(令和3年6月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、亡母の相続に係る相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、亡母名義の預貯金口座から出金された現金の一部が請求人以外の共同相続人に預けられていたなどとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該共同相続人に預けられていたとされた現金は、相続税法第9条により当該共同相続人が贈与により取得したとみなすべきであり、また、請求人は、申告漏れとなった財産の存在を知り得る状況にはなかったのであるから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するなどとして当該更正処分の一部の取消し及び当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。また、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、過少申告加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 共同相続人等
     G(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年7月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続に係る共同相続人は、いずれも本件被相続人の子である請求人及びH(以下「相続人H」という。)の2名であった。
  • ロ 本件被相続人名義の各預貯金口座等
     本件被相続人は、本件相続の開始時において、別表1の各預貯金口座(以下、これらの口座を併せて「本件被相続人各口座」という。)を利用しており、平成16年12月22日から本件相続の開始時までの間に、本件被相続人各口座から別表2のとおり、合計〇〇〇〇円の現金が出金されていた。
     また、遅くとも平成24年頃から別表1の順号2の口座からの出金を除き、上記の各出金の手続の大半は、相続人H及び同人の配偶者であるJが行っていた。
  • ハ 相続人H及び同人の家族名義の各預貯金口座等
     相続人H及びJ、いずれも相続人Hの子であるK及びL並びにKの配偶者であるM名義の各預貯金口座には、平成17年1月5日から平成29年6月19日までの間に、別表3のとおり、本件被相続人各口座から出金された現金を原資とする合計62,440,516円が入金された。
     以下、本件被相続人各口座から出金された現金を原資とする別表3の各預貯金口座への入金額の合計62,440,516円を「本件入金額」という。
  • ニ 本件被相続人所有の家屋の所有権移転登記等
    • (イ) 本件被相続人が所有していたa市d町○−○に所在する家屋(以下「本件家屋」という。)は、平成25年7月30日、売買を原因として、本件被相続人からKへ所有権移転登記が行われた。
    • (ロ) 請求人は、平成26年3月10日、本件被相続人の関与税理士として、本件被相続人の平成25年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書を作成し、原処分庁へ提出した。
       上記の申告書では、平成25年分の本件被相続人に係る不動産所得、雑所得(公的年金等)とともに、上記(イ)の本件家屋の売買に係る譲渡所得についても申告されていた。
    • (ハ) 上記(イ)の本件家屋に係る本件被相続人からKへの所有権移転登記は、令和元年12月6日、錯誤を原因として、抹消された。
       なお、上記の錯誤は、上記(イ)の売買について、Jが、本件被相続人の承諾なく行った無効な売買であることを原因とするものであった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 本件相続に係る相続税の申告
    • (イ) 請求人は、平成30年2月9日、別表4の「当初申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税の申告書を原処分庁へ提出した。
       上記の申告書には、別表5の本件被相続人名義の各預貯金口座の取引履歴、平成18年分及び平成19年分の譲渡所得の内訳書並びに「相続税申告に関する報告書」と題する書類が添付されており、当該書類には、要旨、次の内容が記載されていた。
      • A 本件被相続人は、平成18年及び平成19年に土地の譲渡収入があったが、子及び孫への贈与を除いて、譲渡代金の出金先が不明である。
         本件被相続人各口座の通帳、届出印鑑に係る印章の管理及び保管は、別表1の順号2の口座を除き、相続人Hが行っていた。
         また、相続人H及び同人の家族名義の各預貯金口座の入出金が把握できていない。
      • B 本件被相続人各口座から出金された現金は、その時点で相続人Hの現実的支配下に置かれており、判例等を参考にすれば、相続人Hへの貸付金等として処理すべきであるが、金額が確定していないため、本件相続に係る財産とはしていない。
         なお、請求人は、相続人Hへの訴訟を提起する予定であり、金額が確定すれば、修正申告書を提出する予定である。
    • (ロ) 請求人は、平成30年4月24日、別表4の「訂正申告」欄のとおり、本件相続に係る相続税の申告書(上記(イ)の申告書の一部を訂正したもの)を原処分庁へ提出した。
  • ロ 相続人H及び同人の家族名義の各預貯金口座の取引履歴の取得
     請求人は、平成30年5月頃、相続人Hから、別表6のとおり、相続人H、J、K及びLの各預貯金口座の取引履歴並びに相続人Hの子であるN名義の預金通帳の写しを取得した。
     以下、別表6の各預貯金口座を併せて「相続人Hら各口座」という。
  • ハ 原処分
     原処分庁は、請求人に対し、令和2年6月17日付で、1本件被相続人からKへの本件家屋の売買が実際には行われていなかった、2別表2の順号320から順号323までの出金された現金(合計〇〇〇〇円、以下「本件現金」という。)は、本件相続の開始時において費消されることなく、相続人Hの下に存在していた、3本件入金額は、本件被相続人が相続人Hに預けた財産(預け金)であったにもかかわらず、請求人がこれらの財産を申告していなかったと認められるとして、別表4の「更正処分等」欄のとおり、本件相続に係る相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ニ 再調査の請求
     請求人は、令和2年7月9日、本件更正処分の一部に不服があるとして、再調査審理庁に対し、再調査の請求をした。
  • ホ 審査請求
     請求人は、令和2年9月14日、本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • ヘ みなす審査請求
     再調査審理庁は、令和2年9月30日、上記ニの再調査の請求書を通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第2項の規定に基づき、国税不服審判所長へ送付したので、同条第3項の規定により、その送付された日に審査請求がされたものとみなされた。
  • ト 併合審理
     上記ヘの審査請求を上記ホの審査請求と併合審理する。

