(令和5年2月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の破産手続開始の決定後に破産財団に属する株式についてなされた剰余金の配当により、請求人に配当所得が生じているとして原処分を行ったのに対し、請求人が、当該配当所得は非課税所得であり、仮に課税所得であるとしても破産管財人に源泉徴収義務又は確定申告及び納付義務があるなどと主張して、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 非課税規定関係
    • (イ) 所得税法第9条《非課税所得》第1項柱書及び同項第10号は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法(以下「通則法」という。)第2条《定義》第10号に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得については、所得税を課さない旨規定している(以下、この規定を「本件非課税規定」という。)。
    • (ロ) 通則法第2条柱書及び同条第10号は、この法律において、強制換価手続とは、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう旨規定している。
    • (ハ) 所得税法施行令第26条《非課税とされる資力喪失による譲渡所得》は、本件非課税規定に規定する政令で定める所得は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、通則法第2条第10号に規定する強制換価手続の執行が避けられないと認められる場合における資産の譲渡による所得で、その譲渡に係る対価が当該債務の弁済に充てられたものとする旨規定している。
  • ロ 源泉徴収義務関係
    • (イ) 所得税法第181条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において同法第24条《配当所得》第1項に規定する配当等(以下「配当等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その配当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
    • (ロ) 租税特別措置法(以下「措置法」という。)第9条の2《国外で発行された株式の配当所得の源泉徴収等の特例》第2項は、昭和63年4月1日以後に居住者に対して支払われる同条第1項に規定する国外株式の配当等(国外において発行された株式の剰余金の配当等で、国外において支払われるものに限る。以下同じ。)の国内における支払の取扱者で政令に定めるものは、当該居住者に当該国外株式の配当等の交付をする際、その交付をする金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
    • (ハ) 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第4条の5《国外株式の配当等の源泉徴収等の特例》第1項は、措置法第9条の2第1項に規定する支払の取扱者は、同項に規定する国外株式の配当等の支払を受ける者の当該国外株式の配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理(業務として又は業務に関連して国内においてするものに限る。)をする者とする旨規定している。
  • ハ 破産管財人の管理処分権関係
    • (イ) 破産法第34条《破産財団の範囲》第1項は、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする旨規定している。
    • (ロ) 破産法第78条《破産管財人の権限》第1項は、破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成12年1月22日、平成10年〇月○日にグレートブリテン及び北アイルランド連合王国政府によって正当に授権された英領e島に設立されたF社(平成12年〇月○日以降の名称はG社。)の全株式(1株)を取得した。
     また、請求人は、平成17年12月14日、同年〇月○日に英領e島に設立されたH社(平成18年〇月○日以降の名称はJ社。)の全株式を取得した。
  • ロ K地方裁判所は、平成28年〇月○日、請求人について破産法の規定による破産手続開始を決定し、当該破産手続の破産管財人をL弁護士(以下、請求人の破産管財人としてのL弁護士を「L管財人」という。)とする旨定めた。
  • ハ G社は、令和2年9月30日、単独株主である請求人に対し、剰余金を原資として○○○○円を配当する旨を決定し、同年10月5日に同配当のうち○○○○円を、同年12月17日に残額○○○○円を、それぞれ支払った。
     また、J社は、令和2年9月30日、単独株主である請求人に対し、剰余金を原資として○○○○円を配当する旨を決定し、同年10月5日に同配当のうち○○○○円を、同年12月17日に残額○○○○円を、それぞれ支払った(以下、上記のG社の配当と併せて「本件各配当」という。)。
     なお、本件各配当は、G社及びJ社の取締役に就任していたL管財人が決定した上で、本件各配当の支払に係る事務を行った。また、本件各配当の支払先は、いずれもL管財人名義の預金口座(破産管財人口座)であった。
  • ニ 請求人は、令和2年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について法定申告期限までに申告しなかった。
