(令和元年9月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、不動産貸付業を営む審査請求人J1(以下「請求人J1」という。)及びその母である同J2(以下「請求人J2」といい、請求人J1と併せて「請求人ら」という。)が、その賃貸していた土地上に存する当該土地の賃借人所有の建物収去に要した費用について、いずれも不動産所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該費用は家事上の経費に該当し、必要経費に算入することができないとして所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人らは、不動産貸付業を営む個人事業者である。
  • ロ 請求人らは、L(平成24年10月○日死亡。以下「亡L」という。)に対し、請求人らが共有するa市b町一丁目○−○の土地(地積943.84u)の一部(後記ニの(ヘ)の和解調書によれば約684.04u。以下「本件土地 」という。)を、月額378,500円で賃貸していた(以下、同賃貸に係る賃貸借契約を「本件土地賃貸借契約」という。)。
     なお、本件土地の共有持分は、請求人J1が3分の2、請求人J2が3分の1である。
  • ハ 亡Lは、本件土地上に、別表1の順号1ないし4(順号4の建物については未登記)の各建物(以下「本件各建物」という。)を所有し、その一部を5名の賃借人(以下、併せて「本件各建物賃借人ら」という。)に対し、それぞれ賃貸していた。
  • ニ 本件各建物の収去に至る経緯は、以下のとおりである。
     なお、以下の申立て等の手続につき、それぞれ単独名義で行ったものについても、請求人らが合意して行ったものである。
    • (イ) 亡Lは、平成24年10月○日に死亡し、その法定相続人は、全員、亡Lの相続財産について相続放棄をした。
    • (ロ) 請求人J1は、平成25年8月5日付で、M家庭裁判所に対し、亡Lの相続財産(以下「本件相続財産法人」という。)について、相続財産管理人の選任審判を申し立て、M家庭裁判所は、同年9月17日、亡Lの相続財産管理人(以下「本件相続財産管理人」という。)として、N弁護士を選任した。
    • (ハ) 請求人らは、本件相続財産管理人に対し、平成25年10月4日付の書面をもって、平成24年11月分から平成25年9月分までの本件土地賃貸借契約に基づく未払賃料4,163,500円(378,500円×11か月)を同書面到達の日から1週間以内に支払うよう催告するとともに、同期限内に支払がない場合は、同期限を停止期限として本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、同書面は、同年10月5日、本件相続財産管理人に到達した。
    • (ニ) 本件相続財産管理人が上記(ハ)の未払賃料を支払わなかったため、平成25年10月12日の経過をもって、本件土地賃貸借契約は終了した。
    • (ホ) 請求人J2は、平成26年9月16日、本件相続財産法人に対し、本件各建物を収去して本件土地を明け渡すこと及び平成24年11月30日から本件土地明渡し済みまで1か月当たり378,500円の割合による賃料及び賃料相当損害金を支払うことを求めるとともに、本件各建物賃借人らに対し、本件各建物のそれぞれの占有部分を退去して本件土地を明け渡すことを求めて、P地方裁判所に提訴した(以下「本件訴訟」という。)。
    • (へ) 本件訴訟の平成27年4月24日の第3回弁論準備手続期日において、請求人J2、本件相続財産法人(法定代理人本件相続財産管理人)及び本件各建物賃借人らのうち上記期日までに退去しなかったQとR(以下、両名を併せて「占有者ら」という。)との間で、和解(以下「本件和解」といい、本件和解に係る調書の正本を「本件和解調書」という。)が成立した。本件和解の条項は、要旨次のとおりである。
      • A 請求人J2と本件相続財産法人は、本件土地賃貸借契約は、平成25年10月12日、本件相続財産法人の債務不履行による解除により終了したことを相互に確認する。
      • B 請求人J2は、本件相続財産法人の無資力に鑑み、本件相続財産法人に対し、本件土地の明渡しを平成27年5月末日まで猶予する。
      • C 本件相続財産法人は、請求人J2に対し、平成27年5月末日限り、本件土地を、本件各建物を収去して明け渡す。
      • D 本件相続財産法人は、請求人J2に対し、本件土地についての平成24年11月分から平成25年10月分までの12か月分の未払賃料3,982,416円及び平成25年10月分から平成27年5月分までの20か月分の未払賃料ないし賃料相当損害金7,423,484円の合計11,405,900円の支払義務があることを認める。
      • E 本件相続財産法人と占有者らは、本件相続財産法人と本件各建物に係るそれぞれの賃貸借契約が平成27年3月31日合意解除により終了したことを相互に確認し、本件相続財産法人は、占有者らに対し、本件各建物のそれぞれの占有部分の明渡しをいずれも同年5月末日まで猶予し、占有者らは、本件各建物のそれぞれの占有部分をいずれも同日限り明け渡す。
