(令和3年12月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、海苔養殖業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、事業所得の計算上、必要経費に算入した「全自動乾海苔製造装置」等の設備に係る減価償却費について、「水産養殖業用設備(耐用年数5年)」等として計算をしたことに対し、原処分庁が、当該設備は「食料品製造業用設備(耐用年数10年)」に該当するとして、所得税等の更正処分等をしたことから、請求人が原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成20年財務省令第32号による改正(以下「平成20年改正」という。)後のもの。以下「耐用年数省令」といい、同改正前の同省令を「旧省令」という。)第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項第2号は、所得税法施行令第6条第3号に規定する機械及び装置の耐用年数については、別表第二《機械及び装置の耐用年数表》(以下「別表第二」という。)に定める旨規定している。
  • ロ 耐用年数省令の別表第二は、機械及び装置を55に区分し、番号1として食料品製造業用設備を掲げ、その耐用年数は10年とする旨、番号28として水産養殖業用設備を掲げ、その耐用年数は5年とする旨、それぞれ規定している。
  • ハ 耐用年数の適用等に関する取扱通達(平成20年12月26日付課法2−14ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)による改正後のもの。以下「耐用年数通達」といい、改正前の同通達を「旧通達」という。)には、上記ロの55の区分のいずれに該当するかの判定について、次の定めが置かれている。
     なお、「所得税についての耐用年数の適用等に関する取扱いについて」(昭和45年6月4日付直審(所)22(例規)直法4−27国税庁長官通達)において、所得税についての耐用年数の適用等に関する取扱いについても、耐用年数通達に準じて取り扱う旨が定められている。
    • (イ) 耐用年数通達1−4−2《いずれの「設備の種類」に該当するかの判定》は、機械及び装置が一の設備を構成する場合には、当該機械及び装置の全部について一の耐用年数を適用するのであるが、当該設備が別表第二の「設備の種類」に掲げる設備(以下「業用設備」という。)のいずれに該当するかは、原則として、法人の当該設備の使用状況等からいずれの業種用の設備として通常使用しているかにより判定することに留意する旨定めている。
    • (ロ) 耐用年数通達1−4−3《最終製品に基づく判定》は、上記(イ)の場合において、法人が当該設備をいずれの業種用の設備として通常使用しているかは、当該設備に係る製品(役務の提供を含む。以下「製品」という。)のうち最終的な製品(製品のうち中間の工程において生ずる製品以外のものをいう。以下「最終製品」という。)に基づき判定する旨、最終製品に係る設備が業用設備のいずれに該当するかの判定は、原則として、日本標準産業分類の分類によることに留意する旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、a市d町地先の海苔養殖区域において、平成〇年1月から海苔養殖業(以下「本件事業」という。)を営んでいる。
    • (ロ) 請求人は、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
       なお、請求人は、上記各申告において、別表2のとおり、本件事業の用に供する減価償却資産に係る減価償却費を計算した。
    • (ハ) 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件各年分の所得税等について、別表1の「修正申告等」欄のとおりとする各修正申告書を令和2年5月22日に提出した(以下「本件各修正申告」という。)。
       なお、請求人は、本件各修正申告において、別表3の順号1ないし15の各減価償却資産(別表4及び5と同一であり、以下、これらを併せて「本件償却資産」という。)を、本件事業の用に供する減価償却資産とし、同表のとおり、順号12及び14を除くものにつき、耐用年数省令の別表第二の番号28「水産養殖業用設備(耐用年数5年)」として、本件償却資産に係る減価償却費を計算した。
