(令和3年10月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、賃貸不動産を売却した審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受け、当該賃貸不動産の売却代金とされた金額のうち賃貸借契約の解約金相当の金額について、不動産所得として所得税等の修正申告書を提出した後、当該金額については臨時所得に該当し、平均課税が適用できるとして、また、当該金額の所得区分は不動産所得ではなく譲渡所得に該当するとして、それぞれ更正の請求をしたところ、原処分庁がいずれも更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 所得税法第2条《定義》第1項第24号は、臨時所得の意義について、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものをいう旨規定している。
  • ロ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
  • ハ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定している。
  • ニ 所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の100分の20以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、同項各号に掲げる金額の合計額とする旨規定している。
     また、所得税法第90条第4項は、同条第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定の適用を受ける旨の記載及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細を記載した書類(以下「平均課税の計算書」という。)の添付がある場合に限り適用する旨規定している。
  • ホ 所得税法施行令第8条《臨時所得の範囲》は、所得税法第2条第1項第24号(臨時所得の意義)に規定する政令で定める所得は、所得税法施行令第8条各号に掲げる所得その他これらに類する所得とする旨規定し、同条第3号に、一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得を掲げている。
  • ヘ 所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う居住者が受ける同項各号に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする旨規定し、同項第2号に、当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するものを掲げている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人とJ社は、平成20年12月5日付で、請求人を賃貸人、J社を賃借人として、要旨次のとおりの内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
     なお、J社は、平成24年4月○日、K社に吸収合併され、本件賃貸借契約における賃借人の地位は、J社からK社へ承継された(以下、承継の前後を通じて両社を「K社」という。)。
    • (イ) 賃貸借の目的物
       d市g町○−○、○−○及び○−○の土地(以下「本件敷地」という。)上に所在する2階建の共同住宅(64戸)(不動産登記上は、同○○○○及び○○○○に所在する3棟の共同住宅であり、以下「本件建物」という。)及び駐車場(64台分)(以下、これらの賃貸借の目的物を併せて「本件賃貸不動産」という。)
    • (ロ) 用途
       賃借人の社員居住専用
    • (ハ) 契約期間
       平成21年7月1日から平成36年(令和6年)6月30日まで(15年間)
       なお、当該契約期間は、平成21年3月12日付の「覚書」と題する書面により、平成21年8月1日から平成36年(令和6年)7月31日までに変更された。
    • (ニ) 賃料等
      • A 家賃 月額3,136,000円(49,000円/1室)
      • B 共益費 月額192,000円
      • C 駐車料 月額192,000円
      • D 敷金 9,408,000円
    • (ホ) 契約条項(以下「本件賃貸借契約条項」という。)
      • A 家賃・駐車料(第4条)
         賃借人は、上記(ニ)の定めに従い、家賃・駐車料を賃貸人に支払うものとする。
      • B 契約の解除(第13条)
        • (A) 賃貸人は、賃借人が上記Aに定める賃料支払義務等に違反した場合において、賃貸人が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間に当該義務が履行されないときは、本件賃貸借契約を解除することができるものとする(第1項)。
        • (B) 賃貸人は、賃借人が本件賃貸不動産の使用目的順守義務等に違反した場合において、当該義務違反により本件賃貸借契約を継続することが困難であると認められるに至ったときは、本件賃貸借契約を解除することができるものとする(第2項)。
