体及び図面データを印刷した製本が本件事業年度末までに納品されていないにもかかわらず、K社と通謀し、本件検収書の「施工完了日」欄に、本件事業年度中に本件記録媒体及び当該図面データを印刷した製本を納品したとする虚偽の納品日を記載させ、本件工事の代金を損金の額に算入していたなどとして、別表2ないし別表4の各「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税、本件課税事業年度の地方法人税及び本件課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、当該各賦課決定処分のうち重加算税に係る各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成30年8月27日に審査請求をした。
     なお、請求人は、本件各更正処分を審査請求の対象としていない。

2 争点

請求人には通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があった。 通則法第68条第1項に規定する事実の仮装はなかった。
(1) 本件工事における本件記録媒体は、単なる媒体という位置づけではなく、そもそもの契約の目的であり、かかる目的物の納品を契約担当者であるJが失念することはおおよそ想定できない。
 また、Jは、自ら補正を行う担当者であり、現に平成29年3月20日後に補正を行っていることから、同日に役務の提供が完了したと誤認することはおおよそあり得ない。
 さらに、Jは、1本件記録媒体を平成29年3月20日までに受け取っていないこと、2同日に提出された本件ファイルは同日時点におけるチェック未済の電子データを印刷したものであること、3同日が契約満了日であるため、同日までに検収を終わらせたいと思っていたこと、4同日以降に本件ファイルのチェックを行い、修正依頼を行っていること、5本件工事に係る役務の提供が完了したのは同年6月28日以降であることを申述している。
 これらのことから、Jが、平成29年3月20日時点において本件工事の役務の提供が完了しておらず、検収も行っていないことを認識しつつ、本件検収書の「検収日」欄に「2017年3月20日」と記載したことは明らかである。
(1) Jは、本件工事を紙ベースの原図を電子データ化する作業の委託として捉えており、○○を受領する都度、原図どおりに作成されているか確認し、平成29年3月20日時点において、○○の確認作業は全て終えていたことから、本件工事の役務の提供が完了したと認識していた。
 また、平成29年3月20日以降に行われた図面の補正は、本件補足仕様書に指示のない様式・形式などの図面の体裁を整える作業であり、Jは、この補正が本件工事の範囲外であると認識していた。
 さらに、Jは、平成29年3月20日に図面の電子データ化が完了した本件ファイルが納品されており、本件記録媒体を入手する喫緊性はないため、図面の体裁を整える作業の完了後、本件記録媒体の引渡しを受けることでよいと認識していた。
 加えて、本件ファイルは、電子データを印刷したものであり、当然に本件ファイルと同時に本件記録媒体を納品することは可能であり、Jが本件検収書に虚偽の検収日を記載する動機はなかった。
 これらのことから、Jは、平成29年3月20日時点において、本件工事に係る役務の提供が完了していたと認識していたことから、虚偽の本件検収書を作成したという認識はなかった。
(2) 本件工事は、平成29年3月20日において、本件ファイルの補正作業が未了であり、本件記録媒体の提出もされていないことから、客観的に役務の提供が未了であることが明らかであるにもかかわらず、MがJに断りなく、一方的に「施工完了日」欄に同日を記載した本件検収書を発行するとは考え難い。
 また、Mは、1通常、「検収依頼伝票/検収報告書」は役務の提供が完了して、施主の検収を受けた後に発行すること、2役務の提供の完了前に「検収依頼伝票/検収報告書」や請求書を発行することはないこと、3本件検収書は、平成29年3月20日に本件ファイルを提出した際にJから依頼を受けたから発行したものであって、同日に本件記録媒体の納品はしていないこと、4役務の提供の完了前に本件検収書及び本件検収願いを発行したことについて、Jと合意があったこと、5同月31日までに本件工事に係る役務の提供が完了していないことを申述している。
 これらのことから、Jが、Mと通謀し、平成29年3月20日において、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、Mに本件検収書の提出を指示したものと認められる。
(2) Mは、平成29年3月20日に、紙ベースの完成版である本件ファイルを納品したため、同日に本件工事に係る役務の提供が完了していたと認識し、本件検収書及び本件検収願いを発行したのであり、双方から特別な依頼はなかった。
 また、Mは、本件調査担当職員に対して、Jと合意があった旨申述したが、Jと図面の体裁を整える作業が全て完了した後に、本件記録媒体を引き渡すことで不都合がないことをいつもどおり確認したまでであり、本件工事に係る役務の提供が完了していないことを認識しつつ、検収を行うことに合意したということではない。
 さらに、J及びMは、いずれも、本件調査担当職員に対して、平成29年3月31日時点で本件工事に係る役務の提供が完了していない旨申述したが、本件工事の検収要件を確認した上で、本件調査担当職員による質疑応答が行われたものであり、この各申述をもって、同日時点で役務の提供が完了していないことを認識していたことにはならない。
(3) 以上のことから、Jが、平成29年3月20日時点において、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、本件検収書に同日を検収日等として記載して事実を仮装した行為は、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装に該当する。 (3) 以上のことから、J及びMともに、本件ファイルが納品された時点で本件工事に係る役務の提供が完了していたと認識していたため、虚偽の本件検収書を作成したという意識はなく、また、通謀したという事実も認められないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する事実の仮装はなかった。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項は、上記1の(2)のとおり、通則法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
