(令和4年12月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)において飲食店売上高の一部及び専売料収入の一部を請求人の帳簿に記録せずに売上げその他の収入を脱漏し、これに基づいて過少申告をしたなどとして法人税の青色申告の承認の取消処分並びに法人税等及び消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分は事務運営指針に反した違法又は不当な処分であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙1のとおりである。
 なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、飲食店、居酒屋、スナック、カラオケ店の経営等を目的とする内国法人であり、請求人の事業年度は毎年6月1日から翌年5月31日までである(以下、請求人の平成29年6月1日から平成30年5月31日まで及び平成30年6月1日から令和元年5月31日までの各事業年度を、順次「平成30年5月期」及び「令和元年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)。
       なお、請求人の代表取締役は、本件各事業年度を通じてH1(以下「H1代表」という。)である。
    • (ロ) 請求人は、本件各事業年度において、次表の1ないし3の各飲食店を営業し、これに加えて、平成30年9月から平成31年4月までの間は、次表の4の飲食店を営業していた(以下、次表の1ないし4の各飲食店をそれぞれ「h店」、「i店」、「j店」及び「k店」といい、これらを併せて「本件各店舗」という。)。
    •   名称又は屋号 所在地
      K h店(h店) m市n町○−○
      L i店(i店) p市q町○−○
      K(j店) r市s町○−○
      M(k店) t市u町○−○
    • (ハ) N社(現在の商号をP社という。)は、健康食品等の企画、販売等を目的とする内国法人であり、N社の代表取締役は、平成29年6月1日から令和元年5月31日までの間を通じて、H1代表の妻であるH2であった。
  • ロ 本件各店舗の売上げのクレジットカード決済について
    • (イ) 請求人は、遅くとも平成29年4月頃までに、N社を名義人として、Q社との間でクレジットカード決済契約を締結し、本件各店舗における売上げの一部について、クレジットカード決済を行っていた。
       なお、本件各店舗における売上げは、クレジットカード決済が行われるものを含めて、その全額が請求人に帰属する。
    • (ロ) 平成30年5月期におけるj店及びh店のクレジットカード売上げに係る売上金額(以下「本件カード売上げ」という。)及びQ社への売上手数料は、それぞれ別表1−1及び別表1−2のとおりであり、本件カード売上げの合計金額は14,586,091円である。
    • (ハ) Q社は、平成29年6月12日から平成30年6月11日までの間、本件カード売上げからQ社への売上手数料を差し引いた金額(別表1−1及び別表1−2の各「差引振込金額」欄に記載の金額、別表1−1の(注)の31,500円及び別表1−2の(注)2の17,075円)を、N社名義のR銀行○○支店の普通預金口座(以下「本件N社口座」という。)に入金した。
       N社では、本件N社口座に入金された本件カード売上げからQ社への売上手数料を差し引いた金額の全額をN社の総勘定元帳の「短期借入金」勘定に計上している。
  • ハ j店及びh店に係るS社の専売契約について
     請求人は、S社との間で、平成28年12月1日付及び平成29年3月10日付で、それぞれ、j店及びh店を対象店舗として、当該各店舗で販売する酒類等をS社及び同社のグループ会社が製造又は販売する製品のみとすることを確約する対価である専売料として、それぞれ、同年1月31日までに○○○○円及び同年3月31日までに○○○○円を請求人が指定する預金口座への振込みにより支払を受ける旨の契約を締結した。上記の各専売料は、同年1月31日及び同年3月31日に、いずれも請求人名義の預金口座に振り込まれ、当該各日付で請求人の総勘定元帳の「雑収入」勘定に計上されている。
     なお、請求人は、平成29年6月28日付で、S社との間で、i店を対象店舗として、上記各契約と同様の契約(以下「本件専売契約」といい、本件専売契約に係る契約書を「本件専売契約書」という。)を締結し、S社は、同年7月31日、H1代表名義の預金口座に専売料として○○○○円(以下「本件専売料」という。)を振り込んだ。
  • ニ 請求人とT社との間の取引状況等について
     請求人は、T社との間で、請求人がT社に対しチラシの配布等を業務の内容とする営業代行サービスを委託し、当該チラシを持った客が、請求人が営業する店舗に入店した場合には、当該客に係る飲食代金の一定割合を対価として支払う旨の契約(以下「本件営業代行サービス契約」という。)を締結した。
  • ホ 請求人の会計処理等について
    • (イ) 請求人の総勘定元帳について  
      • A 請求人は、本件各事業年度において、総勘定元帳の作成をU社に委託していた。
         なお、U社において、同社の従業員であるH3(以下「本件帳簿作成担当者」という。)は、請求人の帳簿作成を担当し、同じくH4(以下「本件連絡担当者」という。)は、請求人との連絡を担当していた。
      • B 請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「飲食店売上高」勘定の合計金額は140,497,931円であるが、本件カード売上げは平成30年5月期の収益に計上されていなかった。
      • C 請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「雑収入」勘定の合計金額は448円であるが、本件専売料は平成30年5月期の収益に計上されていなかった。
      • D 請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「支払手数料」勘定の合計金額は8,614,949円であるが、平成30年5月期の費用としてT社を相手方とするものは計上されていなかった。
      • E 請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「広告宣伝費」勘定の合計金額は22,209,630円であるが、平成30年5月期の費用としてT社を相手方とするものは計上されていなかった。
    • (ロ) 請求人における収支の管理状況等について  
      • A 請求人の本件各店舗における日々の売上げに係る現金については、本件各店舗の責任者が毎日レジを締めた上で、売上集計レシート、客伝票(精算伝票)及び仕入れ等に係るレシートとともに封筒(以下「本件各封筒」という。)に封入し、H1代表が本件各封筒を回収した後、請求人名義の預金口座に入金して保管していた。
      • B 本件各封筒には、上記の売上集計レシートに基づく日々の売上金額に加え、その内訳として、インターネットの予約サイト別の売上金額やクレジットカードによる売上金額等が記載されているほか、請求人が支出した金額、本件各封筒に入っている現金の金額等が記載されている。
         また、本件各封筒には、「外販」と記載した箇所(ただし、単に「外」と略記されているものもある。)又はその他の余白には「○○○○」等の人の氏若しくは名又は通称とみられる文言(以下「本件氏名等」という。)及び金額が付記されている。
      • C 請求人は、本件各封筒に記載されている日々の売上金額及び支出金額等をパソコンの表計算ファイルに転記し、店舗ごとに1か月単位で集計した表(以下「本件各収支集計表」という。)を作成していた。
         そして、本件各収支集計表には、売上金額の内訳としてインターネットの予約サイト別の売上金額やクレジットカードによる売上金額等が記載されているものの、支出金額については1日ごとの合計金額のみが記載されており、その支払先、使途等の内訳は記載されていない。
  • ヘ 原処分に係る調査の状況等
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和2年1月7日、H1代表に対し、通則法第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》の規定に基づく質問を行ったところ、H1代表は、質問応答の要旨を記録した本件調査担当職員作成の各質問応答記録書(以下「本件各質問応答記録書」という。)の内容について訂正を申し出ることなく問答末尾に署名するとともに、本件各質問応答記録書の各ページに設けられた「確認印」欄及び同記録書に添付された各資料の各ページにそれぞれ押印した。
    • (ロ) 請求人は、令和2年5月11日、原処分庁に対し、請求人が本件各店舗に係る客引き行為の役務提供の対価として客引きらに支払った金額(以下「本件客引き報酬」という。)を店舗別に月ごとに集計したとする表及びH1代表のスマートフォンの画面を撮影した写真を提出した。
       そして、当該写真には、平成30年5月期においてH1代表が「○○○○」と称する者との間で送受信した本件客引き報酬の支払等に関するLINEメッセージ等が表示されている。
       また、本件客引き報酬は、請求人の総勘定元帳の「支払手数料」勘定及び「広告宣伝費」勘定のいずれにも計上されていない。
    • (ハ) 請求人は、令和3年2月12日、原処分庁に対し、平成29年1月31日から令和元年5月31日まで毎月末日付のT社作成名義に係る請求人宛の請求書計29通(以下「本件各請求書」という。)を提出した(以下、本件客引き報酬及び本件各請求書に係る請求に対して支払ったとされている支払金額を併せて、「本件営業代行報酬」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人の確定申告等の状況について
    • (イ) 請求人は、平成27年6月○日から平成28年5月31日までの事業年度以後の法人税の申告書を、青色の申告書により提出する旨の承認を受けていた。
    • (ロ) 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに、それぞれ申告した。
       なお、平成30年5月期の法人税申告書に添付された損益計算書には、飲食店売上高が140,497,931円、雑収入が448円と記載されており、それぞれ同額が平成30年5月期の益金の額に算入されている。
    • (ハ) 請求人は、平成29年6月1日から平成30年5月31日まで及び平成30年6月1日から令和元年5月31日までの各課税事業年度(以下、順次「平成30年5月課税事業年度」及び「令和元年5月課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに、それぞれ申告した。
    • (ニ) 請求人は、平成29年6月1日から平成30年5月31日まで及び平成30年6月1日から令和元年5月31日までの各課税期間(以下、順次「平成30年5月課税期間」及び「令和元年5月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、平成30年5月課税期間については法定申告期限までに申告し、令和元年5月課税期間についてはその法定申告期限(令和元年7月31日)後である同年9月2日に申告した。
    • (ホ) 原処分庁は、令和元年11月27日付で、請求人に対して、上記(ニ)の令和元年5月課税期間に係る消費税等の確定申告書の提出により納付すべきこととなった消費税等の税額を基礎とし、通則法第66条《無申告加算税》第1項及び同条第6項の規定に基づき、無申告加算税の額を〇〇〇〇円とする賦課決定処分をした。
  • ロ 原処分について
    • (イ) 原処分庁は、令和3年7月9日付で、本件カード売上げ及び本件専売料を請求人の帳簿に記録せずに売上げその他の収入を脱漏したことが、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するとして、平成30年5月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)をした。
