(令和3年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて相続税の修正申告を行ったところ、原処分庁が、相続税の申告において相続税の課税価格の計算上債務控除をしていた借入金は存在しない債務であり、あたかも同債務が存在したかのように装って金銭借用証書を作成し、当該債務控除をしたことが事実の仮装行為に該当するとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該仮装行為を行った事実はないとして、当該賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 相続について
     G(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年8月○日に死亡し、同日、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男である請求人と二男であるHの2名である。
  • ロ J社について
     J社(以下「本件法人」という。)は、平成12年1月○日、不動産の売買、賃貸及び管理業務等を目的として設立された、請求人及びHが発行済株式の全てを有する法人税法第2条《定義》第10号に規定される同族会社であり、請求人は、本件法人の設立当初からその代表者を務めている。
  • ハ 本件被相続人及び本件法人による不動産の取得について
     本件被相続人及び本件法人は、平成29年4月1日、a市d町○−○の土地(以下「本件土地」という。)及びその上に存する2棟の建物(家屋番号○○○○及び○○○○の各共同住宅。以下、これら2棟の建物を総称して「本件各建物」という。)を、売買代金47,000,000円(うち、本件土地の代金は43,000,000円、本件各建物の代金は4,000,000円)で買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
     上記の売買代金は、手付金2,000,000円を契約締結と同時に、残代金45,000,000円を平成29年5月9日までに支払うこととされ、当該手付金は、本件被相続人が現金で支払った。
  • ニ 金銭の借用証書等について
    • (イ) 平成29年4月20日付の借用証書等について
      • A 請求人は、平成29年4月12日、K銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から現金6,000,000円を、同月17日、L銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から現金3,600,000円をそれぞれ出金し、各同日、M信用金庫○○部の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「被相続人預金口座」という。)へ入金した。
      • B 平成29年4月20日付で、本件被相続人が請求人から、上記Aの各年月日に6,000,000円及び3,600,000円の合計9,600,000円を借り入れた旨の金銭借用証書(以下「別件証書」という。)が作成された。別件証書には、貸主として請求人の記名、借主として本件被相続人の記名及び押印があり、公証人により平成29年4月20日の確定日付が付されている。
    • (ロ) 平成29年4月27日付の借用証書等について
      • A 本件被相続人及び請求人は、平成29年4月27日付で、本件被相続人が請求人から現金5,000,000円を借り入れた旨の「金銭(一時)借用証書」(以下「本件証書」という。)を作成した。本件証書には、貸主として請求人の記名、借主として本件被相続人の記名及び押印があり、本件被相続人が、平成29年4月27日、上記5,000,000円を一時借り入れた旨の記載がある(以下、本件証書に本件被相続人が借り入れたとして記載された5,000,000円を「本件5,000,000円」という。)。
      • B 本件被相続人及び本件法人は、平成29年4月27日付で、本件法人が本件被相続人から現金5,000,000円を借り入れた旨の金銭借用証書(以下「4月27日付法人借用証書」という。)を作成した(以下、本件法人が借り入れたとする5,000,000円を「本件金員」という。)。4月27日付法人借用証書には、貸主として本件被相続人の記名、借主として本件法人の記名及び社判の押印があり、本件法人が、平成29年4月27日、本件金員を本件各建物の購入費用として借り入れた旨の記載がある。
      • C 請求人は、平成29年4月27日、M信用金庫○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「請求人預金口座」という。)から現金5,000,000円を出金し、同日、同信用金庫○○部の本件法人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「法人預金口座」という。)へ入金した。
  • ホ 本件売買契約に係る残代金の決済について
     本件売買契約に係る残代金45,000,000円は、平成29年5月9日、本件土地部分に相当する額41,000,000円が被相続人預金口座から、本件各建物部分に相当する額4,000,000円が法人預金口座から、いずれも振込みにより支払われた。また、平成29年5月9日付で、本件土地の所有権は本件被相続人に、本件各建物の所有権は本件法人に移転する旨の所有権移転登記がされた。

