(令和3年9月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の修正申告において課税価格に加算した請求人及び兄名義の普通預金は、いずれも相続開始日の3年より前に被相続人から贈与されたものであるから、相続税の課税対象ではないとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、兄名義の預金についてのみを認める減額更正処分等を行ったことに対し、請求人が、請求人名義の預金も請求人の母が親権者として受贈済みであるから原処分庁の認定には誤りがあるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、同法第15条から第18条までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする旨規定している。
  • ロ 民法(平成29年6月2日法律第44号による改正前のもの。)第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定している。
     同法第550条《書面によらない贈与の撤回》は、書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができるが、履行の終わった部分については、この限りでない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 被相続人及び相続人等について
    • (イ) G(以下「本件被相続人」という。)は、平成29年1月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
    • (ロ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるH、本件被相続人とHの子であるJ及びK、並びに本件被相続人とLの子である請求人及びMの5名(以下、本件被相続人の子4名を併せて「本件子ら」といい、Hと本件子らを併せて「相続人ら」という。)である。
       なお、本件被相続人は、平成27年4月2日、請求人及びMを認知した。
    • (ハ) 本件被相続人は、N社及びP社の代表取締役並びに社会福祉法人Qの財務担当の理事を務めるとともに、平成27年5月のKへの役員変更までは、R社の代表取締役を務めていた。
    • (ニ) Lは、S社の代表取締役を務めるとともに、上記(ハ)のN社ほか3法人及びS社(以下、これらの5法人を併せて「関連法人」という。)の経理事務を担当していた。
    • (ホ) Jは、平成29年1月22日、N社の代表取締役に就任した。
  • ロ 現金の発見について
     Jは、平成29年秋頃、N社の事務室内に並べて置かれた2つの金庫のうち、小さい方の金庫(以下、この金庫を「本件金庫」といい、もう一方の金庫を「本件大金庫」という。)に保管されていた現金〇〇〇〇円(以下「本件現金」という。)を発見した。
  • ハ 「贈与証」と題する書面について
     本件被相続人は、生前、平成13年8月吉日付の「贈与証」と題する書面(以下「本件贈与証」という。)を作成した。本件贈与証には、「私は、平成拾参年度より以後、毎年八月中に左記の四名の者に金、〇〇〇〇円也を各々に贈与する。但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」と記載されており、本件子らの住所及び氏名が記載された上、本件被相続人の署名押印がされていた。
     なお、本件贈与証には、本件子らの署名押印はいずれもなかった。
  • ニ 本件子ら名義の普通預金口座について
    • (イ) Lは、平成13年8月10日、本件被相続人の依頼により、T銀行○○支店において、次のとおりの各普通預金口座(以下、これらの普通預金口座を併せて「本件子ら名義口座」という。)を開設した。
      • A J名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「J名義口座」といい、J名義口座に係る預金を「J名義預金」という。)
      • B K名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、当該口座に係る預金を「K名義預金」という。)
      • C M名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、当該口座に係る預金を「M名義預金」という。)
      • D 請求人の旧姓名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「請求人名義口座」といい、請求人名義口座に係る預金を「請求人名義預金」という。)
    • (ロ) Lは、平成13年ないし平成24年の各年に一度、本件被相続人から依頼され、U銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)又は同行○○出張所の同人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から現金〇〇〇〇円を出金し、本件子ら名義口座にそれぞれ〇〇〇〇円を入金した。
       なお、本件子ら名義口座への各年の入金日は、平成13年8月10日、平成14年5月13日、平成15年6月25日、平成16年11月9日、平成17年11月16日、平成18年8月4日、平成19年6月15日、平成20年8月12日、平成21年6月25日、平成22年5月28日、平成23年8月8日、平成24年6月28日であった。
    • (ハ) Lは、平成27年6月1日、本件被相続人の依頼により、J名義預金の残高〇〇〇〇円の全額を現金で払い出し、J名義預金の通帳とともに本件被相続人に引き渡した(以下、この払い出した金員を「本件金員」という。)。
