(令和3年9月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、1原処分庁所属の調査担当職員による調査を受けて相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、当該修正申告では被相続人が保管していた現金及び相続開始前3年以内に贈与した財産の一部が申告漏れである上、請求人には被相続人名義の預金を解約して相続財産としなかった隠蔽行為があったなどとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分等を行ったこと、また、2当該修正申告では他の相続人2名に相続開始日の3年より前に贈与された財産が相続財産とされており、納付すべき相続税額が過大であったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、請求の一部のみを認容した減額更正処分等を行ったことに対し、請求人が、原処分庁の認定には誤りがあるなどとして、これらの原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、同法第15条から第18条までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする旨規定している。
  • ハ 相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第1項は、被相続人の配偶者が当該被相続人から相続により財産を取得した場合には、当該配偶者については、所定の方法により計算した金額を納付すべき相続税額から控除する旨規定している。
     同条第5項は、同条第1項の相続により財産を取得した者が、隠蔽仮装行為に基づき、相続税の申告書を提出しており、又はこれを提出していなかった場合において、当該相続に係る相続税についての調査があったことにより当該相続税について更正又は決定があるべきことを予知して期限後申告書又は修正申告書を提出するときは、当該期限後申告書又は修正申告書に係る相続税額に係る同条第1項の規定の適用については、被相続人の配偶者が行った隠蔽仮装行為による事実に基づく金額に相当する金額を相続税の課税価格に含まないものとして計算する旨規定している。
     同条第6項は、同条第5項の「隠蔽仮装行為」とは、相続により財産を取得した者が行う行為で当該財産を取得した者に係る相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装することをいう旨規定している。
  • ニ 民法(平成29年6月2日法律第44号による改正前のもの。)第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定している。
     同法第550条《書面によらない贈与の撤回》は、書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができるが、履行の終わった部分については、この限りでない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 被相続人及び相続人等について
    • (イ) G(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年1月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
    • (ロ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人、本件被相続人と請求人の子であるH及びJ、並びに本件被相続人とKの子であるL及びMの5名(以下、本件被相続人の子4名を併せて「本件子ら」といい、請求人と本件子らを併せて「相続人ら」という。)である。
       なお、本件被相続人は、平成27年4月2日、L及びMを認知した。
    • (ハ) 本件被相続人は、N社及びP社の代表取締役並びに社会福祉法人Qの財務担当の理事を務めるとともに、平成27年5月のJへの役員変更までは、R社の代表取締役を務めていた。
    • (ニ) Kは、S社の代表取締役を務めるとともに、上記(ハ)のN社ほか3法人及びS社(以下、これらの5法人を併せて「関連法人」という。)の経理事務を担当していた。
    • (ホ) Hは、平成29年1月22日、N社の代表取締役に就任した。
  • ロ 現金の発見について
     Hは、平成29年秋頃、N社の事務室内に並べて置かれた2つの金庫のうち、小さい方の金庫(以下、この金庫を「本件金庫」といい、もう一方の金庫を「本件大金庫」という。)に保管されていた現金○○○○円(以下「本件現金」という。)を発見した。
  • ハ 「贈与証」と題する書面について
     本件被相続人は、生前、平成13年8月吉日付の「贈与証」と題する書面(以下「本件贈与証」という。)を作成した。本件贈与証には、「私は、平成拾参年度より以後、毎年八月中に左記の四名の者に金、○○○○円也を各々に贈与する。但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」と記載されており、本件子らの住所及び氏名が記載された上、本件被相続人の署名押印がされていた。
     なお、本件贈与証には、本件子らの署名押印はいずれもなかった。
  • ニ 本件子ら名義の普通預金口座について
    • (イ) Kは、平成13年8月10日、本件被相続人の依頼により、T銀行○○支店において、次のとおりの各普通預金口座(以下、これらの普通預金口座を併せて「本件子ら名義口座」という。)を開設した。
      • A H名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「H名義口座」といい、H名義口座に係る預金を「H名義預金」という。)
      • B J名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、当該口座に係る預金を「J名義預金」という。)
      • C L名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、当該口座に係る預金を「L名義預金」という。)
      • D M名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「M名義口座」といい、M名義口座に係る預金を「M名義預金」という。)
    • (ロ) Kは、平成13年ないし平成24年の各年に一度、本件被相続人から依頼され、U銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)又は同行○○出張所の同人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から現金○○○○円を出金し、本件子ら名義口座にそれぞれ○○○○円を入金した。
       なお、本件子ら名義口座への各年の入金日は、平成13年8月10日、平成14年5月13日、平成15年6月25日、平成16年11月9日、平成17年11月16日、平成18年8月4日、平成19年6月15日、平成20年8月12日、平成21年6月25日、平成22年5月28日、平成23年8月8日、平成24年6月28日であった。
    • (ハ) Kは、平成27年6月1日、本件被相続人の依頼により、H名義預金の残高○○○○円の全額を現金で払い出し、H名義預金の通帳とともに本件被相続人に引き渡した(以下、この払い出した金員を「本件金員1」という。)。
       また、本件被相続人は、平成27年8月、N社の事務所において、本件金員1とともにH名義預金の通帳をHに対して手渡した。
    • (ニ) L名義預金は、平成28年2月24日に当該預金に係る口座から○○○○円が出金されており、本件相続開始日時点の残高は○○○○円であった。
       また、J名義預金及びM名義預金の本件相続開始日時点の残高は、いずれも○○○○円であった。
