(令和3年7月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の夫名義の預金口座から出金され請求人名義の預金口座等に入金された金員に相当する金額について、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するとして、請求人に対し贈与税の決定処分等をしたところ、請求人が、当該金員の財産的な移転はなく、請求人は何らの利益を受けていないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

相続税法第9条本文は、同法第5条《贈与により取得したものとみなす場合》から第8条まで及び同法第1章第3節《信託に関する特例》に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、H(以下「夫H」という。)の妻である。
  • ロ 請求人は、平成27年3月9日、J証券○○支店に請求人名義の口座(以下「J請求人名義口座」という。)を開設した。
  • ハ 請求人は、平成27年3月11日、K銀行○○支店の夫H名義の普通預金口座(以下「K夫名義口座」という。)から出金した金員○○○○円をJ請求人名義口座に入金し、一旦、J○○ファンドを購入した後換金し、同月17日、L社及びM社の各株式の購入に充てた。
  • ニ 請求人は、平成27年3月19日、K夫名義口座から出金した金員○○○円をJ請求人名義口座に入金し、一旦、J○○ファンドを購入した後換金し、同月23日に、N社、P社及びQ社の各株式並びにJ外貨○○ファンドの購入、同月30日に、J投資信託(以下「本件毎月分配型投資信託」という。)の購入に充てた。
  • ホ 請求人は、平成27年5月21日、K夫名義口座から出金した金員○○○○円をK銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「K請求人名義普通預金口座」という。)に入金し、同日、K請求人名義普通預金口座から○○○○円を同支店に開設した請求人名義の投資信託口座(以下「K請求人名義投資信託口座」という。)へ振り替えた後、その全額をK投資信託(以下「本件追加型投資信託」という。)の購入に充てた(以下、上記ハ及びニのJ請求人名義口座への各○○○○円の入金並びに上記のK請求人名義普通預金口座への○○○○円の入金を併せて「本件各入金」といい、本件各入金に係る合計○○○○円を「本件○○○○円」という。)。
  • ヘ 夫Hは、○○○○を受け、平成27年8月にe市f町にある○○に〇〇した。
  • ト 請求人は、平成28年3月15日、上場株式等の配当等に係る配当所得の源泉徴収税額○○○○円の還付を求めて、平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をした。
     請求人は、上記確定申告に際して、特定口座開設者を請求人、金融商品取引業者等をJ証券○○支店、上場株式等に係る譲渡損失の金額を○○○○円、株式及びオープン型証券投資信託の配当等の額を○○○○円、源泉徴収税額を○○○○円と記載の「平成27年分特定口座年間取引報告書」を併せて提出した。
  • チ 夫Hは、平成29年2月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
  • リ 請求人は、平成29年3月13日、上場株式等の配当等に係る配当所得の源泉徴収税額○○○○円の還付を求めて、平成28年分の所得税等の確定申告をした。
     請求人は、上記確定申告に際して、特定口座開設者を請求人、金融商品取引業者等をK銀行○○支店、オープン型証券投資信託の配当等の額を○○○○円、源泉徴収税額を○○○○円と記載の「平成28年分特定口座年間取引報告書」を併せて提出した。
  • ヌ 請求人は、他の相続人らと共同して、法定申告期限内に本件相続に係る相続税の申告をした。上記申告において、本件各入金を原資とする財産は、課税価格に算入されておらず、また、請求人の納付すべき相続税額は、相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第1項の規定の適用により○○○○円であった。
  • ル 原処分庁の調査担当職員は、令和元年11月5日、請求人の自宅に臨場して、本件相続に係る相続税等の実地の調査をした。
  • ヲ 請求人は、令和2年4月15日、本件各入金を原資とするJ請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座の有価証券等の価額の合計額○○○○円と、現金○○○○円が申告漏れであったとして、本件相続に係る相続税の修正申告をした。なお、当該修正申告における請求人の納付すべき相続税額は、相続税法第19条の2第1項の規定の適用により○○○○円であった。
