(令和3年3月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等の修正申告を行ったところ、原処分庁が、請求人から所得税等の確定申告書作成の依頼を受けた第三者が事実を仮装して確定申告書を提出し、当該第三者の行為は請求人の行為と同視できるとして、請求人に対して重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該確定申告書は上記第三者が独断で作成したものであり、請求人の行為と同視できないなどとして、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成27年から、F社(以下「本件法人」という。)が経営するキャバクラ店「G」(以下「本件店舗」という。)において、ホステス業を営んでいた。請求人は、本件法人からホステス業に係る報酬を受領しており、本件法人は、請求人から当該報酬に係る所得税及び復興特別所得税(以下、併せて「所得税等」という。)を源泉徴収していた。
  • ロ 請求人は、平成28年分の所得税等の確定申告書については、本件店舗の客であった税理士事務所の事務員にその作成及び提出を依頼し、同事務所所属の税理士は、請求人の事業所得に係る収入金額を○○○○円、必要経費の額を3,397,935円、所得税等の還付金の額に相当する税額を○○○○円とする所得税等の確定申告書を作成し、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
  • ハ 請求人は、平成29年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出について、本件店舗の常連客であったHに依頼することとし、平成30年2月8日、Hに対し、平成28年分の所得税等の確定申告書の控え、「確定申告書チェックリスト」と題する書類(以下「本件チェックリスト」という。)、平成29年分の領収書類及び本件法人作成の平成29年分の「ホステス報酬明細書」と題する書面を手交し、確定申告書の作成及び提出に係る費用として27,000円を現金で支払った。
     また、Hは、上記確定申告書の作成及び提出に係る費用27,000円につき、「J」名義の領収書(以下「本件領収書」という。)を作成し、その作成年月日を平成29年12月25日と記載した。
     請求人は、後日、Hに対し、本件法人作成の「平成29年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(支払金額○○○○円、源泉徴収税額○○○○円と各記載されたもの。以下「本件平成29年分真正支払調書」という。)を渡した。
  • ニ 請求人は、平成29年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限までに原処分庁に提出しなかった。
  • ホ 請求人は、平成30年4月下旬になっても所得税等の還付金が振り込まれなかったことから、同年5月、請求人の平成29年分の所得税等の確定申告書が提出されているかを原処分庁に確認したところ、未提出である旨の回答があったため、Hに対し、同申告書の提出について確認した。
  • ヘ Hは、請求人に係る本件法人名義の虚偽の内容の「平成29年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(支払金額○○○○円、源泉徴収税額○○○○円と各記載したもの。以下「本件平成29年分虚偽支払調書」という。)を作成の上、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成29年分の所得税等の確定申告書(以下「本件平成29年分申告書」という。)及び平成29年分所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件平成29年分決算書」という。)を作成し、平成30年5月10日、本件平成29年分虚偽支払調書を添付して、本件平成29年分申告書及び本件平成29年分決算書を原処分庁に提出した。また、Hは、請求人に対し、本件平成29年分申告書の控えの画像データを送信した。
  • ト 請求人は、平成30年6月5日、本件平成29年分申告書が法定申告期限内に提出されなかったにもかかわらず、事業所得の金額の計算上、青色申告特別控除額を650,000円と記載していたことから、同控除額を100,000円として、別表1の「修正申告(1回目)」欄のとおり記載した平成29年分の所得税等の修正申告書を提出した。
  • チ 請求人は、平成30年8月23日頃、Hから、平成28年分の所得税等の確定申告書の控え、本件チェックリスト、平成29年分のホステス報酬明細書及び本件平成29年分真正支払調書の返却を受けた。
