(令和4年5月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、被相続人名義の貯金を申告していなかったことにつき、隠蔽又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の行為はないとして、当該処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ F(以下「本件被相続人」という。)は、平成30年11月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人及び本件被相続人の長男であるG(以下「本件長男」といい、請求人と併せて「本件相続人ら」という。)の2名である。
  • ロ 本件相続人らは、本件相続の開始後、間もなく、本件相続に係る相続税の申告書の作成(以下「本件業務」という。)を税理士法人H(以下「本件会計事務所」という。)に依頼した。本件会計事務所における本件業務の担当税理士はJ(以下「本件税理士」という。)であり、主な担当事務員はK(以下「本件事務員」という。)であった。
  • ハ 請求人は、平成31年1月8日に、L銀行○○支店の本件被相続人名義の預金口座について、翌9日には、M銀行○○支店及びN信用金庫○○支店の本件被相続人名義の各預金口座について、それぞれ本件相続開始日現在の残高証明書を上記の各金融機関から取得した(以下、L銀行○○支店、M銀行○○支店及びN信用金庫○○支店の本件被相続人名義の各預金を併せて「本件各預金」といい、本件各預金の口座を「本件各預金口座」という。)。なお、本件各預金口座に係る本件相続開始日現在の残高は、L銀行○○支店においては172,949,470円であり、M銀行○○支店においては42,481,348円であり、N信用金庫○○支店においては66,412,551円であり、これらの合計は281,843,369円である。
  • ニ 請求人は、平成31年1月8日及び同月29日に、Pを訪れ、Q銀行の本件被相続人名義の貯金(以下「本件貯金」といい、本件貯金に係る貯金口座を「本件貯金口座」という。)について、Q銀行の請求人名義の〇〇貯金口座(○○○○。以下「本件請求人貯金口座」という。)に払い戻す相続手続を行ったが、いずれの日においても残高証明書の発行は依頼しなかった。
  • ホ 本件貯金口座は、平成31年2月5日に解約され、その払戻金13,331,345円(以下「本件払戻金」という。)は、本件請求人貯金口座に入金された。
     なお、請求人は、本件請求人貯金口座の通帳(以下「本件通帳」という。)に印字された本件払戻金の入金を示す金額の脇に、「相続」及び「Fより」という文字を手書きで記載した。
  • ヘ 請求人は、本件各預金に係る相続手続に必要な書類について、M銀行○○支店には令和元年11月22日に、N信用金庫○○支店には同月29日に、L銀行○○支店には同年12月10日に、それぞれ提出した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、別表の「当初申告」欄のとおり記載した本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を令和元年9月9日(法定申告期限内)に原処分庁に提出した(以下、この提出に係る申告を「本件申告」という。)。
     本件申告書の第11表(相続税がかかる財産の明細書)及び本件申告書に添付されている遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」という。)には、いずれも「貸付金R保険料」という名目の財産が記載されているが、Q銀行の貯金に係る記載はない。
     なお、上記の「貸付金R保険料」とは、本件相続人らをそれぞれ契約者とするRに係る保険契約について、本件相続開始日までの保険料に相当する金額(請求人分5,896,667円及び本件長男分5,076,237円)を、本件被相続人が本件相続人らに貸し付けていたものである。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)による調査(以下「本件調査」という。)を受けた後、令和2年12月22日、本件貯金の申告漏れがあったなどとして、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
