(令和2年6月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した土地について、1広大地に該当すること、及び2鉄道騒音により利用価値が著しく低下している宅地に該当することなどを理由に、当該相続に係る相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が、1については認める一方、2については利用価値が著しく低下している宅地に該当しないなどとして更正の請求の一部を認めない減額更正処分をしたことに対し、請求人が、原処分(令和元年8月7日付でされた更正処分により上記減額更正処分の一部が取り消された後のもの)の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
  • ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同国税庁長官通達。ただし、平成29年9月20日付課評2−46ほか2課共同国税庁長官通達による改正前のもの。以下「評価通達」という。)1《評価の原則》の(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する旨定めている。
  • ハ 評価通達13《路線価方式》は、路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、評価通達15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めにより計算した金額によって評価する方式をいう旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 相続の開始について
     K(以下「本件被相続人」という。)は、平成27年2月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるL、長男である請求人及び長女であるMの3名である。
  • ロ 相続財産である土地について
    • (イ) 本件被相続人は、本件相続開始日において、a市に所在する別表1の順号1から同3までの各土地(以下、順号1の土地を「本件土地」という。)を所有しており、請求人、L及びMは、本件相続により、これらの土地の共有持分をそれぞれ3分の1ずつ取得した。
    • (ロ) 本件土地は、別紙のとおり、その北西側に敷設されたd鉄道e線の線路敷から約10mから30mまでの範囲内に位置しており、本件土地の南東側には別表1の順号2の土地が隣接し、更にその南東側には同表の順号3の土地が隣接しており、順号3の土地は、その南東側で市道f線に面している。
       別紙のとおり、市道f線の上記順号3の土地が面する区間に設定された平成27年分の路線価は93,000円(以下「本件路線価」という。)であり、本件土地は、評価通達13に定める路線価方式により評価する地域に存していることから、評価通達によって評価するのが相当である場合は、本件路線価に基づいて評価すべき土地である。
       なお、市道f線は、本件路線価が設定されている区間において、d鉄道e線からおよそ90m以上離れていることから、本件路線価の決定に当たり、鉄道騒音の要因はしんしゃくされていない。
       また、本件土地は、都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域として第二種住居地域に指定された地域に存し、本件路線価に係る評価通達14−2《地区》に定める地区は、普通商業・併用住宅地区である。
  • ハ 本件土地の利用状況について
     本件被相続人は、平成26年3月18日、N社との間で、契約期間を同年5月1日から平成36年10月31日までとする本件土地の賃貸借契約を締結し、同社は、本件相続開始日において、本件土地上に多数のコンテナを設置して貸コンテナ業を営んでいた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、法定申告期限内である平成27年12月3日、別表2の「申告」欄のとおり記載した本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を原処分庁に提出した。
  • ロ 請求人は、平成30年12月7日、1 別表1の順号2及び同3の各土地について、評価通達24−4《広大地の評価》に定める広大地に該当すること、及び2本件土地について、騒音測定をしたところ、d鉄道e線の列車走行により約80デシベル以上の騒音が生じていることから、国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」に記載された利用価値が著しく低下している宅地に該当することなどを理由に、別表2の「更正の請求」欄のとおり、本件相続税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
     なお、国税庁ホームページのタックスアンサー「No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価」の内容は、要旨、次のとおりである(以下、当該タックスアンサーに示された10%減額して評価する取扱いを「本件取扱い」という。)。
     次の(イ)から(ニ)までのように、その利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるものの価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができる。ただし、路線価、固定資産税評価額又は倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくしない。
    • (イ) 道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
    • (ロ) 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
    • (ハ) 震動の甚だしい宅地
    • (ニ) 上記(イ)から(ハ)までに掲げる宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの
  • ハ 原処分庁は、本件更正の請求に対し、上記ロの1の更正の請求の理由については請求どおり認める一方、2の理由については認められないなどとして、平成31年3月6日付で、別表2の「更正処分」欄のとおり、本件相続税の減額更正処分を行った。
  • ニ 請求人は、令和元年6月6日、上記ハの処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • ホ 原処分庁は、上記ハの処分における本件土地の評価について、賃借権の価額の算定に誤りがあったとして、令和元年8月7日付で、別表2の「再更正処分」欄のとおり、同処分を一部取り消す減額更正処分を行った(以下、当該減額更正処分後の上記ハの処分(原処分)を「本件更正処分」という。)。