       本件青色承認取消処分においては、不正所得金額の計算に当たり、本件カード売上げの合計金額を14,570,984円(別表1−1及び別表1−2の各「売上金額」欄の各「平成30年5月期合計」欄の合計金額と同額である。)と認定している。
    • (ロ) 原処分庁は、令和3年7月9日付で、別表2及び別表3の各「更正処分等」欄のとおり、平成30年5月期に係る法人税及び平成30年5月課税事業年度に係る地方法人税について増額の各更正処分(以下、当該法人税についての増額の更正処分を「本件法人税更正処分」といい、本件法人税更正処分と当該地方法人税についての増額の更正処分を併せて「本件法人税等更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税等賦課決定処分」という。)を、令和元年5月期に係る法人税及び令和元年5月課税事業年度に係る地方法人税について減額の各更正処分(以下「本件法人税等減額更正処分」という。)をした。
       なお、本件法人税等更正処分においては、本件カード売上げを含む本件各店舗の売上げの合計金額(税込金額)は○○○○円と認定されているところ、この金額は別表1−1及び別表1−2の注書きの計算後の金額である。また、本件法人税等賦課決定処分においては、その基礎となるべき金額の計算に当たり、上記(イ)の不正所得金額の計算と同様に、本件カード売上げの合計金額を14,570,984円と認定している。
    • (ハ) 原処分庁は、令和3年7月9日付で、別表4の「更正処分等」欄のとおり、平成30年5月課税期間に係る消費税等について増額の更正処分(以下「本件消費税等更正処分」といい、本件法人税等更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」といい、本件法人税等賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)を、令和元年5月課税期間に係る消費税等について減額の更正処分(以下「本件消費税等減額更正処分」といい、本件法人税等減額更正処分と併せて「本件各減額更正処分」という。)及び無申告加算税を減額する変更決定処分(以下「本件消費税等変更決定処分」という。)をした。
       なお、本件消費税等更正処分における本件各店舗の売上げの合計金額の計算及び本件消費税等賦課決定処分におけるその基礎となるべき金額の計算は、いずれも税抜金額で計算していることを除けば、それぞれ上記(ロ)の本件法人税等更正処分及び本件法人税等賦課決定処分と同様である。
  • ハ 審査請求等について
    • (イ) 請求人は、原処分を不服として、令和3年9月22日に再調査の請求をした。
    • (ロ) 再調査審理庁は、令和3年12月17日付で、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分について再調査請求を却下し、本件青色承認取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分について再調査請求を棄却する再調査決定をした。
       なお、再調査決定において認定された本件カード売上げの合計金額は14,586,091円であり、上記ロの本件青色承認取消処分及び本件各賦課決定処分において認定された金額である14,570,984円を上回っている。
    • (ハ) 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、令和4年1月12日に審査請求をした。
    • (ニ) 請求人は、当審判所に対し、令和4年4月7日及び同年6月27日に、請求人が客引きらから客引き行為の役務提供を受けた事実及び本件客引き報酬の金額を示す資料として、本件各封筒に記載されている本件氏名等及び本件氏名等に付記されている金額又はこれに近似する金額を日ごとに記載した書面(以下「本件各日報」という。)を提出した。

2 争点

(1) 本件青色承認取消処分は、違法又は不当な処分であるか否か。また、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分は、本件青色承認取消処分と一連の処分として、違法又は不当な処分であるか否か(争点1)。

(2) 本件各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は幾らか(争点2)。

(3) 本件営業代行報酬について、本件各課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用があるか否か(争点3)。

(4) 本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点4)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件青色承認取消処分は、違法又は不当な処分であるか否か。また、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分は、本件青色承認取消処分と一連の処分として、違法又は不当な処分であるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、本件青色承認取消処分は、違法又は不当な処分ではなく、また、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分も違法又は不当な処分ではない。 次のとおり、本件青色承認取消処分は、違法又は不当な処分であり、また、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分は、本件青色承認取消処分と一連の処分として、違法又は不当な処分である。
イ 本件取消指針は、青色申告の承認取消処分を行った後に白色申告に係る更正処分を行うべきであるといった手続を定めているものではないことから、本件青色承認取消処分は本件取消指針に反するものではなく、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分も本件取消指針に反する処分又は本件取消指針に反する処分と一連の処分には該当しない。 イ 本件取消指針によれば、税務署長は、内国法人に対し、最初に青色申告の承認を受けた者として帳簿を根基とする青色申告に係る更正処分を行い、次いで当該更正処分に係る帳簿の調査の結果を受けて、当該内国法人が、本件取消指針に定める青色申告の承認を取り消すべき場合に該当するか否かの検討を行った上で、青色申告の承認取消処分を行い、最後に当該取消処分に係る事業年度以降の事業年度について、青色申告の承認を受けた者としての特典を剥奪する更正・決定処分を行うべきである。
 ところが、原処分庁は、本件取消指針に反し、請求人に対し、本件青色承認取消処分を根基として、本件各事業年度において青色申告の承認を受けていない者として、本件法人税等更正処分、本件法人税等賦課決定処分及び本件法人税等減額更正処分を行っている。
 したがって、本件青色承認取消処分は本件取消指針に反する違法又は不当な処分であるとともに、本件法人税等更正処分、本件法人税等賦課決定処分及び本件法人税等減額更正処分も本件取消指針に定める手順に従っていないことから違法又は不当な処分であり、また、本件消費税等更正処分、本件消費税等賦課決定処分、本件消費税等減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分も、これらの違法又は不当な処分と一連の処分であることから、違法又は不当であり、取り消されるべきである。
ロ 次のとおり、請求人は、法人税法第127条第1項第3号に規定する隠蔽又は仮装に該当する行為を行っている。 ロ 次のとおり、請求人は、法人税法第127条第1項第3号に規定する隠蔽又は仮装に該当する行為を行っていない。
(イ) 本件カード売上げについて
 H1代表は、本件カード売上げを請求人の売上げとして計上すべきであることを認識していたにもかかわらず、あえて本件帳簿作成担当者に対し、本件N社口座へのQ社からの入金が請求人に帰属する本件カード売上げに係る入金であることを伝えず、本件カード売上げを請求人の総勘定元帳に記録しないことによって、本件カード売上げの額を平成30年5月期の益金の額に算入しなかったのであり、このことは法人税法第127条第1項第3号に規定する隠蔽又は仮装に該当する。
 なお、請求人の令和元年5月期における売上げの過大計上金額は、本件カード売上げの計上漏れ金額と何ら対応しておらず、平成30年5月期の本件カード売上げが平成30年5月期の翌期である令和元年5月期に繰り延べられたものとは認められない。
(イ) 本件カード売上げについて
 本件カード売上げは、請求人が、Q社との間でクレジットカード決済契約を締結しようとしたところ、Q社から、手続上、請求人名義では新規契約を行うことができないので、別法人の口座を作成するよう指示を受けたため、本件N社口座に入金されるようにしたものである。
 H1代表は、本件カード売上げが本件N社口座に入金されていることについて、平成29年4月に本件連絡担当者に相談したところ、本件連絡担当者から「N社で借入金として処理しましょう。」との提案を受けた。この提案を受けて、H1代表は、U社が本件カード売上げを請求人の帳簿に売上げとして計上してくれていると信じていた。本件カード売上げは、本件帳簿作成担当者がこれらの事情を理解していなかったため計上漏れになったものであり、請求人が意図的に売上除外したものではない。
 なお、H1代表は、平成30年5月期の決算書類を見て、平成30年5月期の売上金額が自分の集計している金額より少ないことに気が付いたことから、本件連絡担当者に連絡し、本件カード売上げの計上漏れを補正することにした。具体的には、N社からの平成30年12月から令和元年5月までの仕入金額を請求人の売上原価に計上せず、本件カード売上げが当該仕入金額を上回る部分については請求人の令和元年5月期の売上金額に加算したものである。
(ロ) 本件専売料について
 本件専売契約書には、請求人の印が押印され、本件専売契約書には請求人の名称及び代表者名が署名されており、本件専売契約書は請求人名義で締結されている。そして、H1代表は、本件帳簿作成担当者に対し、請求人名義の口座に入金されない収入を知らせなければ、その収入が請求人の収入に計上されないことを認識していながら、S社の担当者に依頼して本件専売料の振込先を請求人名義の口座からH1代表名義の口座に変更し、その事実を本件帳簿作成担当者に知らせないことにより、本件専売料を総勘定元帳に記録せず、平成30年5月期の益金の額に算入しなかったのであり、このことは法人税法第127条第1項第3号に規定する隠蔽又は仮装に該当する。
(ロ) 本件専売料について
 H1代表は、新店舗におけるS社との契約時に、個人の印鑑しか持っておらず、請求人の印鑑を持参していなかった。そして、そのことをS社の担当者に伝えたところ、「個人の印鑑があるならば個人で契約してもらっても大丈夫。」と告げられたので個人口座を記載したものである。契約者が個人であれば、個人口座にしてほしいと当該担当者から勧められたものであり、意図的にH1代表の個人口座に変更したものではない。
 そして、本件専売料については、H1代表が個人的に費消した事実もなく、請求人の経費に充てていることから、請求人が意図的に脱漏したものではない。
(ハ) 本件各質問応答記録書について
 本件調査担当職員は、日本語で対応していたH1代表に対し言葉をかみ砕いて説明し、特に税務用語については、本件調査担当職員がその言葉の意味するところを別の言葉で説明することでH1代表と本件調査担当職員の質問応答が成立していたと認められ、H1代表からも本件調査担当職員に対し、日本語が分からないといった申出も受けていないこと、また、本件各質問応答記録書の作成に当たっても、請求人の当時の関与税理士の同席の下で、本件調査担当職員が本件各質問応答記録書を読み上げてH1代表に聞かせ、その後、H1代表自身が、本件各質問応答記録書を閲読し、納得してこれに署名押印している。
(ハ) 本件各質問応答記録書について
 H1代表は、〇〇〇であり、日本語の会話はおおむね理解できるが、日本語が堪能とはいえない。また、会計処理については、あまり理解していない。本件各質問応答記録書作成時には、請求人の当時の関与税理士は同席せず、H1代表一人で対応したので、日本語をよく理解しておらず、本件各質問応答記録書の作成趣旨等及び内容はよく分からなかったし、理解できるような丁寧な説明ではなかった。そして、署名をしなければ、内容はともかく調査が終了しないと考え、署名せざるを得ない状況であった。

