(令和3年6月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、所得税等及び消費税等の各修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の過少申告には隠蔽又は仮装の事実があるとして、重加算税等の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないなどとして、同処分の一部の取消しを求め、その後、請求人が、当該各修正申告には計算誤りがあったとして各更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたのに対し、請求人が、同処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項柱書及び同項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
     また、通則法第23条第3項は、更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。
  • ロ 通則法第65条《過少申告加算税》(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
  • ハ 通則法第68条《重加算税》(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、通則法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ニ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項柱書及び同項第1号は、更正又は決定は、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない旨規定し、同条第4項(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税(当該国税に係る加算税を含む。)についての更正決定等は、同条第1項の規定にかかわらず、当該国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
  • ホ 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項柱書及び同項第1号は、国税に関する法律に基づく処分で税務署長がした処分に不服がある者は、国税不服審判所長に対する審査請求をすることができる旨規定している。
  • ヘ 国税通則法施行令第6条《更正の請求》第2項は、更正の請求をしようとする者は、その更正の請求をする理由が課税標準たる所得が過大であることその他その理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、その取引の記録等に基づいてその理由の基礎となる事実を証明する書類(以下「更正請求証明書類」という。)を上記イの更正請求書に添付しなければならない旨規定している。
  • ト 所得税法第148条《青色申告者の帳簿書類》第1項は、青色申告者は、財務省令で定めるところにより、事業所得を生ずべき業務につき帳簿書類を備え付けて、これに事業所得の金額に係る取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定している。
  • チ 租税特別措置法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第25条の2《青色申告特別控除》第3項は、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人で事業所得を生ずべき事業を営むものが、所得税法第148条第1項の規定により、当該事業につき帳簿書類を備え付けてこれにその承認を受けている年分の事業所得の金額に係る取引を記録している場合(これらの所得の金額に係る一切の取引の内容を詳細に記録している場合として財務省令で定める場合に限る。)には、その年分の事業所得の金額は、同法第27条《事業所得》第2項の規定により計算した事業所得の金額から、650,000円又は同項の規定により計算した事業所得の金額のうちいずれか低い金額を控除した金額とする旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要
     請求人は、平成20年頃から「G」という屋号で飲食業を営む個人事業主であり、青色申告の承認を受けていた。
     以下、請求人が営む事業を「本件事業」という。
  • ロ 本件事業に係る帳簿書類等の作成の状況
    • (イ) 請求人は、本件事業に係る売上げについて、請求人又は従業員が、来店客の注文を受けた際、店内飲食に係る伝票(以下「本件伝票」という。)を作成した上、1日に2回程度、本件伝票の各売上金額を集計し、それを記載したメモ紙(以下「本件売上メモ」という。)を作成していた。そして、請求人は、本件売上メモ等を基として、本件事業の営業日ごとに売上げの金額、仕入れ等の支出額、現金残高等を記録するため日計表(以下「本件日計表」という。)を作成していた。
    • (ロ) 請求人は、本件事業に係る記帳事務をH商工会に委託し、本件日計表と本件事業で使用している請求人名義の預金通帳等を同商工会に持参して、総勘定元帳を作成(以下、本件事業に係る総勘定元帳を「本件元帳」という。)してもらい、所得税(平成25年分以降については所得税及び復興特別所得税。以下、所得税と所得税及び復興特別所得税とを区別せずに「所得税等」という。)並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各確定申告をしていた。
  • ハ 確定申告の状況
    • (イ) 請求人は、平成24年分から平成30年分まで(以下、平成24年分から平成26年分までを「平成26年以前各年分」といい、平成26年以前各年分と平成27年分を併せて「本件各年分」といい、平成28年分から平成30年分までを「平成28年以降各年分」といい、本件各年分と平成28年以降各年分を併せて「平成30年以前各年分」という。)の所得税等について、青色の各確定申告書に別表1の「確定申告(青色申告)」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに申告した。
