(令和4年11月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、アメリカ合衆国e州で審査請求人(以下「請求人」という。)により一括取得された賃貸用の土地及び建物の購入の代価を各々の固定資産税評価額の割合で区分して取得価額を算定し、不動産所得の金額の計算上減価償却費が過大であるなどとして所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、1固定資産税評価額の割合で区分する方法は合理的でなく、不動産鑑定評価額の割合で区分すべきであり、また、2過少申告となったことについて正当な理由があるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

  • イ 不動産所得関係
    • (イ) 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいう旨規定し、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
    • (ロ) 所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項並びに所得税法施行令第120条の2第1項第1号及び同令第131条《減価償却資産の償却費の計算》は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産に該当する建物につきその償却費として所得税法第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、定額法(建物の取得価額にその償却費が毎年同一となるように当該建物の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額を各年分の償却費として償却する方法をいう。)に基づいて計算した金額とする旨規定している(以下、所得税法第49条第1項の規定による償却費を「減価償却費」という。)。
    • (ハ) 所得税法施行令第126条《減価償却資産の取得価額》第1項は、減価償却資産の同令第120条《減価償却資産の償却の方法》から第122条《特別な償却率による償却の方法》までに規定する取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする旨規定し、同項第1号は、購入した減価償却資産については、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用(以下「付随費用」という。)がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額の合計額である旨規定している。
  • ロ 損益通算関係
    • (イ) 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
    • (ロ) 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条の4《不動産所得に係る損益通算の特例》第1項は、個人の平成4年分以後の各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、当該年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)を取得するために要した負債の利子の額があるときは、当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額は、所得税法第69条第1項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす旨規定している。
    • (ハ) 租税特別措置法施行令第26条の6《不動産所得に係る損益通算の特例》第1項第2号は、措置法第41条の4第1項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子の額が当該不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額以下である場合には、当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する金額である旨規定している。
  • ハ 過少申告加算税関係
    • (イ) 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同法第65条第4項柱書及び同項第1号は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨規定している。
    • (ロ) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(令和2年法律第8号による改正前のもの。以下「国送金等調書法」という。)第6条《国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第1項は、国外財産(国外にある財産をいう。以下同じ。)に関して生ずる所得で政令で定めるものに対する所得税に関し更正があり、通則法第65条の規定の適用がある場合において、提出期限内に税務署長に提出された国外財産調書に当該更正の基因となる国外財産についての国送金等調書法第5条《国外財産調書の提出》第1項の規定による記載があるときは、通則法第65条の規定による過少申告加算税の額は、同条の規定にかかわらず、同条の規定により計算した金額から当該過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を控除した金額とする旨規定している。また、国送金等調書法第6条第4項は、同法第5条第1項の規定により提出すべき国外財産調書が提出期限後に提出され、かつ、更正があった場合において、当該国外財産調書の提出が、当該国外財産調書に係る国外財産に係る所得税についての調査があったことにより当該国外財産に係る所得税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、当該国外財産調書は提出期限内に提出されたものとみなして、同法第6条第1項の規定を適用する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 金銭の借入れについて
     請求人は、以下のとおり、G社から、合計3回にわたり、いずれも利息を年1%、利息の支払日を毎年4月末日(末日が銀行営業日でない場合はその前日)として、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)ドル(以下「米ドル」という。)建てで金銭を借り入れた。
    • (イ) 借入年月日 平成27(2015)年5月21日
       借入金額 4,549,773.53米ドル
    • (ロ) 借入年月日 平成29(2017)年5月1日
       借入金額 1,439,000.00米ドル
    • (ハ) 借入年月日 平成30(2018)年3月23日