      • F Qと本件相続財産法人は、Qが上記Eの期日限りに明け渡したとき、Qの本件相続財産法人に対する平成24年12月分から平成27年5月分までの未払賃料ないし賃料相当損害金債務合計2,250,000円と本件相続財産法人のQに対する解決金債務2,250,000円とを対当額で相殺することに合意する。
         Rと本件相続財産法人は、Rが上記Eの期日限りに明け渡したとき、Rの本件相続財産法人に対する平成24年12月分から平成27年5月分までの未払賃料ないし賃料相当損害金債務合計1,479,000円と本件相続財産法人のRに対する解決金債務1,479,000円とを対当額で相殺することに合意する。
      • G 請求人J2、本件相続財産法人及び占有者らは、各当事者間には、本件和解の条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
      • H 請求人J2は、本件相続財産法人及び占有者らに対するその余の請求を放棄する。
    • (ト) 請求人J2は、本件相続財産管理人が上記(ヘ)のCの期限である平成27年5月末日を経過しても本件各建物を収去しなかったため、同年7月9日、P地方裁判所に対し、本件和解調書に基づき、本件各建物の収去について、民事執行法第171条《代替執行》第1項第1号の決定(授権決定)を申し立てた。P地方裁判所は、同年12月2日、当該申立てを相当と認め、債権者(請求人J2)の申立てを受けた執行官は、本件土地上にある本件各建物を債務者(本件相続財産法人)の費用で収去することができる旨の授権決定をした。なお、請求人J2は、上記申立ての際、同条第4項の決定(費用前払決定)の申立てはしなかった。
    • (チ) 請求人J2は、平成27年12月28日、P地方裁判所の執行官に対し、本件和解調書及び上記(ト)の授権決定に基づき、本件相続財産法人を債務者として、本件各建物内の動産に対する動産執行のほか、本件各建物の収去の代替執行及び本件土地の明渡しの強制執行を申し立てた。上記申立てを受けた執行官は、建物収去の代替執行の執行補助者としてS社の下請業者を選任の上、平成28年3月4日に本件各建物を取り壊し、同月11日、本件各建物の収去及び本件土地の明渡しの各執行を完了した。なお、上記動産執行については、本件相続財産法人の占有する動産は換価の見込みがないとして、執行不能により終了した。
    • (リ) 請求人らは、平成28年3月28日、上記(チ)の本件各建物の収去に係る費用として、○○○○円を、S社名義の普通預金口座に振込む方法により支払い、振込手数料864円を負担した(以下、上記収去に係る費用と振込手数料の合計○○○○円を「本件各建物収去費」という。)。
  • ホ 請求人らは、平成28年1月31日、T社との間で、本件土地につき、駐車場用地として月額179,280円で賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件駐車場賃貸借契約」という。)を締結し、T社は、同契約に基づき、同年3月29日から本件土地(同契約に係る契約書によれば約598u)の使用を開始した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らの確定申告等の状況については、以下のとおりであった。
    • (イ) 請求人らは、平成24年分の所得税及び平成25年分から平成27年分までの所得税及び復興特別所得税(以下、両税を併せて「所得税等」という。)について、上記(3)のニの(ヘ)のDの本件土地の未収賃料及び賃料相当損害金をそれぞれ不動産所得の金額の計算上収入金額に算入して申告した。
    • (ロ) 請求人らは、平成28年分の所得税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限内にそれぞれ提出した。
       その具体的な申告内容は、次のとおりである。
      • A 上記(3)のホのT社に対する本件駐車場賃貸借契約に基づく賃料1,630,870円について、請求人J1は1,087,247円を、請求人J2は543,623円を、それぞれ不動産所得の金額の計算上収入金額に算入した。
      • B 上記(3)のニの(リ)の本件各建物収去費○○○○円について、請求人J1は○○○○円を、請求人J2は○○○○円を、それぞれ不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した。
      • C 上記(3)のニの(ヘ)のDの本件土地の未収賃料及び賃料相当損害金の合計11,405,900円について、貸倒損失として、請求人J1は7,153,867円を、請求人J2は4,252,033円を、それぞれ不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した。