  • ワ 原処分庁は、令和2年6月30日付で、請求人に対して、本件各入金について、対価を支払わないで利益を受けたと認められるため、相続税法第9条の規定により、請求人が本件○○○○円を夫Hから贈与により取得したものとみなされるとして、課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び無申告加算税の額を○○○○円とする平成27年分の贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • カ 請求人は、上記ト及びリの所得税等の確定申告が誤りであったとして、平成28年分について令和2年8月4日に、平成27年分について同年12月10日に、いずれも、上場株式等の配当等に係る配当所得の金額及び源泉徴収税額が○○○○、還付金の額を○○○○円とする修正申告をした。
  • ヨ 請求人は、令和2年9月11日、原処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当する。 次のとおり、本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当しない。
(1) 本件各入金がされた後、1K請求人名義投資信託口座にあっては、K銀行の担当者が、請求人に投資信託に関する説明を行い、その後も請求人に対して説明やフォローを行っていたこと、2J請求人名義口座にあっては、請求人が、有価証券の購入や運用について、J証券に全て指示又は注文を行っていたこと、3請求人が、金融商品の取引経験がある旨や金融商品に関する勉強のために○○新聞を読んでいる旨を各金融機関の担当者に話していたことから、請求人は、夫Hの意向に拘束されることなく自身の判断に基づいて有価証券の取引を行っていたと認められる。
 上記のように、請求人が自らの判断に基づいて有価証券の取引を行っていたのは、その原資である本件各入金について請求人の資金であるという認識を持っていたからであるというべきである。
(1) J請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座では、請求人が取引に係る書類の記入や実際の手続を行っていたが、その管理・運用は、夫Hの指示又は包括的同意若しくはその意向を忖度したものである。
 したがって、請求人がJ請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座の管理・運用をしていたとしても、贈与契約が成立していない以上、本件各入金を原資とした財産がいずれも夫Hから請求人に移転したということはできない。
(2) 請求人は、J請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座から生ずる投資信託分配金等を、いずれも、K請求人名義普通預金口座に入金し、平成27年分及び平成28年分の所得税等において請求人の所得として確定申告している。 (2) 請求人が平成27年分及び平成28年分の所得税等の確定申告をしたのは、K銀行の担当者から「確定申告をすれば税金が還付される」と教えられたため、税金に関する知識もあまりない請求人が深い考えもなく、近くの税理士に頼んで還付申告の手続を行ったにすぎない。
(3) そして、請求人が本件各入金に見合う額の金員を夫Hに返還した事実がないことから、夫Hは本件各入金に見合う額の経済的利益を失い、その一方で請求人は、本件各入金により経済的利益を受けたものと認められる。 (3) そして、上記(1)のとおり、本件各入金を原資とした財産は、夫Hに帰属するものであるから、夫Hは、何ら経済的利益を失っておらず、一方、請求人は何らの経済的利益を享受していない。
(4) また、相続税法第9条は、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、贈与契約等の原因行為そのものではなく、その結果として取得した経済的成果に担税力を認めて贈与税を課税するものであるから、原因行為が不当利得であるか否かによって同条の規定の適用が妨げられるものではない上、不当利得とは、結局のところ、ある者から別の者に移転した経済的利益であるから、いずれにしても、請求人は経済的な利益を受けたことになる。 (4) 仮に、原処分庁の主張する経済的利益が契約などの法律上の原因がないにもかかわらず本来の利益の帰属者である夫Hの損失と対応する形で請求人が利益を受けたことを意味するのであれば、民法第703条《不当利得の返還義務》の規定によって利益を受けた者は、その受けた利益を損失を受けた者に返還すべき義務を負うことになるから、結局のところ、請求人は何ら経済的な利益を受けていないことになる。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

