(令和3年3月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員による調査を受けて相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人が被相続人の死亡により受領した生命保険金2口のうち1口を課税価格に含めずに申告したことは隠蔽又は仮装に当たるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、当該処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ F(以下「本件被相続人」という。)は、生前、G社との間で、別表1のとおり、自らを契約者及び被保険者とし、本件被相続人の長男である請求人及び同二男であるHを受取人(各2分の1)とする2口の生命保険契約を締結していた(以下、別表1の順号1の保険契約に係る保険金を「本件申告済保険金」といい、同順号2の保険契約に係る保険金を「本件死亡保険金」といい、本件申告済保険金及び本件死亡保険金を併せて「本件各保険金」という。)。
  • ロ 本件被相続人は、平成29年12月○日に死亡し、同日、その相続(以下「本件相続」といい、本件相続に係る相続税を「本件相続税」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、請求人及びHの2名である。
  • ハ 請求人は、大学教授として勤務する者である。
  • ニ 請求人及びHは、平成30年1月22日、G社に対し、本件申告済保険金について、請求人が署名した「死亡保険金請求書」及び両名が署名した「代表受取人による保険金等の請求に関する同意書」を提出して、その請求手続を行ったところ、本件申告済保険金(15,436,988円)は、同月29日、請求人名義のJ銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件預金口座」という。)に振り込まれた。
     なお、本件預金口座は、請求人が固定資産税や公共料金等の支払に利用していた生活用の預金口座である。
  • ホ 請求人及びHは、平成30年3月30日、G社に対して、請求人が「死亡保険(給付)金請求書」に、Hが「代表受取人による死亡保険(給付)金請求に関する同意書」に、それぞれ署名した上で、本件死亡保険金に係る請求手続を行ったところ、本件死亡保険金(10,019,500円)は、同年4月4日、本件預金口座に振り込まれた。
  • ヘ 請求人及びHは、本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、平成30年10月6日付で遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)を作成した。本件遺産分割協議書には、生命保険金等として15,436,988円(本件申告済保険金に相当する金額)のみが記載されていた。
  • ト 請求人は、平成30年10月10日、Hと共同で、別表2の「当初申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を原処分庁へ提出した(本件申告書の提出による申告を、以下「本件申告」という。)。本件申告書の第9表「生命保険金などの明細書」欄には、本件申告済保険金に係る受取年月日及び受取金額等の内容のみが記載されていた。
  • チ 請求人は、令和元年12月20日、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)による本件相続税に係る一連の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、本件死亡保険金を含む課税財産の申告漏れがあったなどとして、Hと共同で、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した本件相続税に係る修正申告書を原処分庁へ提出した(当該申告書の提出による申告を、以下「本件修正申告」という。)。
  • リ 原処分庁は、令和2年1月28日付で、請求人に対し、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の額を○○○○円とし、また、請求人が本件死亡保険金について本件相続税の課税財産であると知りながらこれを隠蔽したとして、重加算税の額を○○○○円とする加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ヌ 請求人は、令和2年3月3日、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分を不服として審査請求をした。

2 争点

請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