       また、本件被相続人は、平成27年8月、N社の事務所において、本件金員とともにJ名義預金の通帳をJに対して手渡した。
    • (ニ) M名義預金は、平成28年2月24日に当該預金に係る口座から〇〇〇〇円が出金されており、本件相続開始日時点の残高は〇〇〇〇円であった。
       また、K名義預金及び請求人名義預金の本件相続開始日時点の残高は、いずれも〇〇〇〇円であった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書の作成をV税理士(以下「本件税理士」という。)に依頼し、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を他の相続人らとともに法定申告期限までに提出した。
     なお、本件申告書において、本件現金、K名義預金、M名義預金、請求人名義預金及び本件金員は、いずれも本件相続税の課税価格の計算の基礎となる財産に含まれていない。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当者」という。)による調査(以下「本件調査」という。)を受け、令和2年6月9日、K名義預金及び請求人名義預金は本件相続に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)であり、M名義預金についても、Mが本件被相続人から相続開始前3年以内に贈与されたものであったなどとして、これらを反映した別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。
  • ハ 原処分庁は、本件修正申告書に基づき、令和2年6月30日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分1」という。)をした。
  • ニ 併せて、原処分庁は、令和2年6月30日付で、本件修正申告書においては、本件現金が本件相続財産に含まれておらず、本件金員が本件相続の開始前3年以内にJに贈与されたものであることが反映されていないとして、別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分1」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
  • ホ 請求人は、令和2年10月15日、原処分庁に対し、M名義預金及び請求人名義預金については、いずれも本件相続開始日の3年より前に贈与されたものであったとして、本件相続税について別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
     これに対し、原処分庁は、令和3年1月8日付で、M名義預金に係る部分については、更正の請求を認め、請求人名義預金に係る部分については更正の請求に理由がないとして、別表1の「更正処分等(減額)」欄のとおり、減額更正処分(以下「本件更正処分2」といい、本件更正処分1及び本件更正処分2を併せて「本件各更正処分」という。)をし、これに伴う過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件変更決定処分」といい、本件変更決定処分後の上記ニの賦課決定処分を「本件賦課決定処分2」という。また、本件賦課決定処分1及び本件賦課決定処分2を併せて、以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、令和3年2月18日、本件更正処分2及び本件変更決定処分に不服があるとして審査請求をした。
     なお、本件賦課決定処分1、本件更正処分1及び本件賦課決定処分2についても併せ審理する。

2 争点

(1) 本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か(争点1)。

(2) 本件被相続人からJに対しJ名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか(争点2)。

(3) 請求人名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、請求人名義預金は本件被相続人と請求人のいずれに帰属するものか。)(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件現金は、本件被相続人が管理していたものであり、本件被相続人に帰属する財産であるから本件相続財産を構成する。 以下のとおり、本件現金が本件被相続人の財産であるとの認定はできないから、本件相続財産に含めることはできない。
  • イ 本件現金が保管されていた本件金庫の鍵は、本件被相続人がX病院に入院するまでは本件被相続人が、本件被相続人が入院してからはLが、本件相続開始日以降はJがそれぞれ管理していた。
     そして、本件現金は、JのN社代表取締役就任後にその存在が発覚したものであるが、J及びLは、本件現金の原資について把握していなかった。
     そうすると、本件金庫に本件現金を保管していたのは、J及びLではなく、本件金庫の鍵を保管していた本件被相続人であったと認められる。
  • ロ そして、本件現金は、本件被相続人の個人的な預金通帳等とともに本件金庫内に保管されていた一方で、関連法人の経理を担当していたLが、本件調査において調査担当者に対し、「本件現金は会社のものではない」旨申述していることからすると、本件現金は少なくとも関連法人のものではないと認められる。
  • ハ 上記のことに加え、本件被相続人は、平成28年6月27日に、S社から返済を受けた〇〇〇〇円のうち、〇〇〇〇円をLに贈与しており、残額の〇〇〇〇円と本件現金の額が一致することからすれば、上記返済金の一部が本件現金の原資と推認される。