(2) 争点2(本件各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は幾らか。)について

原処分庁 請求人
イ 次のとおり、平成30年5月期の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は、492,033円である。 イ 次のとおり、平成30年5月期の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は、8,748,992円である。
(イ) 本件各請求書に記載の金額は、請求人が支払ったと主張する本件営業代行報酬の金額及び本件各封筒に記載された支出金額のいずれとも相違している。したがって、請求人は、本件営業代行報酬のうち原処分庁が認定した額である492,033円を超える部分について、その具体的内容を明らかにし、ある程度これを合理的に裏付ける程度の立証をしたとは認められないから、これを請求人の損金の額に算入することは認められない。 (イ) 請求人は、T社から本件営業代行サービス契約に基づく役務提供を受け、請求人を担当していたT社の従業員等に対して上記役務提供に対する報酬を直接現金で支払っていた。
 なお、請求人がT社から受領した本件各請求書に記載されている平成30年5月期における営業代行サービス料の合計額は11,297,406円であるが、実際のところ、請求人はT社の従業員等に対して本件各請求書に記載の金額よりも低い額を支払っており、平成30年5月期における本件営業代行報酬の合計金額は8,748,992円である。
(ロ) 請求人は、本件客引き報酬の金額の計算根拠を示しておらず、誰に、幾ら、どの役務提供の対価として支出したものかを確認することができない。
 また、本件各封筒には、そのほとんどについて単に「支払」などと記載されているにすぎず、当該支出の事実が存在するとしても、誰に、幾ら、いかなる使途として支出したのか、又は支出した金銭が何かしらの費用となるべきものか否かは、本件各封筒の記載からは明らかではなく、請求人から、その支出の内容、支出の相手方などの支出の実態を確認することができる証拠は提出されていない。加えて、請求人が支払ったと主張している本件客引き報酬の額及び本件各封筒に記載された支出金額を店舗別に月ごとにみると、j店及びi店の各店舗において、本件各封筒に記載された支出金額が、請求人が本件客引き報酬の金額と主張する金額を大幅に下回る月がある。したがって、本件各封筒に記載された支出金額が本件客引き報酬として支出されたものとは認められない。
(ロ) 請求人が本件各店舗の客引き行為に係る役務提供を受けた事実及びその対価の額は、本件各封筒の記載、請求人が作成した本件各収支集計表の記載及び客引きらが本件各日報に記載した各自の客引き行為に係る売上金額等からも明らかである。
ロ 令和元年5月期に係る本件法人税等減額更正処分は、納付すべき税額を減額する処分であって、請求人の権利又は法律上の利益を侵害する不利益な処分とはいえないため、本件法人税等減額更正処分の取消しを求める審査請求は、不服申立ての利益を欠く不適法なものである。 ロ 令和元年5月期の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件客引き報酬の金額について、原処分庁は2,051,062円としているが、損金の額に算入すべき本件客引き報酬の正当額は6,735,347円である。
 請求人が令和元年5月期に客引き行為に係る役務提供を受けた事実及びこれに対する対価を支払った事実については、上記イと同様である。

(3) 争点3(本件営業代行報酬について、本件各課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 次のとおり、本件営業代行報酬について、平成30年5月課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用がない。 イ 次のとおり、本件営業代行報酬について、平成30年5月課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用がある。
(イ) 本件営業代行報酬は、請求人の保存する帳簿に記載されていない。 (イ) 請求人は、帳簿として本件各封筒及び本件各収支集計表を保管しており、客引きが各自の客引き行為に係る売上金額等を記載した本件各日報も保存している。
(ロ) 請求人は、請求人が主張する本件営業代行報酬の金額に対応する請求書等を保存していない。
 また、本件各請求書については、T社の従業員等から受領したものであることを示す事実が確認できず、そもそも、T社の従業員等が、実際の請求額に対応していない本件各請求書を発行し、本件営業代行報酬を請求するという行為が不自然といわざるを得ない。さらに、H1代表が、本件調査担当職員に対し、本件営業代行報酬は本件各請求書に基づいて支払われたものではない旨申述していること、また、T社の従業員らが、本件調査担当職員に対し、本件各請求書はT社が作成したものではない旨申述していることからすると、本件各請求書に記載された内容を信用することはできない。
 したがって、請求人が本件各請求書を保管していることをもって請求人の主張する本件営業代行報酬に係る請求書を請求人が保存しているとは認められない。
(ロ) 請求人は、H1代表が、T社の従業員等である本件各店舗の客引きに請求書の作成を依頼したところ、T社名義の本件各請求書が交付されたので、本件各請求書を保存している。
ロ 令和元年5月課税期間に係る本件消費税等減額更正処分は、納付すべき税額を減額する処分であって、請求人の権利又は法律上の利益を侵害する不利益な処分とはいえないため、本件消費税等減額更正処分の取消しを求める審査請求は、不服申立ての利益を欠く不適法なものである。 ロ 請求人は、令和元年5月課税期間においても、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報並びに本件各請求書を保存していることから、本件客引き報酬は、令和元年5月課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用がある。

(4) 争点4(本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(1)の「原処分庁」欄のロに記載の各事実から、本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認められる。
 なお、請求人の令和元年5月期における売上げの過大計上は、本件重加指針第1の3に定める場合に該当しない。
上記(1)の「請求人」欄のロに記載の各事実から、本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件青色承認取消処分は、違法又は不当な処分であるか否か。また、本件各更正処分、本件各賦課決定処分、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分は、本件青色承認取消処分と一連の処分として、違法又は不当な処分であるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 青色申告制度は、誠実かつ信頼性のある記帳をすることを約束した納税者が、これに基づき所得金額を正しく計算して期限内に申告納税することを期待し、かかる納税者に対してその特典を付与するものであるところ、法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消しの趣旨及び目的は、青色申告の承認を受けた納税者について、青色申告の特典の付与を継続することが青色申告制度の趣旨及び目的に反することとなる一定の事実がある場合には、その承認を取り消すことができるものとすることによって、青色申告制度の適正な運用を図ろうとするものであると解される。
       そして、法人税法第127条第1項第3号に規定する取引の全部又は一部を「隠蔽し又は仮装し」とは、青色申告制度の前提となる信頼関係を毀損する行為として、取引を脱漏するなどして帳簿書類に記載若しくは記録をせず又は真実でない科目を帳簿書類に記載若しくは記録をするなどして真実のように装うことをいうものであり、取引の実態に応じて適正に仕訳し、これを帳簿に記載又は記録をすることが青色申告の承認を受けた納税者の義務とされることからすれば、資産の譲渡等による収益を故意に帳簿書類に記載又は記録をしないことは、取引の脱漏として「隠蔽し」たことに当たると解される。
    • (ロ) 青色申告の承認の取消処分は、法人税法第127条第1項各号に該当する事実があれば必ず行われるものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の事情に応じ、所轄税務署長の合理的な裁量によって決すべきものである。そして、所轄税務署長がその裁量権に基づき行った青色申告の承認の取消処分が、社会通念上妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合や法の趣旨及び目的からみて裁量権の不合理な行使であると認められる場合には、当該処分は違法又は不当なものになると解される。
    • (ハ) 本件取消指針は、法人の青色申告の承認の取消しに関する基本的な考えを示した上、その取消処分に係る処理の統一を図るために、その税務署長の裁量権の範囲を示したものであり、本件取消指針の3の(1)のイは、別紙1の2の(4)のとおり、青色申告の承認を受けている法人の所得金額を更正した場合に、更正所得金額のうち不正所得金額が、当該更正所得金額の50%に相当する金額を超えるときにその承認を取り消すなどと定めているところ、当該取扱いは、法人税法第127条第1項第3号に掲げる事実及びその程度、記帳状況、改善可能性等に照らして、真に青色申告書を提出するにふさわしくない場合に青色申告の承認を取り消すとしたものであると解される。そうすると、当該取扱いは、上記のとおりの法人税法第127条第1項に規定する青色申告の承認の取消しの趣旨及び目的に沿ったものであって、当審判所においても相当であると認められる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の経理状況等について
      • A 請求人の平成30年5月期の損益計算書には、当期純利益の額は○○○○円と記載されており、請求人の令和元年5月期の損益計算書には、当期純利益の額は○○○○円と記載されている。
      • B 請求人は、令和元年5月期において、売上金額合計17,840,000円を過大に計上するとともに、N社からの仕入金額合計12,644,453円を計上しなかった。
      • C 請求人の関与税理士であったH5は、令和2年5月19日、本件調査担当職員に対し、「G社(請求人)の元帳は、H1社長(注:H1代表のこと)や奥さんが帰化するために赤字にできなかったので、経理会社のUに数字を作ってもらったのではないか。」と申述した。
    • (ロ) i店に係るS社の専売契約について
      • A 請求人は、上記1の(3)のハのとおり、平成29年6月28日付で、S社との間で、i店を対象店舗として、本件専売契約を締結した。
      • B 本件専売契約書末尾の署名押印欄には、請求人の本店所在地の記載、「G社 代表取締役 H1」という署名及び請求人の代表者印による印影がある。
      • C 請求人は、平成29年7月11日までに、S社に対し、本件専売料の振込先をH1代表名義の預金口座に指定する旨通知した。
      • D S社は、平成29年7月31日、H1代表名義のV銀行○○支店の普通預金口座に本件専売料○○○○円を振り込んだ。
  • ハ U社従業員らの答述等及びこれらの信用性について
    • (イ) 答述等の内容
      • A 本件連絡担当者は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
        • (A) 本件連絡担当者は、U社において、請求人の帳簿の作成に必要な資料等に関する連絡を担当していた。
