(令和2年2月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて法人税等及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、当該期限後申告に係る重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことに、隠蔽又は仮装に該当する行為はないとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(平成29年1月1日前に法定申告期限が到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対し、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、昭和60年6月○日に設立された有限会社(平成18年5月1日以後は、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定により株式会社として存続する特例有限会社)であり、道路交通安全施設工事を主たる事業としている。
    • (ロ) 請求人の代表取締役は、設立時から平成30年12月1日までの間をG(以下「本件前代表者」という。)が、そして、同日以降を本件前代表者の長男E(以下「本件代表者」という。)がそれぞれ務めている。また、本件代表者の妻Hは、同日、請求人の取締役に就任し、現在に至っている。
  • ロ 請求人の確定申告の状況について
    • (イ) 請求人は、設立時以降、平成14年12月1日から平成15年11月30日までの事業年度(以下「平成15年11月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)までの間、原処分庁に対して、いずれも請求人の税務代理人であったJ税理士が作成した確定申告書を提出していた。
    • (ロ) 請求人は、原処分庁による実地の調査(以下「本件調査」という。)を受けるまで、原処分庁に対して、平成16年11月期以降の確定申告書を提出していなかった。
  • ハ 請求人の会計帳簿等の状況について
    • (イ) 請求人の設立時から平成13年11月頃までの間の会計帳簿は、本件前代表者の妻Kが作成していた。
       なお、本件前代表者の妻は、平成13年11月○日に死亡した。
    • (ロ) 本件前代表者の妻の死亡以降、平成15年11月期までの間の請求人の会計帳簿は、J税理士が作成した。
    • (ハ) J税理士は、請求人から提出された書類が不十分であることを理由に請求人の平成16年11月期の法人税の税務代理を断った。そのため、請求人は、同期以降本件調査に至るまで、請求人の事業に係る取引書類の整理は行っていたものの会計帳簿を作成していなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成30年8月28日、本件調査を開始した。
  • ロ 請求人は、本件調査の結果を受け、平成30年11月9日、法人税、復興特別法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税について、以下の各確定申告書に別表1ないし別表4の「確定申告」欄のとおり記載して申告した。
    • (イ) 法人税
       平成25年11月期、平成26年11月期、平成27年11月期、平成28年11月期及び平成29年11月期(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各確定申告書
    • (ロ) 復興特別法人税及び地方法人税
       平成24年12月1日から平成25年11月30日までの課税事業年度(以下、「平成25年11月課税事業年度」といい、他の課税事業年度についても同様に表記する。)及び平成26年11月課税事業年度の復興特別法人税並びに平成27年11月課税事業年度、平成28年11月課税事業年度及び平成29年11月課税事業年度(以下、平成25年11月課税事業年度ないし平成29年11月課税事業年度を併せて「本件各課税事業年度」という。)の地方法人税の各確定申告書
    • (ハ) 消費税及び地方消費税
       平成25年12月1日から平成26年11月30日までの課税期間(以下、「平成26年11月課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)、平成28年11月課税期間及び平成29年11月課税期間(以下、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告書
  • ハ 原処分庁は、平成30年11月29日付で、別表1ないし別表4の「賦課決定処分」欄のとおり、本件各事業年度の法人税、本件各課税事業年度の復興特別法人税及び地方法人税並びに本件各課税期間の消費税等の重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  •  
  • ニ 請求人は、上記ハの処分に不服があるとして、平成31年2月21日に審査請求をした。
  •  