  • イ 本件被相続人が本件現金を保管・管理していたとしても、このことをもって、本件現金が本件相続財産であると決めつけることはできない。
  • ロ また、本件金庫は、N社の所有物として同社の使用済の預金通帳を保管するなど、同社の金庫としての機能を中心に利用されており、本件被相続人の個人的な預金通帳が本件金庫の隅に混在していたにすぎず、本件被相続人の個人的な預金通帳等を保管するために存在していたものではないから、本件現金が本件相続財産であると認定することはできない。
  • ハ さらに、Lは、本件被相続人の全ての行動、取引内容を網羅的に把握できるだけの強力な立場や権限を有していないから、本件調査における「本件現金は私の知る限り会社のものではない」旨のLの申述をもって、本件現金が関連法人のものではないと認定することはできない。

(2) 争点2(本件被相続人からJに対しJ名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、J名義口座を用いた本件被相続人からJへの贈与(以下「本件贈与」という。)について、Jと本件被相続人の間で、本件贈与証による贈与は成立しておらず、Jが本件贈与により財産を取得した時期は、本件被相続人から本件金員を受領した平成27年である。 以下のとおり、本件贈与証が作成される過程において、本件被相続人とJとの間で、包括的に書面による贈与が成立しており、平成13年ないし平成24年の各年において、その受諾及び履行がされているから、Jは、各年においてJ名義口座に係る財産を取得している。
イ 贈与の態様について
 書面による贈与が成立したと認められるためには、その前提として贈与者と受贈者の合意が求められ、その上で贈与者の意思表示が書面によりされていることが必要となる。
 よって、いかに贈与者の意思表示が書面により確認されたとしても、Jが、本件贈与証に対する受諾の意思表示をしていたと認められる証拠がなく、本件贈与証による当事者間における贈与の意思の合致が認められない場合には、本件被相続人とJの間で書面による贈与契約は成立していないことになるから、本件贈与は、書面によらない贈与となる。
イ 贈与の態様について
 本件贈与証による贈与は、民法第550条の書面の解釈からすれば、書面による贈与であり、贈与の時期は、贈与契約の効力が発生した時である。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について
  • (イ) Jが本件贈与証の存在及びその具体的な内容を知ったのは本件相続開始日以降であり、それ以前に贈与の目的物や履行の時期を了知していたと認められる証拠はなく、本件贈与証に対する受贈の意思表示をしていたとは認められない。
  • (ロ) また、贈与契約が成立した場合、受贈者は取得した財産を自由に管理及び処分できるはずであるが、J名義預金は、平成27年に預金通帳とともに本件金員がJへ渡されるまで本件被相続人が管理しており、J名義預金を自由に処分できるのは本件被相続人のみであった。そして、Jは、本件贈与を受諾していたと申述する一方、J名義預金の管理運用に関心を何ら示さず、J名義預金の詳細や本件贈与証に基づく贈与が履行されているか否かを預金通帳で確認すらできない状態にあった。
  • (ハ) これらの客観的事実からしても、本件被相続人とJとの間で本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について
  • (イ) 本件被相続人は、暦年贈与を平成13年8月から開始することを決意し、その旨をJに口頭で申し出て、その贈与意思の証拠として本件贈与証を作成し、平成13年ないし平成24年の間、毎年贈与を履行した。
  • (ロ) また、J名義口座は、Jの依頼により本件被相続人が開設し、その預金通帳及び銀行印も本件被相続人に預託されていたものであり、本件被相続人は、毎年、〇〇〇〇円をJ名義口座に入金する都度、贈与する旨をJに通知し、Jはこれを受諾していた。
  • (ハ) したがって、平成13年から平成24年の間、本件贈与証による暦年贈与が成立していた。
  • (ニ) なお、Jは、本件調査時から、本件相続とは関係がないと思っていたから本件贈与について調査担当者に伝えなかった旨を申述しており、Jの申述等は、本審査請求の展開に合わせて変遷又は新たになされたものでなく、当初から一貫しており、不自然なものでもない。
ハ 本件贈与の成立時期について
 上記ロのとおり、平成13年ないし平成24年の期間において、本件被相続人とJとの間で本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。
 一方、Jは、平成27年に本件金員及びJ名義預金の通帳の交付を受けており、これにより具体的な本件贈与の事実を把握するとともに、受贈の意思表示をしたものと認められるから、本件贈与は、平成27年に成立したものである。
ハ 本件贈与の成立時期について
 上記ロのとおり、本件贈与証の作成により書面による贈与が包括的に成立し、その後、毎年J名義口座に入金される都度、その書面による贈与が具体的に確定しているから、平成13年ないし平成24年の各年において、Jに対する暦年贈与が成立し、その履行も終えていた。

(3) 争点3(請求人名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、請求人名義預金は本件被相続人と請求人のいずれに帰属するものか。)。)について

請求人 原処分庁
以下のとおり、平成13年ないし平成24年の各年において、本件被相続人から請求人への本件贈与証による贈与が成立しているから、請求人名義預金は本件相続財産に含まれない。
 なお、Lは、平成27年8月頃に、請求人に対し、請求人名義預金の通帳及び銀行印を渡している。
以下のとおり、平成13年ないし平成24年の各年において、本件被相続人と請求人の間で贈与契約が成立していたとは認められず、請求人が請求人名義預金の通帳を実際に取得した時期は平成30年と認められるから、請求人名義預金は、本件相続開始日時点において、本件被相続人に帰属し、本件相続財産に含まれる。
