(令和2年3月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、特定非営利活動法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が実施するa市設置の施設管理受託事業について、当該事業は法人税法施行令第5条《収益事業の範囲》第1項に規定する収益事業に含まれないとして請求人が更正の請求をしたところ、原処分庁から更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたため、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 特定非営利活動促進法第70条第1項は、特定非営利活動法人は、法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、法人税法第2条《定義》第6号に規定する公益法人等とみなす旨規定している。
  • ロ 法人税法第2条第13号は、収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう旨規定している。
     この規定を受けて、法人税法施行令第5条第1項は、法人税法第2条第13号に規定する政令で定める事業は、法人税法施行令第5条第1項各号に掲げる事業(その性質上その事業に付随して行われる行為(以下「付随行為」という。)を含む。)とする旨規定し(以下、同項各号に掲げる事業を「特掲事業」という。)、同項第10号では請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)を規定している。
     また、法人税法施行令第5条第2項第2号は、公益法人等が行う特掲事業のうち、その事業に従事する同号イからヘまでに掲げる者(以下「特定従事者」という。)がその事業に従事する者の総数の半数以上を占め、かつ、その事業がこれらの者の生活の保護に寄与しているものについては、同条第1項に規定する収益事業に含まれないものとする旨規定し、同条第2項第2号ホにおいて、年齢65歳以上の者(以下「高齢者」という。)を掲げている。
  • ハ 法人税法第4条第1項は、内国法人である公益法人等については、収益事業を行うなど一定の場合に限り、法人税を納める義務がある旨規定している。
  • ニ 法人税法第7条《内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税》は、内国法人である公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、各事業年度の所得に対する法人税を課さない旨規定している。
  • ホ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達をいう。以下同じ。)15−1−6(付随行為)は、法人税法施行令第5条第1項に規定する付随行為とは、通常その収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為をいう旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、広く一般市民に対して、各種スポーツ大会・教室等の企画運営、団体及び指導者の育成と相互間の連絡調整及び派遣、功労者及び優秀者の表彰、市民へのスポーツ情報の提供、スポーツ振興及び体育施設の運営管理に関する事業を行い、市民の健康増進及び体力の向上を図り、スポーツ精神を養い、明るく豊かな市民生活の形成に寄与することを目的として、平成25年3月○日に設立された特定非営利活動法人である。
  • ロ 請求人は、a市から、a市公の施設の指定管理者の指定の手続等に関する条例(平成○年a市条例第○号)第○条《指定管理者の指定》に基づいて、指定期間を平成26年4月1日から平成31年3月31日までとして、下記の施設を管理運営する指定管理者に指定された(以下、この指定を「本件指定」といい、下記(イ)ないし(ハ)の施設を「本件各施設」という。)。
    • (イ) a市屋外運動場設置及び管理に関する条例(平成○年a市条例第○号)に定めるa市屋外運動場
    • (ロ) a市○○場設置及び管理に関する条例(平成○年a市条例第○号)に定めるa市○○場
    • (ハ) a市○○場設置及び管理に関する条例(平成○年a市条例第○号)に定めるa市○○場
  • ハ ハ 請求人は、本件各施設の管理運営に関し、平成26年1月24日に、a市との間で、「a市スポーツ施設管理運営に関する協定書」を取り交わした。当該協定書には、要旨、次のとおり記載されている。
    • (イ) 本協定は、a市と請求人が相互に協力し、スポーツ施設を適正かつ円滑に管理運営するために必要な基本事項を定めることを目的とする(第1条《本協定の目的》)。
    • (ロ) 本件指定は、請求人の能力を活用しつつ、地域住民等に対するスポーツ施設設置の効果及び効率を向上させ、もって地域の福祉の一層の増進を図ることに意義を有するものである(第2条《指定管理者の指定の意義》)。
    • (ハ) 本件指定により請求人が行う業務は、1本件各施設及び設備の維持管理に関する業務、2本件各施設の使用の許可及び使用の制限に関する業務、3本件各施設の利用料金の収受に関する業務、4本件各施設の運営に関する業務、5その他a市教育委員会が必要と認める業務(以下、これらの業務を併せて「本件指定業務」という。)とする(第9条《本業務の範囲》)。
    • (ニ) a市は、本件指定業務の実施の対価として、請求人に対して所定の指定管理料を支払う(第25条《指定管理料の支払い》)。
