(令和3年11月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、医師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、@健康診断業務及び意見書作成業務に係る収入について、事業所得に係る収入であるとして所得税等の確定申告書を提出し、また、A健康診断業務に係る収入が給与所得に係る収入であるとして所得税等の確定申告書を提出した年分について、当該収入は事業所得に係る収入であったとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が、@については、健康診断業務に係る収入は給与所得、意見書作成業務に係る収入は雑所得に該当するとして所得税等の更正処分等を行い、Aについては、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 所得税法第27条《事業所得》第1項は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
  • ロ 所得税法施行令第63条《事業の範囲》は、所得税法第27条第1項に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする旨規定している。
    • (イ) 農業(第1号)
    • (ロ) 林業及び狩猟業(第2号)
    • (ハ) 漁業及び水産養殖業(第3号)
    • (ニ) 鉱業(土石採取業を含む。)(第4号)
    • (ホ) 建設業(第5号)
    • (ヘ) 製造業(第6号)
    • (ト) 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)(第7号)
    • (チ) 金融業及び保険業(第8号)
    • (リ) 不動産業(第9号)
    • (ヌ) 運輸通信業(倉庫業を含む。)(第10号)
    • (ル) 医療保健業、著述業その他のサービス業(第11号)
    • (ヲ) 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業(第12号)
  • ハ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
  • ニ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人は、職業紹介会社を通じて紹介を受けるなどした医療法人等の健康診断業務等に従事する医師であり、平成28年から平成30年までの間に、次の(イ)ないし(ト)の医療法人等(以下「本件各医療法人等」という。)を含む複数の医療機関の健康診断業務に従事していた。
    • (イ) G会
    • (ロ) H研究所
    • (ハ) J財団
    • (ニ) K診療所
    • (ホ) L協会
    • (ヘ) M協会
    • (ト) N事業団
  • ロ 請求人は、平成28年から平成30年までの間に、上記イの業務以外にも、P社から委嘱された顧問医として、医療過誤事案についての意見書等の作成業務(以下「本件意見書作成業務」という。)に従事していた。
  • ハ 請求人は、上記イ及びロのとおり従事したことにより、平成28年分ないし平成30年分について、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入(以下「本件各収入」という。)を得ていた。
  • ニ 請求人は、本件各収入のうち平成28年分の各収入について、別表1の「平成28年分」欄の「所得区分」欄のうち「確定申告」欄に対応するとおりの所得区分とした上で、別表2の「平成28年分」欄の「確定申告」欄のとおり記載した平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告書を平成29年10月16日に提出した。
  • ホ 請求人は、本件各収入のうち平成29年分及び平成30年分の各収入について、別表1の「平成29年分」欄及び「平成30年分」欄の各「所得区分」欄のうち各「確定申告」欄に対応するとおりの所得区分とした上で、別表2の「平成29年分」欄及び「平成30年分」欄の各「確定申告」欄のとおり記載した平成29年分及び平成30年分の所得税等の青色の各確定申告書を法定申告期限内にそれぞれ提出した。
     なお、請求人がM協会から得た平成29年分の収入は、別表1の「平成29年分」欄の「所得区分」欄のうち「確定申告」欄のとおり、平成29年分の所得税等の確定申告において、各種所得の収入金額に算入されていなかった。
  • ヘ 請求人は、平成30年6月15日、平成28年分の所得税等につき、本件各収入のうち平成28年分の各収入について、別表1の「平成28年分」欄の「所得区分」欄のうち「更正の請求」欄に対応するとおりの所得区分とした上で、別表2の「平成28年分」欄の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
     なお、請求人は、Q地方裁判所において、Rセンターに対し、労働契約上の地位の確認等を求める訴えを提起していたところ、Q地方裁判所は、平成○年○月○日、請求人の労働者性を肯認するには至らないとして請求人の請求を棄却する旨の判決(以下「本件判決」という。)をし、本件判決は確定した。そのため、請求人は、本件判決により請求人が事業所得者であることが確定したとして、上記更正の請求をしたものである。
  • ト 原処分庁は、令和元年8月8日付で、上記ヘの更正の請求に対し、本件各収入のうち平成28年分の収入につき、別表1の「平成28年分」欄の「所得区分」欄のうち「原処分」欄に対応するとおりの所得区分とした上で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
  • チ 原処分庁は、令和元年8月8日付で、請求人に対し、本件各収入のうち平成29年分及び平成30年分の各収入につき、別表1の「平成29年分」欄及び「平成30年分」欄の各「所得区分」欄のうち各「原処分」欄に対応するとおりの所得区分とした上で、別表2の「平成29年分」欄及び「平成30年分」欄の各「更正処分等」欄のとおり、平成29年分及び平成30年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、上記ホのとおり、平成29年分の所得税等の確定申告において、請求人が申告していなかったM協会からの収入は、平成29年分の所得税等の更正処分によって、別表1の「平成29年分」の「所得区分」欄のうち「原処分」欄のとおり、給与所得の収入金額に算入された。
  • リ 請求人は、上記ト及びチの各処分をいずれも不服として令和元年10月16日に審査請求をした。
     なお、審査請求において、請求人が主張する本件各収入の所得区分は、別表1の「所得区分」欄の「請求人の主張」欄のとおりであり、同欄において「事業」と記載された箇所に対応する収入の所得区分について争いがある(以下、別表1の「所得区分」欄の「請求人の主張」欄に「事業」と記載された箇所に対応する収入のうち、平成30年分のP社から得た収入を除いた各収入に係る所得を「本件所得1」といい、平成30年分のP社から得た収入に係る所得を「本件所得2」という。)。

