(令和4年3月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、「○○○○」と称するデジタルWEBコンテンツの販売をあっせんする事業により報酬を得ていた審査請求人(以下「請求人」という。)が、「○○○○」の購入代金は、事業所得に係る必要経費に該当するとして所得税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 必要経費に関する規定
    • (イ) 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
    • (ロ) 所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項柱書及び第1号は、居住者が支出する家事上の経費及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)で政令で定めるものの額は、その者の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定し、所得税法施行令第96条《家事関連費》第1項柱書及び第1号は、所得税法第45条第1項第1号に規定する政令で定める経費は、家事関連費の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費以外の経費とする旨規定している。
  • ロ 繰延資産に関する規定
     所得税法第2条《定義》第1項第20号は、繰延資産について、事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう旨規定している。
  • ハ 特定商取引に関する規定
     特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第33条第1項は、連鎖販売業とは、物品の販売(そのあっせんを含む。)又は有償で行う役務の提供(そのあっせんを含む。)の事業であって、販売の目的物たる物品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする者を特定利益(その商品の再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする他の者又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんをする他の者が提供する取引料その他の主務省令で定める要件に該当する利益の全部又は一部をいう。以下同じ。)を収受し得ることをもって誘引し、その者と特定負担(その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供をいう。以下同じ。)を伴うその商品の販売若しくはそのあっせん又は同種役務の提供若しくはその役務の提供のあっせんに係る取引(その取引条件の変更を含む。以下「連鎖販売取引」という。)をするものをいう旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ F社(以下「本件会社」という。)の事業について
    • (イ) 本件会社は、平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで、特定商取引法に規定する連鎖販売取引の方法により、「○○○○」と称するデジタルWEBコンテンツ(以下「本件○○」という。)を1口○○○○円(消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含む。)で販売していた。
       なお、本件○○は、本件会社において、○○○○として発売されたものであるが、○○○○ことから、〇年〇月以降、本件○○の内容は、本件会社が作成した「概要書面(平成〇年〇月〇日施行)」と題する書面(以下「本件概要書面」という。)上、○○○○から、本件会社が開発したアプリ等を提供する「デジタルWEBコンテンツ」に変更された。
    • (ロ) 本件○○を購入しようとする者は、必ず、本件会社の会員(以下「本件会員」という。)をあっせん者として、本件会員になるための会員登録をして会員IDを取得する必要があった。そして、会員登録の際には、登録費用として登録申請料○○○○円(消費税等を含む。)を支払うとともに、本件○○を最低1口は購入し、購入代金(1口当たり○○○○円)を支払う必要があった。
       なお、上記会員登録の際の本件○○の購入代金は、本件概要書面上、連鎖販売取引に係る特定負担とされていた。
       また、本件会員は、本件会員が購入した本件○○を再販売できないこととされていた。
    • (ハ) 本件会員は、各々の事業として、本件○○の販売のあっせん活動を行うことができ、本件会社が定めた「ボーナスプラン」に従い、あっせん活動の実績に応じた報酬(特定利益)を得ることができた。
  • ロ 請求人について
    • (イ) 請求人は、平成28年8月から平成29年9月までの間に、本件会員として本件○○の販売のあっせん活動を反復継続して行い(以下、請求人が行った当該あっせん活動を「本件事業」という。)、本件会社から本件事業に係る報酬として平成28年は合計○○○○円、平成29年は合計○○○○円を受領した(以下、平成29年の報酬を「本件収入」という。)。
    • (ロ) 請求人は、別表1のとおり、平成28年8月から平成29年9月までの間に、本件会員となるための会員登録を行うとともに本件○○を購入し、本件会社に対し、登録申請料及び本件○○の購入代金として、合計2,076,840円(消費税等を含む。)を支払った(以下、請求人が支払った2,076,840円を「本件支出」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、本件支出を本件事業に係る費用として必要経費に算入することなく、確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、平成30年12月21日、本件支出は平成29年分の事業所得に係る必要経費に該当するとして、別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
  • ハ 原処分庁は、上記ロの更正の請求に対し、令和元年9月13日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
  • ニ 請求人は、上記ハの処分に不服があるとして、令和元年11月8日に審査請求をした。

