(令和4年8月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、電子マネーの購入金額を売上原価として損金の額に算入したことについて、原処分庁が、その使途が不明であるから損金の額に算入されないなどとして、法人税等の更正処分等をしたところ、請求人が、当該電子マネーは関連会社に譲渡されており、売上げも計上されていることから売上原価として損金の額に算入されるものであるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額(第1号)、2当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(第2号)、3当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの(第3号)とする旨規定している。
  • ロ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項柱書(平成27年9月30日以前に行う課税仕入れについては平成27年法律第9号による改正前のもの、平成27年10月1日以後令和元年9月30日以前に行う課税仕入れについては平成27年法律第9号によって改正された平成24年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)及び同項第1号は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している(以下、同項の規定により課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額を「控除対象仕入税額」といい、この控除を「仕入税額控除」という。)。
  • ハ 消費税法第30条第7項本文(平成27年9月30日以前に行う課税仕入れについては、平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)は、同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れの税額については、適用しない旨規定し、同条第7項ただし書において、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合は、この限りではない旨規定している。
  • ニ 消費税法第30条第8項柱書(平成27年9月30日以前に行う課税仕入れについては、平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)及び同項第1号は、同条第7項に規定する帳簿とは、次に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定している。
    • (イ) 課税仕入れの相手方の氏名又は名称(同号イ)
    • (ロ) 課税仕入れを行った年月日(同号ロ)
    • (ハ) 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(同号ハ)
    • (ニ) 課税仕入れに係る支払対価の額(同号ニ)
  • ホ 消費税法第30条第9項柱書及び同項第1号は、同条第7項に規定する請求書等とは、事業者に対し課税資産の譲渡等(消費税法等の規定により消費税が免除されるものを除く。)を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているものをいう旨規定している。
    • (イ) 書類の作成者の氏名又は名称(同号イ)
    • (ロ) 課税資産の譲渡等を行った年月日(同号ロ)
    • (ハ) 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(同号ハ)
    • (ニ) 課税資産の譲渡等の対価の額(同号ニ)
    • (ホ) 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称(同号ホ)

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、情報処理・情報提供サービスに関する調査及びコンサルティング業務、広告代理業、日用品雑貨の販売並びに不動産の賃貸等を目的とする法人である。
     なお、請求人の取締役及び株主は、H(以下「本件代表者」という。)のみである。
  • ロ K社について
     K社は、各種デジタルコンテンツの企画、制作、販売及び配信サービス、インターネット広告配信事業並びに通信販売業等を行うことを目的とする法人である。
     なお、K社の代表取締役は、本件代表者である。
  • ハ 請求人の事業について
     請求人の平成31年1月1日から同年2月28日までの事業年度(以下「31年2月期」という。)の法人税の確定申告書に添付された法人事業概況説明書には、1事業内容は、情報サービス業(主としてインターネット広告)、卸売業(EC)、不動産業である旨、2売上原価として、棚卸高のほか、外注費等がある旨、3従業員等は本件代表者以外はいない旨、それぞれ記載されている。
  • ニ 請求人の電子マネーの購入について
    • (イ) 購入した電子マネー
       請求人は、L社から以下のAないしCの電子マネーを、M社、N社及びP社(以下、M社及びN社と併せて「P社等」という。)から以下のCの電子マネーをそれぞれ購入した。
      • A Q
          Qとは、R社が発行する資金決済に関する法律第3条《定義》第5項に規定する第三者型前払式支払手段である。
          Qは、コンビニエンスストア等やインターネット上で購入でき、Q加盟店で電子書籍等の購入又はオンラインゲームや動画視聴等を利用する際に、Qの購入時に交付される○○○○IDを入力することにより、購入代金等を支払うことができるものである。
      • B S