       なお、請求人は、平成30年以前各年分の所得税等の青色申告決算書において、措置法第25条の2第3項に規定する青色申告特別控除(以下「本件特別控除」という。)の金額をいずれも650,000円とした。
    • (ロ) 請求人は、平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間(以下「平成24年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)から平成30年課税期間まで(以下、平成24年課税期間から平成26年課税期間までを「平成26年以前各課税期間」といい、平成26年以前各課税期間と平成27年課税期間を併せて「本件各課税期間」といい、平成28年課税期間から平成30年課税期間までを「平成28年以降各課税期間」といい、本件各課税期間と平成28年以降各課税期間を併せて「平成30年以前各課税期間」という。)の消費税等について、各確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ニ 原処分庁所属の職員による調査の状況
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員は、令和元年11月14日、請求人に対する調査に着手した。
       以下、請求人に対する調査を「本件調査」といい、本件調査を行った原処分庁所属の調査担当職員を「本件調査担当職員」という。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、令和元年11月18日、請求人から、電話で、売上金額を過少に申告している旨の連絡を受けたことから、同日及び同月19日の両日、請求人とJ税務署において面談の上、請求人への質問調査を行い、質問と応答の要旨を記録した質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)を作成した。
       本件質問応答記録書には、請求人は、平成24年から税負担を少しでも少なくするために、麺1玉当たりの売上金額が高い本件伝票を複数枚選び、当該各伝票に記載された金額を本件売上メモに記載していた金額から減算し、減算後の売上金額を本件日計表に記載する方法により、平成30年以前各年分の所得税等及び平成30年以前各課税期間の消費税等について、本件事業に係る売上金額を実際より少なくして申告した旨記載されていた。
       以下、請求人が本件伝票から減算の対象として選んだ複数枚の伝票を「本件各減算伝票」という。
  • ホ 国税の予納
     請求人は、令和元年11月19日、本件調査担当職員から、国税の予納の制度についての説明を受け、同月20日、原処分庁に対し、「国税の予納申出書」を提出し〇〇〇〇円を予納した。
     また、本件調査担当職員は、令和元年12月4日、請求人と面談し、本件調査の経過の説明をしたところ、請求人は、同日、原処分庁に対し、「国税の予納申出書」を提出し〇〇〇〇円を予納した。
  • ヘ 修正申告書の提出に至る状況等
    • (イ) 本件調査担当職員は、令和元年12月13日、請求人に対し、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項に規定する調査結果の内容の説明を行い、平成30年以前各年分の所得税等及び平成30年以前各課税期間の消費税等の各修正申告の勧奨を行った。
       上記の各修正申告の勧奨に際して、本件調査担当職員は、本件各減算伝票が請求人により既に廃棄されており、また、請求人からも売上除外の金額について、具体的な申述が得られなかったことから、本件調査開始前後の本件伝票や請求人の申述内容等を基に平成30年以前各年分の売上金額をそれぞれ算出した。
    • (ロ) 請求人は、上記(イ)の本件調査の結果の説明及び修正申告の勧奨を受け、令和元年12月13日、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成30年以前各年分の所得税等の各修正申告書、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した平成30年以前各課税期間の消費税等の各修正申告書にそれぞれ署名押印をして原処分庁に提出した。
       以下、本件各年分の所得税等の各修正申告と本件各課税期間の消費税等の各修正申告を併せて「本件各修正申告」といい、本件各修正申告に係る各修正申告書を「本件各修正申告書」という。また、平成28年以降各年分の所得税等及び平成28年以降各課税期間の消費税等の各修正申告を併せて「平成28年以降各修正申告」といい、本件各修正申告と平成28年以降各修正申告を併せて「平成30年以前各修正申告」という。
       さらに、本件各修正申告における、所得税等の各事業所得の金額の計算上、売上計上漏れとした額又は消費税等の課税売上高に算入した額を、以下「本件各修正売上額」という。
       なお、請求人は、平成30年以前各年分の所得税等の各修正申告において、青色申告特別控除の金額をいずれも措置法第25条の2第1項に規定する100,000円とした。
  • ト 加算税の賦課決定処分
     原処分庁は、令和元年12月26日付で、上記ヘの(ロ)の平成30年以前各修正申告に対し、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
     以下、本件各年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」といい、平成28年以降各年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分と平成28年以降各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を併せて「平成28年以降各賦課決定処分」といい、本件各賦課決定処分と平成28年以降各賦課決定処分を併せて「平成30年以前各賦課決定処分」という。