2 争点

本件土地は、利用価値が著しく低下している宅地として減額して評価すべきか。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
  以下のとおり、本件土地は、d鉄道e線の列車走行に伴う騒音により、その利用価値が著しく低下している宅地として、本件取扱いにより10%の減額をして評価すべきである。   以下のとおり、本件土地は、その利用価値が著しく低下している宅地とは認められないから、本件取扱いにより減額して評価することはできない。
  • (1) 請求人が、本件土地において、平成30年9月21日午前10時から約1時間、騒音測定をしたところ(以下「本件測定」という。)、d鉄道e線に最も近い地点で最大85デシベル、最も離れた地点で最大79.5デシベルの騒音が計測されており、これは、g県の一般地域(道路に面する地域以外の地域)のうち第二種住居地域における騒音に係る環境基準の昼間(6時から22時)の基準値である55デシベルをいずれも上回るものである上、d鉄道e線の列車の走行数からすると、騒音の発生頻度も高い。
     なお、請求人による騒音の測定時間は1時間程度であるものの、当該時間以外にも列車は通過しているし、請求人は、測定方法及び発生頻度も明らかにしている。
     また、上記環境基準が鉄道騒音を対象にしていないとしても、鉄道騒音が人体に悪影響を及ぼすことは常識である。
  • (1) 本件測定は、測定時間が1時間程度で、測定方法も明らかでないことから、その測定結果を基に本件土地において著しい鉄道騒音があるか否かを判断することはできない。
     また、請求人が引用する環境基準は、鉄道騒音には適用されない基準である。
  • (2) 本件土地の存する地域は、周辺に戸建住宅が多く見られる地域であることから、騒音が土地の価格にマイナスの影響を及ぼすのは明らかであり、地元の不動産業者からのヒアリング結果でも、鉄道沿いでない土地と比べて10〜15%価値が下がるという報告がある。また、本件土地の周辺の鉄道沿いの土地では、実際に、利用用途の制限や建物のレイアウトの自由度の低下、防音対策費用の発生など、様々な土地の利用価値の低下が生じている。
  • (2) 本件土地の取引金額が、付近の宅地の取引金額に比べ、鉄道騒音による影響を受けていることについて、請求人から具体的な主張はなく、そのような事実は確認することができない。
  • (3) a市では、宅地の固定資産税評価額の決定に当たり、鉄道騒音に対する減価補正(鉄道騒音補正)が定められているところ、本件土地の平成27年度の固定資産税評価額は、鉄道騒音補正として鉄軌道中心線からの最短距離が10m以内である場合の0.90の補正率を適用して計算されており、同市は、本件土地について、鉄道騒音により利用価値が低下していると判断したものである。そうすると、相続税の評価額においても、固定資産税評価額と同様に、鉄道騒音による価値下落の影響をしんしゃくすべきである。
  • (3) 本件取扱いにより減額することができる宅地は、騒音等により取引金額に影響を受けると認められるものに限られるところ、固定資産税評価額の決定における鉄道騒音補正は、鉄軌道中心線から一定の範囲内に所在することを要件として、その距離に応じて画一的に適用されるものであるから、本件土地に鉄道騒音補正が適用されていることをもって、本件土地の取引金額が鉄道騒音による影響を受けていることにはならない。

