(令和元年7月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため、その所有する土地について売却決定処分をしたのに対し、請求人が、当該土地の見積価額が時価より著しく低廉であるから、当該処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税徴収法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下「徴収法」という。)第98条《見積価額の決定》第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読替え後のもの。以下同じ。)は、近傍類似又は同種の財産の取引価格、公売に付する財産(以下「公売財産」という。)から生ずべき収益、公売財産の原価その他の公売財産の価格形成上の事情を適切に勘案して、公売財産の見積価額を決定しなければならず、この場合において、国税局長は、差押財産を公売するための見積価額の決定であることを考慮しなければならない旨規定し、同条第2項は、国税局長は、同条第1項の規定により見積価額を決定する場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる旨規定している。
  • ロ 徴収法第113条《不動産等の売却決定》第1項は、国税局長は、不動産等を換価に付するときは、公売期日等から起算して7日を経過した日において最高価申込者に対して売却決定を行う旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 原処分庁は、平成4年12月18日、請求人が納付すべき別表1記載の滞納国税について、国税通則法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、D税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
  • ロ 原処分庁は、平成30年1月、別表2記載の土地(以下「本件土地」という。)について、徴収法第98条第1項の規定に基づき、その見積価額を○○○○円(以下「本件見積価額」という。)と決定した。
  • ハ 原処分庁は、平成30年○月○日付で、本件土地を公売するため、売却区分番号を○○−○○として、徴収法第95条《公売公告》第1項及び同法第99条《見積価額の公告等》第1項の各規定に基づき、公売の日を同年○月○日から同月○日まで、売却決定の日時を同月○日○時、買受代金の納付期限を同日○時などとする公売公告処分(以下「本件公売公告処分」という。)及び見積価額を本件見積価額とする見積価額の公告を行うとともに、同法第96条《公売の通知》第1項の規定に基づき、同年○月○日付の公売通知書により公売公告事項及び公売に係る国税の額を請求人に通知した。
  • ニ 原処分庁は、本件公売公告処分に係る公売を実施し、徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項の規定に基づき、平成30年○月○日、本件見積価額以上の価額で入札した者のうち最高の価額である○○○○円で入札した者を最高価申込者と決定した(以下「本件最高価申込者決定処分」といい、当該最高価申込者を「本件最高価申込者」という。)。
  • ホ 原処分庁は、平成30年○月○日付で、徴収法第106条《入札又は競り売りの終了の告知等》第2項の規定に基づき、本件最高価申込者決定処分に係る本件最高価申込者の名称、価額等、同項所定の事項を、請求人に通知するとともに、公告した。
  • へ 請求人は、平成30年8月27日、本件最高価申込者決定処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年10月22日付で棄却の再調査決定をした。
  • ト 原処分庁は、上記ヘのとおり、請求人から再調査の請求がされたことから、通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項ただし書の規定に基づき、再調査決定があるまで売却決定処分を保留していたところ、その間に本件公売公告処分により公告した売却決定の日時(平成30年○月○日○時)が経過し、公告した日時に売却決定をすることができなかったことから、本件公売公告処分に係る公告事項のうち、1売却決定の日時を平成30年○月○日○時に、2買受代金の納付期限を同日○時に、それぞれ変更し、その変更した旨を、同年○月○日付で、公告するとともに、請求人に通知した。
  • チ 原処分庁は、平成30年○月○日○時、本件最高価申込者に対し、本件土地の売却価額を○○○○円(以下「本件売却価額」という。)とする売却決定処分(以下「本件売却決定処分」という。)をした。
  • リ 請求人は、平成30年12月10日、上記トの買受代金の納付期限までに、本件売却決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

本件売却決定処分は、本件見積価額が著しく低廉であることによって違法となるか否か。

3 争点についての主張

(1) 原処分庁

本件見積価額の決定に当たっては、原処分庁所属の職員が本件土地の所在地に臨場することにより現状を把握した上、不動産鑑定士に本件土地の鑑定評価を委託し、その鑑定評価額を本件土地の評価時点における客観的な時価と定め、当該客観的な時価から公売における特殊性を考慮し減価している。このように、原処分庁は、公売財産の価格形成上の事情を適切に勘案した上、本件見積価額を決定しており、その手続について瑕疵はなく、またその評価も妥当であるので、本件見積価額は客観的な時価より著しく低額ではないと認められる。そして、本件売却決定処分は、本件見積価額を上回る入札者のうち最高の価額で入札した本件最高価申込者に対して行っている。
 したがって、本件売却決定処分は適法である。