    • (ホ) 請求人は、本件各施設に係る利用料金を請求人の収入として収受することができる(第26条《利用料金収入の取扱い》)。
    • (ヘ) 請求人は、本件各施設の設置目的に合致し、かつ本件指定業務の実施を妨げない範囲において、a市に業務計画書を提出して事前の承諾を得た上で、請求人の責任と費用により、自主事業を実施することができ、自主事業により発生した収入は請求人の収入とする(第41条《本業務の範囲外の業務》)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 当初申告
    • (イ) 請求人は、原処分庁に対し、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの事業年度(以下「平成29年3月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)及び平成30年3月期(以下、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申告書に、それぞれ平成29年3月期の活動計算書(特定非営利活動促進法第27条《会計の原則》第3号に規定する計算書類として作成されたもの。以下同じ。)及び平成30年3月期の活動計算書(以下、これらを併せて「本件各活動計算書」という。)の「特定非営利活動に係る事業(収益事業)」欄の記載に基づき、本件指定業務に関する事業等を収益事業として、別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに提出した。
    • (ロ) また、請求人は、原処分庁に対し、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの課税事業年度(以下「平成29年3月課税事業年度」といい、他の課税事業年度についても同様に表記する。)及び平成30年3月課税事業年度(以下、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の地方法人税の確定申告書に、別表2の「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに提出した。
    • (ハ) 本件各活動計算書の「特定非営利活動に係る事業(収益事業)」欄には、その収支について、要旨、別表3及び別表4のとおり記載されている。
  • ロ 更正の請求
     請求人は、平成30年8月25日に、原処分庁に対し、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税について、請求人が確定申告において収益事業として申告した事業(以下「本件事業」という。)は、法人税法施行令第5条第2項の適用を受けるため収益事業には該当しないとして、本件事業に従事する者の生年月日等を記載した一覧表を含む疎明資料を添付の上、 それぞれ別表1及び別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件各更正請求」という。)をした。
  • ハ 原処分
     原処分庁は、平成30年12月25日付で本件各事業年度の法人税について、また、平成31年4月24日付で本件各課税事業年度の地方法人税について、請求人が提出した更正の請求書及びその添付書類からは、法人税法施行令第5条第2項に規定する要件を充足している事実を確認することができず、本件各更正請求に対しその更正をすべき理由があるとは認められないとして、それぞれ更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
  • ニ 審査請求等
     請求人は、本件各通知処分に不服があるとして、平成31年3月25日に、法人税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分について、令和元年5月16日に、地方法人税に係る更正をすべき理由がない旨の通知処分について、それぞれ審査請求をした。
     なお、当審判所は、国税通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づき、これらの審査請求について併合の上審理する。

2 争点

本件事業は、法人税法施行令第5条第2項に規定する事業として、収益事業の除外事由に該当するか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
本件事業のうち、下記(1)のイ及びロに係る業務を除いたものは、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当するが、当該業務は、同条第2項第2号に規定する事業であるから、収益事業の除外事由に該当し、法人税法第2条第13号にいう収益事業に含まれない。 更正の請求に際し、その更正の請求をする理由が課税標準たる所得が過大であること、その他その理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、納税者は、その理由の基礎となる事実を証明する書類を更正の請求書に添付した上で、当初の申告内容が真実に反するものであることの主張立証をすべきである。
 請求人は、そもそも本件事業に係る法人税法施行令第5条所定の要件について明らかにしていないのであるから、同条第2項に規定する事業として収益事業の除外事由に該当するとはいえず、更正をすべき理由があるとは認められない。
(1) 本件事業は、法人税法施行令第5条第1項各号が規定する特掲事業のうち、いずれに該当するかについて