2 争点

(1) 本件所得1は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか(争点1)。

(2) 本件所得2は、事業所得又は雑所得のいずれに該当するか(争点2)。

3 争点についての主張

(1)  争点1(本件所得1は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件所得1は、いずれも所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当する。なお、請求人は、自身が事業所得者であることの理由として、本件判決を挙げるが、本件判決は本件と当事者及び審理の対象を異にするものであり、その効力は及ばない。 次のとおり、本件所得1は、いずれも所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当する。
イ 業務の遂行ないし労務の提供という経済的活動から得られる収入が、事業所得又は給与所得のいずれに該当するかは、自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているといえるかどうかによるものであるところ、これは、当該活動による収益や費用の帰属先、リスクの負担者が誰か、当該活動に対する指揮命令や空間的、時間的拘束の有無などを総合的に考慮して、個別具体的に判断すべきである。 イ 本件判決は、請求人とRセンターとの間の法律関係について、「使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること」及び「労務に対する対償を支払われる者であること」という要素により包括的に判断し、その結果、請求人の立場は、医療法人等から業務を請け負って収入を得る事業所得者であることが確定した。
ロ 請求人は、本件各医療法人等において健康診断業務に従事する際、成果に応じた対価を受領していたわけではなく、勤務状況や勤務時間、勤務場所などを管理・指定され、交通費等の支給を受けるなどしていた。 ロ そして、請求人と本件各医療法人等との間の契約内容や業務内容は、本件判決の当事者であるRセンターと同様であることからすれば(特にH研究所とRセンターの業務担当者とは同じ人物であったことから、それぞれの業務内容は同一である。)、本件判決を援用すべきである。そうすると、請求人は、本件各医療法人等との間においても、事業所得者であることになる。
ハ そうすると、本件各医療法人等における請求人の業務の遂行ないし労務の提供は、自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているとはいえない。
 したがって、本件所得1は、いずれも給与所得に該当する。
ハ また、本件各医療法人等との間の契約は、請求人が派遣会社を通さず、自己の責任と危険を承知した上で契約したものである。
ニ そうすると、本件各医療法人等との間においても、請求人の立場は、医療法人等から業務を請け負って収入を得る、事業所得者であるというべきである。
 したがって、本件所得1は、いずれも事業所得に該当する。

(2) 争点2(本件所得2は、事業所得又は雑所得のいずれに該当するか。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件所得2は、所得税法第35条第1項に規定する雑所得に該当する。

イ 一定の経済的行為から得られる収入が事業所得に該当するか否かは、当該経済的行為の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無、企画遂行性の有無、費やした精神的、肉体的労力の程度、人的物的設備の有無、資金の調達方法、その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的行為により相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性が存するか否か等の諸要素を総合的に検討して社会通念に照らして判断すべきである。

ロ 本件意見書作成業務は、取引回数及び取引金額からすれば継続性及び反復性に乏しく、当該業務に費やした精神的及び肉体的労力の程度は限定的であった。また、請求人は本件各医療法人等をはじめとする複数の支払先から得ていた給与収入を生活の資としていたことなどの事情を社会通念に照らして判断すると、本件所得2は、事業所得に該当しない。

ハ また、本件所得2は、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、雑所得に該当する。

本件意見書作成業務は、医療訴訟の意見書を依頼に応じて定期的に作成するというものであるから、請求人は、P社から文書の作成業務を請け負って収入を得る、事業所得者といえる。
 したがって、本件所得2は、所得税法第27条第1項に規定する事業所得に該当する。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件所得1は、事業所得又は給与所得のいずれに該当するか。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第27条第1項は、事業所得について「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定し、この規定の委任を受けた所得税法施行令第63条は、上記1の(2)のロのとおり、第1号ないし第12号において事業の範囲を規定している。そして、ここにいう事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解するのが相当である。
     これに対し、所得税法第28条第1項は、給与所得について「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。」と規定しているところ、給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうと解するのが相当であり、給与所得該当性の判断に当たっては、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかを重視するのが相当である。
     また、提供される労務の内容について高度の専門性が要求され、本人にある程度の自主性が認められる場合であっても、労務がその雇用又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供され、その対価として得られた報酬等である限り、給与所得に該当すると解するのが相当である。
     このように、事業所得の本質は、自己の計算と危険において独立して反復継続して営まれる業務から生ずる所得である点にあり、給与所得の本質は、自己の計算と危険によらず、非独立的労務、すなわち使用者の指揮命令ないし空間的、時間的な拘束に服して提供した労務自体の対価として使用者から受ける給付である点にあると考えられる。