2 争点

 本件支出は、平成29年分の本件事業に係る費用として、必要経費に該当するか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
次のとおり、本件支出は、平成29年分の本件事業に係る費用として、必要経費に該当する。 次のとおり、本件支出は、平成29年分の本件事業に係る費用として、必要経費に該当しない。
(1) 請求人は、本件収入を本件事業に係る事業所得として申告しているところ、本件支出は、本件事業を行い、本件収入を得るためのものである。
 したがって、本件支出は、事業所得を生ずべき業務と直接的な関連性を有し、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する。
(1) 本件支出は、本件○○の価値が高騰することを期待した、いわゆる個人資産の運用を目的とした投資としての支出である。
 したがって、本件支出は、本件事業の遂行上必要な費用ではなく、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当しない。
 なお、請求人は、本件支出は、本件収入を得るために支出したものである旨主張するが、本件支出と本件収入との因果関係は明らかではない。
 また、仮に、本件支出が本件事業と何らかの関連があるとしても、本件支出は、いわゆる個人資産の運用を目的とした投資の要素を含むことから、所得税法第45条第1項第1号に規定する家事関連費に該当する。そして、本件支出は、その支出の主たる部分が本件事業の遂行上必要であるとは認められず、本件事業の遂行上必要な部分を明らかに区分できるわけでもないことから、必要経費に算入することはできない。
(2) また、仮に、本件支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当しないとしても、本件支出は、所得税法施行令第7条《繰延資産の範囲》第1項第3号ホに規定する「自己が便益を受けるために支出する費用」であり、所得税法第2条第1項第20号に規定する「事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用」として、繰延資産に該当する。
 そして、請求人は、平成○年中に本件○○の販売が停止されて本件事業を行うことができなくなったことから、本件支出の全額が未償却となった。そうすると、繰延資産である本件支出の金額は、所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項に規定する資産損失として、必要経費に算入することができる。
(2) 本件支出は、上記(1)のとおり、投資としての支出であり、所得税法第2条第1項第20号に規定する「事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用」とはいえず、繰延資産には該当しない。
 したがって、本件支出について、所得税法第51条第1項に規定する資産損失を観念できないから、本件支出は、必要経費に算入することができない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

ある支出が所得税法第37条第1項所定の必要経費として総収入金額から控除され得るためには、それが業務と直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要な支出であることを要する。そして、その該当性の判断は、単に納税者の主観的判断のみによるべきものではなく、当該業務の内容などの個別具体的な事情に即して客観的に行わなければならないと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件概要書面上、本件○○の内容については、本件会社が開発したアプリ等を提供する「デジタルWEBコンテンツ」とされたものの、実際には、アプリの開発自体が実現しなかった。
  • ロ 本件○○の購入は、会員登録時にしか行うことができず、既に本件会員として登録した者であっても、登録時以外に追加で本件○○を購入するには、再度別の会員登録をする必要があり、会員登録の都度新たな会員IDが付与された。本件会員は、付与された会員IDごとに別の会員として本件○○の販売のあっせん活動を行うことが可能であった。
     なお、請求人に付与された会員IDは、別表1の「会員ID」欄のとおりである。
  • ハ 上記1の(3)のイの(ハ)の本件会社が定めた「ボーナスプラン」の内容は、要旨次のとおりであった。
    • (イ) ○○○ボーナス
       本件会員が獲得した新規会員によるあっせん活動の実績等に基づき、本件会社から本件会員に支払われるボーナスであり、本件会員が直接あっせんした会員をレベル1として、そのレベル1の会員が更に直接あっせんした会員をレベル2として、以下、同様に最大レベル5までの新規会員について、各レベルに設定された金額が、各レベルの新規会員数に応じて、本件会員に支払われる。具体的には、新規会員(レベル1)1人のあっせんにつき○○○○円が本件会員に支払われ、レベル1の会員が更に新規会員(レベル2)をあっせんした場合、新規会員(レベル2)1人のあっせんにつき○○○○円が本件会員に支払われる。
       また、レベル1の新規会員が、本件○○を2口以上購入した場合には、1口目をレベル1(あっせん者)、残りの口数は、1口目からあっせんを受けたそれぞれ別の新規会員(レベル2)とみなして、新規会員(レベル1)につき○○○○円のほか、新規会員(レベル2)1口につき○○○○円が本件会員に支払われる。
    • (ロ) ○○○○ボーナス
       本件会社の月の総売上げに、一定の昇格条件(あっせんにより販売した本件○○の金額及びあっせん人数)を満たすことで取得することができるタイトル(○○、○○等の複数の段階がある。)ごとに設定された支給率を乗じて算定した金額を支払原資として、本件会社が決定した分配率で各タイトル保有者に対し分配されるボーナスである。