 請求人は、a市の指定管理者として、本件各施設の管理運営に関する事務を請け負っているのであるから、下記イ及びロに係る業務を除いて、指定管理者として行った本件事業は、それに付随するものも含め、全体として一つの請負業(法人税法施行令第5条第1項第10号)に該当する。
  • イ 平成30年3月期の活動計算書において計上したカルチャー教室収入(3万円)は、誤計上であり、本来非収益事業に係る収入とすべきものである。
  • ロ 本件各活動計算書において計上した「その他収益」の「雑収益」のうち、自動販売機に係る業務は、本件指定業務に係る付随行為ではなく、手数料を受領するのみであることから、特掲事業のいずれにも該当しない。
(1) 本件事業は、法人税法施行令第5条第1項各号が規定する特掲事業のうち、いずれに該当するかについて
 請求人は、本件各更正請求に際して、本件事業が法人税法施行令第5条第1項に規定する特掲事業のうちどの事業に該当するかについて十分な根拠資料を提出していない。また、請求人は、カルチャー教室及び自動販売機に係る業務について、本件指定業務に付随して行われる行為に該当しない旨主張するが、その理由等について具体的に明らかにしていない。したがって、本件事業が法人税法施行令第5条第1項に規定する特掲事業のうちどの事業に該当するかは明らかでなく、請求人の主張は理由がない。
(2) 法人税法施行令第5条第2項第2号について
  • イ 本件事業に従事する者は合計○名であるところ、別表5に記載のとおり、これらの者のうち特定従事者である高齢者は○名であり、本件事業に従事する者の総数の半数以上を占めている。
  • ロ また、法人税法施行令第5条第2項第2号は、特掲事業が、特定従事者の「生活の保護に寄与している」か否かについて、明確な基準を定めているわけではないところ、この点については、収益事業から生じた剰余金額等の処分可能な金額に占める特定従事者に支給する給与等の割合を基に計算し、当該事業に係る収入金額又は利益金額の相当部分を特定従事者に給与等として支給しているか否かにより判断すべきである。そして、「相当部分」といえるかどうかは、剰余金額等の処分可能額について、税引前当期正味財産増減額の金額に特定従事者の給与等の金額のみを加算した金額を使用した上で緩やかに判断するのが相当である。
(2) 法人税法施行令第5条第2項第2号について
  • イ 仮に、本件事業が法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当するとしても、請求人は各事業ごとに従事する者の総数及び従事する者のうちの特定従事者の人数を明らかにしていないから、当該事業の半数以上を特定従事者が占めているか否かは明らかではない。
  • ロ また、法人税法施行令第5条第2項第2号が、本来収益事業に該当するものについて、社会政策上特例的に収益事業から除外しているという趣旨に照らすと、収益事業の除外事由に該当する事業とは、営利が主たる目的ではなく、従事する特定従事者の生活の保護に寄与することを主たる目的として行われているものであり、具体的には、当該事業に係る収入金額又は利益金額の相当部分を特定従事者に給与等として支給していることが必要であると解されている。したがって、特定従事者への給与支給額(以下「特定従事者分支給額」という。)を利益金額と比較する場合においては、請求人が作成した本件各活動計算書の、税引前当期正味財産増減額に、当該事業に従事する、特定従事者及びそれ以外の従事する者の人件費支給総額(当該事業に係る人件費支給額の総額)を加算した金額(以下「本件比較利益額」という。)を算出し、これを特定従事者分支給額と比較すべきものである。しかしながら、この点についても請求人は明らかにしていない。
     仮に、請求人の主張するとおり、収益事業の判定及び従事する特定従事者の割合について解釈したとしても、特定従事者分支給額の本件比較利益額に占める割合からすれば、相当部分を特定従事者に給与として支給しているものとは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件指定業務の実施の対価として支払われた前記1の(3)のハの(ニ)の指定管理料を、本件各活動計算書上、「施設管理受託収入」の科目で収益計上し、本件各施設の利用者らが支払った利用料金については、前記1の(3)のハの(ホ)に基づき、「受取施設利用料」の科目で収益計上した。
  • ロ 請求人は、本件各施設のうち、前記1の(3)のロの(イ)のa市屋外運動場の一つであるa市H運動場を利用して実施される○○大会に関し、○○大会主催者から清掃等の業務を委託され、委託料の支払を受けている。
     また、請求人は、本件各施設に含まれない屋外公園(J公園)について、a市との間で、予約受付及び草刈り等の業務委託契約を締結し、委託料の支払を受けている。
     請求人は、これらの委託料について、本件各活動計算書上、「施設管理受託収入」ないし「清掃業務受託収入」の科目で収益計上している。
  • ハ 請求人は、平成30年3月期に施設の利用促進と併せて健康増進及び体力の向上を図る一環として、本件各施設内の会場で、講師を招いて○○教室を開き、参加者から参加費を受領している。
     請求人は、平成30年3月期の活動計算書上、当該事業に係る収入を「カルチャー教室収入」の科目で収益計上している。
  • ニ 請求人は、自動販売機設置業者から本件各施設に設置された清涼飲料等の自動販売機の設置に係る手数料を受領しており、本件各活動計算書上、当該収入を「その他収益」のうち「雑収益」として計上している。