       借入金額 2,042,369.03米ドル
  • ロ 賃貸用不動産の取得について
     請求人は、別表1の「取得年月日」欄の各日に、米国e州に所在する同表の順号1から13までの各土地及び各建物(いずれも賃貸用不動産である。以下、当該各土地及び当該各建物を併せて「本件各物件」といい、このうち同表の順号1から8までを「本件平成27年取得物件」、順号9及び10を「本件平成29年取得物件」並びに順号11から13までを「本件平成30年取得物件」という。)を、それぞれ一括して、同表の「1売買代金」欄の各金額で購入し、当該各金額を売買代金とし、同表の「2付随費用」欄の各金額を付随費用として、上記イの各借入金を原資として支払い、その頃から貸付けの用に供した。
     なお、本件各物件の売買契約上、土地及び建物の各々の代価の金額は明らかではない。
  • ハ 本件各物件のe州の固定資産税評価額について
    • (イ) 本件各物件の所有者が請求人に変更された日(別表1の「取得年月日」欄の年月日)における本件各物件のe州の各固定資産税評価額は、当初、別表2の「変更前の評価額」欄のとおり算定された(以下、同欄の評価額を「本件各固定資産税評価額」といい、このうち同欄の順号1から10までを「本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額」といい、同欄の順号11から13までを「変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額」という。)。
    • (ロ) その後、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額については、別表2の順号11の物件(物件名の略称は「UNIT#○」。以下、単に「UNIT#○」という。)に係る分が令和3年10月15日に、同表の順号12の物件(物件名の略称は「UNIT#○」。以下、単に「UNIT#○」という。)及び同表の順号13の物件(物件名の略称は「UNIT#○」。以下、単に「UNIT#○」という。)に係る分が同年12月21日に、それぞれ同表の「変更後の評価額」欄のとおり変更された(以下、同欄の各評価額を「変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額」という。)。
  • ニ 平成27年分以前の年分の調査の経緯について
     原処分庁所属の調査担当職員は、請求人の平成25年分、平成26年分及び平成27年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、請求人及びその税務代理人に対し質問検査をした上で、平成29年2月9日、当該税務代理人に対し、上記各年分の所得税等に係る調査(以下、この調査を「前回調査」といい、前回調査の調査担当職員を「前回調査担当職員」という。)の結果の説明を行った。この際、前回調査担当職員は、一時所得の申告漏れを指摘しこれについて修正申告の勧奨をしたものの、本件平成27年取得物件の取得価額(以下「請求人申告取得価額」という。)及びこれに基づく減価償却費の適否などについては指摘をしなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成28年分、平成29年分及び平成30年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税等について、青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、同欄の「年月日」欄の各日にそれぞれ申告した(以下、これらの申告を「本件各確定申告」という。)。
  • ロ 請求人は、国送金等調書法の規定に基づき、平成28年12月31日分国外財産調書及び平成30年12月31日分国外財産調書を、いずれも提出期限内に、平成29年12月31日分国外財産調書を、提出期限後の平成30年5月21日に、それぞれ提出した。
     上記の各国外財産調書のうち、平成28年12月31日分には本件平成27年取得物件の記載があり、平成29年12月31日分には本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件の記載があり、平成30年12月31日分には本件各物件の記載がある。
     なお、上記の平成29年12月31日分国外財産調書の提出は、当該国外財産調書に係る国外財産に係る所得税についての調査があったことにより当該国外財産に係る所得税について更正があるべきことを予知してされたものではない。
  • ハ 請求人は、令和元年6月17日、平成30年分の所得税等について、別表3の「修正申告1」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
  • ニ 請求人は、令和2年3月30日、平成29年分及び平成30年分の所得税等について、別表3の「修正申告2」欄のとおりとする各修正申告書を提出した。
     原処分庁は、これに対し、令和2年6月17日付で、別表3の「賦課決定処分(令和2年6月17日付)」欄のとおり、平成29年分及び平成30年分の所得税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をしたが、請求人は、これに対する不服申立てをしなかった。
  • ホ 原処分庁所属の調査担当職員は、請求人の本件各年分の所得税等について調査を行った。その結果に基づき、原処分庁は、令和2年7月31日付で、別表3の「更正処分等(令和2年7月31日付)」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、令和2年10月28日、原処分を不服として、再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和3年3月9日付で、いずれも棄却する旨の再調査決定をした。
  • ト 請求人は、令和3年4月9日、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。
     なお、請求人は、その後、当審判所に対し、本件各物件の各不動産鑑定評価書(以下「本件各不動産鑑定評価書」という。)を提出した。

2 争点

(1) 本件各物件の建物の取得価額をどのように算定すべきか(争点1)。

(2) 本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額をどのように算定すべきか(争点2)。

(3) 本件各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由がある」と認められるか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各物件の建物の取得価額をどのように算定すべきか。)について

原処分庁 請求人
イ e州の固定資産税評価額による区分
 土地及び建物を一括で購入し、かつ、各々の購入の代価が明らかでない場合、租税負担の公平ないし実質主義の観点から、租税法の基本原則に合致する合理的な方法によって土地及び建物の購入の代価を区分し、建物の取得価額を算定する必要がある。
