(令和5年3月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、国外に居住する親族に係る扶養控除を適用して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該親族が請求人と生計を一にすることを明らかにする書類の添付がないから、扶養控除を適用できないとして更正処分等をしたのに対し、請求人がその一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法関係
     国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項は、税務署長は、還付金がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、通則法第56条《還付》第1項の規定による還付に代えて、還付金をその国税に充当しなければならない旨、通則法第57条第3項は、税務署長は、同条第1項の規定による充当をしたときは、その旨をその充当に係る国税を納付すべき者に通知しなければならない旨それぞれ規定している。
  • ロ 所得税法関係
    • (イ) 所得税法(平成28年分及び平成29年分については、平成29年法律第4号による改正前のものであり、平成30年分及び令和元年分については、平成30年法律第7号による改正前のものであり、令和2年分については、令和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第34号は、扶養親族とは、居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前については38万円以下。)である者をいう旨規定し、同項第34号の2は、控除対象扶養親族とは、扶養親族のうち、年齢16歳以上の者をいう旨規定し、同項第34号の3は、特定扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、年齢19歳以上23歳未満の者をいう旨規定し、同項第34号の4は、老人扶養親族とは、控除対象扶養親族のうち、年齢70歳以上の者をいう旨規定している。
    • (ロ) 所得税法第84条《扶養控除》第1項は、居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額から、その控除対象扶養親族1人につき38万円(その者が特定扶養親族である場合には63万円とし、その者が老人扶養親族である場合には48万円とする。)を控除する旨規定している。
    • (ハ) 所得税法第120条《確定所得申告》第3項柱書及び同項第2号は、確定申告書に、同法第2条第1項第5号に規定する非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項の記載をする居住者が確定申告書を提出する場合には、当該居住者は、政令で定めるところにより、当該扶養控除に係る非居住者である親族が当該居住者の親族に該当する旨を証する書類及び当該非居住者である親族が当該居住者と生計を一にすることを明らかにする書類を確定申告書に添付し、又は確定申告書の提出の際提示しなければならない旨規定している。また、所得税法第122条《還付等を受けるための申告》第3項は、同法第120条第3項の規定は、還付を受けるための申告書の提出について準用する旨規定している。
    • (ニ) 所得税法施行令(平成28年分及び平成29年分については、平成28年政令第145号による改正前のものであり、平成30年分及び令和元年分については、平成31年政令第95号による改正前のものであり、令和2年分については、令和2年政令第111号による改正前のもの。以下同じ。)第262条《確定申告書に関する書類等の提出又は提示》第3項(平成28年分及び平成29年分は第2項。以下同じ 。)柱書は、所得税法第120条第3項第2号(同法第122条第3項において準用される場合を含む(上記(ハ)参照)。)に掲げる居住者は、同号に規定する記載がされる親族に係る次に掲げる書類を、当該記載がされる控除対象扶養親族(以下「国外居住扶養親族」という。)の各人別に確定申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際提示しなければならない旨規定している。  
      • A 国外居住扶養親族が当該居住者の配偶者以外の親族に該当する旨を証する書類として財務省令に定めるもの(第1号ハ。以下「親族関係書類」という。)
      • B 国外居住扶養親族が当該居住者と生計を一にすることを明らかにする書類として財務省令で定めるもの(第2号。以下「送金関係書類」という。)