4 判断

(1) 法令解釈等

  • イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しており、ここでいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的交換価値をいうものと解される。そして、その客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則として、評価通達に定める画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によって画一的に相続財産を評価することは、税負担の公平、効率的な税務行政の実現等の観点からみて合理的であって、当審判所においても、著しく不適当と認められる特別な事情が存しない限り、評価通達によって相続財産を評価するのが相当であると認められる。
  • ロ 評価通達1の(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する旨定めており、これが、財産評価の一般原則として、上記イの相続税法第22条に規定する時価の考え方に照らし相当と解されることからすれば、評価通達に基づき路線価方式により宅地を評価する場合であっても、その宅地に、その価額に影響を及ぼすべきその宅地固有の客観的な事情が存するときには、当該事情が評価通達に定めるところにより一定の加算又は減算による調整を行うものや適用すべき路線価に既に反映していると認められるものを除き、所要の考慮を要すると解するのが相当である。
  • ハ 本件取扱いは、課税実務上の取扱いとして、上記1の(4)のロのとおり、騒音等の各種の事情により、その付近にある他の宅地の利用状況からみて、利用価値が著しく低下していると認められる部分のある宅地について、その価値に減価を生じさせている当該事情が、その宅地の評価上適用すべき路線価の評定において考慮されていない場合に限り、その宅地固有の客観的な事情として10%の減額をするものであり、上記イ及びロに照らし、当審判所においても相当であると認められる。
     したがって、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきであるのは、1当該宅地の評価に当たって用いる路線価が騒音の要因を考慮して付されたものではないこと(路線価における騒音要因のしんしゃく)、2騒音が生じていること(騒音の発生状況)、及び3騒音により当該宅地の取引金額が影響を受けると認められること(騒音による取引金額への影響)の3つの要件が満たされている場合とするのが相当である。
  • ニ 地方税法第403条《固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員の任務》第1項は、市町村長は、一定の場合を除くほか、同法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならない旨規定している。そして、固定資産評価基準では、宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとし、評点数は、主として市街地的形態を形成する地域については、路線価を基礎とし、固定資産評価基準に定める画地計算法を適用して付設するものとするが、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、当該計算法に所要の補正をして宅地を評価する旨定められており(固定資産評価基準第1章《土地》第3節《宅地》二《評点数の付設》(一)《「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設》)、この所要の補正は、宅地の固定資産税評価額を算定するに当たって、当該宅地の価格低下等の要因が個別的であるため、その価格事情を路線価に反映させることができない場合において、当該価格事情が当該宅地の価格に特に著しい影響を及ぼすと認められるときに限り、個々の画地ごとに当該価格事情に応じて行うことができるとされているものである。