 e州の固定資産税評価額は、物件の所有者が変更された場合、その変更された日の評価額をe州の査定官が評価し直すものであり、その評価の時期及び実施機関について合理性を有することから、本件各物件の売買代金を本件各固定資産税評価額の割合により区分する方法は合理的なものである。
 請求人は、本件各固定資産税評価額が売買価格を戸建住宅用のアルゴリズムによって機械的に土地と建物に配分し得られたものである旨主張するが、その根拠とされるe州弁護士等の各報告書の記載内容は、実在性、権限、業務内容及び知見等すらも明らかでない供述者たる査定官に対し、e州弁護士等が、専ら請求人の利益となる証拠を作成することのみを念頭に、誘導的な手法で行った質問に由来するものであり、査定官がe州の法令等を遵守しないで評価額を算定したことを明らかにしたものとはいえないから、上記の各報告書をもって本件各固定資産税評価額の割合による方法が合理的でないとはいえない。仮に、請求人の主張のとおり戸建住宅用のアルゴリズムによっていたとしても、それは誤った処理や不適切な処理ではなく、査定官が、本件各物件の所有の態様、地積、建物の構造その他の特性等に応じて、あえてそのような評価を行ったものである。
 また、本件平成30年取得物件については、各固定資産税評価額が変更されているが、上記の各報告書においても評価額の見直しの根拠及び折衝の具体的な状況が明らかでなく、請求人がe州弁護士を通じて、減価償却費の金額が自身に有利になるよう査定官に働きかけ、故意に作出された可能性を排除できない。仮に、上記の変更がe州の憲法や固定資産評価規則等を逸脱しない範囲で行われたものであるとすると、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額も合理性を欠くものではないが、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額は、所有者が請求人に変更された日に算定されていることを踏まえると、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額よりも更に高度の信用性を有するものといえる。
イ e州の固定資産税評価額による区分
 本件各固定資産税評価額は、本件各物件を担当したe州の査定官が、タウンハウスであって戸建住宅ではない本件各物件について、売買価格を戸建住宅用のアルゴリズムによって機械的に土地と建物に配分して算定しているものであり、適正な鑑定評価額を出すに当たって考慮されるべき個別事情を捨象した評価額である上、e州の法令等に従った方法で評価されていない。また、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額も、売買価格に一定の配分率を適用するという簡便的な方法によって評価されており、適正な鑑定評価額を出すに当たって考慮されるべき個別事情を捨象したものである。
 そうすると、本件各物件の個別的な事情を適正に評価した適正な鑑定評価額がある場合には、かかる鑑定評価額の割合による方が合理的である。
 なお、本件平成30年取得物件については、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の評価に誤りがあり変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額に変更されていることから、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額に合理性がないのは明らかである。
 したがって、本件各固定資産税評価額及び変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の割合により区分する方法は、いずれも合理的でない。
ロ 鑑定評価額による区分
 本件各不動産鑑定評価書は、省略してはならないとされている実地調査が省略されている上、価格形成要因や比準価格の試算過程を具体的に示しておらず、米国の不動産鑑定士が行った鑑定結果を追認するだけのものになっている。また、当該鑑定結果も、請求人がエンドユーザーであることを踏まえて、損益に係る各要素が価格形成に与える影響を考慮していないなど鑑定の重要な部分に著しい欠陥があり、信用できない。
ロ 鑑定評価額による区分
 本件各不動産鑑定評価書は、米国の不動産鑑定士が米国の鑑定実務基準に準拠して作成した不動産鑑定評価書を、日本の不動産鑑定士が海外投資不動産鑑定評価ガイドラインの「現地鑑定検証方式」に沿って検証して作成したものであり、これによる鑑定評価額は適正である。
ハ 結論
 したがって、本件各物件の建物の取得価額は、本件各固定資産税評価額の割合により、本件各物件に係る土地及び建物の購入の代価を区分して算定すべきである。
ハ 結論
 したがって、本件各物件の建物の取得価額は、本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額の割合により、本件各物件に係る土地及び建物の購入の代価を区分して算定すべきである。

(2) 争点2(本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額をどのように算定すべきか。)について

原処分庁 請求人
本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額は、上記(1)の「原処分庁」欄の主張のとおり、本件各固定資産税評価額の割合により算出した土地の価額に基づいて、算定すべきである。 本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額は、上記(1)の「請求人」欄の主張のとおり、本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額の割合により算出した土地の価額に基づいて、算定すべきである。

(3) 争点3(本件各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由がある」と認められるか否か。)について

請求人 原処分庁
前回調査担当職員は、前回調査の際に、請求人から提示された本件平成27年取得物件に係る売買契約書や購入時の不動産鑑定評価書等を基に、請求人申告取得価額及びこれに基づく減価償却費の適否などについて十分な検討をしたはずであるにもかかわらず、請求人に何らの指摘もしなかった。このことは、本件各年分の所得税等に係る調査の担当職員が、当該調査結果の説明の際に、平成27年分の所得税等については、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》に規定する「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」に該当しない旨を説明していることからも明らかである。
