(令和元年9月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人らが相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、審査請求人らが相続により取得した各土地は借地権の目的となっている宅地には該当しないなどとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、審査請求人らが原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 民法第593条《使用貸借》は、使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる旨規定している。
  • ロ 民法第601条《賃貸借》は、賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる旨規定している。
  • ハ 借地借家法第2条《定義》第1号は、借地権とは建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨規定している。
  • ニ 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和48年11月1日付直資2−189ほか国税庁長官通達。以下「使用貸借通達」という。)1《使用貸借による土地の借受けがあった場合》は、建物又は構築物の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、借地権(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権をいう。)の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金(以下「権利金」という。)を支払う取引上の慣行がある地域においても、当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は、零として取り扱う旨定め、この場合において、使用貸借とは民法第593条に規定する契約をいい、土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当する旨例示している。
  • ホ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達で、平成28年4月6日課評2−10・課資2−4・課審7−1財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)による改正前のもの。以下「評価通達」という。)7−2《評価単位》(1)は、宅地は、1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地をいう。)を評価単位とする旨定め、さらに、注書で、贈与、遺産分割等による宅地の分割が親族間等で行われた場合において、例えば、分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められるときは、その分割前の画地を「1画地の宅地」とする旨定めている。
     また、評価通達7−2(7)は、雑種地は、利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう。)を評価単位とする旨定め、さらに、ただし書で、市街化調整区域以外の都市計画区域で市街地的形態を形成する地域において、同通達82《雑種地の評価》の本文の定めにより評価する宅地と状況が類似する雑種地が2以上の評価単位により一団となっており、その形状、地積の大小、位置等からみてこれらを一団として評価することが合理的と認められる場合には、その一団の雑種地ごとに評価する旨、また、この場合において、同通達7−2(1)の注書に定める場合に該当するときは、その注書を準用する旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 被相続人F(以下「本件被相続人」という。)は、平成27年12月○日に死亡し、本件被相続人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
  • ロ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男である審査請求人D(以下「請求人D」という。)、長女である審査請求人G(以下「請求人G」といい、請求人Dと併せて「請求人ら」という。)、配偶者であるH、二女であるJ及び三女であるKの計5名である。
