(令和2年9月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産の取得に係る役務提供の対価として計上していた支払手数料について、損金の額に算入することは認められないとの原処分庁の調査による指摘に従い法人税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人が当該支払手数料を計上したことにつき事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為はないことから、重加算税を課されないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成22年12月○日に設立された、不動産の売買、仲介業務及び管理業務等を目的とする法人であり、現在の代表取締役はEであるが、平成25年7月1日から平成26年11月7日までの間の代表取締役は、Gであった。
  • ロ Gは、請求人の代表取締役を辞任した後は、請求人との間で役員としての委任関係や従業員としての雇用関係はないものの、会長として請求人の経営に引き続き携わっている。
  • ハ H社は、平成21年3月○日に設立された、不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業務等を目的とする法人であり、業務執行社員としてJ社が、職務執行者としてKがそれぞれ登記されている。
  • ニ Gは、平成24年から同25年頃までの間に、e市f町に所在する土地及び建物(以下「本件建物」といい、当該土地と併せて「本件不動産」という。)の所有者が、本件不動産を売却する意向を有する旨の情報を得た。
  • ホ Gは、本件不動産の取得に必要な資金を調達するため、Kに資金調達を依頼した。
  • ヘ その後、Kから実際に資金提供はされず、Gは、L社に資金提供を求め、平成27年4月27日付で、請求人とL社は、本件不動産の取得及び販売業務を共同で行うことについて合意し、その内容を記した共同事業協定書(以下「本件協定書」という。)を作成した(以下、本件協定書に定められた共同事業を「本件共同事業」という。)。
  • ト L社は、平成27年9月16日までに本件不動産を取得し、同年10月30日に本件不動産をM社に売却した。
  • チ 請求人がL社との間で取り交わした平成28年3月3日付の共同事業協定精算確認書には、本件共同事業に係る請求人の報酬額が536,754,553円に決定された旨が記載されている。
  • リ Gは、平成27年6月1日から平成28年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の決算に際して、請求人の税務代理をしているN税理士に電話で連絡し、H社に対して支払う経費があるとして150,000,000円(以下「本件金員」という。)を計上するよう依頼した。
  • ヌ 請求人の本件事業年度に係る総勘定元帳の支払手数料勘定には、平成28年5月31日付で、相手科目を未払金とし、摘要欄には「H社 f町利益配分」と記載され、150,000,000円が計上されている。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件金員を本件事業年度の損金の額に算入した上で、本件事業年度の法人税の確定申告書及び平成27年6月1日から平成28年5月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税の確定申告書(以下、これらの確定申告書を併せて「本件各確定申告書」という。)に別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成30年10月12日、請求人の実地の調査を開始した。
  • ハ Gは、平成31年3月7日、本件金員をH社に対して支払う根拠として、「資金の流れ」と題する書面(以下「本件書面」という。)を、N税理士を通じて、本件調査担当職員に提出した。
  • ニ 請求人は、本件調査担当職員の調査による指摘に従い、本件金員を「支払手数料否認」として本件事業年度の所得金額に加算した上で、本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税について、別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおりとする各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)を、令和元年6月17日に原処分庁に提出した。
  • ホ 原処分庁は、本件各修正申告書の提出を受けて、令和元年7月5日付で、本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の地方法人税について、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおりとする重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、令和元年10月7日に審査請求をした。