  • ホ 本件被相続人名義の普通預金口座からの払出し等について
     請求人は、平成29年1月4日、V銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件被相続人名義口座」といい、本件被相続人名義口座に係る預金を「本件被相続人名義預金」という。)を解約し、払い出した20,316,074円(以下「本件金員2」という。)を同支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「請求人名義口座」といい、請求人名義口座に係る預金を「請求人名義預金」という。)に入金した。
     なお、請求人は、平成29年10月31日に請求人名義口座を解約した。
  • ヘ 遺産分割協議について
     相続人らの間で、平成29年10月30日、本件相続に係る遺産分割協議が成立し、同日付の遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)に相続人ら全員が署名押印をした。
     なお、本件遺産分割協議書には、本件現金、J名義預金、L名義預金、M名義預金、本件金員1及び本件金員2について、いずれも記載はない。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書の作成をX税理士(以下「本件税理士」という。)に依頼し、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を他の相続人らとともに法定申告期限までに提出した。
     なお、本件申告書において、本件現金、J名義預金、L名義預金、M名義預金、本件金員1及び本件金員2は、いずれも本件相続税の課税価格の計算の基礎となる財産に含まれていない。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当者」という。)による調査(以下「本件調査」という。)を受け、令和2年6月9日、J名義預金、M名義預金及び本件金員2は本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)であり、L名義預金についても、Lが本件被相続人から相続開始前3年以内に贈与されたものであったなどとして、これらを反映した別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。
  • ハ 原処分庁は、本件修正申告書に基づき、令和2年6月30日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分1−1」という。)をするとともに、本件金員2の申告漏れは隠蔽行為に基づくものであるとして、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分1−2」という。)をした。
  • ニ 併せて、原処分庁は、令和2年6月30日付で、本件修正申告書においては、本件現金が本件相続財産に含まれておらず、本件金員1が本件相続の開始前3年以内にHに贈与されたものであることが反映されていないなどとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下順に、「本件更正処分1」、「本件賦課決定処分2−1」及び「本件賦課決定処分2−2」という。)をした。
  • ホ 請求人は、上記ハ及びニの各処分に不服があるとして、令和2年9月29日に審査請求をした。
  • ヘ 請求人は、令和2年10月15日、原処分庁に対し、L名義預金及びM名義預金については、いずれも本件相続開始日の3年より前に贈与されたものであったとして、本件相続税について別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
     これに対し、原処分庁は、令和3年1月8日付で、本件賦課決定処分2−1の過少申告加算税の額に計算誤りがあったとして、別表1の「変更決定処分」欄のとおり変更決定処分(以下「本件変更決定処分1」という。)をした上で、L名義預金に係る部分については更正の請求を認め、M名義預金に係る部分については更正の請求に理由がないとして、別表1の「更正処分等(減額)」欄のとおり、減額更正処分をし、これに伴う過少申告加算税及び重加算税の変更決定処分(以下順に、「本件更正処分2」、「本件変更決定処分2−1」及び「本件変更決定処分2−2」といい、本件更正処分1及び本件更正処分2を併せて「本件各更正処分」という。また、本件賦課決定処分1−1、本件変更決定処分1により増額され、本件変更決定処分2−1により減額された後の本件賦課決定処分2−1、本件賦課決定処分1−2、本件変更決定処分2−2により減額された後の本件賦課決定処分2−2を併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ト 請求人は、令和3年2月18日、上記ヘの各処分に不服があるとして審査請求をした。
  • チ 上記ホ及びトの各審査請求について、通則法第104条《併合審理等》第1項の規定に基づき併合審理する。

2 争点

(1) 本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か(争点1)。

(2) 本件被相続人からHに対しH名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか(争点2)。

(3) M名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、M名義預金は本件被相続人とMのいずれに帰属するものか。)(争点3)。

(4) 請求人に通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為があったか否か(争点4)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件現金は、本件被相続人が管理していたものであり、本件被相続人に帰属する財産であるから本件相続財産を構成する。 以下のとおり、本件現金が本件被相続人の財産であるとの認定はできないから、本件相続財産に含めることはできない。
  • イ 本件現金が保管されていた本件金庫の鍵は、本件被相続人がY病院に入院するまでは本件被相続人が、本件被相続人が入院してからはKが、本件相続開始日以降はHがそれぞれ管理していた。
     そして、本件現金は、HのN社代表取締役就任後にその存在が発覚したものであるが、H及びKは、本件現金の原資について把握していなかった。
     そうすると、本件金庫に本件現金を保管していたのは、H及びKではなく、本件金庫の鍵を保管していた本件被相続人であったと認められる。
  • ロ そして、本件現金は、本件被相続人の個人的な預金通帳等とともに本件金庫内に保管されていた一方で、関連法人の経理を担当していたKが、本件調査において調査担当者に対し、「本件現金は会社のものではない」旨申述していることからすると、本件現金は少なくとも関連法人のものではないと認められる。
  • ハ 上記のことに加え、本件被相続人は、平成28年6月27日に、S社から返済を受けた○○○○円のうち、○○○○円をKに贈与しており、残額の○○○○円と本件現金の額が一致することからすれば、上記返済金の一部が本件現金の原資と推認される。
  • イ 本件被相続人が本件現金を保管・管理していたとしても、このことをもって、本件現金が本件相続財産であると決めつけることはできない。
  • ロ また、本件金庫は、N社の所有物として同社の使用済の預金通帳を保管するなど、同社の金庫としての機能を中心に利用されており、本件被相続人の個人的な預金通帳が本件金庫の隅に混在していたにすぎず、本件被相続人の個人的な預金通帳等を保管するために存在していたものではないから、本件現金が本件相続財産であると認定することはできない。
  • ハ さらに、Kは、本件被相続人の全ての行動、取引内容を網羅的に把握できるだけの強力な立場や権限を有していないから、本件調査における「本件現金は私の知る限り会社のものではない」旨のKの申述をもって、本件現金が関連法人のものではないと認定することはできない。