  • ハ 請求人Dは、平成6年5月1日、本件被相続人が所有するd市e町○−○1所在の土地(以下「本件○−○1土地」という。)の上に、請求人D名義の家屋(以下「本件○−○1家屋」という。)を新築した。
  • ニ 本件被相続人と請求人Dは、平成19年12月10日、本件○−○1土地のうち本件○−○1家屋の敷地の用に供されている部分(以下「本件○−○1付1土地」という。)について、要旨、次のとおり記載した「土地賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件平成19年○−○1付1土地契約書」という。)を作成した(以下、この契約書に基づき成立した契約を「本件平成19年○−○1付1土地契約」という。)。
    • (イ) 賃貸人本件被相続人と賃借人請求人Dとの間に土地貸借契約を締結し、賃貸人は本件○−○1付1土地(地積581.63平方メートル)を賃借人に賃貸し、賃借人はこれを賃借することを約する。
    • (ロ) 賃貸借の期間は、平成20年1月1日から平成24年12月31日までの5年間とし、賃貸人及び賃借人双方の意思表示のない限り自動継続とする。
    • (ハ) 賃料は年間○○○○円とする。
    • (ニ) 賃借人は本件○−○1付1土地を居住用として使用し、他の用途に使用してはならない。
  • ホ 本件○−○1付1土地及び本件○−○1土地のうち本件○−○1付1土地以外の部分(以下「本件○−○1付2土地」という。)のそれぞれの現況地目(d市土地・家屋総合名寄帳(写)の「現況地目」欄に記載された地目をいう。以下同じ。)は、少なくとも平成19年度ないし平成27年度において、本件○−○1付1土地は宅地、本件○−○1付2土地は雑種地であった。
  • へ 請求人Dは、平成6年5月1日に本件○−○1家屋を新築してから、平成19年12月10日に本件平成19年○−○1付1土地契約が成立するまで、本件○−○1付1土地を無償で使用していた。また、その間の本件○−○1付1土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)は本件被相続人が支払っていた。
  • ト 本件被相続人と請求人Gの夫であるMは、昭和59年10月1日、本件被相続人が所有するd市e町○−○2所在の土地(地積261.70平方メートル。以下「本件○−○2土地」という。)について、要旨、次のとおり記載した「土地賃貸契約書」と題する書面(以下「本件昭和59年○−○2土地契約書」という。)を作成した(以下、この契約書に基づき成立した契約を「本件昭和59年○−○2土地契約」という。)。
    • (イ) 本件被相続人を貸主、Mを借主として、地目が畑(雑種地)及び地積が261平方メートルである本件○−○2土地につき、賃貸借契約を締結する。
    • (ロ) 賃貸料は、本件昭和59年○−○2土地契約の締結の日から5年間は無償とする。ただし、固定資産税等についてはMの負担とする。
  • チ 請求人G及びM(以下「G夫妻」という。)は、昭和60年3月15日、本件○−○2土地の上に、G夫妻の共有名義の家屋(以下「本件○−○2家屋」という。)を新築した。
  • リ 本件被相続人と請求人Gは、平成19年12月10日、本件○−○2土地について、要旨、次のとおり記載した「土地賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件平成19年○−○2土地契約書」という。)を作成した(以下、この契約書に基づき成立した契約を「本件平成19年○−○2土地契約」という。)。
    • (イ) 賃貸人本件被相続人と賃借人請求人Gとの間に土地貸借契約を締結し、賃貸人は本件○−○2土地を賃借人に賃貸し、賃借人はこれを賃借することを約する。
    • (ロ) 賃貸借の期間は、平成20年1月1日から平成24年12月31日までの5年間とし、賃貸人及び賃借人双方の意思表示のない限り自動継続とする。
    • (ハ) 賃料は年間○○○○円とする。
    • (ニ) 賃借人は本件○−○2土地を居住用として使用し、他の用途に使用してはならない。
  • ヌ G夫妻は、昭和60年3月15日に本件○−○2家屋を新築してから、平成19年12月10日に本件平成19年○−○2土地契約が成立するまで、本件被相続人に対し本件○−○2土地に係る固定資産税等を負担するための金員を支払っていた。
  • ル 本件相続の開始の時において、本件相続に係る不動産のうち、d市e町○−○3、同○−○4及び同○−○5所在の一団の土地(地積計985平方メートル。以下「本件○−○3一団土地」という。)並びに本件○−○2土地に隣接するd市e町○−○6所在の土地(地積313平方メートル。以下「本件○−○6土地」という。)は、N社○○支社が駐車場として使用していた。
     なお、本件○−○3一団土地に隣接する本件○−○1付2土地についてもN社が駐車場として使用していた。