        • (C) 賃借人は、次のaないしcのいずれかに該当する場合は、本件賃貸借契約を解除することができる。この場合、残賃貸借期間分の賃料を支払う義務はないものとする(第4項)。
          • a 賃貸人が本件賃貸借契約に定める義務に違反した場合において、当該義務違反により本件賃貸借契約を継続することが困難であると認められるに至った場合(第1号)
          • b 賃貸人が関連する法令に違反した場合、又は本件賃貸不動産が建築基準法等の関連する法令で要求される基準に適合しない場合(第2号)
          • c 本件賃貸借契約条項第19条(公共事業)による事由、その他の賃借人の責に帰さない事由により本件賃貸借契約を継続することが困難であると認められるに至った場合(第3号)
        • (D) 賃借人は、上記(C)のa又はbに該当する場合を除き、本件賃貸借契約の解除に際し、移転料・立退料・補償料等名義の何たるかを問わず、一切金品その他の請求をすることができないものとする(第5項)。
        • (E) 上記(C)に該当せず賃借人の都合により本件賃貸借契約を解除する場合、又は賃借人の原因による契約解除の場合、残賃貸借期間分の賃料を支払わなければならないものとする。ただし、本件賃貸借契約の解除の日が契約期間の開始から5年未満の場合は2年間、5年以上10年未満の場合は1年間を残賃貸借期間から減じた期間分の賃料を支払うこととする(第6項)。
      • C 賃借人の解約(第14条。以下「本件解約金条項」という。)
        前条第4項(上記Bの(C))に該当する場合を除き、賃借人からの中途解約は不可とする。中途解約をする場合は、残賃貸借期間分の賃料を支払わなければならないものとする。ただし、本件賃貸借契約の解約の日が契約期間の開始から5年未満の場合は2年間、5年以上10年未満の場合は1年間を残賃貸借期間から減じた期間分の賃料を支払うこととする。
      • D 協議事項(第24条)
        賃貸人及び賃借人は、本件賃貸借契約条項に定めがない事項又は本件賃貸借契約条項の解釈について疑義が生じた場合は、民法その他の法令及び慣行に従い、誠意をもって協議し、解決するものとする。
  • ロ L信用金庫(現、M信用金庫。以下「本件信用金庫」という。)は、平成21年、本件建物及び本件敷地を含む請求人所有の5筆の土地に、 債務者を請求人とする根抵当権を設定し、平成29年2月28日時点で、請求人に対する433,485,412円の債権を有していた。
  • ハ 請求人は、平成29年7月2日、K社に対し、「解約申入書」と題する書面を交付した。同書面には要旨次のとおり記載されている。
    • (イ) 請求人は、K社に対し、平成29年7月14日をもって本件賃貸借契約を解約することを申し入れる(以下、当該申入れを「本件解約申入れ」という。)。
    • (ロ) 本件解約申入れにより本件賃貸借契約が合意解約に至った場合のK社が請求人に支払う解約金を○○○○円(敷金9,408,000円相殺後の金額)とする。
    • (ハ) 本件解約申入れの後に本件建物の所有権が移転した場合も、本件解約申入れの効力は失われない。
  • ニ 本件信用金庫とK社との間では、平成29年7月13日付の「振込金に対する合意書」と題する書面(以下「本件振込合意書」という。)が作成されており、本件振込合意書には要旨次のとおり記載されている。
    • (イ) K社は、請求人から本件賃貸借契約における賃貸人の地位を承継するN不動産ことP(以下「P氏」という。)との間で本件賃貸借契約を平成29年7月14日に合意解約するに当たり、同月13日に本件信用金庫の指定する口座に夜間処理によって解約金○○○○円を送金する。
    • (ロ) 本件信用金庫は、K社による解約金○○○○円の事前振込みが、平成29年7月14日にK社がP氏との間で本件賃貸借契約を合意解約する前提でなされたものと理解するとともに、万一、同日に合意解約が不成立となった場合、K社の指定する口座に同日中に解約金○○○○円を返金することを承諾する。
  • ホ K社は、平成29年7月13日、本件信用金庫へ解約金○○○○円を送金した(以下、本件信用金庫に送金された金員を「本件解約金相当額」という。)。
  • ヘ 請求人とP氏との間では、平成29年7月14日付の「不動産売買契約書」(以下「本件売買契約書」という。)が作成されており、本件売買契約書には要旨次のとおり記載されている(以下、本件売買契約書による売買契約を「本件売買契約」という。)。
    • (イ) 売買の目的物 本件建物及び本件敷地を含む6筆の土地(上記ロの根抵当権が設定された不動産を含む。以下、これらを併せて「本件不動産」という。)
    • (ロ) 売買代金総額 396,480,000円
    • (ハ) 所有権移転・引渡し・登記手続の日 平成29年7月14日
    • (ニ) 売主 請求人
    • (ホ) 買主 P氏
    • (ヘ) 特約条項
      • A 本件売買契約に伴い、買主は、売主を賃貸人としK社を賃借人とする本件賃貸借契約の賃貸人たる地位及びこれに伴う権利義務の一切を承継する(第25条)。
      • B 本件売買契約に伴い、本件不動産に係る賃借人が本件賃貸借契約に伴い売主に交付した敷金9,408,000円の返還義務についても買主がこれを承継する(第26条)。
