(令和4年11月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)は外国為替証拠金取引や株式等の譲渡取引によって生じた所得があったにもかかわらず確定申告をしなかったとして、所得税等の決定処分等をしたのに対し、請求人が、税法の不備を理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第37条の11《上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項前段は、居住者が平成28年1月1日以後に上場株式等の譲渡をした場合には、当該上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下「上場株式等に係る譲渡所得等」という。)については、所得税法第22条《課税標準》及び第89条《税率》並びに第165条《総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算》の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該上場株式等の譲渡に係る事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」という。)に対し、上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額(上場株式等に係る譲渡所得等の金額(措置法第37条の11第6項において準用する同法第37条の10《一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第6項第5号の規定により読み替えられた所得税法第72条《雑損控除》から第87条《所得控除の順序》までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する旨規定し、また、措置法第37条の11第1項後段は、この場合において、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。
  • ロ 措置法第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除》第5項は、確定申告書を提出する居住者が、その年の前年以前3年内の各年において生じた上場株式等に係る譲渡損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。)を有する場合には、同法第37条の11第1項後段の規定にかかわらず、当該上場株式等の譲渡損失の金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の同項に規定する上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び同法第8条の4《上場株式等に係る配当所得等の課税の特例》第1項に規定する上場株式等に係る配当所得等の金額(同法第37条の12の2第1項の規定の適用がある場合にはその適用後の金額)を限度として、当該年分の当該上場株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除する旨規定している(以下「上場株式等譲渡損失の繰越控除」という。)。
  • ハ 措置法第41条の14《先物取引に係る雑所得等の課税の特例》第1項(平成28年9月30日以前の取引については平成28年法律第15号による改正前のものをいい、同年10月1日から同年12月31日までの間の取引については平成29年法律第4号による改正前のものをいい、平成29年1月1日以後の取引については令和2年法律第8号による改正前のものをいう。以下、同項について同じ。)前段は、居住者が、同項各号に掲げる取引又は取得をし、かつ、当該各号に掲げる取引又は取得(以下「先物取引」という。)の区分に応じ当該各号に定める決済又は行使若しくは放棄若しくは譲渡(以下「差金等決済」という。)をした場合には、当該差金等決済に係る当該先物取引による事業所得、譲渡所得及び雑所得については、所得税法第22条及び第89条並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該先物取引による事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額(以下「先物取引に係る雑所得等の金額」という。)に対し、先物取引に係る課税雑所得等の金額(先物取引に係る雑所得等の金額(措置法第41条の14第2項第4号の規定により読み替えられた所得税法第72条から第87条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)をいう。)の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する旨規定し、また、措置法第41条の14第1項後段は、この場合において、先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、所得税法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定している。
  • ニ 措置法第41条の15《先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除》第1項は、確定申告書を提出する居住者が、その年の前年以前3年内の各年において生じた先物取引の差金等決済に係る損失の金額(この項の規定の適用を受けて前年以前において控除されたものを除く。以下、先物取引の差金等決済に係る損失を「先物損失」といい、先物損失の金額を「先物損失金額」という。)を有する場合には、同法第41条の14第1項後段の規定にかかわらず、当該先物損失金額に相当する金額は、政令で定めるところにより、当該確定申告書に係る年分の同項に規定する先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、当該年分の当該先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する旨規定している(以下「先物損失の繰越控除」という。)。
  • ホ 措置法第41条の15第3項は、同条第1項の規定は、同項に規定する居住者が先物損失金額の生じた年分の所得税につき当該先物損失金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している場合であって、同項の確定申告書に同項の規定による控除を受ける金額の計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成27年から平成30年の間において、D社から給与の支払を受ける給与所得者である。
  • ロ 請求人は、平成27年から平成30年の間において、E社(以下「本件証券会社」という。)にて店頭外国為替証拠金取引を行い、平成28年中に○○○○円、平成29年中に○○○○円の各利益を得るとともに、平成27年中に○○○○円、平成30年中に○○○○円の各損失を生じた。
  • ハ 請求人は、平成29年及び平成30年において、本件証券会社にて上場株式等の譲渡取引を行い、平成29年中に○○○○円、平成30年中に○○○○円の各利益を得た。
  • ニ 請求人は、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の各確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出しなかった。
  • ホ 原処分庁は、令和2年11月16日付で、請求人に対し、「所得税及び復興特別所得税の調査について」と題する書面により、平成27年分から平成29年分までの所得税等の調査を行う旨通知した。
  • ヘ 請求人は、令和2年12月25日、別表1の「確定申告」欄のとおり、平成27年分の所得税等の確定申告書を原処分庁に提出した。
     上記確定申告書には、平成27年中に生じた先物損失金額○○○○円が記載され、「平成27年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」が添付されていた。
  • ト 原処分庁は、令和3年10月19日付で、請求人に対し、「所得税(復興特別所得税)の調査について」と題する書面により、本件各年分の所得税等の調査を行う旨改めて通知した。
  • チ 原処分庁は、令和4年2月18日付で、請求人に対し、別表1の「決定処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、原処分庁は、本件各決定処分のうち平成28年分の先物取引に係る雑所得等の金額の計算において、別表1のとおり、平成28年中に生じた先物取引による利益の金額○○○○円から請求人が令和2年12月25日付で提出した平成27年分の所得税等の確定申告書に記載された先物損失金額○○○○円(上記ヘ)を控除した上で、先物取引に係る課税雑所得等の金額を○○○○円(1,000円未満切捨て)とした。
  • リ 請求人は、令和4年5月10日、本件各決定処分及び本件各賦課決定処分(原処分)に不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。