(4) 審査請求に至る経緯等

  • イ 請求人及びHは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、法定申告期限までに、別表の「期限内申告」欄のとおり記載した本件相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を共同で提出して本件相続税の申告(以下「本件申告」という。)をした。本件申告書には、本件被相続人の債務として、請求人からの借入金14,600,000円(別件証書に係る借入金9,600,000円及び本件5,000,000円の合計)が計上され、当該借入金は請求人が負担する旨の記載があり、別件証書及び本件証書の写しが添付されていた。
     なお、本件申告書第11表の「相続税がかかる財産の明細書」には、4月27日付法人借用証書に係る本件被相続人の本件法人に対する債権の記載はなく、同債権は本件相続税の課税財産に含まれていなかった。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和元年12月18日、本件相続税の調査に基づき、請求人及びHに対し、定期預金の申告漏れ、本件5,000,000円に係る借入金の債務控除の否認及びHが本件被相続人から贈与により取得した現金の加算漏れなどを指摘して本件相続税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)を勧奨した。
     請求人及びHは、令和元年12月18日、当該指摘を受けて本件5,000,000円に係る借入金を債務控除額から除くなどして、別表の「修正申告」欄のとおり記載した本件相続税の修正申告書を共同で提出して本件修正申告をした。
  • ハ 原処分庁は、令和2年1月28日付で、請求人に対して、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、本件修正申告に基づき納付すべき本件相続税の額のうち、1定期預金の申告漏れ及び本件5,000,000円に係る借入金の債務控除の否認に基づく額については、通則法第68条第1項に規定する隠蔽・仮装行為があったとして重加算税の賦課決定処分を、2Hが本件被相続人から贈与により取得した現金の加算漏れなどに基づく額については、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ行った。
  • ニ 請求人は、令和2年2月3日、上記ハの1の重加算税の賦課決定処分に不服があるとして審査請求をした。
  • ホ 原処分庁は、令和2年2月27日付で、請求人に対して、別表の「変更決定処分」欄のとおり、上記ハの1の重加算税の賦課決定処分のうち定期預金の申告漏れに係る部分について、過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す旨の変更決定処分をした。
  • ヘ 請求人は、令和2年3月3日、審査請求における請求の趣旨について、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求める旨の審査請求書の補正書を提出した。

2 争点

請求人に通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のとおり、請求人は、本件5,000,000円に係る借入金が実際には存在しないにもかかわらず、相続税の債務控除の適用を受けるため、本件被相続人が本件法人に本件金員を貸し付けるために請求人からその原資(本件5,000,000円)を借り入れていたかのように仮装する目的で本件証書を作成した。
 したがって、請求人に通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する事実があった。
  • (1) 以下によれば、本件5,000,000円に係る借入金は存在しない。
    • イ 本件証書記載の作成日において、請求人預金口座から出金された現金5,000,000円は、本件被相続人の預貯金の口座を経由することなく、法人預金口座へ入金されており、請求人から本件被相続人への金銭の交付はない。
    • ロ また、本件被相続人は、本件法人の役員になったことも本件法人に対して出資をしたこともないから、本件被相続人が本件法人に貸付けをする合理的な理由はない上、本件法人に貸付けをするとしても、本件被相続人は当時75,000,000円以上の預貯金を有していたから請求人から借入れをする必要はなかった。
    • ハ さらに、本件法人の平成29年1月1日から同年8月31日までの期間に係る取引の記載がある総勘定元帳においても、本件金員の借入先は請求人として作成された後に、同借入先が本件被相続人へ手書きで訂正されているところ、少なくとも、平成29年8月31日までは、本件法人の会計処理上も、本件法人は、本件被相続人ではなく請求人から本件金員の借入れをしたものとされていたことが分かる。
    • ニ この点、請求人も、本件調査担当職員に対し、本件5,000,000円の借用に本件被相続人は関与せず実際に請求人から本件被相続人への貸付けは行われていない旨及び本件証書の写しを本件申告書に添付することによって存在しない債務の計上を行った旨の申述を行い、当該申述に従った内容の本件修正申告を行っている。
  • (2) 本件証書には、貼付されるべき印紙の貼付がなく、また同時期に請求人と本件被相続人が作成した別件証書には付されている公証人の確定日付印もないことに加えて、本件証書記載の同日付で、同額の借入れについて、その使途の記載を削除した証書(以下「本件証書類似の証書」という。)が別途作成されているなど不合理な点がある。
     このことに、総勘定元帳の記載の訂正が上記(1)のハのとおり平成29年8月31日以降にされ、また、本件法人の平成29年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成29年12月期」という。)の決算書等には本件金員が本件被相続人からの借入れであることを前提とする債務免除益が計上されていることからすれば、本件証書は本件相続の開始日以降に日付を遡って作成されたものといえ、本件証書をもって、本件被相続人に本件5,000,000円に係る借入金があったことの裏付けとはできない。
  • (3) 上記(1)及び(2)のことから、請求人は、本件被相続人に本件5,000,000円に係る借入金が存在せず、本件法人に対して本件金員を貸し付けていたのは請求人であったにもかかわらず、本件被相続人に本件5,000,000円に係る借入金が存在するかのように装って本件証書を作成したといえる。
次のとおり、請求人は、本件被相続人が本件金員を本件法人に貸し付ける原資として請求人から本件5,000,000円を借り入れた事実を基に本件証書を作成したのであり、存在しない債務を実際に存在するかのように仮装していない。
 したがって、請求人に通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する事実はなかった。
  • (1) 以下によれば、本件5,000,000円に係る借入金は存在した。
    • イ 本件金員は、本件法人による本件各建物の購入に充てるため、請求人から本件被相続人に対してその原資(本件5,000,000円)の貸付けがされた後、本件被相続人から本件法人へ貸し付けられたものであり、本件被相続人の預貯金の口座を経由することなく法人預金口座へ入金されたのは、本件各建物の購入に係る決済日が迫っていたため、請求人が直接法人預金口座へ振り込んだことによるものにすぎない。
    • ロ 本件被相続人に預貯金はあったが、現金を確保する必要があったことから銀行からの借入れを予定していたものの、これがとん挫したために、請求人が貸し付けることとなったのである。
    • ハ また、「原処分庁」欄の(1)のハの本件法人の総勘定元帳の手書きによる訂正は、請求人が同元帳の作成を依頼していた外注先の入力間違いを訂正したものにすぎない。
    • ニ さらに、「原処分庁」欄の(1)のニの申述及び本件修正申告は、本件調査担当職員から、請求人預金口座から出金された現金5,000,000円は本件被相続人の預貯金の口座を通過していないので本件被相続人の債務としては認められない旨の指摘を受け、本件被相続人の預貯金の口座を通過していないことは事実であるため、やむを得ないと考えて応じてしまったものであり、誤りである。
  • (2) 本件5,000,000円の貸付けは、一時的に貸し付ける予定で行ったものであり、本件証書は、本件被相続人の了解を得てその貸付けの記録として作成したものである。
  • (3) したがって、存在しない債務を実際に存在するかのように仮装して本件証書を作成したという事実はない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税は、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税を課すべき納税義務違反が、課税要件に係る事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装する方法によって行われた場合に課されるものであるところ、ここでいう「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解される。