(2) 争点2(本件被相続人からHに対しH名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、H名義口座を用いた本件被相続人からHへの贈与(以下「本件贈与」という。)について、Hと本件被相続人の間で、本件贈与証による贈与は成立しておらず、Hが本件贈与により財産を取得した時期は、本件被相続人から本件金員1を受領した平成27年である。 以下のとおり、本件贈与証が作成される過程において、本件被相続人とHとの間で、包括的に書面による贈与が成立しており、平成13年ないし平成24年の各年において、その受諾及び履行がされているから、Hは、各年においてH名義口座に係る財産を取得している。
イ 贈与の態様について
 書面による贈与が成立したと認められるためには、その前提として贈与者と受贈者の合意が求められ、その上で贈与者の意思表示が書面によりされていることが必要となる。
 よって、いかに贈与者の意思表示が書面により確認されたとしても、Hが、本件贈与証に対する受諾の意思表示をしていたと認められる証拠がなく、本件贈与証による当事者間における贈与の意思の合致が認められない場合には、本件被相続人とHの間で書面による贈与契約は成立していないことになるから、本件贈与は、書面によらない贈与となる。
イ 贈与の態様について
 本件贈与証による贈与は、民法第550条の書面の解釈からすれば、書面による贈与であり、贈与の時期は、贈与契約の効力が発生した時である。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について
  • (イ) Hが本件贈与証の存在及びその具体的な内容を知ったのは本件相続開始日以降であり、それ以前に贈与の目的物や履行の時期を了知していたと認められる証拠はなく、本件贈与証に対する受贈の意思表示をしていたとは認められない。
  • (ロ) また、贈与契約が成立した場合、受贈者は取得した財産を自由に管理及び処分できるはずであるが、H名義預金は、平成27年に預金通帳とともに本件金員1がHへ渡されるまで本件被相続人が管理しており、H名義預金を自由に処分できるのは本件被相続人のみであった。そして、Hは、本件贈与を受諾していたと申述する一方、H名義預金の管理運用に関心を何ら示さず、H名義預金の詳細や本件贈与証に基づく贈与が履行されているか否かを預金通帳で確認すらできない状態にあった。
  • (ハ) これらの客観的事実からしても、本件被相続人とHとの間で本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。
  • (ニ) なお、本件調査において、Hは、本件被相続人から贈与を受けたことはない旨申述しており、本件贈与証による贈与について電話で本件被相続人からの贈与意思を聞き、その都度受諾していた旨のその後の申述等は、本審査請求の展開に合わせて変遷又は新たになされている不自然なものであるから信用することはできない。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について
  • (イ) 本件被相続人は、暦年贈与を平成13年8月から開始することを決意し、その旨をHに口頭で申し出て、その贈与意思の証拠として本件贈与証を作成し、平成13年ないし平成24年の間、毎年贈与を履行した。
  • (ロ) また、H名義口座は、Hの依頼により本件被相続人が開設し、その預金通帳及び銀行印も本件被相続人に預託されていたものであり、本件被相続人は、毎年、○○○○円をH名義口座に入金する都度、贈与する旨をHに通知し、Hはこれを受諾していた。
  • (ハ) したがって、平成13年から平成24年の間、本件贈与証による暦年贈与が成立していた。
  • (ニ) なお、Hは、本件調査時から、本件相続とは関係がないと思っていたから本件贈与について調査担当者に伝えなかった旨を申述しており、Hの申述等は、本審査請求の展開に合わせて変遷又は新たになされたものでなく、当初から一貫しており、不自然なものでもない。
ハ 本件贈与の成立時期について
 上記ロのとおり、平成13年ないし平成24年の期間において、本件被相続人とHとの間で本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。
 一方、Hは、平成27年に本件金員1及びH名義預金の通帳の交付を受けており、これにより具体的な本件贈与の事実を把握するとともに、受贈の意思表示をしたものと認められるから、本件贈与は、平成27年に成立したものである。
ハ 本件贈与の成立時期について
 上記ロのとおり、本件贈与証の作成により書面による贈与が包括的に成立し、その後、毎年H名義口座に入金される都度、その書面による贈与が具体的に確定しているから、平成13年ないし平成24年の各年において、Hに対する暦年贈与が成立し、その履行も終えていた。

(3) 争点3(M名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、M名義預金は本件被相続人とMのいずれに帰属するものか。)。)について

請求人 原処分庁
以下のとおり、平成13年ないし平成24年の各年において、本件被相続人からMへの本件贈与証による贈与が成立しているから、M名義預金は本件相続財産に含まれない。
 なお、Kは、平成27年8月頃に、Mに対し、M名義預金の通帳及び銀行印を渡している。
以下のとおり、平成13年ないし平成24年の各年において、本件被相続人とMの間で贈与契約が成立していたとは認められず、MがM名義預金の通帳を実際に取得した時期は平成30年と認められるから、M名義預金は、本件相続開始日時点において、本件被相続人に帰属し、本件相続財産に含まれる。
イ 贈与の態様について
 本件贈与証による贈与は、民法第550条の書面の解釈からすれば、書面による贈与であり、贈与の時期は、贈与契約の効力の発生した時である。
イ 贈与の態様について
 書面による贈与が成立したと認められるためには、その前提として贈与者と受贈者の合意が求められ、その上で贈与者の意思表示が書面によりされていることが必要となる。
 よって、いかに贈与者の意思表示が書面により確認されたとしても、当事者間における贈与の意思の合致が認められない場合は、贈与契約自体が成立しないこととなる。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について(平成13年ないし平成〇年)
  • (イ) Mは、本件贈与証が作成された平成13年8月当時は未成年者であり、本件被相続人に認知された平成27年4月2日まではKが唯一の親権者として財産管理権を有していた。
  • (ロ) そして、Kは、本件贈与証の作成当時に本件被相続人から本件贈与証を見せられ、その贈与を受諾した。
  • (ハ) その後、Kは、本件贈与証に基づく贈与の履行補助者として、毎年、本件被相続人に命じられ、本件子ら名義口座へそれぞれ○○○○円の入金を行うとともに、Mの親権者として各年の贈与を受諾していた。
  • (ニ) そうすると、平成13年ないし平成〇年の各年において本件贈与証による贈与が成立していた。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について(平成13年ないし平成〇年)
  • (イ) Kは、本件被相続人の指示に基づきM名義口座への入金を行っていただけであった旨申述しており、M名義預金の通帳をMに渡す際には、本件被相続人がMのために積み立てていた金員である旨を説明していたことが認められることからすると、本件贈与証の存在を認識していたものの、その具体的内容を理解していなかった。
  • (ロ) そうすると、Kは、自身が行っていたM名義口座への入金が、Mへ贈与されていたものであると認識していたとは認められず、本件被相続人の指示に従い本件子ら名義口座へ各○○○○円の資金移動を行っていたにすぎない。
  • (ハ) したがって、Kが、Mが未成年者であった期間において、本件被相続人からMへの贈与を受諾していたとは認められず、本件贈与証による贈与は成立していない。