  • ハ 原処分庁は、請求人が、本件貯金は本件被相続人の財産であると知りながら、これを隠蔽して本件申告をしたとして、令和3年1月26日付で、請求人に対し、別表の「賦課決定処分」欄のとおり重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ニ 請求人は、令和3年4月26日、本件賦課決定処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年7月8日付で、棄却の再調査決定をした。
  • ホ 請求人は、令和3年8月10日、再調査決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

 請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があった。 以下のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はなかった。
(1) 本件貯金に係る請求人の行動について
 請求人は、本件事務員から本件被相続人の預金口座等に係る残高証明書を取得するよう指示を受けたことから、本件各預金口座については、平成31年1月8日又は翌9日に相続手続を行うことなく、残高証明書を取得したにもかかわらず、本件貯金口座については、同月8日及び同月29日にPで本件貯金に係る相続手続を行い、残高証明書を取得しなかった。
 このように、請求人は、本件貯金についてのみ明らかに特異な行動をしていた。
(1) 本件貯金に係る請求人の行動について
 請求人は、平成31年1月8日、Pを訪れた際、高齢であり看病疲れもあって相続に関する各種手続で頭が一杯であったところに、窓口の職員から複雑な相続手続の説明をされ、言われるがままに本件貯金の相続手続を行ったのであって、自ら積極的に相続手続を行ったものではない。
 そして、請求人は、本件貯金口座の解約により、必要な手続は完了したものと勘違いし、本件貯金口座の残高証明書を取得しなかったにすぎない。
 したがって、本件貯金に係る請求人の行動は、特異なものではない。
(2) 本件貯金の存在の不告知について
 次のイないしニに掲げることからすれば、請求人は、本件事務員との打合せや遺産分割協議の際に、本件貯金の存在を認識するとともに、本件会計事務所に残高証明書等の本件貯金に係る資料を交付していない事実についても認識していたと認められる。
 それにもかかわらず、請求人は、本件会計事務所に対して本件貯金の存在を伝えなかった。
(2) 本件貯金の存在の不告知について
 次のイないしニに掲げるとおり、原処分庁の主張する事実は存在しない。
 なお、請求人が、本件事務員との打合せや遺産分割協議の際に、本件事務員に本件貯金の存在を伝えていないのは、本件貯金が本件申告書から漏れていることに気付かなかったからにすぎない。
イ 請求人が本件各預金口座の残高証明書を本件事務員に交付したのは、請求人が本件貯金の相続手続をして間もない時期であったから、その際、請求人は、本件貯金に係る資料を本件会計事務所に交付していない事実を確実に認識していた。 イ 本件各預金口座の残高証明書を本件事務員に交付したのは、本件長男であって、その際、請求人は同席もしていない。
ロ また、請求人は、本件請求人貯金口座の入金状況等を本件通帳で随時確認しており、本件払戻金については、入金確認後、入金理由を忘れないよう本件通帳に「相続」及び「Fより」とのメモを記載した。 ロ 請求人は、平成31年2月5日に本件請求人貯金口座への本件払戻金の入金を記帳して以降、令和2年2月28日に新通帳への繰越しをするまで、本件通帳を確認していない。
ハ さらに、請求人が、本件遺産分割協議書や本件申告書を確認する際に「貸付金R保険料」との記載を目にしていることや、Rから本件請求人貯金口座に定期的な入金があることなどからすると、請求人は、その都度、本件貯金の存在を認識していたと推認される。 ハ 本件業務の進行が遅れていたこともあり、本件申告書の提出に当たり、請求人は、本件被相続人の相続財産を網羅した本件遺産分割協議書等の書類を詳細に確認していない。
ニ 加えて、本件被相続人の相続財産に「貸付金R保険料」が含まれていることからすると、本件税理士及び本件事務員は、本件申告書の作成過程で、本件被相続人に係るQ銀行の貯金の有無を請求人に確認していたと推認される。 ニ 本件業務の過程において、本件税理士及び本件事務員が、本件被相続人に係るQ銀行の貯金の有無を請求人に確認することはなかった。
 なお、「貸付金R保険料」の価額は、本件貯金口座の通帳から確認したものではない。
(3) まとめ