    • (ホ) 所得税法施行規則(平成28年分及び平成29年分については、平成28年財務省令第15号による改正前のものであり、平成30年分ないし令和2年分については、令和2年財務省令第11号による改正前のもの。以下同じ。)第47条の2《確定所得申告書に添付すべき書類等》第6項(平成28年分及び平成29年分は第5項。以下同じ。)は、所得税法施行令第262条第3項第2号の送金関係書類は、次に掲げる書類であって、所得税法第120条第3項第2号に掲げる居住者がその年において国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの(当該書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含む。)とする旨規定している。  
      • A 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国送法」という。)第2条《定義》第3号に規定する金融機関の書類又はその写しで、当該金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住扶養親族に支払をしたことを明らかにするもの(第1号)
      • B クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで、クレジットカード等を当該国外居住扶養親族が提示し又は通知して、特定の販売業者から商品又は権利を購入等したことにより支払うこととなる当該商品又は権利の代金に相当する額の金銭を当該居住者から受領し、又は受領することとなることを明らかにするもの(第2号)
  • ハ 国送法関係
    • (イ) 国送法第2条第3号は、金融機関とは、銀行その他の政令で定める金融機関をいう旨規定している。
    • (ロ) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(以下「国送法施行令」という。)第2条《金融機関の範囲》柱書は、国送法第2条第3号に規定する政令で定める金融機関(以下「国送金金融機関」という。)は、次に掲げるものとする旨規定している。  
      • A 銀行法第2条《定義等》に規定する銀行、長期信用銀行法第2条《定義》に規定する長期信用銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合及び中小企業等協同組合法第9条の9《協同組合連合会》第1項第1号の事業を行う協同組合連合会(第1号)
      • B 業として貯金の受入れをすることができる農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合及び水産加工業協同組合連合会(第2号)
      • C 日本銀行、農林中央金庫、株式会社商工組合中央金庫、株式会社日本政策投資銀行及び株式会社国際協力銀行(第3号)
      • D 資金決済に関する法律第2条《定義》第3項に規定する資金移動業者(第4号)
  • ニ 銀行法関係
    • (イ) 銀行法第2条第1項は、この法律において「銀行」とは、同法第4条《営業の免許》第1項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者をいう旨規定し、同法第2条第2項は、この法律において「銀行業」とは、次に掲げる行為のいずれかを行う営業をいう旨を規定している。  
      • A 預金又は定期積金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。(第1号)
      • B 為替取引を行うこと。(第2号)
    • (ロ) 銀行法第4条第1項は、銀行業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができないと規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成28年分、平成29年分、平成30年分、令和元年分及び令和2年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、各確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載していずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 本件各確定申告書には、支払先を請求人が代表取締役を務める内国法人のH社(以下「本件法人」という。)、「控除対象扶養親族の数」欄を空欄とする本件各年分の給与所得の源泉徴収票がそれぞれ添付されていた。
  • ハ 本件各確定申告書には、別表2のとおり、日本国及びイラン・イスラム共和国(以下「イラン国」という。)に居住する請求人の親族が所得税法第84条に規定する扶養控除の対象になるとして、その一覧を記載した書面が添付されていた(以下、別表2記載の者を「本件対象者ら」といい、個々の本件対象者らをそれぞれ「本件対象者1」ないし「本件対象者41」という。)。
  • ニ 請求人が送金関係書類として原処分庁へ提出した書類は次のとおりである。
    • (イ) 「Official Translation Inter-bank Electronic Payment Order Form」と題する書面(以下「本件各インターバンク支払指示書翻訳文」という。)