 そうすると、請求人は、請求人申告取得価額の算定は合理的であると判断されたものと理解することが通常であり、請求人がこれを改めることはおよそ期待できない。なお、租税法律主義の原則の例外となる信義則の法理の適用の場面と異なり、信頼の対象を税務署長等の権限のある者による何らかの見解の表示に限定する理由はない。
 したがって、請求人が請求人申告取得価額及びその算定方法が正しいものであることを前提として行った本件各確定申告が過少申告となったことについては、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるから、「正当な理由がある」と認められる。
前回調査担当職員が、前回調査において、請求人から本件平成27年取得物件に係る各売買契約書及び不動産鑑定評価書の提示を受けた事実は認められないことから、請求人の主張はその前提を欠く。
 また、仮にそうした事実が認められたとしても、前回調査担当職員が請求人申告取得価額及びこれに基づく減価償却費の計算の是正を促さなかったこと自体は、税務署長等の権限のある者による何らかの見解の表示とはいえず、原処分庁がこれを確定的に是認したものでないことは明らかであり、請求人は、前回調査における前回調査担当職員による指摘とは関係なく、請求人申告取得価額の算定に誤りがないものと自ら誤信するに至ったにすぎない。
 したがって、本件各確定申告が過少申告となったことについては、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないことから、請求人に「正当な理由がある」とは認められない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各物件の建物の取得価額をどのように算定すべきか。)について

  • イ 法令解釈
     上記1の(2)のイの(ハ)のとおり、所得税法施行令第126条第1項柱書及び同項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価(付随費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定している。そして、土地及び建物を一括して購入した場合の購入の代価について、その土地及び建物の個別の購入の代価が明らかでない場合には、租税負担の公平ないし実質主義の観点から、租税法の基本原則に合致する合理的な方法によってその土地及び建物の購入の代価を区分する必要があるものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) e州の固定資産評価制度について
      • A e州の査定官事務所において固定資産税の評価を行う査定官は、固定資産の所有者が変更された場合、当該固定資産をその変更された日における完全現金価値で再評価することとされている。
      • B 完全現金価値とは、固定資産が売却のために市場で公開された場合、売主が購入者を見つけるために合理的な時間をかけて、当該固定資産の使途を知っている当事者間で、双方が利益を最大化しようとし、一方の当事者が他方の当事者の急迫の事情を利用できる立場にない場合に、市場において現金又は現金等価物で取引される価格をいうものとされている。
      • C 完全現金価値を見積もる際には、査定官は、比較販売アプローチ、ストックアンドデットアプローチ、交換又は再生産原価法、過去の原価法及び収益法のうち、評価対象の固定資産に適していると思われる一つ以上を考慮しなければならないこととされている。
      • D 固定資産の所有者は、固定資産税の評価額に同意できない場合、査定官事務所に対し評価額の見直しを依頼することができ、それでも満足のいく結果が出ない場合は、監査異議申立委員会に異議申立てをすることができる。
    • (ロ) 本件各不動産鑑定評価書について
      • A 本件各不動産鑑定評価書は、請求人の依頼に基づき、米国の不動産鑑定士が米国の鑑定評価基準に準拠して行った本件各物件の不動産鑑定評価について、日本の不動産鑑定士がその判断の妥当性及び評価額の適正性を検証した上で、その検証結果を日本の不動産鑑定評価基準等に基づいて評価し、鑑定評価額を決定したものである。
      • B 本件各不動産鑑定評価書は、請求人が本件各物件を取得した時の適正な土地価格(土地割合)を算定することを目的とし、本件各物件の類型を「区分所有建物及びその敷地」と認定した上で、まず、取引事例比較法により土地及び建物一体の価格を求め、次に、取引事例比較法により算定した造成前の土地の価格に造成費用(デベロッパー等からの聴取及び現地の不動産鑑定評価の慣習に従って査定したもの)を加えて造成後の土地の価格を求めている。
      • C 上記を基に算定された本件各物件の鑑定評価額(土地並びに土地及び建物)は、別表4のとおりである。
      • D 本件各不動産鑑定評価書によれば、本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件は、いずれも、100戸以上の集合住宅(タウンハウス)として開発された区画のうちの一戸であり、各戸が2階建てである。
    • (ハ) 請求人が当審判所に提出した各報告書(以下、下記AからDまでの各報告書を併せて「本件各報告書」という。)について
      • A 2021年11月19日付の報告書による報告内容について
          e州弁護士のH(以下「H弁護士」という。)は、請求人から依頼を受けて、e州f郡の査定官事務所の査定官であるJ(以下「本件査定官」という。)から聴取等した内容として、要旨、以下のとおり報告した。
        • (A) 請求人がUNIT#○を購入した際に行った土地及び建物の評価は、購入時の売買価格を、住宅を対象とした当局の算定システムに入力することにより機械的に行われた。
        • (B) 上記(A)の算定システムに設定されているアルゴリズムは、一般的に戸建住宅に適用されるものであり、入力された売買価格が戸建住宅の売買価格として設定されている範囲であれば、あらかじめ設定された配分率により自動的に売買価格が土地と建物に配分される。
        • (C) UNIT#○の物件については、請求人が購入した際の土地及び建物の評価額が見直され、コンドミニアム/タウンハウスに適用される土地と建物の配分率を適用され、土地が○○○○米ドル、建物が○○○○米ドルに変更された。
      • B 2022年1月24日付の報告書による報告内容について
          H弁護士は、請求人から依頼を受けて、UNIT#○と同じ2018年3月28日に購入したUNIT#○及びUNIT#○の評価額の見直しに関して本件査定官から聴取等した内容として、要旨、以下のとおり報告した。
        • (A) UNIT#○及びUNIT#○の評価額は変更されることになった。また、これらの物件の変更前の土地及び建物の評価についても、上記Aの(A)と同様、アルゴリズムで処理されていた。
