(令和4年12月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、E税務署長及び原処分庁に対し、新型コロナウイルス感染症の影響による売上の減少により、納税資金を捻出することが困難であるとして換価の猶予の申請を行ったところ、原処分庁が、請求人は申請に係る国税等を一時に納付することができないとは認められないとして不許可処分を行ったことから、請求人がこれを不服としてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第151条の2第1項は、税務署長は、滞納者がその国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、その国税の納期限から6月以内にされたその者の申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができる旨規定している。
  • ロ 徴収法第152条《換価の猶予に係る分割納付、通知等》第1項は、税務署長は、換価の猶予をする場合には、その猶予に係る金額(その納付を困難とする金額として政令で定める額を限度とする。)をその猶予をする期間内の各月に分割して納付させるものとする旨規定している。
  • ハ 徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》は、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により国税局長が徴収の引継ぎを受けた場合における徴収法の規定の適用については、「税務署長」とあるのは、「国税局長」とする旨規定している。
  • ニ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第53条《換価の猶予の申請手続等》第3項は、徴収法第152条第1項に規定する納付を困難とする金額は、滞納者が法人の場合には、納付すべき国税の金額から、換価の猶予をしようとする日の前日において滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産の価額に相当する金額から事業の継続のために当面必要な運転資金(以下、当該事業の継続のために当面必要な運転資金を単に「運転資金」という。)の額を控除した残額とする旨規定している。
  • ホ 納税の猶予等の取扱要領(平成27年3月2日付徴徴5−10ほか1課共同「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(事務運営指針)の別冊。以下「猶予取扱要領」という。)21《申請による換価の猶予の対象となる国税及び猶予をする金額》は、申請による換価の猶予の対象となる国税については猶予取扱要領17《職権による換価の猶予の対象となる国税及び猶予をする金額》(1)、猶予をする金額については同(2)と同様である旨、それぞれ定めている。
  • ヘ 猶予取扱要領17(2)は、職権による換価の猶予をすることができる金額は、納付を困難とする金額として、以下の(イ)の額から(ロ)の額を控除した残額を限度とし、具体的には、猶予取扱要領第7章第2節《現在納付能力調査》に定める現在納付能力調査によって判定した納付困難と認められる金額とする旨定めている。
    • (イ) 納付すべき国税の額
    • (ロ) 滞納者が法人の場合には、滞納者の納付能力を判定した日において滞納者が有する現金、預貯金その他換価の容易な財産の価額に相当する金額から、運転資金の額を控除した残額
  • ト 猶予取扱要領22《申請による換価の猶予をする期間等》(2)は、猶予期間の始期は、換価の猶予の申請書が提出された日とし、ただし、その日が申請に係る国税の法定納期限以前の日であるときは、法定納期限の日の翌日とする旨定めている。
  • チ 猶予取扱要領61《調査日》は、調査日とは、ある一定時点において納税者の納付能力を判定した日をいい、換価の猶予の申請においては、その申請に係る猶予期間の始期の前日とする旨、また、調査日現在における状況の調査が困難であるときは、調査を行った日の状況から、適宜その調査日現在の状況を推定するものとする旨、それぞれ定めている。
  • リ 猶予取扱要領第7章第2節は、現在納付能力調査は、調査日における納税者の現金、預貯金等の直ちに支払に充てることができる当座資金のほか、当面の事業の継続のために真に必要と認められるつなぎ資金の額とを把握し、それらを勘案して納付すべき国税のうち、直ちに納付することができる額(以下「現在納付可能資金額」という。)及び納付困難な額を判定するための調査である旨定めている。
  • ヌ 猶予取扱要領63《当座資金》は、当座資金の額は、調査日現在における現金、預貯金その他換価の容易な財産であって、直ちに支払に充てることのできる資金(以下「当座資金」という。)の合計額とする旨定めている。
  • ル 猶予取扱要領64《つなぎ資金》は、つなぎ資金の額は、納税者が法人である場合には調査日からおおむね1月以内の期間(以下「計算期間」という。)における運転資金の額とする旨、その運転資金の額は、計算期間における納税者の事業の継続のために必要不可欠な支出の額から計算期間における事業収入その他の収入に係る金額を控除した残額(ただし、当該残額が0円に満たない場合は0円とする。)をいう旨、また、見込納付能力調査において算出した納税者の事業等による収入などの状況を踏まえ、商品の仕入れから販売までの期間が長期にわたる場合、事業維持に必要不可欠な資産の買換えのための資金の積立てを要する場合その他支出が収入を超過するため収支状況にそごを来す時期があると見込まれる場合等において、計算期間後のために資金手当てをしておかなければ、事業を継続することができなくなると認められるときは、必要最小限度の所要資金(以下、当該必要最小限度の所要資金を単に「所要資金」という。)を算定して、運転資金の額に加算することができる(以下、運転資金の額に所要資金の額を加算した額を「つなぎ資金」という。)旨、それぞれ定めている。