     そうすると、営利性や有償性を有し反復継続して行われる業務ないし労務の提供という経済的活動から得られる収入が事業所得に該当するか給与所得に該当するかは、自己の計算と危険によってその経済的活動が行われているかどうか、すなわち経済的活動の内容やその成果等によって変動し得る収益や費用が誰に帰属するか、あるいは費用が収益を上回る場合などのリスクを誰が負担するかという点、遂行する経済的活動が他者の指揮命令を受けて行うものであるか否かという点、経済的活動が何らかの空間的、時間的拘束を受けて行われるものであるか否かという点などを総合的に考慮して、個別具体的に判断すべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) G会における業務について
      • A 請求人は、G会との間で「非常勤職員契約書」を締結し、平成28年から平成30年までの間に、G会において、非常勤職員の医師として健康診断業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         G会から請求人に業務の対価として支払われる金額は、G会の給与規程に基づいて時間単位(1日又は半日)で定められており、残業手当についても支払われることとされていた。
      • B 請求人が従事する健康診断業務については、G会が、業務に必要な器具や薬剤等の備品を支給等しており、請求人が健康診断業務の従事場所に赴くための交通費についてもG会が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてG会がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、非常勤職員として、G会の就業規則(労働基準法第89条《作成及び届出の義務》に基づくもの)及び服務に関する諸規則に従うこととされており、請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、G会から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について書面を作成し、G会に提出することとされていた。
      • D G会は、「健診出勤確認書(出勤簿)」によって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人は、従事する健康診断業務が業務終了予定時刻より早く終了したとしても、原則として従事場所に待機しなければならないこととされていた。請求人から、業務が終了したとして退出の申出があった場合には、当日の受診予定者が全て受付を通過したこと及び請求人が担当する分の診断につき未受診の者がいないことをG会の職員が確認し、その確認が取れた時点で、G会の職員である責任者が、請求人の退出の理由を考慮した上で退出の許可をしたときに限り、請求人は、業務終了予定時刻よりも早く退出することができることとされていた。
    • (ロ) H研究所における業務について
      • A 請求人は、H研究所において、平成28年から平成30年までの間に、医師として健康診断業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         H研究所から請求人に業務の対価として支払われる金額は、H研究所が世間相場の金額から算定したもので、時間単位(1日又は半日)で定められており、請求人による承諾を受けていた。また、請求人が業務終了時刻を越えて業務に従事することは予定されていなかった。
      • B 請求人が従事する健康診断業務については、H研究所が、血圧計や文房具といった業務に必要な備品を貸与しており、請求人が健康診断業務の従事場所に赴くための交通費や宿泊費についてもH研究所が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてH研究所がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、H研究所から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について書面を作成し、H研究所に提出することとされていた。
         なお、請求人が健康診断業務において行う問診の事項は、H研究所とその契約企業との間で合意した契約内容によって決定されていた。
      • D H研究所は、出勤簿によって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人は、従事する健康診断業務が業務終了予定時刻より早く終了したとしても、原則として従事場所に待機しなければならず、例外的に、健康診断実施日に全ての健康診断が終了し、健康診断会場から全職員が退場する場合には、H研究所の職員の指示によって、業務終了予定時刻よりも早く退出することができることとされていた。
    • (ハ) J財団における業務について
      • A 請求人は、J財団から「雇入条件書」の提示を受け、これに基づき、平成28年から平成29年までの間に、J財団において、「技術系職種日々雇用職員」の医師として健康診断(子宮頸がん検診)業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         J財団から請求人に業務の対価として支払われる金額は、「雇入条件書」に基づき、時間単位(1日又は4時間以内)で定められていた。ただし、4時間以内の従事の予定である場合であっても、4時間を超過して従事したときは1日従事した場合と同額が支払われることとされていた。なお、検体数が一定数を超えた場合には、単価(1検体当たり630円)に検体数を乗じた金額が支払われることとされていた。
      • B 請求人が従事する子宮頸がん検診業務については、J財団が、業務に必要な器具等の備品を貸与しており、請求人が子宮頸がん検診業務の従事場所に赴くための交通費や宿泊費についてもJ財団が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてJ財団がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、子宮頸がん検診業務に従事するに当たり、J財団から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、受診票に所見と判定を記載の上、J財団に提出することとされていた。
      • D J財団は、「健診システム」及び「健診実施報告書」によって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、健康診断実施日に全ての健康診断が終了し、全職員が健康診断会場から退場する場合には、請求人も、J財団の責任者の指示によって、業務終了予定時刻よりも早く退出するとされていたものの、請求人の業務が終了したことだけでは、請求人が退出できるものではなかった。
    • (ニ) K診療所における業務について