ハ 本件贈与証による贈与の成立について(平成〇年ないし平成24年)
  • (イ) Kは、Mが成年に達した頃に、毎年本件被相続人から贈与を受けていることを伝えた上で、当時、学生であったMの事務受託者としてM名義預金の通帳及び銀行印を保管していた。
  • (ロ) Mが成年に達した後も、Kを履行補助者としてM名義口座に○○○○円が入金されており、本件贈与証による意思表示を起点として一連の贈与が履行されていた。
  • (ハ) したがって、履行により贈与が取消しできない状態となっており、Mの成年後も上記ロと同様に本件贈与証による贈与が成立している。
ハ 本件贈与証による贈与の成立について(平成〇年ないし平成24年)
  • (イ) Mが成年に達した以降、Mが本件贈与証の内容を把握していたと認められる証拠はない。
  • (ロ) そして、Mは、1平成30年にM名義預金に係る銀行印の紛失届の手続を行い、2本件調査の結果に基づきM名義預金を本件相続財産として記載した修正申告をしたことからすると、Mが、M名義預金の通帳を実際に取得したのは平成30年であったと認められる。
  • (ハ) したがって、Mの成年後も本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。

(4) 争点4(請求人に通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為があったか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人は、本件被相続人名義預金が本件相続財産になることを認識した上で、本件金員2を本件被相続人名義口座から請求人名義口座に移動して本件相続財産から除外したと認められ、当該行為は通則法第68条第1項に規定する隠蔽の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為に該当する。 以下のとおり、請求人は、本件被相続人名義預金が自らの財産であるとの認識に基づき、本件金員2を請求人名義口座へ移し替えたにすぎず、本件調査の初日には自発的に本件被相続人名義預金の存在を明らかにしているのであり、請求人が本件金員2を本件相続財産に含めていなかったことに、隠蔽又は仮装の行為はない。
  • イ 請求人は、本件被相続人の死亡前に本件被相続人名義口座を解約することを意図して、本件相続開始日の○日前に、本件被相続人名義口座を解約し、本件金員2を請求人名義口座に入金している。
     また、本件被相続人名義口座に請求人の内職代が入金された事実は認められないことから、本件被相続人名義預金を請求人自身の預金とは認識し得ず、本件相続開始日の直前に本件金員2を必要とした理由があったとも認められない。
  • ロ 請求人は、本件申告書作成の際に、本件被相続人に係る預金通帳の存在を確認していたH及び本件税理士に対して、本件被相続人名義預金や本件金員2の存在を明らかにしていない。
  • ハ さらに、請求人は、本件被相続人名義の預金通帳について、本件被相続人名義預金以外のものは保管し、本件被相続人名義預金及び請求人名義預金の通帳は破棄するといった不自然な行動をとっているが、これは、本件金員2や請求人名義預金の口座番号といった情報を破棄することを目的としていたというべきである。
  • ニ そうすると、請求人は、本件金員2が本件相続財産であることを知りながら、本件申告書作成の取りまとめを行ったHや本件税理士に対し、本件被相続人名義預金及び本件金員2の存在について明らかにせず、過少な相続税額が記載された本件申告書を作成させ、これを提出したと認められる。
  • イ 請求人は、昭和46年頃、本件被相続人名義で契約している公共料金等の支払に利用するために、契約者と同じ名義がよいと判断して本件被相続人名義口座を開設したもので、本件被相続人名義預金は、定期預金の振替など請求人の一存で運用され、本件被相続人は、その存在を認識していなかった。
     また、本件被相続人名義預金には、本件被相続人から得た生活費の残りのほか、請求人の内職収入も混在していた。
     よって、請求人は、本件被相続人名義口座の解約当時、本件被相続人名義預金を請求人が管理・保有する自分の財産だと思っていた。
     なお、請求人は、平成28年の末頃に預金口座の名義人が亡くなると口座から出し入れが自由にできなくなると聞き及び、翌年初めに本件被相続人名義口座を解約したものであり、当該解約が、本件被相続人の容態の急変による死亡の○日前になったのは偶然である。
  • ロ 請求人が、本件申告書作成に際して、H及び本件税理士に本件被相続人名義預金の存在を告げなかったのは、上記イの認識によるものである。
  • ハ 請求人は、通常、使用済の預金通帳を廃棄しており、本件被相続人名義預金及び請求人名義預金の通帳も同様である。
     また、請求人名義口座の解約は、請求人の預金を管理しやすいように口座をまとめたものである。
     なお、本件被相続人名義預金以外の本件被相続人名義の預金通帳は、本件申告書の作成過程でHが保管することになった。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件金庫の鍵の管理は、本件被相続人が平成28年8月4日にY病院へ入院するまでは本件被相続人が、その後平成29年3月中旬にHの妻がN社に着任するまではKが、Hの妻のN社着任後はHの妻が行っていた。
       なお、Hが平成29年1月にN社の代表取締役に就任した後は、Hが本件金庫の使用の許可を行い、金庫の開閉等をHの妻及びKに指示していた。
    • (ロ) 本件金庫には、Hが本件現金を発見した当時、本件現金のほか、関連法人及び本件被相続人の使用済の預金通帳が保管されていた。
    • (ハ) 本件大金庫には、関連法人の業務において日常的に必要とされる現金、預金通帳、印章及び契約書類などが保管されていた。
       なお、本件申告書に記載された財産のうち、有価証券に係る書類や使用中の預金通帳は、本件相続開始日時点において、本件被相続人の自宅には保管されておらず、全て本件大金庫に保管されていた。
    • (ニ) Hは、本件現金を発見するまで、その存在を知らず、Kも本件金庫に本件現金が保管されていることを知らなかった。
    • (ホ) 本件被相続人は、平成28年6月27日、N社の事務所内において、S社に対する貸付金の返済として、Kから現金〇〇〇〇円(以下「本件返済金」という。)を受領した。
       また、Kは、平成28年7月初旬、本件被相続人から現金○○○○円の贈与を受けた。
    • (ヘ) 調査担当者は、本件調査において、本件税理士に対し、本件返済金について照会したところ、令和元年8月26日、本件税理士を通じ、本件被相続人がKに○○○○円を贈与した事実と併せて、本件現金の存在を了知した。
       なお、調査担当者は、令和元年10月4日、Kから、本件現金は本件返済金の一部(本件返済金のうち、本件被相続人がKに贈与した分を控除した残額)かもしれないと本件税理士に説明した旨の申述を得た。
    • (ト) 本件現金は、令和2年5月8日、N社の会計帳簿の預り金勘定に計上された。なお、同日以前において、関連法人のいずれの会計帳簿にも本件現金の計上はなかった。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件現金の保管・管理状況について
       本件金庫の鍵は、上記イの(イ)のとおり管理され、本件金庫の開閉ができる者は限られており、また、HがN社の代表取締役に就任してからは、Hの許可なしに本件金庫を使用できなかったことからすると、本件金庫に本件現金を保管することができたのは、それ以前に鍵を管理していた本件被相続人又はKであったと認められる。
       そして、上記イの(ニ)のとおり、Kは、Hが本件現金を発見するまで本件金庫に本件現金が保管されていることを知らなかった。
       そうすると、本件現金を本件金庫に保管し、管理していたのは、本件被相続人であったと認められる。