          Sとは、T社が発行する資金決済に関する法律第3条第5項に規定する第三者型前払式支払手段である。
          Sは、コンビニエンスストア等で購入又はインターネット上でウォレットにチャージすることができ、S加盟店で電子書籍等の購入又はオンラインゲームや動画視聴等を利用する際に、Sの購入時に交付される○○○○番号を入力することにより、購入代金等を支払うことができるものである。
      • C U
          Uとは、V社が発行する資金決済に関する法律第3条第5項に規定する第三者型前払式支払手段である。
          Uは、コンビニエンスストア等で購入でき、Xのウェブサイトにおいて商品等を購入する際に、Uの購入時に交付等される○○○番号をXのアカウントで入力することにより、購入代金を支払うことができるものである(以下、請求人が購入したUを「本件U」といい、請求人が購入したQ及びSと併せて「本件各電子マネー」という。また、上記Aの○○○○ID、同Bの○○○○番号、上記の○○○番号を併せて「本件ID等」という。)。
    • (ロ) 本件各電子マネーの購入に係る経理処理
       請求人は、本件各電子マネーの購入金額の税抜金額を売上原価として、別表1の「外注費計上額」欄のとおり、請求人の総勘定元帳の外注費勘定に計上した(以下、当該計上額を「本件各外注費」という。)。
  • ホ 請求人の卸売業(EC)について
    • (イ) 請求人の卸売業(EC)の流れ
       請求人は、商品を仕入れ、K社に販売しているが、これは請求人が商品の実物を移動させるのではなく、請求人の仕入れ及び販売はインターネット上で行う、いわゆる電子商取引の形態で行われている。
       具体的な商品の流れとしては、1請求人が仕入れた商品(以下、請求人が商品を仕入れる取引を「本件各商品仕入取引」といい、本件各商品仕入取引に係る各商品を「本件各仕入商品」という。)は、仕入先からK社のe事業所に直接納入され、2K社は、それをインターネット上のヤフーショッピングサイト内にある「Y」という店舗名で一般顧客に販売し、K社のe事業所から発送している。
    • (ロ) 本件各商品仕入取引に係る経理処理等
       請求人は、本件各商品仕入取引について、別表2−1ないし2−5のとおり、請求人の総勘定元帳の仕入高勘定(以下「本件各仕入高勘定」という。)に、本件各仕入商品の購入額の税抜金額相当額(以下「本件各仕入高」という。)の月ごとの合計額を、その月の最終日に計上し、仕入れの相手先の名称として「相手科目 部門」欄に「長期借入金 H」又は「補助」欄に「H」と、「摘要」欄には「Y仕入〇月分」等と記載した。
       また、本件各仕入商品の購入に係る本件代表者からの請求書(以下「本件各請求書」という。)には、購入対価の合計額のみが記載され、「添付明細書の通りご請求いたします。」との記載はあるものの、本件各仕入商品の商品内容、購入年月日、購入金額等が分かる明細書は添付されていない。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成27年1月1日から同年12月31日まで、平成28年1月1日から同年12月31日まで、平成29年1月1日から同年12月31日まで及び平成30年1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「27年12月期」、「28年12月期」、「29年12月期」及び「30年12月期」という。)並びに31年2月期(以下、27年12月期ないし31年2月期を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
     また、請求人は、平成27年1月1日から同年12月31日まで、平成28年1月1日から同年12月31日まで、平成29年1月1日から同年12月31日まで及び平成30年1月1日から同年12月31日までの各課税事業年度(以下、順次「27年12月課税事業年度」、「28年12月課税事業年度」、「29年12月課税事業年度」及び「30年12月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)並びに平成31年1月1日から同年2月28日までの課税事業年度(以下「31年2月課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
     さらに、請求人は、平成27年1月1日から同年12月31日まで、平成28年1月1日から同年12月31日まで、平成29年1月1日から同年12月31日まで、平成30年1月1日から同年12月31日まで及び平成31年1月1日から同年2月28日までの各課税期間(以下、順次「27年12月課税期間」、「28年12月課税期間」、「29年12月課税期間」、「30年12月課税期間」及び「31年2月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表5の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
  • ロ 請求人は、平成29年9月1日に、27年12月期及び28年12月期の法人税の各修正申告書並びに28年12月課税期間の消費税等の修正申告書をそれぞれ別表3及び5の各「修正申告」欄のとおり記載して、いずれもZ税務署長へ提出した。
