(令和4年6月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、合資会社の無限責任社員が死亡退社したことに伴い発生した持分払戻請求権の価額のうち当該社員の出資額を超える金額は、当該社員に対する配当とみなされるとして、所得税等の更正処分等を行ったことに対し、当該社員の相続人である審査請求人Aほか4名(以下「請求人ら」という。)が、上記持分払戻請求権に係る金銭等の交付を受けておらず、配当とみなされる金額はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項柱書及び同項第1号は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。
  • ロ 所得税法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第24条《配当所得》第1項は、配当所得とは、法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条《金銭の分配》の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益の分配に係る所得をいう旨規定している。
  • ハ 所得税法第25条《配当等とみなす金額》第1項柱書及び同項第5号は、法人の株主等が、当該法人からの社員の退社による持分の払戻しにより金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の法人税法第2条《定義》第16号に規定する資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配(以下、これらを併せて「剰余金の配当等」という。)とみなす旨規定している(以下、この規定により剰余金の配当等とみなされる金銭その他の資産を「みなし配当」という。)。
  • ニ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定している。
  • ホ 所得税法施行令(平成29年政令第105号による改正前のもの。)第61条《所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等》第2項柱書及び同項第5号イは、所得税法第25条第1項第5号に掲げる事由の生じた法人が一の種類の株式を発行していた法人(口数の定めがない出資を発行する法人を含む。)である場合には、同項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額は、当該法人の当該事由の直前の資本金等の額を当該直前の発行済株式等の総数で除して計算した金額に同項に規定する株主等が当該直前に有していた当該法人の当該事由に係る株式の数を乗じて計算した金額(当該直前の資本金等の額が零以下である場合には、零)とする旨規定している。
  • ヘ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成29年4月27日付課評2−12ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)194《持分会社の出資の評価》は、会社法第575条《定款の作成》第1項に規定する持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社をいう。以下同じ。)に対する出資の価額は、評価通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》から評価通達193−3《上場新株予約権の評価》までの定めに準じて計算した価額によって評価する旨定めている。
  • ト 会社法第607条《法定退社》第1項柱書及び同項第3号は、持分会社の社員は、死亡により退社する旨規定している。
  • チ 会社法第608条《相続及び合併の場合の特則》第1項は、持分会社は、その社員が死亡した場合において、当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる旨規定している。
  • リ 会社法第611条《退社に伴う持分の払戻し》第1項は、退社した持分会社の社員は、同法第608条第1項及び第2項の規定により当該社員の相続人その他の一般承継人が社員となった場合を除き、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる旨規定し、同法第611条第2項は、退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人らは、平成28年10月○日に死亡したD(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人である(以下、本件被相続人の死亡により開始した相続を「本件相続」といい、本件相続の開始日を「本件相続開始日」という。)。
  • ロ 本件被相続人は、昭和25年2月○日に設立されたE社(以下「本件合資会社」という。)の無限責任社員であった。
     なお、本件相続の開始直前における本件合資会社に対する出資の総額は2,000,000円であり、このうち本件被相続人の出資(以下「本件出資」という。)の額は○○○○円であった。
  • ハ 本件合資会社の定款には、社員が死亡した場合に当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨の定め及びその場合の持分の払戻しに関する定めはなく、また、社員の退社による持分の払戻しの計算方法に関する定めもない。
  • ニ 請求人らは、本件合資会社の社員として、死亡により退社した本件被相続人の本件合資会社に対する持分払戻請求権(以下「本件払戻請求権」という。)の払戻金額を零円とすることに同意する旨を記載した平成29年1月28日付の「同意書」と題する書面(以下「本件同意書」という。)を作成した。
     なお、請求人らのほかに本件合資会社の社員はいない。