2 争点

(1) 本件入金額を預け金とした本件更正処分は適法か否か(争点1)。

(2) 請求人に通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件入金額を預け金とした本件更正処分は適法か否か。)について

原処分庁 請求人
本件入金額について、1本件被相続人は、相続人Hが本件被相続人名義の通帳及び印章の管理・保管することを了解していたこと、2本件被相続人が他人に贈与をする際は、その贈与の意思を明確にしていたこと、3本件被相続人は、相続人Hが本件被相続人各口座から出金した現金を使用していたことを知っていたこと、4相続人Hは、本件入金額が本件相続に係る財産になることを強く認識していたことなどからすれば、本件被相続人は、相続人Hへ本件入金額に相当する額を寄託(又は消費寄託)していることとなるから、本件被相続人は、相続人Hに対し、本件入金額に相当する額の金銭の返還請求権(債権)を有していた。
 また、仮に、相続人Hが、本件被相続人の承諾を得ることなく、本件入金額を取得していたとしても、相続人Hは、法律の原因なく本件入金額を利得したこととなるから、本件被相続人は、相続人Hに対し、本件入金額に相当する額の金銭の返還請求権(債権)を有していたこととなる。
 したがって、本件被相続人は、いずれの場合においても、相続人Hに対する本件入金額に相当する額の金銭の返還請求権(債権)を有しているのであるから、本件入金額(に相当する債権)を相続財産とした本件更正処分は適法である。
本件入金額について、相続人Hは本件入金額を自己の生活費等に費消しており、また、本件被相続人と相続人Hとの間に贈与契約が存在しないのであるから、相続人Hは本件入金額を横領したもので、これは民法上、相続人Hの不当利得に当たる。
 そうすると、本件被相続人は、民法上、本件入金額に相当する額の返還請求権(債権)を有していることとなるが、税法上、相続人Hは、経済的利益を享受しているから、不当利得である本件入金額は、税法上は、相続税法第9条のいわゆる「みなし贈与」になる。
 したがって、税法上、預け金(相当額の金銭債権)は相続財産とならず、これを相続財産とした本件更正処分は違法である。