(2) 請求人

請求人が不動産販売会社に依頼した簡易査定価格が○○○○万円から○○○○万円までであることからすると、本件土地の時価は少なくとも○○○○万円を下回らないところ、時価より著しく低廉な見積価額で公売された場合の売却価額は、見積価額が時価相当額であった場合と比べて当然に低廉となる。
 したがって、本件売却決定処分は、本件見積価額が時価より著しく低廉であったことにより違法となる。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 徴収法第98条第1項は、国税局長は、近傍類似又は同種の財産の取引価格、公売財産から生ずべき収益、公売財産の原価その他の公売財産の価格形成上の事情を適切に勘案して、公売財産の見積価額を決定しなければならない旨規定しているところ、その趣旨は、同法第104条第1項が、最高の価額による入札者であってもその価額が見積価額に達しないときは最高価申込者としていないこととあいまって、公売価額が著しく低廉となることを防止するために、最低売却価額を保障しようとした点にあると解される。
  • ロ 上記イの趣旨に照らせば、見積価額は、徴収法第98条第1項の規定に基づいて算定された客観的な交換価値、すなわち時価を基準として算定されるべきである。この点につき、国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか「国税徴収法基本通達の全文改正について」(法令解釈通達)による国税庁長官通達。以下「徴収法基本通達」という。)第98条関係2《公売財産の評価》において、公売財産の評価は、財産の所在する場所の環境、種類、規模、構造等、その財産の特性に応じ、取引事例比較法、収益還元法、原価法その他の評価方法を適切に用いるとともに、市場性、収益性、費用性その他の公売財産の価格を形成する要因を適切に考慮し、その財産の時価に相当する価額(以下「基準価額」という。)を求めることに留意して行う旨定めているところ、上記のとおり、見積価額は、客観的な交換価値、すなわち時価を基準として算定されるべきであるから、当審判所においても、この取扱いは相当と認める。
     さらに、徴収法基本通達第98条関係2は、基準価額は、公売財産を直ちに売却する場合に想定される現在価値であって、その財産の種類、性質などにより市場性が劣ること等による固有の減価(以下「市場性減価」という。)を適切に反映させることに留意する旨定めているところ、公売財産が、買受希望者に通常購買意欲を生じさせ難い物件や採算の合わない物件等である場合には、別途追加的又は補充的な市場性減価が必要であるというべきであるから、当審判所においても、この取扱いは相当と認める。
  • ハ 加えて、公売には、1換金を目的とした強制売却であること、2換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること、3売主は瑕疵担保責任を負わないこと及び4買主は原則として解約等ができないことなどの特殊性があることから、徴収法基本通達第98条関係3《見積価額の決定》において、見積価額の決定に当たっては、公売の特殊性を考慮し、差押財産の基準価額のおおむね30%程度の範囲内で減価(以下「公売特殊性減価」という。)を行う旨定めており、この割合は、最低売却価額の保障という上記イの趣旨に照らして一定の合理性を有するといえるから、当審判所においても、この取扱いは相当と認める。
  • ニ 以上のとおり、公売財産の見積価額は、その財産の時価に相当する基準価額を求めた上、公売の特殊性を考慮し、基準価額からそのおおむね30%程度の範囲内の公売特殊性減価を行い算定することから、時価を相当に下回るのが通常である。
     もっとも、公売財産の見積価額が時価より著しく低廉であり、その結果、売却価額も時価より著しく低廉となった場合には、最低売却価額の保障という上記イの趣旨に反することとなるから、この場合の売却決定処分は違法になると解すべきである。

(2) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 原処分庁は、本件土地の鑑定評価を、国家資格を有する不動産鑑定士に委託し、同不動産鑑定士は、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行い、平成29年11月10日時点における本件土地の市場価値を表示する適正な価額として、その鑑定評価額を10,500,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)とした。
  • ロ 原処分庁は、平成30年1月、本件鑑定評価額を参考にして、徴収法基本通達第98条関係2の定めに従い、本件土地の基準価額を○○○○円(以下「本件基準価額」という。)とし、これに公売特殊性減価(減価率20%)をした額である○○○○円を本件見積価額として決定した。

(3) 当てはめ

原処分庁は、上記(2)のロのとおり、本件土地の時価と認められる本件基準価額を算定しているところ、これは、上記(2)のイのとおり、不動産鑑定評価の専門家であり国家資格を有する不動産鑑定士が、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行い、市場価値を表示する適正な価額であるとした本件鑑定評価額を参考にして、徴収法基本通達第98条関係2の定めに従い行っていることから、同算定方法に不合理な点は認められない。
 そして、本件売却価額は、本件土地の時価と認められる本件基準価額(○○○○円)の約85%に相当する○○○○円であったことからして、時価より著しく低廉でないと認められる。

(4) 請求人の主張について

請求人は、本件土地の時価については、少なくとも○○○○万円を下回らないから、本件見積価額は時価より著しく低廉であり、時価より著しく低廉な見積価額で公売された場合の売却価額は、見積価額が時価相当額であった場合と比べて当然に低廉となる旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する本件土地の時価とは、不動産販売会社による簡易査定価格に基づくものであるところ、その基礎資料及び算定過程等が不明であり、その相当性を検証することができない。
 また、公売における売却決定は、公売財産の見積価額以上でないと行われないことから、時価より著しく低廉な見積価額によって公売が実施された場合、その見積価額が時価相当額であった場合に比べて、売却価額が低廉になり得ることはあるものの、公売における入札が競争入札であることから、売却価額が見積価額に当然に連動するものでないことは自明のことである。そうすると、見積価額が時価より著しく低廉であったとしても、そのことによって当然に売却価額が時価より著しく低廉となるものではない。
 さらに、上記(1)のニのとおり、売却決定処分は、公売財産の見積価額が時価より著しく低廉であり、その結果、売却価額も時価より著しく低廉となった場合に、違法になると解すべきであるから、見積価額が時価より著しく低廉であったとしても、結果として、売却価額が著しく低廉でない場合は、見積価額が時価より著しく低廉であることを理由に違法となることはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 本件売却決定処分の適法性について

本件売却決定処分は、上記1の(3)のヘないしチのとおり、通則法第105条第1項ただし書及び徴収法第113条第1項の各規定を充足している。
 また、本件売却決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件売却決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、本審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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