相続税法第9条は、対価を支払わないで又は著しく低い価額の対価で利益を受けた者がいる場合に、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を、当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税することとした規定である。
 その趣旨とするところは、私法上、贈与によって財産を取得したものと認められない場合に、そのような私人間の法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為を防止し、税負担の公平を図る見地から、贈与契約の有無にかかわらず、その取得した経済的利益を、当該利益を受けさせた者からの贈与によって取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものと解される。
 相続税法第9条が規定する「利益を受けた場合」とは、おおむね利益を受けた者の財産(積極財産)の増加又は債務(消極財産)の減少があった場合等を意味するものと解され、上記趣旨に鑑みると、同条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否かの判定については、対価の支払の事実の有無を実質により判定し、当該経済的利益を受けさせた者の財産の減少と、贈与と同様の経済的利益の移転があったか否かにより判断することを要するものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる 。

  • イ 請求人及び夫Hの生活状況
     請求人は、本件各入金をした当時、年齢が満○歳であったところ、それ以前において、請求人自身のパート等により月数万円の収入を得ていたことがあったものの、請求人及び夫Hら家族(以下「F家」という。)の家計は、主として夫Hの給与等の収入によって賄われていた。
  • ロ 請求人及びF家の財産の管理状況
    • (イ) 請求人は、K夫名義口座に入金のあった夫Hの給与から、毎月一定額を小遣いとして夫Hに交付するなど、F家の収入及び支出等、家計全般を管理していた。
    • (ロ) 請求人は、平成28年5月20日、R銀行○○支店の夫H名義の貸金庫の契約を解除し、同貸金庫に保管されていたF家の自宅の権利証等を、K銀行○○支店の請求人名義の貸金庫に移し替え、同日以後、同貸金庫において保管・管理していた。
       また、請求人は、請求人名義の預金通帳等のほか、K夫名義口座の預金通帳等についても、本件各入金をする以前から、請求人名義の上記貸金庫において保管・管理していた。
    • (ハ) 夫Hは、平成27年5月28日、J証券の夫H名義の口座の取引店を○○支店から○○支店へ変更するとともに、当該口座の取引代理人に請求人を指定する旨の届出をした。
  • ハ 本件各入金に関連する財産の管理状況
    • (イ) K夫名義口座には、平成27年3月6日、S社から○○○○円の入金があった。
    • (ロ) 請求人は、上記1の(3)のハないしホのとおり、本件各入金に係る入出金の手続を全て一人で行った。
    • (ハ) 請求人は、K銀行○○支店の担当者の訪問を受けた時などに、証券や金取引の経験を話したところ、同担当者から本件毎月分配型投資信託と同様の金融商品がある旨の説明を受けるとともに、投資信託に係る金融商品の一つである、本件追加型投資信託を勧められてその購入を決意し、平成27年5月21日、同支店に赴いて、その購入手続を請求人自ら行った。
    • (ニ) K銀行○○支店の担当者は、F家の自宅を訪問した時に、夫Hと数回顔を合わせたことがあったものの、上記投資信託について夫Hから指示を受けたことはなく、夫Hに対しては、請求人に対するものと同様の説明等を行うこともなかった。
    • (ホ) J証券の担当者は、請求人から、S社との金取引やメインバンクのK銀行で外貨取引を行ったことがあるなど、金融取引の経験がある旨を聞き、請求人は、金融取引について詳細な知識や経験を有していると考え、具体的な金融商品の購入等を勧めることは少なかった。
       また、J証券の担当者は、J請求人名義口座の運用について、請求人が、具体的に指示や注文をし、売買等の取引を行っており、夫Hから指示や注文を受けることなどはなかった。
    • (ヘ) J請求人名義口座における取引は、本件各入金から本件相続までの間、上記1の(3)のハ及びニのほかに次のものがあり、これらの売買代金は、いずれも、J○○ファンドの購入又は換金に係る資金に充てられている。また、株式の配当等は、同じJ請求人名義口座に入金されていた。なお、本件毎月分配型投資信託に係る毎月の分配金については、平成27年9月18日以降、K請求人名義普通預金口座へ振り込まれていた。
      • A 平成27年5月27日のJ外貨○○ファンド(上記1の(3)のニで購入のもの)の換金
      • B 平成27年5月28日のP社の株式(同ニで購入のもの)の売却
      • C 平成27年10月2日のN社の株式(同ニで購入のもの)の売却
      • D 平成28年11月7日のM社の株式(同ハで購入のもの)の売却
      • E 平成27年5月15日、同月18日及び同年6月5日の本件毎月分配型投資信託の追加購入
    • (ト) K請求人名義投資信託口座に係る取引は、本件各入金から本件相続までの間、上記1の(3)のホの本件追加型投資信託の購入(平成27年5月22日に購入後、同年11月2日に更に購入)があるのみである。また、本件追加型投資信託に係る毎月の分配金は、K請求人名義普通預金口座に入金されていた。
    • (チ) K請求人名義普通預金口座の入出金は、本件各入金から本件相続までの間、おおむね、上記(ヘ)及び(ト)の各分配金に係る毎月の入金、数千円程度のクレジットカードの利用代金及び1万円程度のスポーツクラブの会費に係る出金があるほか、使途不明の少額の入出金が時折あった。