    • (ロ) 本件金庫及び本件大金庫の使用状況について
       上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件金庫には、関連法人及び本件被相続人の使用済の預金通帳が保管されており、本件大金庫には、関連法人の業務に係る預金通帳、書類等のほか、本件被相続人の個人的な預金通帳等が保管されていた。
       そうすると、本件被相続人は、関連法人の財産とともに個人的な財産を保管するため、本件金庫及び本件大金庫の双方を使用していたものと認められる。
    • (ハ) 本件現金の発見の経緯と関連法人の状況について
       本件現金は、上記1の(3)のロのとおり、平成29年の秋頃、N社の事務室内に設置されていた本件金庫内からHが発見したものであるところ、上記イの(ト)のとおり、令和2年5月8日にN社の会計帳簿の預り金勘定に計上されるまで、N社を含む関連法人のいずれの会計帳簿にも計上されていない。そして、関連法人の経理担当者であったKは、上記イの(ニ)のとおり、Hが本件現金を発見するまで、本件現金が本件金庫に保管されていたことは知らず、また、上記イの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件調査において、本件現金は、本件返済金のうち、本件被相続人がKに贈与した分を控除した残額である可能性を示唆してもいる。
       この点、一般に、会計帳簿には対象時点又は対象期間における資産負債や損益の状況を正確に示すことが求められているところ、本件現金が関連法人のいずれかの資産であることを裏付ける資料は見当たらないばかりか、関連法人のいずれにも簿外資産や使途不明金の存在をうかがわせる事情は見当たらず、関連法人の経理を担当するKにも本件現金が関連法人に帰属するとの認識はなかった。
       そうすると、本件現金の発見以前において、本件現金が関連法人の会計帳簿に資産計上されていなかった点については、関連法人の資産状況等が正しく記帳されているものと認めるのが相当である。
       なお、上記イの(ト)のとおり、本件調査後の令和2年5月8日に、N社の会計帳簿の預り金勘定に本件現金が計上されてはいるものの、これは、本件調査において、調査担当者の指摘を受け、本件現金の帰属が問題となることを認識した後に行われたものであるから、当該預り金勘定に本件現金が計上されたことは、上記認定を左右しない。
       したがって、本件現金は、関連法人のいずれかに帰属するものとは認められない。
    • (ニ) まとめ
       以上のとおり、本件現金が関連法人のいずれかに帰属するものであるとは認められないところ、本件現金を本件金庫に保管し、管理していたのが本件被相続人自身であり、本件被相続人が本件金庫及び本件大金庫に本件被相続人の個人的な財産についても保管していたことに加え、本件現金について、本件被相続人が他から預託を受けて保管していた金員であることをうかがわせる事情も見当たらないことに照らせば、本件現金は、本件被相続人が本件被相続人名義の預金通帳とともに本件金庫内に保管していた自らの固有財産と認めるのが相当である。
       したがって、本件現金は本件被相続人に帰属するものであり、本件相続財産に含まれると認めるのが相当である。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件被相続人が本件現金を保管・管理していたことをもって、本件現金を本件相続財産とすることはできない旨主張する。
       しかしながら、本件現金が本件相続財産に含まれると判断されることは上記ロのとおりであり、本件被相続人が本件現金を保管・管理していたことのみをもって判断したものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件金庫は、N社の所有物であり、同社の金庫としての機能を中心として利用されていたものであり、本件被相続人の個人的な預金通帳等を保管するために存在していたものではないから、本件現金を本件相続財産とすることはできない旨主張する。
       しかしながら、本件被相続人は、関連法人の財産とともに個人的な財産を保管するため、本件金庫及び本件大金庫の双方を使用していたものと認められることは上記ロの(ロ)のとおりであるから、仮に、本件金庫がN社の金庫としての機能を中心として利用されていたとしても、そのことは、本件現金が本件被相続人に帰属し、本件相続財産に含まれるとの判断を左右するものではない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、本件現金は会社のものではない旨のKの申述をもって、本件現金が関連法人のものではないと認定することはできない旨主張する。
       しかしながら、本件現金が関連法人のものではないことは上記ロで述べたとおりであり、Kの申述のみをもって判断したものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件被相続人からHに対しH名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか。)について

  • イ 法令解釈
     贈与は、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方(受贈者)が受諾することによってその効力を生ずる(民法第549条)。もっとも、書面によらない贈与については、履行の終わった部分を除き、各当事者が撤回することができる(民法第550条)。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件贈与証について
       Kは、本件子ら名義口座の開設当時、本件被相続人から本件贈与証の保管を任され、以後、N社事務所内の自己の机の中に保管していたところ、本件調査開始後の令和元年9月、Hから本件贈与に関する資料がないかとの問合せを受け、Hに対し本件贈与証を提示し、また、Hは、その時初めて本件贈与証の存在を認識した。
    • (ロ) H名義口座の開設とその後の状況について  
      • A Hは、H名義口座の開設手続や本人確認書類の準備を自ら行ったことはなく、本件被相続人からH名義預金の存在について知らされていなかった。
      • B 本件被相続人は、平成27年8月、Hに対し、本件金員1とともにH名義預金の通帳と印章を手渡しするまでは、当該通帳等を自ら保管しており、Hは、当該通帳等を手渡された時に初めてH名義預金の存在を認識した。
      • C H名義口座の開設時から本件金員1の払出しまでの期間において、H名義口座からの出金はない。
      • D 本件被相続人は、平成25年以降、H名義口座への入金が途絶えたことについて、Hにその理由を伝えていない。
  • ハ Hの陳述
     請求人が当審判所に提出した令和2年12月19日付のHの陳述書には、要旨次の記載がある。
    • (イ) 大学卒業後、d県外での会社勤務を経て、平成5年4月にN社に入社して間もなく、本件被相続人とKとの間に子供がいるなどの二人の関係を知った。その後、Kに関する本件被相続人の態度に我慢できなくなり、平成10年7月にN社を退職した。そして、Z社へ入社し、平成13年4月に同社○○支店へ転勤となったが、N社を退職してからは親との連絡を避けていたので○○支店への転勤も一切連絡しなかった。
    • (ロ) 平成13年8月頃、突然、本件被相続人から毎年○○○○円を贈与する旨の電話があった。
       その際、本件被相続人から、使っていない私(H)の預金口座はないかと聞かれ、そのような口座は持っていないため、そちら(本件被相続人)で作るよう答えたところ、本件被相続人は了解した。
       また、税務署に贈与を否認されるのではないかと本件被相続人に伝えたところ、本件被相続人は証文を書くから大丈夫である旨答えた。その後、当該証文のことについては、すっかり忘れていた。
    • (ハ) その後、毎年、本件被相続人が○○○○円を私(H)名義の預金口座に入金した頃、本件被相続人から電話で入金した旨を知らされ、礼を言って贈与を受け入れていた。
