(令和4年9月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、賃貸用の土地及び建物を一括して購入した審査請求人(以下「請求人」という。)の不動産所得について、原処分庁が、売買契約書に記載された土地及び建物の価額が著しく不合理であることから、当該土地及び建物の固定資産税評価額の価額比に基づいて建物の取得価額を算定すべきであり、減価償却費が過大であるとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該売買契約書に記載された建物価額を基に取得価額を算定すべきとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として同法第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかった場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
  • ロ 所得税法施行令第126条《減価償却資産の取得価額》第1項は、減価償却資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする旨規定し、同項第1号は、購入した減価償却資産については、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成8年頃から不動産賃貸業を営んでいる。
  • ロ 請求人が購入した不動産及び不動産売買契約書の記載内容等について
    • (イ) 請求人は、平成28年7月15日、別表1の順号1の土地及び建物(以下「本件e物件」という。)をJ、K及びLから総額305,000,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し(以下、当該売買契約に係る契約書を「本件e物件契約書」という。)、本件e物件を取得した後、同年8月、貸付けの用に供した。本件e物件契約書には、上記の売買代金総額の内訳として、土地価額が91,500,000円、建物価額が213,500,000円である旨記載されている(以下「本件e物件内訳価額」という。)。
    • (ロ) 請求人は、平成29年9月17日、別表1の順号2の土地及び建物(以下「本件f物件」という。)をMから総額31,000,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し(以下、当該売買契約に係る契約書を「本件f物件契約書」という。)、本件f物件を取得した後、同年11月、貸付けの用に供した。本件f物件契約書には、上記の売買代金総額の内訳として、土地価額が9,300,000円、建物価額が21,700,000円である旨記載されている(以下「本件f物件内訳価額」という。)。
    • (ハ) 請求人は、平成29年12月25日、別表1の順号3の土地及び建物(以下「本件g物件」といい、本件e物件及び本件f物件と併せて「本件各物件」という。また、本件各物件に係る各土地及び各建物をそれぞれ「本件各土地」、「本件各建物」という。)をNから総額19,500,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し(以下、当該売買契約に係る契約書を「本件g物件契約書」といい、本件e物件契約書及び本件f物件契約書と併せて「本件各契約書」という。)、本件g物件を取得した後、平成30年4月、貸付けの用に供した。本件g物件契約書には、土地価額及び建物価額の記載はされていないが、平成30年4月12日付でNによる署名押印がある「譲渡対価証明書」と題する書面(以下「本件証明書」という。)が作成されており、本件証明書には、本件g物件の譲渡対価のうち建物価額が13,650,000円である旨記載されている(以下、当該建物価額及び本件g物件契約書の売買代金総額から当該建物価額を差し引いた土地価額5,850,000円を「本件g物件内訳価額」といい、本件e物件内訳価額及び本件f物件内訳価額と併せて「本件各内訳価額」という。)。
  • ハ 固定資産税評価額について
     固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものである(地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第5号、同法第349条《土地又は家屋に対して課する固定資産税の課税標準》及び同法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項等)。
  • ニ 本件各物件に係る固定資産税評価額について
    • (イ) 本件e物件に係る平成28年度の固定資産税評価額は、別表1の順号1の「固定資産税評価額」欄のとおりである(以下、同欄の土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比を「本件e物件固定資産税評価額比」という。)。
    • (ロ) 本件f物件に係る平成29年度の固定資産税評価額は、別表1の順号2の「固定資産税評価額」欄のとおりである(以下、同欄の土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比を「本件f物件固定資産税評価額比」という。)。
    • (ハ) 本件g物件に係る平成30年度の固定資産税評価額は、別表1の順号3の「固定資産税評価額」欄のとおりである(以下、同欄の土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比を「本件g物件固定資産税評価額比」といい、本件e物件固定資産税評価額比及び本件f物件固定資産税評価額比と併せて「本件各固定資産税評価額比」という。)。
  • ホ 本件各物件に係る各仲介手数料について