  • チ 再調査の請求及び再調査決定
     請求人は、令和2年3月12日、上記トの平成30年以前各賦課決定処分を不服として再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和2年6月30日付でいずれも棄却の再調査決定をした。
     また、請求人は、上記の再調査の請求において、平成30年以前各修正申告について全部の取消しを求めたが、再調査審理庁は、令和2年6月30日付でいずれも却下の再調査決定をした。
  • リ 加算税の賦課決定処分等に対する審査請求
     請求人は、令和2年7月17日、再調査決定を経た後の上記トの平成30年以前各賦課決定処分に不服があるとして、また、平成30年以前各修正申告の取消しを求めて審査請求をした。
  • ヌ 更正の請求
    • (イ) 請求人は、令和2年8月19日、原処分庁に対し、平成30年以前各修正申告に係る各修正申告書に記載した売上金額について計上漏れの事実はなかった、また、事業所得の金額の計算上、請求人には本件特別控除の適用があるとして、平成30年以前各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、別表1及び別表2の各「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求をした。
       以下、平成26年以前各年分の所得税等の各更正の請求と平成26年以前各課税期間の消費税等の各更正の請求を併せて「平成26年以前各更正請求」といい、平成27年分の所得税等の更正の請求と平成27年課税期間の消費税等の更正の請求を併せて「平成27年各更正請求」といい、平成26年以前各更正請求と平成27年各更正請求を併せて「本件各更正請求」といい、本件各更正請求と平成28年以降各年分の所得税等の各更正の請求を併せて「平成30年以前各更正請求」という。
       なお、平成30年以前各更正請求に係る各更正の請求書には、更正請求証明書類が添付されていなかった。
    • (ロ) 原処分庁は、請求人に対し、更正請求証明書類の提出を求めたところ、請求人は、令和2年9月23日、「添付書類」と題する書面(以下「本件添付書類」という。)を原処分庁に提出した。
  • ル 更正をすべき理由がない旨の通知処分
     原処分庁は、令和2年11月9日付で、平成30年以前各更正請求に対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした。
     以下、これらの各通知処分のうち、平成27年各更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分を「平成27年各通知処分」といい、平成26年以前各更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分と平成27年各通知処分を併せて「本件各通知処分」という。
  • ヲ 本件各通知処分に対する審査請求
     請求人は、令和2年12月2日、本件各通知処分を不服として審査請求をした。
     なお、請求人は、当審判所に対し、本件特別控除の適用に係る帳簿書類を備え付けている証拠として、本件元帳を提出した。
  • ワ 審査請求の併合審理
     当審判所は、令和3年1月13日付で、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定により、上記ヲの審査請求を上記リの審査請求に併合審理をする。
  • カ 審査請求の一部取下げ
     請求人は、令和3年2月16日、当審判所に対し、本件質問応答記録書における平成24年から本来の売上金額より少ない金額で申告していたとする旨の申述は、正しくは平成28年からであった旨答述し、上記リの審査請求において取消しを求めていた平成28年以降各賦課決定処分と平成28年以降各修正申告について、審査請求を取り下げた。

2 争点

(1) 請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由があるか否か(争点1)。

(2) 請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点2)。

(3) 請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由があるか否か。)について

請求人 原処分庁
次のとおり、請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由がある。 次のとおり、請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由はない。
イ 本件各更正請求について
 本件各修正申告は、原処分庁が本件質問応答記録書での請求人の申述などを基に本件各修正売上額を計算し、請求人はこれに従い本件各修正申告をしたものであるところ、本件質問応答記録書は、罪の意識や緊張で混乱し、ゆっくり思い出す余裕もなく、曖昧な記憶の中での請求人の申述を基に作成されており、真実が記録されておらず、請求人が修正申告した本件各修正売上額について計上漏れの事実はない。
 また、請求人は、本件各修正申告の内容が真実に反するものであることを口頭で説明するとともに、本件添付書類を提出しており、本件各修正申告には、課税標準等又は税額等の計算に誤りがあり、納付すべき税額が過大となっていることは明らかである。
 なお、平成26年以前各年分の所得税等及び平成26年以前各課税期間の消費税等の各修正申告(以下、これらの各修正申告を併せて「平成26年以前各修正申告」という。)は、原処分庁が一方的に誤った内容の修正申告書を作成し、加算税の賦課決定処分と一体として行った処分であるから、平成26年以前各更正請求について、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる期間の経過が問題とはならない。
イ 本件各更正請求について