      • C 本件売買契約に伴い、売主の本件不動産に係る賃借人に対する本件解約申入れに伴う権利義務も買主に承継され、別に定める買主と本件不動産に係る賃借人との間の解約合意書の締結により、本件不動産に係る賃借人から支払われる解約金○○○○円を受領する地位も売主から買主に移転する(第27条)。
  • ト P氏とK社との間では、本件賃貸借契約の解約に関し、平成29年7月14日付の「解約合意書」と題する書類(以下「本件解約合意書」という。)が作成されており、本件解約合意書には要旨次のとおり記載されている。
    • (イ) P氏は、本件賃貸不動産の所有権を、本件賃貸借契約の賃貸人である請求人から、平成29年7月14日に取得し、本件賃貸借契約の賃貸人の地位も併せて承継したことを確認する。
    • (ロ) P氏とK社は、本件賃貸借契約条項第24条に基づき協議し、平成29年7月14日をもって、本件賃貸借契約を解約することに同意する。P氏は、平成29年7月14日までに解約申入書をK社に交付するものとする。K社は、本件解約合意書の締結後、解約金○○○○円を支払うことに同意する。かかる支払は、K社が本件信用金庫の指定する口座に振り込むことによって行われるものとする。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成30年12月11日に提出した。
  • ハ 請求人は、令和元年5月7日、上記ロの修正申告により不動産所得であるとした金額については、臨時所得に該当し、平均課税が適用されるべきであるとして、総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を別表1の「更正の請求1」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした(以下、当該更正の請求に係る更正請求書を「本件更正請求書」という。)。
     なお、本件更正請求書には、平均課税の適用を受ける旨記載され、平均課税の計算書が添付されていた。
  • ニ 原処分庁は、上記ハの更正の請求に対し、令和元年7月8日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分1」という。)をした。
  • ホ 請求人は、令和元年10月1日に、本件通知処分1を不服として再調査の請求をし、また、本件解約金相当額はそもそも不動産所得ではなく譲渡所得に該当するなどとして、総所得金額及び所得税等の納付すべき税額を別表1の「更正の請求2」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
  • ヘ 再調査審理庁は、上記ホの再調査の請求に対し、令和元年12月24日付で棄却の再調査決定をした。
  • ト 原処分庁は、上記ホの更正の請求に対し、令和元年12月26日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分2」という。)をした。
  • チ 請求人は、上記ヘの再調査決定を経た後の本件通知処分1及び本件通知処分2に不服があるとして、令和2年1月27日にそれぞれ審査請求をした。

2 争点

(1) 本件解約金相当額は、譲渡所得に該当するか不動産所得に該当するか(争点1)。

(2) 本件解約金相当額が不動産所得に該当する場合、臨時所得に該当するか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件解約金相当額は、譲渡所得に該当するか不動産所得に該当するか。)について

請求人 原処分庁
以下のとおり、本件解約金相当額は、本件売買契約に基づく売買代金に含まれており、本件売買契約に基づく本件不動産の対価として請求人が本件不動産の譲受人であるP氏から受領したものであるから譲渡所得に該当する。 以下のとおり、本件解約金相当額は、請求人とK社との間の本件賃貸借契約の解約に基づく解約金として、請求人がK社から受領したものであり、本件賃貸不動産の貸付けにより生じた所得であるから、不動産所得に該当する。
イ 租税回避行為の否認について
 本件について適用可能な個別的な行為計算否認規定も、一般的・包括的な行為計算否認規定も存在しない。
 神戸地方裁判所昭和45年7月7日判決(昭和41年(行ウ)第9号)の判旨は現在では採用し得ない(仮に、上記裁判例が現在でも採用できたとしても、請求人によって選択された法律的形式は、賃貸人の地位とともに不動産を売却するという通常のものであり、経済的合理性に基づく相当なものであるから、その要件を満たさない。)。
 したがって、租税回避行為の否認は認められない。
イ 租税回避行為の否認について
 税法上の所得判定は、契約当事者により選択された法律的形式が異常なものであり、かつ当該異常な選択を正当化する特段の事情がない場合、当該法律的形式に拘束されない(神戸地方裁判所昭和45年7月7日判決(昭和41年(行ウ)第9号)参照)。
 請求人の税負担を減らすために本件解約金相当額を受け取る地位をP氏に承継したかのように見せ掛けた本件は、選択された法律的形式が経済的実質からみて異常なものであり、それを正当化する特段の事情もないから、当事者が選択した法律的形式に拘束されない。
ロ 通謀虚偽表示について