       本件各インターバンク支払指示書翻訳文は、同様の表題の書面等複数通からなるものであり、「J Bank」の表記とともに、英文にて要旨、イラン国内にある「J Bank」の請求人の口座から、別表3の「本件各インターバンク支払指示書翻訳文」欄のとおり、令和2年12月21日頃に、同表記載の本件対象者らの口座に、それぞれ1回ずつ、150,000,000又は200,000,000イラン・リアルを振替(transfer)する旨の記載がされている。
    • (ロ) 「Official Translation Logo J Bank (Public Joint Stock)」と題する書面(以下「本件ロゴ指示書翻訳文」という。)
       本件ロゴ指示書翻訳文には、英訳にて要旨、請求人及び本件対象者32が、令和2年12月23日頃に、別表3の「本件ロゴ指示書翻訳文」欄のとおり、イラン国内にある「J Bank」の本件対象者32の口座に、200,000,000イラン・リアルを預金(deposit)した旨の記載がされている。
    • (ハ) 本件対象者らの現金受取書(以下「本件現金受取書」という。)
       本件対象者2の親族関係書類には、外国語の表記の下に日本語で「私、Kは、弟Fの金300万円を2017年7月14日に、Lより受け取りました。」と記載がされている。
  • ホ 「J Bank」は、日本国の法令に基づき免許・許可・登録等を受けている銀行又は資金移動業者として、金融庁の設置するホームページに記載されている「銀行免許一覧(都市銀行・信託銀行・その他)」、「銀行免許一覧(外国銀行支店)」、「銀行免許一覧(地方銀行)」、「銀行免許一覧(第二地方銀行)」及び「資金移動業者登録一覧」のいずれの一覧表にも記載されていなかった。
  • ヘ 原処分庁所属の担当職員に請求人が申述した内容を記した原処分庁作成の調査報告書には、要旨次のとおり記載されていた。
    • (イ) 令和3年9月1日付(同年8月24日申述)  
      • A 本件対象者36については、平成28年以降、請求人が代表者を務める本件法人で勤務しており、請求人が扶養はしていない。一方で、本件対象者36一家のうち同人以外の者については、請求人が扶養している。
      • B 1本件対象者19は平成26年に、2本件対象者26は平成30年に、3本件対象者34は令和3年に、4本件対象者36は平成26年に、いずれも来日している。また、本件対象者19及び本件対象者26については、請求人が学費を負担している。
      • C 本件対象者らのうち、本件対象者19、本件対象者26、本件対象者34及び本件対象者36を除く者らについては、いずれもイラン国に居住している。
      • D 日本国が行っているイラン国への経済制裁の影響で、日本国の財務省がイラン国への国外送金を禁止したため、国送金金融機関を利用した送金が一切できていない。イラン国への送金は、親族などがイラン国へ帰国する際に現金を渡しイラン国に持ち込ませる方法、又はイラン国内に請求人が有する口座から親族の口座へ振り込む方法により行っている。
    • (ロ) 令和3年10月4日付(同年9月28日申述)
      • A 本件対象者19について
        • (A) 平成26年9月から平成31年3月までM大学に在籍し、同年4月から本件法人に勤務している。
        • (B) 来日して本件法人で勤務するまでの生活費は、金額、支給日とも不定で、銀行を通さず、請求人が直接現金で手渡す方法により負担していた。
      • B 本件対象者26について
        • (A) 平成30年9月から令和2年3月までM大学に在籍し、同年4月から現在に至るまで学校法人Nに在校している。
        • (B) 来日して現在に至るまでの生活費は、金額、支給日とも不定で、銀行を通さず、請求人が直接現金で手渡す方法により負担していた。
  • ト 原処分庁は、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、平成28年分ないし平成30年分の本件対象者19及び平成30年分ないし令和2年分の本件対象者26を除く本件対象者らに扶養控除の適用はないとして、令和3年12月24日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せ「本件各更正処分等」という。)をした。
  • チ また、原処分庁は、令和4年1月13日付で、通則法第57条第1項の規定に基づき、請求人の平成29年分の所得税等の確定申告において生じた、還付金の額に相当する税額○○○○円(以下「本件還付金」という。)を別表4記載の請求人の本件各更正処分等に係る未納国税(以下「本件国税」という。)に充当し(以下、この充当を「本件充当処分」という。)、同条第3項に基づき、同日付の「国税還付金充当等通知書」により、その旨を請求人に通知した。
  • リ 請求人は、令和4年3月18日、上記ト及びチの各処分に不服があるとして、審査請求をした。