  • ハ Z税務署長は、請求人に対し、令和2年7月28日付で、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、1請求人における本件各電子マネーの使途が不明であることから、本件各外注費の金額は損金の額に算入されないなどとして、別表3及び4の各「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分並びに本件各課税事業年度及び31年2月課税事業年度の地方法人税の各更正処分(以下「本件地方法人税各更正処分」という。)及び本件各課税事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分を、2本件各商品仕入取引については、本件各仕入高に係る帳簿(本件各仕入高勘定)及び本件各請求書は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の要件を充足していないから、本件各仕入高に係る消費税額を控除することはできないなどとして、別表5の「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」といい、本件法人税各更正処分及び本件地方法人税各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」といい、法人税の過少申告加算税の各賦課決定処分及び地方法人税の過少申告加算税の各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各更正処分等」という。)をそれぞれ行った。
  • ニ 請求人は、本件各更正処分等を不服として、令和2年10月16日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和3年2月16日付で棄却の再調査決定をした。
  • ホ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、令和3年3月16日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各外注費は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か(争点1)。

(2) 本件各仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各外注費は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件各外注費は本件各事業年度の損金の額に算入されない。 以下のとおり、本件各外注費は本件各事業年度の損金の額に算入される。
イ 本件各電子マネーは、請求人の業務との関連性を有する用途に使用された事実を確認することもできないことから、その具体的な使途やその使用時期が明らかではないため、本件各外注費の費途は不明であるといわざるを得ない。 イ 本件各電子マネーは、請求人が購入し、請求人において一切費消せずにK社に納入し、譲渡している。
 そうすると、本件各外注費は、K社に対する本件各電子マネーの売上げとして計上された収益に係る売上原価に該当する。
 また、当該売上げに対応する売上原価は本件各外注費以外一切計上していない。
ロ 請求人が、K社に本件各電子マネーを譲渡したことを明らかにできる具体的な証拠書類は確認されないから、本件各外注費が売上原価に該当するとは認められない。 ロ 本件各電子マネーがK社に納入されていることが分かる「メールの写し」及びK社で使用されたことが分かる「管理台帳」を証拠として提出しており、本件各電子マネーをK社に譲渡していることは明らかである。

(2) 争点2(本件各仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人は消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存がないから、本件各仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されない。 以下のとおり、請求人は消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存があるから、本件各仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除が適用される。
イ 請求人は、本件各仕入高勘定への記載について、「摘要」欄において、「Y仕入〇月分」等と記載しているところ、当該記載からは譲り受けた資産の内容を知ることはできず、課税仕入れ等が行われたか否かの確認ができる程度の具体的な記載がされているとは認められないことから、本件各仕入高勘定には、消費税法第30条第8項第1号ハに規定する課税仕入れに係る資産又は役務の内容が記載されているとはいえない。 イ 本件各仕入高勘定の「摘要」欄に記載されている「Y仕入〇月分」等の記載は、請求人の事業内容から課税仕入れを行った資産の内容が明らかであり、消費税法第30条第8項第1号ハに規定する課税仕入れに係る資産の内容の要件を充足している。また、本件各仕入高勘定には、消費税法第30条第8項第1号イないしニに規定する事項全てが記載されている。
ロ 請求人は、本件各仕入高勘定の「相手科目」欄又は「補助」欄において、仕入れの相手先として「H」と記載しているが、請求人と本件代表者との間において、本件各商品仕入取引を行ったことを証する客観的資料はなく、本件代表者が本件各仕入高に係る真実の仕入先であるとは認められないことから、本件各仕入高勘定には、消費税法第30条第8項第1号イに規定する課税仕入れの相手先の氏名又は名称が記載されているとはいえない。 ロ 本件各商品仕入取引は、本件代表者が商品を仕入れ、K社が「Y」というサイトで販売しているが、請求人が名義上、当該取引の間に入るものであり、請求人における各帳簿の記載状況や請求書等から、本件代表者が課税資産の譲渡等を行った者であることは明らかである。
ハ 本件各請求書には、「添付明細書の通り」と記載されているが、当該添付明細書は添付されていないことから、本件各請求書には、消費税法第30条第9項第1号ハに規定する課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容が記載されているとはいえない。 ハ Y内で販売された商品は、請求人が仕入れた商品そのものであり、当該商品の明細書は、K社で作成されている。
 また、本件各請求書に記載のある「添付明細書」は、上記明細書と同じであり、本件各商品仕入取引における請求人及び本件代表者間の取引情報は電子メールによって授受されているから、電子データでK社兼請求人の事務所のパソコン内に保存されている。
