(令和2年8月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の申告において、不動産の評価誤りがあったこと及び遺留分減殺請求に基づく価額弁償金につき取得財産の価額に算入した金額に相続税法基本通達11の2−10《代償財産の価額》(2)の適用漏れがあったことを理由として更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、不動産の評価誤りのみを認める更正処分をしたことから、請求人が当該更正処分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 行政手続法第8条《理由の提示》第1項は、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない旨規定している。
  • ロ 国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
  • ハ 相続税法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第11条の2《相続税の課税価格》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該財産を取得した時において国内に住所を有する場合においては、その者については、当該相続又は遺贈による取得財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定している。
  • ニ 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10)11の2−9《代償分割が行われた場合の課税価格の計算》は、代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における相続税法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする旨、また、その注書において、代償分割とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈による取得財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する旨定めている。
    • (イ) 代償財産の交付を受けた者
       相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
    • (ロ) 代償財産の交付をした者
       相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額
  • ホ 相続税法基本通達11の2−10(以下「本件通達」という。)は、上記ニの(イ)及び(ロ)の代償財産の価額は、代償分割の対象財産を現物で取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする旨定め、そのただし書で、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする旨定めている。 
    • (イ) 共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(ロ)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合
       当該申告があった金額(本件通達(1))
    • (ロ) 上記(イ)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき
       次の算式により計算した金額(本件通達(2))
           A × C ÷ B
       なお、算式中の符号は、次のとおりである。
    • Aは、代償債務の額
    • Bは、代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象財産の代償分割の時における価額
    • Cは、代償分割の対象財産の相続開始の時における価額(財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか。以下「評価通達」という。)の定めにより評価した価額をいう。)

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の母であるK(以下「本件被相続人」という。)は、平成22年8月5日、L法務局所属公証人M作成の平成22年第○号遺言公正証書により、要旨、次のとおり遺言した。
    • (イ) 本件被相続人は、本件被相続人の有する一切の財産を長男N(以下「兄N」という。)に相続させる(第1条)。
    • (ロ) 請求人から遺留分減殺の請求があったときは、兄Nは、請求人に対し、e市f町所在の不動産を含めた本件被相続人の遺産の4分の1を取得させること(第2条)。
  • ロ 本件被相続人は、平成28年2月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る法定相続人は、兄Nと請求人の2名である。
  • ハ 請求人は、平成28年7月24日、兄Nに対し、遺留分減殺請求の意思表示をした。