  • リ 請求人は、平成31年1月下旬、Hに対し、平成30年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出を依頼し、平成30年分の領収書類、本件法人作成の「平成30年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(支払金額○○○○円、源泉徴収税額○○○○円と各記載されたもの。以下「本件平成30年分真正支払調書」といい、本件平成29年分真正支払調書と併せて「本件各真正支払調書」という。)及び平成30年分の「ホステス報酬明細書」と題する書面を手交し、確定申告書の作成及び提出に係る費用として32,400円を現金で支払った。なお、Hは、当該費用につき、同月26日付の「J」名義の領収書を作成した。
  • ヌ Hは、請求人に係る本件法人名義の虚偽の内容の「平成30年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(支払金額○○○○円、源泉徴収税額○○○○円と各記載したもの。以下「本件平成30年分虚偽支払調書」といい、本件平成29年分虚偽支払調書と併せて「本件各虚偽支払調書」という。)を作成の上、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した請求人の平成30年分の所得税等の確定申告書(以下「本件平成30年分申告書」といい、本件平成29年分申告書と併せて「本件各申告書」という。)及び平成30年分所得税青色申告決算書(一般用)(以下、本件平成29年分決算書と併せて「本件各決算書」という。)を作成し、平成31年2月7日、本件平成30年分虚偽支払調書を添付して、本件平成30年分申告書及び上記平成30年分所得税青色申告決算書を原処分庁に提出した。
  • ル 原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、令和元年5月28日、請求人に対する平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)に係る所得税等の調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
  • ヲ 請求人は、令和元年6月14日、Hから、平成30年分の領収書類、本件平成30年分真正支払調書及び平成30年分のホステス報酬明細書の返却を受けた。
  • ワ 請求人は、調査担当職員から修正申告の勧奨を受け、令和元年10月31日、K税理士を税務代理人として、平成29年分の所得税等について、別表1の「修正申告(2回目)」欄のとおり記載した修正申告書を、平成30年分の所得税等について、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を、それぞれ提出した。
  • カ 原処分庁は、令和元年11月29日付で、上記ワの本件各年分の各修正申告書について、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の各賦課決定処分(原処分)をした。
  • ヨ 請求人は、原処分の一部(過少申告加算税相当額を超える部分)について不服があるとして、令和2年1月15日に審査請求をした。

2 争点

請求人について、通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装行為があったか否か。

(1) Hは、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の過大計上につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行ったか否か。

(2) 本件各申告書の提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視できるか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 事実の隠蔽又は仮装行為について
 以下のとおり、Hは、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の計上につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行った。
(1) 事実の隠蔽又は仮装行為について
 以下のとおり、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の計上につき、事実の隠蔽又は仮装行為はない。
