(令和3年2月5日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、被相続人の配偶者である審査請求人H(以下「請求人妻」という。)及び被相続人の二男である審査請求人F(以下「請求人二男」といい、請求人妻と併せて「請求人ら」という。)が、原処分庁所属の職員による調査を受け、被相続人の死亡により取得した共済金の申告漏れなどがあったとして、相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人二男に対し、当該共済金の申告漏れにつき重加算税の賦課要件を満たすとして、重加算税の賦課決定処分をするとともに、請求人妻に対し、相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減については同条第5項の規定が適用されるとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人二男が、上記重加算税の賦課決定処分の一部(過少申告加算税相当額を超える部分の金額)の取消しを求め、請求人妻が、上記更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令の要旨は、別紙3のとおりである(なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文においても使用する。)。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ J(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年3月○日に死亡し、同人に係る相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
  • ロ 本件相続に係る相続人は、請求人妻、請求人二男及び本件被相続人の三男の3名である。
  • ハ 本件被相続人が、その生前に、K農業協同組合(以下「本件農協」という。)との間で、被共済者を本件被相続人、死亡共済金の受取人を請求人妻とする生命共済に係る契約を締結していたところ、請求人二男は、本件被相続人の死後に、請求人妻の了承の下、当該契約に係る死亡共済金の支払請求手続を行い、平成29年4月3日、当該死亡共済金(以下「本件共済金」という。)40,368,587円が、本件農協○○支店の請求人妻名義の普通貯金口座(以下「請求人妻名義口座」という。)に振り込まれた。
  • ニ 請求人らは、平成29年3月16日、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書及び遺産分割協議書の作成等をL税理士(以下「本件税理士」という。)に依頼した。請求人二男は、本件税理士との面談の中で、生命保険金等が相続税の申告すべき財産である旨の説明を受けるなどした。
  • ホ 請求人らは、本件相続税について、それぞれ別表の「当初申告」欄のとおり記載した申告書(以下、当該申告書を「本件当初申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
     なお、本件当初申告書の第9表「生命保険金などの明細書」には、M社から支払われた死亡保険金(以下「係争外死亡保険金」という。)8,051,150円は記載されていたが、本件共済金は記載されていなかった。
  • ヘ 請求人二男は、平成29年12月22日に、請求人妻の了承の下、請求人妻名義口座から43,993,200円を本件農協○○支店の請求人二男名義の普通貯金口座に振り替えた後、当該口座から本件相続税の合計金額○○○○円(請求人二男分○○○○円及び本件被相続人の三男分○○○○円)を納付した。
  • ト 請求人らは、原処分庁所属の職員(以下「本件調査担当職員」という。)による調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件共済金の申告漏れなどがあったとする指摘に従い、令和元年11月11日、別表の「修正申告」欄のとおり記載した本件相続税の修正申告書を提出した。
     なお、当該修正申告書において、請求人妻は、相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減を適用した。
  • チ 原処分庁は、令和元年12月20日付で、本件共済金の申告漏れにつき請求人二男の行為が通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして、請求人二男に対し、別表の「賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分をした。また、原処分庁は、同日付で、相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税の軽減については同条第5項の規定が適用されるとして、請求人妻に対し、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
  • リ 請求人らは、請求人二男については上記チの重加算税の賦課決定処分のうちの一部(過少申告加算税相当額を超える部分の金額)を、請求人妻については上記チの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の全部をそれぞれ不服として、令和2年2月12日に審査請求をした。
     なお、請求人らは、請求人二男を総代として選任し、同年3月4日にその旨を届け出た。

2 争点

(1) 請求人二男の行為が通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か(争点1)。

(2) 相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定が適用されるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人二男の行為が通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)について

