(令和2年6月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が譲渡した家屋及び土地に係る譲渡所得について、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例を適用して確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人の譲渡した土地の一部については、当該特例を適用することができないとして、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、また、同条第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該譲渡所得の金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額(以下「譲渡費用」という。)の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
  • ロ 租税特別措置法(平成30年法律第7号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項は、個人の有する資産が、居住用財産を譲渡した場合に該当することとなった場合には、譲渡所得の金額の計算上、3,000万円(当該資産の譲渡に係る譲渡所得の金額が3,000万円に満たない場合には当該資産の譲渡に係る部分の金額)の特別控除が適用される旨規定し(以下、この規定を「居住用財産特別控除規定」という。)、同条第2項第1号は、居住用財産を譲渡した場合とは、居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡又は当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡をいう旨規定している。
  • ハ 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項が準用する措置法施行令第20条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項は、措置法第35条第2項第1号に規定する「政令で定める家屋」を、個人がその居住の用に供している家屋とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする旨規定している。
  • ニ 「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(昭和46年8月26日付直資4−5ほか国税庁長官通達。以下「措置法通達」という。)35−4《居住用家屋の所有者と土地の所有者が異なる場合の特別控除の取扱い》は、居住用家屋の所有者以外の者がその家屋の敷地の用に供されている土地等の全部又は一部を有している場合において、その家屋(その家屋の所有者が有する当該敷地の用に供されている土地等を含む。)の措置法第35条第2項各号に規定する譲渡に係る長期譲渡所得の金額が同条第1項の3,000万円の特別控除額に満たないときは、その満たない金額は、次の要件の全てに該当する場合に限り、その家屋の所有者以外の者が有するその土地等の譲渡に係る長期譲渡所得の金額の範囲内において、当該長期譲渡所得の金額から控除できる旨定めている。
    • (イ) その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと。
    • (ロ) その家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること。
    • (ハ) その土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住の用に供していること。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人等の概要
    • (イ) 請求人及びその配偶者であるFは、昭和58年4月6日、別表1の順号1の土地(以下「本件土地」という。)の上に存する、同人が所有する別表1の順号2の家屋(以下「本件甲家屋」という。)が所在するd市e町○−○を住民票上の住所として登録した。
       その後、請求人は、平成〇年〇月○日に死亡したFに係る相続により、本件土地及び本件甲家屋を取得した。
       そして、請求人は、平成28年11月25日に住民票上の住所を肩書地に変更するまで、本件甲家屋を居住の用に供していた。
       なお、請求人は、平成24年頃から肩書地に住所を変更するまでの間、介護保険法上の〇〇が〇〇であった。
    • (ロ) 請求人の子であるG及びその配偶者であるH(以下、Gと併せて「請求人の子ら」という。)は、平成5年1月10日、d市e町○−○を住民票上の住所として登録した。
       その後、請求人の子らは、平成9年3月25日、本件土地の上(本件甲家屋の北隣)に、別表1の順号3の家屋(以下「本件乙家屋」という。)を新築して取得した。
       そして、請求人の子らは、平成28年11月25日、住民票上の住所をd市からa市b町○−○に変更した。
  • ロ 本件甲家屋と本件乙家屋の構造
     本件甲家屋と本件乙家屋は、別図1のとおり、2階の一部が渡り廊下で接合されているが、その設置時期は不明である。
     以下、本件甲家屋と本件乙家屋の接合部分を「本件接合部分」といい、本件土地のうち、本件甲家屋の敷地の用に供しているとする土地を「本件甲家屋敷地」、本件乙家屋の敷地の用に供しているとする土地を「本件乙家屋敷地」という。
  • ハ 本件土地、本件甲家屋及び本件乙家屋の譲渡
     請求人及び請求人の子らは、平成28年2月21日、J(以下「本件買主」という。)との間で、本件土地を代金〇〇〇〇円、本件甲家屋及び本件乙家屋を代金〇〇〇〇円とする売買契約を締結し、同年11月29日、本件土地並びに本件甲家屋及び本件乙家屋を本件買主に引き渡した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件土地及び本件甲家屋の譲渡による分離長期譲渡所得の金額の計算上、居住用財産特別控除規定を適用して、平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書を、別表2の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
  • ロ これに対して原処分庁は、本件乙家屋敷地の譲渡については、分離長期譲渡所得の金額の計算上、居住用財産特別控除規定を適用できないとして、令和元年5月17日付で別表2の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として令和元年8月1日に審査請求をした。