    • (ニ) これに対し原処分庁は、令和2年6月11日付で、本件各修正申告に基づき過少申告加算税の各賦課決定処分を行うとともに、同年11月13日付で、本件調査に基づき、本件償却資産は全て耐用年数省令の別表第二の番号1「食料品製造業用設備(耐用年数10年)」に該当するとして、本件償却資産に係る減価償却費を別表4のとおり計算して、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等について各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ホ) 請求人は、上記(ニ)の本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服とし、本件償却資産は全て耐用年数省令の別表第二の番号28「水産養殖業用設備(耐用年数5年)」に該当するとして、令和2年12月7日に審査請求をした。
  • ロ 日本標準産業分類(平成25年総務省告示第405号。ただし、第13回改定、平成26年4月1日施行に係るもの。以下同じ。)について
    • (イ) 日本標準産業分類の「一般原則」には、@日本標準産業分類は、大分類、中分類、小分類及び細分類から成る4段階構成である旨(第4項)、A当該分類を適用する単位は一事業所ごとである旨(第5項)、B事業所の産業を当該分類に適用(格付)する場合は、上位分類から順次下位分類へと適用する旨(第6項注書)が、それぞれ記載されている。
    • (ロ) 日本標準産業分類の大分類のうち、大分類Bは「漁業」とされており、次の各記載がされている。
      • A 総説
         大分類「B−漁業」の総説には、この大分類には、海面又は内水面において自然繁殖している水産動植物を採捕する事業所、海面又は内水面において人工的施設を施し、水産動植物の養殖を行う事業所及びこれらに直接関係するサービス業務を行う事業所が分類される旨が記載されている。
         また、漁家が「漁業以外の経済活動」を行っていても、それが同一構内(屋敷内)で行われている限り、原則として、そこに複数の事業所があるとはしないが、専従の常用従業者のいる店舗、工場などがあれば、別にそれらの事業所があるものとする旨が記載され、「漁業、水産養殖業と他産業との関係」の(1)「漁家で製造活動を行っている場合」の(イ)には、「主として自家取得した原材料を使用して製造、加工を行っている場合は漁業活動とする。ただし、同一構内に工場、作業所とみられるものがあり、その製造活動に専従の常用従業者がいるときは漁業活動とはしない。」旨が記載されている。
      • B 中分類以下
         大分類「B−漁業」の中分類「04−水産養殖業」の総説には、海面又は内水面において人工的設備を施し、水産動植物を移植、放苗、育成などにより集中的に生産する事業所が分類される旨が記載されている。
         そして、「B−漁業」の中分類「04−水産養殖業」の小分類「041−海面養殖業」には、細分類「0413−藻類養殖業」があるところ、同分類は、「藻類の養殖を行う事業所をいう。」とされ、この分類に含まれる主な産業名の例示として「のり類養殖業」が記載されている。また、養殖でない「のり採取業」については、同じ「B−漁業」の中分類「03−漁業(水産養殖業を除く)」の小分類「031−海面漁業」の細分類「0317−採貝・採藻業」に含まれる主な産業名の例示として記載されている。
    • (ハ) 日本標準産業分類の大分類のうち、大分類Eは「製造業」とされており、次の各記載がされている。
      • A 総説
         大分類「E−製造業」の総説には、この大分類には、有機又は無機の物質に物理的、化学的変化を加えて新たな製品を製造し、これを卸売する事業所が分類される旨が記載されている。
         そして、「製造業と他産業との関係」の(1)「農林漁業との関係」の(ア)は、「農家、漁家が同一構内(屋敷内)で製造活動を行っている場合、主として自家栽培又は取得した原材料を使用して製造加工を行っている場合は大分類A−農業、林業又は大分類B−漁業に分類される。ただし、同一構内に工場、作業場とみられるものがあり、その製造活動に専従の常用従業者がいるときは製造業に分類される。」旨が記載されている。
      • B 中分類以下