原処分庁 請求人二男
請求人二男の行為は、次のとおり、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。 請求人二男の行為は、次のとおり、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
イ 上記1(3)ニの説明を受けたこと、係争外死亡保険金については上記1(3)ホのとおり申告したことに照らせば、請求人二男は、本件共済金が本件相続税の申告すべき財産であることを十分認識していたと認められる。
 なお、請求人二男は、本件共済金が本件相続税の申告すべき財産でないものと誤解していた旨主張するが、審査請求においても、当初は、本件相続税の申告すべき財産であるとの認識があることを前提に主張していたのであって、不合理な変遷といわざるを得ない。
 また、本件共済金は、申告した係争外死亡保険金に比べて極めて高額であり、本件相続により取得した不動産以外の財産の過半を占めるものであることなどからすると、請求人二男が本件共済金について安易に誤解することは考え難い。
イ 請求人二男は、本件被相続人から本件共済金を本件相続税の納税資金に使うよう言われていたし、本件税理士から受けた説明も漠然としたものであったため、本件共済金については、本件相続税の納税資金との意識しかなく、本件相続税の申告すべき財産ではないと誤解していた。
ロ それにもかかわらず、請求人二男は、本件税理士から本件相続税に係る資料の提出を求められた際に、係争外死亡保険金に係る資料のみを提出して、「生命保険金は1つしかない。」と説明した上、本件当初申告書の作成に当たっても、本件税理士から申告する財産について説明を受け、本件共済金が記載されていないことを認識しながら敢えて指摘せず、本件当初申告書に押印して原処分庁に提出した。そして、自らが管理する請求人妻名義口座に上記1(3)ハの振込みがされてから、本件相続税の納付に充てることを決意して上記1(3)ヘの振替等をするまでの一連の過程において、その都度、本件共済金を意識する機会があったにもかかわらず、本件税理士にその存在を一切伝えなかったことも考慮すれば、請求人二男は、本件共済金を除外する意図をもって本件税理士に対して殊更にその存在を秘匿したものといえる。
 なお、請求人二男は、本件税理士に対し、本件共済金を本件相続税の納付に充てることを伝えてはいた旨主張するが、仮にそうであれば、本件税理士は本件共済金を申告すべき財産としたはずである。
 また、請求人二男は、本件共済金に係る資料を区別して管理していた旨主張するが、上記イのとおり、本件相続税の申告すべき財産であると認識していたことに照らせば、むしろ本件共済金が課税対象となることを回避するためであったとするのが相当である。
ロ 本件は、請求人二男が本件税理士に対して提出した本件相続税に係る資料に本件共済金に係る資料が含まれていなかったことにより、申告漏れとなったものであるが、請求人二男としては、本件相続税に係る資料の全てを提出していたものと認識していたし、納税資金に充てるために本件共済金に係る資料を区別して管理していたことから、その提出が漏れてしまったにすぎない。
 なお、本件税理士は、生命保険金が係争外死亡保険金以外にないかを問う質問をしておらず、請求人二男は、生命保険金が当該死亡保険金しかない旨の説明をしたことはないし、本件当初申告書の作成に当たっても、本件税理士が、本件当初申告書の内容を個別に説明したことはなく、請求人二男も、その内容を十分に確認していなかった。
 また、請求人二男は、本件税理士に対し、本件共済金を本件相続税の納付に充てる旨を伝えてはいた。
ハ また、請求人二男は、本件調査担当職員に対し、本件調査の当初においては、本件共済金の存在を伝えなかった理由は覚えていない旨などを申述していたが、その後、単なる失念にすぎないかのように申述等を変遷させた。
 なお、仮に本件共済金の申告漏れが単なる失念などであったとすれば、本件調査の当初からその旨申述等するのが自然であるし、本件税理士の申述等を考慮すれば、本件共済金の申告漏れが単なる失念であるかのような請求人二男の申述等は信用できない。
ハ 原処分庁は、請求人二男が本件調査担当職員に対する申述等を変遷させた旨主張する。しかしながら、本件調査の当初においては、申告漏れを指摘されたことによる動揺に加えて、記憶が曖昧なところがあった上、本件税理士の記憶違い等もあったが、その後、記録等を照合した結果、本件税理士に説明した内容等を思い出したことから、その申述等が変化したにすぎず、何ら不自然とはいえない。
ニ 以上に加え、請求人二男としては、本件相続税の負担を極力少なくしたいと考えるのが自然であって、本件共済金を除外することにより多額の本件相続税を免れることになることなども考慮すれば、請求人二男は、本件共済金につき、それが申告すべき財産であることを十分認識しながら、過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をしたと認められる。 ニ 以上に加え、本件調査で本件調査担当職員から指摘を受け、速やかに修正申告したこと、本件共済金の取得者である請求人妻には配偶者に対する相続税額の軽減が適用されるため、本件共済金を申告から除外する動機が乏しいことなども考慮すれば、本件共済金は単なる過失により申告漏れとなったものにすぎず、過少に申告することを意図していたということも、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたということもできない。