2 争点

本件乙家屋敷地は、居住用財産特別控除規定が適用される請求人の居住用財産に当たるか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
  次の(1)及び(2)のとおり、本件甲家屋及び本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋であり、請求人は本件甲家屋及び本件乙家屋を居住の用に供していたから、本件乙家屋敷地は、居住用財産特別控除規定が適用される請求人の居住用財産に当たる。
 仮に、本件甲家屋及び本件乙家屋が一構えの一の家屋に該当しないとしても、次の(3)のとおり、措置法通達35−4の定めにより、本件乙家屋敷地の譲渡による所得には、居住用財産特別控除規定が適用される。
  次の(1)及び(2)のとおり、本件甲家屋及び本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋ではなく、また、請求人が居住の用に供していた家屋は、本件甲家屋であるから、本件乙家屋敷地は、居住用財産特別控除規定が適用される請求人の居住用財産に当たらない。
(1)  本件甲家屋及び本件乙家屋が併せて一構えの一の家屋であること

イ 二棟の家屋が併せて一構えの一の家屋であるか否かは、当該家屋の内部構造及び機能上の独立居住可能性の有無のみではなく、家屋の間の距離及び外部的な構造上の接続の有無、当該家屋の使用状況、居住者の生計同一性、同居の必要性、居住用財産特別控除規定の制度趣旨及び租税負担公平の原則の観点の各要素を総合考慮して判断する。

(1) 本件甲家屋及び本件乙家屋が併せて一構えの一の家屋ではないこと

イ 二棟の建物が併せて一構えの一の家屋であるか否かは、それぞれの建物の規模、構造、間取り、設備、各建物間の距離等客観的状況によって判定し、建物を所有する個人及びその家族の使用状況等主観的事情は二義的に参酌すべき要素にすぎない。

ロ 二棟の家屋が、それぞれ独立して居住の用に供し得る機能を有するか否かは、租税負担の公平の観点から、一般的な設備や一般人を基準として判断するのではなく、当該家屋の設備の状況において、現に同設備を使用している者を基準として判断する。

ロ 本件甲家屋及び本件乙家屋は、いずれも玄関、台所、風呂及び便所並びに電気、ガス及び水道の設備を有しており、その規模、構造、間取り、設備、家屋間の距離並びに通常考えられる用法及び機能等を考慮すれば、それぞれ独立して居住の用に供し得る機能を有する居住用家屋であることは明らかであるから、本件甲家屋及び本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋ではない。

ハ 上記イ及びロを前提として、次の(イ)から(ヘ)までを総合考慮すると、本件甲家屋及び本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋である。