請求人の行為は、次のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。 請求人には、次のとおり、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない。
  • (1) 請求人は、1G社の担当者から本件申告済保険金のほかに本件死亡保険金があるとの説明を受け、また、2自身で本件死亡保険金の支払請求手続を行い、さらに、3その支払通知書のデータをスキャンしてパソコンに保存している。加えて、4請求人の妻が、本件相続税の申告に係る相続財産の一覧表を作成するに当たり、ほかの入金とは桁違いに多額の入金である本件死亡保険金の振込みの記載のある通帳を確認し、当該記載部分に手書きで丸囲みを書き加えて本件死亡保険金の入金事実を認識しているところ、夫である請求人もその事実を認識していたはずであることも踏まえると、請求人が本件申告済保険金のほかに本件死亡保険金も本件相続税の課税財産として申告する必要があることを認識していたといえる。
     請求人は、申告すべき死亡保険金が1口のみであると誤認した旨主張するが、当該主張は、上記1ないし4の事実に加え、5G社の担当者から本件申告済保険金とは別の生命保険があると聞いて、その日のうちに保険金請求手続についての問合せをしていること及び6請求人が受け取った死亡保険金が2口のみであり、本件死亡保険金の金額が本件被相続人の財産の価額からみて多額であることからすると、請求人が主張するような誤認があったとは認められない。
  • (2) 請求人は、上記のとおり死亡保険金が2口あると認識していたにもかかわらず、本件死亡保険金をあえて申告していないから、過少申告の意図が認められるところ、さらに、本件申告書提出後の調査において、本件死亡保険金の支払通知書等を提示されるまで本件調査担当職員に本件死亡保険金の存在を伝えず、また、自身がその支払請求手続を行ったことを繰り返し否定していたことからしても、当初から財産を過少に申告する意図を有していたといえる。
  • (3) 請求人は、1本件申告書の作成を依頼した税理士法人に対して本件申告書の作成に必要な書類を交付した際に、本件死亡保険金に係る資料を交付せず、また、2遅くともG社の担当者から本件死亡保険金の存在を知らされた平成30年1月22日にはその存在を把握しており、同日から本件申告書の提出日までの間、幾度となく税理士に対し説明する機会があったにもかかわらず説明をせず、さらに、3本件被相続人の財産の取りまとめをしていたHとの間で平成30年6月1日及び同年9月22日に本件相続税の申告手続に係る打合せを行った際にも、Hに本件死亡保険金の存在を伝えず、関係資料の提示もしなかった。かかる一連の行為は、本件各保険金のうち本件死亡保険金のみを本件相続税の申告財産から除外するという請求人の過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たる。
  • (1) 請求人は、現役の大学教授であり、多忙な中、膨大な情報を整理する手段として日頃から仕事や個人的な情報のデータをパソコンに保存していたところ、本件死亡保険金の支払通知書のデータについてもパソコンに保存はしたものの、本件死亡保険金の存在については記憶から抜け落ちていた。また、請求人は、本件死亡保険金の請求手続を行ってはいるが、これも、多忙な仕事の傍らで行っていたものであり、重要性を認識せず、その存在を失念してしまい、G社の死亡保険金は本件申告済保険金の1口のみであると誤認した。このため、請求人は、本件相続税の申告のために作成された相続財産の一覧表や本件遺産分割協議書の内容が正しいものと認識していた。
     なお、本件死亡保険金の金額の多寡は、請求人に隠蔽又は仮装と評価すべき事実が存在したか否かとは無関係である。
  • (2) 請求人は、本件死亡保険金の存在を誤認又は失念したからこそ、税理士に対し、本件死亡保険金について資料の交付も口頭説明もしなかったのであって、故意に本件死亡保険金の存在を伝えなかったのではない。また、請求人は、本件申告書に本件申告済保険金の記載があったので、上記の誤認等により、全ての課税財産が記載された正当な申告がされたと認識していた。
  • (3) 請求人に本件死亡保険金の存在を隠匿する意思があったのであれば、本件調査担当職員へ説明するために準備していた本件相続税の関係資料の入った段ボール箱から本件死亡保険金の支払通知書を除外して、隠匿したはずであるが、当該通知書は、本件調査において、本件調査担当職員から本件死亡保険金の関係書類の提示を求められ、ほかの質問事項を検討中であった請求人と妻に代わり、本件調査に立ち会った税理士が上記段ボール箱を開いて捜したところ、ほんの数十秒で発見された。