 本件売買契約は、有効な法形式を備えており、通謀も仮装行為も存在しない。
ロ 通謀虚偽表示について
 本件売買契約書に記載された本件不動産の売買代金のうち、請求人とP氏との間で本件不動産の売買代金として認識されていた○○○○円を超える部分は、民法第94条《虚偽表示》第1項に規定する通謀虚偽表示により無効である。
ハ 実質所得者課税について
 本件解約金相当額につき、P氏が収益を享受せず、請求人がその収益を享受したとはいえないから、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》によっても、本件解約金相当額が請求人の不動産所得であるとはいえない。
ハ 実質所得者課税について
 本件解約金相当額を受け取ることについてP氏は単なる名義人にすぎず、所得税法第12条により、本件解約金相当額を受け取ることにより生ずる収益の帰属者は請求人である。

(2) 争点2(本件解約金相当額が不動産所得に該当する場合、臨時所得に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
本件解約金相当額は、本件賃貸借契約の終了に伴い支払われたものであり、本件賃貸借契約条項第13条又は第14条で定められた残賃貸借期間の補償の趣旨を有するから、臨時所得に該当する。 本件解約金相当額は、本件賃貸借契約の残賃貸借期間に係る賃料を根拠として計算されたものではなく、K社が支払義務を有さないもので、請求人の所得を補償する性格を有さないから、臨時所得に該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件解約金相当額は、譲渡所得に該当するか不動産所得に該当するか。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第26条第1項は、上記1の(2)のロのとおり、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定しているところ、ここにいう不動産等の貸付けとは、不動産等を使用収益させることによって一定の経済的利益がもたらされるものをいい、有償契約である賃貸借契約がその中心となるものと解される。そして、賃貸借契約は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって成立する契約であるから、不動産等の貸付けによる所得に係る収入の典型は、使用収益期間に対応して定期的かつ継続的に支払われる賃料であるといえる。
       また、「貸付けによる所得」とは、貸付けに基づく所得又は貸付けを原因とする所得という意味に解されるから、その文理上、不動産所得に係る総収入金額には、賃貸人が賃借人に対して一定の期間、不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有するもののほか、これに代わる性質を有するものも含まれると解される。この趣旨は、上記1の(2)のヘのとおり、所得税法施行令第94条第1項第2号が、不動産所得を生ずべき業務を行う者が受ける当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもので、その業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものも、不動産所得に係る収入金額とする旨規定していることからも明らかである。
    • (ロ) 所得税法第33条第1項は、上記1の(2)のハのとおり、譲渡所得とは「資産の譲渡による所得」をいう旨規定しているところ、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解される。このような趣旨からすると、同項にいう「資産」には、一般に経済的価値が認められて取引の対象とされ、資産の増加益の発生が見込まれる全ての資産を含むと解される。
  • ロ 認定事実
     上記1の(3)の基礎事実、請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、平成20年12月5日、本件賃貸不動産について、K社との間で、期間を15年とする本件賃貸借契約を締結した。
       本件賃貸借契約は、本件解約金条項(本件賃貸借契約条項第14条)において、前条4項に該当する場合(請求人が本件賃貸借契約に定める義務に違反した場合など)を除き、K社から中途解約することはできず、中途解約する場合は、残賃貸借期間分の賃料を支払わなければならない旨定めている。そして、その他の条項において中途解約権を留保する定めはない。
    • (ロ) 請求人は、平成29年6月、本件賃貸不動産を売却して本件信用金庫に対する借入金を返済するため、本件賃貸借契約を中途解約する意向をK社に示したところ、当時、既に本件賃貸不動産を社宅に供していなかったK社は、この意向に応じ、本件賃貸借契約は合意解約されることとなった。請求人、K社、本件不動産の買受人であるP氏及び本件信用金庫の4者は、平成29年6月29日、本件賃貸借契約の解約及び本件不動産を請求人からP氏へ売却することについて合意をした。
    • (ハ) 請求人は、平成29年7月2日、K社に対し、書面により、本件賃貸借契約について同月14日をもって解約する旨を申入れた(本件解約申入れ)。