  • ホ 原処分庁は、令和4年3月28日付で、請求人の令和2年分の所得税等について、別表の「決定処分等」欄のとおり決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ヘ 請求人は、原処分に不服があるとして、令和4年4月22日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各配当が本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当するか否か(争点1)。

(2) L管財人が本件各配当について所得税法第181条第1項又は措置法第9条の2第2項に規定する源泉徴収義務を負うか否か(争点2)。

(3) L管財人は本件各配当に係る所得の確定申告及び納付の義務を負うか否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各配当が本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
本件非課税規定は、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における破産手続等強制換価手続による資産の譲渡に係る譲渡所得については、その譲渡が本人の意思に基づかない強制的な譲渡であり実際問題として課税することが困難であること等の観点から設けられているものである。そうすると、剰余金の配当が本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当すると解することはできない。
 したがって、本件各配当は、本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当しない。
強制換価手続である破産手続において、破産管財人が破産財団に属する財産の換価や処分をするための手段は、狭義の売買だけではなく、破産管財人の管理処分権に基づく債権の取立、破産法第78条列挙の処分などがある。本件非課税規定は、これらの手段を包括的に表現するために、処分や換価の代表的行為である「譲渡」に着目して、「資産の譲渡」との名称を用いている。その意味で、破産管財人が、破産財団に属する株式を売買する場合のみならず、剰余金の配当請求権を行使して支払を受ける場合も「資産の譲渡」に該当する。
 したがって、本件各配当は、本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当する。

(2) 争点2(L管財人が本件各配当について所得税法第181条第1項又は措置法第9条の2第2項に規定する源泉徴収義務を負うか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 所得税法第181条第1項が規定する「配当等の支払をする者」とは、配当等の支払事務を取り扱う者と解されるところ、本件各配当について支払事務を取り扱ったのはG社及びJ社であり、L管財人は、本件各配当の支払事務を取り扱っていないから、所得税法第181条第1項に規定する「支払をする者」に該当せず、同項に規定する源泉徴収義務を負わない。 イ L管財人は、我が国において、破産財団に属する株式の管理処分行為の一環としてG社及びJ社の取締役に就任し、本件各配当に関する政策と実務を決定し、担当し、その資金管理や支払をした上、その受領もした。また、その原資の所在地も我が国である。
 したがって、法的主体としてのL管財人は、「国内において」本件各配当の「支払をする者」に該当し、所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収義務を負う。
ロ L管財人は、措置法施行令第4条の5第1項が規定する「配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理をする者」に該当しないから、措置法第9条の2第2項に規定する「支払の取扱者」に該当せず、同項に規定する源泉徴収義務を負わない。 ロ 措置法施行令第4条の5第1項が規定する「配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理をする者」は、広く民法の範疇において捉えるべきであり、便宜提供者等が該当すると解される。L管財人は、本件各配当の受領者側の便宜提供も行っているからこれに該当する。
 したがって、L管財人は、「支払の取扱者」に該当し、措置法第9条の2第2項に規定する源泉徴収義務を負う。

(3) 争点3(L管財人は本件各配当に係る所得の確定申告及び納付の義務を負うか否か。)について

原処分庁 請求人
G社及びJ社の株主の地位は、破産手続開始決定後も請求人が有しているから、株主としての地位に基づき受領した本件各配当は、請求人に帰属する。
 そして、所得税は一暦年内における各個人の財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除を行った上、これに対応する累進税率の適用によって総合的な担税力に適合した課税を行うことを目的とした租税であって、所得源に応じて課税するようなことは、別段の定めのない限り予定しない。納税者が破産手続開始の決定を受け、その総所得金額が破産財団に属する財産によるものと破産財団に属しない財産(以下「自由財産」という。)によるものとに基づいて算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者個人について存する上記の総所得金額という抽象的な金額であり、所得税は破産財団に関して生じた請求権とは認めがたいと解されている。そうすると、本件各配当に係る所得税は破産財団から弁済を受けることができる債権に該当しない。