(2) 争点2(請求人に通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるか否か。)について

請求人 原処分庁
次のイからハまでのとおり、請求人は、本件相続に係る財産を把握するため、弁護士を選任し、最大限の努力を行ったにもかかわらず、本件家屋、本件現金及び本件入金額について、過少申告をしたものであるから「正当な理由」がある。 次のイからハまでのとおり、本件家屋、本件現金及び本件入金額を申告しなかったことには、本件相続に係る財産調査が不足していたことに起因するものであるから、「正当な理由」はない。
イ 本件家屋について
 請求人は、本件相続に係る相続税の申告に際し、本件被相続人の固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書を確認したが、本件家屋が本件被相続人名義の資産として証明されていなかった。また、請求人は、相続人Hとは世帯を別にしており、本件家屋の売買が行われていないことを把握することはできなかった。
イ 本件家屋について
 請求人は、本件相続に係る相続税の申告に際し、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、把握していない本件相続に係る相続財産が存在することを容易に推測できたのであるから、請求人は、本件被相続人各口座からの入出金が固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書に証明されていない不動産の取得等に充てられている可能性も含め、本件被相続人各口座及び相続人Hら各口座の入出金などを調査すべきであった。
 また、原処分庁が、相続人H及びJに対し、本件被相続人各口座及び相続人Hら各口座の入出金や本件家屋に係る取引等を質問調査することにより、本件家屋が本件相続に係る財産であることを認定したことからすれば、請求人においても、本件家屋が相続財産であることを把握することは可能であった。
ロ 本件現金について
 本件現金は、本件相続の直前に、本件被相続人各口座から出金されたものであるところ、本件被相続人の生前、別表1の順号2を除く本件被相続人各口座の通帳を相続人Hが管理していた。また、請求人は、本件相続に係る相続税の申告に際し、相続人Hに対して本件被相続人の財産となる現金等の有無について照会したが回答が得られなかったのであり、本件現金の存在を把握することはできなかった。
ロ 本件現金について
 本件現金は、本件被相続人各口座から出金されたもので、請求人は、本件被相続人各口座及び相続人Hら各口座の入出金を調査すれば、本件現金が本件相続に係る財産に含まれることを把握することは可能であった。
ハ 本件入金額について
 請求人は、相続人Hに対し、本件被相続人各口座から出金した現金のうち、相続人H及び同人の家族名義の各預貯金口座に入金した現金があれば、何かしらの申告が必要となる旨説明し、使途を照会したが、相続人Hから回答が得られなかった。
 また、本件入金額は、上記(1)の「請求人」欄のとおり、みなし贈与となるから、「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課資2−264ほか2課共同)の第1の1の(3)のイの「相続税法第51条第2項各号に掲げる事由」に該当する。
ハ 本件入金額について
 本件入金額は、上記ロと同様、本件被相続人各口座から出金され、相続人Hら各口座に入金されたもので、請求人は、それらの各口座を調査すれば、本件入金額が本件相続に係る財産に含まれることを把握することは可能であった。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件入金額を預け金とした本件更正処分は適法か否か。)

  • イ 判断
     本件入金額については、上記1の(3)のハのとおり、本件被相続人各口座から出金された現金が原資であること、本件入金額について、本件被相続人と相続人Hとの間に贈与等、その所有権を本件被相続人から相続人Hに移転する旨の契約が存在しないことについては、原処分庁及び請求人との間に争いはないところ、このような事実関係を前提とすれば、本件入金額の法的な性質にかかわらず、少なくとも本件被相続人は、本件相続の開始時において、相続人Hに対して、本件入金額に相当する額の金銭債権を有していたと認められる。
     したがって、本件入金額を預け金(債権)として課税した本件更正処分は適法である。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件入金額は民法上、相続人Hの不当利得に当たるが、税法上は、相続人Hが経済的利益を享受していたことから、相続税法第9条のいわゆる「みなし贈与」に当たる旨主張する。
     しかし、相続税法第9条は、贈与契約の履行により取得したものとはいえないが、関係する者の間の事情に照らし、実質的にみて、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合に、租税回避行為を防止するため、税負担の公平の見地から、贈与税を課税することとしたもので、贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実がある場合に適用される規定である。
     本件においては、上記イのとおり、本件被相続人は、本件相続の開始時において、相続人Hに対して、本件入金額に相当する額の金銭債権を有していた。これを裏返せば、相続人Hは、本件相続の開始時において、本件被相続人に対して、本件入金額に相当する額の金銭債務を負っていたと認められるから、本件入金額について、実質的に贈与があったのと同様の経済的利益の移転の事実があったとは認められず、相続税法第9条の規定には該当しない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人に通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるか否か。)