       なお、本件解約申入れに係る書面には、本件賃貸借契約の合意解約に至った場合のK社から請求人に支払われる解約金を○○○○円(敷金9,408,000円相殺後)とし、本件解約申入れの後に本件不動産の所有権が移転した場合も本件解約申入れの効力は失われないものとする旨記載されている。
    • (ニ) K社は、平成29年7月6日、本件賃貸借契約を次の条件により解約する旨の部内における決裁を了した。
      • A 解約日 平成29年7月14日
      • B 解約金 ○○○○円
      • C 送金額 ○○○○円(敷金9,408,000円相殺後のもの)
      • D 相手方 P氏
      • E 送金先 本件信用金庫(本件賃貸不動産の抵当権者)
      • F 解約金の送金 K社は、本件信用金庫に、夜間処理により解約金○○○○円を送金するが、P氏との合意解約が解約日(平成29年7月14日)に実施されなかった場合には、解約金はK社に返金される。
    • (ホ) K社と本件信用金庫は、平成29年7月13日、本件振込合意書により、次の事項について確認し、同日にK社が本件信用金庫の指定する口座に、夜間処理により解約金○○○○円を送金することを合意した。
      • A 当該送金は、平成29年7月14日にK社とP氏との間で、本件賃貸借契約が合意解約されることが前提であること
      • B 万一、平成29年7月14日にK社とP氏との間で合意解約に至らなかった場合には、解約金○○○○円がK社のもとに返還されるべきものであること
      • C 平成29年7月14日に合意解約が不成立になった場合、本件信用金庫は、K社の指定する口座に同日中に○○○○円を返金すること
    • (ヘ) K社は、平成29年7月13日、本件信用金庫へ解約金○○○○円を送金した。
    • (ト) 請求人は、平成29年7月14日、P氏との間で本件不動産を396,480,000円で売買する旨の本件売買契約を締結し、同日、P氏から上記代金のうち○○○○円の支払を受けた。
       本件売買契約は、特約条項第25条において、本件賃貸借契約の貸主たる地位及びこれに伴う権利義務の一切を承継する旨を定めており、同第27条において、本件売買契約に伴い、請求人のK社に対する本件解約申入れに伴う権利義務もP氏に承継され、別に定めるP氏とK社との間の合意解約の締結により、K社から支払われる解約金○○○○円(本件不動産の明渡し後にP氏がK社に対して負担する金9,408,000円の敷金返還債務を控除した後の金額)を受領する地位も請求人からP氏に移転する旨を定めている。本件売買契約書には、売買代金(396,480,000円)のみが記載され、その内訳の割り付けの記載はない。ただし、P氏は、本件売買契約の売買代金総額396,480,000円の内訳について、本件不動産の代金○○○○円と解約金○○○○円の合計額であると認識していた。
       なお、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員に対して、本件不動産の売却前に本件賃貸借契約を解除し、解約金○○○○円をK社から直接受け取ると税金の負担が増えることから、解約金○○○○円を含んだ396,480,000円で、本件不動産を譲渡する方法により税金の負担を減らすことができると考え、当該方法により本件不動産を売買することに同意したP氏へ売却することとなった旨申述した。
    • (チ) P氏とK社は、平成29年7月14日、本件解約合意書により、次の事項について合意し、本件賃貸借契約を合意解約した(以下、この合意解約を「本件合意解約」という。)。
      • A P氏とK社は、本件賃貸借契約における貸主の地位が、請求人からP氏へ承継されたことを確認したこと
      • B P氏とK社は、本件賃貸借契約条項第24条に基づき協議し、平成29年7月14日をもって本件賃貸借契約を解約することに同意すること
      • C K社は、本件合意解約後、本件信用金庫に対して解約金○○○○円(敷金9,408,000円控除した後のもの)を支払うこと
      • D 上記Cの支払は、K社が、本件信用金庫により指定された口座に振り込むことによって行われること
      • E K社が平成29年7月14日より前に指定された口座に振込みを行ったとしても、本件解約合意書が締結されない限り、解約されたものとはみなされないこと
    • (リ) P氏は、平成29年7月14日に、Q社に対し、本件不動産を220,000,000円で転売した。
       なお、P氏は、本件売買契約の代金を支払うために、転売先であるQ社からあらかじめ、本件不動産の売買代金を受け取り(平成29年7月13日に17,000,000円、翌日14日(売買契約当日)に残金)、本件売買契約の決済資金に充てた。
    • (ヌ) 請求人は、平成29年7月14日、本件信用金庫へ○○○○円を弁済した。また、上記(ヘ)の送金と併せて、本件信用金庫は、平成29年7月14日付で、本件不動産に設定していた根抵当権を抹消した。
  • ハ 検討
    • (イ) 上記ロの(ト)のとおり、本件売買契約の特約条項によれば、本件売買契約は、本件賃貸不動産を含む本件不動産の所有権のみならず、①本件賃貸借契約に基づく賃貸人たる地位及びこれに伴う権利義務の一切、並びに②本件解約申入れに基づきK社から支払われる本件解約金相当額を受領する地位も移転させる趣旨のものと認められる。