  • ホ 本件被相続人の共同相続人である請求人らは、本件被相続人の遺産について遺産分割協議を行い、本件払戻請求権について、請求人らが各5分の1を取得する旨を記載した平成29年7月16日付の遺産分割協議書を作成した。
  • ヘ 本件合資会社は、本件相続開始日から原処分が行われた令和元年8月9日までの間において、請求人らに対して本件払戻請求権に係る金銭の交付を行っていない。
  • ト 国税庁ホームページに登載された質疑応答事例《持分会社の退社時の出資の評価》(以下「本件質疑応答事例」という。)は、持分会社の社員が死亡によって退社し、その持分の払戻しを受ける場合の評価方法について、「持分の払戻請求権として評価し、その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額となります。」とし、その関係法令として、会社法第611条第2項を挙げている。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人らは、本件被相続人に係る平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」という。)。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、みなし配当に係る所得(以下「本件みなし配当所得」という。)が申告されていないとして、令和元年8月9日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人らは、上記ロの各処分を不服として、令和元年11月6日に別表1の「再調査の請求」欄のとおり再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和2年1月29日付で、いずれも棄却の再調査決定をした。
  • ニ 請求人らは、再調査決定を経た後の上記ロの各処分に不服があるとして、令和2年2月26日に審査請求をするとともに、Aを総代として選任し(以下、総代であるAを「請求人A」という。)、その旨を当審判所に届け出た。

2 争点

(1) 本件被相続人が本件合資会社を死亡退社したことにより、本件被相続人において、みなし配当が認められるか否か(争点1)。

(2) 請求人らが、本件申告の際に、本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があると認められるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件被相続人が本件合資会社を死亡退社したことにより、本件被相続人において、みなし配当が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人ら
合資会社の社員等の死亡退社による持分の払戻しの場合には、社内に蓄積された利益が社外に流出するといえることから、退社による持分払戻請求権に係る所得のうち出資の額を超える部分は利益の配当とみなすことができる。
 加えて、所得税法第25条第1項は社員の退社により「金銭その他の資産の交付を受けた場合」について利益の配当等とみなす旨を規定しているところ、これは、金銭その他の資産が実際に交付された場合だけでなく、同様の経済的利益をもたらす場合も含まれると解される。
 そして、本件被相続人は、本件相続開始日において、死亡により本件合資会社を退社し、それと同時に本件払戻請求権を取得しているところ、当該取得により、実質的に利益配当に相当する法人利益が本件被相続人へ帰属したといえることから、金銭その他の資産が実際に交付されていなくても、同様の経済的利益を得たものといえる。
 なお、本件被相続人の退社に伴う本件払戻請求権として評価すべき金額は○○○○円であり、本件出資の額○○○○円を超える部分の金額は、○○○○円である。
 したがって、本件被相続人において、みなし配当○○○○円が認められる。
合資会社の無限責任社員の持分払戻金額は、会社の内部関係に関する事項として、定款及び総社員の同意で決定することができる。
 本件合資会社では、総社員の同意により本件払戻請求権の払戻金額は零円として確定していることから、請求人らは、その支払を受けていない。
 そして、所得税法第25条は、社員の退社により「金銭その他の資産の交付を受けた場合」について利益の配当等とみなす旨を規定しているところ、請求人らは、本件被相続人の死亡退社に伴って、金銭その他の資産の交付を受けていない。
 したがって、本件被相続人において、みなし配当は認められない。

(2) 争点2(請求人らが、本件申告の際に、本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があると認められるか否か。)について

請求人ら 原処分庁
請求人らは、本件相続開始日以降、本件払戻請求権について原処分庁所属の職員に相談していたが、当該職員らによる話の内容は統一性がなく、基準が変わり、課税関係が明確でなかったことから、適正な課税について納税者として判断することは困難であった。
 したがって、本件申告において本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」がある。
通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があると認められる場合とは、過少申告になったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、納税者に過少申告加算税を課することが不当又は酷と評される場合であるが、請求人らが主張する事情はこれに該当しない。