 上記(1)及び(2)に照らせば、請求人は、本件貯金の価額を課税価格に算入せずに本件申告を行う意図の下、あえて残高証明書を取得しないなど、本件会計事務所に対して本件貯金の存在を秘匿したと認められる。
 したがって、請求人は、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたといえる。
(3) まとめ
 上記(1)及び(2)に加えて、請求人は、本件払戻金を費消しておらず、本件請求人貯金口座から別の預貯金口座に移すこともしていないから、請求人には、本件貯金を隠匿する意思があったとは認められない。
 したがって、請求人は、当初から相続財産を過少に申告することを意図しておらず、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動もしていない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件会計事務所が本件各預金口座の残高証明書を受領した経緯について
     本件事務員は、平成30年12月5日、本件長男に対し、本件業務に関して本件被相続人の金融資産を確認するために、本件相続開始日現在の本件被相続人の預金口座等の残高証明書を取得し、本件会計事務所へ提出するよう指示した。
     上記指示を受け、本件長男は、請求人に対し、本件被相続人の預金口座等の残高証明書を取得するよう依頼し、その後、上記1の(3)のハにより請求人が取得した本件各預金口座の残高証明書を同人から受領し、これを本件事務員に交付した。
  • ロ 本件貯金の相続手続について
    • (イ) 請求人は、平成31年1月8日、Pにおいて、「S」と題する書類及び「T」と題する書類に、本件貯金口座の〇〇〇〇、本件被相続人と本件相続人らの関係、代表相続人が請求人である旨などを記載し、これらを提出した(以下、これら本件貯金に係る各書類を併せて「U」という。)。
    • (ロ) 上記(イ)の提出後、Q銀行は、請求人に対し、「V」の用紙とともに相続手続のために必要な書類を記載した「必要書類一覧表」と題する文書(以下「必要書類一覧表」という。)を送付した。
    • (ハ) 請求人は、Vに本件払戻金の入金先を本件請求人貯金口座とする旨などを記載し、平成31年1月29日、必要書類一覧表に記載された必要書類とともにPへ提出した。
  • ハ P及びQ銀行における貯金の一般的な相続手続について
     平成31年1月当時、Pでは、口座名義人に相続が開始したことを理由に訪れた顧客に対し、相続財産となる貯金の残高が1,000,000円を超過する場合には、S及びTに、相続の対象となる被相続人に係る貯金の〇〇〇〇、被相続人と相続人の関係、代表相続人の氏名等を記載の上、これらを窓口に提出するよう案内していた。そして、Q銀行は、上記の各書類に記載された貯金を代表相続人の指定する口座へ払い戻すなどの相続手続を行うに当たって、当該各書類を提出した顧客に対し、V及び必要書類一覧表を郵送し、Vに被相続人の貯金に係る払戻金の入金先等を記載の上、必要書類一覧表に記載された必要書類とともに、Pの窓口に提出するよう案内していた。
     なお、Pにおいては、顧客から依頼があった場合には、被相続人の貯金口座等に係る残高証明書の発行の手続をとっていたが、その発行が有料であったため、Pの職員は、相続が開始したことを理由に訪れた顧客に対して、残高証明書の発行を勧めていなかった。
  • ニ 本件会計事務所との打合せ等について
    • (イ) 本件会計事務所と本件相続人らとの間の本件業務に関する打合せは、平成30年11月から令和元年9月9日に本件申告書を提出するまでの間、所得税の確定申告期間や5月を除き、少なくとも月1回程度行われていたが、そのほとんどは本件事務員と本件長男との間で行われた。
    • (ロ) 本件税理士や本件事務員は、本件業務の過程で、本件相続人らに対し、本件被相続人の相続財産にQ銀行の貯金があるか否かを確認しなかった。
    • (ハ) 本件相続に係る遺産分割協議において、本件被相続人の遺産のうち、請求人が取得したいと希望していたものは、自宅のみであった。本件事務員は、令和元年8月下旬から同年9月4日にかけて、本件長男と打合せをしつつ、当該希望を踏まえ、本件遺産分割協議書及び本件申告書の原案を作成した。
    • (ニ) 請求人は、令和元年9月4日及び翌5日、相続税額の確認、本件遺産分割協議書及び本件申告書への押印等のため、本件長男と本件事務員との打合せに同席した際、本件遺産分割協議書及び本件申告書の内容について、記載のない相続財産や記載されている金額に誤りがないかどうか入念に確認するように本件事務員から指示はされなかった。