(3) 検討

  • イ はじめに
    • (イ) 相続税法第9条は、「対価を支払わないで、……利益を受けた場合」と規定するところ、本件各入金が同条に規定する「利益を受けた場合」に該当するか否かの判定については、本件各入金によって、本件○○○○円がK夫名義口座からK請求人名義普通預金口座及びJ請求人名義口座に移転しており、このことが請求人に贈与と同様の経済的利益の移転があったといえるか否か、すなわち本件各入金の時に、請求人に本件○○○○円という財産が移転したか否かを検討する必要がある。
    • (ロ) 一般的に、財産の帰属の判定において、当該財産の名義が誰であるかは重要な一要素となり得るものの、我が国において、自己の財産をその扶養する家族名義の預金等の形態で保有することも珍しいことではない。また、上記の判定において、財産の管理及び運用を行った者が誰であるかも重要な一要素となり得るものの、特に夫婦間においては、一方が他方の財産を、その包括的同意又はその意向を忖度して管理及び運用することはさほど不自然なものとはいえないから、これを殊更重視することは適切ではない。
       そうすると、夫婦間における財産の帰属については、1当該財産又はその購入原資の出捐者、2当該財産の管理及び運用の状況、3当該財産の費消状況等、4当該財産の名義を有することとなった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。
    • (ハ) 本件の場合でも、本件各入金については、K夫名義口座からJ請求人名義口座又はK請求人名義普通預金口座に各入金されたものであるところ、請求人は被相続人である夫Hの妻であることから、本件○○○○円が上記の請求人名義の各口座に入金されたという一事をもって、請求人に帰属すると断ずることはできない。
       したがって、本件各入金が、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するか否かについては、夫婦間における財産の帰属の判定において特に考慮すべき事情を踏まえ、上記(ロ)で述べた1ないし4の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当であり、以下、検討する。
  • ロ 本件○○○○円の帰属について
    • (イ) K夫名義口座については、夫Hの財産であることに争いがないから、K夫名義口座から請求人名義の各口座に入金された本件○○○○円の出捐者は、夫Hである。
    • (ロ) 上記(2)のロのとおり、請求人は、本件各入金の前後を通じて、夫Hの給与等を含むF家の家計全般を管理していたことが認められる。
       そして、本件○○○○円の管理及び運用の状況をみると、K銀行及びJ証券の各担当者は、上記(2)のハの(ハ)ないし(ホ)のとおり、請求人に対する説明等や請求人から取引に係る具体的指示を受けることはあっても、夫Hから指示等を受けたこともなく、かえって、請求人自らが、その判断で本件○○○○円を原資とする金融取引につき、具体的な指示や注文をし、売買を行っていたことなどから、請求人が主体的に本件○○○○円の管理・運用を行っていたものと認められる。
       もっとも、請求人は、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件各入金の以前から、夫Hの財産の一部若しくは全部についても管理していたことが認められることに加え、上記1の(3)のヘのとおり、夫Hが〇〇する必要があったという事情を併せ考えると、請求人が、夫Hから同人の財産に係る管理・運用の包括的同意を得た上で、その財産を主体的に管理・運用していたと解しても、あながち不自然とはいえない。
       そして、本件各入金の前後を通じて請求人が管理していたK夫名義口座などの夫Hの財産について、その全部が請求人に帰属していたものと認めることはできないから、請求人による本件○○○○円の管理及び運用状況は、その帰属の判定を左右するほどの事情とは認めることができない。
    • (ハ) 本件○○○○円を原資とした財産についてみると、まず、J請求人名義口座については、上記(2)のハの(ヘ)のとおり、本件各入金の際に購入した株式の売却等をし、これをJ○○ファンドや本件毎月分配型投資信託で運用している。また、K請求人名義投資信託口座についても、上記(2)のハの(ト)のとおり、本件各入金の際に買い付けた本件追加型投資信託について、1回追加購入し、そのまま運用している。いずれについても、本件各入金から本件相続までの間の2年弱の期間において、頻繁に取引が行われたとは認められない。
       そして、本件毎月分配型投資信託及び本件追加型投資信託の各分配金の入金があったK請求人名義普通預金口座にあっても、上記(2)のハの(チ)のとおり、入出金はほとんどなく、少額の出金はあるものの、その出金は、家計費の一部を賄うためのものと認められる。
       したがって、本件○○○○円について、請求人が自ら私的な用途で費消した事実は認められない。