(3) 当てはめ

  • イ 本件支出が本件事業と直接関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要であるか否かについて検討する前提として、まず、本件事業についてみると、その内容は本件会員として行う本件○○の販売に係るあっせん活動であり、請求人は、上記1の(3)のロの(イ)のとおり、当該あっせん活動を反復継続して行い、上記(2)のハの「ボーナスプラン」に基づき、当該あっせん活動の対価として報酬を受領していたのであるから、本件事業は、請求人が、対価を得ることを目的として本件○○の販売のあっせんを行う事業ということができる。
  • ロ 上記イを踏まえて、本件事業と本件支出の関連性について以下検討する。
    • (イ) 上記1の(3)のイの(イ)のとおり、本件○○は、○○○○として発売されたものである。しかし、上記(2)のイのとおり、○○○○ため、本件会社が開発したアプリ等を提供する「デジタルWEBコンテンツ」という形で販売されることになったものの、本件○○の内容となるアプリの開発自体は実現しなかった。
       そうすると、本件○○は、「デジタルWEBコンテンツ」として利用することができず、何らかの役務の提供をなし得るものではなかったのであるから、請求人が本件○○を購入した時点において、実体がなく、資産的な価値があるものではなかったと推認できる。
       以上の点からすると、基本的に、本件会社において会員登録をして本件○○を購入する者の目的は、本件○○が○○○○されて資産価値を獲得し、その交換価値が上昇することにより、将来的に利益が得られるという期待(投機目的)にあったと考えるのが自然かつ合理的であり、請求人についても同様であったと認められる。
    • (ロ) もっとも、上記1の(3)のイのとおり、本件○○は、特定商取引法上の連鎖販売取引において販売の対象とされていたものであり、本件○○の販売のあっせん活動を行うことにより報酬が得られるという仕組みになっていた。加えて、上記1の(3)のイの(ロ)及び上記(2)のロのとおり、本件○○の販売のあっせん活動をするためには会員登録をして会員IDを取得する必要があり、会員IDを取得するためには登録申請料を支払うとともに、本件○○を購入しなければならなかった。そして、本件○○の購入は、連鎖販売取引に係る特定負担として位置付けられていたことからすると、登録申請料の支払及び本件○○の購入には、単に投機的な面のみならず、本件○○の販売のあっせん活動に不可欠な会員IDを取得するための条件が含まれているものと認められる。
       この点、請求人は、現に平成28年8月から平成29年9月までの間に、事業(本件会員として請求人が行う本件○○の販売のあっせん活動)を反復継続して行い、本件収入を含む報酬を得ているから、本件事業を行うためには会員IDを取得する必要があったといえる。
       そうすると、本件支出のうち、会員IDを取得するためにした支出については、単に本件○○の値上がりを期待した投機目的のみに基づくものとはいえず、客観的にみて、本件事業と直接関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要な初期登録費用に当たると認められる。
       なお、本件事業を行うために取得した会員IDが、別表1の順号1ないし11の各会員IDのうち、どれであるかについては、別表1の順号1ないし11の各会員IDについて、請求人がその個々の会員IDを、投機目的あるいは事業目的と区分して取得するとは考えられず、また、客観的にも区分して取得しているとは認められない。さらに、別表1の順号1ないし11の各会員IDの取得目的がそれぞれ異なることをうかがわせる事情が見当たらないことからすると、別表1の順号1ないし11の各会員IDは、いずれも本件事業を行うために取得した会員IDであると推認できる。
       そして、別表1の順号1の会員IDの取得に要した費用は、登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金であると認められ、別表1の順号2ないし11の各会員IDの取得についても、順号1の会員IDの取得と同様に、それらの各会員IDの取得に要した費用は、登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金であると認めることができる。
    • (ハ) 以上の点からすると、請求人が各会員IDを取得するために支出した登録申請料及び会員IDごとそれぞれ1口分の本件○○の購入代金のみが、本件事業と直接関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要な費用であるといえる。
       したがって、本件支出のうち、別表1の順号1ないし11の各会員IDの取得に要した登録申請料及び会員IDごとそれぞれ1口分の本件○○の購入代金の合計金額○○○○円(○○○○円×11口)は、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する。
  • ハ ただし、所得税法第37条第1項は、その年分の必要経費に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、その年において債務の確定しているものに限る旨規定していることから、原則として、債務が確定した年において必要経費に算入すべきものと解される。この点、別表1の順号3ないし11については、登録申請料及び本件○○の購入代金の支払日並びに会員登録日ともに平成29年中であるから、これらの登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金は、平成29年分の必要経費と認められる。一方、別表1の順号1及び2については、登録申請料及び本件○○の購入代金の支払日並びに会員登録日ともに平成28年中であり、これらの登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金を、平成28年分ではなく平成29年分の必要経費に算入すべきであることを示す証拠もないことからすると、平成29年分の必要経費とは認められない。
     以上によれば、本件支出のうち、平成29年分の本件事業に係る費用として所得税法第37条第1項の必要経費に該当するのは、別表1の順号3ないし11の各会員IDの取得に要した登録申請料及び会員IDごとそれぞれの1口分の本件○○の購入代金の合計金額○○○○円(○○○○円×9口)と認めるのが相当である。