     上記ロの本件各物件の各売買契約に係る各仲介手数料は別表2のとおりである。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、各確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     なお、請求人は、本件各年分における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の経理処理について、消費税等の額とこれに係る対価の額とを区分して経理をする方式(いわゆる税抜経理方式)を採用していた。
  • ロ 請求人は、令和元年11月29日、平成29年分及び平成30年分の所得税等について、別表3の「修正申告」欄のとおりとする各修正申告書を提出した。
  • ハ 原処分庁は、上記ロに係る平成30年分の所得税等の修正申告に対し、令和3年2月26日付で、別表3の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
     なお、請求人は、上記の賦課決定処分に対する不服申立てをしなかった。
  • ニ 原処分庁は、令和3年3月9日付で、本件各年分の所得税等について、別表3の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ホ 請求人は、令和3年4月6日、原処分の一部を不服として再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年9月15日付で棄却する旨の再調査決定をした。
  • ヘ 請求人は、令和3年10月18日、再調査決定を経た後の原処分について、本件各建物の購入の代価の算定方法に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

 本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各固定資産税評価額比をもって算定すべきか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件各内訳価額は、1本件各建物は請求人が取得した時点でそれぞれ築27年、築40年及び築38年が経過しており、設備等が破損する等いずれも老朽化していたこと、2本件各物件に係る固定資産税評価額について、いずれも建物価額が土地価額を大きく下回っていること、3本件各内訳価額における土地及び建物の価額の割付比率は、本件各建物の築年数及び構造等がそれぞれ異なるにもかかわらず、一律に3対7であること及び4本件各物件の売主らに本件各建物の売却価額に係る認識がないこと、以上から、請求人と本件各物件の売主らとの交渉によって決められた客観的な価値に基づくものとは認められず、恣意的で著しく不合理なものである。
 また、固定資産税評価額は、一般的には、土地及び建物等につき適正な時価を反映しているものであるから、本件各建物の購入の代価を本件各固定資産税評価額比に基づき算定することは、合理的な基準に基づくものであるといえる。
 したがって、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各固定資産税評価額比をもって算定すべきである。
本件各内訳価額は、買主、売主双方がその価格、引渡し時期等あらゆる交渉を行った結果の産物であり、第三者間での相対の商取引において合意された価額であるから、合理的な価額といえる。
 したがって、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各内訳価額に基づいて算定すべきである。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

所得税法第49条第1項は、減価償却資産につきその償却費として同法第37条の規定により必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、その者が当該資産について選定した償却の方法等に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定し、これを受けた所得税法施行令第126条第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額について、「当該資産の購入の代価」及び「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨規定しているところ、上記「当該資産の購入の代価」は、建物を売買契約により取得する場合には、原則として当該売買契約により定められた代金額がこれに当たると考えられる。
 しかしながら、土地と建物が一括して売買され、当該売買契約において定められた土地及び建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものである場合に、これを所得税法施行令第126条第1項第1号の「当該資産の購入の代価」としてそのまま認めれば、売買契約の際に、土地と建物への代金額の割り付けを操作することで容易に減価償却資産として必要経費に算入される額を過大に計上することができることとなり、租税負担の公平の原則に反する結果となるのは明らかである。
 また、所得税法施行令第126条第1項第5号イは、同項各号に規定する方法以外の方法により取得した減価償却資産の取得価額を「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」などと規定していることからすれば、同項第1号イが、購入した減価償却資産の取得価額を「当該資産の購入の代価」と規定しているのは、第三者間で減価償却資産の売買を行う場合、通常であれば、その代金額が当該減価償却資産の適正な価額であるといえるからであって、その代金額が当該減価償却資産の適正な価額と比較して著しく不合理なものである場合にまで「当該資産の購入の代価」に当たると解するのは相当ではない。