    • (ニ) これに加えて、請求人において、夫Hの財産の管理・運用という目的から離れて、請求人自らが私的に資金を必要とする事情も認められず、上記イの(ロ)のとおり、我が国において、夫婦間における財産については、一方が自己の財産を他方の名義の預金等の形態で保有することが珍しくないことを併せ考えると、請求人名義の各口座に入金された本件○○○○円につき、請求人によって私的に費消された事実が存在しない本件においては、請求人が専らF家の生計を維持するために夫Hの財産を管理・運用していたと解するのが相当である。
    • (ホ) さらに、夫Hは、上記1の(3)のヘのとおり、平成27年8月には、○○したという経緯が認められることから、請求人は、K夫名義口座の本件○○○○円を管理・運用することを企図し、その便宜に資するよう請求人名義の各口座に移し替えたと解しても不自然とはいえない。
  • ハ 小括
     以上により、上記各事情を考慮すれば、本件各入金によっても、夫Hの財産は、J請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座においてそのまま管理されていたものと評価するのが相当であり、本件○○○○円が請求人に帰属するものと解することはできず、本件各入金により請求人に贈与と同様の経済的利益の移転があったと認めることはできない。
     よって、本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するものとは認められない。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)ないし(3)のとおり、請求人がJ請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座について、1J証券及びK銀行の各担当者の申述から請求人自身の判断で取引を行っていたと認められること、2分配金等がK請求人名義普通預金口座に入金されていたこと、3生じた投資信託分配金等を請求人の所得として平成27年分及び平成28年分の所得税等の確定申告をしたこと、4請求人が本件各入金に見合う額の金員を夫Hに返還した事実がないことから、本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当する旨主張する。
    • (ロ) しかしながら、上記1の主張については、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、本件各入金の前後を通じて夫Hの財産の管理を主体的に行っていたものの、その管理に係る全部の財産が請求人に帰属していたものと認めることはできないから、J請求人名義口座及びK請求人名義投資信託口座において自身の判断で取引を行った事実をもって、請求人においてその利益を受けたと認めることはできない。
    • (ハ) また、上記2の主張については、K請求人名義普通預金口座に、本件各入金を原資とする財産に基づいて発生した分配金等の入金があっても、請求人が私的に費消した事実が認められない本件においては、これを管理・運用していたとの評価の範疇を超えるものとはいえない。
    • (ニ) さらに、上記3の主張について、請求人は、K銀行の担当者の教示に従い、深く考えずに平成27年分及び平成28年分の所得税等の確定申告を行った旨主張しているところ、上記1の(3)のカ及びヲのとおり、請求人が所得税等及び相続税の修正申告をした事実に符合しており、当該主張は、不自然とまではいえない。したがって、本件○○○○円の帰属については、当初、所得税等の確定申告をした事実を殊更重要視すべきではなく、上記ハで示した認定を覆すほどの事情とは認められない。
    • (ホ) そして、上記4の主張については、上記ハのとおり、本件各入金により請求人に贈与と同様の経済的利益の移転があったとは認められないのであるから、本件各入金に見合う額の金員を夫Hに返還しなかったとしても、当該金員について請求人が利益を受けたことにはならない。
    • (ヘ) なお、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(4)のとおり、ある者から別の者に移転した経済的利益が不当利得に該当するとしても、相続税法第9条の規定が適用される旨主張するが、契約などの法律上の原因がない場合に経済的利益を受けた者は、民法第703条の規定により、その受けた利益について損失を受けた者に返還すべき義務を負うことになり、相続税法第9条の規定の適用にあっては、当該義務を考慮することになるのであるから、原処分庁の主張は採用できない。
    • (ト) 以上のとおり、原処分庁の主張には、いずれも理由がない。

(4) 本件決定処分

上記(3)のとおり、本件各入金は、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合には該当しないため、これに該当することを前提にされた本件決定処分は違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(5) 本件賦課決定処分

上記(4)のとおり、本件決定処分は違法であり、本件決定処分に基づく本件賦課決定処分もまた違法となるから、その全部を取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、本件決定処分及び本件賦課決定処分は、いずれもその全部を取り消すこととする。

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