         大分類「E−製造業」の中分類「09−食料品製造業」の総説には、畜産食料品、水産食料品などの製造を行う事業所が分類される旨が記載されている。その小分類には「092−水産食料品製造業」があり、種々の細分類が置かれているが、うち細分類「0922−海藻加工業」に含まれる代表的な産業の例示においては、上記(ロ)のBの「のり採取業」が含まれないことが明記され、上記「のり採取業」には「(採取し乾燥するもの)」との付記がされている。

2 争点

 本件償却資産は、耐用年数省令の別表第二の番号1「食料品製造業用設備(耐用年数10年)」又は番号28「水産養殖業用設備(耐用年数5年)」のいずれに該当するか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件償却資産は、耐用年数省令の別表第二の番号1「食料品製造業用設備」に該当する。 本件償却資産は、耐用年数省令の別表第二の番号28「水産養殖業用設備」に該当する。
  • (1) 耐用年数通達1−4−2は、設備の耐用年数は「モノの年数」が基本であり、「モノの年数」を求めるためにそれぞれの機械及び装置の業用設備の区分の判定を行うことから、基本的には、事業者の業種ではなく、その設備の使用状況等からその設備がいずれの業種用の設備に該当するかによって業用設備の区分を判定すべきことを明らかにしたものである。また、耐用年数通達1−4−3は、事業者が当該設備をいずれの業種用の設備として通常使用しているかは、最終製品に基づき判定するとし、最終製品に係る設備が業用設備のいずれに該当するかの判定は、原則として、日本標準産業分類の分類によるとする。そうすると、日本標準産業分類の中分類に従って判定を行えば、基本的に業用設備の区分の判定もできることとなる。
     本件償却資産は、有機的に結合し一体となって大量の乾海苔を反復継続的に製造していることから、乾海苔の製造を目的として有機的に結合することにより1つの設備を構成している。そして、本件償却資産により製造される最終製品は乾海苔であって、乾海苔が水産食料品に該当することは明らかである。そして、水産食料品の製造業は日本標準産業分類上、食料品製造業に該当する。
  • (1) 海苔養殖業者は、人工採苗で養殖した生海苔を乾燥海苔として出荷し、漁業協同組合の検査・入札を経て収入を得ている。つまり、海苔養殖業は、生海苔を最終製品である板状に乾燥し、完成品化するまでが業である。そして、この業は、日本標準産業分類の大分類「B−漁業」の中分類「04−水産養殖業」に該当する。
  • (2) 日本標準産業分類の大分類「B−漁業」の総説中「漁業、水産養殖業と他産業との関係」は、漁家で製造活動を行っている場合に、事業所を日本標準産業分類上どの業種に分類するかの判断基準を示したにすぎず、設備の耐用年数の適用に当たっては、当該設備に係る最終製品に基づき判定することについては、上記(1)のとおりである。
     これに対して、海苔加工業者等と海苔養殖業者とで区別する請求人の主張では、乾海苔を製造する設備が、同一の機能を有し、同一の用に使用されていても、当該設備を使用する者が海苔加工業者等であるか、海苔養殖業者であるかによって、業用設備の区分が異なることになってしまう。同様の設備が使用状況等によって同一区分の業用設備とされない場合があるとしても、乾海苔を製造する設備は、他の用途に使用するなどの特殊な場合は別にして、使用状況等に変わりがなく、最終的に乾海苔を製造する場合には、海苔加工業者等又は海苔養殖業者のいずれが使用していても、「食料品製造業用設備」に区分されるべきである。
  • (2) 日本標準産業分類の大分類「B−漁業」の総説中「漁業、水産養殖業と他産業との関係」の解説における、漁家の「漁業以外の経済活動」とは、海苔養殖業を営んでいる者が、乾燥海苔から焼き海苔を製造する場合等のことを表現していると見るのが相当であり、海苔加工業者や問屋、乾燥のみを請け負う事業、自家の海苔養殖よりも他家の海苔の乾燥量が多い場合は、食料品製造業に該当することに異論はない。
     しかし、請求人のように、自ら養殖した生海苔を乾燥し収入を得ている事業は、水産養殖業に該当する。
  • (3) 課税庁は、旧通達ではなく、現行の耐用年数通達において定められた取扱いに従うべきである。また、旧通達の取扱いが変更されていないとの主張は請求人の独自の解釈にすぎない。
  • (3) 「のりの養殖業者が有する乾燥機、のりすき機等ののりの加工のために要する設備は、別表第二の『324水産物養殖設備』に該当する。」としていた旧通達2−20−3は、削除されたが、上記別表第二「324水産物養殖設備」は耐用年数通達の別表第二「28水産養殖業用設備」に移行されたのであり、取扱いの変更をきたすものではない。