      • A 請求人は、K診療所において、平成28年から平成30年までの間に、医師として健康診断(子宮がん検診)業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         K診療所から請求人に業務の対価として支払われる金額については、給与規程はないものの、K診療所における目安により、午前9時から12時までの1回の業務への従事で40,000円から45,000円までと定められており、請求人との間では、上記目安の範囲内で、双方協議した上で決定されていた。
      • B 請求人が従事する子宮がん検診業務については、K診療所が、業務に必要な器具や薬剤等の備品を支給等しており、子宮がん検診業務の従事場所に赴くための交通費相当額についても、協議した上でK診療所が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてK診療所がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、子宮がん検診業務に従事するに当たり、K診療所から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について所見用紙に必要事項を記入した上、K診療所に提出することとされていた。
      • D K診療所は、出勤簿によって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人の従事する子宮がん検診業務が業務終了予定時刻より早く終了した場合には、K診療所の職員がその業務の終了を確認した上で、請求人に退出を指示することによって、請求人は、業務終了予定時刻よりも早く退出することができることとされていた。
    • (ホ) L協会における業務について
      • A 請求人は、L協会との間で「雇用契約書」又は「非常勤医師雇用契約書」を締結し、平成28年から平成30年までの間に、非常勤医師として健康診断(婦人科検診)業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         L協会から請求人に業務の対価として支払われる金額は、L協会の給与規程に基づいて日額100,000円と定められており、従事時間が長い業務に関しては、L協会から請求人に対し別途事前に日当を提示することとなっていた。
      • B 請求人が従事する婦人科検診業務については、L協会が、業務に必要な器具や薬剤等の備品を支給等しており、請求人が婦人科検診業務の従事場所に赴くための交通費についてもL協会が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてL協会がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、婦人科検診業務に従事するに当たり、L協会から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について問診票に記載の上、L協会に提出することとされていた。
      • D L協会は、請求人に「医師出動日報(E医師)」を提出させることによって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人の従事する婦人科検診業務が業務終了予定時刻より早く終了した場合には、L協会の職員がその業務の終了を確認した上で、請求人に退出を指示することによって、請求人は、業務終了予定時刻よりも早く退出することができることとされていた。
    • (ヘ) M協会における業務について
      • A 請求人は、職業紹介事業を行うS社(いわゆる派遣会社である。)から紹介され、M協会において、平成29年から平成30年までの間に、医師として健康診断業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         M協会から請求人に業務の対価として支払われる金額は、M協会が、S社からの金額の提案を受けるなどして、時間単位(1日又は半日)で決定しており、残業手当についても支払われることとされていた。
      • B 請求人が従事する健康診断業務については、M協会が、白衣及び聴診器等を貸与しており、請求人が健康診断業務の従事場所に赴くための交通費についても、M協会が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてM協会がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、M協会から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について書面を作成し、M協会に提出することとされていた。
      • D M協会は、請求人に「出勤確認票」を提出させることによって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人は、従事する健康診断業務が業務終了予定時刻より早く終了したとしても、原則として業務終了予定時刻まで待機しなければならないこととされていた。
    • (ト) N事業団における業務について
      • A 請求人は、S社から紹介され、N事業団において、平成28年及び平成30年に医師として健康診断業務に従事し、別表1の「収入金額」欄のとおりの収入を得ていた。
         N事業団から請求人に業務の対価として支払われる金額は、N事業団が、S社から金額の提案を受けるなどして、勤務地や拘束時間等により、時間単位(1日又は半日)で決定していたが、請求人が指定された時間を越えて業務に従事すること自体は想定されていないため残業手当について設定されていなかった。
      • B 請求人が従事する健康診断業務については、N事業団が、業務に必要な健診衣や聴診器等を貸与しており、請求人が健康診断業務の従事場所に赴くための交通費や宿泊費についてもN事業団が負担していた。
         また、業務に関連して、請求人が誤診を含む医療事故等を起こした場合には、原則としてN事業団がその責任を負うこととされていた。
      • C 請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、N事業団から、業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けていた。また、請求人は、従事した業務結果について問診票に記載した上、N事業団に提出することとされていた。
      • D N事業団は、「医師日報」によって、請求人の業務への従事状況を管理していた。