  • ヲ 猶予取扱要領65《現在納付可能資金額及び納付困難な額の算定》は、現在納付可能資金額は、当座資金の額からつなぎ資金の額を控除した金額とする旨、納付困難な額は、換価の猶予の申請に係る国税の額から、現在納付可能資金額を控除した金額とする旨、それぞれ定めている。
  • ワ 猶予取扱要領第7章第3節《見込納付能力調査》は、見込納付能力調査は、猶予期間、分割納付の方法による場合の分割納付期限及び分割納付金額を判定するための調査である旨定めている。
  • カ 猶予取扱要領67《支出見込金額等の調整》は、見込納付能力調査においては、不要不急の資産の売却による収入を臨時的な収入に加えるほか、事業の継続のために必要不可欠な支出以外は支出見込金額に含めないこととする旨定めている。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要及び帳票関係
    • (イ) 請求人は、昭和45年に設立された、紳士、婦人及び子供用衣類の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
       請求人の本店所在地は、令和3年2月25日、e市f町○−○からb市d町○−○に移転した。
    • (ロ) 請求人の貸借対照表の令和3年4月度残高試算表(月次・期間)上、同月30日現在の現金・預金合計の額はXXX,000,000円である。
    • (ハ) 請求人の令和2年度損益計算書の残高試算表(年間推移)上、令和3年5月度の運転資金の額はXX,000,000円である。
    • (ニ) 請求人の貸借対照表の令和3年7月度残高試算表(月次・期間)上、同月31日現在の現金・預金合計の額はXXX,000,000円である。
    • (ホ) 請求人の令和3年度損益計算書の残高試算表(年間推移)上、令和3年8月度の運転資金の額はX,000,000円である。
    • (ヘ) 請求人の令和3年5月から同年10月の資金繰り表上、各月の売上高、総合収支の額及び現金預金翌月繰越の額は別表1のとおりである。
  • ロ 審査請求に至る経緯等
    • (イ) 請求人は、令和3年1月18日、請求人の徴収の所轄庁であったF税務署長に対し、別表2の順号1の国税(以下「本件消費税中間2回目分」という。)について、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律第3条《納税の猶予の特例》の規定に基づき、納税の猶予の申請をした。
    • (ロ) F税務署長は、令和3年2月17日、本件消費税中間2回目分について、通則法第43条第3項の規定に基づき、原処分庁へ徴収の引継ぎをした。
    • (ハ) 原処分庁は、令和3年2月24日、上記(イ)の納税の猶予の申請について、猶予期間を同年2月2日から同年8月2日までとする納税の猶予を許可した。
    • (ニ) 請求人は、令和3年4月26日、請求人の徴収の所轄庁であったE税務署長に対し、別表2の順号2の国税(以下「本件消費税中間3回目分」という。)について、徴収法第151条の2の規定に基づき、換価の猶予申請書を提出し、換価の猶予の申請(以下「本件第一猶予申請」という。)をした。
       本件第一猶予申請に係る調査日は、本件消費税中間3回目分の法定納期限の令和3年4月30日であった。また、本件第一猶予申請に係る請求人の当座資金の額は、上記イの(ロ)の額以外に直ちに支払に充てることができる資金がないため、XXX,000,000円、運転資金の額は、同(ハ)のとおりXX,000,000円であった。
    • (ホ) 請求人は、令和3年7月29日、原処分庁に対し、本件消費税中間2回目分について、徴収法第151条の2の規定に基づき、換価の猶予申請書を提出し、換価の猶予の申請(以下、「本件第二猶予申請」といい、本件第一猶予申請と併せて「本件各猶予申請」という。)をした。
       本件第二猶予申請に係る調査日は、上記(ハ)の納税の猶予の許可の猶予期間の最終日である令和3年8月2日であった。また、本件第二猶予申請に係る請求人の当座資金及び運転資金の額は、上記(2)のチのとおり、猶予取扱要領61の定めに基づき上記イの(ニ)及び(ホ)の令和3年7月31日現在の請求人の現金及び預金の合計額並びに損益計算書から推定すると、当座資金の額は、上記イの(ニ)以外に直ちに支払に充てることができる資金がないため、XXX,000,000円、運転資金の額は、同(ホ)のとおりX,000,000円であった。
    • (ヘ) E税務署長は、令和3年8月12日、本件消費税中間3回目分について、通則法第43条第3項の規定に基づき、原処分庁へ徴収の引継ぎをした。
    • (ト) 原処分庁は、令和3年11月1日、本件各猶予申請について、請求人が本件各猶予申請に係る国税等を一時に納付することができないとは認められないとして、いずれも不許可処分をした(以下、これらの不許可処分を「本件各不許可処分」という。)。
    • (チ) 請求人は、令和3年12月27日、本件各不許可処分を不服として審査請求をした。

