(令和2年3月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、建物の修繕工事に係る費用を事業年度終了の日付で修繕費に計上し、当該修繕費を損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人の代表取締役は、当該修繕工事が事業年度終了の日までに着工すらしておらず、当該修繕費を損金の額に算入できないことを認識した上で、当該修繕工事の施工業者に請求書を発行させることによって損金の額に算入したのであるから、その行為は事実の仮装に当たるとして法人税等の重加算税の賦課決定処分等をしたのに対し、請求人が、仮装の事実はないとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 国税庁長官発遣の「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課法2−8ほか共同。以下「本件通達」という。)の第1の1《隠蔽又は仮装に該当する場合》の本文及び同1の(2)のAは、帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていることを、通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実として例示している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、不動産売買業及び不動産管理業を営む法人であり、代表取締役のE(以下「請求人代表者」という。)と取締役である請求人代表者の父が事業を遂行し、従業員2名が事務に従事している。
  • ロ 請求人は、平成19年10月31日、「G」と称する賃貸用の集合住宅(以下「本件建物」という。)を取得した。
  • ハ 請求人代表者は、本件建物に発生していた雨漏りを防止するための修繕工事(以下「本件修繕工事」という。)について、H社に対し、工事代金の見積りを依頼し、当該工事代金を税込合計金額で3,217,860円とする平成30年1月13日付の見積書の交付を受けて程なく本件修繕工事の実施を依頼した。
  • ニ 請求人は、本件修繕工事について、H社から、「納品日」欄に「3.30」、「商品名」欄に「G修繕工事」、「今回ご請求高」欄に「3,132,000」と記載された平成30年3月31日付の請求書(以下「本件請求書」という。)の交付を受けた。
  • ホ 本件修繕工事は、請求人の平成29年4月1日から平成30年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)終了の日までに完了しなかった。
  • ヘ 請求人は、平成30年3月31日付で、本件請求書に基づき本件修繕工事の代金3,132,000円(以下「本件修繕費」という。)を「修繕費」勘定に計上し、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入した。
     なお、請求人は、本件修繕費について、総勘定元帳の「修繕費」勘定の「摘要」欄に「期末未払計上 H社 G修繕工事 3月請求」及び相手科目名を「未払金」として記載している。
  • ト 本件修繕工事は、遅くとも平成30年7月末日までに完了し、請求人は、平成30年9月28日、H社に対し、本件修繕費を支払った。
     なお、本件修繕工事に係る請求書については本件請求書以外に存在せず、また、請求人は本件修繕工事の代金を本件修繕費以外に支払っていない。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件事業年度の法人税及び平成29年4月1日から平成30年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査の結果に基づき、平成31年2月25日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分(以下、法人税に係る重加算税の賦課決定処分を「本件法人税賦課決定処分」、地方法人税に係る重加算税の賦課決定処分を「本件地方法人税賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件法人税賦課決定処分及び本件地方法人税賦課決定処分に不服があるとして、平成31年3月28日に審査請求をした。