  • ニ 請求人は、平成28年11月25日付の訴状により、兄Nを被告として、遺留分減殺請求権に基づいて、別表1の順号1ないし3の各土地(以下、各土地を順次「g町土地1」ないし「g町土地3」といい、これらを併せて「g町各土地」という。)及び同表の順号12ないし21の各建物(以下、各建物を順次「g町建物12」ないし「g町建物21」といい、g町各土地と併せて「本件g町不動産」という。)につき、持分一部移転登記手続等を求める訴訟をP地方裁判所に提起した(以下「本件訴訟」といい、上記訴状を「本件訴状」という。)。
  • ホ 平成30年3月26日、請求人と兄Nとの間で、要旨、次の内容の訴訟上の和解が成立した(以下「本件和解」という。)。本件和解に係る調書に記載された和解条項(以下「本件和解条項」という。)の別紙遺産目録によれば、本件被相続人の遺産である各財産(以下「本件相続財産」という。)の価額は、別表1の「本件和解」欄記載の各金額のとおりとされた。なお、同欄の順号12ないし25の各財産の評価額は、いずれも、後記ヘの請求人の相続税の申告における各金額と同額であった。
    • (イ) 兄Nは、請求人の兄Nに対する遺留分減殺請求の結果、請求人が別表1の順号4ないし11の各土地及び同表の順号22の建物(以下、これらを併せて「本件e不動産」という。)を取得することを認める(本件和解条項1の(1))。
    • (ロ) 兄Nは、請求人に対し、本件g町不動産及び別表1の順号23ないし25の各財産を兄Nが取得することの代償として、上記(イ)の遺留分減殺請求に基づく価額弁償金330,000,000円の支払義務があることを認める(本件和解条項1の(2)。以下、当該価額弁償金を「本件価額弁償金」という。)。
    • (ハ) 兄Nは、請求人に対し、本件価額弁償金を、次のとおり、請求人の訴訟代理人である弁護士の事務所名義の普通預金口座に振り込む方法により支払う(本件和解条項3の(1))。
      • A 平成30年4月2日限り      金200,000,000円
      • B 請求人が、本件e不動産の取得及び本件価額弁償金の受領に係る相続税について申告及び納税をし、かつ、同相続税の申告書の写し及び相続税納付書の写しを兄Nの訴訟代理人が受領した日から10日を経過した日、又は平成30年5月末日のいずれか遅く到来する日限り      金130,000,000円
  • ヘ 請求人は、平成30年5月29日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、本件和解により本件e不動産及び本件価額弁償金を取得したとして、別表2の「申告」欄記載のとおり、請求人の課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円とする申告(以下「本件申告」という。)をし、同日、上記納付すべき税額の全額を納付した。本件申告において請求人の取得財産の価額に算入した本件価額弁償金の金額は、請求人が受領した金額である330,000,000円とされた。
  • ト 請求人は、平成30年7月13日、本件相続税の税額の計算上、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額について、本件通達(2)を適用して、受領した金額に、各対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算をした224,833,665円とすべきこと並びにg町土地1及びg町土地2の評価額に誤りがあったことを理由として、別表2の「更正の請求」欄記載のとおり、請求人の課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円とすることを求めて更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
  • チ 原処分庁は、令和元年5月28日付で、本件更正の請求のうち、g町土地1及びg町土地2の評価額の誤りについて認め、さらにg町建物12ないしg町建物19及びg町建物21の貸家に係る評価の誤りについても認めたが、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額については、本件通達(1)が適用されるため請求人が本件申告において申告した金額330,000,000円になるとし、別表2の「更正処分」欄記載のとおり、請求人の課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円として更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。本件更正処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)に記載された処分の理由は、要旨、別紙のとおりであった。
  • リ 請求人は、令和元年8月20日、本件更正処分を不服として審査請求をした。

2 争点

(1) 本件更正処分は、理由の提示に不備がある違法なものか否か(争点1)。

(2) 請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、1本件申告により申告された受領金額そのものによるべきか、それとも、2当該金額に、対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算をした金額によるべきか(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件更正処分は、理由の提示に不備がある違法なものか否か。)について

原処分庁 請求人
