(令和4年4月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、生命保険契約等に基づく一時金等を一時所得等に含めるなどして所得税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の過少申告について隠蔽又は仮装の事実があるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、年金受給者であり、令和元年分における公的年金等(所得税法第35条《雑所得》第3項に規定する公的年金等をいう。以下同じ。)の収入金額は〇〇〇〇円であった。
  • ロ 請求人は、下記(イ)及び(ロ)のとおり、各保険会社(以下「本件各保険会社」という。)との間で、保険契約者及び被保険者をいずれも請求人とする各保険契約を締結し、本件各保険会社から当該各保険契約に基づく一時金(以下「本件一時金」という。)及び定期支払金(以下「本件定期支払金」といい、本件一時金と併せて「本件一時金等」という。)を、D銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)への振込みにより受領した。
    • (イ) 本件一時金について
        保険会社:E社
        契約内容: 〇〇〇〇〇
        契約年月日:平成21年(2009年)2月4日
        振込年月日:平成31年(2019年)2月6日
        支払金額:〇〇〇〇円(これに対応する既払保険料は40,000,000円)
    • (ロ) 本件定期支払金について
        保険会社:F社
        契約内容: 〇〇〇〇〇
        契約年月日:平成30年(2018年)6月7日
        振込年月日:令和元年(2019年)6月11日
        支払金額:〇〇〇〇円(これに対応する必要経費等の金額は489,633円)
  • ハ 本件各保険会社は、請求人に対し、本件一時金等の振込日と前後して、本件一時金に係るものとして「〇〇〇支払明細書・お手続き結果のお知らせ」と題する書面を、本件定期支払金に係るものとして「お支払明細」と題する書面(以下、これらの書面を併せて「本件各書面」という。)をそれぞれ送付した。
     本件各書面のうち、「〇〇〇支払明細書・お手続き結果のお知らせ」と題する書面には、本件一時金は一時所得として所得税の課税対象となる旨が、「お支払明細」と題する書面には、本件定期支払金は雑所得として所得税の課税対象となる旨が、それぞれ記載されていた。
  • ニ 請求人は、令和元年(2019年)8月19日、金地金の売却代金〇〇〇〇円をD銀行○○○支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件○○○口座」という。)への振込みにより受領した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、令和2年(2020年)2月、原処分庁から、「令和元年分譲渡所得がある場合の確定申告のお知らせ」と題する書面(以下「本件お知らせ」という。)の送付を受けた。
     本件お知らせには、令和元年(平成31年(2019年))中に不動産・金地金等の譲渡(売却)による利益が発生している場合、他の所得とともに所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告が必要となる旨記載されていた。
  • ロ 請求人は、令和元年分の所得税等について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限内に申告した(以下、当該申告を「本件確定申告」といい、本件確定申告に係る申告書を「本件確定申告書」という。)。
     なお、請求人は、本件確定申告書の作成に当たり、請求人の子の夫であるG(以下「本件親族」という。)にその作成の補助を依頼した。
  • ハ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和2年(2020年)10月27日、請求人宅に臨場し、請求人に対する所得税等の調査を行った。その際、本件調査担当職員は、請求人から、本件口座の預金通帳(以下「本件通帳」という。)の提示を受け、請求人に対し、本件確定申告において本件一時金等が申告漏れとなっている旨指摘した。
  • ニ 請求人は、令和3年(2021年)1月27日、令和元年分の所得税等について、本件一時金等に係る所得を一時所得又は雑所得とするなどして、修正申告書に別表の「修正申告」欄のとおり記載して、修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
  • ホ 原処分庁は、令和3年(2021年)2月26日付で、請求人が本件一時金等を申告しなかったことについて、隠蔽又は仮装の事実が認められるとして、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、本件賦課決定処分に不服があるとして、令和3年(2021年)5月13日に審査請求をした。