         なお、請求人が従事する健康診断業務が業務終了予定時刻より早く終了した場合には、N事業団の職員(現場担当者)がその業務の終了を確認し、請求人に対し退出を指示することによって、請求人は、業務終了予定時刻よりも早く退出することができることとされていた。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) G会について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(イ)のAのとおり、G会から請求人に支払われる報酬は、G会の給与規程に基づいて、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、非常勤職員の医師として指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめG会との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、健康診断の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(イ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、G会から業務に必要な器具等の支給等を受け、交通費についてもG会が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてG会がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にG会が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(イ)のCのとおり、請求人は、非常勤職員としてG会の就業規則等に従う必要があったことに加えて、G会から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について書面を作成し、G会に提出することとされていたことからすれば、請求人は、G会における健康診断業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、G会の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(イ)のDのとおり、G会は、「健診出勤確認書(出勤簿)」によって、請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が健康診断業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、原則として従事場所に待機しなければならず、例外的に、G会の職員である責任者の許可を受けた場合に早退ができるにすぎなかったことからすれば、請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、G会の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がG会から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、G会の指揮命令に服し、G会による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ロ) H研究所について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ロ)のAのとおり、H研究所から請求人に支払われる報酬は、世間相場に基づいて、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめH研究所との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、健康診断の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ロ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、H研究所から業務に必要な備品の貸与を受け、交通費等についてもH研究所が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてH研究所がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にH研究所が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ロ)のCのとおり、請求人は、H研究所から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について書面を作成し、H研究所に提出することとされていたことからすれば、請求人は、H研究所における健康診断業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、H研究所の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ロ)のDのとおり、H研究所は、出勤簿によって請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が健康診断業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、原則として従事場所に待機しなければならず、例外的に、健康診断実施日の全健康診断が終了し、全職員が退場する場合に、H研究所の職員の指示によって早退ができるにすぎなかったことからすれば、請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、H研究所の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がH研究所から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、H研究所の指揮命令に服し、H研究所による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ハ) J財団について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ハ)のAのとおり、J財団から請求人に支払われる報酬は、J財団が提示した「雇入条件書」によって決定されており、子宮頸がん検診について一定の検体数を超える場合には、検体数に対応して支払われることとされていたものの、当該場合は限定的であり、基本的には、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、「技術系職種日々雇用職員」の医師として、指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめJ財団との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、子宮頸がん検診の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ハ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、J財団から業務に必要な器具等の貸与を受け、交通費等についてもJ財団が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてJ財団がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にJ財団が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ハ)のCのとおり、請求人は、J財団から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、受診票に所見と判定を記載の上、J財団に