 そして、通則法第68条第1項にいう「事実を隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件工事について
    • (イ) 完成図書整理工事は、1請求人保存の原図は、本件事業所の設備自体が古いものも多く、手書きの原図に補修工事の部分を別の完成図書を添付してあるなど一枚になっていないものもあり、一貫性がなかったこと、また、2完成図書の形式は、CADデータやエクセルデータなどで作成されたものとなっており、統一されていなかったことから、原図と実際の現場が合っているか否かを確認し、整理して最新版の完成図書を作成することを目的として、平成27年5月から開始されたものである。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成29年9月26日から同月29日まで実施した本件事業所に対する実地の調査において、本件CADデータの作成年月日が平成29年6月28日となっていたことから、本件記録媒体が提出されたのは同日以降であるため、本件工事の代金を本件事業年度の損金の額に算入することはできないことを指摘し、請求人は当該指摘を認めた。
  • ロ 本件ファイルについて
    • (イ) K社は、別表1の「○○提出日」欄のとおり、平成28年10月、同年11月、平成29年2月及び同年3月の4回に分けて、○○を本件事業所に提出した。
    • (ロ) Jは、K社から提出された○○について、原図と確認する作業を行い、変更する点を○○に朱書きしてK社に返却し、訂正を依頼した。
    • (ハ) K社が平成29年3月に本件事業所に提出した○○のうち、「○○」の○○11枚(別表1の「作成内容」欄の○○)については、いずれも原図のとおりとなっていたが、Jは、当該各○○にタイトルの名称変更や設置当時の制御盤の名称から現行の制御盤の名称への変更などの箇所を朱書きして、K社に返却した。そして、K社は、平成29年3月20日以降に上記の変更を行った。
    • (ニ) 本件調査担当職員からの照会文書に対するMの平成30年3月19日付の回答書には、当社として、紙ベース(ファイル2部)を提出時点にて、施工完了日と判断し本件検収書に施工完了日を記載し提出した旨が記載されている。
    • (ホ) 以上のことからすると、平成29年3月20日に提出された本件ファイルは、上記(ハ)の訂正がされていなかったものの、少なくとも原図の電子データ化は終了し、本件ファイルは原図どおりの図面をまとめたものであったと認められる。
  • ハ Tグループが発注した本件工事以外の工事に係る検収の状況について
     以下のとおり、電子データの提出が検収要件となるTグループが発注した本件工事以外の工事についても、紙ベースの完成図書が提出された時点で検収を行っていた例が認められる。
    • (イ) K社に発注した「完成図書整理工事(1CDU関係)」に係る平成27年5月12日付の見積引合仕様書では、完全検収は工事完了後完成図書提出の時点とし、完成図書の製本は、原則、図面はA4サイズで印刷し、キングファイルにまとめて2部とCAD図面を外部記録媒体に保存して提出することになっているところ、当該工事に係る「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄には、「2016年2月29日」と記載されているが、当該工事に係る完成図書の電子データを保存した外部記録媒体は、平成28年11月18日以降に提出されていた。
       当該工事の担当者(P)は、○○の確認作業が終了し、平成28年2月29日にK社から紙ベースの完成図書が提出されたため、同日を「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄に記載していた。
    • (ロ) K社に発注した「泡消火配管自動弁更新工事の内、計装工事」に係る平成28年1月8日付の見積引合仕様書及び計装工事補足仕様書では、完全検収は工事完了後完成図書提出の時点とし、完成図書は工事完了後1か月以内に電子データと共に提出することになっているところ、当該工事に係る「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄には、「2016年3月18日」と記載されているが、当該工事に係る完成図書の電子データを保存した外部記録媒体は、平成28年7月20日以降に提出されていた。
       当該工事の担当者(Q)は、当該工事の終了を現場で確認し、平成28年3月18日にK社から紙ベースの完成図書が提出されたため、同日を「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄に記載していた。
    • (ハ) R社に発注した「T-010(28,746KL CRT)タンク開放検査工事の内、計装工事」に係る平成25年12月2日付の見積引合仕様書及び計装工事補足仕様書では、完全検収は工事完了後完成図書提出の時点とし、完成図書は工事完了後1か月以内に電子データと共に提出することになっているところ、当該工事に係る「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄には、「H27年1月20日」と記載されているが、当該工事の完成図書に係る電子データを保存した外部記録媒体は、平成27年2月26日以降に提出されていた。
       当該工事の担当者(S)は、当該工事の施工完了を現場で確認し、平成27年1月20日にR社から紙ベースの完成図書が提出されたため、同日を「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄に記載していた。
    • (ニ) 上記(ロ)及び(ハ)以外のTグループが発注した計装工事に係る見積引合仕様書及び補足仕様書でも、完全検収は工事完了後完成図書提出の時点とし、完成図書は工事完了後1か月以内に電子データと共に提出することになっているものがあるが、これらの計装工事についても同様の検収がなされていたことが認められる。
    • (ホ) 以上のとおり、Tグループが発注した工事に係る見積引合仕様書及び補足仕様書では、完全検収は紙ベースの完成図書と電子データが提出された時点とされているものの、施工業者から紙ベースの完成図書が提出された日を「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄に記載されていた例があることからすると、Tグループにおいて、電子データが提出されない限り検収できないといった意識が一般的にあったものとは認められない。