           なお、請求人の帳簿の作成に必要な資料とは、売上げに関しては預金通帳、費用に関しては請求書や領収証である。
        • (B) 請求人に帳簿の作成に当たって必要な事項を連絡する際には、専らH1代表宛に連絡を行っていた。
        • (C) H1代表から、本件カード売上げを請求人の帳簿に記録してほしいと言われたことはなかった。また、H1代表から、本件カード売上げに関する資料を受け取ったこともなかった。
        • (D) H1代表から、i店に関する専売料がS社からH1代表個人の預金口座に振り込まれているという話を聞いたという記憶はない。もしそのような話があれば帳簿に記録されているはずなので、聞いていないと思う。
      • B 本件帳簿作成担当者は、再調査審理庁所属の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
        • (A) 本件帳簿作成担当者は、請求人の帳簿の作成を担当しており、請求人の帳簿を作成する際は、請求人の預金通帳の写しに記録された入金額を日々の現金売上げとして記録し、支出は仕入れ等の請求書やレシートから記録していた。
        • (B) U社はN社の帳簿作成の代行も受託しており、N社名義の預金口座にQ社からの入金があることはN社の担当者から話を聞いて知っていたが、N社の売上げではないのでN社の帳簿に短期借入金として計上したとしか聞いていなかった。当該入金が本件各店舗のクレジットカード決済による売上げであることは、再調査審理庁の調査担当職員から聞いて初めて知った。
    • (ロ) 答述等の信用性について
       本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者は、それぞれU社における請求人との連絡担当者及び請求人の帳簿作成の担当者という立場で、U社が委託を受けた請求人の帳簿の作成等に関わっていたにすぎない。本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者が、請求人の売上金額の多寡について何らかの利害関係を有していたとはうかがわれず、帳簿の作成等の作業は事務的に行われたものといえる。
       そのような本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者の立場や帳簿の作成状況からすれば、同人らが、本件カード売上げ及び本件専売料を請求人の収益として計上すべきものであると知らされ、請求人から本件カード売上げ及び本件専売料に関する資料を受領していながら、故意に請求人の収益から除外したとは考え難い。また、上記1の(3)のホの(イ)のB及びCのとおり、請求人の総勘定元帳には、本件カード売上げ(平成30年5月期に係るもの全部であり、その詳細については別表1−1及び別表1−2参照)及び本件専売料がいずれも計上されていなかったところ、本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者が、本件カード売上げ及び本件専売料を請求人の収益として計上すべきものであると知らされ、本件カード売上げ及び本件専売料に関する資料を受領していながら、事務的に行われた帳簿の作成等の作業において、過失によって多数回にわたる売上げ全部の計上を失念してしまったとも考え難い。
       以上からすれば、請求人から本件カード売上げ及び本件専売料が請求人の収益として計上すべきものであると知らされていなかった旨の本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者の上記(イ)の答述及び申述内容は信用できる。
  • ニ H1代表の申述及びその信用性等について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(ハ)のとおり、本件各質問応答記録書に記載されたH1代表の各申述がされたこと自体を否定してその申述内容の信用性を争う趣旨と解される主張をし、H1代表の当審判所に対する答述にはこれに沿う部分があるため、以下、当該各申述の信用性について検討する。
    • (イ) 本件各質問応答記録書記載の申述内容
       本件各質問応答記録書には、H1代表が本件調査担当職員に対して要旨以下のとおり申述した旨が記載されている。  
      • A 本件カード売上げであるQ社から本件N社口座への入金は、請求人の売上げとして計上すべきであったが、平成29年4月頃、本件各店舗の事業資金が不足していたため、本件カード売上げを請求人の売上げに計上することなく、本件N社口座から現金で引き出し、請求人の支払に充てていた。
      • B 本件専売料は、請求人名義の預金口座には振り込んでもらわずに、H1代表名義の預金口座に振り込んでもらった。これまでも、j店とS社との間で専売契約を交わし、専売料を請求人名義の預金口座に振り込んでもらっていたが、新しくi店を出店する際、本件専売料の振込先を請求人名義の預金口座からH1代表名義の預金口座に変更してもらうよう、S社の担当者に依頼した。本件専売料は請求人の収入として計上すべきであったが、本件各店舗の事業資金が不足していたため、H1代表名義の預金口座に振り込んでもらい、請求人が経営している居酒屋の備品や消耗品の購入に充てた。そして、本件専売料を請求人の雑収入に計上することはしなかった。
    • (ロ) 当審判所に対する答述について
       上記(イ)の各申述に対し、H1代表は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。  
      • A 本件カード売上げについては、U社が作成した請求人の決算書類を見たところ、赤字になっていたので、請求人の売上げに含まれていないことに気がついた。
      • B 本件専売料については、H1代表がS社の担当者とi店で打合せをしていた際、S社の担当者から早く契約を締結したいと言われ、H1代表は請求人の社印を持っていなかったので、H1代表個人の印鑑を押印したことから、H1代表名義の預金口座に入金されることになった。本件専売料が請求人の雑収入に含まれていないことは、本件調査担当職員に言われて気がついた。
      • C 本件各質問応答記録書については、本件調査担当職員に見せられただけで、読み上げもされていないし、閲読もしておらず、書かれている日本語の意味がよく分からなかったが、本件調査担当職員から「サインが必要です。」と言われ、早く終わらせて帰りたいと思ったので、署名・押印してしまった。
    • (ハ) 本件各質問応答記録書記載の申述の信用性について  
      • A 上記(イ)の申述は、H1代表が自らの判断により本件カード売上げ及び本件専売料をいずれも請求人の収益に計上しなかった旨の内容であるところ、同内容は、上記ハで述べた信用できる本件連絡担当者の答述及び本件帳簿作成担当者の申述において、同人らがH1代表から本件カード売上げ及び本件専売料を請求人の収益として計上すべきであると伝えられていなかった旨の内容と符合している。
         また、本件カード売上げ及び本件専売料の振込先として請求人名義ではない預金口座を指定したのはH1代表自身であったことや、上記ハのとおり、H1代表が本件カード売上げ及び本件専売料に関する資料をいずれもU社に交付しなかったことに鑑みれば、H1代表が本件カード売上げ及び本件専売料を意図的に請求人の売上げから除外した旨の上記(イ)の申述の内容は、自然で合理的なものであるといえる。
         そして、上記(イ)の申述は、請求人名義の預金口座に入金されなかった本件カード売上げ及び本件専売料の使途について、請求人に関する支払に充てたなどと具体的に述べるものである。
         以上からすれば、本件各質問応答記録書におけるH1代表の申述内容は信用できるといえる。
      • B これに対し、H1代表は、上記(ロ)のとおり、本件各質問応答記録書記載の申述内容が信用できない旨の答述をしているが、同答述自体が信用し難いものであると言わなければならない。
         すなわち、H1代表の上記(ロ)のAの答述についていえば、請求人の決算書類を見て赤字になっていた旨の内容は、上記ロの(イ)のAのとおり、請求人の平成30年5月期の損益計算書における当期純利益が○○○○円であり、「赤字」となっていないことと整合しないし、上記(ロ)のBの答述については、本件専売料に係る契約書にH1代表個人の印鑑を押印した旨の内容であるところ、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件専売契約書に請求人の代表者印による印影があることと整合しない。また、H1代表の上記(ロ)のCの答述については、H1代表が本件各質問応答記録書の読み聞かせをされず、閲読もせず、そもそも本件各質問応答記録書に記載されていた日本語の意味が理解できなかったにもかかわらず、署名・押印したという内容であり、記載内容を理解していない文書に署名・押印したなどというその答述内容自体からして不自然・不合理である。
         したがって、H1代表の上記(ロ)の各答述は、いずれも信用することができない。
      • C 以上からすれば、H1代表の上記(ロ)の各答述を踏まえて検討しても、上記Aで述べたとおり、本件各質問応答記録書におけるH1代表の申述内容は信用できる。
  • ホ 検討
    • (イ) 隠蔽又は仮装の有無について
       上記イの(イ)のとおり、青色申告の承認を受けた納税者は、取引の実態に応じて適正に仕訳し、これを帳簿に記載又は記録する義務を負っていることからすれば、資産の譲渡等による収益を故意に帳簿書類に記載又は記録しないことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する「隠蔽し又は仮装し」に該当する。
       そして、上記1の(3)のホの(イ)のAのとおり、請求人は、総勘定元帳の作成をU社に委託していたところ、上記ハのとおり、信用できる本件連絡担当者の答述及び本件帳簿作成担当者の申述によれば、同人らは、H1代表から、本件カード売上げ及び本件専売料が請求人の収益として計上すべきものであると知らされず、本件カード売上げ及び本件専売料に関する資料のいずれも受領していなかったことが認められ、また、上記ニのとおり、信用できる本件各質問応答記録書におけるH1代表の申述からすれば、H1代表が自らの判断により本件カード売上げ及び本件専売料をいずれも請求人の収益に計上しなかったと認められる。
       したがって、H1代表がU社従業員である本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者を介して、本件カード売上げ及び本件専売料に係る収益をいずれも故意に請求人の総勘定元帳に記載しなかったと認められ、これは法人税法第127条第1項第3号に規定する「隠蔽」に該当する。
    • (ロ) 裁量権の逸脱又は濫用の有無について
       上記1の(4)のロの(イ)のとおり、原処分庁は、請求人の平成30年5月期における不正所得金額について、本件カード売上げ14,570,984円(ただし、本件カード売上げの金額は、同ハの(ロ)のとおり、再調査決定において14,586,091円と認定されている。)からQ社への売上手数料を差し引いた金額(別表1−1の「差引振込金額」欄の合計〇〇〇〇円及び別表1−2の「差引振込金額」欄の合計〇〇〇〇円の合計金額〇〇〇〇円)及び本件専売料(〇〇〇〇円)の合計金額〇〇〇〇円であると認定したところ、当該不正所得金額は、5,000,000円を超え、かつ、後記(2)及び別紙2−1の「取消額等計算書」のとおり、本件法人税更正処分に係る裁決後の所得金額〇〇〇〇円の50%に相当する金額〇〇〇〇円を超えているから、本件取消指針の3の(1)のイの場合に該当し、青色申告の承認を取り消さないことが相当と認められる事情もない。
       したがって、原処分庁がその裁量権に基づき行った青色申告の承認の取消処分が、社会通念上妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した、あるいは法の趣旨及び目的からみて裁量権の不合理な行使であるとは認められない。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、請求人は法人税法第127条第1項第3号に規定する「隠蔽」に該当する行為を行ったものと認められ、かつ、原処分庁が本件青色承認取消処分について裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した、あるいは法の趣旨及び目的からみて裁量権の不合理な行使であるとは認められない。