 したがって、本件各請求書には、消費税法第30条第9項第1号イないしホに規定する事項が記載されている。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各外注費は、本件各事業年度の損金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項第1号の当該事業年度の収益に係る売上原価等の額、同項第2号の販売費、一般管理費その他の費用の額、及び同項第3号の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。
     当該各規定に照らせば、内国法人の所得金額の計算上、損金の額に算入することができる支出は、当該法人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないというべきであり、支出のうち、費途の確認ができず、業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないというべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人はパソコンを所有していないため、請求人の電子メールによる取引については、本件代表者がK社の従業員に指示し、同従業員がK社の所有するパソコンにより、本件代表者が取得した「○○@○○」のメールアドレス(以下「本件メールアドレス」という。)を使用して行われていた。
    • (ロ) L社から購入した本件各電子マネー
      • A 本件代表者は、K社の従業員である電子マネー取引グループのリーダー(以下「電子マネー取引グループリーダー」という。)に、請求人が購入する電子マネーの種類、時期及び金額を指示し、電子マネー取引グループリーダーは、L社に対して請求人の名称を用いて、本件各電子マネーを注文した。
         そして、本件代表者は、K社の経理業務を担当する従業員(以下「本件経理担当者」という。)に、上記の注文に係る購入代金を請求人の預金口座からL社へ支払うよう指示し、当該指示を受けた本件経理担当者が、請求人の預金口座からL社が指定した預金口座へ本件各電子マネーの購入代金を振り込んだ。
      • B L社は、上記Aの注文を受けた本件各電子マネーの購入代金の入金を確認した後、本件メールアドレスに、要旨以下の内容を記載したメール(以下「本件メール」という。)を送信した。
        • (A) 宛名として、「H G(請求人) 様」
        • (B) 請求人が購入した電子マネーの種類
        • (C) 請求人が購入した電子マネーの本件ID等
        • (D) 請求人が購入した電子マネーの額面金額
        • (E) 額面金額に対する割引率及び割引後の購入金額
      • C 本件メールは、上記(イ)及び(ロ)のBのとおり、K社のパソコンで受信され、電子マネー取引グループリーダーは、本件メールに記載された本件各電子マネー(以下、本件各電子マネーのうちL社から購入したものを「L社購入本件各電子マネー」という。)のうち、Q及びS(以下、これらを併せて「本件Q等」という。)について、Qの○○○○ID及びSの○○○○番号(以下、これらを併せて「本件Q等ID」という。)ごとに記載した管理表(以下「本件管理表」という。)をK社のパソコンで作成し、本件Q等IDごとに、残高及び使用事績を管理していた。
         なお、本件管理表には要旨以下の内容が記載されている。
        • (A) 本件Q等IDを本件管理表に記載した日
        • (B) 本件Q等を使用するK社のパソコンの端末番号
        • (C) 本件Q等ID
        • (D) 本件Q等の額面金額
        • (E) 本件Q等の使用事績
        • (F) 本件Q等の残高がなくなったことの確認事績
      • D また、L社購入本件各電子マネーのうち、本件Uについては、本件代表者が電子マネー取引グループリーダーに指示して購入日当日に全額使用していたため、管理表は作成していない。
      • E K社は、K社の業務として行っている自身の運営するサイトでの電子書籍の購入等の際、日常的に電子マネーを使用していた。
    • (ハ) P社等から購入した本件U
      • A 本件代表者は、請求人がP社等から本件Uを購入するために、P社等のインターネットのサイト上に設定した請求人名義の各口座(以下「本件各サイト設定口座」という。)に、本件経理担当者に指示して、あらかじめ上記購入に必要な金額を請求人の預金口座から入金させた。
      • B 本件代表者は、本件各サイト設定口座のID及びパスワードの管理を自身で行っていた。また、P社等から本件Uを購入する際には、購入する都度、本件代表者が、電子マネー取引グループリーダーに購入金額等を指示し、上記Aで入金した資金を使って購入した。
      • C P社等から購入した本件Uについては、○○○番号や使用事績等を管理する証ひょう類を作成していなかった。
    • (ニ) 請求人の売上げに係る経理処理等
       本件経理担当者は、本件代表者の指示を受け、K社に対する請求書を作成の上、売上高として請求人の総勘定元帳に計上し、請求人は、請求日付の翌月に請求人名義の預金口座に当該請求額の支払を受けた。
       なお、上記のK社に対する請求書には、「明細」欄に「広告掲載費 電子マネーユーザー獲得パック」、「○○ネットワーク課金ありメニュー」、「Qユーザー獲得パック〇月分」などと記載されているが、これらは、K社において電子マネーを使用して行う広告事業の業務名であり、請求人が行った業務名ではない。
  • ハ 検討
    • (イ) はじめに