(2) 騒音に関する公的基準等

騒音について、環境省が定めるものに次のものがある。

  • イ 「騒音に係る環境基準」(平成10年9月30日付環境庁(現環境省。以下同じ。)告示第64号)
     環境基本法第16条第1項の規定に基づいて政府が定めた「騒音に係る環境基準」(人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準)の内容は、要旨次のとおりである。なお、g県は、本件土地の存する第二種住居地域を、下記(イ)の「主として住居の用に供される地域」に指定している。
    • (イ) 主として住居の用に供される地域における騒音の基準値を、昼間(6時から22時)は55デシベル以下、夜間(22時から翌6時)は45デシベル以下とする。
    • (ロ) この環境基準は、鉄道騒音には適用しない。
  • ロ 「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について」(平成7年12月20日付環大一第174号通達。以下「在来鉄道騒音指針」という。)
     在来鉄道騒音指針では、在来鉄道の新設に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の騒音の指針値を、等価騒音レベル(変動する騒音に人間がどの程度の時間さらされたかを評価する量で、観測時間内の平均値として表したもののこと)で、昼間(7時から22時まで)は60デシベル以下、夜間(22時から翌7時)は55デシベル以下とするとされている。
  • ハ 「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年7月29日付環境庁告示第46号。以下「新幹線騒音基準」という。)
     新幹線騒音基準では、第二種住居地域を、主として住居の用に供される地域とし(昭和50年10月3日付環大特第100号通達)、当該地域については、原則として連続して通過する20本の列車のピーク騒音レベル(調査対象となる1列車が通過する際に発生する騒音レベルの最大値のこと)で、その上位半数のパワー平均値(騒音のもととなっている音のエネルギー量(パワー)を平均した値)を70デシベル以下とするとされている。
  • ニ 在来鉄道騒音指針等における鉄道騒音の測定方法
     在来鉄道騒音指針及び平成27年10月に環境省が定めた「在来鉄道騒音測定マニュアル」(以下「騒音測定マニュアル」という。)における鉄道騒音の測定方法等は、要旨次のとおりである。
     なお、騒音測定マニュアルは、在来鉄道騒音指針において示された鉄道騒音の測定方法が、既設の在来鉄道には適用されないことから、当該測定方法に準拠しながら、より具体的な騒音の測定手順や算出手順等の標準的な方法を示すものとして定められたものである。
    • (イ) 騒音計について、在来鉄道騒音指針は、計量法第71条《合格条件》の条件に合格したものを使用することとしているところ、騒音測定マニュアルは、これに加えて、日本工業規格であるJIS C 1509−1(騒音計の仕様に関する規格)に適合するもので、一定の機能を有するものを用いることとしている。
    • (ロ) 測定日について、在来鉄道騒音指針は、雨天、その他の特殊な天候の日は避けることとしているところ、騒音測定マニュアルは、列車走行が平均的な状況を呈する日とし、強風時、降雨・降雪時、積雪時など地面の状態が通常と異なるときなどは避けることとしている。
    • (ハ) 測定地点について、在来鉄道騒音指針は、近接側軌道中心線からの水平距離が12.5m、地上からの高さが1.2mで、窓又は外壁から原則として3.5m以上離れた地点を選定することとしているところ、騒音測定マニュアルは、近接側軌道中心から水平距離が12.5m及び25.0mの地点を標準とし、原則として、地上からの高さが1.2mで、地面以外の反射物から3.5m以上離れた地点を選定することとしている。