本件通知書の記載内容は、本件申告における請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額について、1兄Nと同様の方法により申告しているという事実から、2本件通達(1)の要件を満たしていると判断され、3その減額を求めた部分については、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求の要件を満たしていないとして本件更正処分がされたことを、請求人において了知し得るものとなっている。
 したがって、本件更正処分は、理由の提示に不備がないから違法とされるものではない。
本件通知書の記載内容は、本件申告における請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額が本件通達(1)の要件を満たす理由として、「あなた以外の相続人と同様の方法により申告しており」とするのみで、共同相続人全員の協議に基づいたものであることを明確に記載しておらず、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額を本件価額弁償金の額面で評価することが、どのような理由で本件通達(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算したことになるかについても一切説明がない。
 したがって、本件更正処分は、理由の提示に不備がある違法な処分である。

(2) 争点2(請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、1本件申告により申告された受領金額そのものによるべきか、それとも、2当該金額に、対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算をした金額によるべきか。)について

請求人 原処分庁
次のとおり、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、本件通達(2)の適用により、受領した本件価額弁償金の金額に、対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算した金額によるべきである。 次のとおり、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、本件通達(1)の適用により、受領した本件価額弁償金の金額そのものによるべきである。
イ 本件通達(1)に該当しないこと
 請求人と兄Nとの間では、双方の本件相続税に係る申告で取得財産の価額に算入又は控除する本件価額弁償金の金額に関してどのような評価を行うか、事前に打合せや協議を行った事実はない。請求人が本件申告に係る申告書の写しを兄Nに交付したのは、単に、本件訴訟において、兄Nが本件価額弁償金の支払の原資となる本件相続税の還付金を得ることを確実にするために、兄Nより先行申告を求められたことによるものであり、その際に、どのような申告とすべきかについて、兄Nからの要請や、請求人及び兄N本人同士の間での接触は一切なかった。
 さらに、代償財産の価額は、相続開始時の価額によることが大原則であり、そのための合理的な計算方法が本件通達(2)に示されているのであるから、単に共同相続人全員の合意があるだけでなく、それが当該計算方法に準じた方法によるか、これと同等に合理性がある方法によって計算されることが必要である。請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額を「相続開始時の時価」の趣旨から遊離した本件価額弁償金の額面で評価することは合理的とは認められない。
 以上のとおり、本件申告における請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、本件通達(1)の要件を満たすものでない。
イ 本件通達(1)に該当すること
 本件相続税に係る共同相続人は、請求人及び兄Nの2名のみであるから、相続税の総額を共同相続人間であん分するという相続税の計算の仕組みからすれば、本件和解を受けて請求人が新たに納付すべき相続税の額が、すなわち、兄Nに還付される本件相続税の額となるため、兄Nにとっては、請求人が本件相続税の申告を行うかどうかに加え、その申告により納付すべき税額についても、非常に重要な事項となる。そうすると、請求人が本件相続税の申告書の写し及び納付書の写しを兄Nの代理人に交付する旨の本件和解条項は、兄Nが請求人に対して本件価額弁償金の残金を支払うに当たり、請求人が本件相続税の申告及び納付を行った事実を確認するにとどまらず、その申告内容についても、兄Nが、本件和解条項を設けた際の認識と相違しない本件相続税の申告を要求し、その確認をするものと評価すべきであるから、本件和解の際に、請求人と兄Nとの間で取得財産の価額に算入又は控除する本件価額弁償金の金額について何らかの合意があったと考えるのが自然である。
 以上のことからすれば、本件申告における請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、共同相続人間の協議により合理的に計算されたものと認めるのが相当であるから、本件通達(1)の要件を満たすものである。
ロ 本件通達(2)に該当すること
 本件和解条項における財産の評価額は、本件和解時に可能な限り正確かつ妥当な時価を算定すべく、使用できる直近の平成29年分の路線価に1.25を乗じて算定したものである。