提出することとされていたことからすれば、請求人は、J財団における子宮頸がん検診業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、J財団の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ハ)のDのとおり、J財団は、「健診システム」及び「健診実施報告書」によって、請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が子宮頸がん検診業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、原則として早退はできず、当日の全ての健康診断が終了し、全職員が退出する場合に、責任者の指示によって早退ができるにすぎなかったことからすれば、請求人は、子宮頸がん検診業務に従事するに当たり、J財団の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がJ財団から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、J財団の指揮命令に服し、J財団による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ニ) K診療所について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ニ)のAのとおり、K診療所から請求人に支払われる報酬は、基本的にはK診療所が定めた範囲内において、請求人と協議の上、従事した回数に対応する金額が支払われることとされていた。すなわち、請求人は、指定された業務に従事すれば、業務の結果に関係なく、あらかじめK診療所との間で従事した回数に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、子宮がん検診の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ニ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、K診療所から業務に必要な器具等の支給等を受け、交通費相当額についても協議の上、K診療所が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてK診療所がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にK診療所が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ニ)のCのとおり、請求人は、K診療所から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について所見用紙に必要事項を記入した上、K診療所に提出することとされていたことからすれば、請求人は、K診療所における子宮がん検診業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、K診療所の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ニ)のDのとおり、K診療所は、出勤簿によって請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が子宮がん検診業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間や従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、K診療所の職員の指示によらなければ早退ができなかったことからすれば、請求人は、子宮がん検診業務に従事するに当たり、K診療所の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がK診療所から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、K診療所の指揮命令に服し、K診療所による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ホ) L協会について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ホ)のAのとおり、L協会から請求人に支払われる報酬は、基本的には、L協会の給与規程に基づき、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、非常勤医師として、指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめL協会との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、婦人科検診の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ホ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、L協会から業務に必要な器具等の支給等を受け、交通費についてもL協会が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてL協会がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にL協会が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ホ)のCのとおり、請求人は、L協会から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について問診票を作成し、L協会に提出することとされていたことからすれば、請求人は、L協会における婦人科検診業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、L協会の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ホ)のDのとおり、L協会は、「医師出動日報(E医師)」によって請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が婦人科検診業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、L協会の職員の指示によらなければ早退ができなかったことからすれば、請求人は、婦人科検診業務に従事するに当たり、L協会の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がL協会から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、L協会の指揮命令に服し、L協会による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ヘ) M協会について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ヘ)のAのとおり、M協会から請求人に