(3) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件土地近辺の騒音の発生状況等
    • (イ) 請求人による本件測定の方法及びその結果
       平成30年9月21日(金曜日)午前10時から約50分間にわたって請求人が行った本件土地における鉄道騒音の測定(本件測定)の方法及びその結果は、以下のとおりであった。
      • A 騒音計は、上記(2)のニの(イ)の計量法第71条の条件に合格したものではなく、JIS規格の適合性の認証を受けたものではないが、JIS C 1509−2(JIS C 1509−1に規定する仕様のすべてに適合しているかどうかの検証に必要な試験に関する規格)に準拠したものであった。
      • B 測定地点は、本件土地内のd鉄道e線から水平距離で10.05m及び29.98mの各地点において、周囲3.5m以内に窓又は外壁などの反射物がない状況で、マイクロホンを地上から1.2mの高さに設置して測定した。なお、当時の天候は曇りであり、ほぼ無風状態であった。
      • C 測定結果については、別表3のとおり、約50分間に25本の列車の通過があり、その測定値は、10.05mの地点では67.5から85.0デシベル、29.98mの地点では61.8から79.5デシベルであった。
    • (ロ) g県におけるd鉄道e線の騒音実態調査の結果
       平成15年度にg県が実施したd鉄道e線の騒音実態調査の結果は、以下のとおりであった。なお、これ以後、騒音実態調査は実施されていない。
      • A 平成15年10月に実施されたa市h町における近接側軌道中心から12.5mの地点で測定された騒音測定の結果は、等価騒音レベルが、昼間(7時から22時)が67デシベル、夜間(22時から翌7時)が61デシベルであり、ピーク騒音レベルの上位半数のパワー平均値は84デシベルであった。これらの測定値は、いずれも、等価騒音レベルについては、在来鉄道騒音指針における測定方法に、ピーク騒音レベルについては、新幹線騒音基準における測定方法にそれぞれ準拠して行われたものであった。
      • B 上記のh町における測定場所は、本件土地からi方面へ約2kmの地点であり、列車の通過速度、軌道構造(平坦)、軌道の高さ、ロングレール(騒音を軽減するレール)の条件は、本件相続開始日時点(平成27年)又は本件測定の実施時点(平成30年)の本件土地とおおむね一致していた。
         また、上記騒音実態調査の実施時点(平成15年)と、平成27年又は平成30年の列車の状況等を比較すると、普通列車(各駅停車)の車両がモデルチェンジの移行時期(○○)であったが、平成15年に運行していた特急、快速及び普通列車の各車両のモデルは、平成27年又は平成30年の特急、快速及び旧型(○系)の普通列車の各車両のモデルと同じものであった。その他、平成15年と平成27年又は平成30年との間に、上記騒音実態調査の実施地点と本件測定の実施地点において、沿線に生じる騒音のレベルに有意な変化をもたらすような事情はなかった。
    • (ハ) 本件土地における騒音の防止措置
       本件土地の周囲には、防音壁などの騒音防止措置は施されていない。
    • (ニ)  当審判所の現地調査の結果
       当審判所は、令和元年8月21日午後2時頃、本件土地の現地調査を実施し、その際の列車通過時の騒音は、普通の会話が聞こえづらくなる程度のものであった。
    • (ホ) d鉄道e線の通過列車本数
       当審判所の調査日(令和元年11月20日)現在において、本件土地を通過するd鉄道e線の列車本数は、平日一日当たり、j・i・k方面行き(上り線)が242本、m・n・p方面行き(下り線)が247本の合計489本であり、本件土地の最寄り駅であるq駅(本件土地よりp方面に存する。)発のj・i・k方面行きの列車は、始発が4時54分、終発は23時56分であり、q駅発のm・n・p方面行きの列車は、始発が5時13分、終発が24時45分となっている。また、通勤時間帯(7時台から9時台及び16時台から22時台)の頻度はおおむね5分弱間隔である。
  • ロ 本件土地及びその近隣地域における固定資産評価
    • (イ) a市の固定資産評価における鉄道騒音に対する所要の補正
       a市では、固定資産の評価に当たり、固定資産評価基準に定められた所要の補正(固定資産評価基準第1章第3節二(一)4《各筆の宅地の評点数の付設》)の一つとして、鉄道騒音の影響を受けることに対する宅地についての減価補正(名称は鉄道騒音補正)が設けられており、d鉄道e線は当該補正の対象とされている。
       そして、この場合の補正率については、d鉄道e線の上り線下り線それぞれの線路の中心から直線30mの範囲を影響圏内として、画地の一部でも当該影響圏内であれば、鉄軌道中心線からの最短距離が10m以内の場合は0.90、10mを超え20m以内の場合は0.92、20mを超え30m以内の場合は0.95として、当該補正率に基づき、画地の総地積に対し補正を行うこととされている。
    • (ロ) 本件土地への鉄道騒音補正の適用
       本件相続開始日(平成27年2月○日)における本件土地の固定資産税評価額は、d鉄道e線の鉄軌道中心線から10m以内に存する場合の鉄道騒音補正率0.90を適用して算定されている。
    • (ハ) R市の固定資産評価における鉄道騒音に対する所要の補正
       a市に隣接するR市(本件土地は、a市とR市との市境付近に所在している。)でも、固定資産の評価に当たり、上記(イ)の所要の補正の一つとして、鉄道騒音の影響を受けることに対する宅地についての減価補正が設けられており、d鉄道e線は当該補正の対象とされている。
       そして、この場合の補正率については、d鉄道e線の鉄軌道用地の中心線から30m以内の範囲を適用対象として、総画地地積に対する当該30m以内の範囲の地積の割合に応じて、0.90から0.98までの補正率を適用することとされている。

(4) 検討

本件土地を評価通達の定めによって評価することについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められるような特別な事情は認められないから、本件土地は、本件路線価に基づいて評価すべきである。
 そこで、上記(1)のハの各要件に照らして、本件土地が騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきであるか否かについて検討するに、上記(1)のハの1の要件については、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件路線価の決定に当たって鉄道騒音の要因はしんしゃくされておらず、同要件を満たすと認められることから、以下、2及び3の要件が満たされているか否かについて検討する。