       また、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件青色承認取消処分のその他の部分について、これを不相当とする理由は認められない。
       したがって、本件青色承認取消処分は適法かつ相当であると認められる。
  • ヘ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、原処分庁は、最初に青色申告の承認を受けた者として帳簿を根基とする青色申告に係る更正処分を行い、次いで当該更正処分に係る帳簿の調査の結果を受けて、当該内国法人が、本件取消指針に定める青色申告の承認を取り消すべき場合に該当するか否かの検討を行った上で、青色申告の承認取消処分を行い、最後に当該取消処分に係る事業年度以降の事業年度について、青色申告の承認を受けた者としての特典を剥奪する更正・決定処分を行うべきであるから、原処分は、本件取消指針に反した違法又は不当な処分である旨主張する。
       しかしながら、本件取消指針は、上記イの(ハ)のとおり、法人の青色申告の承認の取消しに関する基本的な考えを示した上、その取消処分に係る処理の統一を図るために、その税務署長の裁量権の範囲を示したものであり、請求人が主張するように、青色申告の承認の取消処分を行った後に、白色申告に係る更正処分を行うべきであるといった手続を定めているものではない。
       そして、本件青色承認取消処分が本件取消指針の3の(1)のイの場合に該当し、青色申告の承認を取り消さないことが相当と認められる事情もないことは、上記ホの(ロ)のとおりである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、本件カード売上げについて、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、H1代表は、本件カード売上げが本件N社口座に入金されていることについて、本件連絡担当者に相談したところ、同人から「N社で借入金として処理しましょう。」と提案を受けたことがあったことから、U社が本件カード売上げを請求人の帳簿に売上げとして記録してくれていると誤認しており、後になって平成30年5月期に本件カード売上げが計上されていないことに気づき、本件カード売上げの計上漏れを補正するために、令和元年5月期の仕入れの一部を計上せず、また、売上金額を加算したものであるから、隠蔽又は仮装に該当する行為を行っていない旨主張する。
       しかしながら、上記ホの(イ)のとおり、信用できる本件連絡担当者の答述及び本件帳簿作成担当者の申述並びに本件各質問応答記録書におけるH1代表の申述からすれば、H1代表がU社従業員である本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者を介して、本件カード売上げに係る収益を故意に請求人の総勘定元帳に記載しなかったと認められる。
       また、仮に、請求人の主張を前提にして検討しても、H1代表は、請求人の売上げとなるべき本件カード売上げがN社において「借入金」として処理されることを認識していたというのであるから、本件カード売上げに係る収益を請求人の総勘定元帳に記載しなかったことについての故意があったことが否定されるわけではない。
       さらに、H1代表が後になって平成30年5月期に本件カード売上げが計上されていないことに気づいて令和元年5月期に売上げの過大計上をした旨の請求人の主張についていえば、上記ロの(イ)のBのとおり、請求人の令和元年5月期における仕入れの計上漏れは12,644,453円、売上げの過大計上は17,840,000円であり、これらの合計金額は30,484,453円であって、これらの金額はいずれも本件カード売上げの金額14,586,091円とは相異しているから、当該仕入れの計上漏れ及び売上げの過大計上により、本件カード売上げの計上漏れは補正されていない。加えて、上記ロの(イ)のCのとおり、請求人の関与税理士が、本件調査担当職員に対し、H1代表やその妻の都合で、請求人が赤字になることを避けるために、請求人の売上げを過大に計上していたことを示唆する内容の申述をしているところ、請求人の令和元年5月期の仕入れの計上漏れ及び売上げの過大計上の結果、同Aのとおり、令和元年5月期の当期純利益の額として○○○○円が計上されていることからすると、請求人の関与税理士が示唆するとおり、当該仕入れの計上漏れ及び売上げの過大計上は、令和元年5月期の決算において損失を計上することを避けるために行われたものであったとうかがわれる。
       以上からすれば、当該仕入れの計上漏れ及び売上げの過大計上は、本件カード売上げの計上漏れの補正を目的として行われたものではなかったと認められる。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ハ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、本件専売契約は、請求人の印鑑を持参していなかったことをS社の担当者に伝えたところ、H1代表個人の印鑑があるのであれば個人で契約しても大丈夫であるとのS社の担当者からの提案により、H1代表個人の印鑑による押印をもって締結したものであるから、本件専売料について隠蔽又は仮装に該当する行為をしていない旨主張する。
       しかしながら、上記ホの(イ)のとおり、H1代表は、S社に対して本件専売料をH1代表名義の預金口座に振り込む旨の指定をしただけでなく、U社従業員である本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者を介して、本件専売料に係る収益を故意に請求人の総勘定元帳に記載しなかったのであるから、これが「隠蔽」に該当する行為であることは明らかである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は幾らか。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第22条第1項は、内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、同項第1号の当該事業年度の収益に係る売上原価等の額、同項第2号の販売費、一般管理費その他の費用の額、及び同項第3号の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定している。
     そして、更正処分については、本来、課税庁が主張、立証責任を負うべきものであるから、具体的な支出が損金の額に算入されるべきか否かが争われている場合には、課税庁において、当該支出が損金の額に算入されないことを主張、立証すべきであるものの、当該支出の存否自体が争われている場合には、課税庁は損金の存否に関連する事実に直接関与していないのに対し、納税者はより証拠に近い立場にあること、一般に不存在の立証は困難であることなどに鑑みると、更正時に存在し、又は提出された資料等を基に判断して、当該支出を損金の額に算入することができないことが事実上推認できる場合には、納税者において、その推認を破る程度の具体的な反証、すなわち、当該支出の存在とその支出額を合理的に推認させるに足りる具体的な立証を行わない限り、当該支出の損金の額への算入は否定せざるを得ないと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、請求人と客引きら及びT社との取引状況等について、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人と客引きらの取引状況等について  
      • A 客引きらによる役務の提供状況及びこれにより勧誘された客に係る請求人の売上金額の確認状況等について
        • (A) 請求人は、平成30年5月期において、「○○○○」と称する者を含む複数の客引きから、本件各店舗に係る客引き行為の役務提供を受けていた。
        • (B) 客引きらは、本件客引き報酬の算定根拠となる売上金額について、各自が勧誘してきた客の着席したテーブル番号を自らメモして控えておき、請求人従業員から当該テーブル番号に係る精算伝票の提示を受け、当該客に係る売上金額を確認していた。
        • (C) 客引きらは、上記(B)の方法で各自が勧誘してきた客に係る売上金額を確認した後、上記(B)の精算伝票の右上の余白に署名し、本件各日報の所定欄にその金額を記載していた。
           そして、本件各日報には、客引きらの氏若しくは名又は通称及び同人らが勧誘してきた客に係る売上金額のみが記載されており、本件客引き報酬の金額又はその算定に用いる報酬率等は記載されていない。
        • (D) 請求人においては、本件各店舗の従業員が上記(B)の精算伝票等に基づいて客引きらがそれぞれ勧誘してきた客に係る売上金額を本件各封筒に記載していた。
      • B 本件客引き報酬の支払状況等について
        • (A) 請求人は、客引きらに対し、それぞれが勧誘してきた客に係る売上金額に一定の報酬率を乗じた金額の対価(本件客引き報酬)を支払っていた。
           なお、本件客引き報酬に係る報酬率については、店舗ごとに目安(おおむね○%前後)が存在したものの、客引きによってまちまちであり、本件客引き報酬の具体的な金額は、客引きらがH1代表に電話又はメール等でその都度提示し、H1代表がこれを承諾することで決められていた。
        • (B) 本件客引き報酬は、本件各店舗の従業員が当該店舗における日々の売上げに係る現金の中から支払っていた。
        • (C) 請求人においては、本件各店舗の従業員が、本件客引き報酬を含む日々の支出金額を本件各封筒に記載していた。
           本件各封筒における支出金額の使途又は支払の相手方に係る記載は、次のaないしdのいずれかであり、次のaの記載に係る支出金額の合計金額は、別表6−1ないし別表6−3のとおり、3,755,529円である。
           なお、本件各封筒に記載された支払金額について、その支払の相手方として「T」などのT社に対する支払であると解される文言は確認できない。
          • a 使途として「給料」、「工資」、「拉客」の文言が記載されたもの、又は、支払の相手方として「○○○○」を含む客引きの通称等であると推認される本件氏名等が記載されたもののいずれかで、かつ、当該使途等に係る支出金額が他の使途等に係る金額と区別して記載されたもの
          • b 使途として飲食品や消耗品等の名称等が記載されたもの
          • c 複数の使途が記載されており、これらに係る支出金額の内訳の記載がないもの
          • d 使途及び支払の相手方がいずれも記載されていないもの
        • (D) 請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「給与手当」勘定には、上記(C)のaの本件各封筒の記載に対応する取引は記載されていない。
        • (E) 本件各封筒は、上記1の(3)のホの(ロ)のAのとおり、本件各店舗における売上げに係る現金等が封入された後、本件各店舗の金庫に一時保管され、一週間に2、3回程度の頻度で、H1代表が回収していた。
        • (F) 本件各収支集計表は、本件各店舗の店長等が、請求人の本店所在地に設置しているパソコンを用いて、本件各封筒の記載を転記して作成していた。
    • (ロ) 請求人とT社との取引状況等について  
      • A はじめに
         請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、T社に対する報酬を現金で支払っていた旨主張しているが、上記(イ)のBの(C)のとおり、本件各封筒に記載された支払金額に係る支払の相手方として、「T」などのT社に対する支払であると解される文言は確認できない。