 平成26年以前各更正請求は、通則法第23条第1項において更正の請求を行うことができる期間として規定する「当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内」を徒過していることから、同項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
 また、平成27年分の所得税等及び平成27年課税期間の消費税等の各修正申告書(以下、これらの各修正申告書を併せて「平成27年各修正申告書」という。)は、いずれも請求人から提出されたものであるところ、請求人は、その記載した修正売上額に計上漏れがなかったとすることについて、更正請求証明書類の提出をせず、これが真実に反するものであることを具体的に立証していないのであるから、平成27年各更正請求には、いずれも更正すべき理由はない。
ロ 本件特別控除の適用について
 上記イのとおり、請求人には、本件 各修正売上額について計上漏れの事実はないのであり、日々の取引記録を基に帳簿書類を作成し、一切の取引が記録された帳簿書類を基に貸借対照表及び損益計算書を作成して確定申告書に添付し提出しているのであるから、本件特別控除の適用がある。
ロ 本件特別控除の適用について
 請求人は、更正の請求において、青色申告特別控除の額に誤りがあるとすることについて、更正請求証明書類の提出をせず、本件特別控除の要件を満たすことを具体的に立証していないのであるから、本件特別控除の適用はない。

(2) 争点2(請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
  • イ 請求人は、本件各年分の店内飲食に係る売上げについて、本件伝票を集計し、本件売上メモを作成することにより、正しい売上金額を把握していた。
     それにもかかわらず、請求人は、経営が軌道に乗り始めた平成24年から本件調査に至るまで、本件売上メモに記載した売上金額を本件日計表へ転記する際、初めから過少申告をする意図をもって、本件各減算伝票に係る売上金額を減算し、過少な売上金額を本件日計表に記載し、真実の売上金額を記載した本件売上メモ及び本件各減算伝票を意図的に廃棄した。そして、請求人は、売上金額を過少に記載した本件日計表をH商工会に提示することにより、課税標準等及び税額等が過少な各確定申告書を作成し、提出したことにより、本件各年分の店内飲食に係る売上げの一部を故意に申告していなかったのであり、これらの行為は、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する。
  • ロ また、請求人は、本件各年分及び本件各課税期間において隠蔽仮装行為を行っていることを認め、自らの意思に基づき、本件各修正申告書に署名押印し提出している。
本件各年分及び本件各課税期間において、売上計上漏れの事実はなく、また、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実もない。

(3) 争点3(請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(2)の「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件各年分及び本件各課税期間において、売上金額を意図的に過少に申告し、その売上げに係る書類を意図的に廃棄していたと認められるから、このことは税額を免れる意図の下に税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作に該当する。
 したがって、請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実がある。
上記(2)の「請求人」欄に記載した事情に照らせば、請求人には、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由があるか否か。)について

  • イ 平成26年以前各更正請求について
    • (イ) 平成26年以前各年分の所得税等の各法定申告期限は、それぞれ平成25年3月15日、平成26年3月17日及び平成27年3月16日であり、平成26年以前各課税期間の消費税等の各法定申告期限は、それぞれ平成25年4月1日、平成26年3月31日及び平成27年3月31日である。
       そうすると、平成26年以前各更正請求は、上記1の(3)のヌの(イ)のとおり、いずれも令和2年8月19日にされたものであり、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる期間(国税の法定申告期限から5年)を経過した後にされたことは明らかであるから、その他について判断するまでもなく不適法である。
    • (ロ) そして、請求人は、平成26年以前各修正申告は、原処分庁が一方的に誤った内容の修正申告書を作成し、加算税の賦課決定処分と一体として行った処分であるから、平成26年以前各更正請求について、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる期間の経過が問題とはならない旨主張する。
       しかし、修正申告を含めた納税申告は、いわゆる私人の公法行為であって、行政庁の公権力の行使ではないから、通則法第75条第1項柱書及び同項第1号に規定する「国税に関する法律に基づく処分」の対象となる処分には当たらない。
       また、上記1の(3)のホ及びヘのとおり、請求人は、修正申告により納付すべき税額を予納した上、本件調査の結果の説明の際、本件調査担当職員から、調査額や確定申告の内容を是正する必要がある旨説明されたため、平成26年以前各修正申告を含む平成30年以前各修正申告に係る各修正申告書に署名押印をしたことが認められ、請求人が自らの意思で任意に修正申告を行ったことは明らかであるから、原処分庁が一方的に誤った内容の修正申告書を作成した事実を認めることはできない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ロ 平成27年各更正請求について
    • (イ) 法令解釈