(3) 関係者の答述等

  • イ Jの申述及び答述
    • (イ) Jは、平成29年11月28日、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
      • A チェック未済の書面が全てつづられた本件ファイルの提出があったことから、検収を行った。
      • B チェック前の書面の提出はあったが、修正後の書面もまだ納入されていなかったと思うし、本件記録媒体の納入も行われていなかったため、平成29年3月31日時点では役務提供が完了していない。
         チェック未済で検収したのは、平成29年3月20日が契約満了日だったことから、それまでに検収を終わらせたいと思ったからである。
      • C 本件工事の役務提供が完了したのは、はっきりとは覚えていないが、本件CADデータの作成年月日が平成29年6月28日となっていることから、その日以降に役務提供が完了したことは間違いないと思う。
    • (ロ) Jは、平成30年11月27日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
      • A 見積引合仕様書には、完全検収という項目があり、一般の工事であれば、工事の施工が完了し、その後に施工図である完成図書(電子データを含む。)を引き渡されていれば、契約上は完全検収であるが、現場としては、電子データが来なくても、紙ベースの完成図書が引き渡されていれば完全検収としていた。
         電子データは、訂正のやり取りがある場合があるので、電子データのやり取りが完了していなくても完全検収としていた。今回問題となっている工事も同様に考えていた。
         業者から引き渡された外部記録媒体は管理していない。データをサーバーに保存してしまえば問題ない。
      • B 本件検収書に検収日を2017年3月20日と記載したのは、○○の提出があり確認が終わり、本件ファイルが提出されたため検収したにすぎない。Mに、これといった依頼はしていない。通常のやり取りである。
      • C 平成29年9月29日に本件調査担当職員に対し、朱書きの内容は図面の根幹となる訂正事項ではなく、役務提供の範囲ではないと説明した。
  • ロ Mの申述及び答述
    • (イ) Mは、平成29年11月28日、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
      • A 請求人にまだチェックがされていない未完成の図面提出を行ったときに依頼があり、本件検収書を発行した。
      • B ドラフト版として書類ベースの引渡しは、平成29年3月20日に行っている。はっきりとは覚えていないが、本件CADデータの作成年月日が平成29年6月28日となっているから、その日以降に納入し役務提供が完了したことになる。
    • (ロ) Mは、平成30年11月28日、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
      • A 本件工事の工事項目としては、手書き図面の一覧があり、請求人からそれのコピーを預かり、その原図からCAD化、データ化するという仕事であった。
         今回は、進捗状況の報告とともに○○の提出があり、本件補足仕様書上は、原則月1回進捗状況を報告することになっていたが、実際は、適時に報告していた。
      • B 原図どおりの○○の提出は、平成29年3月20日までには完了していた。また、進捗状況の表も併せて提出していた。提出した○○に訂正箇所があれば、朱書きで返却され、それを反映するという作業であった。
         ○○というのは、原図をCAD化して、それから出力したものであり、原図どおりの○○は、正確には記憶していないが、工期末の平成29年3月20日までには提出済みということである。それまでに朱書きの部分で変更依頼があったものについては変更済みであり、その後、原図の名称等が変更になっていたので訂正してほしいなどの軽微な変更があり、返却されているが、当社としては、工期末の平成29年3月20日までには○○を完了したものを本件ファイルで提出したと考えている。
      • C しかし、本件CADデータは提出していないのは事実である。当社では、外部記録媒体の管理が厳格なこともあり、本件CADデータを外部記録媒体で提出するのは1回にしたかったからである。
         完成品を本件ファイルにとじて、本件検収書に日付を記入して請求人に本件検収願いとともに提出し、本件検収願いに検収した日付が記入されて返還されたので、売上げに計上した。
         検収に関して、特別にJから連絡があったことはない。本件仕様書上の締め切り日付までに仕事を終わらせ、提出したにすぎない。
      • D 確か問題になっている工事の1年前にも同様な工事があり、紙ベースのものを提出すれば、請求人は検収してくれた。
         当社は、図面の場合には原図どおりに提出すれば、本来仕事は終了であり、それと同じように今回もしただけである。
         原図からの変更は、軽微なものであれば、過去からの関係もあり、保証の範囲内との認識である。