イ 贈与の態様について
 本件贈与証による贈与は、民法第550条の書面の解釈からすれば、書面による贈与であり、贈与の時期は、贈与契約の効力の発生した時である。
イ 贈与の態様について
 書面による贈与が成立したと認められるためには、その前提として贈与者と受贈者の合意が求められ、その上で贈与者の意思表示が書面によりされていることが必要となる。
 よって、いかに贈与者の意思表示が書面により確認されたとしても、当事者間における贈与の意思の合致が認められない場合は、贈与契約自体が成立しないこととなる。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について(平成13年ないし平成〇年)
  • (イ) 請求人は、本件贈与証が作成された平成13年8月当時は未成年者であり、本件被相続人に認知された平成27年4月2日まではLが唯一の親権者として財産管理権を有していた。
  • (ロ) そして、Lは、本件贈与証の作成当時に本件被相続人から本件贈与証を見せられ、その贈与を受諾した。
  • (ハ) その後、Lは、本件贈与証に基づく贈与の履行補助者として、毎年、本件被相続人に命じられ、本件子ら名義口座へそれぞれ〇〇〇〇円の入金を行うとともに、請求人の親権者として各年の贈与を受諾していた。
  • (ニ) そうすると、平成13年ないし平成〇年の各年において本件贈与証による贈与が成立していた。
ロ 本件贈与証による贈与の成立について(平成13年ないし平成〇年)
  • (イ) Lは、本件被相続人の指示に基づき請求人名義口座への入金を行っていただけであった旨申述しており、請求人名義預金の通帳を請求人に渡す際には、本件被相続人が請求人のために積み立てていた金員である旨を説明していたことが認められることからすると、本件贈与証の存在を認識していたものの、その具体的内容を理解していなかった。
  • (ロ) そうすると、Lは、自身が行っていた請求人名義口座への入金が、請求人へ贈与されていたものであると認識していたとは認められず、本件被相続人の指示に従い本件子ら名義口座へ各〇〇〇〇円の資金移動を行っていたにすぎない。
  • (ハ) したがって、Lが、請求人が未成年者であった期間において、本件被相続人から請求人への贈与を受諾していたとは認められず、本件贈与証による贈与は成立していない。
ハ 本件贈与証による贈与の成立について(平成〇年ないし平成24年)
  • (イ) Lは、請求人が成年に達した頃に、毎年本件被相続人から贈与を受けていることを伝えた上で、当時、学生であった請求人の事務受託者として請求人名義預金の通帳及び銀行印を保管していた。
  • (ロ) 請求人が成年に達した後も、Lを履行補助者として請求人名義口座に〇〇〇〇円が入金されており、本件贈与証による意思表示を起点として一連の贈与が履行されていた。
  • (ハ) したがって、履行により贈与が取消しできない状態となっており、請求人の成年後も上記ロと同様に本件贈与証による贈与が成立している。
ハ 本件贈与証による贈与の成立について(平成〇年ないし平成24年)
  • (イ) 請求人が成年に達した以降、請求人が本件贈与証の内容を把握していたと認められる証拠はない。
  • (ロ) そして、請求人は、1平成30年に請求人名義預金に係る銀行印の紛失届の手続を行い、2本件調査の結果に基づき請求人名義預金を本件相続財産として記載した修正申告をしたことからすると、請求人が、請求人名義預金の通帳を実際に取得したのは平成30年であったと認められる。
  • (ハ) したがって、請求人の成年後も本件贈与証による贈与が成立していたとは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件現金は、本件相続財産に含まれるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件金庫の鍵の管理は、本件被相続人が平成28年8月4日にX病院へ入院するまでは本件被相続人が、その後平成29年3月中旬にJの妻がN社に着任するまではLが、Jの妻のN社着任後はJの妻が行っていた。
       なお、Jが平成29年1月にN社の代表取締役に就任した後は、Jが本件金庫の使用の許可を行い、金庫の開閉等をJの妻及びLに指示していた。
    • (ロ) 本件金庫には、Jが本件現金を発見した当時、本件現金のほか、関連法人及び本件被相続人の使用済の預金通帳が保管されていた。
    • (ハ) 本件大金庫には、関連法人の業務において日常的に必要とされる現金、預金通帳、印章及び契約書類などが保管されていた。
       なお、本件申告書に記載された財産のうち、有価証券に係る書類や使用中の預金通帳は、本件相続開始日時点において、本件被相続人の自宅には保管されておらず、全て本件大金庫に保管されていた。
    • (ニ) Jは、本件現金を発見するまで、その存在を知らず、Lも本件金庫に本件現金が保管されていることを知らなかった。
    • (ホ) 本件被相続人は、平成28年6月27日、N社の事務所内において、S社に対する貸付金の返済として、Lから現金〇〇〇〇円(以下「本件返済金」という。)を受領した。
       また、Lは、平成28年7月初旬、本件被相続人から現金〇〇〇〇円の贈与を受けた。
    • (ヘ) 調査担当者は、本件調査において、本件税理士に対し、本件返済金について照会したところ、令和元年8月26日、本件税理士を通じ、本件被相続人がLに〇〇〇〇円を贈与した事実と併せて、本件現金の存在を了知した。
       なお、調査担当者は、令和元年10月4日、Lから、本件現金は本件返済金の一部(本件返済金のうち、本件被相続人がLに贈与した分を控除した残額)かもしれないと本件税理士に説明した旨の申述を得た。