 また、実務においては、代償債務の額の決定方法として、不動産鑑定士等に依頼している場合のほか、審判又は調停により代償債務の額が決定された場合も通常の取引価額を基として決定されたものとされており、裁判所が認定した価額以外であっても、当事者の合意があればその価額については合理性が承認されている。本件和解条項における本件相続財産の評価額については、本件訴訟の過程で、兄Nとの間で長い期間にわたる交渉をした結果、和解の場合の評価額について、基本的には請求人が主張する評価額を基準とすることで了承を得るなどして合意された価額であり、本件価額弁償金の金額についても、上記評価額を基に当事者が交渉をして合意したものであるから、通常の取引価額を基として決定されたものといえる。
 なお、本件価額弁償金の金額は本件和解条項における財産の評価額に基づいて決定されたものではない旨の原処分庁の主張は、本件価額弁償金の金額が、特別受益の有無等の議論の末、裁判官主導の下、財産の評価額及び兄Nの支払能力を考慮に入れ、裁判における両当事者の主張の全趣旨を踏まえて決定された事実を踏まえないものである。
 以上のとおり、本件価額弁償金の金額は、本件和解時における対象財産の通常の取引価額を基として決定されているから、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、本件通達(2)の適用によるべきである。
ロ 本件通達(2)に該当しないこと
 本件和解条項における財産の評価額は、画地補正等の個別の事情補正すらされていないなど簡便に評価した「時価の近似値」にすぎない。また、兄Nが、和解による解決を前提として本件被相続人の財産の評価は請求人の主張する評価でよい旨了承したという経緯からしても、本件和解条項における財産の評価額は、和解で決着させるために「時価の近似値」がそのまま採用されたものにすぎず、請求人と兄Nとの間で本件和解時の財産の通常の取引価額であることを合意したものとは認められない。
 そして、本来、遺留分権利者に対する価額弁償の額は遺留分の目的物と等価であるべきところ、兄Nが、本件訴訟において、和解のために、価額弁償の額に支払原資や税金申告その他の諸事情も加味することを要求していること、財産の評価額については請求人の主張するとおりとすることで双方一致したにもかかわらず、請求人の求める価額弁償の金額が360,000,000円で、兄Nの求めるそれが300,000,000円と、双方が遺留分の目的物の価額と異なる金額を主張し、本件価額弁償金の金額が、請求人が本件訴訟の終盤において計算した金額347,847,366円とも相違していることからすれば、本件価額弁償金の金額は、本件和解条項における財産の評価額に基づく遺留分の目的物の価額を目安として、請求人と兄Nの双方が納得できる範囲で調整したものにすぎないから、本件和解条項における財産の評価額を基に決定されたものであるとも認められない。
 以上のとおり、本件和解条項における財産の評価額は、本件和解時の通常の取引価額を表しているとは認められない上、本件価額弁償金の金額は、本件和解条項における財産の評価額にすら基づいていないから、本件通達(2)の要件を満たさない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件更正処分は、理由の提示に不備がある違法なものか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第8条第1項本文が、行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に、同時に、その理由を申請者に示さなければならないとしているのは、拒否事由の有無についての行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、当該処分の理由が上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     上記1の(3)のチによれば、本件通知書には、本件更正の請求のうち本件通達(2)の適用による減額を認めない理由として、1請求人が本件申告において、取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額を、兄Nと同様の方法により申告しているという事実、2本件通達(1)の要件を満たしていると判断した旨及び3通則法第23条第1項第1号に規定する課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことには該当しないと判断した旨が記載されている。そうすると、本件更正処分における理由の提示は、具体的な事実関係に基づいて原処分庁が通則法第23条第1項第1号に該当しないと判断した根拠が示されており、請求人において本件更正処分がされた理由を了知し得るものということができるから、原処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という行政手続法第8条第1項の趣旨に照らし、法の要求する理由の提示として欠けるところはないというべきである。
     したがって、本件更正処分は、行政手続法第8条第1項本文の規定する理由の提示に不備はなく、違法ではない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件通知書の記載内容は、1共同相続人全員の協議に基づいたものであることを明確に記載していないこと及び2本件価額弁償金を額面で評価する方法の合理性等について説明がないとして、本件更正処分の理由の提示には不備がある旨主張する。