     なお、請求人は、a市に対し、設置場所に係る行政財産の使用料を支払い、自動販売機設置業者は、商品の補充等を行うとともに、自動販売機設置に伴う電気代を負担している。
  • ホ 本件各事業年度全体を通じて、本件事業に従事する者(非常勤職員を含む)のうち、特定従事者(高齢者)が半数以上を占めている。
  • ヘ 特定従事者分支給額(別表6及び別表7の各C欄に記載の金額)は、平成29年3月期が7,879,210円、平成30年3月期が9,217,860円である。そして、特定従事者分支給額と、税引前当期正味財産増減額に人件費支給総額を加算した金額(本件比較利益額)を比較した結果は、別表6及び別表7のとおりである。

(2) 検討

  • イ 本件事業が法人税法施行令第5条第1項に規定するいずれの特掲事業に該当するかについて
    • (イ) 法令解釈等
      • A 法人税法第2条第13号に規定する収益事業の意義
         法人税法第7条は、公益法人等の収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さない旨規定し、同法第2条第13号は、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるもの」を収益事業という旨規定している。そして、「政令で定める事業」として、法人税法施行令第5条第1項は、一般営利企業と競合関係にないと認められる事業を収益事業の対象から除くなどして、課税対象とされる収益事業の範囲(特掲事業)を個別具体的に規定していることからすれば、公益法人等の営む事業が、客観的にみて同項の規定の文理上、特掲事業に該当し、当該事業について継続して事業場を設けて営まれているといえる場合には、収益事業として法人税を課するのが相当である。
      • B 法人税法施行令第5条第1項第10号に掲げる請負業の意義
         法人税法施行令第5条第1項第10号は、収益事業である同項の特掲事業の一つとして請負業を掲げ、請負業には事務処理の委託を受ける業を含む旨規定している。
         このことからすれば、法人税法施行令第5条第1項第10号に掲げる請負業には、ある仕事の完成を約して、その結果に対して報酬を得るという民法第632条《請負》の請負契約に基づく事業だけではなく、第三者から民法第643条《委任》の委任契約に基づく法律行為の委託又は民法第656条《準委任》の準委任契約に基づく法律行為以外の事務の委託を受けて対価を得る事業も含まれると解されるところ、同条の準委任契約における事務には、委託に基づき第三者のために行う行為全般が含まれる。
         そうすると、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業には、第三者からの委託により一定の役務を提供して対価を得る事業全般が含まれ、このような事業は、同号の除外事由に該当しない限り、法人税法第2条第13号で規定する収益事業である請負業に該当すると解される。
      • C 法人税基本通達15−1−6について
         法人税基本通達15−1−6は、付随行為とは、通常、その収益事業に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為をいうと定めており、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
    • (ロ) 当てはめ
       請求人は、本件指定業務に加え、本件指定業務に関連して受託した上記(1)のロに記載の業務を行っているところ、これらは、同種の業務であって、第三者からの委託により一定の役務を提供し対価を得る事業といえるから、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当する。
       また、請求人は、上記(1)のハ及びニのとおり、カルチャー教室及び自動販売機に係る業務についても行っている。カルチャー教室に係る業務については、本件各施設を利用して○○教室を開催することで、利用者の健康増進及び体力の向上を図るとともに、今後の施設利用の促進を目的とするものであることからすれば、当該業務は、地域住民等に対するスポーツ施設設置の効果及び効率を向上させ、もって地域の福祉の一層の増進を図るという本件指定の目的に資するものであり、本件指定業務に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為であるといえる。そして、自動販売機に係る業務は、本件各施設の敷地内に自動販売機を設置することにより、施設利用者の便宜を図るものであるから、当該業務についても、本件指定の目的に資するものであって、本件指定業務に係る事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる行為といえる。したがって、カルチャー教室及び自動販売機に係る業務は、いずれも本件指定業務の付随行為であると認められる。
       以上によれば、本件指定業務及び上記(1)のロないしニの業務は、全体として一つの請負業に該当するといえるから、本件事業は法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当するといえる。
  • ロ 本件事業が、法人税法施行令第5条第2項第2号の要件を充足するかについて
    • (イ) 法令解釈
       法人税法第4条第1項は、公益法人等については、収益事業から生じた所得についてのみ法人税を課す旨規定し、また、法人税法施行令第5条第2項第2号は、公益法人等が特掲事業を行う場合であっても、その事業に従事する特定従事者が、その事業に従事する者の総数の半数以上を占め、かつ、その事業が、これらの者の生活の保護に寄与しているものについては、収益事業に含まれないものとする旨規定している。