 したがって、土地と建物が一括して売買され、当該売買契約において定められた土地及び建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものである場合には、同号にいう「当該資産の購入の代価」は、合理的な基準により算定するのが相当である。

(2) 本件各物件の各売主の申述

  • イ 本件e物件の売主の一人であるJは、令和元年12月13日、P税務署を広域運営対象署として所掌するQ税務署長所属の調査担当者(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、1本件e物件を譲渡する頃には給排水設備の更新が必要な状態であった旨、2本件e物件の譲渡に当たっては売買代金の総額を重視しており、本件e物件内訳価額は特に気にしていなかった旨及び3本件e物件内訳価額について請求人及び仲介業者と話をしたこともない旨それぞれ申述した。
  • ロ 本件f物件の売主であるMは、令和元年11月18日、本件調査担当職員に対し、1本件f物件の売却を決めた原因は、当該物件の設備等がかなり破損しており、2階のバルコニーの修繕に約100万円を要することが判明したためである旨、2本件f物件内訳価額については、それにより自らの税負担に影響はないと考えていたことから、気にも留めることなく売買契約を締結した旨及び3本件f物件内訳価額は売主の都合で決めたものではなく、請求人と仲介業者が相談して決めたものである旨それぞれ申述した。
  • ハ 本件g物件の売主であるNは、令和2年1月27日、本件調査担当職員に対し、1売却に当たっては売買代金の総額が大切であり、建物価額はどうでもよかった旨及び2請求人との間で建物価額に係る交渉はしなかった旨それぞれ申述した。
  • ニ なお、本件各物件の各売主の申述には、その申述内容の信用性に疑義を差し挟むべき事情は見当たらず、その信用性に特段の問題はない。

(3) 検討

  • イ 本件各内訳価額における本件各建物及び本件各土地それぞれの価額の合理性について
     本件各契約書に係る各契約において定められた各売買代金総額について、当事者間に争いはない。
     そして、上記1の(3)のロの(イ)ないし(ハ)のとおり、本件各契約書に係る各契約においては、土地及び建物が一括して売買されており、本件各契約書及び本件証明書には、本件各内訳価額が定められているから、本件各建物に係る「購入の代価」は、原則として、本件各内訳価額における本件各建物の価額がこれに当たると考えられるが、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものである場合には、本件各内訳価額における本件各建物の価額によることはできないこととなる。
     そこで、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額の合理性について検討する。
     なお、上記1の(3)のハのとおり、固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものであることに照らし、一般的には、土地及び建物につき当該基準時の前後における適正な時価を反映しているものと解される。
    • (イ) 本件e物件について
      • A 上記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件e物件契約書における売買代金は総額305,000,000円であるところ、この価額は、本件e物件の平成28年度における土地及び建物の各固定資産税評価額の合計額である○○○○円の約〇倍となっている。
      • B また、本件e物件内訳価額における建物価額213,500,000円は、当該建物に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍である一方で、本件e物件内訳価額における土地価額91,500,000円は、当該土地に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍となっている。つまり、本件e物件内訳価額における建物価額は、当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る一方で、本件e物件内訳価額における土地価額は、当該土地の固定資産税評価額を下回っている。
      • C そして、本件e物件の建物は、請求人が取得した時点(平成28年8月9日)において築約27年が経過しており、また、上記(2)のイのとおり、給排水設備の更新が必要な状態であったというのであり、本件e物件内訳価額における建物価額が当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る評価をすべき事情は見いだせない。
      • D また、本件e物件の土地について、一般的には基準時の前後における適正な時価を反映しているといえる固定資産税評価額を下回る評価をすべき事情も見いだせない。
      • E そうすると、本件e物件内訳価額における建物価額は、本件e物件の売買代金総額から過剰に価額が配分されたものというべきであり、そのような配分による本件e物件内訳価額における建物価額及び土地価額は、それらの客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
      • F この点、請求人は、本件e物件内訳価額は第三者間での相対の商取引において合意された価額であるから合理的な価額である旨主張する。
         しかしながら、上記AないしEで検討したところに加え、上記(2)のイのとおり、Jが、1本件e物件の譲渡に当たっては売買代金の総額を重視しており、本件e物件内訳価額は特に気にしていなかった旨、2本件e物件内訳価額について請求人及び仲介業者と話をしたこともない旨それぞれ申述しており、その申述内容からしても、本件e物件の売買代金総額から、その建物価額に価額を多く配分すべき合理的な理由を見いだすことはできず、本件e物件内訳価額における土地及び建物それぞれの価額は、その客観的な価値との比較において著しく不合理なものというべきである。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 本件f物件について