  • ヲ 上記ハないしルの各土地の明細は別表1−1、位置関係は別表1−2のとおりである。
  • ワ 本件相続により、本件○−○1土地を請求人Dが、本件○−○2土地及び本件○−○6土地を請求人Gが、本件○−○3一団土地をJ及びKがそれぞれ取得した。
  • カ 本件○−○1土地はその東側において道路と接しており、当該道路の路線価(以下「本件東側路線価」という。)は、P国税局長が定めた平成27年分の財産評価基準によれば100,000円であった。また、本件○−○2土地、本件○−○3一団土地及び本件○−○6土地は、いずれもその南側において道路と接しており、当該道路の路線価(以下「本件南側路線価」という。)は、同基準によれば105,000円であった。
  • ヨ 平成19年度ないし平成27年度の、本件○−○1付1土地及び本件○−○2土地(以下、これらを併せて「本件各土地」という。)に係る固定資産税相当額及び都市計画税相当額の合計額(以下「固定資産税等相当額」という。)はそれぞれ別表2の「固定資産税等相当額」欄のとおりである。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)に関し、別表1−1に掲げる各土地を次のとおり評価し、また、課税価格及び納付すべき税額を、別表3の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
    • (イ) 本件各土地については、評価通達25《貸宅地の評価》に定める貸宅地の評価方法を適用して、本件○−○1付1土地の価額を20,975,904円、本件○−○2土地の価額を7,970,963円とした。
    • (ロ) 本件○−○1付2土地については、本件○−○3一団土地と一体の土地として、本件南側路線価を正面路線価とし、評価通達24−4《広大地の評価》に定める評価方法を適用して、その価額を16,054,762円とした。また、本件○−○3一団土地については、その価額を55,487,512円とした。
    • (ハ) 本件○−○6土地については、その価額を32,865,000円とした。
       なお、上記(ロ)及び(ハ)の各土地については、自用地としての価額により評価していた。
  • ロ 原処分庁は、本件各土地が借地権の目的となっている宅地に当たらないなどとして、本件各土地の価額を、それぞれ本件○−○1付1土地については評価通達11《評価の方式》及び同通達24−4の定めにより評価し、また、本件○−○2土地については同通達11の定めにより評価し、平成30年6月28日付で、それぞれ別表3の「更正処分等」欄のとおり、請求人らに対し本件相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
  • ハ 請求人らは、本件各更正処分等を不服として、平成30年9月25日に審査請求をした。
     なお、請求人らは、請求人Dを総代として選任し、その旨を平成30年11月18日付で当審判所に届け出た。

2 争点

本件各土地は借地権の目的となっている宅地であるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人ら
以下のことから、本件各土地に係る本件被相続人と請求人らとの間の貸借は賃貸借ではなく使用貸借であるから、本件各土地は借地権の目的となっている宅地には該当しない 以下のことから、本件各土地に係る本件被相続人と請求人らとの間の貸借は賃貸借であるから、本件各土地は借地権の目的となっている宅地に該当する。
(1) 本件○−○1付1土地 (1) 本件○−○1付1土地
イ 請求人Dは、平成6年に本件○−○1付1土地の上に本件○−○1家屋を新築してから、平成19年12月に本件平成19年○−○1付1土地契約書を作成するまでの間、本件被相続人に対し、本件○−○1付1土地の貸借に関し、何ら金員を支払っていなかった。 イ 本件被相続人と請求人Dは、本件○−○1付1土地につき、賃料を年額○○○○円とする本件平成19年○−○1付1土地契約を締結しており、本件平成19年○−○1付1土地契約に基づく金員の支払は本件○−○1付1土地の使用の対価であると認識していた。