     なお、請求人は、本審査請求において、本件対象者らのうち、本件各更正処分等により原処分庁が上記トのとおり扶養控除の適用があるとした者以外に、次を除く親族には、本件各年分の所得税等の計算上、扶養控除の適用がある旨主張している(以下、請求人が本審査請求において扶養控除の適用がある旨主張している当該親族を「本件国外居住親族」という。)。
    • (イ) 本件各年分における、本件対象者7、本件対象者9、本件対象者15及び本件対象者36
    • (ロ) 平成28年分ないし平成30年分における、本件対象者30及び本件対象者37
    • (ハ) 令和元年分及び令和2年分における、本件対象者19及び本件対象者38
    • (ニ) 平成29年分ないし令和2年分における本件対象者28
    • (ホ) 平成29年分及び平成30年分における本件対象者27
    • (ヘ) 平成28年分における本件対象者29
    • (ト) 令和2年分における本件対象者34
  • ヌ 請求人が送金関係書類として本審査請求において提出した書類は次のとおりであり、これらの書類に記載されている内容は要旨以下のとおりである。
    • (イ) P銀行○○支店の請求人名義の口座番号○○○○の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)の通帳の写し(以下「本件預金通帳」という。)  
      • A 取引日が平成28年5月2日から同年7月29日までの本件預金通帳には、1同年6月1日に本件預金口座から300万円の「引出し」の記録がされ、その横に「イランの家族に送金」と手書きの記載がされ、また、2同年7月21日に本件預金口座から300万円の「引出し」の記録がされ、その横に「イランの家族に送金」と手書きの記載がされている。
      • B 取引日が平成30年7月26日から同年8月29日までの本件預金通帳には、同年8月29日に本件預金口座から300万円の「引出し」の記録とともに、その下に「イランへの家族送金 生活費と入院費として。(ガン治療) Fから甥のQ(本件対象者19)に 金300万円を持って行くことに。F 銀行送金出来ない為手渡」と手書きの記載及び「○○○○○」の押印がされている。
      • C 取引日が平成30年10月18日から同年12月25日までの本件預金通帳には、同年11月22日に本件預金口座から100万円の「引出し」の記録とともに、その横に「イランの弟へ生活費として渡す」と手書きの記載が、また、本件預金通帳の枠外に「30年11月22日 Fから弟R(本件対象者38)へ生活費として本人に渡しました(日本滞在時に渡す)」と手書きの記載及び「○○○○○」の押印がされている。
      • D 取引日が平成31年3月18日から令和元年5月7日までの本件預金通帳には、平成31年4月9日に本件預金口座から50万円の「ATM(○○○○)」の記録とともに、その横に「イランの家族へ送金」と手書きの記載がされている。
      • E 取引日が令和元年5月13日の本件預金通帳には、同日に本件預金口座から150万円の「引出し」の記録とともに、その下に「2,000,000円を家族に。Fより姉のS(本件対象者32)に生活費として渡す。R-元年5月13日 F」と手書きの記載及び「○○○○○」の押印がされている。
    • (ロ) 税関申告書の写し(以下「本件税関申告書」という。)  
      • A 本件対象者ら以外の者である「T」が国外へ3,000,000円を持ち出す旨申告し、平成29年2月9日付でU税関支署の押印がされている。
      • B 本件対象者19が国外へ3,000,000円を持ち出す旨申告し、平成30年8月29日付でU税関支署の押印がされている。
      • C 本件対象者38が国外へ1,000,000円を持ち出す旨申告し、平成30年11月24日付でU税関支署の押印がされている。
    • (ハ) 「公文書日本語訳文 イランイスラム共和国 司法権 国家文書・不動産登記庁 公文書」と題し、「証書の書類:宣誓供述書(非金融)」と記載のある複数通の書面(以下「本件各宣誓供述書」といい、上記ニ、(イ)及び(ロ)の各書類と併せて「本件請求人提出書類」という。)
       本件各宣誓供述書は、別表3の「本件各宣誓供述書」欄のとおり、d市の公証人役場への登録日ごとに本件対象者らを供述者として作成され、本件対象者らが、要旨、平成22年から癌の化学療法、心臓病、糖尿病、手術、関節炎とリウマチの医療費と治療費、健康、食料品、家賃などの賃貸住宅に係る費用、教育費の援助として、様々な方法で、請求人から経済的支援を受けていることを公証人に供述した旨が記載されている。

2 争点

(1) 本件各更正処分に信義誠実の原則又は租税公平主義に反する違法があるか否か(争点1)。

(2) 本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用があるか否か(争点2)。

(3) 本件充当処分は適法か否か(争点3)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各更正処分に信義誠実の原則又は租税公平主義に反する違法があるか否か。)について

