(令和3年1月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が非居住者に支払った土地の購入代金に係る源泉所得税等を法定納期限後に納付したことについて、原処分庁が、不納付加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該法定納期限後の納付については正当な理由がある上、仮にこれが認められないとしても、当該納付は調査があったことにより告知があるべきことを予知してされたものではないとして、原処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項は、源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には、税務署長は、当該納税者から、その法定納期限後に同法第36条《納税の告知》第1項第2号の規定による告知(以下「納税の告知」という。)を受けることなく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収する旨規定し、同法第67条第1項ただし書は、当該告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合はこの限りでない旨規定している。
  • ロ 通則法第67条第2項は、源泉徴収による国税が納税の告知を受けることなくその法定納期限後に納付された場合において、その納付が、当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないときは、その納付された税額に係る同条第1項の不納付加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付された税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、総合建設業等を目的として設立された法人である。
  • ロ 請求人は、平成30年12月28日、G(以下「本件譲渡人」という。)との間で、b市e町○−○の宅地(以下「本件土地」という。)を代金〇〇〇〇円で購入する旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日、本件譲渡人に対し、手付金として10,000,000円を支払った。
  • ハ 本件譲渡人は、平成30年12月31日、中華人民共和国香港特別行政区(以下「香港」という。)へ転出した。
  • ニ 請求人は、平成31年1月21日、本件譲渡人に対し、上記ロの代金の残額〇〇〇〇円及び公租公課の分担金清算額〇〇〇〇円の合計〇〇〇〇円(以下、これらを併せて「本件代金等」という。)を支払い、同日付で、本件売買契約を原因とする本件土地の所有権移転登記が行われた。
     なお、請求人は、本件代金等の支払の際、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税を併せて「源泉所得税等」といい、本件代金等に係る源泉所得税等を「本件源泉所得税等」という。)を本件譲渡人から徴収せず、法定納期限までにこれを納付しなかった。
  • ホ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和元年7月2日、税理士法人HのJ(以下「本件担当者」という。)に対し、請求人の源泉所得税等について実地調査を行う旨及びその日程調整を依頼する旨の電話連絡をした(以下、当該電話連絡を「本件電話連絡」という。)。
  • ヘ 請求人は、令和元年7月5日、上記ロの手付金及び本件代金等の合計額を基礎として計算した源泉所得税等の額〇〇〇〇円を納付した(以下、当該納付を「本件納付」という。)。
  • ト 請求人は、令和元年7月8日、上記ホの税理士法人及びK税理士を税務代理人とする税務代理権限証書を原処分庁に提出した。
  • チ 原処分庁は、令和元年8月5日付で、本件源泉所得税等の額を〇〇〇〇円と計算し、その不納付加算税の額を〇〇〇〇円とする賦課決定処分をした(以下、当該賦課決定処分を「当初賦課決定処分」という。)。
     なお、原処分庁は、令和元年8月22日付で、本件納付のうち〇〇〇〇円を超える部分が誤納(自主)であったとして、その還付金等を当初賦課決定処分に係る不納付加算税の額に充当した。
  • リ 請求人は、当初賦課決定処分に係る通知書に斜線が引かれていたことなどから、当初賦課決定処分に不服があるとして、令和元年10月31日に審査請求をした(以下、当該審査請求を「当初審査請求」という。)。
  • ヌ 原処分庁は、令和元年12月5日付で、当初賦課決定処分を取り消した上、同月6日付で、それと同額の不納付加算税の賦課決定処分をした(以下、当該賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。
  • ル 請求人は、令和2年1月29日、当初審査請求を取り下げた上、本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か(争点1)。