(4) 検討

  • イ J及びMの申述及び答述の信用性等の検討
    • (イ) Jの答述の内容について
       Jは、上記(3)のイの(ロ)のA及びBのとおり、1現場としては、電子データの引渡しがなくても、紙ベースの完成図書が引き渡されていれば完全検収としていた旨及び2本件検収書に検収日を2017年3月20日と記載したのは、○○の提出があり確認が終わり、本件ファイルが提出されたため検収したにすぎない旨の答述をしている。
       これらの答述は、平成29年3月20日におけるJの認識を具体的かつ詳細に述べており、また、同日に提出された本件ファイルの状況等(上記(2)のロ)及びTグループが発注した本件工事以外の工事に係る検収の状況(同(2)のハ)とも整合することから、信用することができる。
    • (ロ) Mの答述の内容について
       Mは、上記(3)のロの(ロ)のBないしDのとおり、1当社としては、工期末の平成29年3月20日までには○○を完了したものを本件ファイルで提出したと考えている旨、2本件検収書に日付を記入して請求人に本件検収願いとともに提出し、本件検収願いに検収した日付が記入されて返還されたので、売上げに計上した旨及び31年前にも同様な工事があり、紙ベースのものを提出すれば、請求人は検収してくれたので、それと同じように今回もしただけである旨の答述をしている。
       これらの答述は、具体的かつ詳細であり、Jの答述とも合致するものである上、平成29年3月20日に提出された本件ファイルの状況等(上記(2)のロ)、平成30年3月19日付の回答書の記載内容(同ロの(ニ))及び平成27年5月にK社に発注した完成図書整理工事(1CDU関係)に係る検収の状況(同(2)のハの(イ))とも整合することから、信用することができる。
    • (ハ) J及びMの申述の内容について
      • A Jは、上記(3)のイの(イ)のBのとおり、平成29年3月末時点では、チェック前の書面の提出はあったが、修正後の書面もまだ納入されていなかったと思う旨申述しているが、信用性が認められる上記(イ)の答述に加え、上記(3)のイの(ロ)のCの答述も併せ鑑みれば、Jは、本件ファイルが原図どおりになっていれば、朱書きの内容が修正されていなくても、完成図書として認識したものと考えられ、上記の申述は、本件ファイルが完成図書ではないと認識しつつ、契約満了日までに検収を終わらせるため、あえて虚偽の検収日を記載したことを認めたものとは考えられない。
      • B また、Jは、上記(3)のイの(イ)のBのとおり、本件記録媒体の納入も行われていなかったため、平成29年3月31日時点では役務提供が完了していない旨申述し、また、Mは、同(3)のロの(イ)のBのとおり、本件CADデータの作成年月日が同年6月28日となっているから、その日以降に納入し役務提供が完了したことになる旨申述している。
         しかしながら、これらの申述は、上記(2)のイの(ロ)のとおり、請求人が本件調査担当職員からの本件工事の代金を本件事業年度の損金の額に算入することはできないとの指摘を認めた後の平成29年11月28日に実施された質問調査に対するものであるのに対し(上記(3)のイの(イ)及びロの(イ))、一方で、J及びMは、同(3)のイの(イ)のA及び(ロ)のB並びに同(3)のロの(イ)のA及び(ロ)のBのとおり、本件調査担当職員の質問調査の時点から一貫して、同年3月20日に本件ファイルの提出があったから、本件検収書にそれぞれ施工完了日及び検収日を同日と記載した旨申述及び答述している。こうしたことからすると、本件記録媒体の納入がなく役務提供が完了していない旨のJ及びMの申述は、いずれも質問調査が実施された平成29年11月28日において、客観的事実として、本件調査担当職員からの役務の提供が未了である旨の指摘を認めたことを示すものにすぎない。
  • ロ 本件検収書に施工完了日及び検収日を平成29年3月20日と記載したことについて
    • (イ) 本件工事は、上記1の(3)のロの(ロ)のDのとおり、完成図書の製本として、原則、A4サイズで印刷した図面をキングファイルにまとめて2部と本件CADデータを保存した外部記録媒体を提出することとなっているところ、1本件記録媒体は、平成29年6月末頃に提出されていること(同(3)のニ)、2請求人は、本件調査担当職員からの本件工事の代金を本件事業年度の損金の額に算入することができないとの指摘を認めていること(上記(2)のイの(ロ))からすると、本来、本件検収書には、本件記録媒体が提出された日以降の日を施工完了日及び検収日として記載すべきであったと認められる。
    • (ロ) 一方、1完成図書整理工事の目的は、原図を整理して最新版の完成図書を作成することであること(上記(2)のイの(イ))、2平成29年3月20日に提出された本件ファイルについては、少なくとも原図の電子データ化がされ、原図どおりの図面をまとめたものであったこと(同(2)のロの(ホ))、3Jとしては、朱書きの内容は図面の根幹となる訂正事項ではなく、役務提供の範囲ではないと考えていたこと(上記(3)のイの(ロ)のC)、4Tグループにおいて、電子データが提出されない限り検収できないといった意識が一般的にあったとは認められないこと(上記(2)のハの(ホ))から、J及びMは、本件ファイルが提出されたことをもって、本件工事に係る役務の提供が実質的に完了したものと考え、従前の工事と同様に、本件検収書にそれぞれ施工完了日及び検収日を2017年3月20日と記載したものと認められる。
    • (ハ) そうすると、J及びMは、本件ファイルが提出された時点で本件工事に係る役務の提供が実質的に完了しているとの認識の下、本件検収書にそれぞれ施工完了日及び検収日を2017年3月20日と記載したと認められ、JがMと通謀し、虚偽の施工完了日及び検収日が記載された本件検収書を作成することにより、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められない。
  • ハ 小括
     以上のとおり、JがMと通謀し、意図的に本件検収書に虚偽の検収日を記載したとは認められず、その他の証拠によっても請求人が故意に事実を仮装することによって、本件工事の代金を本件事業年度の損金の額又は課税仕入れに係る支払対価の額に算入したと評価すべき事実も認められないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったとは認められない。