     しかしながら、本件通知書の理由の提示によって、原処分庁が判断の前提とした事実及びこれに基づいた判断の内容等が示されており、この理由の提示に不備がないといえることは上記ロのとおりである。したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、1本件申告により申告された受領金額そのものによるべきか、それとも、2当該金額に、対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算をした金額によるべきか。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 民法第896条《相続の一般的効力》は、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する旨を定め、相続税法第11条の2第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者については、当該相続又は遺贈による取得財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定している。また、同法第22条《評価の原則》は、特別の定めのあるものを除くほか、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を定める。
       そして、代償分割とは、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代える旨の遺産の分割の方法をいうところ(家事事件手続法第195条《債務を負担させる方法による遺産の分割》参照)、代償分割時における代償財産の価額と、その分割が効力を生ずるとされる相続開始の時における当該代償財産の価額とが異なる可能性があることから、相続税の課税価格の計算において相続等による取得財産の価額に算入する代償財産の価額を相続開始の時の時価に修正する必要がある。
    • (ロ) これを踏まえ、本件通達は、その本文において、代償財産の価額は、代償債務の額の相続開始の時における金額によるものと定め、そのただし書である本件通達(2)において、代償分割の対象財産が特定され、かつ、代償債務の額が、当該財産の代償分割の時における「通常の取引価額を基として決定されている」場合に、代償債務の額の相続開始の時における金額を計算する方法について定めているものと解されるところ、その代償財産は、直接被相続人から承継取得したものではないものの、代償分割の対象財産(相続財産の全部又は一部)を手放す代わりに、それを補するために交付を受けるものであることからすれば、上記の場合に、代償債務の額の評価を、本来ならば取得できたであろう相続財産(代償分割の対象財産)の価額に基づいて行うことは合理的といえるから、このような計算方法には相応の合理性があるものというべきである。
    • (ハ) 上記(ロ)のとおり、代償財産の価額は、本件通達(2)に定める算式により計算するのが一般的に妥当であるが、共同相続人等の全員の協議に基づいて、代償財産の価額をこの方法に準ずる方法その他合理的と認められる方法によって計算して申告があったときは、その共同相続人等の意思を尊重し、その申告を認めるのが相当である。そのため、共同相続人等の全員の協議に基づいて代償財産の価額を本件通達(2)に定める算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合には、その申告があった金額を代償財産の価額として認めることとする本件通達(1)の定めもまた合理的なものと認められる。
    • (ニ) そして、民法第1041条(平成30年法律第72号による改正前のもの。以下同じ。)《遺留分権利者に対する価額による弁償》第1項所定の価額弁償金の算定基準時は、現実に弁償がされるときであると解されるところ、遺留分権利者が取得する価額弁償金を取得財産の価額に算入するときは、上記(イ)に述べたところと同様に、価額弁償金の額の相続開始の時における金額を計算する必要があるものと解される。このことに加え、民法第1041条所定の価額弁償金の額は、遺産の現物の取得者からその現物に代わるものとして遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れるものであり、経済的実質からみた場合に代償分割における代償財産と同じ性質を有するものであるから、相続税の課税価格の計算上は、価額弁償が行われた場合も、上記(イ)ないし(ハ)の代償分割が行われた場合と同様に扱うのが相当である。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件訴訟における本件和解成立に至る経緯等
      • A 請求人は、平成28年11月25日頃に本件訴訟を提起し、本件訴状において、本件相続財産の各評価額について暫定的に別表1の「本件訴状」欄記載のとおりとするが、今後鑑定等により時価が明らかとなった場合には必要に応じて請求の趣旨を変更する旨主張した。
      • B 請求人及び兄Nは、その後、本件訴訟の手続において和解をする場合の本件相続財産の各評価額について検討を重ねた。本件訴訟の手続においては、請求人及び兄Nの双方の訴訟代理人がその交渉に当たり、双方の関与税理士同士が直接連絡を取り合うことはなかった。また、請求人及び兄Nが直接連絡を取り合うこともなかった。