       本件各外注費が請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入されるためには、上記イのとおり、本件各外注費が請求人の業務の遂行上必要と認められるものでなければならないことから、費途の確認ができず、請求人の業務との関連性の有無が明らかではないものについては、損金の額に算入することができないこととなる。
       この点、請求人の主張のとおり、請求人が本件各電子マネーをK社に譲渡したのであれば、本件各外注費は請求人の業務の遂行上必要と認められ、その金額は譲渡した棚卸資産に係る取得価額に該当することから、法人税法第22条第3項第1号に規定する収益に係る売上原価として損金の額に算入されることとなる。
       そこで、以下においては、本件各電子マネーが請求人からK社に譲渡されたか否かについて、検討を行うこととする。
    • (ロ) L社購入本件各電子マネーについて
       本件各電子マネーは本件ID等があれば使用することができるところ、請求人は、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件ID等が記載された本件メールを受信したことにより、L社購入本件各電子マネーを取得した。
       そして、上記ロの(ロ)のCのとおり、K社の電子マネー取引グループリーダーは、自社のパソコンで受信した本件メールに記載された本件Q等について、本件Q等IDごとに記載した本件管理表を作成し、本件Q等IDごとに残高及び使用事績を管理していたところ、同Cの(E)及び(F)のとおり、本件管理表には、本件Q等の使用事績及び残高がなくなったことの確認事績が記載されていることからすれば、K社が本件Q等を使用していた事実が認められる。
       そうすると、請求人が取得した本件Q等は、取得と同時にK社に引き渡されたことに加え、現にK社において使用されていたことからしても、請求人からK社に譲渡されたと認められる。
       一方、L社購入本件各電子マネーのうち本件Uについては、上記ロの(ロ)のDのとおり、管理表を作成していないから、K社において使用されたという事実は確認できないが、K社のパソコンで受信された本件メールに○○○番号が記載されており、K社において本件Uを自由に使用することができる状態にあったことからすると、本件Uについても、請求人の取得と同時にK社に引き渡された、すなわち譲渡されたと認められる。
       したがって、L社購入本件各電子マネーについては、請求人が購入と同時にK社に譲渡したと認められる。
       ところで、上記ロの(ニ)のとおり、請求人はK社宛に請求書を発行して売上げを計上し、これに係る金銭も受領しているが、当該請求書にはK社において電子マネーを使用して行う広告事業の業務名が記載されており、請求人が計上した売上げが、K社にL社購入本件各電子マネーを譲渡したことによるものであると確認することはできない。しかしながら、パソコンもなく、従業員もいない請求人がK社のために電子マネーを使用した広告事業の業務等を行っていたとは認め難く、上記のとおり、請求人はK社にL社購入本件各電子マネーを譲渡したと認められる以上、請求人が当該請求書に基づき計上した売上げは、K社にL社購入本件各電子マネーを譲渡したことによるものと認めざるを得ず、L社購入本件各電子マネーの取得価額は、この売上げに係る売上原価であるといえる。
    • (ハ) P社等から購入した本件Uについて
       上記ロの(ハ)のA及びBのとおり、請求人がP社等から本件Uを購入していた事実は認められるものの、同Cのとおり、○○○番号や使用事績等を管理する証ひょう類を作成しておらず、K社においてメール等により本件Uを使用するために必要な○○○番号を把握していたことや、K社が使用したことを示す客観的証拠はないから、請求人がP社等から購入した本件UをK社に譲渡したと認めることはできない。
       また、請求人において、P社等から購入した本件Uを請求人の業務に使用した客観的証拠もないので、その費途は不明であるといわざるを得ない。
    • (ニ) 小括
       上記(ロ)のとおり、本件各外注費のうち、L社購入本件各電子マネーに係る部分の金額は、K社に譲渡した棚卸資産に係る取得価額と認められるから、売上原価の額に該当し、本件各事業年度の損金の額に算入される。
       なお、上記1の(3)のニの(ロ)のとおり、請求人は本件各外注費を消費税抜きの金額で計上しているが、本件各電子マネーの譲渡は消費税法第6条《非課税》第1項に規定する非課税取引に該当するので、法人税法第22条第3項第1号に規定する収益に係る売上原価の額として本件各事業年度の損金の額に算入されるのは、消費税込みの金額(別表1のL社の各「購入金額」欄の金額)となる。
       一方、P社等から購入した本件Uについては、上記(ハ)のとおり、その費途が確認できず、請求人の業務との関連性の有無が明らかでないことから、本件各外注費のうち、P社等から購入した本件Uに係る部分の金額は、本件各事業年度の損金の額に算入されないこととなる。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のとおり、本件各電子マネーが請求人の業務との関連性を有する用途に使用された事実を確認することはできず、また、請求人がK社に本件各電子マネーを譲渡したことは確認できないから、本件各外注費は損金の額に算入されない旨主張する。
     しかしながら、L社購入本件各電子マネーについては、上記ハの(ロ)のとおり、請求人が購入と同時にK社に譲渡したと認められるから、原処分庁の主張には理由がない。
  • ホ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、請求人が購入した本件各電子マネーは、全てK社に譲渡しており、本件各外注費は損金の額に算入される旨主張する。