     取扱いを変更する場合、変更点について耐用年数通達等で明示することが租税法律主義から当然必要であるが、一切明示されていないから、耐用年数通達の改正前後において海苔養殖業者が有する乾燥機等は「水産養殖業用設備」に該当する。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈等

  • 耐用年数省令の別表第二の「設備の種類」は、平成20年改正により、法定耐用年数や資産区分について使用実態を踏まえた見直しが行われ、機械装置については、日本標準産業分類の中分類を基本に、旧省令の390区分から55区分に整理されたものである。このことに、上記区分が、日本標準産業分類の中分類を基本として「〇〇業用設備」という名称で規定されていることを考慮すると、耐用年数省令は、基本的に、事業者の業種ではなく、当該設備がどの業種用の設備に該当するかにより区分を判定する趣旨と解される。
     上記1の(2)のハのとおり、耐用年数通達1−4−2は、機械及び装置が一の設備を構成する場合に、当該設備が別表第二の業用設備のいずれに該当するかは、当該設備の使用状況等からいずれの業種用として通常使用されているかにより判定する旨を定め、同通達1−4−3は、この場合において、いずれの業種用の設備として通常使用されているかは、当該設備に係る最終製品に基づき判定するとした上で、最終製品に係る設備が業用設備のいずれに該当するかは、日本標準産業分類の分類を基礎として判定する旨定めているが、この取扱いは、上記のとおり、平成20年改正において、耐用年数省令の別表第二の資産区分が、社会通念を踏まえた客観性・合理性を有する基準である日本標準産業分類に依拠して行われたことに沿ったものであり、当審判所においても相当と認められる。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件事業について
    • (イ) 本件事業は、①種付けされた海苔網を海上へ展開して海苔の原藻を養殖し、生育した原藻を採取機で摘み取る海上作業と、②摘み取った原藻を自宅敷地内に搬入し、作業場において板状の乾燥海苔(これが「乾海苔」である。)に加工し、漁業協同組合へ出荷するまでの陸上作業から成り、本件償却資産は、上記②の陸上作業の用に供されている。
    • (ロ) 本件事業に従事する者は、請求人、請求人の妻及び父母のほか、通年雇用者及び繁忙期雇用者が各〇名の計〇名であり、いずれの者も、上記(イ)の①海上作業及び②陸上作業の双方に従事し、同②の陸上作業のみに従事する者はいない。
    • (ハ) 上記(イ)の②の陸上作業に用いられる原藻は、全て請求人が同①の海上作業により養殖し、摘採したものである。請求人は、同②の陸上作業のために、原藻を他から仕入れるなどしていない。
    • (ニ) 上記(イ)の②の陸上作業の用に供されている本件償却資産は、請求人の自宅敷地内にある作業場内又は作業場に隣接して一連となって設置されており、摘み取られた原藻を、①洗浄、②異物除去、③カット及び④規定の大きさに成型した上、⑤乾燥させて、乾海苔を製造し、当該乾海苔を⑥折り曲げ、⑦10枚1束の状態にするまでの反復継続した一連の作業工程をそれぞれ担う機械及び装置である。
  • ロ 我が国における海苔の製造・流通過程等について
    • (イ) 日本食糧新聞社発行の「加工海苔入門」には、「現在の日本の海苔の製造工程、流通過程」について、要旨、養殖から一次加工までを行う生産者と、板海苔(乾海苔の別称)を購入し二次乾燥を行い流通させる問屋及び焼海苔や味付海苔の製造(二次加工)を行う二次加工メーカー(問屋及び二次加工メーカーを流通業者と総称する。)とに完全に分離している旨の説明がある。
    • (ロ) 一次加工後の乾海苔は、出荷後、漁業協同組合において等級をつけられ、入札にかけられる。乾海苔は水分量が多いため、生菌数も多く、保管期間や衛生管理上の問題から、そのままの状態で市場に出回ることはほとんどない。
    • (ハ) 海苔養殖業者が一次加工に用いる全自動乾海苔製造装置と、流通業者が二次乾燥(火入れ)に使用する乾燥機は構造が異なるものであり、両工程を一体的に行う機械は存在しない。

(3) 検討及び当てはめ