(4) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、本件支出は本件収入を得るためのものであり、その全額が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のロで述べたとおり、本件においては、本件支出のうち、会員IDを取得するためにした支出のみが、客観的にみて、本件事業と直接関係を持ち、かつ、本件事業の遂行上必要な初期登録費用に当たると認められる。そして、別表1の順号1ないし11の1口分の本件○○の購入代金については、会員IDを取得するために支出された初期登録費用と認められるところ、本件支出のうち2口目以上の本件○○の購入代金は、上記(2)のハの(イ)の○○○ボーナスの仕組みからして、請求人が1口目で取得した会員IDの会員(あっせん者)からあっせんを受けて新規会員となる立場で支出したものにすぎず、会員IDを取得するために支出されたものとは認められない。
     したがって、本件○○の2口目以上の購入代金は、必要経費に該当しない。
     以上のとおり、本件支出のうち必要経費に算入されるものは会員IDを取得するために要した登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金であり、それ以外の金額は本件事業と直接関係を持ち、本件収入を得るために必要な費用であったとは認められないのであるから、本件支出の全額が必要経費に該当する旨の請求人の上記主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、仮に、所得税法第37条第1項の必要経費に該当しないとしても、本件支出は同法第2条第1項第20号に規定する繰延資産に該当し、請求人が本件事業を行うことができなくなったことにより、同法第51条を適用し、本件支出の全額を資産損失として、平成29年分の必要経費に算入することができる旨主張する。
     しかしながら、上記1の(2)のロのとおり、繰延資産とは、事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものをいうところ、上記(3)のとおり、本件支出のうち、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当する部分以外については、本件事業の遂行上必要な費用とは認められず、同法第2条第1項第20号に規定する「事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用」に当たらないから、繰延資産には該当しない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ハ さらに、請求人は、本件○○の購入は商品の仕入れであるから、本件○○の購入代金は必要経費に該当する旨も主張するが、上記1の(3)のイの(ロ)及び上記(3)のロの(イ)のとおり、本件○○は、本件会員による販売ができないものとされており、そもそも実体がなく、資産的な価値があるものではなかったと推認されることからすると、本件○○の購入は商品の仕入れであるとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、本件支出は、本件事業の遂行上必要な費用ではないことから、所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当しない旨主張し、仮に、本件支出が本件事業と何らかの関連があるとしても、本件支出は、同法第45条第1項第1号に規定する家事関連費に該当し、その主たる部分が本件事業の遂行上必要であるとは認められず、その必要な部分を明らかに区分することができないので、本件支出は必要経費に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、本件支出のうち、会員IDを取得するためにした支出については、客観的にみて本件事業の遂行上必要な初期登録費用に当たると認められ、かつ、その必要な部分は登録申請料及び1口分の本件○○の購入代金であると明確に区分できるから、原処分庁の上記主張を採用することはできない。

(6) 原処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件支出のうち○○○○円は、平成29年分の必要経費に該当することになる。これに基づき、当審判所が認定した請求人の平成29年分の総所得金額及びその内訳並びに所得税等の還付金の額に相当する税額は、別表3のとおりとなる。
 したがって、請求人の平成29年分の所得税等の確定申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過少であると認められるから、原処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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