     しかしながら、本件各電子マネーのうち請求人がP社等から購入したものについては、上記ハの(ハ)のとおり、K社に譲渡したと認めるに足る客観的証拠はなく、また、その費途は明らかではないと認められることから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     消費税法第30条第7項は、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしているものであり、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、同条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合及び同条第9項第1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がそのいずれをも検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条第1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。そして、同条第7項の規定の反面として、事業者が上記帳簿及び請求書等を保存していない場合には同条第1項が適用されないこととなるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、上記帳簿及び請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためである。
     そして、帳簿及び請求書等に記載すべき内容として、消費税法第30条第8項第1号及び同条第9項第1号は、事業者に対し、課税仕入れ(課税資産の譲渡等)に係る取引の内容(行った年月日、資産又は役務の内容、対価の額)やその相手方の氏名又は名称を帳簿及び請求書等に記載することを義務付けているが、これも、上記のとおり、税務職員による検査を前提に、税務職員が保存されている帳簿及び請求書等の記載内容を前提にその相手方を調査すれば、容易に課税仕入れの取引状況を把握し、適正な申告がなされていたかを確認できるようにするためであり、かかる調査のためには、帳簿及び請求書等の記載に正確性が求められるのは当然である。
  • ロ 検討
    • (イ) 本件各仕入高に係る帳簿について
       請求人が作成した本件各仕入商品の仕入れに関する帳簿は本件各仕入高勘定であるところ、本件各仕入高勘定には、上記1の(3)のホの(ロ)のとおり、取引の内容として「Y仕入〇月分」などの記載があるが、同(イ)のとおり、「Y」はK社がインターネットのサイト上に出店している店舗名であって、請求人が仕入れのため購入した商品の内容が分かる記載ではなく、また、月ごとの計上日、仕入れの相手先の名称、月ごとの合計仕入金額(税抜)が記載されているのみであり、本件各仕入商品の個々の購入年月日、支払対価の額は記載されていない。
       したがって、本件各仕入高勘定は、消費税法第30条第8項第1号ロに規定する「課税仕入れを行った年月日」、同ハに規定する「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」及び同ニに規定する「課税仕入れに係る支払対価の額」が記載されている帳簿とは認められない。
    • (ロ) 本件各請求書について
       請求人は、上記1の(3)のホの(ロ)のとおり、購入対価の合計額と「添付明細書の通りご請求いたします。」と記載のある本件各請求書を保存するのみで、請求人が仕入先から交付を受けるべき本件各仕入商品の明細書は、本件各請求書に添付されていないことから、本件各請求書には課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容が記載されているとはいえない。
       したがって、本件各請求書は、消費税法第30条第9項第1号ロに規定する「課税資産の譲渡等を行った年月日」、同ハに規定する「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」及び同ニに規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」が記載されている請求書とは認められない。
    • (ハ) 小括
       以上のことからすると、本件各仕入高については、消費税法第30条第8項に規定する帳簿及び同条第9項に規定する請求書等が保存されているとはいえないから、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存がない場合に該当し、また、当審判所の調査の結果によっても、請求人に、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを認めるに足る事実も確認できない。
       したがって、本件各仕入高については消費税法第30条第1項の適用はされないから、本件各仕入高に係る消費税額について仕入税額控除は適用されない。
    • (ニ) 請求人の主張について
       請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、「Y仕入〇月分」等の記載は、請求人の事業内容から課税仕入れを行った資産の内容が明らかである旨、本件各請求書に記載された「添付明細書」は、K社で作成されている仕入れた商品の明細書と同じで電子データで保存している旨主張する。
       しかしながら、上記(ハ)のとおり、本件各仕入高については消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存がない場合に該当するから、請求人の主張には理由はない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

  • イ 本件法人税各更正処分
     上記(1)のハの(ニ)のとおり、本件各外注費に計上した金額のうち、L社購入本件各電子マネーに係る金額に消費税相当額を加算した金額は、売上原価の額として本件各事業年度の損金の額に算入され、その他の金額については損金の額に算入されない。これを前提として、請求人の本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表6−1ないし6−5の「審判所認定額」欄の各金額のとおりであると認められる。