 したがって、L管財人は、破産法第78条第1項等により本件各配当に係る所得の確定申告及び納付義務を負わない。
本件各配当に係る所得の納税義務の負担と納税は、請求人の破産手続の破産財団に属する財産につき、L管財人のみが行った管理処分行為の結果であり、しかもその納税がなされるものとすれば、当該破産財団の直接の減少をもたらす危険を伴うものであるから、請求人ではなくL管財人がその責任において、誤りがなきように当該破産財団の管理として自らこれを行うことが必要である。破産法人の破産管財人は、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)第102条《清算中の所得に係る予納申告》及び第105条《清算中の所得に係る予納申告による納付》に基づく予納申告及び納付の義務を負うものとされている。
 したがって、本件各配当に係る所得が請求人に帰属するとしても、L管財人は、破産法第78条第1項に規定する管理処分権能の一環として、あるいは、破産管財人が自己の名により他の者の権利義務を行使し、その結果・効果が当該他の者に帰属するという法定の代位(法定訴訟信託)として、本件各配当に係る所得の確定申告及び納付義務を負うと解すべきである。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各配当が本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当するか否か。)について

  • イ 法令解釈
     本件非課税規定は、上記1の(2)のイのとおり、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合において、破産手続等の強制換価手続等による「資産の譲渡」による所得については、所得税を課さない旨規定しているところ、「資産の譲渡」が要件とされているのは、本人の意思に基づかない強制的な譲渡については、所得税の課税上、特段の考慮が必要であるとする趣旨であると解される。
     そして、上記趣旨及び「譲渡」という文言の通常の意味に照らすと、「資産の譲渡」とは、資産の帰属主体たる地位や所有権を移転させる行為を指すと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     上記1の(3)のハのとおり、G社及びJ社は剰余金を原資として配当をする旨決定したところ、その結果、本件各配当は、請求人に帰属するG社及びJ社の各株式につき、上記配当を受ける権利の行使により支払われたものであると認められるから、本件各配当により、G社及びJ社の各株式の帰属主体たる地位や所有権は請求人から移転せず、G社及びJ社の各株式以外の資産の帰属主体たる地位や所有権が請求人から移転したとも認められない。
     したがって、本件各配当は、本件非課税規定の「資産の譲渡」に該当しない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件非課税規定については、破産管財人が破産財団に属する財産の換価や処分をするための手段を包括的に表現するために、その代表的行為である「譲渡」に着目して、「資産の譲渡」との名称を用いているにすぎず、破産管財人が剰余金の配当請求権を行使して支払を受ける場合も「資産の譲渡」に該当する旨主張する。
     しかしながら、本件非課税規定の趣旨及び文理に照らして検討しても、「資産の譲渡」の意義を拡大解釈して、配当請求権の行使による支払も「資産の譲渡」に該当すると解すべき根拠を見いだすことはできないから、請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(L管財人が本件各配当について所得税法第181条第1項又は措置法第9条の2第2項に規定する源泉徴収義務を負うか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税法第181条第1項は、上記1の(2)のロの(イ)のとおり規定するところ、同規定が「支払をする者」に源泉徴収義務を課しているのは、配当等の支払をする者と支払を受ける者との間に特に密接な関係があって、徴税上特別の便宜を有し、その能率を上げ得る者を義務者とする趣旨であると解されるから、同項に規定する「支払をする者」に該当するか否かは、上記の趣旨に照らして検討するのが相当である。
    • (ロ) 措置法第9条の2第2項は、同条第1項に規定する「支払の取扱者」による源泉徴収義務を規定するところ、同条第2項は、国内投資家の取得する国外株式の配当等については、金融商品取引業者等が国外において受領し、送金を受けて国内投資家に交付されているという取引実態を踏まえて、金融商品取引業者等を源泉徴収義務者としたものであり、措置法施行令第4条の5第1項は、上記1の(2)のロの(ハ)のとおり、措置法第9条の2第1項に規定する「支払の取扱者」を「国外株式の配当等の支払を受ける者の当該国外株式の配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理(業務として又は業務に関連して国内においてするものに限る。)をする者」と規定している。
       以上からすれば、上記「配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理をする者」とは、業務として又は業務に関連して、配当等を受領し、本来の支払を受けるべき者に交付する地位にある者をいうと解される。