       もっとも、本件売買契約書には売買代金の内訳の記載がなく、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件売買契約書に記載の売買代金396,480,000円の全額が本件不動産の譲渡対価である旨主張しているので、この点について以下検討する。
    • (ロ) 上記ロで認定した事実によれば、本件売買契約に関して、次のとおり認めることができる。
      • A 本件解約金相当額の性質は、本件解約金条項に基づく中途解約金であること
         上記ロの(イ)のとおり、本件賃貸借契約には15年の期間の定めがあり、中途解約された場合、K社は、残賃貸借期間分の賃料を中途解約金として支払わなければならないものとされている。また、期間の定めのある賃貸借契約は、民法第618条《期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保》の規定により、解約権を留保しなければ中途解約ができないところ、本件賃貸借契約上、中途解約については、本件賃貸借契約条項第13条第4項に基づくK社からの中途解約権のほかは解約権が留保されていない。したがって、本件賃貸借契約において中途解約ができるのは、本件賃貸借契約条項第13条第4項の場合と合意解約の場合に限られるということになる。そして、本件賃貸借契約が合意解約された場合には、K社には、本件解約金条項に基づき、中途解約金の支払義務が生じるものと解される。
         もっとも、K社が支払った本件解約金相当額は、本件解約金条項に基づく金額より低廉であるが、上記ロの(ロ)ないし(ト)によれば、本件解約金相当額の金額は、K社が請求人の意向を受けて、(本件売買契約より前に)本件賃貸借契約を合意解約することに合意した過程において決定された金額であったと推認される。そして、上記ロの(ロ)のとおり、K社が既に社宅に用いていなかった本件賃貸不動産について本件賃貸借契約を継続していたことや、上記ロの(ロ)ないし(ト)及び(ヌ)のとおり、請求人が、本件不動産を売却して本件信用金庫に対する借入金を返済するために、K社に対して本件賃貸借契約の中途解約の意向を示し、K社の支払った本件解約金相当額とP氏が支払った代金で本件信用金庫に対する借入金を完済して、本件信用金庫が本件不動産に設定した根抵当権が抹消されたことからすると、本件解約金相当額の金額は、請求人にとっては本件信用金庫に対する借入金の完済という目的を達成し得る金額、かつ、K社にとっては本件解約金条項によるよりも有利に本件賃貸借契約を終了させることのできる金額であったことから、合意により決定されたものと推認するのが自然かつ合理的である。
         そうすると、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位にある者が本件解約金条項に基づいて受領すべき中途解約金たる性質のものであり、本件賃貸借契約の残賃貸借期間の賃料を補償する趣旨のものと解される。
      • B 本件賃貸借契約が合意解約され、本件解約金相当額が支払われることが本件売買契約の締結より前に確定していたこと
         上記ロの(ロ)ないし(チ)の各事実からすると、平成29年7月14日に、K社と、請求人から本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位を承継することとなるP氏との間で、本件賃貸借契約が合意解約され、当該合意解約に基づいてK社が本件解約金相当額を請求人の借入金の返済のために本件信用金庫に送金することは、K社が社内の意思決定をした同月6日には確定していたものと推認される。
         すなわち、本件売買契約によりP氏が本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位を承継しても、平成29年7月14日に本件賃貸借契約が合意解約により終了し、本件解約金相当額が支払われることは、既に本件売買契約の締結より前に確定していたものと認められる。
      • C 本件不動産の価格が解約金とは別に形成されていたこと
         一般に、「賃貸人の地位」を付随した不動産の譲渡では、不動産の価格とは別に賃貸人の地位の価格が形成されることはなく、将来にわたって得られる賃料の価値が、当該不動産の価格を形成すると考えられる。しかし、上記Bのとおり、本件の場合には、本件売買契約が締結されるより前に、本件賃貸借契約が平成29年7月14日に合意解約されることが確定しており、請求人とP氏はこのことを了知していたのであるから、将来にわたって得られる賃料の価値が本件不動産の価格を形成しているとは考えられない。
         一方で、上記ロの(ト)のとおり、P氏は、本件売買契約の売買代金総額396,480,000円について、本件不動産の代金○○○○円と本件解約金相当額の合計額であると認識していた。そして、①本件売買契約書には、本件解約金相当額を受領する地位についても承継する旨の記載があることに加え、②上記Aのとおり、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約において賃貸人の地位にある者が本件解約金条項に基づいて受領すべき中途解約金として、本件売買契約より前に賃貸当事者である請求人とK社との間で合意により形成されたものであること、③上記Bのとおり、本件売買契約によりP氏が本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位を承継しても、直ちに本件賃貸借契約が合意解約されて、本件解約金相当額が支払われることが、本件売買契約より前に確定していたことなどからすれば、本件売買契約に当たっては、本件不動産の価格は、本件解約金相当額とは別に、請求人とP氏との間で○○○○円と形成され、これらの合計額が、売買代金396,480,000円とされたものと推認するのが自然かつ合理的である。