    • (ホ) 請求人は、本件業務を本件会計事務所に依頼してから本件申告書の提出までの間に、本件貯金の存在について、本件税理士及び本件事務員のいずれに対しても伝えていない。
  • ホ 本件請求人貯金口座について
    • (イ) 本件請求人貯金口座は、本件払戻金が入金される前後を通じて、Rから個人年金の受取分が定期的に入金されるなど、請求人により継続して使用されており、本件調査時においても解約されておらず、また、本件払戻金に相当する金額の出金はない。
    • (ロ) 本件払戻金に係る入金額が印字された本件通帳には、平成20年6月5日から令和元年5月8日までの取引が印字されており、それ以後の取引が印字された新通帳への繰越しは、令和2年2月28日に行われた。
       なお、請求人が上記1の(3)のホの各文字を手書きで記載した時期は特定できない。
  • ヘ 本件調査での対応について
     請求人は、本件調査の際、本件調査担当職員から本件貯金について質問される前に、本件調査を受けるに当たり本件被相続人の預金通帳等を確認したところ、本件貯金が申告漏れになっていた旨を自ら申し出た。
  • ト 「貸付金R保険料」について
     上記1の(4)のイの「貸付金R保険料」に係る保険料は、いずれも本件貯金を原資として本件貯金口座から支払われている。

(3) 検討

本件において、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄のとおり、1請求人が本件貯金口座についてのみ残高証明書を取得することなく相続手続を行うという特異な行動をしていること及び2請求人が本件貯金の存在を認識していたにもかかわらず、これを本件会計事務所に対して伝えていないことが、請求人の当初から相続財産を過少に申告する意図を外部からもうかがい得る特段の行動である旨主張する。これに対し、請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、請求人が本件貯金口座の残高証明書を取得しなかったのは勘違いによるものであり、また、本件貯金の存在を本件会計事務所に対し伝えていないのは、本件貯金が本件申告書から漏れていることに気付かなかったからにすぎないから、当初から相続財産を過少に申告することを意図しておらず、その意図をうかがい得る特段の行動もしていない旨主張するため、以下検討する。

  • イ 請求人が本件貯金口座の残高証明書を取得しなかったことについて
    • (イ) 請求人は、本件長男から本件被相続人の預金口座等の残高証明書を取得するよう依頼され(上記(2)のイ)、平成31年1月8日又は翌9日に本件各預金口座の残高証明書を取得しているところ(上記1の(3)のハ)、本件貯金についても、同月8日に、PにおいてUを提出していることからすれば(上記(2)のロの(イ))、請求人は、当時、本件貯金が本件被相続人の相続財産であると認識していたと認められる。
    • (ロ) 確かに、請求人は、本件長男の依頼を受け、本件各預金口座に係る残高証明書の発行依頼を行っており、それらとほぼ時を同じくして、Pを訪れているのであるから、Pにおいてのみ残高証明書の発行依頼をしなかった(上記1の(3)のニ)というのは不自然であるともいえる。
    • (ハ) しかしながら、1本件払戻金の金額13,331,345円が、当初申告における相続財産の総額〇〇〇〇円(別表の「各人の合計」の「取得財産の価額」欄)の〇%程度にすぎず、本件各預金の総額281,843,369円(上記1の(3)のハ)の5%程度でしかないこと、2本件払戻金が入金された本件請求人貯金口座は、解約されることなく、本件払戻金の入金前後を通じて、請求人において継続的に使用されており、本件払戻金に相当する金銭の払出しがないこと(上記(2)のホの(イ))、3本件被相続人の遺産のうち、請求人が取得したいと希望していたものは自宅のみであり(上記(2)のニの(ハ))、それ以外の財産について特段の関心があったとは認められないこと、4請求人は、本件調査の際、本件調査担当職員に対し、本件貯金が本件申告から漏れていた旨を自ら申し出ていること(上記(2)のヘ)を踏まえると、本件申告からあえて本件貯金のみを除外しようとする意図が請求人にあったものとは認められない。