  • ロ 当てはめ及び検討
    • (イ) 所得税法第181条第1項について
      • A 本件各配当については、上記1の(3)のハのとおり、法人であるG社及びJ社の各決定に基づいてG社及びJ社が支払義務を負い、その履行として支払われたものであり、L管財人は、G社及びJ社の取締役として本件各配当を決定した上で、本件各配当の支払に係る事務を行った。
         そして、本件各配当は、請求人に帰属するG社及びJ社の各株式につき、剰余金の配当を受ける権利が行使された結果、支払われたものであるから、本件各配当の支払につき、法律上の債権債務関係は、債務者であるG社及びJ社と、債権者である請求人が有している。
      • B また、上記Aのとおり、L管財人が行った本件各配当の決定や本件各配当の支払に係る事務は、L管財人がG社及びJ社の取締役としての地位に基づき行ったものであり、この取締役としての地位はL管財人の有する請求人の破産管財人としての地位に基づくものである。
         この点、破産管財人は、破産手続を適正かつ公平に遂行するために、破産者から独立した地位を与えられて、法令上定められた職務の遂行に当たる者であるから、L管財人は、請求人の破産手続上、請求人が保有していたG社及びJ社の各株式の管理処分権を有し、本件各配当を受領する権限を有するが、破産手続上の職務の遂行として行うものにすぎない。そうすると、L管財人と請求人の関係は、本件各配当の支払において、法律上、直接の債権債務関係に立たないものであることはもとより、これに準ずるような特に密接な関係にあるということもできない。
         また、G社及びJ社の取締役としてのL管財人は、G社及びJ社の執行機関にすぎないから、本件各配当の支払における請求人との関係については、法律上、直接の債権債務関係に立たないものであることはもとより、これに準ずるような特に密接な関係にあるということもできない。
         そうすると、L管財人は、破産管財人としての地位又はG社及びJ社の取締役としての地位のいずれにおいても、本件各配当の支払につき、請求人との間で、法律上、直接の債権債務関係に立つ本来の債務者ではないことはもとより、本来の債務者に準ずる関係にある者であるともいえないから、本件各配当の支払を受ける請求人との間で、本来の債務者又はこれに準ずるような特に密接な関係にあるということはできない。
      • C 以上を踏まえると、L管財人は、本件各配当について所得税法第181条第1項に規定する「支払をする者」に該当しないというべきである。
         したがって、本件各配当が「国内において」支払われたか否かにかかわらず、L管財人は同項に規定する源泉徴収義務を負わない。
    • (ロ) 措置法第9条の2第2項について
       本件各配当につき、本来の支払を受けるべき者は請求人であるところ、L管財人は、上記1の(3)のハのとおり、請求人の破産管財人として請求人に帰属する本件各配当を受領し、これを破産債権者等に支払うべき地位にある者であり、これを請求人に支払うべき地位にある者ではないから、上記イの「配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理をする者」に該当せず、「支払の取扱者」に該当しない。
       したがって、L管財人は、本件各配当について措置法第9条の2第2項に規定する源泉徴収義務を負わない。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり、L管財人が、G社及びJ社の取締役に就任し、本件各配当に関する政策と実務を決定し、担当し、その資金管理や支払及び受領をした上、その原資の所在地も我が国であることから、L管財人が本件各配当について所得税法第181条第1項に規定する源泉徴収義務を負う旨主張する。
       しかしながら、請求人の主張する上記のような事情があったのだとしても、上記ロの(イ)のとおり、L管財人が本件各配当の支払につき、本来の債務者又はこれに準ずる関係にある者であるということはできない。そうすると、L管財人については、本件各配当の支払を受ける者である請求人と特に密接な関係があるとはいえず、同項に規定する「支払をする者」には該当しないというべきである。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のロのとおり、措置法施行令第4条の5第1項が規定する「配当等の受領の媒介、取次ぎ又は代理をする者」は、広く民法の範疇において捉えるべきであり、L管財人は、本件各配当の受領者側の便宜提供も行っているからこれに該当する旨主張する。
       しかしながら、上記イの(ロ)で述べたことからすれば、業務として又は業務に関連して受領する配当等を本来の支払を受ける者に支払うべき地位にある者以外の者に「支払の取扱者」であるとして源泉徴収義務を負わせるべき根拠はないというべきである。
       そうすると、請求人が主張するように、L管財人が本件各配当の支払に関与したことを「受領者側の便宜提供」と評価し得るのだとしても、上記ロの(ロ)のとおり、L管財人が本件各配当を請求人に支払うべき地位にある者とはいえない以上、L管財人は措置法第9条の2第1項に規定する「支払の取扱者」には該当しないから、同条第2項に規定する源泉徴収義務を負うことはない。
    • (ハ) したがって、上記の請求人の各主張は、いずれも理由がない。