(2) 本件納付が通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件調査担当職員は、本件電話連絡の際、本件担当者に対し「非居住者からの土地の取得があると思われるので確認させていただきたい。」と発言(以下「本件発言」という。)したところ、本件発言は、国税庁が提供する「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」の問18の定めに違反して、調査の理由を説明したものであり、国家公務員法等に規定する守秘義務等に違反している。
 本件賦課決定処分は、このような守秘義務等の違反を前提としたものであるから、クリーンハンズの原則に照らし、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があると認めるべきである。
本件発言を含む本件調査担当職員による一連の行為は、源泉所得税等の課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であり、通則法第67条第2項に規定する「調査」に該当するものであるから、本件発言は、実地調査の理由を説明するものではない。また、本件発言の内容は、国家公務員法第100条《秘密を守る義務》等に規定する秘密を漏らすことには該当しないものであるし、本件発言の相手方である本件担当者は、請求人に全く関係のない第三者ではないから、この点からも、守秘義務に違反したとは認められない。
 したがって、請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(2) 争点2(本件納付が通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
本件納付は、次のとおり、通則法第67条第2項の規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。 本件納付は、次のとおり、通則法第67条第2項の規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない。
イ 通則法第67条第2項に規定する「調査」とは、納税者において了知し得るものである必要があると解されるところ、本件では、本件納付までに原処分庁においてどのような調査が行われていたかを了知し得る状況にはなく、本件発言をもって、請求人がそれを了知することもできなかったから、同項に規定する「調査」があったとは認められない。
 なお、国税庁長官発遣の「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」(平成24年9月12日付課総5−11ほか9課共同)の定めによれば、調査として行う旨を明示せずに行われた本件発言は、通則法第67条第2項に規定する「調査」には該当しない。
イ 通則法第67条第2項に規定する「調査」とは、一連の判断過程の一切を意味し、いわゆる机上調査のような租税官庁内部における調査も含むと解されるところ、本件発言を含む本件調査担当職員による一連の行為は、源泉所得税等の課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程であり、同項に規定する「調査」に該当する。
 なお、本件調査担当職員は、本件土地の登記等を調査した上で、本件電話連絡により実地調査を行う旨を伝え、本件発言をしたものであり、このような経緯からすれば、本件発言は、調査と行政指導の区分を明示した上で行ったものといえる。
ロ 国税庁長官発遣の「源泉所得税及び復興特別所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課法7−9ほか3課共同)第1の2注書1の定めによれば、実地調査のための日程調整の連絡しかされていない段階で行われた本件納付は、通則法第67条第2項に規定する「告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。 ロ 本件発言は、請求人の源泉所得税等の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う質問検査権の行使によりなされたものであり、請求人は、本件発言の時点で、調査があったことを了知し、その後の調査が進行すれば告知に至るであろうことを予知して本件納付を行ったものといえるから、本件納付は、通則法第67条第2項に規定する「告知があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件譲渡人は、平成30年12月21日、g県内の税理士法人を納税管理人とする所得税の納税管理人の届出書を所轄の税務署長に提出するとともに、同月26日、他の税理士を納税管理人とする消費税の納税管理人の届出書を所轄の税務署長に提出した。
     なお、これらの届出書には、平成30年12月31日に香港へ転出する旨がそれぞれ記載されており、また、これらのうち消費税の納税管理人の届出書には、納税管理人を定めた理由として「香港へ転勤のため(帰国日は現時点では未定)」と記載されていた。
  • ロ 本件調査担当職員は、令和元年6月頃、税務署内における調査(以下「本件署内調査」という。)の結果、1請求人が本件譲渡人から本件土地を取得し、平成31年1月21日付でその所有権移転登記が行われたこと、2上記イのとおり本件譲渡人が平成30年12月31日に香港へ転出し、非居住者に該当するに至ったこと、3請求人の源泉所得税調査簿によると、非居住者に支払った土地購入代金に係る源泉所得税等の納付がないことを把握した。