      • C 兄Nは、平成29年9月26日の期日において、本件相続財産の各評価額について、和解交渉に入る場合には、支払原資、税金申告その他の諸事情も加味することを条件として、基本的には請求人が本件訴状で主張する各不動産の評価額を基準とすることを了承する旨記載した上申書を提出した。もっとも、上記の条件部分については、単に評価額について柔軟に対応する余地を残す趣旨で記載されたものであり、相続税の具体的な申告額等を算定するなどして、これを考慮するよう求めたものではなかった。
      • D 兄Nは、平成29年12月18日の期日において、g町各土地の評価について時価に近似するものとして路線価を1.25倍(0.8で割戻し)した価額とすることに賛同するが、g町土地1及びg町土地2の価額は貸家部分及び貸地部分の減額を、g町土地3の価額は貸地部分の減額をすべきである旨の意向を示し、これに対して請求人は、g町各土地の評価について、借地権の設定が贈与と同様に扱われることや、土地の無償使用として特別受益に当たることを踏まえ、結局、更地とほぼ同じ価額とすべきとの意向を示した。
      • E 請求人は、平成30年2月1日の期日において、g町各土地が貸地であること自体は争わないとしたが、g町土地1及びg町土地2の評価については上記Dと同様の意向を示し、各相続財産の評価や兄Nの特別受益等を検討した価額弁償金の金額330,332,384円から472,913,439円までの6案を試算した上で価額弁償金の金額を360,000,000円とする和解案を提示し、これに対して兄Nは、支払えるのはせいぜい300,000,000円であり、請求人が本件相続税の期限後申告をして納税したことを確認した上でないと支払はできない旨を伝えた。同期日において、裁判所と各当事者との間で、個別に、和解成立後に兄Nが相続税の更正の請求をして還付金を受け取ることができることへの言及があったものの、具体的な金額についての言及がされたことはうかがえない。
      • F 兄Nは、平成30年2月23日の期日において、価額弁償金の金額を285,000,000円とする和解案を、請求人は、当該金額を350,000,000円程度とする和解案を提示した。これを踏まえて、裁判所から、価額弁償金の金額を330,000,000円前後とすることで和解が可能かどうかを検討するよう指示があり、合意の可能性がある場合には、税金面等も踏まえた具体的な和解条項案についても検討するよう指示がされた。同期日においても、裁判所と各当事者との間で、上記Eと同様に、相続税の更正の請求と還付金についての言及があったものの、具体的な金額についての言及がされたことはうかがえない。
      • G 兄Nは、平成30年3月12日の期日において、価額弁償金の金額を330,000,000円とする和解条項案を提示した。同和解条項案には、価額弁償金をいくらとして申告するかについての条項はない。
         これに対して、請求人も兄Nの提示額で合意見込みであるとして、平成30年3月22日、価額弁償金の金額を同提示額とし、支払期限等を若干修正した和解案を提示した。請求人は、その際、「価額弁償金の計算について」と題する書面(以下「本件書面」という。)も提示した。本件書面における遺留分侵害額の計算は、土地は平成28年分路線価を1.25倍し、g町土地3は底地(借地権割合8割)と評価し、本件e不動産のうち土地は測量面積を基にいわゆる青地(旧水路)部分を除外して算出され、同じく価額弁償金の金額の計算は、g町各土地は弁償の基準時に接着した平成29年分の路線価を1.25倍し、g町土地3は底地(借地権割合8割)と評価して347,847,366円と算出されている。本件書面は、兄Nにも交付されたが、兄Nから記載された各対象財産の評価について異議は述べられず、両者の間でその評価額については合意された。
    • (ロ) 本件和解
       平成30年3月26日、本件和解が成立した。本件和解条項は、上記1の(3)のホのとおりであり、請求人が本件相続税の申告及び納税を行い、本件相続税の申告書及び納付書の写しを兄Nの訴訟代理人が受領することが本件価額弁償金の分割金支払の前提として定められたが、請求人及び兄Nが、本件価額弁償金をいくらとして申告するかについて定めた条項はなかった。
    •  
    • (ハ) 本件和解の成立から本件申告までの経緯等
      • A 兄Nは、平成30年3月30日、本件価額弁償金のうち200,000,000円を、請求人に支払った。
      • B 兄Nは、平成30年5月18日、本件和解により本件e不動産及び本件価額弁償金を請求人が取得したとして本件相続税の更正の請求をした。当該更正の請求において兄Nの取得財産の価額から控除する本件価額弁償金の金額は、授受される額である330,000,000円とされた。当該更正の請求の内容は、請求人には伝えられなかった。
      • C 請求人は、平成30年5月29日、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額を330,000,000円として本件申告をし、同年6月、本件申告に係る申告書の写し及び納付書の写しを兄Nの訴訟代理人に送付し、兄Nの訴訟代理人は、同月8日、これを受け取った。本件申告の内容について、兄Nの訴訟代理人が事前に連絡を受けることはなかった。
      • D 兄Nは、平成30年6月14日、本件価額弁償金の残金130,000,000円を、請求人に支払った。
      • E 請求人は、平成30年7月13日、請求人の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額を本件通達(2)を適用した額とすることなどを内容とする本件更正の請求をした。