  • (イ) 独立居住可能性
     請求人は、本件甲家屋及び本件土地を本件買主に譲渡した時、〇〇と〇〇されており、〇〇本件甲家屋及び本件乙家屋の設備等を使用できる〇〇を有しておらず、常に請求人の子らの〇〇の下、本件甲家屋及び本件乙家屋の両方の設備を利用することで生活を維持することができていたから、本件甲家屋又は本件乙家屋を個別に取り上げて独立居住可能性があったということはできない。
  • (ロ) 家屋の間の距離及び外部的な構造上の接続の有無
     本件甲家屋及び本件乙家屋は、隣接し、両建物間の距離も近距離で、本件接合部分で接合されていたから、一体で売却することしかできない家屋である。
  • (ハ) 本件甲家屋及び本件乙家屋の使用状況
     平成22年頃から、請求人によるガスコンロの消し忘れ等が生じるようになり、請求人が食事を作ることに危険が伴うようになったことから、万一の事故に対応するため、本件乙家屋には煙感知器の親機を設置し、本件甲家屋にはその子機を設置していた。
     請求人は、請求人の子らと食事をするために本件乙家屋を訪れたりし、Gは、本件乙家屋で請求人のために昼食や夕食を作り、本件甲家屋にいる請求人の元へそれらを届けたりしていた。
     請求人は、冬の間、本件乙家屋の風呂で入浴していた。
     請求人は、平成22年に本件甲家屋の便所が和式から洋式に改修されるまで、本件乙家屋の便所を利用することがあった。
  • (ニ) 請求人と請求人の子らの生計同一性
     本件乙家屋は、請求人の子らが請求人とFの世話をするために本件甲家屋の隣に新築したものであり、請求人と請求人の子らは、本件接合部分で本件甲家屋及び本件乙家屋を行き来し、本件甲家屋及び本件乙家屋で生活していた。
     また、請求人は請求人の子らの〇〇の下、生活を維持しており、Fの死亡後において、請求人の金銭管理等は、Gが行っていたから、請求人と請求人の子らは生計を一にしている。
  • (ホ) 請求人と請求人の子らの同居の必要性
     請求人は、上記(イ)のとおり、請求人の子らと同居する必要があった。
  • (ヘ) 居住用財産特別控除規定の制度趣旨及び租税負担公平の原則
     居住用財産特別控除規定は、居住用財産の譲渡の場合には、一般の資産の譲渡に比して担税力が弱いことを考慮し、かつ住宅政策上の見地から特別控除を定めたものである。本件甲家屋及び本件乙家屋と本件土地は一体性の強い財産であり、下記(2)のとおり本件甲家屋及び本件乙家屋に居住している請求人と請求人の子らが、生計を一にしていることからすれば、本件乙家屋敷地に居住用財産特別控除規定の適用を認めないことは、居住用財産特別控除規定の趣旨に背くものである。
     また、請求人が〇〇にあるという客観的事実は、当然に考慮すべき事実であり、これを判断要素から排除すること自体が租税負担の不公平を拡大するものである。

ハ 請求人が主張する事情は主観的事情であり、二義的に参酌すべき事情にすぎない。

(2) 請求人が居住の用に供していた家屋は本件甲家屋及び本件乙家屋であること

イ 本件甲家屋及び本件乙家屋は、本件接合部分で接合されており、上記(1)のハの(ハ)のとおり、請求人は、食事、用便、入浴のために本件乙家屋を利用することもあった。
 上記(1)のハの(イ)のとおり、請求人は、〇〇と〇〇されており、本件甲家屋及び本件乙家屋の両方の設備を利用することで生活を維持することができていたから、請求人の生活状況並びに本件甲家屋及び本件乙家屋の利用状況を総合的に考慮すると、本件甲家屋及び本件乙家屋を居住の用に供していたといえる。

(2) 請求人が居住の用に供していた家屋は本件甲家屋のみであること

イ 措置法第35条第2項に規定する「居住の用に供している家屋」とは、所有者が、生活関係の拠点として使用している実態にある家屋をいい、当該家屋に当該個人の生活関係の拠点があるといえるか否かは、当該個人の生活状況を総合的に勘案して判断する。
 本件甲家屋は、請求人が相続により取得した家屋であり、本件甲家屋の電気、ガス及び水道の平成26年1月から平成28年12月までの契約者又は使用者は、請求人であった。
 請求人が本件甲家屋及び本件乙家屋を本件接合部分で行き来していたとしても、請求人が本件乙家屋を生活関係の拠点として利用していたとはいえない。