2 争点

 請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人は、特定口座における所得は申告不要である旨理解しているなど、税金に係る知識を一定程度有していた上、本件一時金等について、本件各保険会社から課税対象となる旨記載された本件各書面を受け取るなど、本件一時金等が一時所得又は雑所得として課税の対象となることを十分に認識していた。 (1) 請求人は、税務に精通しているわけではなく、また、本件各書面には「所得税の確定申告が必要である」という明確な記載がないから、単に請求人に本件一時金等の課税関係を記した書類が送付されていることをもって請求人がその課税関係を十分に認識していたと認定することはできない。
(2) 請求人は、本件お知らせの送付を受けた際、本件一時金等について自らの想定を超える税負担を回避するため、本件親族に対し、本件通帳を提示せず、金地金の売却代金が振り込まれた本件○○○口座の預金通帳を提示して、本件確定申告書を作成した。 (2) 請求人は、所得税等の申告経験がなかったため、本件確定申告書の作成に当たって、その作成の補助を依頼した本件親族の求めに応じて本件○○○口座の預金通帳を提示したのであり、本件通帳については、求めがなかったから提示しなかったにすぎない。
(3) 請求人は、本件一時金等を申告しないことを意図して、本件各書面を廃棄し、その後本件各保険会社に再発行を依頼しなかった。 (3) 請求人は、本件各書面を廃棄したが、何ら意図せずに「書類の廃棄」をしたにすぎない。
(4) 以上のことから、請求人が本件一時金等に係る所得を含めずに本件確定申告をしたことは、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものというべきである。
 したがって、請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。
(4) 以上のことから、請求人が本件一時金等に係る所得を含めずに本件確定申告をしたことは、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には当たらない。
 したがって、請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて、隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。

(2) 認定事実

原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件一時金等の受領前後における請求人の行為について
    • (イ) 請求人は、平成30年(2018年)6月7日、本件定期支払金に係る保険(上記1の(3)のロの(ロ))の取扱代理店であったD銀行の○○支店(以下「D○○支店」という。)において、当該保険の契約を締結した。
    • (ロ) 請求人は、本件一時金を受領する前に、D○○支店で請求人を担当する営業担当者(以下「本件D担当者」という。)から、口頭で、本件一時金が一時所得に該当し所得税等の確定申告が必要となる旨の説明を受けた。
    • (ハ) 請求人は、本件各保険会社から送付された本件各書面をいずれも廃棄していた。
  • ロ 請求人の確定申告の状況について
    • (イ) 請求人は、平成26年分ないし平成30年分の所得税等について、平成28年分を除き確定申告をしていなかった。また、平成28年分は、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受けるためにした申告であった。
    • (ロ) 請求人は、本件お知らせが届いた後、金地金の売却による利益について本件確定申告をするため、本件親族に本件確定申告書の作成の補助を依頼した。
    • (ハ) 請求人は、本件確定申告において、公的年金等の収入金額を〇〇〇〇円として、雑所得の金額を算定していた。この収入金額には、非課税所得に該当するいわゆる遺族年金の受給額(〇〇〇〇円)も含まれていた。

(3) 検討

本件においては、架空名義の利用や資料の隠匿等といった積極的な行為が存在しないことは明らかであるから、請求人が本件一時金等を本件確定申告において申告しなかった行為が、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否かについては、上記(1)の法令解釈に照らし、請求人が当初から本件一時金等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に該当するか否かにより判断すべきと解される。そこで、以下検討する。