  • (4) 上記(1)ないし(3)のとおり、請求人のした過少申告は誤認によるものであり、当初から財産を過少に申告することを意図したものではなく、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動もない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであるが、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、上記重加算税の賦課要件が満たされると解するのが相当である(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成29年12月○日(本件相続の開始日)、税理士法人L(以下「本件税理士法人」という。)の事務員をしている知人(教え子)のM(以下「本件事務員」という。)に対し、本件被相続人が死亡した旨の連絡をし、本件税理士法人に本件申告書の作成を依頼したい旨伝えた。
  • ロ 請求人、H及び請求人の妻であるNは、本件事務員とともに、平成29年12月14日、請求人の勤務先の研究室において本件相続に関する打合せを行い、本件事務員から、現金、預金、不動産、有価証券等のほか、生命保険金、生命保険契約に関する権利等のみなし相続財産も相続税の課税対象となる旨の説明を受けた。
     請求人は、その際、本件申告済保険金に係る保険契約についてはG社から本件被相続人宛に送付されたお知らせ(はがき)によりその存在を把握していたが、本件死亡保険金に係る保険契約の存在は認識していなかったことから、本件事務員に対し、みなし相続財産については、G社の生命保険金(本件申告済保険金)及びP社の積立年金の合計2口があるが、その他にはない旨の説明をした。
     本件事務員は、請求人及びHに対し、本件相続税の申告手続に必要となる書類の入手を依頼した。
  • ハ 請求人は、平成30年1月ないし3月にかけて、現役の大学教授として、学年末試験とその採点、大学入試業務、海外出張、複数の国内学会への参加等をしていた。
  • ニ 請求人及びHは、平成30年1月22日、請求人の勤務先の研究室において、G社の従業員のR(以下「本件保険担当者」という。)から、本件申告済保険金の請求手続の案内を受けた。
     その際、本件保険担当者は、請求人及びHに対し、本件申告済保険金に係る生命保険契約のほかにも銀行の窓口で販売された商品の契約(本件死亡保険金に係る生命保険契約)があることが判明したが、本件保険担当者において詳細が確認できないため、同人らにおいて内容を確認してほしい旨を伝えた。
     Hは、本件保険担当者が帰った後、上記研究室において、G社のコールセンターに電話で確認をして請求人及びHを保険金受取人とする本件死亡保険金に係る生命保険契約の存在を把握し、当該コールセンターの担当者に本件被相続人が亡くなった旨及び請求人宛に保険金の請求書を送ってほしい旨を伝えた。請求人は、Hと電話を代わり、当該コールセンターの担当者から、本件死亡保険金の請求に係る具体的な手続について案内を受けた。
     G社は、平成30年1月23日、本件死亡保険金の請求書類を請求人宛に送付した。
  • ホ G社は、平成30年1月26日付で、請求人に対し、封書により、本件申告済保険金を同月29日に本件預金口座に振り込む予定である旨を通知し、同日、本件申告済保険金(15,436,988円)が本件預金口座に振り込まれた。
     請求人は、平成30年1月30日、Hに対し、本件申告済保険金が本件預金口座に振り込まれた旨を電子メールにより連絡し、これに対し、Hは、同月31日、了解した旨を電子メールにより返信した。
  • ヘ G社は、本件死亡保険金についての請求手続がされていないことから、平成30年3月20日付で、請求人宛に、本件死亡保険金について早期の請求手続を促す内容の「死亡保険金のご請求について」と題する文書を封書により送付した。
     これを受けて、請求人は、平成30年3月30日、Hとともに本件被相続人が契約していたS信用金庫○○支店の貸金庫の内容を確認するために同支店を訪れた際、Hに本件死亡保険金の「代表受取人による死亡保険(給付)金請求に関する同意書」を交付して、当該同意書に署名を受け、自身も本件死亡保険金の請求書に署名した。
     なお、これらの書面のいずれにも、本件死亡保険金の金額の記載はなかった。
  • ト G社は、平成30年4月3日付で、請求人に対し、「Gからのお知らせ」と題する本件死亡保険金の支払の明細が記載された圧着はがきの通知書(以下「本件通知書」という。)により、同月4日に本件死亡保険金として10,019,500円を支払う予定である旨を通知した。
     本件死亡保険金は、平成30年4月4日、本件預金口座に振り込まれた(上記1の(3)のホ参照)。
     なお、本件死亡保険金の振込みについて、請求人からHに対し、振込みがされた旨の連絡はされていない。
  • チ 請求人は、仕事上の情報や個人的な情報を後に検索可能な状態に整理する手段として、当該各情報に係る資料のパソコンへの保存及び保存済資料への「入力済」のスタンプの押印を習慣として行っていたところ 、平成30年4月9日、本件通知書についても、その圧着はがきの圧着面を開いた上でスキャナーで読み込み、そのデータを自身のパソコンに保存するとともに、本件通知書に「入力済」のスタンプを押した。