 したがって、請求人らが、本件申告において、本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件被相続人が本件合資会社を死亡退社したことにより、本件被相続人において、みなし配当が認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第25条第1項第5号は、法人からの社員の退社による持分の払戻しにより当該社員が交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産を剰余金の配当等とみなす旨規定しているところ、これは、法人が退社した社員に対して持分を払い戻すことは、形式的には法人の利益配当に当たらないものの、当該社員が入社してから退社するまでの間に社内に蓄積された利益積立金が持分の払戻しという形で社外へ流出するものであって、実質的には利益配当に相当するということができるから、これを剰余金の配当等とみなして課税することとしたものである。
  • ロ 当てはめ
    • (イ) 会社法第607条第1項柱書及び同項第3号は、持分会社の社員は、死亡により退社する旨規定しているところ、本件被相続人は、平成28年10月○日に死亡したので、同日において本件合資会社を退社したことが認められる。
       そして、会社法第611条第1項は、退社した持分会社の社員は、同法第608条第1項及び第2項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合を除き、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる旨を、同法第611条第2項は、退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨をそれぞれ規定しており、上記1の(3)のハのとおり、本件合資会社の定款に社員が死亡した場合に、当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨の定めは設けられていないから、本件被相続人は、死亡退社時の本件合資会社の財産の状況に従って、その持分の払戻しを受けることとなる。
       そうすると、本件被相続人は、平成28年10月○日に本件合資会社を死亡退社したことにより、同日、本件合資会社に対しその持分の払戻しを請求できる権利(本件払戻請求権)を取得したものと認められる。
    • (ロ) ところで、所得税法は、現実の収入がなくとも、その収入の原因たる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして課税するという、いわゆる権利確定主義を採用しているところ、持分会社の社員が死亡退社した場合には、その社員の有していた社員権(出資)が死亡と同時に持分払戻請求権に転換し、その転換した時点において、持分払戻請求権の価額のうち元本(出資)を超える部分が、所得税法第25条第1項の規定により剰余金の配当等(みなし配当)として当該死亡社員の所得を構成するものと解される。本件の場合には、上記1の(3)のヘのとおり、本件払戻請求権を承継した共同相続人である請求人らに対して本件相続開始日から令和元年8月9日までの間に本件払戻請求権に係る金銭の支払はされていないのであるが、上記(イ)のとおり、本件被相続人は死亡と同時に本件払戻請求権を取得したのであるから、本件被相続人について社員権が本件払戻請求権に転換した時点、すなわち本件相続開始日において、本件払戻請求権の価額相当額の経済的価値が本件被相続人にもたらされたといえ、所得税法第25条の「金銭その他の資産の交付を受けた場合」に該当し、このうち本件出資に対応する部分を超える金額が、剰余金の配当等として本件被相続人の所得を構成するものと認められる。
    • (ハ) 会社法第611条第2項は、退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨規定し、また、上記1の(3)のハのとおり、本件合資会社の定款に退社による持分の払戻し及び払戻しの計算に関する特段の定めは設けられていないから、本件合資会社は、本件払戻請求権に基づき本件被相続人あるいは共同相続人である請求人らに対し、本件被相続人の死亡退社の時における本件合資会社の財産の状況に応じた持分の払戻しをすることになると認められる。そうすると、退社により本件被相続人にもたらされた経済的価値、すなわち本件払戻請求権の価額については、本件被相続人の死亡退社の時における本件合資会社の財産の状況により決せられることとなる。この点、本件払戻請求権の価額について、原処分においては、本件相続開始日における本件合資会社の各資産を評価通達の定めにより評価した価額の合計額から、本件相続開始日における各負債の合計額を控除した金額に、本件出資の本件合資会社に対する出資割合を乗じて計算しており、この計算方法は、本件被相続人の退社時の本件合資会社の財産の状況に従った合理的な方法と認められ、当審判所の調査及び審理の結果によっても、これと異なる計算方法によることが相当と認められる事情もない。
       したがって、上記計算方法により計算すると、本件払戻請求権の価額は○○○○円となり、当該価額が、本件被相続人が本件合資会社から死亡退社したことによる持分の払戻しとして本件被相続人にもたらされた経済的価値に相当すると認められる。
       以上によれば、本件被相続人は、本件相続開始日に、本件合資会社から死亡退社による持分の払戻しとして本件払戻請求権を取得し、本件払戻請求権の価額(○○○○円)に相当する金銭その他の資産の交付を受けたのであるから、このうち、その交付の基因となった本件出資に対応する部分の金額(○○○○円)を超える金額(○○○○円)について、本件被相続人のみなし配当と認められる。
  • ハ 請求人らの主張について
     請求人らは、上記3の(1)の「請求人ら」欄のとおり、本件合資会社の総社員の同意により、本件払戻請求権の払戻金額は零円となるから、請求人らは、本件被相続人の死亡退社に伴って、本件合資会社から金銭その他の資産の交付を受けたことはなく、本件被相続人において、みなし配当は認められない旨主張する。