(2) 認定事実

請求人に、本件5,000,000円に係る借入金について「仮装」に該当する事実があったといえるか否かの判断に当たっては、その前提として本件被相続人が請求人から本件5,000,000円に係る借入れをしていた事実が認められるかどうかが問題となるところ、この点に関し、請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件売買契約に係る代金支払のための融資計画及びそのとん挫
    • (イ) 請求人は、M信用金庫○○部の融資担当者に対し、請求人と本件被相続人との連名で作成された平成29年4月3日付の「借入趣意書」と題する書面を提示して、本件被相続人による本件土地の購入資金として20,000,000円の融資の可否について打診した。
       これに対し、融資担当者は、上記の打診を断った。
    • (ロ) 請求人は、上記(イ)の融資が断られたことを受けて、自らが本件被相続人に本件土地の購入資金の一部を貸し付けることとし、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、平成29年4月12日及び同月17日、請求人名義の各普通預金口座から被相続人預金口座へ各入金をし、別件証書を作成した。
    • (ハ) また、請求人は、本件5,000,000円について、上記1の(3)のニの(ロ)のCのとおり、大型連休明けである本件売買契約の残代金の支払期限が迫っていた平成29年4月27日、請求人預金口座から現金で同額を出金し、法人預金口座へ入金した。
       本件証書の表題は、別件証書の表題が「金銭借用証書」とされているのと異なり、「金銭(一時)借用証書」と記載されており、本件証書に係る貸借が一時的なものであることを示す「一時」との文言が付されている。
  • ロ 本件被相続人の意思能力に係る事実
     本件被相続人は、本件売買契約当時、「○○」の認定を受け、外出することや字を書くことが困難な状況にあった。
     もっとも、本件被相続人の意思能力の程度を裏付ける客観的な証拠はない。
  • ハ 本件被相続人が有していた預貯金残高
     本件被相続人は、平成29年4月27日時点で、定期預金や定額貯金を含めて76,000,000円を超える預貯金を有していた。
  • ニ 本件法人の経理処理
     請求人は、本件法人の総勘定元帳について、各事業年度の終了後に請求人が小口現金の出納帳、銀行の通帳及び不動産管理会社から送付を受けた収支報告書等会計ソフトへのデータ入力に必要な書類を外部業者へ提出してその入力を委託し、当該外部業者による入力済の総勘定元帳を請求人が確認して誤り等があれば手書きで訂正するという方法により作成していた。そして、請求人は、作成した総勘定元帳を税理士に提出して本件法人の法人税等の確定申告書及び財務諸表の作成を依頼していた。
     本件法人の平成29年12月期の総勘定元帳の長期借入金勘定について、本件金員は、当初は請求人からの借入金として外部業者によりデータ入力されたが、その後請求人の手書きにより本件被相続人からの借入金と訂正された。
  • ホ 本件証書の作成及び本件修正申告に至る経緯等に係る請求人の申述等
    • (イ) 本件調査担当職員は、令和元年9月19日、請求人に対し、本件金員の原資(本件5,000,000円)が本件被相続人の預貯金の口座に入金された形跡が見当たらない旨を指摘したところ、請求人は、翌20日、本件金員は、請求人預金口座から直接法人預金口座へ振り込んだが、請求人と本件被相続人との間及び本件被相続人と本件法人との間における借入れに係る本件証書及び4月27日付法人借用証書をそれぞれ作成した旨回答した。
       これに対し、本件調査担当職員は、本件金員の原資(本件5,000,000円)が本件被相続人の預貯金の口座に入金されていないのであれば、本件被相続人の本件5,000,000円に係る借入金は存在しないこととなるから、この点についての債務控除は認められない旨を請求人に伝えた。
    • (ロ) 本件調査担当職員に対する請求人の申述が記載された令和元年11月14日付の質問応答記録書には、本件5,000,000円に係る借入金について、要旨、以下のとおりの記載がある。
      • A 本件法人は、本件被相続人から本件各建物の購入代金を借り入れることとした。