2 争点

請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
  • (1) 請求人の元代表取締役であるGは、代表取締役辞任後も請求人の営業活動の中心となり、不動産売買等の取引を行うとともに、経理に関する指示も行うなど、実質的に請求人の経営に参画している。
  • (2) Gは、N税理士に本件金員をH社に対する支払手数料として計上するよう指示し、これに基づき、本件金員が損金の額に算入された本件各確定申告書を提出した。
(1) 本件書面は、H社のKが作成したものであり、本件書面にKが「共同事業契約締結済み」と記載していることから、Gは、本件書面に記載されているH社との共同事業契約は有効であると認識していた。
 また、H社との共同事業は中断することになったが、中断するまでの間に、H社に共同事業契約に基づく仕事をしてもらっていたことから、Gは、H社に対して本件金員を支払う義務が存在するものと認識していた。
  • (3) 本件金員の支払先とされているH社のKは、本件調査担当職員に対して、H社と請求人との間に取引はなかった旨及びGから本件不動産の取得に係る共同事業への参加を呼びかけられたが条件が折り合わず参加しなかったため共同事業の分配金(本件金員)は受領していない旨申述している。
  • (4) Gは、本件調査担当職員に対して、Kから本件不動産取引に係る資金提供を断られたため、L社と本件共同事業を行い、L社から資金提供を受けて本件不動産を取得し売却が完了した旨申述している。このことからすると、Gは本件不動産取得のための資金調達に係る業務はL社が担当していたことを認識していたものと認められることから、GはH社が本件不動産の取得に係る役務提供を行った事実がないことを認識していたものと認められる。
(2) 本件金員を支払う旨の約定書をKへ渡しており、手数料が生じるべき事実があることから、Gは、H社のKから本件金員を支払うよう請求があれば支払わなければならないと認識していた。
(5) 以上のとおり、実質的に請求人の経営に参画しているGは、H社が本件不動産の取得に係る役務提供を行った事実がないことを認識していたにもかかわらず、N税理士に指示して本件金員をH社に対する支払手数料として計上したものと認められる。そうすると、請求人が、帳簿書類への虚偽の記載をしたところに基づき本件各確定申告書を提出していたこととなるから、これらは通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する。 (3) 以上のとおり、Gは、H社に対して本件金員を支払う義務が存在し、H社から本件金員を支払うよう請求があれば支払わなければならないと認識していたため、本件金員を支払手数料として計上したのであるから、これらは通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」には該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条に規定する重加算税は、不正手段による租税徴収権の侵害行為に対し、制裁を課することを定めた規定であり、同条にいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし、あるいは故意に脱漏することをいい、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ Gは、上記1の(3)のニのとおり、本件不動産に係る情報を得たが、これを売却するためには、本件建物の入居者を立ち退かせる必要があり、当座の資金が必要であったため、資金提供者を探していた。
  • ロ Gは、当初、Kに資金調達を依頼し、その見返りとして150,000,000円を支払うことを約した。
  • ハ 上記の経緯により、Kは、本件不動産の取得を含む複数の不動産取引をGと共同事業として手掛けようと画策するようになり、この共同事業に係る目論見を書面化したものとして本件書面を作成した。本件書面には、請求人からJ社に矢印が引かれ、その上に「共同事業契約締結済み」との記載が、その下に「g案件 60,000千円(H28.4.下旬)」「f町 150,000千円(H28.4.下旬)」「h町 200,000千円(H28.4.下旬)」との記載がそれぞれあり、J社の下に「分配金が請求人からJ社に入金されるのと同時にH社へ資金移動」との記載がある。
  • ニ Gは、立退き交渉が進むにつれ、資金が不足してきたことから、Kに資金提供を求めたが、Kは態度を変えて資金提供を拒否した。
  • ホ 平成27年4月27日付で請求人とL社との間で締結された本件協定書には、要旨次の記載がある。
    • (イ) 本件不動産の取得のための資金調達に係る業務をL社が担当し、本件不動産の賃借人との交渉に係る業務を請求人が担当する。
    • (ロ) 本件共同事業に係る請求人の報酬額は、請求人とL社との間で別途協議の上決定する。

(3) 検討

  • イ 上記(1)で述べたとおり、本件において、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったというためには、本件金員の計上に関して故意に事実をわい曲したことが認められる必要がある。
  • ロ 確かに、上記(2)のロ、ニ及びホのとおり、KはGの資金提供の依頼に一旦応じたものの、Kが最終的に資金提供を拒否したこと、その後、L社が本件不動産の取得に係る資金調達をしたことからすれば、KからGに本件金員を支払う根拠となる資金提供がなされた事実は認められない。そして、Gが、この資金提供を含め、本件不動産の取得に当たって、H社のKから何らの役務提供がないことを認識した上で、N税理士に本件金員を請求人の経費として計上させたのであれば、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。
     しかしながら、上記(2)のハのとおり、GとKが、本件不動産の取得を含む複数の不動産取引を共同事業として手掛けようとしていた時期があり、その事業の目論見を書面化したものとして本件書面が作成されている。このことからすれば、結果的に、H社から請求人に対し本件不動産の取得のための資金調達に係る役務提供はなかったとしても、請求人が上記3の「請求人」欄の(1)のとおり主張するように、Gが本件不動産に関してKに共同事業契約の話を持ち掛け、その後、資金提供を拒否されるまでの間に、Kが資金提供以外の何らかの役務提供を行っていたとGが認識し、それに対して対価を支払う必要があると考えていた可能性が全くないとまではいえない。
  • ハ そうすると、Gが、Kに対して本件金員を支払う必要はないと認識していたにもかかわらず本件金員を支払手数料勘定に計上させたことを直ちに認定することはできない。
  • ニ したがって、GがN税理士に指示し、本件金員を総勘定元帳の支払手数料勘定に計上させた行為が、故意に事実をわい曲したものと評価することは困難である。また、当審判所の調査によっても、他に本件金員の計上に関して故意に事実をわい曲したと認めるに足る証拠はなく、その他、仮装と評価すべき行為を認めるに足りる証拠もないことからすれば、本件において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったものとして同項を適用することはできない。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(4)のとおり、GはH社が本件不動産の取得に係る役務提供を行った事実がないことを認識していたものと認められる旨主張し、その根拠として、Kから本件不動産取引に係る資金提供を断られたため、L社と本件共同事業を行い、L社から資金提供を受けて本件不動産を取得し売却が完了した旨、Gが申述していることを掲げる。
 しかしながら、原処分庁が主張する上記事実を踏まえても、上記(3)のロのとおり、Kが資金提供以外の何らかの役務提供を行っていたとGが認識し、それに対して対価を支払う必要があると考えていた可能性が全くないとまではいえない。したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のニのとおり、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する事実があったものとして、同項に規定する重加算税を賦課することはできない。他方、本件各修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件各修正申告書提出前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、請求人は本件各賦課決定処分のその他の部分については争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であり、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すのが相当である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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