イ Hは、本件各年分において、請求人からの所得税等の確定申告書の作成依頼を受けて、源泉徴収税額を実際より多く記載した本件各虚偽支払調書を偽造したほか、適当に調整した金額を必要経費に算入した試算表(以下「本件各試算表」という。)をそれぞれ作成した上で、これらに基づいて本件各申告書を作成し、原処分庁に提出した。
 したがって、Hは、必要経費の計上についても、事実の隠蔽又は仮装行為を行ったものである。
 なお、上記の申告書の作成に係るHの申述は、具体的かつ客観的な証拠による裏付けもあり、信用できるから、請求人に係る本件各試算表が存在していたことは明らかである。
イ そもそも、本件各試算表の存在は確認されておらず、その存在の裏付けは、信用できないHの申述のみである。そして、1請求人はHに本件各試算表の作成を指示しておらず、Hは、任意の金額を本件各決算書に記載するだけで、本件各申告書を作成でき、試算表を作成する必要はなかったこと、2Hから返却を受けた領収書の状態等からすれば、Hが当該領収書を参考にした形跡がないこと、3他のホステスの試算表があったとしても、請求人の試算表があるとはいえないこと、4Hの使用していたパソコンは、試算表がなくても青色申告決算書を作成できることからしても、Hが本件各試算表を作成し、それに基づいて本件各申告書が提出されたということはできない。
ロ 何ら根拠のない金額を必要経費として記載した本件各試算表を作成した上で、それを基に作成した本件各決算書及び本件各申告書を提出した本件は、請求人の主張する「過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない」場合には該当しない。 ロ 仮に本件各試算表が作成されていたとしても、Hは、請求人に対して必要経費の聞き取りを行っておらず、本件各試算表に計上した金額は、何ら根拠のない金額である。このような場合は、公表裁決にあるように、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない。
 そうすると、必要経費の計上について、隠蔽又は仮装行為はないというべきである。
(2) Hの行為と請求人の行為との同視について
 納税者は、他人に申告を委任する場合に、誠実に受任者を選任し、適法に申告するように受任者を監視・監督すべきところ、以下のとおり、請求人はこれを怠ったといえるから、Hの行為は、請求人の行為と同視することができる。
(2) Hの行為と請求人の行為との同視について
 以下のとおり、Hの行為は、請求人の行為と同視することができない。
イ 請求人は、Hから自身に委任すれば所得税等の還付金の額が多くなる旨の発言を聞いており、いかなる手段によるかを問わず、自らが受領する所得税等の還付金が増加することのみを期待して、税理士の資格を有していないHに対し、申告手続を包括的に委任した。
 なお、Hの言動等からしても、Hが税理士であることを信じるに足りる状況は見当たらない。
イ 請求人は、従前、本件店舗の客であった税理士事務所の事務員を介して確定申告を行っていたところ、同じく本件店舗の客であったHから、平成28年分の所得税等の還付金が少なすぎる、前の税理士は仕事ができないなどと言われて申告手続の委任を勧誘され、税理士業務ができるような名刺を見せられるなどしたことから、Hを税理士と信じて本件各申告書の作成及び提出を依頼したもので、Hに対しては、適正に申告するように指示していた。
ロ 請求人は、本件領収書の日付欄の改ざんを黙認し、生活費等も経費に算入する旨のHの甘言に乗って事業に全く関係のない支払や他人名義の支払に係る領収書をHに手渡すなど、Hが隠蔽又は仮装行為により所得税等の還付金を増やす可能性を予想し得ただけでなく、自らそれに沿う行動をしていた。
 また、請求人は、本件各申告書の内容を提出前に確認せず、提出後も、収入金額がさほど増加していないにもかかわらず平成28年分よりも○○○○円程度増加した所得税等の還付金を受領するなど、本件平成29年分申告書に不自然な点があったにもかかわらず、Hに当該申告書の控えの返却すら求めず、更には、多額の所得税等の還付金を得るために、本件平成30年分申告書についてもHに作成及び提出を依頼した。
 このように、請求人は、Hが隠蔽又は仮装行為により本件各申告書を提出することを了知し、又は容易に了知することができたにもかかわらず、その提出を黙認し、提出後においても、本件各申告書の内容の是正を怠った。
ロ 請求人は、平成30年2月8日、Hと面談した際に期限内申告を指示するなど、Hを適切に管理監督していた。
 しかし、Hは、税理士の資格がないことを隠すため、請求人に申告内容の確認を求めることなく、本件各申告書を原処分庁に提出し、本件各虚偽支払調書を添付した本件各申告書の控えやHに預けた本件各真正支払調書等を直ちに返却しなかったことから、請求人は、本件各虚偽支払調書の添付の事実を含めて本件各申告書の内容を確認できなかったのであり、決して看過したのではないし、請求人は、上記イのとおり、Hを税理士と信じていたことから、Hがこれまでの税理士以上に頑張ってくれたために従前よりも多くの所得税等の還付金を受領できたと考えたのであり、虚偽の申告を黙認していたわけではない。