        まず、請求人が本件被相続人に融資し、本件被相続人がそのお金を本件法人に貸し付けるという形態を採った。その時に本件被相続人と請求人との間で作成したのが本件証書である。

      • B 請求人が本件法人に直接貸付けをしなかったのは、本件被相続人が請求人から借入れを行うことにより、相続税の申告において、債務控除ができると考えたためである。

        しかし、実際には、本件法人の本件各建物の購入代金は、請求人から直接本件法人に振り込んだ。その後、本件被相続人から返金してもらおうとしたが実行しなかった。

      • C 本件被相続人は、本件被相続人と請求人との間の借用に関与しておらず、本件証書は作成しただけに終わった。したがって、本件被相続人と請求人との間には本件5,000,000円の借用は存在しない。
      • D 請求人は、本件申告書を作成し、本件証書を添付して本件申告をしたが、実際には請求人から本件被相続人への貸付けは行っておらず、本件証書を添付して存在しない債務の計上を行った。
    • (ハ) 請求人は、本件調査担当職員から、本件申告において本件5,000,000円を本件被相続人の借入金として債務控除したことにつき重加算税を課す旨の見解を伝えられたのに対し、令和元年12月20日、要旨、以下の内容の「申述書」と題する書面を原処分庁宛に提出して重加算税の賦課について異議を申し立てた。
      • A 本件被相続人及び本件法人は、本件各建物を本件法人名義とし、本件各建物の購入代金は、本件被相続人が銀行から融資を受けた資金の一部を本件法人に貸し付けることにして、平成29年5月9日の代金決済で本件売買契約を締結した。
      • B しかし、本件被相続人は、予定していた銀行からの本件各建物の購入資金の借入れができなかったので、急遽、本件売買契約に係る代金決済に間に合わせるべく、平成29年4月27日、請求人が本件金員を一時的に立て替えた。
      • C その際、請求人は、売買代金を用意することに慌てていたので、5,000,000円を本件被相続人の銀行口座に入金せずに、直接、法人預金口座に入金した。本件被相続人とは後で精算するつもりで、本件証書及び4月27日付法人借用証書を作成しておいたが、本件各建物の耐震補強やリフォーム等の対応や所有していたアパートの退室立会いに追われているうちに本件被相続人の容態が悪化し、上記精算を行う前に本件被相続人が逝去した。
      • D このような状況で、本件法人は、本件金員を本件被相続人の債務免除として決算処理したが、請求人及びHは、本件調査担当職員から、本件金員の原資(本件5,000,000円)は本件被相続人の預貯金の口座を経由していないので本件5,000,000円に係る借入金は債務とは認められないとの指摘を受けたため、本件修正申告をした。
    • (ニ) 請求人は、令和2年6月9日の当審判所に対する答述において、本件調査担当職員から、本件法人の申告についても、本件金員を本件被相続人からの借入れではなく、請求人からの借入れとする必要があると告げられ、そうなると、請求人としても本件法人から5,000,000円を返済してもらえるということもあって、改めて本件法人の法人税等の申告の修正を税理士に依頼した旨述べた。
  • ヘ 本件被相続人の意思能力等に関する請求人の答述
     請求人は、令和2年6月9日の当審判所に対する答述において、平成29年4月27日当時、本件被相続人は、字は書けないものの意識ははっきりしており、本件5,000,000円について請求人からの借入れとすることについても事前に了解を得ていた旨述べた。