  • ハ 本件調査担当職員は、令和元年7月2日、本件担当者に対し、本件電話連絡をし、実地調査の日程調整を依頼する中で、本件発言(「非居住者からの土地の取得があると思われるので確認させていただきたい。」との発言)をしたが、本件源泉所得税等に関する具体的な指摘、質問等はなかった。
     これに対し、本件担当者は、それに該当する取引があるか否かを確認する旨及び調査の日程調整をする旨を述べた。
  • ニ これを受け、本件担当者は、令和元年7月2日、請求人の経理担当取締役(以下「本件取締役」という。)に対し、最近までの取引の中に非居住者からの土地購入取引があったか否かを確認した。
     これに対し、本件取締役は、それに該当する取引は記憶にないが念のため確認する旨を述べた後、土地購入取引に係る台帳や本件土地の登記簿謄本を確認したところ、本件代金等の支払時点で本件譲渡人が非居住者になっていたことを把握した。
     なお、本件土地の登記簿謄本には、上記1(3)ニの所有権移転登記に先立ち、本件譲渡人が香港へ住所移転した旨が記載されていた。
  • ホ 本件取締役は、令和元年7月2日又は同月3日、本件担当者に対し、非居住者からの土地購入取引があった旨を報告したところ、本件担当者から、本件源泉所得税等の納付が必要になる旨の説明を受けた。
  • ヘ 本件取締役は、請求人の本件売買契約に係る担当者を通じて、本件譲渡人に対し、請求人が納付する本件源泉所得税等の額を後日支払う意思があることを確認した上、請求人の代表取締役(以下「本件代表者」という。)に対し、本件源泉所得税等の納付について報告したところ、本件代表者は、本件譲渡人に当該意思があることを確認しているのであれば速やかに本件源泉所得税等を納付するよう指示をした。
  • ト 本件取締役は、本件源泉所得税等の額及び納付方法等を本件担当者に相談し、本件担当者から送付された納付書に本件源泉所得税等の額を自ら記載した上、令和元年7月5日、本件納付をした。
  • チ 本件調査担当職員は、令和元年7月8日、本件担当者に対し、請求人の源泉所得税等について、実地調査を開始する日時を同月24日午前10時とする旨などを電話で通知したが、本件源泉所得税等に係る具体的な指摘、質問等はなかった。
     なお、本件調査担当職員は、令和元年7月8日、本件担当者に対し、平成29年10月1日から平成30年9月30日までの事業年度の法人税等及び平成29年10月1日から平成30年9月30日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税等に係る税務代理権限証書の提出を依頼し、令和元年7月8日に、当該依頼に沿った上記1(3)トの税務代理権限証書が提出された。
  • リ 本件調査担当職員は、令和元年7月24日、請求人の納税地に臨場して源泉所得税等の実地調査を行い、同席した本件取締役が準備していた帳簿書類のうち本件代金等の支払明細等を確認するなどしたが、その後、本件取締役から本件納付をした旨の報告を受けたため、その納付書を確認して、当該実地調査を終了した。
  • ヌ 上記1(3)トの請求人の税務代理人らは、当初賦課決定処分が行われた後である令和元年8月30日、L税務署を訪れ、本件調査担当職員等に対し、当初賦課決定処分の再検討を申し入れた。

(2) 争点1(請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第67条第1項に規定する不納付加算税は、源泉所得税等の不納付による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に徴収及び納付した者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、源泉所得税等の不納付による納税義務違反の発生を防止し、適正な徴収及び納付の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。そうすると、同項ただし書に規定する「正当な理由」が認められる場合とは、告知又は納付に係る国税を法定納期限までに納付しなかったことについて、真に源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、源泉徴収義務者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     本件では、上記1(3)ニ並びに上記(1)ロ及びニのとおり、本件土地の所有権移転登記に先立ち、本件譲渡人が香港へ住所移転をした旨の登記がされたのであり、請求人が本件土地の所有権移転登記を確認した際に、当該住所移転があったことも容易に認識できたはずであるし、そのほかに、当審判所の調査によっても、真に源泉徴収義務者である請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があると認めるに足りる的確な証拠は存在しない。