 また、本件領収書に記載の金額が本件平成29年分決算書に必要経費として計上されていたかは確認できないから、本件領収書の作成年月日の改ざん行為をもって、請求人がHの隠蔽又は仮装行為を予想できたとはいえない。
 さらに、請求人は、経費の領収書について、Hから、仕事に関する領収書を集めるように言われたものであり、事業に全く関係のない支払や他人名義の支払に係る領収書でもよいと聞いたことはない。なお、家事費の領収書は紛れ込んだかもしれないが、平成29年分の領収書は所在不明で、平成30年分の領収書はHによって他の事業者の領収書が混入された可能性が高いのであって、請求人がHの発言に沿って、上記のような関係のない領収書を提出した事実はない。
ハ 本件各申告書の提出により利益を享受したのは、所得税等の還付金を多額に受領した請求人である。他方、Hには、請求人の要望もないままに虚偽の支払調書の作成を含めた一連の行為により本件各申告書を提出する合理的な理由は存在せず、自己の利益実現のみを目的としていたとは認められないし、仮にそうであったとしても、請求人がHの監督等を怠った事実に変わりはない。
 また、Hは、請求人に対して本件平成29年分申告書の控えの画像データを送信していることからも、本件各申告書の内容を請求人に秘匿する意図はうかがえず、請求人を欺き、請求人に内緒で申告手続を行ったとはいえない。
ハ Hは、自己の利益実現のみを目的として、上記ロのとおり、請求人を欺き、請求人に内緒で悪質な偽造行為を行ったものであり、このような特別な事情がある場合において、責任を負うべきはHであり、被害者である請求人に過重な責任を強いるべきではない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。
  • ロ また、通則法第68条第1項は、「納税者が…隠蔽し、又は仮装し」と規定し、隠蔽、仮装行為の主体を納税者としているものの、納税者が第三者にその納税申告を委任し、その受任者が隠蔽、仮装行為を行った場合であっても、上記の重加算税制度の趣旨及び目的からすれば、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、重加算税を賦課することができるというべきである。
     すなわち、申告納税制度の下においては、納税者は、納税申告を第三者に委任したからといって、自身の適法に申告する義務を免れるものではなく、適切に受任者を選任し、適法に申告するように受任者を監督して、自己の申告に遺漏がないようにすべきものである。そして、納税者が、これらを怠って、当該受任者が隠蔽、仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は認識することができ、その是正の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠蔽、仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされた場合は、特段の事情がない限り、当該受任者の行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人のHへの確定申告書作成依頼の経緯等
    • (イ) 請求人は、上記1の(3)のロのとおり、平成28年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出については、税理士に依頼していたが、平成29年分の所得税等の確定申告については、本件店舗の常連客であったHから、自身に確定申告書の作成を依頼すれば、領収書類を受け取った分だけ経費を計算し、平成28年分より納める税金が安くなる、申告書の作成報酬も安いなどと言われたことから、同(3)のハのとおり、平成29年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出をHに依頼することとした。
    • (ロ) 請求人は、Hから、上記(イ)のとおり、受け取った分だけ経費にするとして、多くの領収書類を渡すように指示を受け、上記1の(3)のハのとおり、平成30年2月8日、Hと喫茶店で面会した際、Hに対し、本件チェックリスト等とともに、Hの上記指示に沿って、多数の領収書類を渡した。また、請求人は、同ハのとおり、同日、確定申告書の作成及び提出に係る費用を支払って、Hから「J」名義の本件領収書を受け取った際、Hから、本件領収書の作成年月日を平成29年12月25日とした理由について、領収日付を平成29年中とすることによって同年分の必要経費として計上することができる旨の説明を受けた。