(3) 検討

  • イ 上記(2)のイの(イ)によれば、請求人及び本件被相続人は、本件売買契約に係る代金の決済に当たり、当初はその代金の一部である20,000,000円について、本件被相続人を借主とする融資をM信用金庫から受けることを予定していたところ、当該融資がとん挫したことが認められる。このような融資のとん挫の経緯や、上記(2)のイの(ハ)のとおり、現金5,000,000円が本件売買契約の代金決済日に近接した平成29年4月27日に入金されていること及び本件証書の表題に一時的な貸借であることを意味する「一時」と付されていること等からすれば、本件被相続人が上記(2)のハのように十分な金額の預貯金を有していた事実を踏まえても、請求人が上記(2)のホの(ロ)のAのとおり申述するように、本件被相続人に本件5,000,000円の貸付けをすることとしたとしても不自然であるとまではいえない。
     この点、請求人の本件被相続人に対する本件5,000,000円の貸付事実に関し、上記(2)のホの(ロ)のC及びDによれば、質問応答記録書に、請求人が、本件5,000,000円について、本件被相続人に対する貸付けはしておらず、本件申告において存在しない債務の計上をした旨自認する記載があるものの、これを除けば、請求人は、上記(2)のホの(ロ)のA及びB並びに同(ハ)のBのとおり、請求人から本件被相続人に本件5,000,000円を貸し付け、本件被相続人から更に本件法人に本件金員を貸し付けたものである旨、及び本件証書は、これらの事実に基づいて作成した旨の上記3の「請求人」欄の(1)のイの主張に沿う内容をおおむね一貫して述べており、更に本件調査担当職員から、上記(2)のホの(イ)のとおり、本件被相続人の預貯金の口座に入金されていないのであれば、本件5,000,000円に係る借入金は存在しないこととなる旨告げられていたことも認められるから、これらの事情に照らせば、質問応答記録書に上記(2)のホの(ロ)のC及びDのとおり記載された請求人の回答内容については、上記(2)のホの(ニ)のとおり、本件被相続人と本件法人のいずれへの貸付けであるかについては特に重視していないことがうかがえる請求人において、本件調査担当職員に上記のとおり告げられたことにより、本件被相続人への貸付けというためには本件被相続人に対する直接の送金が不可欠であるということであれば、本件被相続人に対する貸付けではなかったということでも構わないという認識でされたものであると見ることも否定できない。そうすると、上記(2)のホの(ロ)のC及びDの質問応答記録書の記載内容をもって、本件5,000,000円に係る借入金の存在を否定することまではできないし、請求人に本件5,000,000円が本件被相続人の債務となるよう仮装をした事実やその意思があったとまでは認めることはできない。
  • ロ そして、請求人から本件被相続人ヘは本件5,000,000円に相当する金員が直接送金されていないものの、上記(2)のイの(ハ)のとおり、本件証書にわざわざ「一時」と記載されていることなどの事情に照らすと、上記(2)のホの(ロ)のA及びB並びに同(ハ)のBで請求人が述べるとおりの経緯で暫定的に請求人から本件被相続人に対する貸付けが行われた可能性もあるのであるから、直接送金がされていない事実をもって、直ちに請求人から本件法人への貸付けであったと認定することもできない。
  • ハ また、本件被相続人の意思能力についても、本件被相続人に、上記(2)のロの事情が認められるとしても、これにより、本件被相続人の事理弁識能力等に喪失又は減退等の事情があったか否かは明らかでないから、本件被相続人は意思能力が欠ける状態であったと認定することはできず、他に本件5,000,000円について請求人からの借入れとすることについて本件被相続人の了解を得ていた旨の上記(2)のヘの請求人の答述を否定する事情も認められない。
  • ニ 以上によれば、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件被相続人の請求人に対する本件5,000,000円に係る借入金がなかったと認めることはできず、同様に本件5,000,000円を原資とした本件被相続人の本件法人に対する4月27日付法人借用証書に係る貸付けについてもこれを否定するに足りる証拠はない。
     したがって、請求人は、存在しない債務を実際に存在するかのように仮装していたとは認められないから、請求人に通則法第68条第1項の「仮装」に該当する事実があったとは認められない。