2 争点

請求人が本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入したことに、通則法第68条第1項に規定する仮装に該当する事実があるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人は、本件事業年度終了の日までに本件修繕工事が開始すらされていないことを認識していたにもかかわらず、H社に本件請求書の発行を依頼し、その依頼に基づき、H社は「納品日」欄に「3.30」と虚偽の記載をした本件請求書を作成し、発行しているのであり、これらの行為は、本件通達に定める「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」に該当する。 (1) 請求人代表者は、本件建物の雨漏りが本件事業年度に発生しており、本件修繕工事は豪雪の影響で完了していないものの、本来修繕すべき本件事業年度において計上すべき費用と認識していた。そのため、本件修繕工事に係る費用の額を確認するためにH社から本件請求書の交付を受けたにすぎず、本件請求書の納品日も、請求書の発行システムの便宜上入力されただけであり、本件修繕工事の完了日とは異なる。
 したがって、本件請求書の発行は、通謀による虚偽の証ひょう書類の作成に該当しない。
(2) 請求人の法人税の確定申告書に添付された仮払金等に係る勘定科目内訳明細書の記載内容からすれば、請求人代表者は、将来の費用、資産及び収益となるものを当期の費用等から峻別しなければならないという会計知識を有していたことがうかがえ、本件修繕費について、本件事業年度終了の日までに本件修繕工事が完了していなければ、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入できないことを認識した上で、本件事業年度の所得金額及び法人税額を過少にする意図の下、受領した本件請求書を基に本件修繕費を総勘定元帳の「修繕費」勘定に記載して損金の額に算入しており、その行為は、本件通達に定める「帳簿書類への虚偽記載」に該当する。 (2) 請求人代表者は、本件修繕費の計上時期について、上記(1)のとおり認識していたため、本件事業年度の費用として計上したのであるから、所得金額を過少にする意図があったわけではなく、請求人代表者の経理上の認識の誤りにすぎない。
(3) 上記(1)及び(2)の行為は、いずれも通則法第68条第1項に規定する仮装の行為に該当する。 (3) 上記(1)及び(2)によれば、請求人には通則法第68条第1項に規定する仮装の事実はない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 通則法第68条第1項は、上記1の(2)のイのとおり規定しているところ、同項に規定する重加算税を課するための要件は、納税者がした過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要し、ここにいう仮装と評価すべき行為とは、存在しない取引に関し、それが存在するかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。
  • ロ また、本件通達は、通則法第68条第1項の規定に係る処理の統一を図るために具体的な取扱いを定めたものであり、本件通達の第1の1の(2)のAは、上記1の(2)のロのとおり定めているところ、事実の仮装が上記イのとおり故意に事実をわい曲することと解されていることからすれば、この定めは当審判所においても相当と認められる。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ H社は、本件修繕工事につき、平成30年3月31日(本件事業年度終了の日)までに、下請業者の手配や近隣住民への説明その他施工に向けた準備に取り掛かっていた。
  • ロ 請求人代表者は、遅くとも平成30年4月頃、H社に本件請求書の発行を依頼し 、H社は、その求めに応じて本件請求書を発行した。
  • ハ 請求人の経理事務について、請求人代表者は、請求書及び領収証の保存並びに入出金に係る会計伝票の作成を行い、それ以外の経理事務並びに総勘定元帳、決算書、確定申告書及び勘定科目内訳明細書の作成は、請求人の税務代理人が行っていた。
  • ニ 本件修繕費について、請求人代表者は、会計伝票を作成しておらず、本件事業年度の決算書を作成するための資料として、本件請求書を請求人の税務代理人の担当者に交付した。