       通則法第23条第3項及び国税通則法施行令第6条第2項の規定によれば、更正の請求をする納税者側において、その更正の請求をする理由や更正請求証明書類などを提出等しなければならないとされているところ、納税義務者が一旦申告書を提出した以上、その申告内容が真実に反するものであるとの主張・立証がない限り、その申告内容をもって正当なものと認めるのが相当である。そうすると、更正の請求の調査手続において、納税者において申告内容が真実に反するものであることの主張立証をしない限り、税務署長としては、その納税者の提出した申告書に記載された所得金額等をそのまま正当なものとして、真実の所得金額まで認定することを要しないと解される。
    • (ロ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
      • A 本件添付書類は、平成27年各更正請求をした後に請求人が作成したものであり、要旨、以下のとおり請求人の主張等が記載されている。
        • (A) 本件各年分及び本件各課税期間において、本件各修正売上額のような計上漏れはない。
        • (B) 本件調査担当職員による本件調査の結果説明は、全く理解できなかった。
        • (C) 相談もできず、間違えた後ろめたい気持ちもあったので修正申告してしまった。
        • (D) 後から考えると、平成28年以降各年分は売上げが漏れていたかもしれないが、本件各年分及び本件各課税期間は正しく申告していた。
      • B 上記1の(3)のヲのとおり、請求人は、当審判所に対し、本件特別控除の適用に関する証拠として本件元帳を提出したが、本件元帳に記載された事実を裏付ける証拠を提出していない。
    • (ハ) 平成27年各修正申告書に記載された売上金額及び課税売上高について
      • A 検討
         上記1の(3)のヌの(イ)のとおり、請求人は、平成27年各更正請求をした時点において、平成27年各更正請求に係る更正の請求書に更正請求証明書類を添付しておらず、その後も、上記(ロ)のAを記載内容とする本件添付書類を提出するのみであった。そのため、原処分庁において、平成27年各修正申告書に記載された売上金額(課税売上高を含む。以下、(ハ)において同じ。)の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより平成27年各修正申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとする事実の存在を認めることはできないし、他にその存在を推認させる証拠もないから、原処分庁が平成27年各修正申告書に記載された課税標準等又は税額等をもって正当なものと認めたことは相当であるといえる。
         なお、当審判所の調査及び審理の結果によっても、平成27年各修正申告書に記載された売上金額が過大であるとは認められない。
      • B 請求人の主張について
         請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件質問応答記録書は、罪の意識や緊張で混乱し、ゆっくり思い出す余裕もなく、曖昧な記憶の中での申述を基に作成されており、真実が記録されていないから、このような本件質問応答記録書を基に作成された平成27年各修正申告書について、計上漏れの事実はない旨主張する。
         しかしながら、更正の請求では、納税者側において申告した売上金額が過大であることの立証をすべきであるところ、上記Aのとおり、請求人から提出された証拠では、平成27年各修正申告書に記載された売上金額が過大であるとは認められない。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) 本件特別控除の適用について
      • A 検討
         本件特別控除の適用要件について、措置法第25条の2第3項は、青色申告の承認を受けている個人で事業所得を生ずべき事業を営むものが、所得税法第148条第1項の規定により、当該事業につき帳簿書類を備え付けてこれにその承認を受けている年分の事業所得の金額に係る一切の取引の内容を詳細に記録している場合である旨規定している。
         これを本件についてみると、請求人は、上記1の(3)のヌの(イ)のとおり、平成27年各更正請求に係る更正の請求書に更正請求証明書類を添付しておらず、その後も、上記(ロ)のAのとおり、請求人の主張等のみを記載した本件添付書類を提出していただけであった。そのため、請求人が帳簿書類を備え付け、その帳簿書類に平成27年分の本件事業に係る一切の取引の内容を詳細に記録していたという事実の存在を認めることはできず、他にその存在を推認させる証拠もないから、原処分庁が平成27年分の所得税等の修正申告書に記載の青色申告特別控除の額をもって正当なものと認めたことは相当である。
         なお、請求人は、上記(ロ)のBのとおり、当審判所に対して、本件特別控除の適用を証明する証拠として本件元帳を提出したところである。
         しかし、請求人は、本件元帳に記載のある取引の基となる資料等を提出せず、また、当審判所の調査及び審理の結果を踏まえても、請求人が平成27年分の事業所得の金額に係る一切の取引の内容を詳細に記録していたという事実の存在を認めることはできないから、平成27年分の所得税等の修正申告において本件特別控除は適用できない。
      • B 請求人の主張について
         請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、日々の取引記録で帳簿書類を作成し、一切の取引が記録されたその帳簿書類を基に貸借対照表及び損益計算書を作成して確定申告書に添付し提出しているのであるから、本件特別控除が適用できる旨主張する。
         しかしながら、請求人の平成27年分の本件元帳に、請求人の事業所得の金額に係る一切の取引の内容が詳細に記録されているとは認められないことは、上記Aのとおりである。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ホ) 小括