       請求人は、後日、Hに対し、本件平成29年分真正支払調書を渡した。
    • (ハ) Hは、法定申告期限である平成30年3月15日までに、請求人の平成29年分の所得税等の確定申告書を提出しなかったところ、請求人は、上記1の(3)のホのとおり、還付金が振り込まれなかったことから、原処分庁に確認して、申告書が提出されていないことを知り、平成30年5月になって初めて、Hに、その旨を確認した。そして、Hは、同(3)のヘのとおり、同月10日、本件平成29年分虚偽支払調書を添付して、本件平成29年分申告書等を原処分庁に提出したが、請求人は、事前に当該申告書等の内容を確認することはなく、申告書等の提出後に、Hから当該申告書の控えの画像データを受信した。
    • (ニ) 請求人は、本件平成29年分申告書の提出によって受領した還付金が、税理士に作成を依頼した平成28年分の所得税等の確定申告書の提出によって受領した還付金と比べて○○○○円程度多かったことから、平成30年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出についても、引き続きHに依頼することとした。
    • (ホ) そこで、請求人は、上記1の(3)のリのとおり、平成31年1月下旬頃、Hに対し、本件平成30年分真正支払調書等とともに、上記(ロ)と同様に、Hの指示に沿って、多数の領収書類を渡し、確定申告書の作成及び提出に係る費用を支払って、「J」名義の領収書を受け取った。
    • (ヘ) Hは、上記1の(3)のヌのとおり、平成31年2月7日、本件平成30年分虚偽支払調書を添付して、本件平成30年分申告書等を原処分庁に提出したが、請求人は、当該申告書等についても、その内容を事前に確認することはなかった。なお、本件各虚偽支払調書には、いずれにも請求人の名前の「○○」の字が「○」と誤って記載されていた。そして、請求人は、本件平成30年分申告書の提出により、平成28年分よりも○○○○円程度多い還付金を受領した。
    • (ト) 請求人は、上記1の(3)のヲのとおり、本件調査開始後の令和元年6月14日、Hから、平成30年分の領収書類等の返却を受けたところ、その中には、事業との関連が不明なもののみならず、支払者が請求人でないものや、事業用ではないことが明らかなもの(旅行代金やテーマパークでの支払、ファーストフード店等での飲食費、日用品や請求人の子の学校関連の支払等に係るもの)が多数含まれていた。
    • (チ) 請求人がHから示された名刺には、Hの肩書として、「J」の「所長」と記載され、同事務所の業務として、「起業支援・会計記帳・就労ビザ書類代行・経営指導・販売促進企画」と付記されているのみで、Hが税理士であることを示す記載も、税理士業務を行っていることを示す記載も、全くなかった。さらに、Hは、占い師の肩書の名刺も使用していたが、当該名刺にも、税理士業務に関する記載は全くなかった。
       また、請求人がHから受け取った本件領収書にも、作成者として「J」と記載されているのみで、税理士業務に関する記載は全くなかった。
  • ロ Hによるホステスらの確定申告書等の作成状況等
    • (イ) Hは、平成29年末頃、帳簿や試算表の作成などの記帳代行業を営むLと相談し、キャバクラ店に在籍するホステスらの歓心を得るため、税理士の資格を有さず、税務の専門知識もなかったものの、安い報酬で還付金を多くすると触れ込んで、請求人を含む複数のホステスから、所得税等の確定申告書の作成及び提出の依頼を受けた。もっとも、Hは、当初は、従前よりLが記帳代行した帳簿や試算表を渡して所得税等の確定申告書の作成を依頼していた税理士に、Hが作成した試算表や確定申告書を渡してその内容を確認してもらい、当該申告書を、同税理士に署名押印をしてもらった上で、税務署に提出することを予定していた。
       しかし、その後、Hは、請求人とは異なる一人目のホステスの試算表及び確定申告書を作成した時点で、上記税理士から上記の確定申告書の内容確認等を断られたため、税理士の関与を経ないまま、請求人を含むホステスらの確定申告書を税務署に提出することとした。
    • (ロ) Hは、ホステスの所得税等の確定申告書の作成について、1各ホステスから受領した本件法人作成の「ホステス報酬明細書」と題する書類及び「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(支払調書)により、収入金額及び源泉徴収税額を把握し、2各ホステスに「確定申告チェックリスト」と題する書類を作成させて、その住所、氏名、地代家賃、所得控除などを把握し、3各ホステスにあらゆる領収書類を集めて渡すように指示してこれを受領し、4上記1から3までの資料を集計しつつも、実際に支払のない経費も更に計上するなどして、パソコンで試算表(表計算ソフトに売上や各経費の項目ごとの金額を入力して一覧表にしたもの。)を作成し、5上記1の支払調書に記載された源泉徴収税額よりも過大な金額を記載した虚偽の支払調書を作成し、6上記2の「確定申告チェックリスト」、上記4の試算表及び上記5の虚偽の支払調書に基づいて、確定申告書や決算書を作成する、という手順で行っていた。