2 争点

 請求人は、本件各猶予申請において、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったと認められるか否か。

3 争点についての主張

請求人 原処分庁
事業の継続を困難にするおそれがあったと認められるか否かは、猶予取扱要領64の定めに従って計算するつなぎ資金の額を、1月という短期間ではなく、コロナ禍が長期間にわたっている現状においては換価の猶予の趣旨に鑑み1年間の収支状況を考慮して算定した上で判断すべきである。
 そして、請求人には、次のとおり、納付困難な額が算定されるから、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったと認められる。
当座資金の額から滞納税金の金額を控除した残額が、調査日から1月以内の支出金額から収入金額を差し引いた金額を上回る場合には、猶予取扱要領64の定めに従って計算するつなぎ資金の額を確保していることとなり、国税の納付によって事業の休廃止などの事業の継続を困難にするおそれがあるとはいえない。
 そして、請求人には、次のとおり、納付困難な額が算定されないから、納付すべき国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったとは認められない。
(1) 本件第一猶予申請
 つなぎ資金の額のうち運転資金の額は、令和3年4月末からの1月以内における請求人の支出金額(実績額)から収入金額(実績額)を差し引いて算出したXX,000,000円となる。しかし、コロナ禍において長期間にわたり運転資金の確保に苦しんでいる状況においては、手もとの当座資金の額XXX,000,000円を所要資金の額として運転資金の額に加算することが相当である。そうすると、つなぎ資金の額は、XXX,000,000円となる。
(1) 本件第一猶予申請
 つなぎ資金の額のうち運転資金の額は、令和3年4月末からの1月以内における請求人の支出金額(実績額)から収入金額(実績額)を差し引いて算出したXX,000,000円となる。また、請求人には潤沢な資金があり、猶予の調査によっても上記のXX,000,000円以外に資金手当てをしておかなければ、事業を継続することができなくなるとは認められないことから、上記に加算すべき所要資金の額は認められない。そうすると、つなぎ資金の額はXX,000,000円となる。
イ 当座資金の額
 XXX,000,000円
イ 当座資金の額
 XXX,000,000円
ロ つなぎ資金の額 ロ つなぎ資金の額
(イ) 運転資金の額
 XX,000,000円
(イ) 運転資金の額
 XX,000,000円
(ロ) 所要資金の額
 XXX,000,000円
(ロ) 所要資金の額
 0円
(イ)+(ロ)=XXX,000,000円 (イ)+(ロ)=XX,000,000円
ハ 現在納付可能資金額(イ−ロ)
 △XX,000,000円
ハ 現在納付可能資金額(イ−ロ)
 XXX,000,000円
ニ 納付困難な額
 X,000,000円
ニ 納付困難な額
 0円
(2) 本件第二猶予申請
 つなぎ資金の額のうち運転資金の額は、令和3年7月末からの1月以内における請求人の支出金額(実績額)から収入金額(実績額)を差し引いて算出したX,000,000円となる。しかし、上記(1)のとおり、手もとの当座資金の額XXX,000,000円を所要資金の額として運転資金の額に加算することが相当である。そうすると、つなぎ資金の額は、XXX,000,000円となる。
(2) 本件第二猶予申請
 つなぎ資金の額のうち運転資金の額は、令和3年7月末からの1月以内における請求人の支出金額(実績額)から収入金額(実績額)を差し引いて算出したX,000,000円となる。また、上記(1)のとおり、上記に加算すべき所要資金の額は認められない。そうすると、つなぎ資金の額はX,000,000円となる。
イ 当座資金の額
 XXX,000,000円
イ 当座資金の額
 XXX,000,000円
ロ つなぎ資金の額 ロ つなぎ資金の額
(イ) 運転資金の額
 X,000,000円
(イ) 運転資金の額
 X,000,000円
(ロ) 所要資金の額
 XXX,000,000円
(ロ) 所要資金の額
 0円
(イ)+(ロ)=XXX,000,000円 (イ)+(ロ)=X,000,000円
ハ 現在納付可能資金額(イ−ロ)
 △X,000,000円
ハ 現在納付可能資金額(イ−ロ)
 XXX,000,000円
ニ 納付困難な額
 X,000,000円
ニ 納付困難な額
 0円