      • A 上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件f物件契約書における売買代金は総額31,000,000円であるところ、この価額は、本件f物件の平成29年度における土地及び建物の各固定資産税評価額の合計額である○○○○円の約〇倍となっている。
      • B また、本件f物件内訳価額における建物価額21,700,000円は、当該建物に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍である一方で、本件f物件内訳価額における土地価額9,300,000円は、当該土地に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍となっている。つまり、本件f物件内訳価額における建物価額は、当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る一方で、本件f物件内訳価額における土地価額は、当該土地の固定資産税評価額を大きく下回っている。
      • C そして、本件f物件の建物は、請求人が取得した時点(平成29年11月1日)において築約45年が経過しており、また、上記(2)のロのとおり、その設備等には相当の破損があり、2階のバルコニーの修繕に約100万円を要する状態であったというのであり、本件f物件内訳価額における建物価額が当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る評価をすべき事情は見いだせない。
      • D また、本件f物件の土地について、一般的には基準時の前後における適正な時価を反映しているといえる固定資産税評価額を大きく下回る評価をすべき事情も見いだせない。
      • E そうすると、本件f物件内訳価額における建物価額は、本件f物件の売買代金総額から過剰に価額が配分されたものというべきであり、そのような配分による本件f物件内訳価額における建物価額及び土地価額は、それらの客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
      • F この点、請求人は、本件f物件内訳価額は第三者間での相対の商取引において合意された価額であるから合理的な価額である旨主張する。
         しかしながら、上記AないしEで検討したところに加え、上記(2)のロのとおり、Mが、1本件f物件内訳価額については、それにより自らの税負担に影響はないと考えていたことから、気にも留めることなく売買契約を締結した旨、2本件f物件内訳価額は売主の都合で決めたものではなく、請求人と仲介業者が相談して決めたものである旨それぞれ申述しており、その申述内容からしても、本件f物件の売買代金総額から、その建物価額に価額を多く配分すべき合理的な理由を見いだすことはできず、本件f物件内訳価額における土地及び建物それぞれの価額は、その客観的な価値との比較において著しく不合理なものというべきである。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 本件g物件について
      • A 上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、本件g物件契約書における売買代金は総額19,500,000円であるところ、この価額は、本件g物件の平成30年度における土地及び建物の各固定資産税評価額の合計額である○○○○円の約〇倍となっている。
      • B また、本件g物件内訳価額における建物価額13,650,000円は、当該建物に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍である一方で、本件g物件内訳価額における土地価額5,850,000円は、当該土地に係る固定資産税評価額○○○○円の約〇倍となっている。つまり、本件g物件内訳価額における建物価額は、当該建物の固定資産税評価額を著しく上回る一方で、本件g物件内訳価額における土地価額は、当該土地の固定資産税評価額とほぼ同額であり、本件g物件内訳価額における建物価額は、本件g物件の売買代金総額が当該土地及び当該建物の固定資産税評価額の合計額を上回る部分をほぼ全て配分したものとなっている。
      • C そして、当該建物は、請求人が取得した時点(平成30年4月12日)において築約38年が経過していたところ、本件g物件内訳価額における建物価額が当該建物の固定資産税評価額を著しく上回る評価をすべき事情は見いだせない。
      • D そうすると、本件g物件内訳価額における建物価額は、本件g物件の売買代金総額から著しく偏った過剰な価額が配分されたものというべきであり、そのような配分による本件g物件内訳価額における建物価額及び土地価額は、それらの客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
      • E この点、請求人は、本件g物件内訳価額は第三者間での相対の商取引において合意された価額であるから合理的な価額である旨主張する。
         しかしながら、上記AないしDで検討したところに加え、上記(2)のハのとおり、Nが、1売却に当たっては売買代金の総額が大切であり、建物価額はどうでもよかった旨及び2請求人との間で建物価額に係る交渉はしなかった旨それぞれ申述しており、この申述内容からしても、本件g物件の売買代金総額から、その建物価額に価額を多く配分すべき合理的な理由を見いだすことはできず、本件g物件内訳価額における土地及び建物それぞれの価額は、その客観的な価値との比較において著しく不合理なものというべきである。
         したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ニ) まとめ
       上記(イ)ないし(ハ)のとおり、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額は、いずれもその客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
  • ロ 合理的な基準により算定される本件各物件の建物の購入の代価について
     上記イの(ニ)のとおり、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額は、いずれもその客観的な価値と比較して著しく不合理なものであると認められるから、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号にいう「当該資産の購入の代価」は、合理的な基準により算定することとなる。そして、原処分庁は、本件各建物の購入の代価について、本件各契約書における売買代金総額を本件各固定資産税評価額比によりそれぞれあん分して算定していることから、この算定が合理的な基準による算定といえるか否かが問題となる。
     この点、売主が土地及び建物を一括して譲渡する場合、当該土地と当該建物の合理的な価額比を把握できるのであれば、その価額比により代金総額をあん分して各購入の代価を算定する方法を用いることで、土地及び建物の双方に収益性に係る経済的価値が反映されることになり、土地及び建物が一括して売買される取引の実態に合致するといえる。そして、固定資産税評価額は、上記イのとおり、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものであることに照らし、一般的には、土地及び建物のそれぞれにつき当該基準時の前後における適正な時価を反映しているものと解される。そうすると、上記の場合において、建物の購入の代価について、売買代金総額を土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比によりそれぞれあん分して算定することは、一般的には、合理的な基準による算定であるといえる。
     これを本件各物件の売買についてみると、いずれも売主が土地及び建物を一括して譲渡する場合であり、本件各物件の固定資産税評価額が本件各物件の適正な時価を反映しているとはいえないような事情も特段見当たらず、本件各物件の固定資産税評価額をもって本件各土地と本件各建物の合理的な価額比を把握できることから、本件各建物の購入の代価について、本件各契約書における売買代金総額を本件各固定資産税評価額比によりそれぞれあん分して算定することは、合理的な基準による算定であると認められる。
  • ハ 小括
     上記イの(ニ)及び同ロのとおり、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額は、いずれもその客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められるから、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各契約書における売買代金総額を合理的な基準である本件各固定資産税評価額比によりそれぞれあん分して算定すべきである。

(4) 原処分の適法性について

  • イ 本件各更正処分について
     上記(3)のハのとおり、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各固定資産税評価額比により算定すべきである。
     ところで、当審判所の調査の結果によれば、本件各更正処分において、本件f物件及び本件g物件の各建物に係る取得価額に加算すべき各仲介手数料の金額等及び本件各物件の各仲介手数料に係る繰延消費税額等について、いずれも計算誤りがあると認められる。
     これらに基づき、当審判所が認定した請求人の平成29年分及び平成30年分における本件f物件及び本件g物件の各建物に係る取得価額及び減価償却費は別表4のとおりとなり、また、本件各物件に係る繰延消費税額等の必要経費算入額は別表5のとおりとなる。そして、本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額は別表6のとおりとなり、本件各更正処分の金額をいずれも下回るから、本件各更正処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
     なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
  • ロ 本件各賦課決定処分について
     本件各更正処分は、上記イのとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分の基礎となる税額は、平成28年分が〇〇〇〇円、平成29年分が〇〇〇〇円及び平成30年分が〇〇〇〇円となる。
     また、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
     したがって、請求人の過少申告加算税の額は、別紙1ないし別紙3の「4 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額 B」欄の「過少申告加算税、加算税の額」欄のとおりとなり、本件各賦課決定処分の金額にいずれも満たないから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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