  • イ 法令解釈
     過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置と解される。
     この趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件被相続人は、平成21年頃からいわゆる老人ホームに入居しており、上記1の(3)のニの(イ)のKへ譲渡(売却)したとする平成25年には、本件家屋に居住していなかった。
       なお、本件家屋には、平成21年頃からK及びMが居住していた。
    • (ロ) 平成25年の本件家屋の売買に係る所有権移転登記の申請書類である売渡証書には、本件被相続人の氏名の記載と押印があった。
    • (ハ) 請求人は、平成29年11月20日付のP市長が発行した本件被相続人の「固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書」を取得した。
       なお、上記の証明書には、本件家屋の記載はなかった。
    • (ニ) 請求人の子であるQは、本件被相続人から遺贈によりa市d町○−○の土地を取得した。
    • (ホ) 請求人は、別表6の相続人Hら各口座の取引履歴又は預金通帳の写しを、本件相続に係る相続税の申告期限後に相続人Hから入手した。
    • (ヘ) Jは、平成25年の本件家屋の売買代金について、本件被相続人各口座から出金した現金をK名義の預金口座へ入金することにより調達した。
    • (ト) Jは、本件家屋の売買に係る代金決済について、上記(ヘ)で調達した現金をK名義の預金口座から出金し、本件被相続人各口座へ入金することにより行った。
    • (チ) 請求人は、令和元年11月頃、原処分庁所属の調査担当者から上記(ヘ)及び(ト)の各事実について説明を受けた。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件家屋について
      • A 不動産登記には、公信力が認められないものの、一般的には登記簿上の名義人が、当該不動産の所有者と推定することができるところ、本件においては、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、本件相続の開始時、本件家屋の所有者をKとする登記がなされており、しかも、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、請求人が関与税理士として本件家屋の売買に係る譲渡所得の申告を行っていること、また、上記ロの(イ)のとおり、本件被相続人は、平成21年頃から本件家屋に居住しておらず、譲受人であるKが居住しており、かつ、上記ロの(ニ)のとおり、Kと同じく本件被相続人の孫に当たるQも、本件被相続人から土地の遺贈を受けており、本件被相続人が、Kに本件家屋を譲渡することが、特段不自然、不合理とはいえないことなどの事情からすれば、請求人において、殊更に、本件家屋の売買の有効性を疑うべき状況になかったと認められる。
         このような本件家屋に係る相続税の申告以前の状況からみれば、請求人には、本件被相続人とKとの間の本件家屋の売買が有効に成立し、本件家屋の所有権がKに移転したと誤信せざるを得ない事情があったといわざるを得ない。
         このことに加え、上記ロの(ホ)から(チ)までのとおり、本件被相続人各口座からK名義の預金口座を経由して本件被相続人各口座へ資金が還流した事実を請求人が把握し得た時点が、本件相続に係る相続税の申告期限後であったことを併せ考えれば、請求人が本件家屋について申告しなかったことにより本件相続に係る相続税の申告が過少申告となったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷であって、請求人には正当な理由があったと認められる。
      • B 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は、本件被相続人各口座からの入出金が、本件被相続人の固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書に証明されていない不動産の取得等に充てられている可能性も含め、入出金などを調査すべきであった旨、また、原処分庁が、本件被相続人各口座及び相続人Hら各口座の入出金や質問調査を契機として本件相続に係る財産であると認定したことからすれば、請求人も本件家屋が本件相続に係る財産であることを把握することは可能であった旨主張する。
         しかしながら、上記Aのとおり、本件家屋の売買について、特段不自然、不合理な点は認められないのであり、請求人がこれを有効と信じてもやむを得ないことといえる。
         また、上記ロの(ホ)のとおり、請求人が、相続人Hら各口座の取引履歴等を入手したのは、本件相続に係る相続税の申告期限後であり、単に、本件被相続人各口座からの使途不明な出金があったというだけで、本件被相続人の固定資産(補充)課税台帳登録事項証明書において証明もされていない本件家屋に係る、本件相続の開始時から約4年も前に本件被相続人とKとの間で締結された売買契約の有効性について、請求人が、疑念を抱いた上で、その有効性を調査すべきであったとはいえない。
         したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件現金について
      • A 請求人は、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件相続に係る相続税の申告期限までに本件被相続人名義の各預貯金口座の取引履歴を取得し、当該取引履歴から、本件現金を含む出金の事実及びその使途が不明であることを把握していたものと認められる。