    • (ハ) Hは、請求人の確定申告についても、請求人を喜ばせるため、請求人が得る所得税等の還付金を増加させるべく、基本的に、上記(ロ)と同様の手順で、本件各申告書及び本件各決算書を作成し、税理士の関与を経ないまま、原処分庁に提出した。
       なお、Hは、本件各申告書に係る試算表(本件各試算表)もパソコンで作成したが、本件各申告書の作成後には、もはや必要がないと考え、そのデータを削除し、また、これを紙に出力したものも保管せず、請求人を含めた他者に見せることもなかった。

(3) 検討

  • イ Hの隠蔽又は仮装行為について
    • (イ) 本件各虚偽支払調書の作成について
       Hは、上記1の(3)のヘ及びヌ並びに上記(2)のロのとおり、過大な源泉徴収税額を記載した本件各虚偽支払調書を作成した上で、これに基づいて本件各申告書を作成し、本件各申告書に本件各虚偽支払調書を添付して原処分庁に提出しており、この本件各虚偽支払調書の作成行為は、過少申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装行為に該当する。
    • (ロ) 必要経費の過大計上について(争点の(1))
       まず、上記1の(3)のロ、ハ及びリからすると、平成28年分よりも本件各年分の方が請求人の事業所得の収入金額が減少していると認められるにもかかわらず、税理士が作成した請求人の平成28年分の所得税等の確定申告書よりも本件各申告書の方が必要経費の金額が1,500,000円以上も多額となっている一方、本件各年分において、必要経費が増大するような特別な事情があったことをうかがわせる証拠はなく、請求人自身、本件調査を受けて、上記1の(3)のワのとおり、各修正申告をしたことからすると、本件各申告書及び本件各決算書に記載の必要経費の金額が過大であったことは優に認められる。
       そして、本件各試算表は、現時点では存在しないものの(上記(2)のロの(ハ))、Hは、同ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件各年分において、複数のホステスにつき、同(ロ)の1から6の手順で源泉徴収税額及び必要経費を過大計上して、不正に還付金の額を増加させた確定申告書を作成しており、請求人についても、その還付金の額を不正に増加させるべく、同様の手順で、本件各試算表を作成の上、本件各申告書及び本件各決算書を作成して原処分庁に提出したと認められるから(同ロの(ハ)。なお、Hは、本件調査において、請求人も含むホステスらの確定申告書の作成につき、同ロの(ロ)の1から6の手順で行った旨申述したところ、当該申述は、たまたま消去されずに残存していた請求人以外のホステスに係る試算表の内容(原処分関係資料)のほか、上記1の(3)のハ及びリのとおりの請求人とHとのやりとりや本件各虚偽支払調書の作成状況とも整合するものであり、請求人のみ異なる手順をとる事情もうかがわれないことからすると、信用することができるものである。)、本件各試算表は、本件各申告書及び本件各決算書と同様に、架空の過大な必要経費の額が記載され、事実がわい曲されたものであったと認められる。
       しかしながら、上記(1)のイのとおり、重加算税を課するためには、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在する必要があるところ、上記(2)のロの(ハ)のとおり、Hは、本件各試算表を使用して本件各決算書及び本件各申告書を作成した後には、本件各試算表を保存しておくことなく、不要なものとしてそのデータを削除しており、また、請求人を含む他者に見せることもなかったものである。なお、同ロの(イ)のとおり、Hは、当初は税理士にホステスに係る試算表を渡す予定であったことは認められるものの、一人目の試算表等を作成した時点で当該税理士から早々に断られており、それより前に、請求人に係る平成29年分の試算表が作成されていたことを認めるに足りる証拠はなく、さらに、平成30年分の試算表については、そもそも税理士への提示が予定されていなかったことは明らかであり、少なくとも、請求人に係る本件各試算表については、税理士等他者への提示や保存が予定されていたものとは認められない。そうすると、本件各試算表は、H自身が本件各申告書を作成するためだけに一時的に利用した補助資料の域を出るものではないというほかなく、本件各試算表の作成が、本件各申告書の作成及び提出とは別の行為に該当すると認めることは困難である。