       上記(ハ)のA及び(ニ)のAのとおり、平成27年各修正申告書における課税標準等及び税額等に、それぞれ誤りがあるとは認められないことから、平成27年各更正請求につき、請求人には、通則法第23条第1項に規定する事由があるとは認められない。

(2) 争点2(請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 請求人の申述の信用性について
     請求人が、本件調査以前、本件日計表の作成に際して、初めから過少申告の意図をもって、本件各減算伝票を廃棄することにより本件事業での売上げの一部を意図的に除外し、実際の売上金額よりも過少な金額が記載された本件日計表を作成していたこと(以下「本件隠蔽仮装行為」という。)について、原処分庁、請求人ともに争いはない。
     他方、原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、本件質問応答記録書の請求人の申述に基づき、本件隠蔽仮装行為の始期が平成24年からであると主張するのに対し、請求人は、上記1の(3)のカ及び上記3の(1)及び(2)の「請求人」欄のとおり、本件質問応答記録書の申述の信用性を争う趣旨と解される主張をするので、以下、請求人の申述の信用性について検討する。
    • (イ) 本件質問応答記録書記載の申述内容
       本件質問応答記録書によれば、請求人は、本件調査担当職員に対し、要旨、以下のとおり申述した。
      • A 全ての営業日について、以前より令和元年11月12日まで、私は、本件売上メモに正確な売上金額を記載しているにもかかわらず、その金額によらず、本件各減算伝票に記載された売上金額を本件売上メモに記載している金額から減算し、減算後の売上金額を本件日計表に記載していた。
      • B 本件売上メモは、本件日計表に金額を記載した時点で店舗のごみ箱に捨て、本件各減算伝票は、自宅へ持って帰り、自室のごみ箱に捨てていた。
      • C 1日の店舗内での飲食に係る売上金額の3%から5%を目安として売上金額を少なくして申告していた。
      • D 平成20年に開業してからしばらくの間は、きちんと申告しても売上げが少なく所得税が発生していなかったが、経営が軌道に乗り始めた平成24年から税負担を少しでも少なくするために、売上金額を過少に申告していた。
    • (ロ) 本件調査担当職員の答述(本件隠蔽仮装行為の始期に関する請求人の申述の経緯について)
       本件調査担当職員は、当審判所に対し、要旨、以下のとおり答述した。
       本件調査担当職員が、上記(イ)の本件質問応答記録書を作成する際、請求人に対し、本件隠蔽仮装行為の始期について尋ねたところ、請求人は経営が軌道に乗り始めた頃である旨の回答をした。そのため、本件調査担当職員は、一旦、請求人の過去の所得税等の申告事績を確認して、請求人が平成24年分から所得税等を納税していることを確認した。そして、本件調査担当職員は、改めて翌日、請求人に対し、経営が軌道に乗り始めた頃とはいつからかと具体的に尋ねたところ、請求人は、税金を納め始めた頃だと申述したため、請求人が税金を納め始めた時期を平成24年からであることを請求人に確認させて上記(イ)のDの質問応答記録書を作成するに至った。
    • (ハ) 請求人の申述の信用性の検討
      • A 請求人は、上記(イ)のDとおり、平成24年から本件隠蔽仮装行為を開始した旨申述する。
         しかしながら、上記(ロ)の本件調査担当職員の答述は、請求人が本件隠蔽仮装行為の始期を申述した経緯を具体的かつ詳細に答述するものであり、特に信用性を疑う点がないことからその答述内容どおりの事実が認められる。そうすると、請求人は、本件調査担当職員による質問の当初、本件隠蔽仮装行為の始期について、経営が軌道に乗り始めた頃である旨の曖昧な申述をするにとどまり、その始期を明確に答えることができなかったというのであるから、請求人は本件隠蔽仮装行為の始期に関して、そもそも明確な記憶を持っておらず、その記憶は曖昧なものであったと認められる。そして、上記(ロ)に述べた経緯からすれば、請求人が平成24年から納税を開始した旨の申述は、自発的な申述をしたのではなく本件調査担当職員の教示に沿う形で申述した程度にすぎないものというべきである。
      • B そして、本件では、請求人が本件事業に係る所得税等について平成24年分から納税をしているとすれば、本件隠蔽仮装行為の始期とされる「本件事業の経営が軌道に乗り始めた頃」及び「税金を納め始めた頃」とは、早くても平成24年分のH商工会の指導に基づく決算や確定申告が終了し、所得税等の税額が確定する平成25年以降を指すと考えるのが自然であるのに、請求人が本件質問応答記録書において、これを平成24年からと申述しているのは、客観的事実とも整合せず、不自然であるともいえる。
      • C さらに、原処分庁提出の証拠及び当審判所の調査の結果によっても、本件隠蔽仮装行為の始期が平成24年であるとする申述について、その内容を裏付けるそのほかの証拠も存在しない。
      • D したがって、上記の各事情を併せ考えれば、本件質問応答記録書のうち、本件隠蔽仮装行為の始期に関する申述の信用性は必ずしも高いと評価することはできず、また、当審判所の調査の結果を踏まえても本件隠蔽仮装行為の始期を平成24年であると認めることはできない。
  • ロ 小括
     以上のとおり、上記イの(イ)のDの本件隠蔽仮装行為の始期に関する請求人の申述は直ちに信用できず、また、そのほかに本件隠蔽仮装行為の始期が平成24年からであると認めることができる証拠もないから、平成24年から本件隠蔽仮装行為が始まったとする事実を認めることができない。また、当審判所の調査の結果を踏まえても、請求人が争っている本件各年分及び本件各課税期間において、他に請求人によって本件隠蔽仮装行為がなされたことを示す証拠もないから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。
  • ハ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人は、本件各年分において、本件事業に係る正しい売上金額を把握していたにもかかわらず、真実の売上金額を記載した本件売上メモ及び本件各減算伝票を意図的に廃棄し、売上金額を過少に記載した本件日計表をH商工会に提示することにより、売上げの一部を故意に申告していなかった旨主張する。