ロ 請求人Dは、本件平成19年○−○1付1土地契約に基づき、平成21年以降、本件○−○1付1土地の貸借に係る賃料に相当する金員を支払っていたことは認められるものの、本件平成19年○−○1付1土地契約書に記載された賃料は年額○○○○円(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)であるところ、当該賃料の年額は本件○−○1付1土地の平成19年度ないし平成27年度における各年度の固定資産税等に相当するものであり、請求人Dもそのことを認識していた。また、当該金額は、本件被相続人が第三者に対して貸し付けていた本件○−○1付1土地の近隣に所在する土地に係る賃料の年額(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)と比べ、著しく低廉であった。 ロ 使用貸借通達1は、土地の貸借において、当該土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものは使用貸借に該当する旨定めているが、上記イの賃料の額は、本件相続の開始の年の固定資産税等の額を上回っているから、本件○−○1付1土地の貸借は使用貸借ではない。
ハ 請求人Dと本件被相続人との間で、本件○−○1付1土地の貸借に関し、権利金その他の金銭の授受はなかった。 ハ 加えて、上記イの賃料の額は、平成23年までは本件○−○1付1土地の固定資産税等の額を下回っていたが、平成24年以降は上回っており「自然発生借地権」が存在すること、本件平成19年○−○1付1土地契約は相続税を不当に回避する目的で締結したものではないこと、及び本件被相続人が当該賃料の額を確定申告していたことからも、本件○−○1付1土地の貸借は賃貸借に該当する。
ニ 上記イないしハの事実に加え、請求人Dと本件被相続人は親子関係にあることからすると、上記ロの本件平成19年○−○1付1土地契約に係る賃料に相当する金員は、本件○−○1付1土地の使用収益に対する対価とは認められない。
(2) 本件○−○2土地 (2) 本件○−○2土地
イ G夫妻は、昭和60年に本件○−○2土地の上に本件○−○2家屋を新築してから、本件昭和59年○−○2土地契約に基づき、本件被相続人に対し、本件○−○2土地に係る固定資産税等の額に相当する金員を支払っていた。 イ 請求人Gは、本件被相続人に対し、本件平成19年○−○2土地契約に基づき、年額○○○○円の賃料を支払っており、これを使用貸借通達1の定めに当てはめると、当該賃料の額は本件相続の開始の年の固定資産税等の額を上回っているから、本件○−○2土地の貸借は使用貸借ではない。
ロ G夫妻が、本件平成19年○−○2土地契約に基づき、平成20年以降、本件○−○2土地の貸借に係る賃料に相当する金員を支払っていたことは認められるものの、本件平成19年○−○2土地契約書に記載された賃料は年額○○○○円(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)であるところ、当該賃料の年額は本件○−○2土地の平成19年度ないし平成27年度における各年度の固定資産税等に相当するものであり、G夫妻も、上記イの本件昭和59年○−○2土地契約に基づき支払われた金員と同様に、固定資産税等に相当するものであると認識していた。また、当該金額は、本件被相続人が第三者に対して貸し付けていた本件○−○2土地の近隣に所在する土地に係る賃料の年額(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)と比べ、著しく低廉であった。 ロ 加えて、本件平成19年○−○2土地契約は相続税を不当に回避する目的で締結したものではないこと、及び本件被相続人が上記イの賃料の額を確定申告していたことからも、本件○−○2土地の貸借は賃貸借に該当する。
ハ G夫妻と本件被相続人との間で、本件○−○2土地の貸借に関し権利金その他の金銭の授受はなかった。
ニ 上記イないしハの事実に加え、G夫妻と本件被相続人は親族関係にあることからすると、上記ロの本件平成19年○−○2土地契約に係る賃料に相当する金員は、本件○−○2土地の使用収益に対する対価とは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

物の使用収益に伴う金員の支払があったとしても、それが対象物の使用収益に対する対価の意味を持たない金員の支払である場合には、民法第601条に規定する賃貸借には該当せず、同法第593条に規定する使用貸借に該当するというべきである。
 そして、建物等の所有を目的とした土地の貸借契約には、賃貸借契約又は使用貸借契約があるが、その契約が賃貸借契約であるか使用貸借契約であるかは、その貸借が対価を伴うものであるか否かにより決せられるべきものであり、交付された現金等がある場合にそれが対価性を有するか否かは、当事者の主観的意思を無視はできないものの、これにとらわれることなく客観的に判断すべきものと解され、具体的には、その契約における権利金の有無、支払地代の水準、貸主と借主との関係及びその契約の経緯や趣旨を総合的に考慮して判断すべきものと解される。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人Dは、本件平成19年○−○1付1土地契約に基づき、本件被相続人に対して、Q銀行○○支店の本件被相続人名義の預金口座(以下「本件預金口座」という。)に請求人Dの名義で振込入金するなどして、少なくとも平成21年以降、別表2の「本件○−○1付1土地」欄の「支払金員の額」欄のとおり、年間○○○○円(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)の金員を支払っていた(以下、この支払っていた金員を「本件請求人D支払金員」という。)。