     したがって、請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3(1)の「請求人」欄のとおり、本件賦課決定処分は本件発言による守秘義務違反を前提としたものであるから、クリーンハンズの原則に照らし、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
     しかしながら、請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められないことは、上記ロで述べたとおりであるし、請求人の主張する事情は、法定納期限後のものにすぎず、本件調査担当職員に守秘義務違反があるか否かの事情は、本件源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかったことについて、真に源泉徴収義務者である請求人の責めに帰することのできない客観的な事情とは関係しないから、請求人の主張は理由がない。

(3) 争点2(本件納付が通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
     源泉徴収による国税が法定納期限までに完納されなかった場合には、通則法第67条第1項の規定により、その法定納期限後に納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を徴収するのが原則であるが、同条第2項は、法定納期限後であっても源泉徴収義務者の自発的な納付を奨励する趣旨から、「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知」することなく自主的にこれを納付した者に対しては、通常よりも一段低い水準の不納付加算税を徴収することにしたものである。
     このような通則法第67条第2項の文言及び趣旨からすると、法定納期限後の納付が、同項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否かの判断に当たっては、1調査の内容・進捗状況、2それに関する納税者の認識、3納付に至る経緯、4納付と調査の内容との関連性等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件署内調査の内容・進捗状況
       上記(1)イ及びロのとおり、本件調査担当職員は、本件署内調査の結果、請求人による本件土地の取得日、本件譲渡人の香港への転出日及び請求人の源泉所得税等の納付状況を把握したことが認められる。それらによれば、本件調査担当職員は、請求人が国内にある本件土地の譲渡による対価を非居住者である本件譲渡人に支払い、本件源泉所得税等を納付すべきであったにもかかわらず、その納付をしていない可能性が高いと判断して、上記1(3)ホのとおり、令和元年7月2日に本件電話連絡をしたものと考えられる。そのため、同日の時点で、そのまま本件調査担当職員による調査が進展すれば、上記(1)リのように本件代金等の支払明細等が確認されるなどして、やがて本件源泉所得税等に係る納税の告知に至る可能性が高い状況にあったといえる。
    • (ロ) 上記(イ)の本件署内調査の内容・進捗状況に関する請求人の認識
       もっとも、上記(1)ハ及びニのとおり、本件調査担当職員は、令和元年7月2日の本件電話連絡において、実地調査の日程調整の依頼をする中で、本件発言をしたにすぎず、それ以外に、本件源泉所得税等に関する具体的な指摘、質問等をしたことはなく、それを受けた本件担当者も、本件取締役に該当する取引の有無を確認した際に、確認すべき期間を具体的に指定するなどしなかったことが認められる。その上、上記(1)チのとおり、本件調査担当職員は、本件納付後の同月8日、本件担当者に対し、本件源泉所得税等とは関係のない税務代理権限証書の提出を求め、その結果、本件源泉所得税等とは関係のない税務代理権限証書が提出されたにもかかわらず、本件調査担当職員が、その後も本件担当者等に対して、本件源泉所得税等に係る税務代理権限証書を提出するよう依頼したなどの事情もうかがわれない。このことから、本件納付以前に、本件調査担当職員が本件源泉所得税等を調査対象とするような発言をしていたとも考え難い。これらの事情によれば、本件担当者や請求人は、本件納付までの間において、本件調査担当職員が実地調査のために日程の調整を要求していることまでは認識していたとは認められるが、本件源泉所得税等が調査の対象として、その内容・進捗状況が上記(イ)の状況であったことを具体的に認識していなかったと認められる。
    • (ハ) 本件納付に至る経緯及び本件署内調査の内容との関連性
       上記(ロ)のとおり、請求人は、上記(イ)の本件署内調査の内容・進捗状況を具体的に認識しておらず、本件源泉所得税等が調査対象になっていることも認識できる状況になかったと認められる。そのような状況において、上記(1)ニからトまでのとおり、本件取締役による自主的な確認が行われ、その結果、本件代金等の支払時点で本件譲渡人が非居住者になっていたことが判明し、請求人は、本件担当者にその旨報告したところ、本件源泉所得税等の納付が必要である旨の説明を受けた上、本件代表者からも速やかに納付するよう指示を受け、本件電話連絡のあった日から3日後の令和元年7月5日に本件納付をしたことが認められる。このような経緯に照らせば、本件納付は、請求人自身の自主的な確認によって行われたものと評価すべきであって、本件署内調査との関連性は乏しいといわざるを得ない。