ロ 原処分庁は、原処分庁に所属する職員が作成した調査報告書に記載された近隣住民の申述や本件買主の申述を根拠として請求人が本件乙家屋を居住の用に供していなかった旨主張する。
 しかしながら、近隣住民の申述内容は、事実と異なるものであって、調査報告書は作成者の作文であり、本件買主の申述内容についても本件甲家屋及び本件乙家屋の内覧という短時間の確認に基づくものにすぎないのであって、それらの申述内容は信用できない。

ロ 本件甲家屋には表札とポストが存在し、本件甲家屋及び本件乙家屋の近隣住民は、請求人に回覧板を回付する際、本件甲家屋の玄関から請求人を呼び、請求人が出てこない場合は本件甲家屋の勝手口に回って回付していた。
 本件買主が本件甲家屋を現地確認した際、本件甲家屋内で、請求人はテレビを見ており、本件甲家屋内には、家具、家電がそろえられていた。

(3) 本件乙家屋敷地の譲渡による所得には、措置法通達35−4の定めにより、居住用財産特別控除規定が適用されること
 措置法通達35−4は、家屋の所有者とその土地の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしている場合には、家屋と土地の所有者が異なる場合であっても居住用財産特別控除規定を適用できるところ、本件乙家屋と本件乙家屋敷地の所有者は異なっているが、請求人と請求人の子らは親族関係にあり、かつ、上記(1)のハの(ニ)のとおり、生計を一にしていたのであるから、本件乙家屋敷地の譲渡による所得には、居住用財産特別控除規定が適用される。
 