      • F 兄Nの関与税理士は、平成30年7月17日、請求人の関与税理士から、本件更正の請求の内容について初めて連絡を受けた。
      • G 本件申告、本件更正の請求及び本件更正処分におけるg町各土地の自用地1平方メートル当たりの価額は、いずれも、g町土地1及びg町土地2については評価通達16《側方路線影響加算》に定める加算率0.07、g町土地3については評価通達15《奥行価格補正》に定める補正率0.99の画地補正等がされていた。
    • (ニ) 申告額についての協議の有無に関する認識等
       兄Nの訴訟代理人及び関与税理士は、当審判所に対して、本件通達(2)の調整計算をしないことはよくあることであり、また、請求人の本件申告においても当該調整計算がされていないことから、本件価額弁償金をいくらで申告するかについて、請求人と考えは一致しており、合意があったものと認識している旨答述している。
       これに対して、請求人の訴訟代理人は、当審判所に対して、価額弁償金を受け取ることにより申告義務が発生することは気にしていたものの、本件価額弁償金について、請求人が支払うことになる税額を考慮してその金額の調整をするようなことはなかった旨答述しており、請求人の関与税理士も、兄Nの訴訟代理人から本件申告の内容について指示等は一切なく、交渉は両者の訴訟代理人を通じてされていたのであって、請求人及び兄Nが直接交渉をすることはなかった旨答述している。この点、兄Nの訴訟代理人においても、当審判所に対して、本件訴訟中も本件和解成立から本件申告までの間も、請求人の訴訟代理人との間で本件価額弁償金をいくらで申告するかについて協議をしたことはなく、当事者間においてもそのような協議はない旨答述し、また、兄Nの関与税理士も、税務に関して兄N及び請求人が直接話し合いをすることはなく、双方の関与税理士が直接連絡することもなかった旨答述している。
    •   
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件通達(1)の場合に該当するか
       上記ロの(ニ)のとおり、請求人の訴訟代理人及び関与税理士、兄Nの訴訟代理人及び関与税理士のいずれもが、本件訴訟中から本件申告までの間に、直接やり取りをしていたのは訴訟代理人同士であること、そして、訴訟代理人間において、本件価額弁償金をいくらで申告するかについて協議がされていないことについては一致する答述をしている。このうち特に、兄N側関係者の答述は、同人らにとっては上記協議がない場合の方が納税額が増加することになり、上記答述は不利益な内容の答述となるにもかかわらず上記協議がなかった旨述べているものであるから高度の信用性が認められる。また、上記ロの本件訴訟中から本件申告に至るまでのやり取りの経緯等をみると、本件訴訟中においては、兄Nと請求人との間で、両者の訴訟代理人を通じて、本件相続財産の評価額をいくらにするかについての協議がされたほか、本件和解成立後、請求人が受け取った価額弁償金等について相続税の申告をする必要があること、兄Nにおいては相続税の還付金を受けられることについても両者に認識があることがうかがえるものの、本件価額弁償金について、その申告額を具体的に協議した事実は認められず、他に申告額についての具体的な協議の事実が認められるような事情もない。上記ロの(ニ)の各答述は、これらの客観的な事実によっても裏付けられており、信用できるから、当該各答述のとおり、本件価額弁償金の具体的な申告額についての協議はなかったものと認めるのが相当である。
       したがって、本件申告において請求人の取得財産の価額に算入した本件価額弁償金の金額330,000,000円は、共同相続人の全員の協議に基づいて申告されたものではないから、本件通達(1)の場合には該当しない。
    • (ロ) 本件通達(2)の場合に該当するか
       本件価額弁償金は、上記1の(3)のホの(ロ)のとおり、本件g町不動産及び別表1の順号23ないし25の各財産を兄Nが取得することの代償として支払義務が認められたものであるから、対象財産は特定されている。
       そこで、本件価額弁償金の金額が、本件和解時の通常の取引価額を基に決定されたか否かを検討する。
      • A 上記ロの(イ)のとおり、本件価額弁償金の各対象財産の価額弁償時の評価額は、平成28年11月の本件訴訟の提起から平成30年3月26日の本件和解成立までの長い期間にわたって、対立する当事者である請求人と兄Nとの間で、それぞれの立場から算定した評価額に基づく金額について調整を重ね、裁判所から示唆された金額や、本件和解時に最も接着した時点の平成29年分の路線価を用いて算定した各対象財産の評価額も踏まえて最終的に合意された額である。
      • B このように、両当事者においてその主張が対立する中で、両者が歩み寄って合意したときは、その合意した価額を通常の取引価額とみることに一般的な合理性があるといえる。
         そうすると、本件価額弁償金の各対象財産の評価額は、双方のせめぎ合いの後に合意されたものであり、その合理性を否定すべき事情もないから、本件和解時における通常の取引価額であるものと認められる。
      • C そして、本件価額弁償金の金額は、上記Aのとおり、各対象財産の評価額については合意した上で、この通常の取引価額といえる評価額を基礎として、上記ロの(イ)のGのとおり、両当事者において歩み寄って合意し、本件和解条項における金額330,000,000円に決まったものである。したがって、本件価額弁償金の金額は、各対象財産の本件和解時における通常の取引価額を基として決定されたものであると認められる。