(2) 争点2(相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人妻
上記(1)の「原処分庁」欄によれば、請求人二男の行為は相続税法第19条の2第5項に規定する適用要件を満たすから、同条第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定が適用される。 上記(1)の「請求人二男」欄によれば、請求人二男の行為は相続税法第19条の2第5項に規定する適用要件を満たさないから、同条第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定は適用されない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人二男の行為が通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件税理士は、平成29年3月16日、請求人二男に対し、上記1(3)ニのとおり、生命保険金等が相続税の申告すべき財産である旨説明した上、本件被相続人に係る戸籍謄本、本件被相続人名義の預貯金口座の残高証明書及びその他の資料の提出を依頼した。
    • (ロ) 請求人二男は、平成29年4月11日、上記(イ)の本件税理士の依頼に基づき、金融機関等から収集した資料を本件税理士に提出したが、当該資料の中に、本件共済金に係る資料は含まれていなかった。
    • (ハ) 本件税理士は、上記(ロ)の提出を受け、本件相続税の総額を計算するに当たり、追加提出を依頼すべき資料等があるかを検討しておらず、請求人二男に対する具体的な確認等もしていなかった上、請求人二男も、平成29年4月11日以降に、本件税理士に本件共済金に係る資料を提出することはなかった。
    • (ニ) 本件税理士は、請求人二男に対し、平成29年5月9日に、その作成した本件当初申告書の原案を示し、本件相続税の総額を説明し、同年12月7日に、本件当初申告書に押印を求めたが、これらの機会に、本件当初申告書に記載された個々の財産について具体的な説明をしたことはなかった。
    • (ホ) 本件調査担当職員は、令和元年7月29日に、請求人二男に対し、本件共済金の申告漏れがある旨指摘したところ、請求人二男は、同日以降の本件調査の中で、当該指摘を争うことなく、これを認め、上記1(3)トのとおり当該指摘に基づく修正申告書を提出した。
  • ハ 請求人二男及び本件税理士の申述等
    • (イ) 令和元年7月29日付の質問応答記録書には、請求人二男の申述として、次の記載がされているが、その他に本件相続税に係る資料の提出時や本件当初申告書の作成時における本件共済金の具体的な確認状況等に関する記載はない。
      • A 本件共済金の「証書がどこにあったか覚えていません。」と申述した。
      • B 本件共済金の存在を本件税理士に伝えなかった理由について、「覚えていません。」と申述した。
      •  
      • C 「税理士とのくだりが不鮮明だが、確かに本件共済金について税理士に伝えていない。また、借入れをして納付をすることを税理士に伝えはしましたが、その資金の内訳についてまでは伝えていません。」と申述した。
    • (ロ) 令和元年10月2日付の質問応答記録書には、請求人二男の申述として、次の記載がされているが、その他に本件相続税に係る資料の提出時や本件当初申告書の作成時における本件共済金の具体的な確認状況等に関する記載はない。
      • A 上記1(3)ホの係争外死亡保険金の存在は本件税理士に伝えたにもかかわらず、本件共済金の存在は伝えなかった理由について、本件農協以外の普段から取引をしていない銀行等に関しては「慎重に手続きをしなければと思っていたからかもしれません。」と申述した。
      • B 本件税理士から本件相続税の納付すべき税額をどのような形で説明を受けたかについて、「試算表です。金額がかかれたもので、相続税申告書1表及び2表の部分でした。11表などはありませんでした。明細をみても分かりませんでした。」と申述した。
      • C 本件共済金の存在を本件税理士に伝えなかった理由について、「書類をもらいましたが、本件共済金が計上されているかどうか内容がわからなかったのかも知れません。」と申述した。
      • D 本件相続税の納付について、本件相続税の納付すべき税額のうち一部は本件共済金で、残りは融資を受けるという話はしたと思う旨申述した。
      • E 本件共済金の申告漏れについてうっかりとはいえないと一旦は申述したものの、「相続税について年内に終わらせたいという気持ち」と、本件共済金は「納税の原資になるという意識にいってしまい」、「申告する際の財産についての説明を受けている時に、資産に計上されているかどうかきちんと確認する意識がなかった、というのが正直なところです。」と申述した。
    • (ハ) 令和元年10月16日付の調査報告書には、本件税理士の申述として、次の記載がされているが、その他に本件相続税に係る資料の提出時や本件当初申告書の作成時における本件共済金の具体的な確認状況等に関する記載はない。
      • A 「被相続人の財産に係る資料の提出を受け、『これで全部です』と言われた。今考えてみれば、残高証明書を請求した頃には本件共済金を受け取る手続きをしていたようなので、本件共済金の話があってもよかったはずだが、生命保険関係はM社の一つしかないという話だった。」と申述した。