支払われる報酬は、M協会が、S社からの金額の提案を受けるなどして時間単位で決定しており、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめM協会との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、健康診断の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ヘ)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、M協会から白衣及び聴診器等の貸与を受け、交通費についてもM協会が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてM協会がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にM協会が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の業務が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ヘ)のCのとおり、請求人は、M協会から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について書面を作成し、M協会に提出することとされていたことからすれば、請求人は、M協会における健康診断業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、M協会の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ヘ)のDのとおり、M協会は、「出勤確認票」によって請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が健康診断業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、原則として業務終了予定時刻までは従事場所に待機しなければならなかったことからすれば、請求人は、健康診断業務に従事するに当たり、M協会の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がM協会から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、M協会の指揮命令に服し、M協会による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (ト) N事業団について
      • A 報酬及び費用等の負担について
         上記ロの(ト)のAのとおり、N事業団から請求人に支払われる報酬は、N事業団が、S社からの金額の提案を受けるなどして時間単位で決定しており、従事した時間に対応して支払われることとされていた。すなわち、請求人は、指定された業務に従事すれば、その業務の結果に関係なく、あらかじめN事業団との間で従事時間に応じて取り決められた対価を請求することができるのであって、健康診断の受診者数の増減や業務の内容に応じて支払われる金額が変動する報酬体系にはなっていなかったことが認められる。
         また、上記ロの(ト)のBのとおり、請求人は、業務に従事するに当たり、N事業団から業務に係る健診衣や聴診器等の貸与を受け、交通費等についてもN事業団が負担していたことに加えて、請求人の誤診等により損害が生じた場合には、原則としてN事業団がその責任を負うものとされていたことからすると、請求人が従事する業務から生じる費用は、基本的にN事業団が負担しており、請求人が当該業務から一般的に生じ得る危険を負担することはなかったものと認められる。
         これらのことは、請求人の事業が、自己の計算と危険において独立して営まれていたことを否定する要素であるといえる。
      • B 指揮命令について
         上記ロの(ト)のCのとおり、請求人は、N事業団から業務内容、従事時間及び従事場所の指定を受けるとともに、従事した業務結果について問診票を作成し、N事業団に提出することとされていたことからすれば、請求人は、N事業団における健康診断業務に従事するに当たり、当該業務の一般的な態様について、N事業団の指揮命令に服していたものと認められる。
      • C 空間的、時間的拘束について
         上記ロの(ト)のDのとおり、N事業団は、「医師日報」によって、請求人の業務への従事状況を管理していたことに加えて、請求人が健康診断業務に従事するに当たり、上記Bのとおり、業務内容、従事時間及び従事場所を定めていた。さらに、請求人が、業務終了予定時刻よりも早く指定された業務を終了したとしても、N事業団の職員の指示によらなければ早退ができなかったことからすれば、請求人は、健康診断業務を行うに当たり、N事業団の空間的、時間的拘束に服していたものと認められる。
      • D 小括
         以上を総合して判断すると、請求人がN事業団から支払を受けた報酬は、自己の計算と危険において独立して営まれる業務から生じたものということはできず、請求人が、N事業団の指揮命令に服し、N事業団による空間的、時間的拘束を受けて行った業務ないし労務提供の対価として得たものであるから、給与所得に該当すると認めるのが相当である。
    • (チ) まとめ
       以上のとおり、本件所得1は、いずれも所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当する。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 上記3の(1)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、請求人は、本件各医療法人等から請け負った業務の内容は、本件判決の当事者であるRセンターのものと同様である(特にH研究所の業務内容はRセンターのものと同一である。)ことからすれば、本件各医療法人等との関係においても、請求人は、事業所得者であり、本件各収入は事業所得に該当するというべきである旨主張する。
       しかしながら、例えば、労務の提供等が使用者の指揮命令に服してされたものであるとはいい難い法人の役員が当該法人から受ける報酬及び賞与が給与所得に含まれるように、税法上における給与所得者と労働基準法上の労働者の判断は、関連する部分もあるが、完全に一致するというものではない。そして、本件と本件判決は、当事者及び審理の対象を異にするものであるから、本件判決の効力が本件に及ばないことは当然である。加えて、本件のような業務から得られる個々の収入の事業所得該当性は、各収入に係る経済的活動について、自己の計算と危険によってそれが行われているかを個別具体的に検討すべきものであるところ、上記ハのとおり、請求人が本件各医療法人等から請け負った業務は、いずれも自己の計算と危険において独立して営まれる業務とはいえない。
       以上によれば、請求人の主張は採用することができない。
    • (ロ) また、上記3の(1)の「請求人」欄のハのとおり、請求人は、本件各医療法人等との間の契約は、請求人が派遣会社を通さず、自己の責任と危険を承知した上で契約したものである旨主張する。