         それにもかかわらず、請求人は、本件現金を含む出金された現金の使途について、相続人Hに口頭で数回尋ね、それに対し、相続人Hから本件被相続人のために使った旨の抽象的な返事をされただけで、それ以上、具体的にその使途を追及したり、調査することもなく、本件現金の全額が、本件相続に係る財産に含まれないとして、本件相続に係る相続税の各申告書を提出し、過少申告したものである。
         したがって、上記の過少申告について、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記イのような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。
      • B 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロのとおり、本件現金が、本件相続の直前に、本件被相続人各口座から出金されていたものであり、本件被相続人の生前において、別表1の順号2を除く本件被相続人各口座の通帳を相続人Hが管理していたこと、請求人は、本件相続に係る相続税の申告に際し、相続人Hに対して本件被相続人の財産となる現金等の有無について照会したが回答が得られなかったという事情があるから、本件現金の存在を把握することはできなかった旨主張する。
         しかしながら、請求人の主張する事情とは、結局のところ、共同相続人である相続人Hの行為によって相続財産の範囲が不明確であったため、申告ができなかったとする請求人の主観的な事情にすぎない。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 本件入金額について
      • A 上記(ロ)と同様に、請求人は、本件相続に係る相続税の申告期限までに本件被相続人各口座の取引履歴を取得し、当該取引履歴から本件入金額に相当する額を含む出金の事実及びその使途が不明であることを把握していたものと認められる。
         それにもかかわらず、請求人は、本件入金額を含む出金された現金の使途について、相続人Hに口頭で数回尋ね、それに対し、相続人Hから本件被相続人のために使った旨の抽象的な返事をされただけで、それ以上、具体的にその使途を追及したり、調査することもなく、本件入金額の全額が、本件相続に係る財産に含まれないとして、本件相続に係る相続税の各申告書を提出し、過少申告したものである。
         したがって、上記の過少申告について、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記イのような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。
      • B 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、相続人Hに対し、本件被相続人各口座から出金した現金の使途を照会したものの、相続人Hから回答が得られなかったことから、本件入金額が相続財産に含まれることを把握することはできなかった旨、また、本件入金額がみなし贈与となるから、「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」の第1の1の(3)のイに該当し、正当な理由がある旨主張する。
         しかしながら、上記(ロ)の本件現金と同様、請求人の主張する事情とは、結局のところ、共同相続人である相続人Hの行為によって相続財産の範囲が不明確であったため、申告ができなかったとする請求人の主観的な事情にすぎない。
         また、上記(1)のとおり、本件入金額はみなし贈与に当たらないから、「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」の第1の1の(3)のイに該当しない。
         したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分の適法性

上記(1)のとおり、本件入金額を預け金とした本件更正処分は適法である。
 以上を基に、請求人の本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件更正処分の額と同額となる。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分の適法性

上記(2)のとおり、本件家屋に係る税額については、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものの、他の部分については、本件相続に係る相続税の申告が過少申告になったことについて、請求人に同項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、本件相続に係る相続税の過少申告加算税の額の計算の基礎となる税額は、別表7の「非正当事由部分の額」欄の「過少申告加算税の基礎となる税額」欄のとおり、〇〇〇〇円となる。
 以上を基に、当審判所において、過少申告加算税の額を計算すると、別紙「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「過少申告加算税」欄の「裁決後の額」欄の「加算税の額」欄のとおり、本件賦課決定処分の額を下回るから、その一部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る