        • (B) 本件査定官は、過去1年間(おおむね令和3年)、e州f郡g市の全ての戸建住宅、コンドミニアム、タウンハウス及び投資目的の売買物件の評価業務を担当していたが、評価業務の対象となる売買物件が多数あるため、通常、実務的な理由で固定資産税に関するルールで定められた評価手法による評価を行っていない。具体的には、課税当局のオーナーシップ部門に土地名義変更が申請された時点で、売買価格や日付などの情報が、戸建住宅用のアルゴリズムが設定されたシステムに入力される。売買価格が当該アルゴリズムに設定された価格の範囲内にある限り、当該アルゴリズムにより算定された土地と建物の配分がそのまま使われる。当該システムを使って処理される場合、査定官の関与は一切ないし、法で定められた土地及び建物の価値評価は、一切行われない。
        • (C) 上記(B)のような方法で処理されている理由は、一人の査定官が対象地区で日常的に売買される多数の物件について、一件ごとに評価を行うのは困難であり、また、減価償却などの税務上の目的では、固定資産税の評価における配分ではなく、それ以外の配分が使われていることが通常であるためである。
        • (D) 本件平成30年取得物件(UNIT#○、UNIT#○及びUNIT#○)の土地と建物の評価額の変更においては、アルゴリズムを使わず、上記Aの(C)と同旨の配分率を適用したが、これも固定資産税に関するルールで定められた評価手法が使われたわけではない。
      • C 2022年4月18日付の報告書による報告内容について
          H弁護士は、請求人から依頼を受けて、e州f郡の査定官事務所に別表1の順号1のUNIT#○及び順号10のUNIT#○の各物件の固定資産税の評価方法を問い合わせたところ、「K」を用いた旨の回答があったことに関し、同事務所の査定官であるLから聴取等した内容として、要旨、以下のとおり報告した。
        • (A) Kは、純粋に数学的な回帰分析によるものであって、該当する市場の戸建住宅物件の場所、敷地面積、居住面積、アメニティ(ベッドルーム数やバスルーム数など)を考慮したアルゴリズムが設定されている。土地と建物の配分の算出基準は、当該地区の管理者である査定官が毎年査定し、調整している。例えば、古い物件と新しい物件では、実際には土地と建物の配分比率が違うこともあるはずであるが、Kでは設定された一律の基準で土地及び建物の評価配分が行われている。また、コンドミニアムでは、敷地面積は関係ないが、Kでは戸建住宅と同じ基準で評価される。Kは2005年くらいから使われている。
        • (B) Kと同種の大量評価システムとして「M」がある。Mは、販売価格をKに入力した後、問題があるとして拒否された場合、査定官がその物件を個別に検証する場合に使われる。Mも大量評価システムであるが、査定官がさらに適切と思われるデータや基準を選択して入力し、比較することによって再評価する。
      • D 2022年1月10日付の「f郡の評価官による土地と建物の配分に関する報告書」による報告内容について
          米国の固定資産税分野で豊富な経験を持つNは、e州f郡の査定官事務所から聴取等した内容について、要旨、以下のとおり報告した。
        • (A) 不動産の販売価格を土地の価格と建物の価格の2つの要素に分ける作業は、e州の法律上の義務があるために行われる。
        • (B) 本件各物件については、別表2の「変更前の評価額」欄と同様の価額で評価額が算定され、土地と建物の配分比率に係る査定官事務所の内部システムとして、UNIT#○(別表2の順号9の物件)についてはMが、残りの12物件についてはKが使用されていた。
        • (C) 本件各物件は、f郡内の大量の不動産を評価しやすくするために、コンピュータ支援の大量評価ツールと価格処理システムを用いて評価された。査定官事務所は、価値が公正であることを確認するために、販売価格をe州の憲法に規定されている○○の基準年度の価格として受け入れる前に、報告された販売価格があらかじめ定められた範囲内に収まっていることを確認した上で、大量評価手法を採用している。
  • ハ 検討
    • (イ) 本件各物件については、上記1の(3)のロのとおり、請求人がいずれも土地及び建物をそれぞれ一括で購入しているにもかかわらず、本件各物件の売買契約では、その土地及び建物の各々の代価の金額が明らかでないことから、上記イのとおり、合理的な方法によって本件各物件の土地及び建物の購入の代価を区分する必要がある。
       この点、上記ロの(イ)のAのとおり、e州の固定資産評価制度では、固定資産について所有者の変更があった場合、査定官事務所の査定官により、その変更日における完全現金価値によって、当該固定資産の土地及び建物の価額が再評価される。ここでいう完全現金価値とは、上記ロの(イ)のBのとおり、公開市場における合理的な当事者間で形成される市場価格であるとされるから、再評価されるべき価額は、新たな所有者が固定資産を取得した時点の公平な市場価格を反映したものであるといえる。そして、上記ロの(イ)のCのとおり、完全現金価値の評価に当たっては、我が国において不動産鑑定評価の基本的な手法とされる取引事例比較法(比較販売アプローチ)、原価法及び収益法を含む複数の手法から評価対象の固定資産に適していると思われる手法を考慮するものとされており、合理的な評価基準によって評価される。これらに加えて、上記ロの(イ)のDのとおり、二審制の不服申立制度という評価結果の合理性を担保する制度が設けられていることも考慮すると、e州の固定資産税評価額は、その制度上、土地及び建物のいずれの評価額についても、同一の公的機関が同一時期に合理的な評価基準によって、固定資産の所有者変更時点の市場価格を評価するものであるといえる。
       そうすると、本件各固定資産税評価額は、上記のとおり同一の公的機関が同一時期に合理的な評価基準によって、請求人が本件各物件の所有権を取得した時点の市場価格を評価するものであると推認されるから、本件各物件の土地及び建物の購入の代価を算定するに当たっても、かかる推認を妨げる特段の事情がない限り、本件各固定資産税評価額の割合によって区分するのが合理的である。
    • (ロ) そして、本件各固定資産税評価額のうち本件平成30年取得物件に係る分については、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、変更されているのであるから、本件平成30年取得物件の土地及び建物の購入の代価を算定するに当たっては、上記(イ)の特段の事情がない限り、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額によって区分することとなる。
    • (ハ) ところで、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額は、合理的な評価基準によらず、アルゴリズムによる機械的な手法や売買価格に一定の配分率を適用する簡便的な手法によって算定されたものである旨主張することから、これらの各評価額に上記(イ)の特段の事情があるかどうかが問題となる。