       これらの規定の趣旨は、公益法人等の行う事業が収益事業に該当するものである場合は、他の営利法人との課税の公平を図る目的から、法人税を課すことを原則とするが、本来収益事業に該当する内容の事業であっても、その事業について、従業員の半数以上の者を特定従事者として雇用し、これらの者の生活の保護に寄与しているものである場合には、その公益性を考慮し、社会政策上法人税を課すことは相当でないとして、これを収益事業から除外したものと解される。
       そして、「その事業が、これらの者の生活の保護に寄与しているもの」とは、本来収益事業に当たるものについて、社会政策上特例的に収益事業から除外している趣旨に照らすと、収益事業から生じた剰余金等の処分可能な金額に占める特定従事者に支給する給与等の割合により、その事業が、特定従事者の自立促進を目的とするものか、それ以上に利益追求を目指すものかを評価するのが相当であるところ、当該事業に係る剰余金等の処分可能な金額の相当部分を特定従事者に給与等として支給していると認められる場合には、従事する特定従事者の生活の保護に寄与しているものと解することが相当である。
    • (ロ) 当てはめ
       上記(1)のホのとおり、本件各事業年度全体を通じて、本件事業に従事する者(非常勤職員を含む)のうち、特定従事者が半数以上を占めていると認められることから、以下、本件事業が、特定従事者の「生活の保護に寄与している」か否かについて検討する。
       本件事業が特定従事者の「生活の保護に寄与しているもの」に該当するかを判断するに当たっては、上記(イ)のとおり、収益事業から生じた剰余金等の処分可能な金額に占める特定従事者の給与等の割合を基に判定することになる。この判定に当たっては、本件各事業年度における本件事業に係る利益の額(本件各活動計算書に記載された「税引前当期正味財産増減額」欄に記載の各金額(別表3の17欄及び別表4の19欄の金額))は、特定従事者分支給額を含む人件費支給総額(別表6及び別表7の各1欄の金額)を差し引いた金額であることから、収益事業から生じた剰余金等の処分可能な金額は、本件事業に係る利益の額に人件費支給総額を加えた金額(本件比較利益額)とすることが相当である。
       そこで、特定従事者分支給額と本件比較利益額とを比較すると、別表6及び別表7の各F欄のとおり、特定従事者分支給額の本件比較利益額に占める割合は、平成29年3月期は39.57パーセント、平成30年3月期は47.56パーセントとなるところ、当該割合は過半にも満たず、本件各事業年度において、請求人が、本件事業に係る剰余金等の処分可能な金額の相当部分を特定従事者に給与等として支給しているとは認められない。
       したがって、本件各事業年度における本件事業は、法人税法施行令第5条第2項第2号に規定する特定従事者の「生活の保護に寄与しているもの」とはいえず、同号の要件に該当しない。
  • ハ まとめ
     以上のとおり、本件事業は、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当するが、同条第2項第2号に規定する収益事業の除外事由には該当しない。

(3) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、前記3の「請求人」欄の(1)のとおり、カルチャー教室及び自動販売機に係る業務はいずれも請負業に該当しない旨主張するが、上記(2)のイのとおり、当該各業務は、本件指定業務の付随行為であり、全体として一つの請負業と認められるのであるから、請求人の主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、前記3の「請求人」欄の(2)のロのとおり、法人税法施行令第5条第2項第2号は、「生活の保護に寄与している」か否かについて、明確な基準を定めているわけではないことから、当該事業に係る収入金額又は利益金額の相当部分を特定従事者に給与等として支給しているか否かにより判断すべきであるとした上で、「相当部分」といえるかどうかは、剰余金額等の処分可能額について、税引前当期正味財産増減額の金額に特定従事者分支給額のみを加算した金額を使用した上で緩やかに判断するのが相当であると主張する。
     しかしながら、人件費支給総額ではなく特定従事者分支給額のみを加算すべきとの請求人の主張に合理的な根拠は見いだせないことに加え、緩やかに判断すべきとの請求人の主張については、その判断基準も不明確であって、特定従事者分支給額の本件比較利益額に占める割合については、相当部分という文言上、その割合が過半にも満たない程度のものは当然含まれないと解すべきであることからすれば、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各通知処分の適法性について

以上のとおり、本件事業は、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する請負業に該当するところ、本件各施設において継続して営まれているといえるから収益事業に該当し、本件各更正請求には更正をすべき理由がないと認められるから、本件各通知処分はいずれも適法である。
 なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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