       しかしながら、請求人が本件各医療法人等から請け負った業務は、いずれも自己の計算と危険において独立して営まれる業務といえないことは上記ハのとおりであるし、本件各医療法人等のうち、M協会及びN事業団の業務については派遣会社を通して従事した業務であって、そもそも上記主張の前提を欠くものであるから、請求人の主張は採用することができない。

(2) 争点2(本件所得2は、事業所得又は雑所得のいずれに該当するか。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第27条第1項は、事業所得について「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定し、この規定の委任を受けた所得税法施行令第63条は、上記1の(2)のロのとおり、第1号ないし第12号において事業の範囲を規定している。一方で、所得税法第35条第1項は、「雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」と規定している。
     したがって、業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得又は雑所得のいずれに該当するかを判断するに当たっては、まず、当該所得が事業所得に該当するかについて検討するべきであるところ、事業所得にいう「事業」とは、対価を得て継続的に行う事業をいうものと解される。そして、事業所得にいう「事業」に該当するかどうかは、一応の基準として、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務に当たるかどうかによって判断するのが相当であり、具体的には、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無に加え、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験及び社会的地位、収益の状況等の諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして、「事業」として認められるかどうかによって判断すべきものと解するのが相当である。そして、社会的客観性をもって「事業」として認められるためには、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性がなければならないと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、自宅において本件意見書作成業務を行っており、本件意見書作成業務については、P社から電子メールで依頼があり、請求人がこれを引き受けると、P社からカルテの写し等が請求人の自宅に送付されることになっていた。
     なお、請求人は、P社の依頼に応じて意見書を作成していたが、P社に対し、本件意見書作成業務を依頼するよう自ら働き掛けたことはなかった。
  • ハ 当てはめ
     上記(1)で述べたとおり、本件所得1はいずれも給与所得に該当することから、本件意見書作成業務のみで「事業」として認められるか否かを判断することになる。
     この点、別表1の「収入金額」欄のとおり、本件意見書作成業務を開始した平成28年以降も、請求人の主たる収入は、一貫して健康診断業務等に係る給与収入であり、本件意見書作成業務に係る収入が占める割合は、1割にも満たない状況であった。そして、上記ロのとおり、請求人は、本件意見書作成業務を得るために自らP社に働き掛けなどをしたことはなく、また、本件意見書作成業務は請求人の自宅で行われていたことからしても、請求人が本件意見書作成業務に費やした精神的、肉体的労力の程度は限定的であったものと認められる。
     なお、審判所の調査によっても、本件意見書作成業務のための特別な人的及び物的設備の設置があったとは認められない。
     以上の事情からすると、請求人が本件意見書作成業務のみから相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があるとは認められず、請求人の本件意見書作成業務が社会的客観性をもって「事業」であるとまで認めることはできない。
     そうすると、本件所得2は、事業所得に該当せず、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、所得税法第35条第1項に規定する雑所得であると認められる。
  • ニ 請求人の主張について
     上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、請求人は、P社における請求人の業務は、医療訴訟の意見書を依頼に応じて定期的に作成するというものであり、請求人はP社から文書の作成業務を請け負って収入を得る事業所得者といえるから、本件所得2は事業所得である旨主張する。
     しかしながら、請求人がP社から定期的に依頼を受けて意見書の作成を行っていたとまでは認められず、また、本件意見書作成業務が「事業」と認められないことは上記ハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 原処分の適法性について

  • イ 本件通知処分の適法性について
     上記(1)のとおり、本件所得1はいずれも給与所得に該当すると認められ、請求人が提出した平成28年分の所得税等の確定申告書に記載された総所得金額及び納付すべき税額が過大であるとは認められない。また、本件通知処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件通知処分を不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成28年分の所得税等に係る更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。
  • ロ 本件各更正処分の適法性について
     上記(1)のとおり、本件所得1はいずれも給与所得に該当すると認められ、上記(2)のとおり、本件所得2は雑所得に該当すると認められる。
     そして、当審判所の調査に基づき、請求人の平成29年分及び平成30年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、本件各更正処分の額と同額となる。また、本件各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これらを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
  • ハ 本件各賦課決定処分の適法性について
     上記ロのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

  •  よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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