2 当審判所の判断

(1) 請求人の主張について

請求人は、原処分について、国税に関する法律に基づいて実施された処分であることを認める一方、先物取引や株式の譲渡取引の各損益が、各取引を実施した全ての期間の損益を通算してそれぞれ赤字となる場合には、先物損失の繰越控除や上場株式等譲渡損失の繰越控除が認められる3年を超える期間であっても通算をそれぞれ認めるべきであり、また、先物取引の損益と株式の譲渡取引の損益の間でも通算を認めるべきであるから、このような取扱いのない現行の法律には不備がある旨主張している。
 しかしながら、審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性を判断することはその権限に属さないことであるので、請求人が主張する法律に不備があるか否かについては、当審判所の審理の限りではない。

(2) 本件各決定処分の適法性について

請求人は、上記1の(3)のイないしハのとおり、給与所得の金額のほか、店頭外国為替証拠金取引による利益又は損失である先物取引に係る雑所得等の金額及び上場株式等の譲渡取引による利益である上場株式等に係る譲渡所得等の金額を有するところ、同(3)のヘのとおり、令和2年12月25日、「平成27年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」を添付した平成27年分の所得税等の確定申告書を原処分庁に提出した。原処分庁は、これを受け、同(3)のチのとおり、令和4年2月18日付の本件各決定処分のうち平成28年分の先物取引に係る雑所得等の金額の計算において、平成28年中に生じた先物取引による利益の金額○○○○円から平成27年分の先物損失金額○○○○円を控除した額を平成28年分の先物取引に係る雑所得等の金額としており、平成28年分の所得税等において先物損失の繰越控除の適用を認めている。
 しかしながら、上記1の(2)のホのとおり、先物損失の繰越控除の適用要件として、措置法第41条の15第3項には、1先物損失金額が生じた年分の所得税につきその先物損失金額の計算に関する明細書等の一定の書類の添付がある確定申告書を提出し、かつ、2その後において連続して確定申告書を提出し、3繰越控除を受けようとする年分の確定申告書に繰越控除を受ける金額に関する明細書等の一定の書類を添付する必要がある旨規定されているところ、請求人は、上記1の(3)のヘのとおり、先物損失金額が生じた平成27年分の所得税等につきその先物損失金額の計算に関する明細書の添付がある確定申告書を提出しているものの、平成28年分の所得税等については、同(3)のニ及びチのとおり、原処分庁による決定処分しかなされておらず、請求人による確定申告書の提出はなされていない。したがって、先物損失の繰越控除の適用要件のうち上記2及び3の要件は満たされていない。そのため、請求人に係る平成28年分の所得税等において先物損失の繰越控除の適用は認められず、平成27年分の先物損失金額を平成28年分に繰り越して、当該損失に相当する金額を同年分の先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除することはできない。
 以上に基づき、当審判所において、請求人の本件各年分の総所得金額、上場株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額及び所得税等の納付すべき税額を計算すると、平成28年分の所得税等の納付すべき税額については、別表2の「審判所認定額」欄のとおり、原処分の額を上回り、平成29年分及び平成30年分の所得税等の納付すべき税額については、いずれも別表1の「決定処分等」欄に記載の金額と同額となる。
 なお、本件各決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各決定処分はいずれも適法である。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件各決定処分は適法であり、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項柱書、同項第1号及び同条第2項所定の要件を充足するところ、期限内申告書の提出がなかったことについて、同条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において、本件各年分の無申告加算税の額を計算すると、いずれも別表1の「決定処分等」欄に記載の金額と同額となる。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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