(3) 検討

  • イ 原処分庁の主張する「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」の事実について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、請求人代表者が、H社に依頼して「納品日」欄に虚偽の事実を記載した本件請求書を故意に発行させたため、「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」に当たる行為を行った旨主張し、その証拠資料として1本件請求書、2請求人代表者の申述を記録したとする平成30年12月18日付の調査報告書(以下「本件調査報告書」という。)及び3H社の代表取締役の申述を記録した質問応答記録書のいずれも写しを当審判所に提出している。
    • (ロ) ところで、本件修繕工事については、請求人代表者が平成30年1月13日付の見積書の交付を受けて程なく工事を発注し(上記1の(3)のハ)、これを受注したH社は、同年3月31日(本件事業年度終了の日)までに下請業者の手配や近隣住民への説明その他施工に向けた準備に取り掛かるとともに(上記(2)のイ)、同年4月頃には請求人代表者の求めに応じて本件請求書を発行しており(上記(2)のロ)、その後は、H社により同年7月末までに本件修繕工事が完了し、請求人から同年9月28日に本件請求書に基づき本件修繕工事の代金が決済されている(上記1の(3)のト)。
       上記の事実経過をみると、H社が請求人代表者の求めに応じて本件請求書を発行したことについては、現に、H社が本件修繕工事の実施に向けた準備作業を行っていたところに、請求人代表者から依頼があったからこそ、本件請求書を発行するに至ったのであるから、本件修繕工事につき、H社により施工されることが確かなものとして施主である請求人側から依頼があれば、竣工前に本件請求書を発行したとしてもあながち不自然とは言い切れず、また、本件請求書の「納品日」欄に記載されている「3.30」については、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、H社の請求書発行に係るシステムの便宜上「3.30」と入力されたにすぎない可能性も否定できない。そして、本件請求書の「納品日」欄が直ちに本件修繕工事の完了日を示すと認めるに足りる証拠はないから、本件請求書の「納品日」欄に「3.30」と記載がされているからといって、本件請求書が直ちに虚偽のものであるとまでは評価できない。
       さらに、上記(イ)の2及び3の各証拠資料をみると、いずれも請求人代表者がH社に対して、本件修繕工事の代金に関して請求書の発行を依頼した旨が記述されているものの、本件請求書の「納品日」欄に本件修繕工事の完了日として「3.30」と記載することを依頼したこと、すなわち、本件請求書の発行に当たって、本件修繕工事の完了日を平成30年3月30日にする旨を依頼した事実に関する記述は存在しない。
       したがって、上記(イ)の1ないし3の各証拠資料だけからは、上記(イ)の原処分庁の主張する事実を認めることはできないし、当審判所の調査の結果を踏まえても、その事実を認めることはできない。
  • ロ 原処分庁の主張する「帳簿書類への虚偽記載」の事実について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人の法人税の確定申告書に添付された勘定科目内訳明細書の記載内容からすれば、請求人代表者は、将来の費用、資産及び収益となるものを当期の費用等から峻別しなければならないという会計知識を有しており、本件修繕費について、本件事業年度終了の日までに本件修繕工事が完了していなければ、損金の額に算入できないことを認識していたにもかかわらず、過少申告の意図の下、請求人の総勘定元帳上費用に計上して損金の額に算入しており、その行為は「帳簿書類への虚偽記載」に当たる旨主張し、その証拠資料として本件調査報告書の写しのほか、本件事業年度の仮払金(前渡金)及び仮受金(前受金・預り金)に係る勘定科目内訳明細書の写しなどを当審判所に提出している。
    • (ロ) そこで、上記(イ)の証拠資料をみると、上記(2)のハ及びニのとおり、本件事業年度の総勘定元帳、決算書、確定申告書及び勘定科目内訳明細書は、請求人代表者ではなく、いずれも請求人の税務代理人により作成されたものであり、また、請求人代表者は、通常、入出金に係る会計伝票を作成するにとどまり、本件修繕費のような未払金に関する会計伝票は作成していないのであるから、請求人代表者が経理事務を担当していることや勘定科目内訳明細書に将来の費用、資産及び収益となるものを峻別した記載があることをもって、請求人代表者に、上記(イ)にいうような税務会計に関する知識や認識があったと認めることはできない。そして、原処分庁が提出した全証拠及び当審判所の調査の結果を踏まえても、請求人代表者に、本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入できないことの認識や過少申告の意図があったとは認められない。
       したがって、上記(イ)の原処分庁の主張する事実を認めることはできない。
  • ハ 仮装と評価すべき行為の有無について
     上記イ及びロのとおり、本件における全証拠によっても、原処分庁の主張する「相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成」及び「帳簿書類への虚偽記載」の各事実を認めることはできず、また、当審判所の調査によっても、本件請求書の作成、本件請求書に基づく請求人の経理処理及び本件修繕費の帳簿書類への記載などの一連の行為において、故意に事実をわい曲したと評価すべき行為は見当たらない。
     したがって、請求人が本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入したことに、通則法第68条第1項に規定する仮装に該当する事実があるとは認められない。

(4) 本件法人税賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人の行為に仮装の事実があるとは認められず、本件法人税賦課決定処分については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。他方、本件事業年度の法人税の更正処分に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、本件法人税賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件法人税賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については違法であるから、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件地方法人税賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人の行為に仮装の事実があるとは認められず、本件地方法人税賦課決定処分については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。他方、本件課税事業年度の地方法人税の更正処分に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、請求人に通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件地方法人税賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については違法であるところ、通則法第65条第1項の規定により過少申告加算税相当額を計算すると〇〇〇〇円になるが、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、加算税の額が5,000円未満であるときはその全額を切り捨てることとなるので、本件地方法人税賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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