  • リ 請求人、H、請求人の妻及び本件事務員は、平成30年6月1日、請求人の勤務先の研究室において本件申告に関する打合せを行い、本件事務員は、その場で本件相続に係る相続財産等に関係する資料を預かった。当該資料の中に、本件申告済保険金に係る通知書(上記ホ参照)及びP社から送付された積立年金に係る通知書は含まれていたが、本件死亡保険金に係る資料(本件通知書等)は含まれていなかった。
  • ヌ 請求人、H、請求人の妻及び本件事務員は、平成30年9月22日、請求人の勤務先の研究室において本件相続税の申告に関する打合せを行い、本件事務員は、同日までに揃った相続財産に関係する資料を預かったが、その中に本件死亡保険金に係る資料は含まれていなかった。また、本件事務員は、同日、Hから、相続財産の一覧表として作成された表が添付された電子メールを受信した。当該一覧表は、被相続人の相続財産のうち、不動産に関する項目をHが、その他の財産に関する項目を請求人の妻が、詳細な金額等を本件事務員が分担して入力し、相互にやり取りをしながら作成したものである。当該一覧表にも、本件申告済保険金及びP社の積立年金の記載はされていたが、本件死亡保険金の記載はされていなかった。
  • ル 本件事務員は、平成30年10月3日、Hからの電子メールにより、請求人との間で遺産分割協議が調った旨の連絡を受け、当該メールに添付されていた更新後の相続財産の一覧表及びこれまでに預かった相続財産に関する資料等に基づき、本件申告書及び本件遺産分割協議書を作成し、平成30年10月4日、本件申告書について本件税理士法人に所属するT税理士(以下「本件税理士」という。)の最終確認を得た。
     本件税理士及び本件事務員は、本件被相続人が契約していた生命保険契約に係る保険金について、請求人又はHに対し、特に本件申告済保険金及びP社の積立年金以外のものがないかどうかなどの確認をしていない。
  • ヲ 請求人及びHは、平成30年10月6日、請求人の勤務先の研究室において、本件事務員が持参した本件遺産分割協議書に署名及び押印するとともに、本件申告書に押印した。
  • ワ 本件調査担当職員は、令和元年11月7日、本件調査のため、請求人の自宅に臨場した。本件調査は、本件税理士の立会いの下、請求人の協力を得て行われ、本件調査担当職員は、同日、臨場先において、本件預金口座に係る預金通帳(以下「本件通帳」という。)を把握するとともに、本件相続税の申告に関係する資料が入った段ボール箱の中から、本件通知書を把握した。

(3) 検討

  • イ 基礎事実及び認定事実によれば、請求人は、本件申告済保険金の支払請求手続の際に本件保険担当者から受けた指摘を契機として、本件申告済保険金に係る生命保険契約とは別に、本件死亡保険金に係る生命保険契約の存在を知ったのであるから(上記(2)のニ)、その時点で、本件死亡保険金の存在を認識したといえ、また、本件事務員から生命保険金も相続税の申告対象となる説明を受け、本件申告済保険金については本件相続税の申告対象に含めていることからすれば(上記(2)のロ、1の(3)のト)、上記のとおり存在を把握した本件死亡保険金が、相続財産として申告が必要なものであることを認識したものと認められる。
  • ロ もっとも、請求人は、上記3の請求人欄の(1)記載のとおり、多忙な中で本件死亡保険金の存在について記憶から抜け落ちていた旨主張するところ、上記のとおり、1請求人及びHは、本件被相続人の死亡後、本件保険担当者からの指摘を受けるまでは、本件死亡保険金に係る生命保険契約が締結されていた事実すら知らず、当初はG社の生命保険契約に係る申告すべき保険金は本件申告済保険金のみであると誤認していたこと(上記(2)のロ)に加えて、2本件各保険金の支払請求手続をした時期は、請求人が学年末試験や入試業務への対応、海外出張及び複数の国内学会への参加をしていた時期と重なっており、G社から送付された本件死亡保険金の請求書類を請求人が約2か月間そのまま放置していることからしても(上記(2)のハ、ニ及びヘ)、本件各保険金の請求手続は、請求人が仕事で多忙な中でその合間に行われたものといえること、また、3その後、G社から促されて請求人が本件死亡保険金の支払請求書を送付したことにより、G社から本件死亡保険金が本件預金口座に振り込まれているが、本件申告済保険金の振込みの場合と異なり、その旨をHに連絡しておらず、本件通帳の残高の確認を請求人自身がしていない可能性がある上、その通知が、本件申告済保険金については封書でされたのに対し、本件死亡保険金については圧着はがきによりされており(上記(2)のヘ及びト)、本件申告済保険金と異なってやや簡易な方法で通知がされていることも考慮すると、本件死亡保険金の存在について、請求人が主張するような誤認や失念が生じた可能性がないとはいえない。さらに、4請求人は本件通知書のデータをパソコンに保存しているものの、この作業は仕事上又は個人的な情報について日常的に行っていたものであり(上記(2)のチ)、本件通知書のみ特別に行ったものではないことからすると、本件通知書のデータを保存した事実をもって、直ちに請求人が本件通知書の内容を十分に確認した上で本件申告済保険金とは別に申告が必要な保険金があるとの正しい認識を持ち続けていたはずだと断定することもできない。そうすると、請求人が、上記のように本件死亡保険金について、その存在及び申告が必要な相続財産であることを一旦認識したものの、本件申告までの間に、本件死亡保険金の存在とこれについても申告が必要であることを誤認又は失念した可能性を直ちに否定することはできないというべきである。