(5) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、1契約担当者であるJが本件記録媒体の納品を失念することはおおよそ想定できないこと、2補正担当であるJが平成29年3月20日後に補正を行っており、同日に役務提供が完了したと誤認することはおおよそあり得ないこと並びに3Jが同日までに本件記録媒体を受け取っていないこと、同日に提出された本件ファイルはチェック未済のものであったこと及び同日が契約満了日であるため検収を終わらせたいと思っていたことなど申述したことから、Jが同日時点において本件工事の役務の提供が完了しておらず、検収も行っていないことを認識しつつ、本件検収書の「検収日」欄に「2017年3月20日」と記載したことは明らかである旨主張する。
     しかしながら、Jが、本件ファイルが提出された平成29年3月20日時点で本件工事に係る役務の提供が実質的に完了したものと考え、本件検収書の「検収日」欄に同日を記載したものであり、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められないことは上記(4)のロで述べたとおりであることから、原処分庁の主張には理由がない。
  • ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、Jが、Mと通謀し、平成29年3月20日において、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、Mに本件検収書の提出を指示したものと認められる旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のロの(イ)のAのとおり、Mは、未完成の図面提出を行ったときに依頼があり、本件検収書を発行した旨申述しているものの、同ロの(ロ)のCのとおり、検収に関して、特別にJから連絡があったことはない旨答述しており、また、J及びMは、本件ファイルが提出された平成29年3月20日時点で本件工事に係る役務の提供が実質的に完了したものと考えていたことは上記(4)のロで述べたとおりである。したがって、JがMと通謀し、Mに本件検収書の提出を指示したとは認められないことから、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

本件各賦課決定処分については、上記(4)のハのとおり、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。他方、請求人につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、本件事業年度の法人税、本件課税事業年度の地方法人税及び本件課税期間の消費税等の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において、請求人が納付すべき本件事業年度の法人税、本件課税事業年度の地方法人税及び本件課税期間の消費税等の過少申告加算税の額を計算すると、別紙1ないし別紙3の各「取消額等計算書」のとおりであると認められる。したがって、本件各賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分は違法である。

(7) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙1ないし別紙3の各「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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