2 争点

請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人に通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装に該当する事実があった。 以下のとおり、請求人に通則法第68条第2項に規定する隠蔽又は仮装に該当する事実はなかった。
(1) 本件前代表者は、請求人の売上金額の入金状況などから年間の所得を容易に把握することができ、その利益が生じていたとの認識を持っていたこと、平成15年11月期以前の事業年度については法人税の確定申告を行っていたこと、また、原処分庁から申告書提出のための督促はがきを送付されていたことなどからすると、請求人は、法定申告期限までに確定申告すべきこと並びに申告すべき課税標準及び納付すべき税額が生じていたことを明確に認識していたと認められ、それにもかかわらず、10年以上の長期間にわたり、一度たりとも確定申告をしなかった。 (1) 請求人は、不十分ながらも領収書等の書類を整理保存していたが、会計帳簿の作成方法が分からなかったこと及び何名かの税理士に申告の相談をしたがいずれも断られたことにより、会計帳簿を作成することができず、課税標準等を認識することができなかったのであるから、納付すべき税額が生じていたことを明確に認識していたとまではいえない。
 また、請求人に利益が生じていたことの認識があった旨及び請求人が長期間にわたり申告をしなかった旨の原処分庁の主張は、請求人の内心の状態及び無申告の状態を説明したにすぎず、このことにより、請求人に、無申告を意図しその意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとはいえない。
(2) 本件前代表者は、税金の計算ができないように、総勘定元帳などの帳簿を一切作成、保存しようとせず、法人の代表取締役が適正に申告しようとするならば通常行うべき行為を、長期間にわたり、全く行っていなかった。 (2) 請求人が、確定申告をしなかったのは、確定申告の方法が分からず、会計帳簿の作成方法も分からず、利益の把握もできなかったからであり、税金の計算ができなくなることを目的としたなどというわけではない。
(3) 本件前代表者は、適正な所得金額の把握を困難にさせるために、請求書のほとんどを残していたにもかかわらず、請求書などの書類を全て捨てたと本件調査担当職員に虚偽の答弁をした。 (3) 書類を全て捨てたとの本件前代表者の申述を記載した質問応答記録書を原処分庁が作成した際、本件前代表者は、本件調査担当職員の質問の意味が分かって内容を理解した上で、自署押印したわけではない。そして、請求人は、当該申述の直後に請求人の事業に係る書類を原処分庁に提示しているのであるから、当該申述は錯誤によるものであり虚偽の答弁には当たらない。
(4) 上記(1)ないし(3)の行動は、請求人の申告書を法定申告期限内に提出しなかったことが、単なる不申告行為にとどまるものではなく、確定的な意思に基づいて無申告を貫いていたものと認められ、課税標準等及び税額等を申告しないことによって税を免れることを意図した特段の行動と認められる。 (4) 請求人の場合、重加算税の対象とされた5年間の期限後申告のその期間において、原処分庁が主張する「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があったかどうかということであって、10年以上の長期間の無申告という事実において、当該特段の行動があったということではない。また、原処分庁が認定する当該特段の行動については、その根拠が希薄であることは明らかである。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この隠蔽又は仮装に基づく無申告に対して重加算税を課する制度は、納税者が無申告について隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったこと(無申告行為)そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為を要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件前代表者は、平成23年頃、請求人の書類を持参の上、L税理士に請求人の申告書の作成を依頼した。しかしながら、請求人の申告書を作成するために必要な書類が不足していたことから、L税理士は本件前代表者の依頼を留保した。
  • ロ 本件代表者は、平成26年9月、請求人に入社し、また、同年10月、本件前代表者が○○ため、本件前代表者から請求人に係る経営等の全てを任された。それに伴い、同月以降、本件代表者の妻が、請求人の通帳の管理、経費の支払、給料明細書等の作成を担当した。
     なお、本件前代表者は、○○後、1年間ほどは請求人の事業全般に従事していたが、その後、○○により、倉庫の清掃をする程度の業務に従事していた。
  • ハ 本件代表者の妻は、平成26年11月頃、請求人の税務代理をJ税理士に依頼したが、J税理士は、過去に税務代理をした時から10年程が経過しており、また、請求人が無申告であったことを理由に、その依頼を断った。その後、本件代表者の妻は、J税理士以外の2名ないし3名の税理士に請求人の税務代理を依頼したものの、いずれの税理士も請求人が無申告であることを理由にその依頼を断った。
  •  
  • ニ 本件代表者の妻は、平成28年12月、同人が経理を担当し始めた以後の2年間分の書類を提示の上、M税理士に請求人の税務代理を依頼した。しかしながら、M税理士は、請求人の過去5年間分の書類が保存されていないことを理由に請求人の税務代理の依頼を断った。
  • ホ 本件調査担当職員は、平成30年8月28日、本件前代表者に対し、請求人の所得金額を計算するための帳簿や請求書などの書類の提示を求めたが、本件前代表者はこれらの書類を提示しなかった。本件前代表者は、その際、本件調査担当職員に対し、直近3年間ほどの期間は、本件代表者に請求人の経営等の全てを任せているので不明であるが、それ以前の期間については、帳簿は作成しておらず、また、請求書などの書類は全て捨てた旨申述した。
  • ヘ 請求人は、平成30年8月29日、本件調査担当職員に対し、上記ロのとおり、本件代表者が、請求人の経理を含む経営等の全てを任されたことにより管理していた、平成25年8月10日から平成30年7月31日までのN銀行○○支店の普通預金通帳(口座番号○○○○)、平成26年9月から平成29年12月までの請求書(控)などの請求人の収入に関する書類並びに平成26年12月から平成30年7月までの請求書等及び平成26年6月から平成29年12月までの給料明細書などの請求人の支出に関する書類を提示した。
  • ト 請求人は、平成30年8月31日、本件調査担当職員に対し、本件前代表者が管理していた、平成23年、平成25年及び平成26年の領収証並びに平成22年から平成26年にかけての外注支払明細書及び給料支払明細書を提示した。
  • チ 請求人が平成30年11月9日に原処分庁に提出した上記1の(4)のロの各確定申告書は、上記ヘ及びトの書類に基づき算定したものであった。