  • ロ 本件○−○1付1土地の貸借に関して、請求人Dと本件被相続人との間で権利金の授受はなかった。
  • ハ 請求人Gは、本件平成19年○−○2土地契約に基づき、本件被相続人に対して、本件預金口座にMの名義で振込入金して、平成20年以降、別表2の「本件○−○2土地」欄の「支払金員の額」欄のとおり、年間○○○○円(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)の金員を支払っていた(以下、この支払っていた金員を「本件請求人G支払金員」という。)。 
  • ニ 本件○−○2土地の貸借に関して、G夫妻と本件被相続人との間で権利金の授受はなかった。
  • ホ 本件被相続人は、上記1の (3)のルの本件○−○3一団土地及び本件○−○6土地に関して、平成11年9月18日、N社との間で、駐車場として使用させる目的で「駐車場賃貸借契約書」と題する書面により、要旨、次のとおりの契約(以下「本件駐車場賃貸借契約」という。)を締結した。
    • (イ) 賃貸人本件被相続人は次に表示の土地を賃借人N社に賃貸し、賃借人N社はこれを賃借する。
      • A 物件の所在 本件○−○3一団土地及び本件○−○6土地(以下「本件駐車場用地」という。)
      • B 使用台数 77台
    • (ロ) 賃貸借期間は、平成11年10月1日から平成13年9月30日までとし、期間満了1か月前までに賃貸人及び賃借人いずれかより意思表示のない場合、本件駐車場賃貸借契約は同一期間をもって順次更新される。
    • (ハ) 賃料は1か月○○○○円(消費税含む)とする。
  • へ 本件駐車場賃貸借契約に基づく、本件駐車場用地の賃貸借に係る1平方メートル当たりの年額賃料は約○○○○円であった。なお、賃料は平成26年4月分以降、月額○○○○円(1平方メートル当たりの年額約○○○○円)に改定された。また、本件相続が開始した年の本件駐車場用地に係る平成27年度の固定資産税等相当額は、○○○○円であった。
  • ト 本件○−○1付1土地の実測面積は、581.70平方メートルである。

(3) 当てはめ

上記(1)のとおり、土地の貸借が賃貸借契約に基づくというためには、その貸借が当該土地の使用収益に対する対価を伴うものである必要があるから、以上を前提に上記(1)の法令解釈に照らして、本件各土地が借地権の目的となっている宅地であるか否かについて検討する。

  • イ 本件○−○1付1土地について
     上記1の(3)のヘのとおり、平成19年12月10日以前において、請求人Dは本件○−○1付1土地を無償で使用していたことから、本件○−○1付1土地の使用収益は、使用貸借契約に基づくものであったと認められるが、その後、請求人Dは、上記(2)のイのとおり、少なくとも平成21年以降、本件平成19年○−○1付1土地契約に基づき本件請求人D支払金員を支払っており、当該金員が使用収益に対する対価に該当する場合には、賃貸借契約に基づくものに変更されたものと見ることができる。
     しかしながら、1別表2のとおり、本件請求人D支払金員の額は本件○−○1付1土地の固定資産税等相当額と同程度の金額であったこと、2上記(2)のロのとおり、請求人Dと本件被相続人との間で権利金の授受がなかったこと、3上記(2)のイ及びヘのとおり、同金員の1平方メートル当たりの額(年額約○○○○円)は、本件駐車場賃貸借契約に基づき本件被相続人が第三者に対し賃貸していた本件駐車場用地の1平方メートル当たりの賃料の額(年額約○○○○円。なお、平成26年4月分以降は年額約○○○○円)に比べて低廉であったと認められること並びに4上記1の(3)のロのとおり、請求人Dと本件被相続人は親子関係にあったことからすれば、同金員は、客観的な上記1ないし4の事実関係から判断して本件○−○1付1土地の使用収益に対する対価ということはできず、同金員の支払の開始によって、当初使用貸借契約であった契約関係が賃貸借契約に変更されたと見ることはできない。そうすると、本件相続の開始の時においても、本件○−○1付1土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものと認められるから、本件○−○1付1土地は借地権の目的となっている宅地には該当しない。
  • ロ 本件○−○2土地について