      • D ○○○○円という価格が、本件不動産の転売価格と均衡すること
         上記ロの(リ)のとおり、P氏は本件不動産を220,000,000円でQ社に転売し、この転売代金を本件売買契約に基づく売買代金の支払原資の一部としているところ、仮に本件売買契約における売買代金396,480,000円が本件不動産の価格であるとすると、P氏は、不動産業者でありながら仕入価格よりはるかに低い金額で本件不動産を転売したことになって不自然である。これに対して、売買代金396,480,000円のうち、本件不動産の価格が○○○○円であるとすれば、P氏は差益として○○○○円を得たことになり、自然である。
    • (ハ) 上記(ロ)の諸事情を総合すると、本件売買契約は、売買代金総額396,480,000円の全てを本件不動産の譲渡対価とする趣旨のものであったとは解し難い。そして、本件売買契約では、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位も移転されているところ、①不動産賃貸借契約に基づく賃貸人の地位が、不動産所有権とは別個の債権契約上の地位であり、不動産所有権から離れて譲渡可能なものであること、②上記(ロ)のAのとおり、本件解約金相当額が、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位に包含されるものであり、上記(ロ)のBのとおり、本件売買契約の締結前に、本件賃貸借契約が合意解約され中途解約金が支払われることが確定していた本件では、「賃貸人の地位」の交換価値が、本件不動産そのものの交換価値から独立した「本件解約金相当額を受領する地位」の価値として客観的に把握することができること等からすれば、本件売買契約は、売買代金396,480,000円のうち本件解約金相当額の部分を、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位の移転に対する反対給付として定める趣旨のものであったと解するのが相当である。
    • (ニ) 以上によれば、請求人及びP氏の双方は、本件不動産と「賃貸人の地位」について、別個に、それぞれの価格を○○○○円(本件不動産)、○○○○円(「賃貸人の地位」)として認識し、それら2つの財産を本件売買契約の目的としたとみるのが相当であり、請求人は、○○○○円を本件不動産の譲渡の対価として受領し、○○○○円を「賃貸人の地位」の譲渡の対価として受領したと認められる。
       そして、本件解約金相当額については、「賃貸人の地位」の譲渡の対価として受領した金額であり、本件不動産の対価として受領したものではなく、また、「賃貸人の地位」の譲渡対価は、請求人からP氏に承継される限定的な地位の対価であって、その「賃貸人の地位」は、資産として一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、値上がりによる増加益の発生が見込まれるようなものでもないことから、その譲渡対価として受領した本件解約金相当額を譲渡所得に係る収入金額と判断することはできない。
       結局のところ、請求人が「賃貸人の地位」の対価として受領した本件解約金相当額は、平成29年7月14日に本件賃貸借契約が合意解約されることを前提として、K社が「残賃貸借期間の賃料の補償」として支払うことが確定していたものであり、上記(ロ)のAのとおり、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位に包含されるものであることからすると、本件賃貸不動産の貸付けに起因して発生した所得であるといえる。
       よって、上記イの(イ)に照らせば、本件解約金相当額は、不動産所得であるとみるのが相当である。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、①租税回避行為の否認は認められないこと、②本件売買契約は通謀虚偽表示には該当しないこと、③所得税法第12条は、本件解約金相当額が不動産所得に該当するとの根拠にはならないことなどから、本件解約金相当額は不動産所得に該当しない旨主張する。