      • D 上記のとおり、本件価額弁償金は、対象財産が特定され、当該財産の本件和解時における通常の取引価額を基として決定されているものと認められる。したがって、本件価額弁償金は、本件通達(2)に定める要件を満たすものと認めることが相当である。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、請求人が本件相続税の取得財産の価額に算入する本件価額弁償金の金額は、本件通達(1)の場合に該当しないものであり、対象財産が特定され、かつ、当該対象財産の本件和解時における通常の取引価額を基として決定されたものといえるから、本件通達(2)に定める方法により、受領した金額に、対象財産の本件相続開始日における価額が本件和解条項における価額に占める割合を乗じて計算をした金額によるべきである。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、本件和解の際に、請求人と兄Nとの間で本件相続税の取得財産の価額に算入又は控除する本件価額弁償金の金額について何らかの合意があったと考えるのが自然であるとして、本件通達(1)の要件を満たす旨主張する。
       しかしながら、上記の点について請求人と兄Nとの間で本件価額弁償金の具体的な申告額についての協議がなかったと認められることは、上記ハの(イ)のとおりである。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件和解条項における財産の評価額は、画地補正等の個別の事情補正すらされていない、和解で決着するために採用された「時価の近似値」にすぎず、通常の取引価額に当たらない旨主張する。
       しかしながら、本件和解条項における本件価額弁償金の各対象財産の評価額が通常の取引価額といえることについては、上記ハの(ロ)のBのとおりであり、本件のように対立する両当事者が長い期間にわたって検討、調整を重ねた上で合意に至った場合には、その合意した額が通常の取引価額といえるのであるから、本件相続税における評価に認められる、g町土地3に係る奥行価格補正率0.99やg町土地1及びg町土地2に係る側方路線影響加算率0.07などを適用した画地補正等が本件価額弁償金の各対象財産の評価額の調整に用いられていないといった原処分庁指摘の事情があったとしても、直ちに本件通達(2)の該当性を否定すべき理由にはならないというべきである。
    • (ハ) 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、兄Nが和解のために支払原資等を加味することを要求したことや、請求人と兄Nが主張していた金額や本件書面における金額が遺留分の目的物の価額と異なることから、本件価額弁償金の金額が本件和解条項における財産の評価額を基に決定されたものであるとは認められない旨主張する。
       しかしながら、本件価額弁償金の金額の決定に際して兄Nの支払原資等が考慮されたとしても、上記ロの(イ)のとおり、本件和解成立に至る経緯によれば、本件価額弁償金が、各対象財産の評価額をまず協議し、これによって合意できた評価額を前提として、両者が歩み寄って合意したことが認められるのであって、本件価額弁償金の金額を合意された各対象財産の評価額と比較してみても、本件価額弁償金が各対象財産の評価額に基づいて決定されたものということができる。
    • (ニ) 以上のとおり、原処分庁の主張は、いずれも理由がない。

(3) 本件更正処分について

請求人の本件申告における本件価額弁償金の金額330,000,000円は、上記(2)のハのとおり、本件通達(1)の場合に該当せず、該当する本件通達(2)に定める方法によっていないため、請求人の取得財産の価額に算入すべき金額として相当ではない。
 そして、請求人の本件相続税の取得財産の価額に算入すべき本件価額弁償金の金額は、上記(2)のハの(ロ)のとおり、要件を満たす本件通達(2)に従って計算すると、受領した本件価額弁償金の金額330,000,000円に各対象財産の本件相続開始日における価額の合計1,624,591,610円(別表1の「本件更正処分」欄の順号1ないし3、順号12ないし21及び順号23ないし25の合計額)を乗じ、当該各対象財産の本件和解時における価額の合計2,418,666,331円(別表1の「本件和解」欄の順号1ないし3、順号12ないし21及び順号23ないし25の合計額)で除して求めた金額221,657,375円となり、これにより請求人の本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3のとおり、それぞれ○○○○円、○○○○円となり、本件更正の請求における課税価格○○○○円、納付すべき税額○○○○円をも下回るため、本件申告により納付すべき税額が過大であった金額は、本件更正の請求におけるものをも上回ることとなる。
 したがって、本件更正の請求の本件通達(2)の適用を求める部分は、通則法第23条第1項第1号の規定に該当すると認められるべきものであるから、本件更正の請求における納付すべき税額を認めなかった本件更正処分は、違法であり、その全部を取り消すべきである。

(4) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、本件更正処分は、その全部を取り消すこととする。

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