    • (ニ) 平成27年のお盆の頃に帰省した際、本件被相続人から本件金員1とともにH名義預金の通帳と印章を受け取った。
  • ニ 検討
    • (イ) 本件贈与証に基づく贈与の成立の有無について
       上記1の(3)のハのとおり、本件贈与証は、その記載内容からみて、本件被相続人が、平成13年8月以降、本件子らに対して、それぞれ毎年○○○○円を贈与する意思を表明したものと認められる。
       なお、本件被相続人が贈与額を年額○○○○円としたのは、税制改正により平成13年1月1日以降の贈与に係る贈与税の基礎控除が1,100,000円とされたことを踏まえたものであると想定されるところ、本件贈与証に「但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」との記載があることからすると、本件被相続人は、毎年、贈与税がかからない範囲で贈与を履行する意思を有していたことが合理的に推認される。
       しかしながら、本件贈与証には、受贈者の署名押印はなく、上記ロの(イ)のとおり、Hは、本件調査開始後の令和元年9月まで本件贈与証の存在を認識していなかったことからすると、本件贈与証の存在のみをもって、直ちに、本件被相続人とHとの間で、本件被相続人による毎年のH名義口座への入金に係る贈与が成立していたと認めることはできない。
    • (ロ) Hの陳述の信用性について
       Hは、上記ハのとおり、平成13年に本件被相続人から電話で毎年贈与する旨の申込みがあり、その後も毎年電話で贈与の連絡を受け、受贈の意思を示していた旨の請求人の主張に沿う陳述を行っている。
       そこで、当該Hの陳述の信用性について、以下検討する。
      • A Hは、本件被相続人から○○○○円を贈与する旨の申込みがあったとする際に、自身の保有口座を提供することもなく、また、新規の預金口座の開設にも協力していない旨を陳述するのであるが(上記ハの(ロ))、かかる行動は、Hが本件被相続人との関係悪化により、一定期間疎遠であった旨の陳述(上記ハの(イ))を考慮しても、贈与の申込みを受諾した者がとる行動としては不自然であり、合理的な行動とは評価し得ないものである。
      • B また、本件において、本件被相続人は、平成13年にKを通じてH名義口座を開設し、その後も引き続きH名義預金の通帳等を管理するとともに(上記1の(3)のニ及び上記ロの(ロ))、H名義預金及び本件贈与証の存在をHに知らせることなく、本件贈与証をHが本件被相続人と疎遠になる一因となったKに預けており(上記ロの(イ))、その後も、平成24年をもって、Hに何ら連絡することなく、H名義口座への入金を停止した(上記1の(3)のニの(ロ)及び上記ロの(ロ))。そして、本件被相続人は、当該停止から3年ほど経過した平成27年8月、Hに対し、H名義預金の残高全額を払い出した本件金員1とともにH名義預金の通帳等を手渡したものであるが(上記1の(3)のニの(ハ)及び上記ロの(ロ))、本件被相続人は、口座開設から上記手渡しまでの約14年間、Hに対して、H名義預金の金融機関名や口座番号も知らせることなく、HがH名義預金を自由に使用できる状況には置かなかった(上記ロの(ロ))。
         これら一連の経過によれば、本件被相続人は、平成13年にH名義口座を開設した当時から平成27年に本件金員1とともにH名義預金の通帳等をHに手渡すまでの間、H名義預金をHに自由に使用させる意思はなかったと認められる。
         かかる当事者の行動及び事実の経過からすれば、Hの陳述のうち、本件被相続人から電話で毎年贈与する旨の申込みがあり、その後も毎年、電話で贈与の連絡を受け、その都度、受贈の意思を示していたとする点は、不自然かつ不合理なものといわざるを得ず、他にこれら陳述の内容を直接裏付ける客観的資料もないから、信用することができない。
    • (ハ) Hが本件被相続人から贈与により取得した財産及び当該財産を取得した時期について
       上記(イ)及び(ロ)を併せ考えると、本件において、本件被相続人とHとの間で、本件被相続人による毎年のH名義口座への入金について、当該各入金時における贈与に係る意思の合致(贈与の成立)があったと認めることはできない。
       一方、上記(ロ)のBで述べた一連の事実経過等に加え、我が国において、親が子に伝えないまま子名義の銀行預金口座を開設の上、金員を積み立てておく事例が少なからず見受けられることに鑑みると、H名義口座は、本件贈与証に記載したとおりの贈与の履行がされているとの外形を作出するために本件被相続人により開設され、平成27年8月まで本件被相続人自身の支配管理下に置かれていたものと認められるから、H名義預金は、本件被相続人に帰属する財産であったと認めるのが相当である。
       そして、本件被相続人は、上記1の(3)のニの(ハ)のとおり、平成27年8月、Hに対し、H名義預金の残高全額を払い出した本件金員1を手渡し、Hはそれを受領していることから、本件被相続人とHの間においては、平成27年8月に、本件金員1に係る贈与が成立するとともに、その履行がされたものと認めるのが相当である。
  • ホ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、本件被相続人とHとの間で、本件贈与証の作成により包括的に書面による贈与が成立しており、平成13年ないし平成24年の各年において、その受諾及び履行がされているから、Hは、各年においてH名義口座に係る財産を取得している旨主張する。
     しかしながら、本件贈与証の存在のみをもって、直ちに、本件被相続人とHとの間で、本件被相続人による毎年のH名義口座への入金に係る贈与が成立していたと認めることはできないこと、及び本件被相続人とHとの間で、本件被相続人による毎年のH名義口座への入金について、当該各入金時における贈与に係る意思の合致(贈与の成立)があったと認めることはできないことは、上記ニで述べたとおりである。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(M名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、M名義預金は本件被相続人とMのいずれに帰属するものか。)。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) Mは、平成○年○月○日生まれである。
    • (ロ) Kは、L名義預金及びM名義預金の通帳及び印章を、口座開設当時からL又はMにそれぞれ引き渡すまで保管していた。
    • (ハ) M名義口座には、口座開設時から平成24年まで、利息を除き、各年に一度の○○○○円の入金以外に入金はない。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件贈与証に基づく贈与の成立の有無について
       上記(2)のニの(イ)のとおり、本件贈与証は、その記載内容からみて、本件被相続人が、平成13年8月以降、本件子らに対して、それぞれ毎年○○○○円を贈与する意思を表明したものと認められる。
       そして、Kは、本件被相続人から本件贈与証を預かるとともに(上記(2)のロの(イ))、本件被相続人の依頼により本件子ら名義口座に毎年○○○○円を入金し(上記1の(3)のニの(ロ))、さらにM名義預金の通帳をMに渡すまでの間、管理していたことが認められる(上記イの(ロ))。
       ところで、Mは、上記イの(イ)のとおり、M名義口座が開設され、毎年の○○○○円の入金が開始された平成13年当時は未成年であったところ、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、Mが本件被相続人に認知されたのは平成27年4月2日であるから、平成13年8月10日以降、Mが成年に達する平成〇年〇月までの間におけるMの親権者はKのみであった。