  • イ 騒音の発生状況(上記(1)のハの2の要件)
     以下の(イ)から(ニ)までの各事情を総合して判断すると、本件相続開始日において、本件土地では、d鉄道e線の列車走行により、在来鉄道騒音指針における等価騒音レベルの指針値及び新幹線騒音基準におけるピーク騒音レベルの基準値のいずれをも上回る相当程度の騒音が、日常的に発生していたと認められる。
    • (イ) 請求人が行った本件測定(上記(3)のイの(イ))については、1使用した騒音計は、日本工業規格のJIS C 1509−2に準拠したものであったこと(なお、JIS C 1509−2に準拠しているとは、試験機関の試験を受けていないが、JIS C 1509−2の項目をすべてクリアしているということである(当審判所の調査の結果)。)、2測定場所(d鉄道e線から10.05m地点及び29.98m地点)は、在来鉄道騒音指針及び騒音測定マニュアルにおける標準的な測定場所(12.5m地点及び25.0m地点)におおむね準拠していたこと、3マイクロホンは地上1.2mの高さに設置し、周囲3.5m以内に窓又は外壁等の反射物がなかったこと、及び4測定に影響を及ぼす気象条件ではなかったことからすると、その測定方法は、在来鉄道騒音指針及び騒音測定マニュアルで示された標準的な測定方法(上記(2)のニ)に完全には準拠するものではないものの、不合理な測定方法とまではいえず、その測定結果には一定の信用性を認めることができる。
       かかる本件測定の結果によれば、上記(3)のイの(イ)のCのとおり、等価騒音レベルは不明であるものの、少なくとも、110.05m地点における測定値(67.5から85.0デシベル)及び29.98m地点における測定値(61.8から79.5デシベル)は、いずれも在来鉄道騒音指針の等価騒音レベルによる昼間(7時から22時)の指針値である60デシベル(上記(2)のロ)を上回っていること、2本件測定における連続して通過する20本の列車の上位半数の測定値は、どの20本をとっても、いずれも新幹線騒音基準のピーク騒音レベルによる基準値である70デシベル(上記(2)のハ)を上回っていること、及び3全通過本数25本のうち21本の測定値が同基準値を上回っていることが認められる。
    • (ロ) そして、上記(3)のイの(ロ)のとおり、平成15年10月に実施されたg県の騒音実態調査におけるa市h町での測定結果において、等価騒音レベル(昼間が67デシベル、夜間が61デシベル)は、在来鉄道騒音指針における指針値(昼間が60デシベル、夜間が55デシベル)をいずれも上回っており、ピーク騒音レベル(84デシベル)も、新幹線騒音基準の基準値(70デシベル)を上回っていることが認められるところ、h町と本件土地との距離が約2kmであるものの、列車の通過速度、軌道構造(平坦)、軌道の高さ、ロングレール(騒音を軽減するレール)の条件が本件土地とおおむね一致していることや、騒音実態調査の実施時点(平成15年)に運行していた列車の車両のモデルが本件相続開始日時点(平成27年)又は本件測定時点(平成30年)における車両のモデルと同じであり、平成15年と平成27年又は平成30年との間に、上記騒音実態調査の実施地点と本件測定の実施地点において、沿線に生じる騒音のレベルに有意な変化をもたらすような事情はなかったと認められることからすると、本件相続開始日時点又は本件測定の時点においても、本件土地における騒音発生状況は、h町における上記の騒音実態調査の状況と類似したものであったと推認される(実際に、上記(イ)で指摘したとおり、本件測定における10.05m地点の測定値(67.5から85.0デシベル)は、上記騒音実態調査における昼間の等価騒音レベル(67デシベル)及びピーク騒音レベル(84デシベル)の測定値に近似している。)。
    • (ハ) また、上記(3)のイの(ニ)のとおり、当審判所の現地調査においても、列車通過時には普通の会話が聞こえづらくなる程度の騒音があったことが認められるところ、当該騒音が何デシベルであるか客観的に確定する証拠は存在しないものの、上記(イ)及び(ロ)からしても、本件土地においては相当程度の騒音が発生していたことは、経験則上、容易に肯認できるというべきである。
    • (ニ) さらに、上記(3)のイの(ハ)及び(ホ)のとおり、1本件土地周辺には騒音防止措置等が施されていないことや、21日の列車本数は400本以上で、運行時間帯は午前5時頃から深夜零時過ぎにまで及び、時間帯によっては5分弱間隔の頻度で列車が通過することからすると、d鉄道e線の列車走行による騒音は、長時間にわたり、相当の頻度で発生していることが認められる。
  • ロ 騒音による取引金額への影響(上記(1)のハの3の要件)
     上記(3)のロのとおり、本件土地の所在するa市及び隣接するR市においては、補正率の算出方法は異なるものの、いずれも鉄軌道中心線から30mの範囲内の土地について、固定資産評価基準に定められた所要の補正の一つとして、鉄道騒音により土地価格が低下することを固定資産税評価額に反映させるための減価補正が設けられ、しかも、d鉄道e線が当該補正の対象とされているのであって、現に、本件土地の固定資産税評価額については、d鉄道e線の鉄軌道中心線から10m以内に存する場合の0.90の鉄道騒音補正率を適用して算定されていることが認められる。
     そして、固定資産評価基準は、市町村長が、固定資産の価格、すなわち、適正な時価(地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第5号)を決定する際の客観的かつ合理的な基準であると認められるところ、このような固定資産評価基準における所要の補正の趣旨(上記(1)のニ)に照らせば、a市及びR市においては、d鉄道e線の列車走行により発生する騒音が、鉄軌道中心線から30mの範囲内の土地の価格低下の要因となっており、その価格事情(鉄道騒音)が、当該土地の価格に特に著しい影響を及ぼしているものと認められる。
     さらに、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件土地は、d鉄道e線の線路敷から約10mから30mまでの範囲内に位置していることから、その地積全体について、d鉄道e線の鉄道騒音によりその取引金額が影響を受けていると認めるのが相当である。
  • ハ 総括
     以上のとおり、本件土地については、1本件路線価に騒音の要因がしんしゃくされていないこと、2d鉄道e線の列車走行により、相当程度の騒音が日常的に発生していたと認められること、3当該騒音により、その地積全体について取引金額が影響を受けていると認められることから、本件土地の全体につき、騒音により利用価値が著しく低下している宅地として本件取扱いにより減額して評価すべきものと認められる。
     したがって、本件土地の評価額は、本件土地全体を利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、当該価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額により評価するのが相当である。