    • (ト) 本件現金は、令和2年5月8日、N社の会計帳簿の預り金勘定に計上された。なお、同日以前において、関連法人のいずれの会計帳簿にも本件現金の計上はなかった。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件現金の保管・管理状況について
       本件金庫の鍵は、上記イの(イ)のとおり管理され、本件金庫の開閉ができる者は限られており、また、JがN社の代表取締役に就任してからは、Jの許可なしに本件金庫を使用できなかったことからすると、本件金庫に本件現金を保管することができたのは、それ以前に鍵を管理していた本件被相続人又はLであったと認められる。
       そして、上記イの(ニ)のとおり、Lは、Jが本件現金を発見するまで本件金庫に本件現金が保管されていることを知らなかった。
       そうすると、本件現金を本件金庫に保管し、管理していたのは、本件被相続人であったと認められる。
    • (ロ) 本件金庫及び本件大金庫の使用状況について
       上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件金庫には、関連法人及び本件被相続人の使用済の預金通帳が保管されており、本件大金庫には、関連法人の業務に係る預金通帳、書類等のほか、本件被相続人の個人的な預金通帳等が保管されていた。
       そうすると、本件被相続人は、関連法人の財産とともに個人的な財産を保管するため、本件金庫及び本件大金庫の双方を使用していたものと認められる。
    • (ハ) 本件現金の発見の経緯と関連法人の状況について
       本件現金は、上記1の(3)のロのとおり、平成29年の秋頃、N社の事務室内に設置されていた本件金庫内からJが発見したものであるところ、上記イの(ト)のとおり、令和2年5月8日にN社の会計帳簿の預り金勘定に計上されるまで、N社を含む関連法人のいずれの会計帳簿にも計上されていない。そして、関連法人の経理担当者であったLは、上記イの(ニ)のとおり、Jが本件現金を発見するまで、本件現金が本件金庫に保管されていたことは知らず、また、上記イの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件調査において、本件現金は、本件返済金のうち、本件被相続人がLに贈与した分を控除した残額である可能性を示唆してもいる。
       この点、一般に、会計帳簿には対象時点又は対象期間における資産負債や損益の状況を正確に示すことが求められているところ、本件現金が関連法人のいずれかの資産であることを裏付ける資料は見当たらないばかりか、関連法人のいずれにも簿外資産や使途不明金の存在をうかがわせる事情は見当たらず、関連法人の経理を担当するLにも本件現金が関連法人に帰属するとの認識はなかった。
       そうすると、本件現金の発見以前において、本件現金が関連法人の会計帳簿に資産計上されていなかった点については、関連法人の資産状況等が正しく記帳されているものと認めるのが相当である。
       なお、上記イの(ト)のとおり、本件調査後の令和2年5月8日に、N社の会計帳簿の預り金勘定に本件現金が計上されてはいるものの、これは、本件調査において、調査担当者の指摘を受け、本件現金の帰属が問題となることを認識した後に行われたものであるから、当該預り金勘定に本件現金が計上されたことは、上記認定を左右しない。
       したがって、本件現金は、関連法人のいずれかに帰属するものとは認められない。
    • (ニ) まとめ
       以上のとおり、本件現金が関連法人のいずれかに帰属するものであるとは認められないところ、本件現金を本件金庫に保管し、管理していたのが本件被相続人自身であり、本件被相続人が本件金庫及び本件大金庫に本件被相続人の個人的な財産についても保管していたことに加え、本件現金について、本件被相続人が他から預託を受けて保管していた金員であることをうかがわせる事情も見当たらないことに照らせば、本件現金は、本件被相続人が本件被相続人名義の預金通帳とともに本件金庫内に保管していた自らの固有財産と認めるのが相当である。
       したがって、本件現金は本件被相続人に帰属するものであり、本件相続財産に含まれると認めるのが相当である。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件被相続人が本件現金を保管・管理していたことをもって、本件現金を本件相続財産とすることはできない旨主張する。
       しかしながら、本件現金が本件相続財産に含まれると判断されることは上記ロのとおりであり、本件被相続人が本件現金を保管・管理していたことのみをもって判断したものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件金庫は、N社の所有物であり、同社の金庫としての機能を中心として利用されていたものであり、本件被相続人の個人的な預金通帳等を保管するために存在していたものではないから、本件現金を本件相続財産とすることはできない旨主張する。
       しかしながら、本件被相続人は、関連法人の財産とともに個人的な財産を保管するため、本件金庫及び本件大金庫の双方を使用していたものと認められることは上記ロの(ロ)のとおりであるから、仮に、本件金庫がN社の金庫としての機能を中心として利用されていたとしても、そのことは、本件現金が本件被相続人に帰属し、本件相続財産に含まれるとの判断を左右するものではない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、本件現金は会社のものではない旨のLの申述をもって、本件現金が関連法人のものではないと認定することはできない旨主張する。
       しかしながら、本件現金が関連法人のものではないことは上記ロで述べたとおりであり、Lの申述のみをもって判断したものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件被相続人からJに対しJ名義口座に係る財産が贈与された時期はいつか。)について