       この点、一般に、米国においては、とりわけ住宅の評価において、多数の取引事例データを収集、整理し、これを統計的、多角的に分析して評価モデルを構築し、これを活用して評価額を推認する手法が広範に採用されているが、このような評価手法は、多数の取引事例データを収集しているのであって、比較販売アプローチなどの手法に準ずるものといえる。そして、e州においては、土地と建物が別々に評価されずに取引されており、また、上記ロの(イ)のAのとおり、固定資産の所有者が変更された場合に当該固定資産の再評価が求められており、膨大な量の評価業務を迅速に行う必要がある。このような状況において固定資産を再評価する際に、実際の取引価格を基に、多数の取引事例データを基に構築された適切なアルゴリズムなどに基づく配分率などにより土地及び建物に配分するなど、上記のような評価モデルを活用する必要性があることは否定できず、仮に請求人が主張するようなアルゴリズムなどによる算定がされているとしても、その手法も上記と同様、比較販売アプローチなどの手法に準ずる評価手法であるといえる。
       また、仮にアルゴリズムによる評価がされる場合であっても、上記ロの(ハ)のDの(C)及び同Cの(B)の各報告書の記載内容からすれば、アルゴリズム(K)による評価は、公正なものかどうか判断するために、一定の基準の範囲内に収まっているかどうかのテストを経ているとされ、Kによる評価が拒否された場合には、売買価格に一定の配分率を適用する手法(M)により評価し直されることとなるが、その評価は、査定官がさらに適切と思われるデータや基準を入力して行われる。そして、それらの基準の範囲については査定官事務所が定めているところ、本件各報告書によっても、その範囲を上記ロの(イ)のCの各種手法によらずに算出しているとまでは認められない。
       そうすると、仮に本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額がこのようなアルゴリズムなどによって算定されていたとしても、かかる方法が、上記ロの(イ)のCで示されている各種手法による合理的な評価基準によっていないとは認められない。
       したがって、仮に請求人が主張するように、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額が、アルゴリズムなどによって算定されたものであったとしても、それ自体が上記(イ)の特段の事情に当たるとまではいえない。
    • (ニ) また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件各物件がタウンハウスであったにもかかわらず、本件各固定資産税評価額は、戸建住宅用のアルゴリズムにより算定されていた旨主張し、これに沿う本件各報告書を提出している。そして、本件各固定資産税評価額のうち、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額については、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、各固定資産税評価額が変更されたのであるから、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額について、かかる事情が認められるか、認められた場合に上記(イ)の特段の事情に当たるかが問題となる。
       この点、仮に、本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件について、上記ロの(ハ)のBの(B)のとおり、課税当局に不動産の名義変更申請がなされた際に、各売買価格等が戸建住宅用のアルゴリズムが設定された大量評価システム(K)に入力され、これにより当該各売買価格が土地及び建物に配分され、当該配分額をもって本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額と算定されたとしても、同(ロ)のDのとおり、本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件は、いずれも、日本の分譲マンションの一室のようなものではなく、2階建ての戸建住宅の集合体のような形状であることがうかがわれるのであって、本件各物件が戸建住宅用のアルゴリズムに適する物件ではないとは、当然にはいえない。
       加えて、Kによる評価は、上記ロの(ハ)のCの(B)のとおり、問題があるとされた場合にはMによって評価し直されるとされているのであって、同Dの(B)のとおり、UNIT#○については、一度Kに入力して出された評価額を不適切なものとしてMにより再評価されたものとされているから、再評価されずにKに入力して出された評価額をもって本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額とされたのであれば、その評価額がMによって評価し直すべきものではないと判断されたものである。
       そして、上記ロの(イ)のA及びCのとおり、e州の法令等により、査定官は、評価対象の固定資産をその所有者の変更日における完全現金価値で再評価する場合、当該固定資産に適していると思われる方法により当該完全現金価値を見積もるという評価制度になっている。これらのことからすれば、本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件についてKに入力して評価されたのだとしても、それは査定官が各物件の形状等を考慮し、これらの物件の売買価格を合理的に配分するためKに入力し、又はその入力した結果である各評価額の正当性も吟味した上で、あえてこれらの結果である各評価額を本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額として採用したものと考えられる。
       さらに、本件各報告書においても、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額に戸建住宅用のアルゴリズムを適用したことがe州の法令等に反する旨の直接的な記載はないことも併せて考えると、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額がKに入力して出された評価額であったとしても、直ちにe州の法令等に反する評価方法が用いられたとは認められない。
       なお、本件平成30年取得物件については各固定資産税評価額が変更されているが、これは請求人からの問合せを受けてKによる評価から査定官による個別評価に評価方法を変更し、査定官事務所としてより適切と考える各固定資産税評価額に変更したものと解されるのであって、本件各報告書によっても、Kに入力して行った当初の評価方法がe州の法令等に反していたことまでは認められない。