(5) 原処分庁の主張

原処分庁は、本件測定は、測定時間が1時間程度で、測定方法も明らかでないことから、その測定結果を基に本件土地において著しい鉄道騒音があるか否かを判断することができず、また、a市が本件土地の固定資産税評価額について鉄道騒音による減価補正を適用していることをもって、本件土地の取引金額が鉄道騒音の影響を受けていることにはならないなどとして、本件土地は本件取扱いの対象となる利用価値が著しく低下している宅地には該当しない旨主張する。
 しかしながら、1日のうち何時間測定するのか、又は、1日に通過する列車の何本について測定を行うべきかという点に関して、一般的に受け入れられている準則があると認めるに足りる証拠はなく、また、当審判所は、本件測定の結果のみに基づいて、本件土地に相当程度の騒音が発生していたと判断するものではない(上記(4)のイ)。そして、本件土地が騒音により利用価値が著しく低下している宅地として減額して評価すべきであることは上記(4)のハで述べたとおりであるから、原処分庁の主張は採用することができない。

(6) 本件更正処分の適法性について

上記(4)のハのとおり、本件土地の評価額は、本件土地全体を利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、当該価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額により評価するのが相当であるから、これを前提に算定すると、別表4のとおり、16,242,770円となり、別表2の「更正の請求」欄の「相続税の総額の計算」欄における「うち本件土地の価額」欄の金額と同額となる。
 以上を前提に請求人に係る本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「更正の請求」欄の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄の金額と同額となり、本件更正処分の金額(別表2の「再更正処分」欄の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄の金額)を下回る。
 したがって、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る