  • イ 法令解釈
     贈与は、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方(受贈者)が受諾することによってその効力を生ずる(民法第549条)。もっとも、書面によらない贈与については、履行の終わった部分を除き、各当事者が撤回することができる(民法第550条)。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件贈与証について
       Lは、本件子ら名義口座の開設当時、本件被相続人から本件贈与証の保管を任され、以後、N社事務所内の自己の机の中に保管していたところ、本件調査開始後の令和元年9月、Jから本件贈与に関する資料がないかとの問合せを受け、Jに対し本件贈与証を提示し、また、Jは、その時初めて本件贈与証の存在を認識した。
    • (ロ) J名義口座の開設とその後の状況について  
      • A Jは、J名義口座の開設手続や本人確認書類の準備を自ら行ったことはなく、本件被相続人からJ名義預金の存在について知らされていなかった。
      • B 本件被相続人は、平成27年8月、Jに対し、本件金員とともにJ名義預金の通帳と印章を手渡しするまでは、当該通帳等を自ら保管しており、Jは、当該通帳等を手渡された時に初めてJ名義預金の存在を認識した。
      • C J名義口座の開設時から本件金員の払出しまでの期間において、J名義口座からの出金はない。
      • D 本件被相続人は、平成25年以降、J名義口座への入金が途絶えたことについて、Jにその理由を伝えていない。
  • ハ Jの陳述
     請求人が当審判所に提出した令和2年12月19日付のJの陳述書には、要旨次の記載がある。
    • (イ) 大学卒業後、d県外での会社勤務を経て、平成5年4月にN社に入社して間もなく、本件被相続人とLとの間に子供がいるなどの二人の関係を知った。その後、Lに関する本件被相続人の態度に我慢できなくなり、平成10年7月にN社を退職した。そして、Y社へ入社し、平成13年4月に同社○○支店へ転勤となったが、N社を退職してからは親との連絡を避けていたので○○支店への転勤も一切連絡しなかった。
    • (ロ) 平成13年8月頃、突然、本件被相続人から毎年〇〇〇〇円を贈与する旨の電話があった。
       その際、本件被相続人から、使っていない私(J)の預金口座はないかと聞かれ、そのような口座は持っていないため、そちら(本件被相続人)で作るよう答えたところ、本件被相続人は了解した。
       また、税務署に贈与を否認されるのではないかと本件被相続人に伝えたところ、本件被相続人は証文を書くから大丈夫である旨答えた。その後、当該証文のことについては、すっかり忘れていた。
    • (ハ) その後、毎年、本件被相続人が〇〇〇〇円を私(J)名義の預金口座に入金した頃、本件被相続人から電話で入金した旨を知らされ、礼を言って贈与を受け入れていた。
    • (ニ) 平成27年のお盆の頃に帰省した際、本件被相続人から本件金員とともにJ名義預金の通帳と印章を受け取った。
  • ニ 検討
    • (イ) 本件贈与証に基づく贈与の成立の有無について
       上記1の(3)のハのとおり、本件贈与証は、その記載内容からみて、本件被相続人が、平成13年8月以降、本件子らに対して、それぞれ毎年〇〇〇〇円を贈与する意思を表明したものと認められる。
       なお、本件被相続人が贈与額を年額〇〇〇〇円としたのは、税制改正により平成13年1月1日以降の贈与に係る贈与税の基礎控除が1,100,000円とされたことを踏まえたものであると想定されるところ、本件贈与証に「但し、法律により贈与額が変動した場合は、この金額を見直す。」との記載があることからすると、本件被相続人は、毎年、贈与税がかからない範囲で贈与を履行する意思を有していたことが合理的に推認される。
       しかしながら、本件贈与証には、受贈者の署名押印はなく、上記ロの(イ)のとおり、Jは、本件調査開始後の令和元年9月まで本件贈与証の存在を認識していなかったことからすると、本件贈与証の存在のみをもって、直ちに、本件被相続人とJとの間で、本件被相続人による毎年のJ名義口座への入金に係る贈与が成立していたと認めることはできない。
    • (ロ) Jの陳述の信用性について
       Jは、上記ハのとおり、平成13年に本件被相続人から電話で毎年贈与する旨の申込みがあり、その後も毎年電話で贈与の連絡を受け、受贈の意思を示していた旨の請求人の主張に沿う陳述を行っている。
       そこで、当該Jの陳述の信用性について、以下検討する。  
      • A Jは、本件被相続人から〇〇〇〇円を贈与する旨の申込みがあったとする際に、自身の保有口座を提供することもなく、また、新規の預金口座の開設にも協力していない旨を陳述するのであるが(上記ハの(ロ))、かかる行動は、Jが本件被相続人との関係悪化により、一定期間疎遠であった旨の陳述(上記ハの(イ))を考慮しても、贈与の申込みを受諾した者がとる行動としては不自然であり、合理的な行動とは評価し得ないものである。
      • B また、本件において、本件被相続人は、平成13年にLを通じてJ名義口座を開設し、その後も引き続きJ名義預金の通帳等を管理するとともに(上記1の(3)のニ及び上記ロの(ロ))、J名義預金及び本件贈与証の存在をJに知らせることなく、本件贈与証をJが本件被相続人と疎遠になる一因となったLに預けており(上記ロの(イ))、その後も、平成24年をもって、Jに何ら連絡することなく、J名義口座への入金を停止した(上記1の(3)のニの(ロ)及び上記ロの(ロ))。そして、本件被相続人は、当該停止から3年ほど経過した平成27年8月、Jに対し、J名義預金の残高全額を払い出した本件金員とともにJ名義預金の通帳等を手渡したものであるが(上記1の(3)のニの(ハ)及び上記ロの(ロ))、本件被相続人は、口座開設から上記手渡しまでの約14年間、Jに対して、J名義預金の金融機関名や口座番号も知らせることなく、JがJ名義預金を自由に使用できる状況には置かなかった(上記ロの(ロ))。