  • イ 請求人が本件一時金等を申告しないことを意図していたか否かについて
    • (イ) 請求人は、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件一時金を受領する前に、本件D担当者から本件一時金に係る課税関係の説明を受けていた。
       また、上記1の(3)のハのとおり、本件各保険会社から請求人に対し本件各書面が送付されており、本件各書面には、いずれも本件一時金等が所得税の課税対象となる旨記載されていた。
       これらのことからすると、請求人は、少なくとも本件一時金等の支払がされる前後の時点において、本件一時金等について、その存在及び所得税等の申告の必要性を認識することができたものと認められる。
    • (ロ) 一方で、請求人は、上記(2)のロの(イ)のとおり、少なくとも平成26年分ないし平成30年分の所得税等については、平成28年分を除いて確定申告をしておらず、また、令和元年分においても、同(ロ)のとおり、原処分庁から本件お知らせが届いたことを動機として、金地金の売却による利益について本件確定申告をしたが、その際、同(ハ)のとおり、非課税所得である遺族年金の受給額も含めて、本件親族に本件確定申告書の作成の補助を依頼している。
       このような状況を踏まえると、請求人は、少なくとも確定申告の経験や税務の知識が豊富であったとはいえない。
    • (ハ) 加えて、請求人は、上記(イ)のとおり、本件一時金等の支払がされる前後の時点において、本件一時金等について所得税等の申告の必要性を認識することができたと認められるものの、上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件D担当者による本件一時金に係る課税関係の説明は口頭により行われており、その説明のあった時期は本件確定申告の時点から約1年以上も前である。また、本件各書面は、本件一時金等の支払明細として送付されたものに所得税の課税の取扱いが付記されたもので、請求人に送付された時期(平成31年(2019年)2月頃及び令和元年(2019年)6月頃)は、いずれも本件確定申告の時点から9か月以上前である。
    • (ニ) そして、請求人は、上記1の(4)のハのとおり、本件調査担当職員による調査の当日に、本件一時金等が入金された本件通帳を本件調査担当職員に対し提示し、本件調査担当職員から本件一時金等の申告漏れを指摘されると、同ニのとおり、その申告漏れを認めて本件修正申告をしている。
    • (ホ) これらのことを併せ考えると、請求人が本件D担当者から本件一時金に係る課税関係の説明を受けた事実、あるいは、請求人が本件各保険会社から本件各書面の送付を受けた事実だけをもって、請求人が、本件確定申告の時点において、本件一時金等の存在及び所得税等の申告の必要性を直ちに認識していたとまではいえず、本件調査担当職員による調査以後の請求人の対応も踏まえると、本件において、請求人が本件一時金等を申告しないことを意図していたとまではいえない。
  • ロ 請求人が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたか否かについて
    • (イ) 上記イの(ホ)のとおり、請求人が本件確定申告の時点で本件一時金等を申告しないことを意図していたとまではいえないが、仮に、請求人が本件一時金等の存在及び所得税等の申告の必要性を認識していたとした場合に、請求人が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたか否かについて、以下検討する。
    • (ロ) 本件においては、請求人が、本件親族に対し本件一時金等の存在を伝えなかった(本件通帳を提示しなかった)ことから、本件一時金等が本件確定申告の対象から遺漏し、過少申告になったことは原処分庁の指摘するとおりである。
       しかしながら、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人と本件親族との間において、本件確定申告書の作成の補助を依頼した際にどのようなやり取りがあったのかは明らかではなく、また、本件一時金等の存在が殊更問題となっていたとする事情も認められないことからすれば、請求人が本件親族に本件一時金等の存在を伝えなかった理由を明らかにすることはできない。
    • (ハ) 請求人は、上記(2)のイの(ハ)のとおり、本件各書面をいずれも廃棄しているが、その事情についても、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人が意図的に本件各書面を廃棄した事実は認められず、請求人が本件各書面についてその内容を理解しないまま廃棄した可能性は否定できない。また、そうである以上、請求人が本件各保険会社に対し本件各書面の再発行を依頼するに至っていないとも考えられる。
    • (ニ) 以上のことから、請求人が本件親族に本件通帳を提示しなかった、あるいは、本件各書面を廃棄したことをもって、請求人が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められない。
  • ハ 小括
     以上のとおり、本件においては、請求人が当初から本件一時金等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合に該当するような事実は認められない。
     したがって、請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとは認められない。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件一時金等について課税の対象となることを十分に認識していたにもかかわらず、本件一時金等についての税負担を回避するため、本件親族に本件通帳を提示しなかったこと、また、本件一時金等を申告しないことを意図して、本件各書面を廃棄し、その後本件各保険会社に再発行を依頼していなかったことは、請求人が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のハのとおり、請求人は、本件確定申告の時点において、本件一時金等を申告しないことを意図していたとまではいえず、また、本件親族に本件通帳を提示しなかった、あるいは、本件各書面を廃棄したという請求人の行為をもって、請求人が過少申告する意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められない。
 したがって、原処分庁の主張はいずれも理由がない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のハのとおり、請求人が本件確定申告において本件一時金等を申告しなかった行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさず、そのほかに、請求人が当初から本件一時金等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合に該当する事実も認められない。他方、請求人について、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そして、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき違法であり、別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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