     上記1の(3)のトの(ロ)のとおり、本件昭和59年○−○2土地契約書には、賃貸料は本件昭和59年○−○2土地契約の締結の日から5年間は無償とし、固定資産税等はMの負担とする旨記載されており、上記1の(3)のヌのとおり、G夫妻は本件○−○2土地の使用に関して金員の支払をしていたものの、同土地の固定資産税等を負担していたにすぎなかったことから、本件○−○2土地の使用収益は、使用貸借契約に基づくものであったと認められるが、その後、請求人Gは、上記(2)のハのとおり、平成20年以降、本件平成19年○−○2土地契約に基づき本件請求人G支払金員を支払っており、当該金員が使用収益に対する対価に該当する場合には、賃貸借契約に基づくものに変更されたものと見ることができる。
     しかしながら、1別表2のとおり、本件請求人G支払金員の額は本件○−○2土地の固定資産税等相当額と同程度の金額であったこと、2上記(2)のニのとおり、G夫妻と本件被相続人との間で権利金の授受がなかったこと、3上記(2)のハ及びヘのとおり、同金員の1平方メートル当たりの額(年額約○○○○円)は、本件駐車場賃貸借契約に基づき本件被相続人が第三者に対し賃貸していた本件駐車場用地の1平方メートル当たりの賃料の額(年額約○○○○円。なお、平成26年4月分以降は年額約○○○○円)に比べて低廉であったと認められること並びに4上記1の(3)のロ及びトのとおり、G夫妻と本件被相続人は親族関係にあったことからすれば、同金員は、客観的な上記1ないし4の事実関係から判断して本件○−○2土地の使用収益に対する対価ということはできず、同金員の支払の開始によって、当初使用貸借契約であった契約関係が賃貸借契約に変更されたと見ることはできない。そうすると、本件相続の開始の時においても、本件○−○2土地の使用収益は使用貸借契約に基づくものと認められるから、本件○−○2土地は借地権の目的となっている宅地には該当しない。

(4) 請求人らの主張について

  • イ 請求人らは、使用貸借通達1は、土地の貸借において、当該土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものは使用貸借に該当する旨定めており、本件各土地の賃料の年額は本件相続の開始の年の固定資産税等の額を上回っていることから、本件各土地の貸借関係は賃貸借に該当する旨主張する。
     しかしながら、使用貸借通達1は、土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものは使用貸借に該当する旨を例示したものであって、支払地代の水準が土地の公租公課の額を上回る場合に、直ちにその土地の貸借関係が賃貸借になることを定めたものとは認められない。
     したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。 
  • ロ 請求人Dは、本件○−○1付1土地につき、平成24年以降は賃料の年額が固定資産税等の額を上回っており「自然発生借地権」が存在するため、本件○−○1付1土地の貸借関係は賃貸借に該当する旨主張する。
     しかしながら、本件請求人D支払金員の額が本件相続の開始の年において本件○−○1付1土地の固定資産税等の額を上回っていたことが認められたとしても、本件○−○1付1土地の使用収益が使用貸借契約に基づくものであったことは上記(3)のイのとおりである。
     したがって、この点に関する請求人Dの主張には理由がない。
  • ハ 請求人らは、本件各土地につき、本件平成19年○−○1付1土地契約及び本件平成19年○−○2土地契約は相続税を不当に回避する目的で締結したものではないこと、本件被相続人が本件各土地の賃料の額を確定申告していたことなどから、本件各土地の貸借関係は賃貸借に該当する旨主張する。
     しかしながら、本件平成19年○−○1付1土地契約及び本件平成19年○−○2土地契約が相続税を不当に回避する目的で締結したものではないとしても、また、本件被相続人が確定申告をしていたとしても、本件各土地の貸借関係が賃貸借となるようなものでもない。
     したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 相続財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別の事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として同通達の評価方式に基づいて行うことが相当と解されるところ、当審判所が、同通達の評価方式に基づき本件○−○1付1土地、本件○−○1付2土地、本件○−○2土地及び本件○−○3一団土地の財産評価額を計算すると、以下のとおりである。
    • (イ) 本件○−○1付1土地の財産評価額