     そして、本件法人税各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、27年12月期、29年12月期及び31年2月期の法人税の納付すべき税額は、27年12月期の修正申告、29年12月期及び31年2月期の各確定申告の納付すべき税額といずれも同額となるから、これらの各事業年度の更正処分はいずれもその全部を取り消すべきであり、28年12月期及び30年12月期の法人税の納付すべき税額は、28年12月期及び30年12月期の法人税の各更正処分の納付すべき税額を下回るから、これらの各事業年度の更正処分は別紙1及び2のとおり、その一部を取り消すべきである。
  • ロ 本件地方法人税各更正処分
     上記イと同様、請求人の本件各課税事業年度及び31年2月課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、別表7の「審判所認定額」欄の各金額のとおりと認められ、また、本件地方法人税各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、27年12月課税事業年度、29年12月課税事業年度及び31年2月課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額は、各確定申告の納付すべき税額と同額となるから、これらの各課税事業年度の更正処分はその全部を取り消すべきであり、28年12月課税事業年度及び30年12月課税事業年度の地方法人税の納付すべき税額は、28年12月課税事業年度及び30年12月課税事業年度の地方法人税の各更正処分の納付すべき税額を下回るから、これらの各課税事業年度の更正処分は別紙3及び4のとおり、その一部を取り消すべきである。
  • ハ 本件消費税等各更正処分
     上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件各仕入高に係る消費税額について仕入税額控除は適用されず、これに基づき請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税等の額を計算すると、いずれも別表5の「更正処分等」の各欄の金額と同額となる。
     また、本件消費税等各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件消費税等各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 本件法人税各更正処分に係る各賦課決定処分
     上記(3)のイのとおり、本件法人税各更正処分のうち、27年12月期、29年12月期及び31年2月期については、いずれもその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、上記の各事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。また、本件法人税各更正処分のうち、28年12月期及び30年12月期については、いずれもその一部を取り消すべきであるから、これに伴い、28年12月期及び30年12月期の過少申告加算税の各賦課決定処分もその一部を別紙1及び2のとおり取り消すべきである。
  • ロ 本件地方法人税各更正処分に係る各賦課決定処分
     上記(3)のロのとおり、本件地方法人税各更正処分のうち、27年12月課税事業年度及び29年12月課税事業年度については、いずれもその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、上記各課税事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。また、本件地方法人税各更正処分のうち、28年12月課税事業年度については、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、28年12月課税事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を別紙3のとおり取り消すべきである。さらに、本件地方法人税各更正処分のうち、30年12月課税事業年度については、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、30年12月課税事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきであるが、国税通則法(以下「通則法」という。)第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により、過少申告加算税の計算の基礎となる税額の全額が1万円未満であるときにはその全額が切り捨てられることとなるので、30年12月課税事業年度の過少申告加算税は、その全部を取り消すのが相当である。
  • ハ 本件消費税等各賦課決定処分
     上記(3)のハのとおり、本件消費税等各更正処分はいずれも適法であり、本件消費税等各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、本件各課税期間の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても本件各課税期間の過少申告加算税の額は、本件消費税等各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
     したがって、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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