         これら一連の経過によれば、本件被相続人は、平成13年にJ名義口座を開設した当時から平成27年に本件金員とともにJ名義預金の通帳等をJに手渡すまでの間、J名義預金をJに自由に使用させる意思はなかったと認められる。
         かかる当事者の行動及び事実の経過からすれば、Jの陳述のうち、本件被相続人から電話で毎年贈与する旨の申込みがあり、その後も毎年、電話で贈与の連絡を受け、その都度、受贈の意思を示していたとする点は、不自然かつ不合理なものといわざるを得ず、他にこれら陳述の内容を直接裏付ける客観的資料もないから、信用することができない。
    • (ハ) Jが本件被相続人から贈与により取得した財産及び当該財産を取得した時期について
       上記(イ)及び(ロ)を併せ考えると、本件において、本件被相続人とJとの間で、本件被相続人による毎年のJ名義口座への入金について、当該各入金時における贈与に係る意思の合致(贈与の成立)があったと認めることはできない。
       一方、上記(ロ)のBで述べた一連の事実経過等に加え、我が国において、親が子に伝えないまま子名義の銀行預金口座を開設の上、金員を積み立てておく事例が少なからず見受けられることに鑑みると、J名義口座は、本件贈与証に記載したとおりの贈与の履行がされているとの外形を作出するために本件被相続人により開設され、平成27年8月まで本件被相続人自身の支配管理下に置かれていたものと認められるから、J名義預金は、本件被相続人に帰属する財産であったと認めるのが相当である。
       そして、本件被相続人は、上記1の(3)のニの(ハ)のとおり、平成27年8月、Jに対し、J名義預金の残高全額を払い出した本件金員を手渡し、Jはそれを受領していることから、本件被相続人とJの間においては、平成27年8月に、本件金員に係る贈与が成立するとともに、その履行がされたものと認めるのが相当である。
  • ホ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、本件被相続人とJとの間で、本件贈与証の作成により包括的に書面による贈与が成立しており、平成13年ないし平成24年の各年において、その受諾及び履行がされているから、Jは、各年においてJ名義口座に係る財産を取得している旨主張する。
     しかしながら、本件贈与証の存在のみをもって、直ちに、本件被相続人とJとの間で、本件被相続人による毎年のJ名義口座への入金に係る贈与が成立していたと認めることはできないこと、及び本件被相続人とJとの間で、本件被相続人による毎年のJ名義口座への入金について、当該各入金時における贈与に係る意思の合致(贈与の成立)があったと認めることはできないことは、上記ニで述べたとおりである。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(請求人名義預金は、本件相続財産に含まれるか否か(具体的には、請求人名義預金は本件被相続人と請求人のいずれに帰属するものか。)。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、平成○年○月○日生まれである。
    • (ロ) Lは、M名義預金及び請求人名義預金の通帳及び印章を、口座開設当時からM又は請求人にそれぞれ引き渡すまで保管していた。
    • (ハ) 請求人名義口座には、口座開設時から平成24年まで、利息を除き、各年に一度の〇〇〇〇円の入金以外に入金はない。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件贈与証に基づく贈与の成立の有無について
       上記(2)のニの(イ)のとおり、本件贈与証は、その記載内容からみて、本件被相続人が、平成13年8月以降、本件子らに対して、それぞれ毎年〇〇〇〇円を贈与する意思を表明したものと認められる。
       そして、Lは、本件被相続人から本件贈与証を預かるとともに(上記(2)のロの(イ))、本件被相続人の依頼により本件子ら名義口座に毎年〇〇〇〇円を入金し(上記1の(3)のニの(ロ))、さらに請求人名義預金の通帳を請求人に渡すまでの間、管理していたことが認められる(上記イの(ロ))。
       ところで、請求人は、上記イの(イ)のとおり、請求人名義口座が開設され、毎年の〇〇〇〇円の入金が開始された平成13年当時は未成年であったところ、上記1の(3)のイの(ロ)のとおり、請求人が本件被相続人に認知されたのは平成27年4月2日であるから、平成13年8月10日以降、請求人が成年に達する平成〇年〇月までの間における請求人の親権者はLのみであった。
       そして、民法第824条《財産の管理及び代表》の規定により、Lは、請求人が成年に達するまでは、請求人の法定代理人として、その財産に関する法律行為についてその子を代表し、その財産を管理する立場にあったと認められる。
       そうすると、Lは、平成13年当時、請求人の法定代理人として、本件被相続人からの本件贈与証による贈与の申込みを受諾し、その結果、平成13年から平成24年に至るまで、当該贈与契約に基づき、その履行として、Lが管理する請求人名義口座に毎年〇〇〇〇円が入金されていたものと認めるのが相当である。
    • (ロ) 請求人名義預金は本件相続財産か否かについて
       上記(イ)のとおり、本件被相続人と請求人との間においては、平成13年当時、本件贈与証に基づく贈与契約が有効に成立していると認められる。