     しかしながら、会社法第608条第1項は、持分会社は、その社員が死亡した場合における当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができると規定しており、持分の払戻しを受けない場合には、定款の定めが必要であるところ、上記1の(3)のハのとおり、本件合資会社の定款に、死亡した社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨の定めはない。そして本件同意書については、作成された経緯、目的が明らかでなく、また、本件同意書の作成後に共同相続人である請求人らにより本件払戻請求権に価値があることを前提とした遺産分割協議書が作成されるなど、本件同意書の内容と明らかに矛盾する内容の合意がされており、本件同意書の「持分払戻請求権の持分払戻額を0円とする」との記載の趣旨は明らかでないといわざるを得ない。また、仮に、請求人らの主張するとおり、本件同意書が請求人らの全員又はいずれかにより本件払戻請求権が行使された場合の払戻金額を零円とする意思決定を示すものだとしても、本件被相続人が本件相続開始日に本件払戻請求権を取得したとの事実の存在に変わりはないから、本件相続開始日以降に本件払戻請求権に基づく払戻金額を零円に減じることを決定したからといって、本件被相続人に死亡と同時に本件払戻請求権の価額に相当する経済的価値がもたらされたことに変わりはなく、これは、本件被相続人が死亡退社による持分の払戻しとして金銭その他の資産の交付を受けたものと評価できるものである。
     したがって、請求人らの主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人らが、本件申告の際に、本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があると認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第65条が規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば、通則法第65条第4項第1号にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
  • ロ 認定事実
     当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人Aは、平成28年11月15日、F税務署を訪れ、原処分庁所属の職員(以下「本件担当者」という。)に対し、本件相続に係る相続税の相談をし、本件担当者は、同日、請求人Aに対し、持分会社に対する出資に係る評価方法の概略を説明するとともに、本件質疑応答事例を参考にするよう指導した。
    • (ロ) 請求人Aは、平成28年12月20日、再びF税務署を訪れ、本件担当者に対し、本件払戻請求権に関して、実際の支払額を評価額とすればよいのか等を質問したことから、本件担当者は、平成29年1月12日、請求人Aに対し電話連絡を行い、持分会社の退社時は、定款の定めがない限り持分の払戻しを受けることになるところ、その評価方法は本件質疑応答事例の方法等による旨を回答した。
  • ハ 当てはめ及び請求人らの主張について
     請求人らは、上記3の(2)の「請求人ら」欄のとおり、本件相続開始日以降、本件払戻請求権について原処分庁所属の職員に相談していたが、当該職員らの話は統一性がなく、基準が変わり、課税関係が明確ではなかったことから、請求人らにおいて、適正な課税について納税者として判断することは困難であり、本件申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」がある旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、本件担当者は、本件被相続人に係る所得税等の法定申告期限前において、本件相続に係る相続税に関し、請求人Aに対し、持分会社に対する出資は、定款の定めがない限り社員が死亡退社した場合には持分の払戻しとなり、その評価方法は本件質疑応答事例の方法等によることを説明していたにすぎないのであって、基準を変遷させたような説明を行ったものとは認められず、本件みなし配当所得について申告をする必要がないと請求人らに認識させるような回答や説明を行ったものとも認められない。このような事情に照らせば、請求人らが、本件みなし配当所得に係る所得税法等の規定について理解に乏しく、そのため本件みなし配当所得を申告しなかったのであるとしても、上記イの過少申告加算税の趣旨に照らしてなお、請求人らの責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえず、他に請求人らの責めに帰することのできない客観的な事情も認められないことから、請求人らに過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとはいえない。
     以上によれば、請求人らが本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(3) 本件更正処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件被相続人が本件合資会社を死亡退社したことにより、本件被相続人において、みなし配当○○○○円が認められる。
 これに基づき、当審判所において本件被相続人の平成28年分の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「更正処分等」欄の各金額と同額となり、請求人らの納付義務の各承継額は、それぞれ別表2の「本件更正処分」欄の各金額と同額となる。
 また、本件更正処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、上記(2)のとおり、請求人らが本件みなし配当所得を申告しなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 したがって、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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