       そして、民法第824条《財産の管理及び代表》の規定により、Kは、Mが成年に達するまでは、Mの法定代理人として、その財産に関する法律行為についてその子を代表し、その財産を管理する立場にあったと認められる。
       そうすると、Kは、平成13年当時、Mの法定代理人として、本件被相続人からの本件贈与証による贈与の申込みを受諾し、その結果、平成13年から平成24年に至るまで、当該贈与契約に基づき、その履行として、Kが管理するM名義口座に毎年○○○○円が入金されていたものと認めるのが相当である。
    • (ロ) M名義預金は本件相続財産か否かについて
       上記(イ)のとおり、本件被相続人とMとの間においては、平成13年当時、本件贈与証に基づく贈与契約が有効に成立していると認められる。
       そして、M名義口座は、上記1の(3)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、平成13年8月10日に開設された後、平成13年ないし平成24年までの各年に一度、本件被相続人からの○○○○円の入金が認められるほかは、上記イの(ハ)のとおり、利息を除き、入金は認められないことから、上記贈与契約の履行のために開設されたものであることは明らかである。
       また、M名義預金の通帳及び印章は、上記イの(ロ)のとおり、当初から、Kが保管していたものである。
       そうすると、M名義預金は、本件贈与証に基づく入金が開始された当初から、Kが、Mの代理人として自らの管理下に置いていたものであり、Mが成人に達した以降も、その保管状況を変更しなかったにすぎないというべきである。
       したがって、M名義預金は、平成13年の口座開設当初から、Mに帰属するものと認められるから、本件相続財産には含まれない。
  • ハ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のロのとおり、Kは、本件贈与証の具体的内容を理解しておらず、本件被相続人の指示に従いM名義口座への入金を行っていたにすぎないとして、これらの入金が、Mへ贈与されたものと認識していたとは認められないことを根拠として、平成13年ないし平成24年の各年において本件被相続人とMとの間で贈与契約が成立していたとは認められない旨主張する。
       しかしながら、本件贈与証の内容は、上記1の(3)のハのとおり、毎年○○○○円を贈与するというものであって、その理解が特別困難なものとはいえず、また、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、Kは、関連法人の経理担当として勤務していたことを併せ考えると、Kが本件贈与証の具体的内容を理解していたとみるべきであり、そのことを前提とすると、Kは、自身が手続を行っていた本件被相続人の預金口座からM名義口座への資金移動について、本件被相続人からMへの贈与によるものであると認識していたと認めるのが相当である。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のハのとおり、Mが、成年に達した以降、本件贈与証の内容を把握していたと認められる証拠はないことや、平成30年に銀行印の紛失手続を行ったこと及び本件調査の結果に基づきM名義預金を本件相続財産として修正申告したことを根拠として、平成13年ないし平成24年の各年において本件被相続人とMとの間で贈与契約が成立していたとは認められない旨主張する。
       しかしながら、Kが、平成13年当時、Mの法定代理人として、本件被相続人からの本件贈与証による贈与の申込みを受諾していたと認めるのが相当であることは、上記ロの(イ)で述べたとおりである。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(4) 争点4(請求人に通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項にいう「事実を隠蔽」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽しあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解するのが相当である。
     そして、相続税法第19条の2第5項の規定の趣旨は、被相続人の配偶者が同人の課税価格の計算の基礎となるべき事実について、隠蔽又は仮装という不正手段を用いて過少な申告書を提出していたときは、修正申告又は更正において配偶者に対する相続税額の軽減を計算する上で、当該隠蔽又は仮装の行為に基づく金額に相当する金額を計算の基礎に含まないものとして、一定の行政上の制裁を課すものであるから、当該規定の「隠蔽仮装行為」が、通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為と同義であると解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件被相続人名義預金の管理等について
       本件被相続人名義預金は、口座開設当時から請求人がその預金通帳を保管するなど、請求人により管理されていた。
    • (ロ) 本件被相続人名義口座からの出金状況について
       平成24年以後、本件被相続人名義口座における解約までの出金状況は、請求人と本件被相続人が居住する住居に係るガス、水道、電話料金等の公共料金や生活協同組合等への支払が口座振替により継続して行われているほかは、別表2の「出金額(円)」欄のとおり、定期預金への振替出金のみである。
    • (ハ) 本件被相続人名義口座への入金状況について
       平成24年以後、本件被相続人名義口座における利息を除く入金状況は、別表2の「入金額(円)」欄のとおりであり、その詳細については次のとおりである。
      • A 平成28年7月4日入金の1,270,000円は、本件被相続人の親族の死亡に伴い本件被相続人に分割された相続財産であり、請求人は、本件被相続人からその受領手続を任され、本件被相続人名義口座を受取口座に指定した。
      • B 平成29年1月4日入金の17,400,418円(以下「本件解約金」という。)は、総合口座である本件被相続人名義口座の定期預金(口座番号○○○○)4口を全て解約したものである。
    • (ニ) 請求人名義口座の入出金状況について
       請求人名義口座は、本件解約金の入金後、口座解約までの間、利息以外の入出金はなく、総合口座の定期預金800,000円と併せて解約された。
    • (ホ) 請求人の収入とその他預金について
       請求人の年金及び給与収入は、U銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に入金されている。
       上記預金口座からの出金は、平成24年から本件相続開始日までの間、平成26年7月29日の5,000,000円があるほか、携帯電話の利用料の口座振替と定期預金への振替のみである。
       なお、請求人は編み物の内職を長年行っていたが、当該内職に係る収支を記録した資料はない。
    • (ヘ) 本件被相続人名義預金等の存在について
       請求人は、本件相続に関する手続等の取りまとめを行ったHから本件被相続人名義の預金に係る通帳の所在を尋ねられた際、請求人(及び本件被相続人)の自宅にはない旨回答した。
       また、請求人は、本件調査の直前まで、本件税理士及び本件子らに本件被相続人名義預金及び請求人名義預金の存在を伝えていなかった。
       なお、請求人は、請求人名義口座を解約した際、本件被相続人名義預金の通帳を請求人名義預金の通帳とともに廃棄した。
  • ハ 検討
    • (イ) 請求人の認識について
       本件被相続人名義口座は、上記ロの(イ)のとおり、口座開設時以降、請求人が管理し、上記ロの(ロ)のとおり、請求人と本件被相続人が居住する自宅に係る公共料金など生活費の振替口座として使用されていた。