       そして、請求人名義口座は、上記1の(3)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、平成13年8月10日に開設された後、平成13年ないし平成24年までの各年に一度、本件被相続人からの〇〇〇〇円の入金が認められるほかは、上記イの(ハ)のとおり、利息を除き、入金は認められないことから、上記贈与契約の履行のために開設されたものであることは明らかである。
       また、請求人名義預金の通帳及び印章は、上記イの(ロ)のとおり、当初から、Lが保管していたものである。
       そうすると、請求人名義預金は、本件贈与証に基づく入金が開始された当初から、Lが、請求人の代理人として自らの管理下に置いていたものであり、請求人が成人に達した以降も、その保管状況を変更しなかったにすぎないというべきである。
       したがって、請求人名義預金は、平成13年の口座開設当初から、請求人に帰属するものと認められるから、本件相続財産には含まれない。
  • ハ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のロのとおり、Lは、本件贈与証の具体的内容を理解しておらず、本件被相続人の指示に従い請求人名義口座への入金を行っていたにすぎないとして、これらの入金が、請求人へ贈与されたものと認識していたとは認められないことを根拠として、平成13年ないし平成24年の各年において本件被相続人と請求人との間で贈与契約が成立していたとは認められない旨主張する。
       しかしながら、本件贈与証の内容は、上記1の(3)のハのとおり、毎年〇〇〇〇円を贈与するというものであって、その理解が特別困難なものとはいえず、また、上記1の(3)のイの(ニ)のとおり、Lは、関連法人の経理担当として勤務していたことを併せ考えると、Lが本件贈与証の具体的内容を理解していたとみるべきであり、そのことを前提とすると、Lは、自身が手続を行っていた本件被相続人の預金口座から請求人名義口座への資金移動について、本件被相続人から請求人への贈与によるものであると認識していたと認めるのが相当である。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3の(3)の「原処分庁」欄のハのとおり、請求人が、成年に達した以降、本件贈与証の内容を把握していたと認められる証拠はないことや、平成30年に銀行印の紛失手続を行ったこと及び本件調査の結果に基づき請求人名義預金を本件相続財産として修正申告したことを根拠として、平成13年ないし平成24年の各年において本件被相続人と請求人との間で贈与契約が成立していたとは認められない旨主張する。
       しかしながら、Lが、平成13年当時、請求人の法定代理人として、本件被相続人からの本件贈与証による贈与の申込みを受諾していたと認めるのが相当であることは、上記ロの(イ)で述べたとおりである。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各更正処分について
     上記(1)ないし(3)のとおり、本件現金は、本件相続財産に含まれ、本件金員は、平成27年に贈与されたものであるから相続開始前3年以内の贈与として相続税法第19条第1項の規定により課税価格に加算すべきである一方、請求人名義預金は、本件相続財産には該当しない。
     これらに基づき、当審判所において、請求人の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額B」欄のとおりとなる。そうすると、当該請求人の納付すべき税額〇〇〇〇円は、本件更正処分2の額を下回ることとなるから、本件各更正処分は、その一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。
  • ロ 本件各賦課決定処分について
     上記イのとおり、本件各更正処分は、その一部を取り消すべきであり、また、Jが本件相続の開始前3年以内に本件被相続人から贈与を受けた本件金員の申告漏れに係る部分及びHが本件相続の開始前3年以内に本件被相続人から贈与を受けた財産の申告漏れに係る部分を除き、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないところ、これらに基づき、当審判所において、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額を計算すると別表3の14欄のとおり〇〇〇〇円となる。
     そして、請求人の過少申告加算税の額を通則法第65条第1項の規定に基づき計算すると、〇〇〇〇円となる。
     したがって、本件各賦課決定処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり、本件賦課決定処分2の全部を取り消し、本件賦課決定処分1の一部を取り消すべきである。

(5) 本件変更決定処分に対する審査請求について

通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する不服申立ての対象となる処分は、不服申立人の権利又は利益を侵害するものでなければならず、その処分が権利又は利益を侵害する処分であるか否かについては、当該処分により納付すべき税額の総額が増額したか否かにより判断すべきであるところ、本件変更決定処分は、請求人の納付すべき過少申告加算税の額を減額する処分であるから、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 したがって、本件変更決定処分の取消しを求める利益はなく、当該処分に対する審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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