(3) 検討

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、請求人が、申告書を法定申告期限内に提出しなかったのは、単なる不申告行為にとどまるものではなく、確定的な意思に基づいて無申告を貫いていたものと認められ、請求人の行動は、課税標準等及び税額等を申告しないことによって税を免れることを意図した特段の行動と認められる旨主張するので、以下、検討する。

  • イ 請求人が無申告であった平成16年11月期以降の期間において、本件前代表者は、上記(2)のイのとおり、平成23年頃、L税理士に請求人の申告書の作成を依頼したが留保された。また、本件代表者の妻は、上記(2)のハのとおり、平成26年11月頃、J税理士に請求人の税務代理を断られ、その他にも2名ないし3名の税理士に請求人の税務代理を依頼したが、いずれも断られ、さらに、上記(2)のニのとおり、平成28年12月、M税理士に請求人の税務代理の依頼をしたが、これも断られた。
     そうすると、上記1の(3)のロ及びハのとおり、請求人が、長年にわたり会計帳簿を作成せず、これを改めることなく申告をしなかったことは認められるものの、上記の本件前代表者及び本件代表者の妻の行動からすれば、請求人は、漫然と無申告の状態を放置していたわけではなく、むしろ、申告をしようとしていたことがうかがえる。
  • ロ 本件調査において、本件前代表者は、上記(2)のホのとおり、平成30年8月28日に本件調査担当職員に対し、請求書などの書類は全て捨てた旨、一度は申述したことが認められるものの、請求人は、上記(2)のヘ及びトのとおり、その翌日である同月29日には本件代表者が管理していた書類を、さらに、同月31日には本件前代表者が管理していた書類を、それぞれ本件調査担当職員に提示している。そして、その後、請求人は、確定申告書の提出の勧奨にも応じて申告しており、その確定申告書を見ると、上記(2)のチのとおり、請求人が原処分庁に提示した書類に基づき算定されていた。
     これらの事実からすれば、この本件前代表者の申述について、直ちに虚偽の答弁を行ったとまで評価することはできず、まして、この申述によって、請求人が無申告で済ませようとする態度を貫いたとか、本件調査に非協力的な態度をとったとか、本件調査を困難ならしめる状況を作出したなどと評価することもできない。
  • ハ 上記イ及びロの事情を総合すると、請求人は、申告の必要性を認識しながら、これをしなかったことは認められるものの、税を免れようとする確定的な意思に基づいて無申告を貫いていたとまで評価することはできないから、その無申告行為そのものとは別に、法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできない。そして、その他原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、請求人が、法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めるに足りる事実はない。
     したがって、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認めることはできない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のハのとおり、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はなく、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。他方、法定申告期限までに申告しなかったことについて、同法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、請求人は無申告加算税の額につき、その計算の基礎となる金額及び計算方法については争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分は、無申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であり、別紙1ないし別紙13のとおり取り消すのが相当である。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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