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 徴収法第151条の2が規定する換価の猶予の制度は、滞納者につき国税を一時に納付することによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、税務署長(徴収法第184条の規定による読み替え後の国税局長を含む。以下同じ。)が納付を困難とする金額を限度として、その申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができるというものである。これは本来、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、納付の督促を経て滞納処分が行われることになるところ、納税者の負担の軽減を図るとともに、早期かつ的確な納税の履行を確保する観点から、原則毎月の分割納付を条件として、申請による換価の猶予の期間内は換価を猶予できるとしたものであり、納税者を救済するための例外的な制度であるということができる。
  • ロ そして、納税者が法人であるときにおいて、上記イのおそれがあると認められる場合とは、事業に不要不急の資産を処分するなど事業経営の合理化を行った後においても、なお国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足を生じ、その結果、滞納者がその事業を休止若しくは廃止せざるを得ない又はこれと同等の状態に至るおそれがあると認められる場合をいうものと解される。さらに、国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足を生じる場合とは、決済資金の不足が事業の継続に影響を与えないなどの特段の事情のない限り、当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額がつなぎ資金の額に満たない状態であることをいうものと解される。
  • ハ このように申請による換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることからすると、同制度の適用に当たっては、納税者間において不公平が生じることを回避し、税務行政の適正妥当な執行を確保する必要があるところ、猶予取扱要領が一定の判断基準及び運用方針を定めているのは、かかる趣旨によるものであると解される。このような猶予取扱要領が定められた趣旨に鑑みると、猶予取扱要領の定めが合理性を有するものと認められる場合には、これを当該事案に適用することが不合理であるという特段の事情がない限り、当該定めに従った判断は相当であるというべきである。
     この点、上記1の(2)のホないしカに記載の猶予取扱要領の各定めは、いずれも、徴収法第151条の2及び第152条の規定に基づき、税務署長が換価の猶予をする場合に、その猶予に係る金額、すなわち、納付を困難とする金額を算定するために委任された徴収法施行令第53条の規定に沿うものであるから、合理性を有するものであると認められ、当審判所においてもその取扱いは相当であると認められる。

(2) 認定事実

請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件各猶予申請に際し、換価の猶予を申請した各期間において、商品の仕入れから販売までの期間が長期にわたる場合や事業維持に必要不可欠な資産の買換えのための資金の積立てを要する場合に該当する等の具体的な事実の申出や書類等の提出はない。
  • ロ 令和3年5月から同年10月までの請求人の総合収支は、別表1のとおり、毎月損失を計上しており現金預金翌月繰越額は減少し続けたが、〇千万円を下回ることはなかった。

(3) 検討

  • イ 上記(1)のロのとおり、国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあると認められる場合に該当するか否かについては、その前提として、当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額がつなぎ資金の額に満たない状態であるか否かを判断する必要があるところ、本件各猶予申請に係る当座資金及び運転資金の額に当事者間の争いはなく(上記3)、当審判所においても相当と認められる。したがって、上記判断に当たっては、上記1の(2)のルの猶予取扱要領64の定めに従うと、つなぎ資金のうち所要資金の額が算定されるか否かの検討が必要となる。
  • ロ そして、上記イのとおり、猶予取扱要領の定めに従って検討したところ、本件各猶予申請に当たり、商品の仕入れから販売までの期間が長期にわたる場合や事業維持に必要不可欠な資産の買換えのための資金の積立てを要する場合などの事情については、上記(2)のイのとおり、請求人から具体的な事実の申出や書類等の提出はなく、当審判所の調査によっても確認できない。また、請求人の総合収支が毎月損失を計上しており、現金預金翌月繰越額は減少し続ける状況であったことは認められるが、現金預金翌月繰越額が〇千万円を下回ることはなかったのは上記(2)のロのとおりであるから、いずれにしても計算期間後のために資金手当てをしておかなければ事業を継続することができなくなると認められる場合に該当しない。したがって、つなぎ資金の額の算定に当たり加算すべき所要資金の額は認められない。
     以上のことを踏まえ、本件各猶予申請について、請求人が国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあると認められる場合に該当するか否かについて判断すると次のとおりである。
  • ハ 本件第一猶予申請
    • (イ) 調査日における当座資金の額
       XXX,000,000円(上記1の(3)のロの(ニ))
    • (ロ) 納付すべき国税の金額
       X,000,000円(別表2の順号2)
    • (ハ) 当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額
       XXX,000,000円(上記(イ)XXX,000,000円−上記(ロ)X,000,000円)
    • (ニ) つなぎ資金の額
       XX,000,000円(上記1の(3)のロの(ニ)の運転資金の額(所要資金の額はなし))
    • (ホ) 判定
       上記(ハ)の額>上記(ニ)の額
  • ニ 本件第二猶予申請
    • (イ) 調査日における当座資金の額
       XXX,000,000円(上記1の(3)のロの(ホ))
    • (ロ) 納付すべき国税の金額
       X,000,000円(別表2の順号1)
    • (ハ) 当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額
       XXX,000,000円(上記(イ)XXX,000,000円−上記(ロ)X,000,000円)
    • (ニ) つなぎ資金の額
       X,000,000円(上記1の(3)のロの(ホ)の運転資金の額(所要資金の額はなし))
    • (ホ) 判定
       上記(ハ)の額>上記(ニ)の額
  • ホ まとめ
     以上によれば、本件各猶予申請とも、当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額はつなぎ資金の額を上回り、国税を一時に納付することにより事後の決済資金に不足が生じるとは認められないから、請求人には国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったとは認められない。