  • ロ 原処分庁は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成30年7月31日付で、請求人らが平成28年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入していた本件各建物収去費(上記イの(ロ)のB)のそれぞれの金額について、いずれも家事上の経費に該当し、必要経費に算入できないとして、別表2の「更正処分等」欄のとおり、平成28年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
  • ハ 請求人らは、平成30年10月3日、いずれも、原処分の全部に不服があるとして審査請求をした。なお、請求人らは、別紙のとおり、請求人J1を総代として選任している。

2 争点

本件各建物収去費は、請求人らの不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できるか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人ら
本件各建物収去費は、次の理由から、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない。
 本件土地は、本件土地賃貸借契約が終了した平成25年10月12日以後、請求人らの不動産所得を生ずべき事業の用に供されていない資産である。
 本件各建物も、取り壊されるまで、その所有者は本件相続財産法人であり、請求人らが所有したり貸し付けたりしたことはないから、請求人らの不動産所得を生ずべき事業の用に供されていない資産である。そして、その解体は、P地方裁判所が、本件和解に基づく請求人らの申立てを相当として、本件各建物を本件相続財産法人の費用で収去することができる旨の決定をしたことにより強制執行されたものであり、請求人らが本件各建物収去費を支払ったのは、本件相続財産法人が負担すべき収去費用を立て替えたものにすぎない。
 したがって、本件各建物収去費は、本件各建物の解体後の新たな本件土地の利用目的にかかわらず、請求人らの不動産所得を生ずべき事業の用に供されていない土地の上に存する、このような事業の用に供されていない他人の建物を任意に処分するのに要した費用というべきであるから、所得税法第45条《家事関連費の必要経費の不算入等》第1項の家事上の経費に該当する。
本件各建物収去費は、次の理由から、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できる。
(1) 土地の貸付業務は、賃借人へ更地を貸し付け、賃借人が建築した建物を解体して更地として返還を受けるまでが一連の流れであるから、本件土地の返還を受けるまでは、本件賃貸借契約の終了にかかわらず、本件土地の貸付けという業務は継続している。そして、請求人らが平成25年10月12日以後の本件土地に係る賃料相当損害金について、それぞれ不動産所得の金額の計算上収入に計上しており、同日以後、本件土地を家事用資産として転用した事実がない以上、収入計上の源泉である本件土地は、本件各建物の取壊し時においても、事業用資産である。
 また、請求人らは、賃借人である本件相続財産法人に資力がなく、本件各建物を収去して本件土地を更地にして返還しなかったため、本件訴訟を提起して強制執行により本件各建物を収去し、本件各建物収去費の支出を余儀なくされたこと、本件各建物の解体後、速やかにT社に駐車場用地として賃貸したことからしても、本件各建物収去費は、本件賃貸借契約の残務処理として、土地の維持・管理のために要した費用であり、本件土地の貸付けによる業務と直接関連性を有し、業務の遂行上必要な支出というべきであるから、必要経費に該当する。
(2) 本件各建物収去費は、上記(1)のとおり、本件相続財産法人が、その資力不足により、賃貸借契約終了に伴う原状回復義務を履行しなかったために、請求人らが支出せざるを得なくなったものであることからすると、請求人らは、本件相続財産法人の負担すべき費用を単に立て替えたものではなく、本件相続財産法人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求権を有していたといえるのであって、本件相続財産法人が無資力である以上、請求人らは、当該損害賠償請求権を貸倒れ処理することができるものである。
 このことからも、本件各建物収去費は請求人らの必要経費に算入されるべきものである。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所得税法第37条第1項)に該当するためには、これと必要経費に算入されない家事上の経費(同法第45条第1項第1号)との区分が明確となる必要があることなどからすると、客観的にみて、当該支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要であることを要すると解するのが相当である。