         また、請求人とT社の取引については、請求人から提出された本件各請求書があるものの、請求人の上記主張によっても、本件各請求書に記載されたとおりの金額を請求人が支払ったわけではないとのことである。
         しかしながら、本件各請求書は、その外観上、T社作成名義でT社の印影様のものがある文書であることから、請求人が平成30年5月期においてT社に本件各請求書に記載された金額の全部又は一部を支払ったか否かについて、以下、検討する。
      • B 本件各請求書について
        • (A) 請求人は、上記1の(3)のヘの(ハ)のとおり、原処分庁に対し、本件各請求書を提出した。
           請求人の説明によると、本件各請求書は、請求人がT社から受領した実物の請求書をスキャンしてパソコンに保存していたデータを印刷したものである。このようにデータを保存していた経緯について、H1代表は、本件調査担当職員に対し、請求人の従業員がT社の従業員からj店において受領した実物の請求書を、H1代表が請求人の従業員に指示してスキャンさせたものである旨、及び、請求書の実物は捨ててしまう旨を申述した。
           そして、請求人は、原処分庁に対し、上記実物の請求書及びそれらをスキャンしたとするデータのいずれも提出又は提示していない。
        • (B) 本件各請求書の「品名」欄及び「総売上」欄にはj店、h店及びi店の各店における「営業代行サービス」に係る「総売上」の金額が記載され、「総売上」欄記載の各金額に「マージン割合」欄記載の「○」%を乗じた金額が「金額」欄に記載されている。また、本件各請求書には、振込日は毎月15日である旨、振込先としてX銀行○○支店のT社名義の預金口座、並びに、「発行元」としてT社の記名及び所在地が記載され、同記名の右横には「T社」と記された印影様のものがある。
           そして、本件各請求書の「品名」欄については、例えば、平成29年6月30日付の請求書であれば、「営業代行サービス06月分」と記載され、1月ないし9月については、それぞれ「営業代行サービス01月分」ないし「営業代行サービス09月分」と記載されている。
        • (C) 本件各請求書に記載されている請求金額(税込金額)の合計金額は、平成30年5月期のもの(平成29年6月分ないし平成30年5月分の請求書12通)については合計11,297,406円、令和元年5月期のもの(平成30年6月分ないし令和元年5月分の請求書12通)については合計11,176,745円である。
           なお、本件各請求書のうち、平成30年11月30日付のものに記載された合計金額は1,004,836円、同年12月31日付のものに記載された合計金額は1,511,004円である。
      • C T社が提出した請求書について
        • (A) T社は、本件調査担当職員に対し、T社が作成して請求人に交付した請求書の控え2通(以下「本件各T社請求書」という。)を提出した。
           本件各T社請求書は、それぞれ平成30年11月30日付及び同年12月31日付であり、いずれもk店における営業代行サービスの対価に係るものである。
        • (B) 本件各T社請求書の「品名」欄及び「総売上」欄には、「営業代行サービス」に係る「総売上」の金額が記載され、「総売上」欄記載の各金額に「マージン割合」欄記載の「○」%を乗じた金額が「金額」欄に記載されている。また、本件各T社請求書には、振込日は毎月15日である旨、振込先としてY銀行○○支店又はX銀行○○支店のT社名義の預金口座、並びに、「発行元」としてT社の記名及び所在地が記載され、同記名の右横には「T社」と記された印影がある。
        • (C) 本件各T社請求書と上記Bの本件各請求書を比較すると、文書の体裁はおおむね同様であり、「T社」と記された印影又は印影様のものの外観も同様のものに見えるが、本件各T社請求書の「総売上」の金額には「¥」マークがなく、本件各請求書の「総売上」の金額には「¥」マークが付されている点、T社が役務を提供した店舗名が「品名」欄に記載されているか宛名欄に記載されているかという点などが異なっている。
        • (D) 本件各T社請求書に記載されている請求金額(税込金額)は、平成30年11月30日付のものにおいては13,898円、同年12月31日付のものにおいては19,559円である。
      • D T社名義の預金口座に対する振込みについて
         X銀行○○支店のT社名義の預金口座には、「G社」から、平成30年12月20日に13,898円、平成31年1月22日に19,559円がそれぞれ振り込まれている。
         なお、上記口座には、これらの振込み以外に、請求人からの入金があったことが確認できる証拠はない。
      • E T社従業員らの申述及びその信用性について
        • (A) H6の申述の内容
           H6(以下「H6氏」という。)は、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
          • a H6氏は、T社における請求人との取引の担当者である。
          • b T社が請求人に対して営業代行サービスを提供したのは、平成30年11月及び同年12月の2か月間、k店に対してのみである。T社は本件各請求書に記載された業務は行っていないし、そもそも本件各請求書を作成していない。
        • (B) H7の申述の内容
           H7(以下「H7氏」という。)は、本件調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
          • a H7氏は、T社において営業代行サービスを担当する部署の責任者である。
          • b T社が発行する請求書においては、「品名」欄の営業代行サービスの月が1月から9月までの場合、「0」を数字の前に付けることはないし、総売上の金額に「¥」マークを付けることもない。したがって、本件各請求書はT社が作成したものではない。また、T社の売上データ及び預金通帳を確認したところ、本件各請求書に記載されている金額はT社の売上げに計上されておらず、入金もされていない。
        • (C) 信用性について
           H6氏及びH7氏の各申述は、上記(A)及び(B)のとおり、本件各請求書はT社において作成したものではなく、本件各請求書に係る支払もされていない旨をいうものであるところ、それらの内容は、本件各T社請求書の記載内容(上記C)やT社名義の預金口座への入金状況(上記D)という客観証拠と符合しており、各申述の内容も相互に符合している上、T社において作成したものではないという本件各請求書とT社において作成した本件各T社請求書との違いを具体的に説明するものである。また、H6氏及びH7氏の各申述の内容には、特段、不自然な点や不合理な点は見当たらない。
           したがって、H6氏及びH7氏の各申述は、いずれも信用することができる。
      • F 小括
        • (A) 上記Eのとおり、信用できるH6氏及びH7氏の各申述からすれば、本件各請求書はT社において作成されたものではなく、請求人が本件各請求書に記載された「営業代行サービス」の役務提供を受けた事実及び請求人が本件各請求書に記載された「営業代行サービス」の対価である金額を支払った事実もなかったと認められる。
        • (B) なお、請求人が提出した本件各請求書についていえば、上記Bの(A)のとおり、本件各請求書はパソコンに保存していたデータを印刷したものであるというものの、本件各請求書の実物及びそれらをスキャンしたとするデータのいずれについても提出又は提示がされておらず、請求人がT社から受領したという本件各請求書の実物が存在したこと自体に疑義があるといわざるを得ない。
           また、そもそも、本件各請求書は、請求人がT社から「営業代行サービス」に係る対価の支払を請求された旨の記載はあるものの、その請求に係る支払がされた事実を確認できるものではない。加えて、平成30年11月分及び同年12月分のT社から請求人に対する請求に係る請求書については、本件各T社請求書及び本件各請求書の双方が存在しているところ、T社が作成した本件各T社請求書とは別に同日付で本件各請求書が作成されるべき事情はうかがわれず、同日付であえて本件各請求書が作成されているのは不自然であるというべきである。そして、本件各T社請求書及び本件各請求書の双方において、その支払方法としてT社名義の預金口座が指定されているところ、本件各T社請求書に係る平成30年11月分及び同年12月分の支払について同口座への振込みは確認できるものの、本件各請求書に係る同年11月分及び同年12月分の支払は確認できず、その他、同年11月分及び同年12月分以外のものについても、本件各請求書記載の金額を請求人がT社に支払ったことを裏付ける証拠もない。
           以上からすれば、本件各請求書については、その外観がT社が作成した本件各T社請求書と同様のものであるからといって、本件各請求書に基づいてその記載のとおりの金額を請求人が支払ったとは認められない。
  • ハ 検討
     以上を前提に、上記イの法令解釈及び上記ロの認定事実に照らして、平成30年5月期の所得金額の計算上、損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額が幾らであるかについて、以下、検討する。
    • (イ) 本件各封筒等について  
      • A はじめに
         上記ロの(イ)のとおり、請求人は、平成30年5月期において、「○○○○」と称する者を含む複数の客引きから、本件各店舗に係る客引き行為の役務提供を受け、それぞれの客引きが勧誘してきた客に係る請求人の売上金額に一定の報酬率を乗じた金額の対価(本件客引き報酬)を支払っていた。
         そして、上記ロの(イ)のBの(B)及び(C)のとおり、請求人においては、本件各店舗の日々の売上げに係る現金の中から本件客引き報酬を支払い、その支払った金額を本件各封筒に記載していたほか、同Aの(C)及び同Bの(F)のとおり、本件各収支集計表及び本件各日報も作成していたことから、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報の各記載から認められる本件客引き報酬の金額が幾らであるかについて、以下、検討する。
      • B 本件各封筒による本件客引き報酬の金額の認定について
        • (A) 本件各封筒は、上記ロの(イ)のAの(D)及び同Bの(C)のとおりの経緯で作成されたものであり、そこに記載された売上金額や支出金額については、基本的には信用できるものであるといえる。
           ただし、本件各封筒に記載された文言には、その意味内容が必ずしも明確ではないものが含まれており、また、本件客引き報酬については、上記ロの(イ)のBの(B)のとおり、本件各店舗の日々の売上げに係る現金の中から支払われていたものであり、その支払の事実を直接裏付ける証拠は、本件各封筒以外にはない。
        • (B) この点を踏まえて検討すると、本件各封筒には、上記ロの(イ)のBの(C)のaのとおり、支出金額の使途として、給与又は賃金を意味する「給料」及び「工資」という文言、客引きを意味する「拉客」という文言が記載されたものや、支払の相手方として、「○○○○」を含む客引きの氏名等であると認められる本件氏名等が記載されたものがあり、かつ、その使途等が他の支出金額とは区別されて記載されたものがある。
           そして、上記ロの(イ)のBの(D)のとおり、請求人の平成30年5月期の総勘定元帳の「給与手当」勘定には、本件各封筒に「給料」、「工資」、「拉客」及び本件氏名等と記載された支出金額に対応する取引が記載されていないことからすると、本件各封筒に記載された上記支出金額は、請求人が従業員に対する給与等とは別に支出した金員に係るものであると認められる。
           以上からすれば、本件各封筒に「給料」、「工資」、「拉客」と使途が記載されたもの、又は、支払先として本件氏名等が記載されたもののいずれかであり、かつ、当該使途等に係る支出金額が他の使途等に係る金額と区別されて記載された支出金額については、請求人が客引きに支払った本件客引き報酬の金額が記録されたものであると認められる。