請求人 原処分庁
以下のことから、本件各更正処分には、信義誠実の原則及び租税公平主義に反する違法がある。 以下のことから、本件各更正処分には、信義誠実の原則及び租税公平主義に反する違法はない。
イ 信義誠実の原則について イ 信義誠実の原則について
(イ) 請求人は、確定申告をするに当たり、原処分庁に税務相談をし、平成28年分申告において税務署から何らの調査、指摘又は指導も受けなかったことから、平成29年分以降の確定申告においても、国外居住親族に係る扶養控除を適用した。 (イ) 平成28年分の所得税等の確定申告に当たり、請求人が税務相談でのやり取りをした事実や、税務相談に応じた職員がどのような内容の指導を行ったかという事実は明らかでなく、また、請求人による税務相談があったことを裏付ける証拠の提出もないことから、請求人の主張する税務相談が行われたとする具体的事実を認めることができない。仮に請求人の主張を前提としても、税務相談における税務職員の指導・助言は、納税者に対して一応の参考意見を示すにすぎず、最終的にどのような納税申告をすべきかは納税義務者の判断と責任に委ねられているというべきである。
(ロ) 令和2年分の確定申告については、原処分庁担当者が、令和2年12月10日、請求人に対し、イラン国内銀行におけるイラン国内送金でも扶養控除を受けることができるとの指示・指導をした。
 請求人は、上記指示・指導に関し、12月14日に原処分庁担当者から電話で、イラン国内銀行での送金では扶養控除の適用が受けられない旨の訂正の指摘を受けておらず、内閣総理大臣の免許を受けたV銀行を利用した海外送金もできるのではないかと示唆を受けたにとどまる。この示唆を受けて、請求人は、V銀行への海外送金ができるか金融機関に問い合わせたところ、明確な回答がなかったため、その旨を原処分庁担当者に報告し、イラン国内銀行での送金をすることを伝えたところ、原処分庁担当者から、同銀行による送金で構わない旨の回答を受けた。
 そこで、請求人は、12月23日に、請求人名義のイラン国内銀行の預金口座から各親族の預金口座に送金をした。
 以上のとおり、原処分庁は、イラン国内銀行での送金によって扶養控除の適用があるとの態度を一貫して示していた。
(ロ) 原処分庁担当者は、令和2年12月10日、請求人に対し、イラン国内銀行を利用しイラン国の親族へ振込みを行えば扶養控除を受けることができる旨説明をしたが、同月14日、請求人に対し、電話にて、上記振込みで利用する銀行については、内閣総理大臣の免許を受けた金融機関であることが要件となる旨伝え、請求人の了承を得た。
 また、請求人は、原処分庁担当者宛に、令和3年4月15日付で、「令和2年12月14日に原処分庁担当者から連絡を頂き、指示がありました扶養親族について。」と記載のある文書を提出しており、当該文書に添付されていた「外国銀行代理銀行認可・届出一覧」と題する書面には、「イランと取引のある総理大臣が認めたバンク 12月14日原処分庁担当者より教えていただいた。」と手書きの記載があったから、請求人が扶養控除の適用のためには内閣総理大臣の免許を受けている銀行からの送金であることを要する旨を理解していたと認められる。
 したがって、請求人は、送金関係書類に係る送金に利用する金融機関については内閣総理大臣の免許を受けていることが要件となる旨の指導を受けた上で、自らの判断でイラン国内の銀行を利用し、同国内の親族に送金したと認められることから、信義誠実の原則に関する請求人の主張は前提を欠くものである。
ロ 租税公平主義について
 送金関係書類を提出せずに扶養控除の適用を課税庁に認められている者は多数存在すると思われるので、本件各更正処分は、請求人のみを狙い撃ちにしたものであり、租税公平主義に反し違法である。
ロ 租税公平主義について
 請求人以外の者において、送金関係書類を提出せずに扶養控除の適用を受けている者がいたとしても、請求人に対する本件各更正処分が法の規定に従って行われている以上、租税公平主義に反する違法はない。

(2) 争点2(本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用があるか否か。)について

原処分庁 請求人
以下イないしハの理由により、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用はない。したがって、請求人の本件各年分の扶養控除の対象者は請求人が日本国内で扶養している者になり、扶養控除の合計金額は、平成28年分が38万円、平成29年分が38万円、平成30年分が76万円、令和元年分が38万円及び令和2年分が38万円である。 以下イないしハの理由により、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用がある。したがって、請求人の本件各年分の扶養控除の合計額は、原処分庁が主張する日本国内で扶養している者に加え、本件国外居住親族に係る別表5の扶養控除の合計額を加えるべきである。