  • ハ さらに、上記(2)のリないしルのとおり、本件事務員や本件税理士とのやり取りの経過を見ても、請求人と本件事務員との間において、本件申告済保険金以外の生命保険金の有無が殊更に問題とされていたような事情は認められず、また、本件通帳及び本件通知書は、その後も破棄されることなく請求人によって保管され、本件調査における実地調査の初日に、これらの資料が特段の支障なく本件調査担当職員に提示された事実に照らしても(上記(2)のワ)、請求人が当初から本件死亡保険金をあえて申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたともいえない。
  • ニ 以上のとおり、本件死亡保険金の申告漏れに関し、請求人が当初から本件相続税の課税財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたということはできず、また、当審判所の調査によっても、その他、請求人に隠蔽又は仮装と評価すべき行為があったとは認められない。
     したがって、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(3)のとおり、本件死亡保険金に関して、請求人が本件相続税の申告に当たり本件税理士法人若しくは本件税理士又はHに対し秘匿行為を行ったことからすると、請求人は、当初から本件相続税の課税財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認められる旨主張するが、請求人がそもそも本件税理士等とのやり取りの際に、本件死亡保険金が存在しこれについて申告が必要であることを正しく認識していなかった可能性を否定できず、また、その後の行為からしても、当初から本件相続税の課税財産を過少に申告することを意図して上記特段の行動をしたと認めることができないことは、上記(3)のとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。
 また、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、請求人の妻が本件死亡保険金の振込みの記載のある本件通帳を確認し、当該記載部分に手書きで丸囲みを書き加えていることから、夫である請求人も、この入金事実を認識していたはずであると主張するが、妻の認識内容を請求人も認識したものと直ちに認めることはできない上、請求人の妻が、本件通帳の本件申告済保険金の振込部分には丸囲みをしていないことから、上記丸囲みの記載は、本件申告済保険金の入金と誤認してされた可能性も否定できず、いずれにしても原処分庁の主張には理由がない。
 さらに、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人が、本件調査において、本件通知書等を提示されるまで本件調査担当職員に本件死亡保険金の存在を伝えず、本件死亡保険金の支払請求をした事実も否定していたとして、これらを当初から過少申告の意図を有していたことの根拠として主張する。しかしながら、請求人が、本件死亡保険金が存在しこれについて申告が必要であることを正しく認識していなかった可能性を否定できないことは上記のとおりであるところ、その誤った認識を前提とすれば、原処分庁が指摘する請求人の言動はこれと整合するものであるから、これをもって過少申告の意図を有していたとはいえない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

以上のとおり、本件申告について、請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められず、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。
 他方、本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上のことから、本件賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については違法であるから、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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