(4) 請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のとおり、運転資金の額を1月という短期間ではなく、コロナ禍が長期間にわたっている現状においては換価の猶予の趣旨に鑑み1年間の収支状況を考慮して算定すべきであるところ、本件においては、手もとの当座資金の額を所要資金の額として運転資金の額に加算して計算すると、本件各猶予申請については、納付を困難とする金額が算定される旨主張する。
 しかしながら、上記1の(2)のルのとおり、納税者が法人である場合のつなぎ資金の額が計算期間を基礎として算定することとされているのは、事柄の性質上、一定の期間を設けて判断するのが相当であるところ、上記(1)のイのとおり、申請による換価の猶予が納税者救済のための例外的な制度であることから必要最小限度の期間を基礎にすることによるものである。また、申請による換価の猶予の許否は、国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれの有無について調査日の時点で判断することとなるため、1年間の収支状況を考慮すべきではない。そして、運転資金の額の計算は、上記1の(2)のル及びカのとおり、加算することができる所要資金の額が必要最小限度とされており、また、事業の継続のために必要不可欠な支出以外は支出見込金額に含めないことからしても、計算期間の運転資金の額に加算することができる額があるか否かの判断には客観的な事実の存在が必要である。しかしながら、請求人は、上記(2)のイのとおり、手もとの当座資金の額と同額を所要資金の額とすべき具体的な事実の申出や書類等の提出をせず、また、所要資金の額を加算すべき客観的な事実の存在は認められない。そうすると、請求人には、上記(3)のロないしホのとおり、本件各猶予申請について、加算すべき所要資金の額はなく、また、当座資金の額から納付すべき国税の金額を控除した残額はつなぎ資金の額を上回っていることから、納付を困難とする金額も算定されない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 請求人のその他の主張について

請求人は、国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったと認められる事情として、次のとおり主張する。

  • イ 平時の場合は、売上の2月分から3月分を必要な運転資金として手もとに置いておくが、災害やコロナ禍のような非常時は、売上の半年から1年分を必要資金として手もとに置いておかなければ正常な経営はできない。本件各猶予申請の時において資金繰りの予想を立てたが、実際には予想以上のキャッシュアウトが生じたから、令和3年11月に保険の取崩し(〇〇万円)及び翌月に融資(〇〇万円)により資金調達を行ったところ、仮に当該資金調達ができなかったときは、税金(計〇〇万円)を支払った場合、翌年1月から2月の預金残高が〇〇万円程度になる。
  • ロ 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、工場の操業を休止せざるを得なくなった日が毎月生じており、特に、令和3年2月21日から同年3月20日までの約1月間、工場の操業を休止していた。

しかしながら、上記(3)のホのとおり、請求人は国税を一時に納付することによりその事業の継続を困難にするおそれがあったとは認められないところ、請求人の主張する上記各事情は、いずれも上記(3)のホの判断に影響するとは認められない。
 このほか、請求人は、納付すべき税額が500万円を超える場合においては、見込納付能力調査表を作成し、調査後の一定期間内の各月の支払に充てることができる資金の額を算定すべきであった旨主張するが、徴収法上、見込納付能力調査表の作成をした上で換価の猶予の不許可処分を行わなければならない旨の規定は設けられておらず、猶予取扱要領上もその定めはない。
 したがって、これらの請求人の主張にはいずれも理由がない。

(6) 原処分の適法性について

上記(3)のロないしホのとおり、本件各不許可処分は猶予取扱要領に従って判断されており、それが不合理であるという特段の事情は認められないから、その判断は相当である。また、本件各不許可処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 以上のとおりであるから、本件各不許可処分は、いずれも適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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