    • (ニ) また、Pの職員が、被相続人の貯金口座等に係る残高証明書の発行を勧めていなかったこと(上記(2)のハ)、平成31年1月8日に請求人がPを訪れてUを提出したことは、口座名義人に相続が開始したことを理由に訪れた顧客に対し、当時のPが行う一般的な案内に従ったものであること(上記(2)のロの(イ)及び同(2)のハ)、さらに、請求人は、本件各預金口座の残高証明書を取得し得たものの、残高証明書の発行依頼手続に習熟していたことを示す証拠もないことを併せ考えると、請求人は、Pにおいて、残高証明書の発行依頼をしたものの、その意図が正確に伝わらないまま、Uを記入するよう案内され、本件貯金の相続手続を残高証明書の発行依頼手続と誤解した可能性や、案内されたUの記入をしているうちに、残高証明書の発行を依頼する手続を失念した可能性を否定できない。
    • (ホ) なお、請求人は、Uを提出した約3週間後の平成31年1月29日に、再びPを訪れて相続手続を行っているが、その際にも、残高証明書の発行は依頼していない(上記1の(3)のニ)。しかしながら、請求人は、既に、同月8日及び9日に本件各預金口座の残高証明書を取得済みであり、本件貯金についても同じ時期である同月8日にPを訪問していることから、同月29日の時点では、本件貯金についても本件各預金と同様に残高証明書の発行依頼が既に了したものと誤信していた可能性を否定できない。そして、請求人が、同日にPを再訪し、相続手続に必要な書類を提出したことは、相続が開始したことを理由にPを訪れてUを提出した顧客に対し、当時のP及びQ銀行が行う一般的な案内に従ったものであること(上記(2)のロの(ハ)及び同(2)のハ)を併せ考えると、請求人が、同日、Pを訪問したのは、Q銀行から案内を受けた相続手続に必要な書類を提出するためであり、同訪問時には、本件貯金口座に係る残高証明書の交付を受けることは念頭になかった可能性を否定できない。
    • (ヘ) 請求人が、本件各預金についてはいずれも残高証明書を取得しながら、本件貯金についてのみこれを取得せず相続手続をしたことについては、上記(ニ)及び(ホ)で述べた可能性について明確に否定できない以上、これをもって特異な行動であると断ずることはできない。仮に、請求人が、本件貯金のみを本件申告から積極的に除外しようと考えていたのであれば、「貸付金R保険料」の存在自体が本件被相続人がQ銀行に係る口座を有していた可能性を示すものである上、本件貯金が保険料支払の原資になっているのであるから(上記(2)のト)、本件申告書の作成・提出において、本件貯金の存在をうかがわせることになる「貸付金R保険料」の記載に留意し、本件申告に先立ち何らかの秘匿工作をとっていてもおかしくないが、請求人がそのようなことをした形跡などもない。
    • (ト) 以上のことを総合勘案すると、請求人は本件貯金につき本件被相続人の相続財産であると認識していたと認められるものの、請求人が本件貯金口座に係る残高証明書の発行依頼をしなかったことは、請求人の故意によるものとは認め難い。
  • ロ 請求人が本件貯金の存在を本件会計事務所に伝えなかったことについて
    • (イ) 請求人は、本件貯金が本件被相続人の相続財産であると認識していたと認められる(上記イの(イ))ものの、この存在を本件税理士及び本件事務員のいずれに対しても伝えていない(上記(2)のニの(ホ))。
    • (ロ) しかしながら、1本件業務に関する打合せのほとんどが、本件事務員と本件長男との間で行われたこと(上記(2)のニの(イ))、2本件税理士や本件事務員は、本件業務の過程で、本件相続人らに対し、本件被相続人の相続財産にQ銀行の貯金があるか否かを確認していないこと(上記(2)のニの(ロ))、3本件遺産分割協議書及び本件申告書の原案は本件事務員及び本件長男により作成され、請求人が令和元年9月4日までこれらの原案を見ていないこと(上記(2)のニの(ハ))、4請求人は、令和元年9月4日及び翌5日、本件遺産分割協議書や本件申告書への押印等のため、本件長男と本件事務員との打合せに同席したものの、その際、本件事務員から本件遺産分割協議書や本件申告書の内容について入念に確認するよう指示を受けていないこと(上記(2)のニの(ニ))、5請求人は、本件調査の際、本件調査担当職員に対し、本件貯金が本件申告から漏れていた旨を自ら申し出ている(上記(2)のヘ)ことからすると、請求人は、本件貯金が本件被相続人の相続財産であると認識していたものの、本件貯金が本件申告に相続財産として計上されていないことを認識していなかった可能性を否定できない。