  • イ 上記(2)のイの(ニ)のとおり、請求人が本件事業の用に供している本件償却資産は、複数の機器で構成されており、これらの各機器は、作業場内又は作業場に隣接して一連となって設置され、養殖した原藻を乾海苔に加工することを反復継続的に行い、出来上がった乾海苔を折り曲げ、10枚1束にして漁業協同組合に出荷できる状態にするまでの一の設備を構成しているものと認められる。また、請求人が本件償却資産をいずれかの業用設備として通常使用しており、その設備に係る最終製品が乾海苔であることは争いがない。
     そうすると、上記(1)のところに照らし、本件償却資産の業用設備の区分の判定は、原則として、最終製品が乾海苔であることを前提に、請求人の業種ではなく、本件償却資産の使用状況等から社会通念に照らし、これが日本標準産業分類の分類によるいずれの業種用として通常使用されているかにより、判定すべきこととなる。
  • ロ そこで、まず、本件償却資産の使用状況等についてみると、上記(2)のイの(イ)ないし(ニ)で認定したところによれば、本件償却資産は、請求人自身が養殖して摘み取った原藻を、自宅敷地内に搬入し、洗浄して10枚1束の乾海苔にするまでの過程で一体的に用いられているものであり、養殖に従事する全ての従業者の共同使用のみに供されているものである。一方、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)で認定したところによれば、我が国では、養殖された原藻は、養殖した業者自身が乾海苔にして漁業協同組合に出荷するのが通常であり、また、出荷された乾海苔は、直ちに食用に供されるものではなく、漁業協同組合から落札した流通業者によって食用に加工されるのが通常であると認められる。
     また、上記(2)のロの(ハ)のとおり、海苔養殖業者が使用する全自動乾海苔製造装置と流通業者が使用する乾燥機は、構造が異なり、両工程を一体として行う機械は存在しないことからすれば、両者は、その目的を異にするものと認められる。
     以上の事情を、社会通念に照らして総合すると、本件償却資産は、自家取得した原藻を乾燥させて出荷できる乾海苔にするために海苔養殖業従事者のみにより通常使用されていると認めるのが相当である。
  • ハ 次に、上記ロの使用状況等から、本件償却資産が日本標準産業分類のいずれの業種用として通常使用されているかを検討すると、「のり類養殖業」は、大分類「B−漁業」の中分類「04−水産養殖業」に含まれる上(上記1の(3)のロの(ロ)のB)、日本標準産業分類は、漁家が同一構内に作業所を設けて製造活動を行っている場合にも、自家取得した原材料を使用して製造、加工を行っているときは、製造活動に専従の常用従業者がいない限り、漁業や水産養殖業以外の産業としないことを明らかにし(同A)、のり採取業については乾燥までを明示的に大分類「B−漁業」の小分類「031−海面漁業」に含めている。
     そうすると、上記ロのとおり、請求人が自家取得した原藻を乾燥させて出荷できる乾海苔にするために海苔養殖業従事者のみにより通常使用されている本件償却資産は、日本標準産業分類の大分類「B−漁業」の中分類「04−水産養殖業」(細分類は「0413−藻類養殖業」)の業種用として通常使用されていると認められる。
     したがって、本件償却資産は、別表第二の番号28「水産養殖業用設備」に該当し、その耐用年数は5年となる。

(4) 原処分庁の主張について

  • イ 上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、原処分庁は、事業者が設備をいずれの業種用の設備として通常使用しているかは、最終製品に基づき判定し、最終製品に係る設備が業用設備のいずれに該当するかの判定は、原則として、日本標準産業分類の中分類に従って判定を行えば、基本的に業用設備の区分の判定ができる旨、本件償却資産により製造される最終製品は乾海苔であって、乾海苔が水産食料品であることは明らかであるから、水産食料品の製造業は日本標準産業分類上、食料品製造業に該当する旨主張する。
     確かに、上記(1)のとおり、耐用年数省令の別表第二の改正は、日本標準産業分類の中分類を基本とした資産区分に整理したものであることから、最終製品に係る設備が業用設備のいずれに該当するかという具体的な判定は、原則として、日本標準産業分類の中分類により行うこととなる。