    • (ホ) 以上を総合すれば、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額については、上記(イ)の特段の事情に当たると評価すべき事実は認められず、また、当審判所の調査の結果によっても当該事実は認められないから、本件各物件の建物の取得価額を算定するに当たっては、本件各物件の購入の代価を本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の割合によって区分して算定すべきである。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(1)の「原処分庁」欄のイのまた書のとおり、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額について、請求人がH弁護士を通じて自身に有利になるよう働きかけ、故意に作出させた可能性が排除できず、また、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額は、所有者が請求人に変更された日に算定されていることを踏まえると、変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額よりも更に高度の信用性を有するとして、変更前本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の割合により区分すべきである旨主張する。
     しかしながら、上記ロの(イ)のDのとおり、e州では、固定資産の所有者がその固定資産税評価額に同意できない場合、その評価額の見直しを求める不服申立制度があるのであるから、請求人が原処分庁の主張するような働きかけをする必要性自体乏しい。仮に原処分庁が主張するような働きかけがあったとしても、査定官としては、請求人の要請に応じることなく、上記の不服申立ての手続を執るよう請求人に促せば足りるはずである。そして、かかる制度がある以上、一度評価された固定資産税評価額が事後に変更され得ることは予定されており、査定官の職権により事後に変更されることがあったとしてもそのこと自体何ら不自然なことではないから、このことをもって故意に作出させたなどということができないことは明らかである。
     したがって、本件平成30年取得物件の各固定資産税評価額に関する原処分庁の主張は採用できない。
  • ホ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、e州の固定資産税評価額は、適正な鑑定評価の過程において考慮の対象とされるような資産の個別的な事情が捨象されたものであるから、本件各物件の建物の取得価額は、適正に鑑定された本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額の割合により本件各物件に係る土地及び建物の購入の代価を区分して算定すべきである旨主張する。
       しかしながら、そもそも、本件各不動産鑑定評価書は、次のとおり、いずれも合理性を欠く点が見受けられる。
    • (ロ) すなわち、不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日付国土交通事務次官通知)各論の第1章の第1節のTの2及び第2節のWの2の(2)などによれば、1本件各物件のような区分所有建物及びその敷地で、専有部分が賃貸されているものについての鑑定評価額は、収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとされ、2本件各物件の土地のような建付地についての鑑定評価額は、更地価格に建付地補正(増減価修正)を行って求めた価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとされている。
       これに対して、本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額は、上記ロの(ロ)のAのとおり、上記の不動産鑑定評価基準に基づいているとされているにもかかわらず、同Bのとおり、本件各不動産鑑定評価書では、本件各物件の建物の評価額について、取引事例比較法により評価した土地及び建物の一体として算定した評価額から、土地の評価額(取引事例比較法により評価した更地の土地の評価額に造成費用を加えたもの)を差し引いて算定する方法のみにより評価しており、上記の不動産鑑定評価基準に定められた方法等を遵守していない理由についても、明らかにされていない。
    • (ハ) 加えて、同一の不動産を鑑定評価する場合、鑑定手法が異なればその評価額は異なるのが通常であるにもかかわらず、本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額は、基本的な評価手法とされる原価法、取引事例比較法及び収益還元法の三手法により試算しこれらの関連性を検討するといった手法が行われておらず、上記(ロ)のとおり、土地及び建物の一体の評価額並びに土地単体の評価額を算定項目ごとに異なった鑑定手法により算定し、さらに、これらを単純に加減して評価額を算定しているものである。
    • (ニ) これらの点に照らすと、本件各不動産鑑定評価書は本件各物件の個別的な事情を考慮した適正な鑑定であるとはいえず、本件各物件の建物の取得価額を算定するに当たっては、本件各不動産鑑定評価書の鑑定評価額の割合によって区分する方法は採用できないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額をどのように算定すべきか。)について

  • イ 法令解釈
     措置法第41条の4第1項は、不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、当該年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を取得するために要した負債の利子の額があるときは、当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額は、所得税法第69条第1項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす旨規定している。そして、土地及び建物を各々の対価を区分せずに一括して購入し、購入代金の全額を借入れにより賄った場合、その借入れに係る利子は土地及び建物の両方を取得するために要したものといえるから、土地等を取得するために要した負債の利子の額を算定するには、当該利子の額を土地及び建物の各取得の対価の額によって区分する必要がある。そして、売買契約でそれらの各取得の対価の額が明らかではない場合には、租税負担の公平ないし実質主義の観点から、租税法の基本原則に合致する合理的な方法によって土地及び建物の取得の対価の額を区分する必要があるものと解される。
  • ロ 当てはめ及び双方の主張に係る判断
     上記(1)のハの(ホ)のとおり、本件各物件の土地及び建物の購入の代価を算定するに当たっては、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の割合によって区分して算定すべきである。したがって、本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額は、本件各物件を取得するための借入れに係る利子の合計額に、上記1の(3)のイの各借入金額に対する土地に係るこれらの評価額の割合を乗じる方法によって算定すべきであり、この方法で算定すると、平成28年分及び平成29年分については原処分における金額と同額となり、平成30年分については別表6の11欄のとおりとなり、原処分における金額(○○○○円)を下回る。