       以上からすると、本件試算表における必要経費の過大計上は、過少申告行為である本件各申告書の作成及び提出行為とは別の行為とはいえず、よって、Hが、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の計上につき、過少申告行為そのものとは別に、事実の隠蔽又は仮装と評価すべき行為を行ったとはいえない。
    • (ハ) 原処分庁の主張について
       原処分庁は、Hは、何ら根拠のない金額を必要経費として記載した本件各試算表を作成した上で、それを基に作成した本件各決算書及び本件各申告書を提出したから、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の計上につき事実の隠蔽又は仮装を行ったといえ、このことは、請求人の主張する「過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない」場合には該当しない旨主張する。
       しかしながら、本件各試算表の作成行為が過少申告行為そのものとは別の行為とはいえないことは、上記(ロ)のとおりであって、これを覆すに足りる証拠はない。そして、本件全証拠によっても、H又は請求人に、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったと認めるに足りる証拠もないから、原処分庁の主張は採用することができない。
  • ロ 本件各申告書の提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視できるか否かについて(争点の(2))
    • (イ) 上記(1)のロで述べたところに従い、Hの上記イの(イ)の行為を請求人の行為と同視することができるかにつき、以下検討する。
       この点、まず、請求人は、税理士資格を有しないHに対し、本件各申告書の作成及び提出を委任したものである。そして、請求人は、Hが税理士と信じたと主張し、その根拠として、Hから税理士業務ができるような名刺を見せられたと指摘するところ、上記(2)のイの(チ)のとおり、Hの名刺やHが渡した本件領収書にすら、Hが税理士であることや税理士業務を行っていることを示す記載は全くなく、その他、本件全証拠によっても、本件各申告書の提出前の時期に、Hが税理士であると信じるに足りる事情があったことはうかがわれない。
       また、上記(2)のイの(イ)のとおり、Hは、請求人の依頼を受けるに際し、安い報酬で領収書を受け取った分だけ経費を計算すると述べるなど、一般的な税理士であればしないような言動をしており、さらに、請求人は、同(2)のイの(ロ)、(ホ)及び(ト)からすると、このようなHの指示に沿って、明らかに事業とは関連性のない領収書類も含めてHに渡したと認められる(なお、Hが上記発言をしたこと及び請求人がこのような領収書類を渡したことは、本件調査において、請求人、H及びLが一致してHが上記趣旨の発言をした旨申述しており、これらの申述の信用性に疑義を生じさせる具体的事情はうかがわれないこと、また、同(2)のイの(ト)のとおり、残存している平成30年分の請求人の領収書だけでも、旅行代金やテーマパークでの支払、ファーストフード店等での飲食費、日用品や請求人の子の学校関連の支払など明らかに事業と関連性のないものが多数含まれており、これらの領収書類の全てが、請求人がHに渡したものではないと認めるに足りる証拠はないことから、上記のとおり認定することができる。)ほか、請求人は、同イの(ロ)のとおり、その面前で、Hが本件領収書の作成年月日を偽って事実を仮装したことを確認し、Hから、このように事実を仮装することで本件領収書に記載の金額を平成29年分の必要経費とすることができる旨の説明を受けたにもかかわらず、これを黙認したものである。
       これらのことからすると、請求人は、仮にHが税理士であると信じたとしても、通常の注意を払えば、Hが税理士の資格を有しないことを容易に認識することができたというべきであり、本件各申告書作成の受任者を誠実に選定せず、かつ、Hが、請求人の確定申告につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行うことを認識し、又は認識することができたものと認められる。
       加えて、上記(2)のイの(ハ)、(ホ)及び(ヘ)のとおり、請求人は、平成29年分の法定申告期限を大幅に徒過した平成30年5月まで、Hに対して申告状況を確認せず、また、Hが法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことが判明してからも、申告書の作成及び提出をHに委任したままにした上、事前に申告書の内容を確認せず、さらに、平成30年分の確定申告についても、上記のような平成29年分の確定申告時の状況がありながらも、Hに申告書の作成と提出を再び依頼し、事前に申告書の内容を確認しなかった。