4 当審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 法令解釈
     居住用財産特別控除規定は、個人が居住用財産を譲渡した場合には、これに代わる新たな居住用財産を取得しなければならないのが通常で、一般の資産の譲渡に比し特殊な事情にあり、その担税力が弱いことを考慮し、住宅政策上の見地から、居住用財産の譲渡所得につき、3,000万円を限度とする特別控除を認め、新たな居住用財産を購入できるように保障する趣旨で立法された特則、例外規定である。
     また、居住用財産特別控除規定は、措置法施行令第23条第1項により、その適用対象となる家屋について、個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る旨規定している。
     これは、租税負担公平の原則から居住用財産特別控除規定の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、居住用財産特別控除規定の濫用による不公平の拡大を防止しようとするもので、特則、例外規定である同条項の解釈に当たっては、狭義性、厳格性が要請されているものと解される。
     よって、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認められるか否かについては、まず、それぞれの家屋の規模、構造、間取り、設備、各家屋間の距離等客観的状況によって判断すべきであり、個人及びその家族の使用状況等主観的事情は二義的に参酌すべき要素にすぎないものと解するのが相当であるから、単にこれらの家屋がその者及びその者と同居することが通常である親族等によって機能的に一体として居住の用に供されているのみでは不十分といえ、家屋の規模、構造、設備等の状況から判断して、いずれか又はそれぞれが独立の居住用家屋としては機能できないものでなければならない。
     したがって、二以上の家屋がそれぞれ独立の居住用家屋としての機能を有する場合には、これらの家屋を併せて一構えの一の家屋であるとは認められず、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限り、居住用財産特別控除規定の適用対象となるというべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件甲家屋及び本件乙家屋の構造等
      • A 本件甲家屋の構造、面積等は、別表1の順号2のとおり、木造スレート鋼板葺2階建、延べ床面積77.76平方メートルの居宅で、本件甲家屋を譲渡した際の間取りは別図2のとおりであり、玄関、台所、風呂及び便所を備えていた。
         また、本件甲家屋には、電気、ガス、水道及び固定電話回線の各設備があり、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、照明器具等の家電製品が設置されていた。
      • B 本件乙家屋の構造、面積等は、別表1の順号3のとおり、木造合金メッキ鋼板葺2階建、延べ床面積108.11平方メートルの居宅で、本件乙家屋を譲渡した際の間取りは別図3のとおりであり、玄関、台所、風呂及び便所を備えていた。
         また、本件乙家屋には、電気、ガス、水道及び固定電話回線の各設備があり、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、照明器具等の家電製品が設置されていた
    • (ロ) 本件甲家屋及び本件乙家屋の配置状況等
       本件土地上に本件甲家屋敷地及び本件乙家屋敷地を特定できる塀や障壁は存在しなかった。
       また、本件接合部分には、ひさし及び柵が設置されていたが、屋根や壁は設けられていなかった。
  • ハ 検討
    • (イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件甲家屋と本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋である旨主張するので、この点に関し、以下検討する。
       本件甲家屋と本件乙家屋の規模及び構造は、上記ロの(イ)のとおりであり、また、本件甲家屋と本件乙家屋を本件買主に譲渡した時点の間取り及び設備の状況は、上記ロの(イ)並びに別図2及び別図3のとおりであるから、本件甲家屋と本件乙家屋は、それぞれ独立の家屋としての機能を有していたといえる。
       したがって、本件甲家屋と本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋であるとは認められない。
    • (ロ) 次に、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、請求人が本件乙家屋を居住の用に供しており、本件乙家屋敷地にも居住用財産特別控除規定が適用される旨主張するが、請求人の居住の用に供していた家屋が本件甲家屋であることは、上記1の(3)のイの(イ)のとおりであり、また、上記(イ)のとおり、本件甲家屋と本件乙家屋が併せて一構えの一の家屋であるとは認められないのであるから、居住用財産特別控除規定の適用上、請求人の居住の用に供されていた家屋が、本件甲家屋のみとなることは明らかである。(なお、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、本件乙家屋は請求人が所有する家屋ではないから、居住用財産特別控除規定の適用上、上記イにある「個人がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に当たらないため、請求人が主として居住の用に供していた家屋が本件甲家屋と本件乙家屋のどちらであるかを検討するまでもなく、本件乙家屋は請求人が居住の用に供している家屋ではない。)
    • (ハ) 以上のことからすると、本件甲家屋と本件乙家屋は併せて一構えの一の家屋とはいえず、それぞれ独立した居住用家屋であり、また、請求人の居住の用に供していた家屋は本件甲家屋であるから、本件乙家屋敷地は、居住用財産特別控除規定が適用される請求人の居住用財産に当たらない。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のイのとおり、二棟の家屋が一構えの一の家屋に該当するか否かの判断に当たっては、家屋の客観的状況のみならず、家屋の使用状況等、居住用財産特別控除規定の制度趣旨、租税負担公平の原則の観点の各要素を総合考慮して判断すべきである旨主張する。
       しかしながら、請求人が主張する家屋の使用状況等は、主観的事情であり、二義的に参酌される事情にすぎず、また、居住用財産特別控除規定の制度趣旨及びその適用に当たって狭義性、厳格性が要請されていることは、上記イのとおりである。
       そして、租税負担の公平は、租税法の適正な解釈に従って統一的に租税関係法令を適用することによって実現されるべきものであり、居住用財産特別控除規定に関する上記イの解釈を左右するに足りない。
       したがって、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のロのとおり、独立の家屋としての機能を有するか否かの判断に当たっては、当該家屋に設置されている設備の状況において現に同設備を使用している者を基準として判断すべきである旨主張する。
       しかしながら、上記イのとおり、居住用財産特別控除規定の解釈に当たって狭義性、厳格性が要請されていることからすれば、独立の居住用家屋としての機能を有するか否かの判断は、客観的な状況を判断基準として行われるものであり、個々に相違する個人の事情は二義的に参酌されるべき事情にすぎない。
       したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のハのとおり、〇〇を受けた請求人が、請求人の子らの〇〇の下で本件乙家屋の設備を使用し、請求人や請求人の子らが、本件接合部分を利用して、日常的に本件甲家屋と本件乙家屋を行き来していたことから、本件甲家屋と本件乙家屋を併せて一構えの一の家屋であり、請求人は本件乙家屋に居住していた旨主張する。
       しかしながら、仮に上記3の「請求人」欄の(1)のハのとおり、請求人が本件乙家屋を利用していたとしても、上記イのとおり、親族等によって機能的に一体として居住の用に供されていることのみでは、二以上の家屋が併せて一構えの一の家屋であると認めるのに不十分であるし、また、本件甲家屋と本件乙家屋が本件接合部分により接合されていたことによって、本件甲家屋と本件乙家屋が独立の居住用家屋として機能できなくなるものではないから、本件接合部分の存在によって、本件甲家屋及び本件乙家屋を併せて一構えの一の家屋であるとはいえない。
       また、請求人が本件乙家屋を居住の用に供していないことは、上記ハの(ロ)のとおりである。
       したがって、これらの点に関する請求人の主張は採用できない。
    • (ニ) 請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のとおり、本件乙家屋敷地の譲渡による所得には、措置法通達35−4の定めにより、居住用財産特別控除規定が適用される旨主張する。
       そもそも、居住用財産特別控除規定の適用対象となる居住用財産の譲渡とは、上記1の(2)のロの措置法第35条第2項の規定によれば、居住用家屋の譲渡又は居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地の譲渡であり、居住用家屋とは、上記1の(2)のハの措置法施行令第20条の3第2項の規定により、個人がその居住の用に供している家屋とし、その者が居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る旨規定している。
       本件において、請求人は、請求人が所有し、居住の用に供している本件甲家屋及びその敷地である本件甲家屋敷地について、すでに居住用財産特別控除規定の適用を受けているのであるから、上記ハの(イ)のとおり、本件甲家屋と併せて一構えの一の家屋ではない本件乙家屋の敷地(本件乙家屋敷地)について措置法通達35−4の定めを適用する余地はない。
       したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) 本件更正処分の適法性について