 そしてその判断は、単に当該業務を行うものの主観的判断によるのではなく、当該業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきである。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人J1は、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、平成25年8月5日付で、M家庭裁判所に相続財産管理人の選任審判を申し立て、申立てに伴う予納金1,003,670円を納めた。
  • ロ 本件相続財産法人には、本件相続財産管理人の管理開始時点で、積極財産として、上記イの請求人J1の予納金からの組み入れ金のほかは、亡Lの預金14,617円、本件各建物及び本件各建物賃借人らに対する賃料債権(なお、遅くとも平成24年12月以降未収である。)しかなかった。他方、債務として、請求人らに対する本件土地の未払賃料債務が約400万円あった。
     なお、上記の本件各建物賃借人らから得られる1か月当たりの賃料は、全員分を合計しても、本件土地の1か月当たりの賃料に満たず、亡Lは、生前、本件各建物賃借人らから受領した賃料に自己の年金収入を加えて、本件土地の賃料を支払っていた。
  • ハ 本件相続財産管理人は、選任後、本件各建物賃借人らが高齢であったことなどから、本件各建物からの任意退去の折衝を重ねる一方、本件各建物賃借人らの一人から未払賃料のうち50万円を回収し、その余の未払賃料については、家庭裁判所の許可を受けて、本件各建物賃借人に対する返還敷金や立退料等と相殺するなどした。なお、本件各建物賃借人らのうち3名は、本件訴訟係属中に本件各建物から任意に退去し、その余の2名(占有者ら)は、本件和解に基づき、平成27年5月末日までに、任意に退去した。
  • ニ 本件相続財産管理人は、平成28年3月28日付で、亡Lの相続債権者である請求人ら及びa市○○部○○課に対し、要旨以下の内容が記載された連絡文書を送付したところ、請求人ら及び同市から特段の連絡はなかった。
    • (イ) 本件相続財産法人は債務超過であり、今後、格別の相続財産が発見される見込みがないこと。
    • (ロ) 破産手続開始の申立ての費用が支弁できないため、同申立てを行うことなく管理業務を終了したいこと。
    • (ハ) 本件相続財産法人に対する破産手続開始の申立てを行う意向があれば、同年4月8日までにその旨の連絡が欲しいということ。
  • ホ 本件相続財産管理人は、平成28年4月11日、管理すべき相続財産がなくなったとして財産管理業務を終了させ、同月13日、その旨をM家庭裁判所に報告した。その財産管理業務の開始から終了までの本件相続財産法人の収支状況は、以下のとおりであった。
    • (イ) 支出金員1,433,111円の内訳
      • A 平成25年12月12日の官報掲載費用37,102円
      • B 平成28年4月11日の相続財産管理人報酬1,343,467円
      • C 平成28年4月11日の相続財産管理費用(立替分)52,540円
      • D 平成28年4月11日の相続財産管理費用2円
    • (ロ) 受領金員1,433,111円の内訳
      • A 平成25年10月9日の予納金からの組み入れ200,000円
      • B 平成25年10月17日の亡Lの解約預金からの送金14,617円
      • C 平成26年11月4日のVの未払賃料の入金額500,000円
      • D 平成28年4月11日の予納金からの相続財産管理人報酬718,320円
      • E 受取利息等174円
  • へ M家庭裁判所は、平成28年5月9日、本件相続財産管理人の選任審判を取り消した。
  • ト 請求人らは、本件各建物の解体費用について、本件和解前の平成27年2月にX社から、和解後の同年6月にS社から、それぞれ見積りを入手した。
  • チ 請求人らは、本件各建物収去費について、本件相続財産法人に対する代替執行費用前払決定の申立てだけでなく、執行費用額確定処分の申立て(民事執行法第42条《執行費用の負担》第4項)も行っておらず、その他にも本件相続財産法人に対する具体的な回収手続を講じていない。

(3) 当てはめ

  • イ 請求人らの本件土地の貸付けに係る業務について
    • (イ) 本件土地の明渡しに至る経緯
       請求人らは、本件土地の賃借人である亡Lの死亡後、本件相続財産管理人の選任審判を申し立てた上、本件土地賃貸借契約を賃料不払いを理由に解除し、平成25年10月12日の経過をもって終了させた(上記1の(3)のニの(ロ)、(ハ)及び(ニ))ものの、本件各建物賃借人らが本件各建物から任意に退去せず、本件相続財産法人が本件各建物を所有して本件土地を占有し続けたため、平成26年9月16日、本件相続財産法人に対して賃料及び賃料相当損害金の支払並びに本件各建物の収去及び本件土地の明渡しを求めるとともに、本件各建物賃借人らに対して本件各建物のそれぞれの占有部分の明渡しを求めて本件訴訟を提起した(同(ホ))。そして、本件和解において、本件各建物賃借人らのうち本件訴訟係属中に退去しなかった占有者らが、平成27年5月末日限り、本件各建物を明け渡すことを約束し、本件相続財産法人も、同日限り本件各建物を収去して本件土地を明け渡すとし(同(ヘ)のC)、これにより、占有者らが同日までに本件各建物を退去したことを受けて、請求人らは、同年7月9日、P地方裁判所に対し、本件和解調書に基づき、本件各建物の収去の授権決定を申し立て、同年12月2日付の授権決定及び本件和解調書に基づき、P地方裁判所の執行官に対し、本件各建物の収去の代替執行及び本件土地の明渡執行を申し立て、同執行官が本件各建物を収去し、平成28年3月11日、本件土地の明渡しが完了したものである(同(ト)及び(チ))。