       しかしながら、本件各年分及び本件各課税期間において、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められないことは、上記ロのとおりである。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) また、原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のロのとおり、請求人は、本件各年分及び本件各課税期間において本件隠蔽仮装行為を行っていることを認め、自らの意思に基づき、本件各修正申告書に署名押印し提出している旨主張する。
       しかしながら、請求人は、当審判所に対し、上記イの(イ)のDの申述をした理由として、本件調査担当職員から重加算税の賦課対象期間の説明を受ける中で、不正をしていない部分があったとしても、7年間は税金の上で罰を受けるものだと思い、平成24年から本件隠蔽仮装行為を認めた本件質問応答記録書に署名押印をしたのは、罪の意識や緊張で混乱していたので、内容については頭にきちんと入らず、本件質問応答記録書に署名押印をするものだと思っていた旨答述する。この点、少なくとも本件においては、本件質問応答記録書の作成時を含む本件調査全般にわたって、税理士等専門家の助言を受けていなかったのであるから、税務に対する知識のない請求人が、その答述するような心理状態の下での申述や勘違いをするおそれがなかったとも言い切れないのであって、請求人の上記の答述を、直ちに不合理なものとすることはできない。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(3) 争点3(請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条は、国税の更正、決定等の期間制限を定めているところ、同条第4項において「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正決定等の除斥期間を7年と規定し、それ以外の場合よりも長い除斥期間を規定している。これは、偽りその他不正の行為によって国税の全部又は一部を免れた納税者がある場合に、これに対して適正な課税を行うことができるよう、より長期の除斥期間を規定したものである。
     このような通則法第70条第4項の趣旨からすれば、同項が規定する「偽りその他不正の行為」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     上記(2)のとおり、本件各年分及び本件各課税期間の請求人の行為について、通則法第68条第1項の規定の要件(隠蔽又は仮装)を充足していないものと認められるところ、隠蔽又は仮装の具体的事実や開始時期を特定できない本件にあって、他に何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為があったと認めるに足る証拠もない。
     したがって、所得税等及び消費税等の申告について、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとは認められない。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件各年分及び本件各課税期間において、売上金額を意図的に過少に申告し、その売上げに係る書類を意図的に廃棄していたと認められるから、このことは税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作に該当する旨主張する。
     しかしながら、請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」があったと認められないことは、上記ロのとおりである。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各通知処分の適法性について
    • (イ) 上記(1)のイの(イ)のとおり、平成26年以前各更正請求は、更正の請求ができる期間を経過した後にされた不適法なものである。
    • (ロ) 上記(1)のロの(ホ)のとおり、平成27年各更正請求は、通則法第23条第1項に規定する更正の請求ができる場合に該当しない。
       また、平成27年各通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、平成27年各通知処分を不相当とする理由は認められない。
    • (ハ) したがって、本件各通知処分は、いずれも適法である。
  • ロ 本件各賦課決定処分の適法性について
    • (イ) 通則法の規定について
       通則法第65条第5項は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、同条第1項の規定は適用しない旨規定している。
       一方、国税の納付すべき税額を増加させる更正について、通則法第70条第1項柱書及び同項第1号は、期限内申告書が提出されているものについては、その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、また、同条第4項は、「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた」国税についての更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
    • (ロ) 平成24年分及び平成25年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の適法性について
       上記(3)のロのとおり、請求人に偽りその他不正の行為は認められない。