      • B 本件相続税の納付について、納付すべき税額のうち一部は確保できており、残額を本件農協から借り入れるという話を聞いた際も、当該一部の納税資金が何かという話やそれが本件共済金であるという話は請求人二男から聞いていない旨申述した。
      • C 「提出された資料の中には本件共済金のものはなく、本件共済金があるとの話もなかった。」と申述した。
    • (ニ) 本件調査担当職員が、令和元年10月24日に、本件税理士に電話による連絡をしたところ、本件税理士から、請求人二男は生命保険関係を全て本件税理士に渡したと思っていたために申告漏れになったにすぎず、隠蔽の意図はなかった旨の申出があった。
    • (ホ) 請求人二男は、審査請求において、最終的には、上記3(1)の「請求人二男」欄のイのとおり主張し、それに沿った答述をするが、令和2年2月12日付の審査請求書及び同年4月24日付の「反論書の提出について」と題する書面では、「本件共済金が相続税申告の対象であることを承知し」、「本件共済金の資料についても含めて全部税理士に手渡したと思っていた」が、結果的に本件税理士に対して本件共済金に係る資料の提出が漏れてしまったにすぎない旨主張していた。
  • ニ 検討
    • (イ) 原処分庁は、上記3(1)の「原処分庁」欄のとおり、請求人二男が、本件共済金について本件相続税の申告すべき財産であることを十分認識していたにもかかわらず、本件共済金を除外する意図をもって本件税理士に対して殊更にその存在を秘匿し、本件調査においても、本件共済金の申告漏れが単なる失念にすぎないかのように申述等を変遷させたことなどを考慮すれば、本件共済金につき、過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をしたと認められるから、請求人二男の行為は通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす旨主張するので、以下、検討する。
    • (ロ) まず、請求人二男が本件当初申告書の提出時において、本件共済金について本件相続税の申告すべき財産であることを認識していたと認められるか否かを検討すると、請求人二男は、上記1(3)ニのとおり、本件税理士から生命保険金等が相続税の申告すべき財産である旨説明を受けていた上、係争外死亡保険金については上記1(3)ホのとおり申告しており、本件共済金についてのみ本件相続税の申告すべき財産ではないと誤解する理由もうかがわれないことからすれば、本件共済金も本件相続税の申告すべき財産であることを認識していたと推認するのが合理的である。また、請求人二男は、上記ハ(ホ)のとおり、審査請求においても、当初は、当該認識があることを前提にして主張していたのであって、上記3(1)の「請求人二男」欄のイのとおりの本件相続税の申告すべき財産ではないと誤解していた旨の主張及び答述は、合理的な理由もなく変遷したものにすぎず、その他に当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、請求人二男が当該誤解をしていたことをうかがわせる事情は存在しない。
       したがって、本件当初申告書の提出時において、請求人二男が本件共済金について本件相続税の申告すべき財産であることを認識していたことは認められる。
    • (ハ) 次に、請求人二男が本件税理士に対して殊更に本件共済金の存在を秘匿したと認められるか否かについて検討する。
       確かに、請求人二男は、上記(ロ)のとおり、本件税理士から説明を受けるなどして、本件共済金について本件相続税の申告すべき財産であることを認識していたが、上記ロ(ロ)のとおり、本件税理士に対して提出した本件相続税に係る資料の中に本件共済金に係る資料が含まれておらず、上記1(3)ホのとおり、本件共済金が記載されていない本件当初申告書を提出したことが認められる。
       しかしながら、原処分庁の提出した証拠資料等をみても、上記ハ(イ)から(ニ)までのとおり、本件相続税に係る資料の提出時や本件当初申告書の作成時に、本件税理士が請求人二男に対して具体的にどのような確認等をしたのかが明らかでないし、むしろ当審判所の調査によれば、上記ロ(ハ)及び(ニ)のとおり、本件税理士は追加提出を依頼すべき資料等があるかを検討しておらず、請求人二男に対する具体的な確認等もしていなかった上、本件当初申告書の作成に当たっても、その内容を具体的に説明しなかったことが認められる。そのため、請求人二男が本件税理士に対して提出した本件相続税に係る資料の中に本件共済金に係る資料が含まれておらず、本件当初申告書に本件共済金が記載されていなかったとしても、請求人二男がそのことを具体的に認識していたとまでは認められないし、その他に当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、請求人二男が本件税理士に対して殊更に本件共済金の存在を秘匿したと裏付けるに足りる事情は存在しない。
       したがって、請求人二男が本件税理士に対して殊更に本件共済金の存在を秘匿したとまでは認められない。