        • (C) 他方で、本件各封筒に支出金額の使途として飲食品や消耗品等の名称等が記載されているもの(上記ロの(イ)のBの(C)のb)については、その記載内容からして、客引き報酬以外の使途に係る支出について記載したものであることが明らかである。
           また、本件各封筒のうち、複数の使途が記載されており、これらに係る支出金額の内訳の記載がないもの(上記ロの(イ)のBの(C)のc)並びに使途及び支払の相手方がいずれも記載されていないもの(同d)については、本件各封筒に記載されている支出金額が本件客引き報酬として支払われたことが確認できるとは言い難く、その記載から本件客引き報酬の金額を特定することもできない。
      • C 本件各収支集計表による本件客引き報酬の金額の認定について
         上記1の(3)のホの(ロ)のCのとおり、本件各収支集計表には、本件客引き報酬の金額を直接認定できる記載はなく、請求人の支出金額の記載はあるものの、その内訳が記載されていないため、本件各収支集計表の記載によっては、本件客引き報酬の金額を他の使途による支出金額と区別することができない。
         したがって、本件各収支集計表からは、本件客引き報酬の金額を認定することはできない。
      • D 本件各日報による本件客引き報酬の金額の認定について
         上記ロの(イ)のAの(C)のとおり、本件各日報には、客引きらが勧誘してきた客に係る売上金額が記載されているのみであり、本件客引き報酬の金額又はその算定に用いる報酬率等の記載がないため、本件各日報の記載によっては、本件客引き報酬の金額を算定することができない。
         したがって、本件各日報からは、本件客引き報酬の金額を認定することはできない。
    • (ロ) T社との取引について
       上記1の(3)のニのとおり、請求人は、T社との間で本件営業代行サービス契約を締結していたが、上記ロの(ロ)のとおり、請求人がT社から本件営業代行サービス契約に基づく役務の提供を受け、その対価を支払ったのは、平成30年11月及び同年12月の2か月間、k店に対するもののみであり、請求人が本件各請求書に記載された役務提供を受けたとは認められず、その対価を支払ったとも認められない。
    • (ハ) 小括
       以上からすれば、平成30年5月期の損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は、上記(イ)のBの(B)のとおり、本件各封筒に「給料」、「工資」、「拉客」と使途が記載されたもの、又は、本件氏名等が記載されたもののいずれかであり、かつ、他の使途等に係る金額と区別して記載された支出金額の合計金額である3,755,529円であると認めるのが相当である。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、T社から本件営業代行サービス契約に基づく役務提供を受け、請求人を担当していたT社の従業員等に対して上記役務提供に係る報酬を直接現金で支払っていた旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、そもそも、請求人が平成30年5月期にT社から役務の提供を受けた事実は認められないし、同Aのとおり、本件各封筒には、請求人がT社に対する支払をしたことを裏付ける記載は確認できず、上記ロの(ロ)のとおり、請求人がT社に対して本件各請求書記載の金額の全部又は一部を支払ったとも認められず、請求人が平成30年5月期にT社に対して何らかの支払をした事実も認められない。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、請求人が本件各店舗の客引き行為に係る役務提供を受けた事実及びその対価の額は、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報の各記載からも明らかである旨主張する。
       しかしながら、上記ハのとおり、本件客引き報酬の金額については、本件各封筒の記載内容等を詳細に検討しても、本件各封筒に支出金額の使途として「給料」、「工資」、「拉客」の文言が記載されたもの、又は、支払の相手方として本件氏名等が記載されたもののいずれかで、かつ、当該使途等に係る支出金額が他の使途等に係る支出金額と区別して記載されたもの以外には、本件客引き報酬として支払われたと認定できる支払はないというべきである。
       したがって、請求人の主張には理由がない。
  • ホ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のイの(ロ)のとおり、本件各封筒には、そのほとんどについて単に「支払」等と記載されているにすぎず、当該支出の事実が存在するとしても、誰に、幾ら、いかなる使途として支出したのか、又は支出した金銭が何かしらの費用となるべきものか否かは、本件各封筒の記載からは明らかではなく、請求人から、その支出の内容、支出の相手方などの支出の実態を確認することができる証拠は提出されていない旨主張する。
     しかしながら、上記ハの(イ)のとおり、本件各封筒に記載された売上金額や支出金額については基本的には信用できるところ、記載された文言に意味内容が必ずしも明確ではないものが含まれているからといって、本件各封筒に記載された支出金額について、本件各封筒の記載のみでは本件客引き報酬として支出されたものであることを全く認めることができないと判断するのは相当ではないというべきである。
     そして、本件各封筒には、支出金額の使途として「給料」、「工資」、「拉客」の文言が記載されたものや、支払の相手方として本件氏名等が記載されたもので、かつ、当該使途等に係る金額が他の使途等に係る金額と区別して記載されたものがあり、その記載に係る支出金額は、本件客引き報酬として支払われたことが明らかであるというべきである。
     したがって、上記の本件客引き報酬として支払われたことが明らかなものも含めて、損金の額に算入することを認めないとする原処分庁の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件営業代行報酬について、本件各課税期間の消費税等の金額の計算上、仕入税額控除の適用があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     事業者が、仕入税額控除を行うためには、消費税法第30条第7項により、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等、すなわち、法定帳簿及び法定請求書等(課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合には法定帳簿のみ)を保存することが要件とされているところ、当該保存が要件とされた趣旨は、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、公平に資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、法定帳簿及び法定請求書等という確実な資料を保存させ、権限ある課税庁職員の必要あるときは法定帳簿及び法定請求書等を検査することが可能であるときに限り、仕入税額控除の適用ができることを明らかにしたものであると解される。
     そして、上記の消費税法第30条の趣旨に照らせば、同条第7項に規定する帳簿には、適正な税収を確保するため、正確な記載が要求されるものであり、同条第8項第1号イに規定する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」の記載は、相手方を特定できる程度のものであることを要し、略称又は屋号を用いる場合には、当該略称又は屋号が周知性を有しそれのみで相手方を特定することができるような措置が講じられていることを要すると解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件各封筒には、支払の相手方の氏若しくは名又は通称のいずれも記載されていないか、氏若しくは名又は通称のいずれかが記載されているが、支払の相手方の氏及び名のいずれもが記載されているものはない。
    • (ロ) 請求人は、本件各店舗の客引きの氏名及び連絡先を記録した名簿その他の資料を保存していない。
  • ハ 検討
    • (イ) 法定帳簿の保存の有無について  
      • A 本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報の法定帳簿該当性の有無について
         上記1の(3)のホの(イ)及び同ヘの(ロ)のとおり、本件営業代行報酬は、請求人の総勘定元帳の「支払手数料」勘定及び「広告宣伝費」勘定のいずれにも計上されていない。
         この点、請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、本件営業代行報酬に係る法定帳簿として、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報を保存している旨の主張をしていることから、以下、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報がそれぞれ法定帳簿に該当するか否かについて検討する。
        • (A) 本件各封筒について
           上記ロの(イ)のとおり、本件各封筒には、支払の相手方の氏及び名のいずれもが記載されているものはないこと、また、同(ロ)のとおり、請求人は、本件各店舗の客引きの氏名及び連絡先を記録した名簿その他の資料を保存していないことからすると、本件各封筒における氏若しくは名又は通称によって支払の相手方を特定することはできない。
           したがって、本件各封筒は、消費税法第30条第8項第1号イに規定する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」の記載を欠くため、法定帳簿に該当しない。
        • (B) 本件各収支集計表について
           上記1の(3)のホの(ロ)のCのとおり、本件各収支集計表には、1日ごとの支出の合計金額のみが記載されており、その支払先、使途等の内訳が記載されていない。
           したがって、本件各収支集計表は、消費税法第30条第8項第1号イに規定する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」、同号ハに規定する「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」及び同号ニに規定する「第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額」の記載をいずれも欠くため、法定帳簿に該当しない。
        • (C) 本件各日報について
           上記(2)のロの(イ)のAの(C)のとおり、本件各日報には、客引きらの氏若しくは名又は通称及び同人らが勧誘してきた客に係る売上金額のみが記載されており、本件客引き報酬の金額は記載されていない。そして、客引きらの氏若しくは名又は通称の記載のみでは、その支払の相手方を特定できないことは、上記(A)のとおりである。
           したがって、本件各日報は、消費税法第30条第8項第1号イに規定する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」、同号ハに規定する「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」及び同号ニに規定する「第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額」の記載をいずれも欠くため、法定帳簿に該当しない。
      • B 小括
         上記Aのとおり、本件各封筒、本件各収支集計表及び本件各日報はいずれも法定帳簿に該当しない。また、当審判所の調査によっても、請求人がこれらのほかに本件営業代行報酬について記載された帳簿を保存している事実は認められない。したがって、請求人は、本件営業代行報酬について、法定帳簿を保存していないと認められる。