       そうすると、上記(イ)のとおり、請求人の平成24年分及び平成25年分の所得税等については、それぞれ法定申告期限から5年を経過した日以後は納付すべき税額を増加させる更正をすることはできないこととなるので、請求人の平成24年分及び平成25年分の所得税等に係る各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するものと認められる。
       したがって、平成24年分及び平成25年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は、その全部を取り消すのが相当である。
    • (ハ) 平成26年分及び平成27年分の所得税等に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の適法性について
       上記(2)のとおり、請求人に隠蔽又は仮装の行為は認められず、重加算税の賦課決定処分をしたことは相当ではない。
       他方、上記イのとおり、平成26年分及び平成27年分の所得税等の各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分はいずれも適法であり、修正申告により納付すべき税額の基礎となった事実が当該修正申告前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課要件は満たしていることになる。
       したがって、平成26年分及び平成27年分の所得税等について、過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法であるところ、重加算税の各賦課決定処分は、別紙3及び別紙4の「取消額等計算書」のとおり、それぞれ過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。
    • (ニ) 平成24年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
       上記(3)のロのとおり、請求人に偽りその他不正の行為は認められない。
       そうすると、上記(イ)のとおり、請求人の平成24年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等については、それぞれ法定申告期限から5年を経過した日以後は納付すべき税額を増加させる更正をすることはできないこととなるので、請求人の平成24年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等の各修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するものと認められる。
       したがって、平成24年課税期間及び平成25年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、その全部を取り消すのが相当である。
    • (ホ) 平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
       上記(2)のとおり、請求人に隠蔽又は仮装の行為は認められず、重加算税の賦課決定処分をしたことは相当ではない。
       他方、上記イのとおり、平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等の各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分はいずれも適法であり、修正申告により納付すべき税額の基礎となった事実が当該修正申告前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課要件は満たしていることになる。
       したがって、平成26年課税期間及び平成27年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、別紙5及び別紙6の「取消額等計算書」のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。
       なお、別紙5の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「重加算税」欄の「原処分の額」欄の「加算税の基礎となる税額」欄の金額(〇〇〇〇円)は、請求人が平成26年課税期間の消費税等の修正申告により納付すべき税額(〇〇〇〇円)のうち、平成26年課税期間の消費税等の重加算税の賦課決定処分において重加算税の対象とされた税額(〇〇〇〇円)について、通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により10,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額であり、同「加算税の額の計算」の「過少申告加算税」欄の「裁決後の額」欄の「加算税の基礎となる税額」欄の金額(〇〇〇〇円)は、請求人が平成26年課税期間の消費税等の修正申告により納付すべき税額(〇〇〇〇円)について、同項の規定により10,000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額である。

(5) その他の審査請求の対象について

請求人は、本件各修正申告は、原処分庁が一方的に作成し、本件各賦課決定処分を一体として行われた処分であるとして、その取消しを求めているが、修正申告が通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらないのは上記(1)のイの(ロ)のとおりであるから、その他の審査請求の対象について取消しを求める部分の審査請求は、いずれもその対象となる処分の存在を欠く不適法なものである。

(6) 結論

よって、審査請求のうち、その他の審査請求の対象は不適法であるからこれらを却下することとし、本件各通知処分について取消しを求める部分の審査請求は理由がないから棄却することとし、その他の部分には理由があるから、その全部又は一部を取り消すこととする。

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