(3) 争点3(L管財人は本件各配当に係る所得の確定申告及び納付の義務を負うか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 所得税は、例外的に分離課税の認められる特殊な所得は別として、一暦年内における各個人の財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除を行った上、これに対応する累進税率の適用によって総合的な担税力に適合した課税を行うことを目的とした租税であって、所得源に応じて課税するようなことは、別段の定めのない限り、所得税法の予定しないところである。
       したがって、個人である納税者が破産手続開始の決定を受け、その総所得金額が破産財団に属する財産による所得と自由財産による所得とに基づいて算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者個人について存する上記の総所得金額という抽象的な金額であると解される。
    • (ロ) 上記(イ)のように、破産者個人の課税の対象は、破産者個人について存する上記の総所得金額という抽象的な金額であると解されるから、破産財団に属する財産による所得のみの確定申告及び納付の義務は生じ得ない。
       また、破産法第78条第1項は、上記1の(2)のハの(ロ)のとおり規定し、破産財団に影響を及ぼす一切の行為をなす権限を破産管財人に与えているところ、自由財産による所得が合算された破産者個人の所得税の引当財産は自由財産であるから、破産管財人の管理処分権能は及ばず、このことは、個人である破産者の自由財産による所得が実際にあるか否かによって左右されるものではない。
    • (ハ) 以上からすれば、破産者個人の確定申告及び納付の義務を負う主体は、破産管財人ではなく、破産者個人であると解される。
  • ロ 検討
     本件各配当は、L管財人の管理下にある破産財団に属するG社及びJ社の各株式についてなされたものであるところ、本件各配当に係る所得が請求人に帰属することについては、当事者間に争いがなく、当審判所も認めるところである。
     そして、上記イで述べたことからすれば、本件各配当に係る所得については、当該所得源に応じて課税されるのではなく、破産者である請求人の自由財産による所得と合算して、請求人の令和2年分の所得税等として、請求人個人が確定申告を行い、自由財産から納付する義務を負うことになり、この確定申告及び納付の義務については、L管財人の管理処分権能は及ばない。
     したがって、L管財人が破産法第78条第1項に規定する管理処分権能の一環として本件各配当に係る所得の確定申告及び納付の義務を負うことはなく、その他にL管財人が当該義務を負う法令上の根拠もないから、L管財人は本件各配当に係る所得の確定申告及び納付の義務を負わない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件各配当に係る所得の納税義務の負担と納税は、L管財人が行った処分行為の結果として破産財団の直接の減少をもたらすから、L管財人が行うべきである旨、並びに、破産法人の破産管財人には申告及び納付の義務があるものとされており、個人である破産者の破産管財人についても同様に解すべきである旨を指摘し、L管財人が本件各配当に係る所得の申告及び納付の義務を負う旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、本件各配当に係る所得税等の納付は請求人の自由財産からなされるべきものであるから、その納付が破産財団に影響を及ぼすものではなく、この意味において、自由財産の保有を観念できる請求人の破産管財人であるL管財人と、自由財産の保有を観念できない破産法人の破産管財人とを同様に考えることはできない。
     したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(4) 本件決定処分の適法性について

上記(1)から(3)までのとおり、本件各配当に係る所得については、本件非課税所得に該当せず、L管財人の源泉徴収義務や確定申告及び納付の義務も認められない。これに基づいて請求人の令和2年分の所得税等の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、本件決定処分の額と同額となるから、本件決定処分は適法である。
 なお、本件決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件決定処分は適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 また、請求人は、令和2年12月31日において、その価額の合計額が5000万円を超える国外財産を有していたと認められるから、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国送法」という。)第5条《国外財産調書の提出》第1項本文に規定する国外財産調書の提出義務があったにもかかわらず、これを法定提出期限内に提出しなかったと認められる。
 以上を前提に、請求人の令和2年分の無申告加算税の額を、通則法第66条第1項及び同条第2項並びに国送法第6条《国外財産に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第3項の規定に基づいて計算すると、本件賦課決定処分における無申告加算税の額と同額となる。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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