       そして、請求人は、上記ロの(ハ)のAのとおり、本件被相続人から、本件被相続人に分割された相続財産(本件被相続人固有の財産)の受領手続を任され、その受領のために本件被相続人名義口座を使用した。
       また、本件被相続人名義口座には、上記ロの(ハ)のとおり、本件被相続人名義の定期預金からの振替入金がある。
       さらに、本件被相続人名義口座には、上記ロの(ハ)及び(ホ)のとおり、請求人固有の年金や給与収入の入金はなく、また、別表2の各現金入金の中に請求人が主張する内職収入などによる請求人固有の財産が含まれていることを示す証拠もない。
       これらの事実からすると、請求人は、本件被相続人名義預金の原資が全て本件被相続人に帰属するものであったことを了知していたものと認められる。
       そうすると、請求人は、本件被相続人の相続が開始した場合において、本件金員2が本件相続財産になることを認識し得る状況にあったと認められる。
    • (ロ) 隠蔽又は仮装の行為の有無について
       請求人は、上記(イ)のとおり、本件被相続人名義預金の原資が本件被相続人に帰属するものであることを了知し、本件被相続人の相続が開始した場合において、本件金員2が本件相続財産になることを十分に認識し得る状況にあったと認められるところ、本件相続開始日の○日前に本件被相続人名義の定期預金4口を全て解約し、同日付で本件解約金を本件被相続人名義口座に入金した後(上記ロの(ハ)のB)、同日付で本件被相続人名義口座を解約し、本件金員2を請求人名義口座に入金したものの(上記1の(3)のホ)、本件子ら及び本件税理士にこれらの存在を一切知らせず(上記ロの(ヘ))、本件相続に係る遺産分割協議の対象にさせていない(上記1の(3)のヘ)。
       そして、本件相続に係る遺産分割協議の後、本件申告書の提出前に請求人名義口座も解約し(上記1の(3)のホ)、さらに本件被相続人名義預金及び請求人名義預金の各通帳をいずれも廃棄している(上記ロの(ヘ))。
       以上によれば、請求人は、本件金員2を構成する本件被相続人名義預金が本件相続財産となるとの認識の下、本件被相続人名義口座を解約するとともに遺産分割の対象とさせないことを意図し、他の相続人や本件税理士にあえてその存在を知らせずに、相続財産の存在の証となる預金通帳を廃棄するなどにより、隠匿したとみるのが相当である。
       そして、これらの行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏するものということができる。
       したがって、請求人には、通則法第68条第1項に規定する隠蔽の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為のいずれにも該当する行為があったと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(4)の「請求人」欄のとおり、本件被相続人名義預金が自らの財産であるとの認識に基づき、本件金員2を請求人名義口座へ移し替えたにすぎず、本件調査の初日には自発的に本件被相続人名義預金の存在を明らかにしているから、隠蔽又は仮装の行為はない旨を主張する。
     しかしながら、請求人に本件申告書の提出前に隠蔽行為があったと認められることは上記ハで述べたとおりであり、請求人は、当該隠蔽したところに基づき本件申告書を提出しているから、本件調査時に本件被相続人名義預金の存在を明らかにしたとしても、当該請求人の行為のみによって、当該隠蔽行為があったとの認定は左右されない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 原処分の適法性について

  • イ 本件各更正処分について
     上記(1)ないし(3)のとおり、本件現金は、本件相続財産に含まれ、本件金員1は、平成27年に贈与されたものであるから相続開始前3年以内の贈与として相続税法第19条第1項の規定により課税価格に加算すべきである一方、M名義預金は、本件相続財産には該当しない。また、上記(4)のとおり、請求人が本件金員2を本件相続財産に含めていなかったことにつき、相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為に該当する行為が認められる。
     これらに基づき、当審判所において、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額B」欄のとおりとなる。そうすると、当該請求人の納付すべき税額○○○○円は、本件更正処分2の額を下回ることとなるから、本件各更正処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
  • ロ 本件各賦課決定処分について
    • (イ) 重加算税の額について
       上記(4)のとおり、請求人には通則法第68条第1項に規定する隠蔽の行為及び相続税法第19条の2第5項に規定する隠蔽仮装行為のいずれにも該当する行為が認められ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、その他の重加算税の賦課要件にも欠けるところはない。一方、上記イのとおり、請求人に対する本件各更正処分は、その一部を取り消すべきである。
       そして、これらに基づき、当審判所において、重加算税の計算の基礎となるべき税額を計算すると、別表4の15欄のとおり○○○○円となり、通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税の額を計算すると○○○○円となる。
       そうすると、上記請求人の重加算税の額○○○○円は、本件賦課決定処分1−2及び本件賦課決定処分2−2(本件変更決定処分2−2により減額された後のもの。)の合計額○○○○円を上回ることとなる。
    • (ロ) 過少申告加算税の額について
       請求人の本件相続税の納付すべき税額は、上記イのとおりとなり、また、重加算税の額は上記(イ)のとおりとなり、Hが本件相続の開始前3年以内に本件被相続人から贈与を受けた本件金員1の申告漏れに係る部分を除き、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないところ、これらに基づき、当審判所において、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額を計算すると別表4の16欄のとおり○○○○円となる。
       そして、請求人の過少申告加算税の額を通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき計算すると○○○○円となる。
    • (ハ) 本件各賦課決定処分の適法性について
       本件各賦課決定処分の合計額○○○○円が、上記(イ)及び(ロ)の課されるべき加算税の合計額○○○○円を超えているから、本件各賦課決定処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件変更決定処分2−1及び本件変更決定処分2−2に対する審査請求について

通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する不服申立ての対象となる処分は、不服申立人の権利又は利益を侵害するものでなければならず、その処分が権利又は利益を侵害する処分であるか否かについては、当該処分により納付すべき税額の総額が増額したか否かにより判断すべきであるところ、本件変更決定処分2−1及び本件変更決定処分2−2は、いずれも請求人の納付すべき過少申告加算税の額及び重加算税の額を減額する処分であるから、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 したがって、本件変更決定処分2−1及び本件変更決定処分2−2の取消しを求める利益はなく、当該各処分に対する審査請求は、いずれも請求の利益を欠く不適法なものである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る