(4) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のロ及びハ並びに同(2)のとおり、本件被相続人が本件法人に金銭を貸し付ける合理的な理由も、本件被相続人が請求人から金銭を借り入れる必要もないこと、本件法人の総勘定元帳の作成のためのデータ入力において、本件金員は、当初請求人からの借入れであるとされていたこと、及び本件証書は本件相続の開始日以降に日付を遡って作成されたものであり裏付けとできないことなどから、本件5,000,000円に係る借入金は存在しない旨主張する。
     しかしながら、本件5,000,000円に係る借入金の存在を否定できないことは上記(3)のニのとおりである。また、本件法人における経理処理の経緯が上記(2)のニのとおりと認められるところ、本件法人の総勘定元帳が手書きで訂正された経緯に不自然な点はなく、本件証書が本件相続の開始日以降に日付を遡って作成されたと認める証拠もないから、本件法人の総勘定元帳における手書きによる訂正前の記載をもって、本件金員は請求人から本件法人への貸付けであると認めることはできない。
  • ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のニのとおり、請求人が本件被相続人への貸付けは行われていない旨自認する申述をしたこと及び当該申述に沿う本件修正申告をしたことから、本件5,000,000円に係る本件被相続人への貸付けは存在しない旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のイのとおり、請求人による上記申述によっても、本件5,000,000円に係る借入金の存在を否定できないし、また、本件修正申告についても、当時の認識に基づいてした可能性が否定できない以上、これをもって、当該借入金の存在を否定することはできない。
  • ハ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、本件証書と同日付で本件証書類似の証書が別途作成されていることなど不合理な点があることから、本件証書をもって、本件5,000,000円に係る借入金があったことの裏付けとはできない旨主張する。
     しかしながら、本件5,000,000円に係る借入金の存在が否定できないことは上記(3)のニのとおりである。
     なお、当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件証書類似の証書について、請求人が、本件申告後の本件法人の決算に際し、本件証書のデータを基に分かりやすいシンプルな文面に修正したものである旨答述しているところ、かかる説明が不合理とまでもいえないから、本件証書類似の証書が別途作成されている事実をもって、上記(3)のニの認定は左右されない。
  • ニ 以上のとおり、原処分庁の主張にはいずれも理由がない。

(5) 原処分の適法性について

上記(3)のニのとおり、本件被相続人の請求人に対する本件5,000,000円に係る借入金がなかったと認めることはできないから、請求人に通則法第68条第1項の「仮装」に該当する事実があったとは認められない。
 そして、本件5,000,000円は、本件被相続人の債務控除額として本件相続税の課税価格の計算上控除すべきことになるが、上記(3)のニで述べたとおり、本件5,000,000円を原資として、本件被相続人の本件法人に対する4月27日付法人借用証書に係る貸付けが行われたことも、これを否定するに足りる証拠はなく、また、上記(2)のニのとおり、本件法人の平成29年12月期の総勘定元帳の長期借入金勘定において、本件被相続人からの借入金が計上されていることからすると、本件相続の開始日において、本件被相続人は、本件法人に対して、本件金員に相当する5,000,000円の貸付債権を有していたと認められる。よって、請求人は、上記5,000,000円の貸付債権を本件相続税の課税財産に計上すべきであったところ、上記1の(4)のイのとおり、本件申告においてこれを計上していない。
 そうすると、請求人の本件相続税の納付すべき税額は、本件修正申告における本件相続税の納付すべき税額と同額となるところ、請求人の主張に基づいたところにあっても、本件被相続人が上記5,000,000円の貸付債権を有していた事実が本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、請求人は、原処分のその他の部分については争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 そこで、当審判所において、請求人の本件相続税に係る過少申告加算税の額を計算すると、別紙「取消額等計算書」のとおりであると認められる。
 したがって、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分は違法である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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