    • (ロ) 本件土地の新規貸付けの状況
       請求人らは、上記1の(3)のホのとおり、本件土地の明渡しが完了する以前に本件駐車場賃貸借契約を締結し、本件土地の明渡しの完了後速やかに本件土地をT社に使用収益をさせた。
    • (ハ) 小括
       不動産の貸付業務は、基本的には、当該不動産を貸し付けてからその返還を受けるまでが一連の業務というべきところ、以上の経緯等からすれば、請求人らは、亡Lに賃貸していた本件土地につき、亡Lの死亡後に賃料が支払われないために本件相続財産法人から返還を受け、新たな賃借人に対する賃貸業務を行うべく、本件相続財産管理人の選任審判を申し立てた上、本件土地賃貸借契約の解除、本件訴訟の提起並びに本件各建物の収去及び本件土地の明渡執行という一連の法的手続を執り、かかる明渡しまでの手続と並行して、新たな賃借人への貸付けに取り掛かっているとみられる一方で、本件全証拠によっても、この間、請求人らが本件土地を賃貸業務以外の用途に転用したことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、請求人らの本件土地の貸付けに係る業務、すなわち、不動産所得を生ずべき業務は、本件土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまで継続していたものと認められる。
  • ロ 本件各建物収去費の業務関連性及び必要性について
     上記イのとおり、請求人らの不動産所得を生ずべき業務は、本件土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまでも継続しており、本件各建物収去費は、かかる一連の業務の中で支出されたものであるところ、以下、当該支出が請求人らの業務に直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであるか否かについて検討する。
    • (イ) 本件各建物の収去義務を負う本件相続財産法人が、上記イの(イ)のとおり、当該収去義務を自ら履行しなかったため、請求人らは、自らが本件土地上に存する本件各建物を収去しなければ、本件土地を新たに貸し付け、本件土地から収益を得ることができない状況にあったものといえる。
    • (ロ) また、上記(2)のロ及びハのとおり、本件相続財産法人には、本件相続財産管理人の管理開始時点から、本件各建物以外にめぼしい資産がなく、債務超過の状態にあり、本件各建物賃借人らから得られる賃料についても、滞納額が嵩んでいた上、その賃料月額の合計も本件土地の賃料月額を下回る状況にあり、しかも、本件相続財産管理人においても、本件各建物賃借人らの一人から50万円を回収できたにとどまったものである。その上で、本件相続財産管理人は、平成28年3月28日付で、本件相続財産法人は債務超過であり破産手続開始の申立費用すら支弁できない状況であることを請求人らに通知し(上記(2)のニ)、同日、請求人らは、本件各建物収去費を支払ったものである(上記1の(3)のニの(リ))。そして、上記(2)のニ、ホ及びヘによれば、本件相続財産管理人の報酬も、上記50万円を含む本件相続財産法人の財産からは全額は支弁できず、請求人らが支出した予納金からも支払われ、本件各建物収去及び当該報酬の支払により本件相続財産管理人の管理する積極財産がなくなったため、本件相続財産管理人の選任審判が取り消されたものと認められる。なお、本件各建物の収去執行と同時に行われた本件相続財産法人に対する動産執行も、執行不能で終了した(上記1の(3)のニの(チ))。
       これらのことからすれば、本件相続財産法人は、一貫して資力がなく、請求人が本件各建物収去費を支出した時点において、その収去費用を支弁することが不可能であり、かつ、その後に資力を有する見込みもなかったと認められる。
    • (ハ) 加えて、請求人らは、1自ら申立て費用を負担した上で本件相続財産管理人選任審判の申立てを行い(上記(2)のイ)、2本件和解に至る前後において本件各建物の解体費用の見積りを入手し(同ト)、3本件各建物収去費について、本件相続財産法人から具体的に回収する手段を講じていない(同チ)ことからすると、請求人は、本件相続財産管理人の選任審判を申し立てた当初から、本件相続財産法人が無資力であり、自ら費用を負担して本件各建物を収去することを想定し、その想定どおり、本件各建物収去費を支出したものと認められる。