       これに対し、原処分庁は、上記3(1)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人二男が本件税理士に対し「生命保険金は1つしかない。」と説明した上、本件当初申告書の作成に当たっても、本件税理士から申告する財産について説明を受けた旨などを主張するところ、確かに、令和元年10月16日付の調査報告書には、本件税理士の申述として、上記ハ(ハ)Aの記載があるが、当該記載をみても、請求人二男が明示的に「生命保険関係はM社の1つしかない。」と発言したのか、それとも、本件相続税に係る資料の提出状況からすれば生命保険金は上記1(3)ホの係争外死亡保険金しかないとのことだったというにすぎないのかが明らかでないし、その他に当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、請求人二男が本件相続税の申告すべき財産として「生命保険金は1つしかない。」と説明したことを裏付けるに足りる事情は存在しない。また、本件税理士から請求人二男に対して具体的な確認等がされていないことは、上記のとおりであるし、その他に原処分庁の主張する点をもって、当審判所の上記認定が左右されることもない。
    • (ニ) さらに、原処分庁は、本件調査において、請求人二男が本件共済金の申告漏れが単なる失念にすぎないかのように申述等を変遷させた旨主張するが、上記ハ(イ)、(ロ)及び(ニ)によれば、当初は、請求人二男の記憶が曖昧であったが、その後に本件調査を受けるなどする中で、記憶が喚起されていったことがうかがえる上、当審判所の調査によっても、請求人二男が虚偽の申述等をしたなどと評価すべき事情は認められない。
    • (ホ) その他に当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、請求人二男が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとうかがわせる事情は存在せず、むしろ、上記ロ(ホ)のとおり、請求人二男が本件調査担当職員から本件共済金の申告漏れを指摘された後、遅滞なくそれに応じて上記1(3)トの修正申告書を提出していたことが認められる。
    • (ヘ) 以上によれば、請求人二男が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に該当するとまでは認められないから、請求人二男の行為は通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとはいえず、これに反する原処分庁の主張は理由がない。

(2) 争点2(相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     相続税法第19条の2第5項は、別紙3の3のとおり規定しているところ、当該規定は、適正な申告を確保し、課税の公平を図るため、納税義務者が過少申告をするについて隠蔽仮装行為による金額までもが配偶者の税額軽減措置の適用を受けるのは不合理であるとの趣旨から設けられたものと解される。
     このような趣旨からすると、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、相続税法第19条の2第5項に規定する適用要件が満たされるものと解される。
  • ロ 検討
     上記(1)のとおり、請求人二男が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に該当するとは認められないから、相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定は適用されない。

(3) 上記1(3)チの重加算税の賦課決定処分の適法性について

上記(1)のとおり、請求人二男の行為は通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。もっとも、請求人二男は通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税の賦課要件を満たしている上、本件共済金が上記1(3)トの修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、標記の賦課決定処分のその他の部分については、請求人二男は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、標記の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額が違法であり、その一部を別紙2「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(4) 上記1(3)チの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減について、同条第5項の規定は適用されず、当審判所において請求人妻の納付すべき税額を計算すると、上記1(3)トの修正申告における金額と同額となるから、標記の更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるし、標記の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がある。

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