       以上からすると、請求人は、適法な申告がされるようにHを適切に監督せず、かつ、是正の措置を講ずることができたにもかかわらず、請求人においてこれを防止せずに隠蔽、仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたものと認められる。
       そして、本件全証拠によっても、本件各申告書の作成及び提出に係るHの行為を、請求人の行為と同視することが相当でないとする特段の事情は認められない。
       したがって、本件各申告書の作成及び提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視することができる。
    • (ロ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、Hを税理士と信じており、その上で、適切に管理監督していたものの、本件各申告書の内容を確認できなかったのであり、Hによる虚偽の申告を看過したのではないし、また、本件領収書の作成年月日の改ざん行為をもって請求人がHの隠蔽又は仮装行為を予想できたとはいえず、さらに、Hから事業に全く関係のない支払や他人名義の支払に係る領収書でもよいと聞いたこともなく、そのような領収書を提出した事実もない旨主張する。
         しかしながら、請求人においてHが税理士の資格を有しないことを容易に認識することができ、請求人が納税申告を委任する者として、受任者を適切に選定していないことは、上記(イ)のとおりである。また、請求人が、適法に申告するようにHを適切に監督していないことも、上記(イ)のとおりであり、請求人が本件各申告書の内容を事前に確認することができないような状況にあったと認めるに足りる証拠もない。
         そして、Hが請求人に対して領収書を提出した分だけ経費も計算すると述べたと認められるのは上記(2)のイの(イ)及び上記(イ)のとおりであって、現に、請求人がHから返却を受けた平成30年分の領収書類には、上記(2)のイの(ト)のとおり、事業用ではないことが明らかなものが含まれているところ、請求人がHに渡す領収書類を適切に選別したというのであれば、このような領収書類が誤って混入するとは通常は考えがたいことからしても、領収書類の提出に係る請求人の上記主張は、前記判断を左右しない。
         したがって、請求人の主張は採用することができない。
      • B 請求人は、Hは自己の利益実現のみを目的として請求人を欺き、請求人に内緒で悪質な偽造行為を行ったのであるから、このような特別な事情がある場合において責任を負うべきはHであり、被害者である請求人に過重な責任を強いるべきではない旨主張する。
         しかしながら、上記(2)のイの(ニ)及び(ヘ)のとおり、本件各申告書の提出によって、多額の還付金の受領という利益を得たのは、Hではなく請求人である。そして、請求人が本件各年分の確定申告書の作成及び提出を第三者に委任するにつきその受任者の選任及び監督を怠ったことなどから、Hが本件各申告書の作成及び提出をした行為を請求人の行為と同視することができることは、上記(イ)のとおりであるから、請求人は、その責任は免れない。
         したがって、請求人の主張は採用することができない。

(4) 原処分の適法性について

本件各申告書の作成及び提出に係るHの行為は、上記(3)のイの(イ)のとおり、本件各年分の源泉徴収税額の過大計上については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているものの、同(3)のイの(ロ)のとおり、本件各年分の事業所得に係る必要経費の過大計上については、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。そして、同(3)のロのとおり、上記本件各年分の源泉徴収税額の過大計上に係るHの行為は、請求人の行為と同視することができる。
 したがって、本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の各「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 結論

よって、本件審査請求は理由があるから、原処分の一部をそれぞれ取り消すこととする。

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