     しかしながら、本件償却資産が、社会通念に照らして、自家取得した原藻を乾燥させて出荷できる乾海苔にするために海苔養殖業従事者のみにより通常使用されていると認められることは、上記(3)のロのとおりである。日本標準産業分類は、大分類、中分類、小分類及び細分類から成る4段階で構成され、事業所の産業をこの産業分類に適用(格付)する場合には、上位分類から順次下位分類へと適用するとし(上記1の(3)のロの(イ))、大分類「E−製造業」及び「B−漁業」の総説において、漁家が同一構内に作業所を設けて製造活動を行う場合、専従の従業者の有無によりいずれかに分類するとしているのであり(同(ロ)及び(ハ)の各A)、上記認定のような本件償却資産の使用状況等、及び出荷された乾海苔は、直ちに食用に供されるものではなく、食用に加工するのは、漁業協同組合から落札した流通業者であることが通常であると認められる(上記(3)のロ)ことからすれば、最終製品である乾海苔が水産食料品であることは明らかであるとして、本件償却資産が、日本標準産業分類の食料品製造業用として通常使用されていると認めることは、困難である。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
  • ロ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、海苔養殖業者及び海苔加工業者等のいずれにおいても、乾海苔を製造する設備の使用状況等に変わりはなく、最終的に乾海苔を製造しているのであるから、当該設備は「食料品製造業用設備」に区分すべきである旨主張する。
     しかしながら、上記(2)のロのとおり、乾海苔はそのままの状態ではほとんど市場に出回ることはなく、日本の海苔の製造工程と流通工程は、海苔養殖業者と流通業者とに完全に分離しており、海苔養殖業者と流通業者が使用する乾燥機は構造が異なるものであって、両工程を一体となって行う機械は存在しない。また、流通業者が行っているのは、乾海苔の二次乾燥又は二次加工であり、これらの工程を経て製造される最終製品は、本件にいう乾海苔でもないから、海苔養殖業者及び海苔加工業者等のいずれにおいても、乾海苔を製造する設備の使用状況等に変わりはなく、最終的に乾海苔を製造しているとする原処分庁の主張は、その前提に誤りがある。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。

(5) 本件各更正処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件償却資産は、水産養殖業用設備として耐用年数を5年として計算することとなるから、当審判所において、本件償却資産に係る本件各年分の減価償却費の金額を計算すると、別表5のとおりの金額となる。そして、当該減価償却費の金額に基づいて、本件各年分の事業所得の金額及び所得税等の納付すべき税額等を計算すると、別表6及び7のとおりとなり、平成28年分の修正申告に係る納付すべき税額等を下回り、平成29年分及び平成30年分の各更正処分に係る納付税額をいずれも下回る。
 したがって、平成28年分の所得税等の更正処分は、その全部を取り消すべきであり、平成29年分及び平成30年分の所得税等の各更正処分は、いずれもその一部を別紙1及び2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、平成29年分及び平成30年分の所得税等の各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(5)のとおり、平成28年分の更正処分については、その全部を取り消すべきであり、平成28年分の更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
 また、同様に、平成29年分及び平成30年分の各更正処分については、その一部を取り消すべきであるから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により過少申告加算税の額を計算すると、平成29年分が○○○○円及び平成30年分が○○○○円となるところ、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、加算税の確定金額が5,000円未満であるときには、その全額を切り捨てることとなるので、平成29年分及び平成30年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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