  • イ 原処分庁は、本件更正処分において、本件甲家屋と本件乙家屋の合計延床面積に占める本件甲家屋の延床面積の割合により、本件甲家屋敷地に係る譲渡収入金額を算出している。
     当該算出方法の根拠に関する当審判所の求釈明に対し、原処分庁は、本件のように家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等のうち、居住の用に供されている部分がある場合には、当該家屋が店舗兼住宅でない場合であっても、措置法通達35−6《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱いの準用》において準用する同通達31の3−7《店舗兼住宅等の居住部分の判定》の適用対象が店舗兼住宅等と定められていることから同通達が適用される旨回答する。
  • ロ 措置法通達31の3−7は、居住の用以外の用に供されている部分のある家屋に係る措置法施行令第20条の3第2項に規定するその居住の用に供している部分及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等のうちその居住の用に供している部分の床面積及び土地等の面積の判定方法について定めている。
  • ハ 原処分庁は、本件に措置法通達31の3−7が適用されるとするが、同通達は、上記ロのとおり、居住の用に供している家屋のうちに居住の用以外の用に供されている部分がある場合について定めるものであって、本件のように、同一の土地上に居住用財産特別控除規定の適用対象となる家屋とならない家屋が混在しているような場合についてまで定めるものではなく、店舗兼住宅等の「等」に本件のような場合が含まれるものではないことは、その文理上明らかである。
     また、原処分庁の計算方法によれば、建築面積が同じ家屋であっても階数が異なる等の理由によって家屋の延床面積に大きな差異が生じ、結局、居住用財産特別控除規定が適用される土地の範囲に大きな違いが生じるなど、不合理な結果となりえるから、原処分庁の計算方法を採用することはできない。
  • ニ そこで、措置法通達35−6において準用する同通達31の3−12《居住用家屋の敷地の判定》は、譲渡した土地等が措置法第31条の3第2項(準用において同法第35条第2項)に規定する居住の用に供している家屋の「敷地」に該当するかどうかは、社会通念に従い、当該土地等が当該家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定する旨定めているところ、この取扱いは、上記(1)のイの居住用財産特別控除規定の趣旨に合致するものであり、当審判所においても相当であると認められる。
     そして、土地上に居住用財産特別控除規定の適用の対象となる家屋とそれ以外の家屋が存在し、両者の間に塀や障壁等が存在しないため、当該家屋と一体として利用されている土地の範囲が不明確な場合には、経験則上、その範囲は、特段の事情が存しない限り、各家屋の建築面積の割合により居住用財産特別控除規定が適用される土地の面積を算定するのが相当である。
  • ホ 本件では本件甲家屋と本件乙家屋の間に塀や障壁等が存在せず、本件土地の中で、本件甲家屋と一体として利用されている土地の範囲が不明確であるから、上記ニのとおり、居住用財産特別控除規定が適用される本件甲家屋敷地の面積は、本件甲家屋と本件乙家屋との建築面積の割合に従って、これを算定するのが相当である。
  • ヘ また、当審判所の調査によっても、本件甲家屋及び本件乙家屋の各建築面積は不明であるが、別表1のとおり、本件甲家屋及び本件乙家屋の各階の登記上の床面積が明らかとなっており、本件甲家屋及び本件乙家屋の各階の登記上の床面積のうち、最も広い面積が建築面積に近似するものと考えられるため、本件甲家屋及び本件乙家屋の各階の登記上の床面積のうち、最も広い面積を本件甲家屋及び本件乙家屋の各建築面積の代わりに用いるのが合理的である。
     この点、別表1のとおり、本件甲家屋の登記上の床面積のうち、最も広い床面積は51.84平方メートルであり、本件乙家屋の登記上の床面積のうち、最も広い床面積は62.74平方メートルとなる。
  • ト そうすると、本件土地に占める本件甲家屋敷地の割合は、本件甲家屋と本件乙家屋でそれぞれ最も広い床面積の合計(114.58平方メートル)に占める本件甲家屋の最も広い床面積の割合(51.84平方メートル÷114.58平方メートル)となる。
  • チ 上記トの割合を用いて、請求人の本件土地に係る譲渡収入金額を本件甲家屋敷地に係るものと本件乙家屋敷地に係るものにあん分計算すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
     なお、原処分庁は、譲渡費用のうち仲介手数料700,000円及び収入印紙10,000円を本件甲家屋、本件乙家屋及び本件土地の譲渡収入金額の合計額〇〇〇〇円に占める本件甲家屋、本件甲家屋敷地、本件乙家屋又は本件乙家屋敷地の譲渡収入金額の割合であん分し、登記費用35,210円を本件土地の譲渡収入金額〇〇〇〇円に占める本件甲家屋敷地又は本件乙家屋敷地の譲渡収入金額の割合であん分しているが、これらの計算方法は別表4のとおりであり、当審判所においても相当であると認められる。
  • リ 以上により、請求人の分離長期譲渡所得の金額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄の「分離長期譲渡所得の金額」欄のとおり〇〇〇〇円、これにより納付すべき税額を計算すると〇〇〇〇円となり、いずれも本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
     なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(3) 本件賦課決定処分の適法性について

本件更正処分は、上記(2)のとおり、その一部を取り消すべきであるところ、本件賦課決定処分の基礎となる税額は、別紙「取消額等計算書」の付表の「加算税の基礎となる税額」欄の「裁決後の額」欄のとおり〇〇〇〇円となる。
 また、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額を国税通則法第65条第1項及び第2項の規定により計算すると、別紙「取消額等計算書」の付表の「加算税の額」欄の「裁決後の額」欄のとおり〇〇〇〇円となり、これは本件賦課決定処分の金額を下回るから、本件賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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