    • (ニ) 上記(イ)、(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人らは、本件土地から収益を得る業務を遂行するためには、本件各建物を収去する必要があり、その収去に係る費用については、当初から自らが負担することを想定して本件各建物の収去までの手続を遂行し、本件各建物収去費を支出したところ、実際にも、本件相続財産法人は無資力であり、当該支出の時点において、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあったのであり、客観的にみても、本件各建物収去費は、請求人らにおいて、自ら負担するほかなかったものと認められる。
       そうすると、本件各建物収去費の支出は、客観的にみて、請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであったといえる。
  • ハ 小括
     以上のとおり、本件各建物収去費は、請求人らの、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。

(4) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、本件土地賃貸借契約が終了した平成25年10月12日以後、本件土地は、請求人らの事業の用に供されていない資産であるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張する。
     しかしながら、不動産の返還を受けるまでが不動産の貸付業務の一連の業務というべきであることは上記(3)のイの(ハ)のとおりである上、賃料債権は本件土地賃貸借契約の終了以降は発生しないものの、本件相続財産法人が本件土地の占有権原を失うことに伴い、請求人らは、本件相続財産法人に対して賃料相当損害金として損害賠償請求権を取得することになるところ、同請求権は賃料債権が転化したものと評価でき、所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項第2号において不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものはその収入金額とする旨規定されていることに鑑みれば、本件土地賃貸借契約の終了をもって請求人らの本件土地の貸付けという不動産所得を生ずべき業務が終了したとはいえず、本件土地は、本件土地賃貸借契約終了後も請求人らの事業の用に供されていたものというべきであるから、原処分庁の上記主張は理由がない。なお、請求人らは、本件土地賃貸借契約終了後の賃料相当損害金を不動産所得の金額の計算上収入金額として計上している(上記1の(4)のイの(イ))。
  • ロ 原処分庁は、本件各建物の所有者は本件相続財産法人であり、請求人らが本件各建物を所有したり貸し付けたりしたことはないから、請求人らの不動産所得を生ずべき事業の用に供されていない資産であり、本件各建物収去費は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張する。
     しかしながら、本件各建物収去費が請求人らの本件土地の貸付けという業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであることは上記(3)のとおりであって、本件各建物の所有者が請求人らではないことが直ちに業務関連性及び必要性を否定するものではないから、原処分庁の上記主張は採用できない。
  • ハ 原処分庁は、請求人らが本件各建物収去費を支払ったのは、本件相続財産法人が負担すべき収去費用を立て替えたものにすぎないから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨主張する。
     しかしながら、本件各建物収去費を法的に負担すべきであるのが本件相続財産法人であるとしても、請求人らがこれを支出した時点で、請求人らは本件相続財産法人にその求償を予定しておらず、また、求償して回収することも客観的に不可能であったと認められることなど上記(3)のロで検討したところからすれば、他に法的に費用負担すべき者がいるからといって直ちに業務関連性及び必要性を否定することにはならないというべきであるから、原処分庁の上記主張も採用できない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

上記(3)のハのとおり、本件各建物収去費は、請求人らの平成28年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものであるから、これに基づき算出した請求人らの平成28年分の総所得金額及び納付すべき税額は、別表2の「確定申告」欄の各「総所得金額」欄及び各「納付すべき税額」欄のとおりとなる。
 したがって、本件各更正処分は違法であり、いずれもその全部を取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(5)のとおり、本件各更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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