     これに対し、原処分庁及び請求人は、上記3の(2)の「原処分庁」欄及び「請求人」欄のとおり主張するが、これらの主張に理由がないことは上記(1)のニ及びホのとおりである。

(3) 争点3(本件各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由がある」と認められるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
     この趣旨に照らせば、過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由がある」と認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、前回調査の際に、前回調査担当職員が、請求人から提示された売買契約書や購入時の不動産鑑定評価書等を基に、請求人申告取得価額及びこれに基づく減価償却費の適否などについて十分な検討をしたはずであるにもかかわらず、請求人に何らの指摘もしなかったから、請求人申告取得価額の算定は合理的であると判断されたものと理解することが通常であり、本件各確定申告が過少申告となったことについて、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情がある旨主張する。
     しかしながら、請求人の主張を前提としても、前回調査担当職員の言動は、請求人申告取得価額及びこれに基づく減価償却費の適否などについて請求人に何らの指摘をしなかったというものにすぎず、請求人の税務処理に対して、これを是認するような見解を外部に示したものとはいえないから、本件各確定申告が過少申告になったことについて、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるということはできず、その他にかかる事情があると評価できる事実も認められない。
     したがって、本件各確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由がある」とは認められない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

本件各物件の建物の取得価額は、上記(1)のハの(ホ)のとおり、本件平成27年及び29年取得物件各固定資産税評価額並びに変更後本件平成30年取得物件各固定資産税評価額の割合によって区分して算定すべきであり、この方法により本件各物件の建物の取得価額を算定すると別表5の「5建物の取得価額」欄のとおりとなる。この結果、本件各物件の建物の取得価額は、本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件については原処分における金額と同額となるが、本件平成30年取得物件については原処分における金額を上回る。これを基にして本件各年分の減価償却費の金額及び不動産所得の金額を計算すると、平成28年分及び平成29年分については原処分における金額といずれも同額となるが、平成30年分の減価償却費については、別表7の付表の「6減価償却費の金額」欄の「合計」欄(及び別表7の3欄)のとおりとなり、原処分における金額(○○○○円)を上回る。
 また、本件各物件の土地の取得のために要した負債の利子の額は、上記(2)のロで述べた方法により算定すべきであり、この方法により算定した当該負債の利子の額は、平成28年分及び平成29年分については原処分における金額といずれも同額となるが、平成30年分については別表6の11欄(及び別表7の9欄)のとおりとなり、原処分における金額(○○○○円)を下回る。
 さらに、原処分のうち平成30年分については、借入金利子の額に計算誤りがあると認められ、当審判所が認定した借入金利子の額は別表7の5欄のとおりである。
 以上を踏まえて本件各年分の請求人の所得税等の還付金の額に相当する税額を算定すると、平成28年分及び平成29年分についてはいずれも原処分の金額と同額となるが、平成30年分については別表8のとおりとなり、原処分の金額を上回る。
 したがって、本件各更正処分のうち、平成28年分及び平成29年分の各更正処分はいずれも適法であるが、平成30年分の更正処分はその一部を別紙の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件各更正処分のうち、平成28年分及び平成29年分の各更正処分はいずれも適法であり、平成30年分の更正処分はその一部を取り消すべきであるところ、上記(3)のロのとおり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎とされた事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
 また、上記1の(4)のロのとおり、平成28年12月31日分国外財産調書及び平成30年12月31日分国外財産調書は、いずれも提出期限内に提出され、それぞれ本件平成27年取得物件及び本件各物件が記載されていることから、いずれも国送金等調書法第6条第1項に規定する更正の基因となる国外財産についての記載があるときに該当する。一方で、上記1の(4)のロのとおり、平成29年12月31日分国外財産調書については提出期限後に提出されているものの、当該国外財産調書の提出が、当該国外財産調書に係る国外財産に係る所得税についての調査があったことにより当該国外財産に係る所得税について更正があるべきことを予知してされたものではないから、平成29年12月31日分国外財産調書は、同条第4項により提出期限内に提出されたものとみなされ、当該国外財産調書には本件平成27年取得物件及び本件平成29年取得物件が記載されていることから、同条第1項に規定する更正等の基因となる国外財産についての記載があるときに該当する。そうすると、本件各年分の過少申告加算税の額は、通則法第65条の規定に基づき計算した金額から、国送金等調書法第6条第1項の規定により計算した金額を控除することとなる。
 そして、本件各年分の過少申告加算税の額についてみると、本件各賦課決定処分のうち、平成28年分及び平成29年分については、当審判所においても原処分における過少申告加算税の額といずれも同額となる。他方、平成30年分については、上記(4)のとおりその更正処分の一部が取り消されることにより、その過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額は本件賦課決定処分における基礎となる税額を下回るが、原処分において通則法第65条第2項の規定に基づく加算がされていなかったことから、当審判所において過少申告加算税の額を計算すると○○○○円となり、原処分の額を上回る。したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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