    • (ロ) 法定請求書等の保存の有無について
       上記イのとおり、消費税法第30条第7項は、法定帳簿及び法定請求書等(課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合には法定帳簿のみ)を保存することを仕入税額控除の要件として規定している。そして、上記(イ)のとおり、請求人は、本件営業代行報酬について、法定帳簿を保存していないと認められることから、法定請求書等の保存の有無にかかわらず、本件営業代行報酬に係る仕入税額控除を受けることはできない。
       この点を措くとしても、本件各請求書については、上記3の(2)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、請求人の主張するところによっても、請求人がそこに記載されたとおりの金額を支払っていないというのであり、また、上記(2)のロの(ロ)のFの(A)のとおり、請求人がT社から本件各請求書に記載された役務の提供を受けた事実及び本件各請求書に記載された請求金額を支払った事実は認められない。そうすると、本件各請求書は、消費税法第30条第9項第1号ロに規定する「課税資産の譲渡等を行った年月日」、同号ハに規定する「課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容」及び同号ニに規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」の記載がされたものであるとは認められない。そして、当審判所の調査によっても、請求人が、本件各請求書のほかに、本件営業代行報酬に係る請求書等を保存している事実は認められない。
       したがって、請求人は、本件営業代行報酬について、法定請求書等を保存していないと認められる。
    • (ハ) まとめ
       上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、本件営業代行報酬について、法定帳簿及び法定請求書等のいずれも保存していないと認められる。
       また、当審判所の調査によっても、請求人については、法定帳簿及び法定請求書等を保存できなかったことにつき、消費税法第30条第7項ただし書に規定する「災害その他やむを得ない事情」があったとは認められない。
       したがって、本件営業代行報酬に係る消費税額については、仕入税額控除を適用することができない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件営業代行報酬について、帳簿として本件各封筒及び本件各収支集計表を保管し、本件各日報も保存しているとともに、本件各請求書を保存しているから、仕入税額控除が適用される旨主張する。
     しかしながら、請求人において法定帳簿及び法定請求書等の保存がないことは上記ハのとおりである。したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。
     この重加算税の制度は、納税者が過少申告することについて、隠蔽、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
     したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。ただし、通則法第68条第1項及び第2項による重加算税を課すためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解される。
  • ロ 当てはめ
     上記(1)のホの(イ)のとおり、H1代表がU社従業員である本件連絡担当者及び本件帳簿作成担当者を介して、本件カード売上げ及び本件専売料に係る収益を故意に請求人の総勘定元帳に記載しなかったと認められるから、当該行為は通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当する。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(4)の「請求人」欄のとおり、請求人は本件カード売上げ及び本件専売料について意図的に脱漏したものではなく、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、H1代表が本件カード売上げ及び本件専売料に係る収益を故意に請求人の総勘定元帳に記載しなかったと認められるから、意図的な脱漏ではない旨をいう請求人の主張は採用できない。

(5) 本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分について

請求人は、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分についても、全部の取消しを求めているが、当該各処分は、別表2の「令和元年5月期」の「更正処分等」欄、別表3の「令和元年5月課税事業年度」の「更正処分等」欄及び別表4の「令和元年5月課税期間」の「更正処分等」欄のとおり、いずれも納付すべき税額を減額させるものである。
 また、上記(1)のとおり、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分に先立って行われた本件青色承認取消処分は適法かつ相当である。
 そうすると、請求人には、本件各減額更正処分及び本件消費税等変更決定処分の取消しを求める利益はなく、この点に関する審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

(6) 原処分の適法性について

  • イ 本件青色承認取消処分について
     上記(1)のとおり、本件青色承認取消処分は適法かつ相当である。
  • ロ 本件各更正処分について
    • (イ) 本件法人税等更正処分について
       上記(2)のとおり、平成30年5月期の損金の額に算入すべき本件営業代行報酬の金額は3,755,529円であり、別表5の本件法人税更正処分において損金の額に算入した本件営業代行報酬の金額492,033円を上回る。これに基づき、当審判所が認定した請求人の平成30年5月期の所得金額及び納付すべき税額並びに平成30年5月課税事業年度の課税標準法人税額及び納付すべき税額はそれぞれ別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおりとなり、いずれも本件法人税等更正処分の金額を下回るから、本件法人税等更正処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
       なお、本件法人税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
    • (ロ) 本件消費税等更正処分について
       上記(3)のとおり、請求人は、本件営業代行報酬について、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存していないことから、同項の規定により同条第1項に規定する仕入税額控除は適用されない。そして、これに基づき計算した平成30年5月課税期間の納付すべき消費税等の額は、いずれも本件消費税等更正処分の額と同額となる。
       なお、本件消費税等更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらない。
       したがって、本件消費税等更正処分は適法である。
  • ハ 本件各賦課決定処分について
    • (イ) 本件法人税等賦課決定処分について
      • A 重加算税の額について
         上記ロの(イ)のとおり、本件法人税等更正処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
         また、上記(4)のとおり、本件カード売上げ及び本件専売料について、請求人には、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当する事実があり、その隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していたものと認められる。なお、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、本件カード売上げの合計金額は14,586,091円である。
         そして、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、その他の重加算税の賦課要件にも欠けるところはない。
         これらに基づき、当審判所において、平成30年5月期の法人税及び平成30年5月課税事業年度の地方法人税の重加算税の計算の基礎となるべき税額を計算すると、それぞれ別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおりとなり、通則法第68条第1項の規定に基づき重加算税の額を計算すると、それぞれ○○〇〇円及び〇〇〇〇円となる。
      • B 過少申告加算税の額について
         上記ロの(イ)のとおり、本件法人税等更正処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきであり、また、重加算税の額は上記Aのとおりとなり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとも認められない。
         これらに基づき、当審判所において、平成30年5月期の法人税及び平成30年5月課税事業年度の地方法人税の過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額を計算すると、それぞれ別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおりとなり、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると、それぞれ○○○○円及び○○○○円となる。
      • C 本件法人税等賦課決定処分の適法性について
         本件法人税等賦課決定処分のうち法人税に係る重加算税及び過少申告加算税の合計額は〇〇〇〇円であり、地方法人税に係る重加算税及び過少申告加算税の合計額は〇〇〇〇円であるところ、上記A及びBのとおり、請求人の平成30年5月期の法人税について課されるべき加算税の合計額は〇〇〇〇円、地方法人税について課されるべき加算税の合計額は〇〇〇〇円であり、それぞれ本件法人税等賦課決定処分に係る上記加算税の合計額を超えているから、本件法人税等賦課決定処分は、別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
    • (ロ) 本件消費税等賦課決定処分について
       上記ロの(ロ)のとおり、本件消費税等更正処分はいずれも適法であり、また、本件消費税等更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められず、また、上記(4)のとおり、請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当する事実があり、その隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していたものと認められる。そして、平成30年5月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税及び重加算税の額は、当審判所においても、本件消費税等賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
       したがって、本件消費税等賦課決定処分は、いずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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