    • (ニ) 結論
       以上の事情を総合考慮すると、上記(イ)のとおり、本件署内調査により、そのまま本件調査担当職員による調査が進展すれば、やがて本件源泉所得税等に係る納税の告知に至る可能性が高い状況にあったとは認められるものの、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、それを具体的に認識しておらず、本件納付も、請求人自身の自主的な確認によって行われたものであって、本件署内調査との関連性も乏しいといわざるを得ないから、本件納付は、通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するというべきである。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3(2)の「原処分庁」欄のとおり、本件発言を含む本件調査担当職員による一連の行為は通則法第67条第2項に規定する「調査」に該当する上、請求人も本件発言の時点で調査があったことを了知し、その後の調査が進行すれば告知に至るであろうことを予知して本件納付を行ったものといえるから、通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない旨主張する。
     しかしながら、本件発言は、実地調査の日程調整を依頼する中でされたものにすぎず、その内容も抽象的で、具体的な取引内容や調査対象期間も示されていないから、本件発言自体が「調査」に該当するとは認められないし、また、請求人が本件署内調査の内容・進捗状況を具体的に認識しておらず、本件納付も、請求人自身の自主的な確認によって行われたものであって、本件署内調査との関連性も乏しいといわざるを得ないことは、上記ロで述べたとおりであって、本件発言だけをもって、当審判所の当該判断が左右されることはないから、原処分庁の主張は理由がない。
     なお、原処分庁が提出した令和元年9月12日付調査報告書には、本件電話連絡をした際、本件調査担当職員が調査対象期間及び税目について平成30年11月12日から令和元年6月10日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税等とすると伝えた旨が記載されている。しかしながら、当該調査報告書は、本件電話連絡のあった日から2か月以上も経過し、かつ、上記(1)ヌの当初賦課決定処分の再検討の申入れがされた後に作成されたものである。また、当審判所の調査によると、上記(1)チのとおり、本件調査担当職員は、令和元年7月8日、本件源泉所得税等とは年分が異なり、かつ別の税目を付加した税務代理権限証書の提出を求め、実際にも、本件源泉所得税等とは年分の異なる税務代理権限証書が提出されたにもかかわらず、本件源泉所得税等に係る税務代理権限証書を提出するよう依頼したなどの事情はない。したがって、その本件調査担当職員が同月2日の時点で当該調査報告書に記載された調査対象期間及び税目を伝えていたとは考え難く、当該調査報告書の記載内容を直ちに信用することはできない。

(4) 請求人のその他の主張について

請求人は、当初審査請求中に当初賦課決定処分を取り消し、その経緯を説明することなく当初賦課決定処分と同額で行った本件賦課決定処分は、審査請求制度を軽視したものであり、課税権の濫用に該当する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が審査請求中に職権で処分を取り消した上、それと同額となる再処分を行うことができないとする法令の規定はないし、適正な課税の実現を図るためにも、原処分庁が処分に瑕疵があることを発見したときには、これを取り消した上で新たに再処分を行うことも許容されると解すべきである。そして、当審判所に提出された証拠資料等によれば、原処分庁は、上記1(3)リのとおり、当初審査請求の審理の過程で、当初賦課決定処分に係る通知書に斜線が引かれていたと請求人に主張され、当初賦課決定処分に瑕疵があるとされる余地があったことから、それを是正するために本件賦課決定処分をしたものであって、本件賦課決定処分に課税権の濫用に該当する違法があるとは認められず、請求人の主張は理由がない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、請求人が法定納期限を徒過して本件源泉所得税等を納付したことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められないが、上記(3)のとおり、本件納付は通則法第67条第2項に規定する「当該国税についての調査があったことにより当該国税について当該告知があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。そして、当審判所において本件源泉所得税等の不納付加算税の額を計算すると、〇〇〇〇円となり、本件賦課決定処分の額を下回る。
 なお、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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