       また、本件申告からあえて本件貯金のみを除外しようとする意図が請求人にあったものとは認められないこと(上記イの(ハ))、当審判所の調査によっても、請求人が、本件会計事務所に対し、本件貯金の有無に関し、虚偽の説明を行ったことをうかがわせる証拠関係も見当たらないことも併せ考えると、本件貯金の存在を故意に伝えなかったとまで認めることはできない。
  • ハ まとめ
     上記イ及びロのことからすると、請求人が本件申告を行うに当たり、1本件貯金口座の残高証明書を取得せず、2本件貯金の存在を本件会計事務所に伝えなかった一連の行為において、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと評価すべき事情は認められず、また、他に請求人において隠蔽又は仮装と評価すべき行為も見当たらない。
     したがって、本件において、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえない。

(4) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、1請求人が本件貯金の相続手続をして間もない時期に本件各預金口座の残高証明書を本件事務員に交付したこと、2請求人が本件請求人貯金口座の入金状況等を随時確認し、本件通帳に本件払戻金の入金についてメモを記載したこと、3本件遺産分割協議書や本件申告書にて「貸付金R保険料」との記載を目にしていたことなどを根拠として、請求人が本件貯金の存在を認識するとともに、本件貯金に係る資料を本件会計事務所に交付していない事実を認識していた旨主張する。
  • ロ しかしながら、請求人が本件貯金の相続手続を残高証明書の発行依頼手続と誤解した可能性や残高証明書の発行依頼手続を失念した可能性を否定できないことは、上記(3)のイの(ニ)のとおりである。
     また、上記イの1については、本件各預金口座の残高証明書を本件事務員に交付したのは、請求人ではなく、本件長男であり(上記(2)のイ)、当審判所の調査によっても、請求人がその場に同席していたと認めるに足りる証拠はない。さらに、上記イの2については、請求人は本件払戻金の入金に係る印字の脇に手書きのメモを記載したものの(上記1の(3)のホ)、そのメモを記載した時期は特定できない上(上記(2)のホの(ロ))、令和元年5月8日までの取引履歴が印字された本件通帳が、令和2年2月28日に新通帳に繰り越されていたものである(上記(2)のホの(ロ))。そうすると、請求人は、少なくとも本件申告の前後の計9か月以上にわたり、通帳記入や通帳での取引を行っていなかったものと認められ、その時期に、平成31年2月5日付の本件払戻金の入金に係る印字を目にしていたとも考えにくい。そして、上記イの3については、「貸付金R保険料」の原資は本件貯金であると認められるものの(上記(2)のト)、令和元年9月上旬に本件遺産分割協議書及び本件申告書に押印等した際に、本件事務員から請求人に対し、その内容を入念に確認するように指示がなかったこと(上記(2)のニの(ニ))及び請求人が自宅以外の財産について特段の関心があったとは認められないこと(上記(3)のイの(ハ))を踏まえると、本件申告までに「貸付金R保険料」の記載に気付かなかったか、気付いたとしても特別意に介さなかった可能性が十分にある。
     以上からすれば、上記イの1ないし3は、請求人が本件貯金の存在を認識し、かつ本件貯金に係る資料を本件会計事務所に交付していない事実を認識していたと認めるに足る根拠とはならない。
     したがって、これらの点に関する原処分庁の主張はいずれも採用できない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえず、本件賦課決定処分は、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。他方、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。また、本件賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件賦課決定処分のうち、通則法第65条第1項及び第2項の規定に従い計算した過少申告加算税相当額を超える部分の金額が違法であると認められるから、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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