     しかしながら、上記ハのとおり、当審判所は、本件売買契約の合理的な契約解釈により、本件解約金相当額を不動産所得と判断したものであって、①本件において租税回避行為の否認を認めたものではないこと、②本件売買契約が通謀虚偽表示に当たると認めたものではないこと、③所得税法12条を根拠として、本件解約金相当額を不動産所得と判断したものではないことから、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 争点2(本件解約金相当額が不動産所得に該当する場合、臨時所得に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法は、所得の増加に応じて適用税率を累進的に増加させる超過累進税率を採用しているが、臨時所得は、経常的に発生する所得ではないから、毎年経常的に発生する所得と同様の方式で課税すると、経常的な所得に比べて過重な負担を強いる結果となる。そこで、所得税法第90条は、臨時所得については、平均課税の方法(いわゆる5分5乗方式)により税額を計算し、超過累進税率を緩和して税負担の軽減を図ることができる旨規定し、平均課税の適用対象となる臨時所得の範囲を、同法第2条第1項第24号により委任された所得税法施行令第8条に規定する所得として、その限りで超過累進税率を緩和し、特別に税負担の軽減を図ることとしている。
     このような臨時所得及び平均課税の制度の目的及び内容や各法規の文理解釈からすると、臨時所得の範囲は、所得税法施行令第8条第1号ないし第4号に掲げる各所得及び当該各所得に類する各所得のいずれかに該当するものに限定されるというべきである。
     また、所得税法施行令第8条第3号に規定する「不動産所得…の補償として受ける補償金に係る所得」とは、一般的には、業務の休止、転換又は廃止に伴い生じる逸失利益の補償として受け取る補償金、すなわち、当該業務を継続していれば得られたであろう不動産収入を補償するものに係る所得を指すと解され、また、同号に規定する「に掲げる所得…に類する所得」(同条柱書)とは、その文理上、当該補償金そのものではないものの、これに類する性質を有する所得を指すと解される。
  • ロ 当てはめ
     本件解約金相当額は、上記(1)のハのとおり、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位に包含されるものであり、本件賃貸借契約の「残賃貸借期間の賃料の補償」としての性質を有するものであること、上記1の(3)のイ及び上記(1)のロの(イ)によれば、平成29年7月14日時点において、本件賃貸借契約の残賃貸借期間は3年以上あり、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約に基づく賃料の3年分を上回る金額であることからすると、本件解約金相当額は、所得税法施行令第8条第3号に規定する「業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金」に該当すると認められる。
     よって、本件解約金相当額に係る所得は、臨時所得に該当し、平均課税の適用対象とされるべきである。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、本件解約金相当額は、本件賃貸借契約の残賃貸借期間に係る賃料を根拠として計算されたものではなく、K社が支払義務を有さないもので、請求人の所得を補償する性格を有さないから、臨時所得に該当しない旨主張する。
     しかしながら、本件解約金相当額が、本件賃貸借契約に基づく賃貸人の地位にある者が本件解約金条項に基づいて受領すべき中途解約金たる性質のものであり、本件賃貸借契約の残賃貸借期間の賃料を補償する趣旨のものと解されることは上記(1)のハの(ロ)のAのとおりであるから、原処分庁の主張には理由がない。

(3) 原処分の適法性について

  • 以上のとおり、本件解約金相当額は不動産所得に該当し、所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得に該当する。また、本件解約金相当額以外の所得の金額に争いはないところ、当審判所において、請求人の平成29年分の総所得金額を算出すると、別表1の「修正申告」欄の「総所得金額」欄の金額と同額となる。
     そして、平成29年分において、請求人に変動所得はなく、臨時所得の金額は本件解約金相当額のみと認められるところ、臨時所得の金額○○○○円は、平成29年分の総所得金額(不動産所得の金額○○○○円及び給与所得の金額○○○○円の合計○○○○円)の100分の20以上であることから、所得税法第90条第1項の要件を満たしている。さらに、上記1の(4)のハのとおり、本件更正請求書には、所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨の記載及び平均課税の計算書の添付があることから、同条第4項の要件を満たしており、平均課税が適用される。以上を基に、当審判所において、請求人の平成29年分の所得税等の額について、所得税法第90条第1項の規定を適用して計算すると、納付すべき税額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、請求人の修正申告書に記載された納付すべき税額を下回るから、同修正申告書の提出により納付すべき税額が過大であったと認められる。したがって、原処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
     なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

(4) 結論

  • よって、審査請求は、別紙「取消額等計算書」のとおり取消しを求める限度で理由があるから、その限度で原処分を取り消すこととする。

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