       本件○−○1付1土地の地積については、上記(2)のトのとおり、実測面積が581.70平方メートルであり、その実測面積を用いて、評価通達24−4の定めにより評価し、これを計算すると別表4のとおりとなる。
       なお、本件○−○1付1土地が借地権の目的となっている土地に該当しないことは、上記(3)のイのとおりである。
    • (ロ) 本件○−○1付2土地の財産評価額
       上記(イ)のとおり、本件○−○1付1土地の実測面積が581.70平方メートルであるところ、本件○−○1付2土地の地積は、本件○−○1土地の地積866.63平方メートルから本件○−○1付1土地の実測面積を差し引き、284.93平方メートルとなる。
       そして、本件○−○1付2土地は上記1の(4)のイの(ロ)のとおり評価されているところ、1上記1の(3)のワのとおり、本件○−○1付2土地は、本件相続により、本件○−○1付1土地と併せた一筆の土地(本件○−○1土地)として請求人Dが取得している一方、本件○−○3一団土地は、J及びKが取得しており、それぞれの取得者が異なること、2上記1の(3)のカのとおり、本件○−○1土地はその東側において道路と接しており、本件○−○1付1土地を請求人Dが取得していることから、本件○−○1付2土地には、接道義務を満たさないことによる利用の制限があるとは認められない。したがって、本件相続による分割後の本件○−○1付2土地の画地は、評価通達7−2(7)で準用される同通達7−2(1)の注書に定める不合理分割に当たらないことからすると、本件相続による分割前の利用の単位により、本件○−○3一団土地と本件○−○1付2土地を1画地とみて評価すべきではない。
       さらに、本件○−○1付1土地及び本件○−○1付2土地については、上記1の(3)のホのとおり、本件○−○1付1土地の現況地目は宅地であり、本件○−○1付2土地の現況地目は雑種地であり、上記1の(3)のハ、ニ及びルのとおり、本件相続の開始の時において、本件○−○1付1土地は本件○−○1家屋の敷地、本件○−○1付2土地はN社の駐車場としてそれぞれ使用されており、評価通達7《土地の評価上の区分》に定める一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には該当しないことから、本件○−○1付2土地の評価単位は、本件○−○1付2土地のみが利用の単位となっている一団の雑種地となる。そうすると、本件○−○1付2土地は、不整形地として、同通達20《不整形地の評価》の定めにより本件東側路線価を用いて評価するのが相当である。
       以上に基づき、本件○−○1付2土地の価額を計算すると別表5のとおりとなる。
    • (ハ) 本件○−○2土地の財産評価額
       本件○−○2土地については、上記(3)のロのとおり、借地権の目的となっている宅地に該当しないことから、本件○−○2土地の財産評価額は、19,927,408円となる。
    • (ニ) 本件○−○3一団土地の財産評価額
       本件○−○3一団土地については、上記1の(3)のル及び上記(2)のホのとおり、N社の駐車場用地として賃貸されていたことからすると、利用の単位となっている一団の雑種地として、評価通達24−4の定めにより評価すべきであり、これらを計算すると別表6のとおりとなる。
  • ロ 上記イに基づき、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄のとおりとなり、本件各更正処分の額を下回るから、本件各更正処分はいずれもその一部を別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、本件各更正処分に係るその他の部分について、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

本件各更正処分は、上記(5)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、請求人らの本件各賦課決定処分の基礎となる税額は請求人Dが○○○○円、請求人Gが○○○○円となる。また、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎となっていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。したがって、請求人らの過少申告加算税の額は請求人Dが○○○○円、請求人Gが○○○○円となり、本件各賦課決定処分の金額にいずれも満たないから、いずれもその一部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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