イ 非居住者である親族に係る扶養控除の適用に当たっては、納税者において、当該親族が納税者の親族であること及び生計を一にすることを確認できる書類の添付等によって証しなければならないことは明らかであるところ、本件国外居住親族については、納税者の親族であること及び生計を一にすることを証することが一般に困難であると思料されることを踏まえても、少なくとも、所得税法施行規則所定の親族関係書類により本件国外居住親族が納税者の配偶者以外の親族に該当すること、また、送金関係書類により国外居住親族の生活費又は教育費に充てられるための支払を必要の都度、各人に行ったことがそれぞれ明らかにされなければならないものと解されている。 イ 所得税法上の扶養控除を受けるための適用要件は、申告に係る国外居住扶養親族が、居住者の親族(配偶者を除く。)でその居住者と生計を一にするもののうち、合計所得金額が38万円以下である者に該当することであって、親族関係書類及び送金関係書類の添付又は提示は要件該当性を立証するための資料として求められているにすぎず、添付又は提示すること自体が扶養控除の適用要件とはいえない。
 したがって、本件国外居住親族が所得税法所定の扶養親族であることの立証がなされているのであれば、扶養控除は適法性が確保され、その適用が排斥されるものでないと解すべきである。
 また、生計を一にすることの判断においては、送金の事実が生計同一の重要な評価根拠となるから、送金関係書類については、その提出を求められているのみで、当該送金関係書類に記載のある送金が一体いかなる目的・性質のものであるかなどは一切問われていない。
ロ 本件各確定申告書には、本件国外居住親族に係る送金関係書類の添付又は提出がなかったから、本件国外居住親族が請求人と生計を一にすることが明らかにされたとはいえない。 ロ 日本国の銀行からイラン国の銀行への海外送金については、イラン国への経済制裁による制限があるため、請求人はイラン国内の銀行に海外送金することはできず、送金関係書類を提出できなかったのであり、そもそも送金関係書類の提出が困難となる事情があっても、一律扶養控除の適用を否認することになるのは、極めて不当である。
ハ 本件各年分について、請求人が提出した本件各インターバンク支払指示書翻訳文、本件各宣誓供述書等は、国送法施行令第2条が規定する金融機関の書類又は写しに該当しないことから、請求人による本件各インターバンク支払指示書翻訳文等の提出をもって、請求人が送金関係書類を添付又は提示したとはいえず、本件国外居住親族が請求人と生計を一にすることが明らかにされたとはいえない。 ハ 本件各年分について、請求人は、イラン国内にある銀行発行に係る送金明細書である本件各インターバンク支払指示書翻訳文などの送金関係書類に代替する資料を提出しており、請求人がイラン国居住の親族を扶養している実態は明らかなのであるから、扶養控除の実体的要件は満たすというべきである。

(3) 争点3(本件充当処分は適法か否か。)について

原処分庁 請求人
上記(2)のとおり、請求人の本件各年分の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用がないから、本件各更正処分等は適法であり、本件各更正処分等に係る未納国税があったから、本件充当処分は適法である。 上記(2)のとおり、請求人の本件各年分の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除が適用されるべきであり、本件各更正処分等は取り消されるべき違法があるので、本件充当処分も同様に違法である。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各更正処分に信義誠実の原則又は租税公平主義に反する違法があるか否か。)について

  • イ 信義誠実の原則について
    • (イ) 認定事実
       請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
      • A 原処分庁所属の担当職員は、令和2年12月10日、請求人に対し、イラン国の銀行からイラン国にいる請求人の親族へ振込みをした書類が、国外居住親族に係る送金関係書類となる旨を伝えた。
      • B 原処分庁所属の担当職員は、令和2年12月14日、請求人に対し、電話で、送金関係書類に係る国送金金融機関は内閣総理大臣の免許を受けた銀行に限られる旨を伝え、また、同月15日には、送金関係書類に係る国送金金融機関の要件を満たす外国銀行として、V銀行があることを伝えた。
      • C 請求人は、令和3年4月15日付で作成した原処分庁所属の担当職員宛の書類を同担当職員に提出した。同書類には、上記A及びBの経緯等が記載されているほか、令和2年12月16日の出来事として、請求人がV銀行に電話で聞いたところ、口座の開設及び送金はできない旨を伝えられたこと、請求人が確認したところ、V銀行はイラン国から撤退しており送金ができない状態になっていること、請求人が上記Aの教示によりイラン国内銀行の請求人の口座から親族に振込みをしたことなどが記載されている。
    • (ロ) 法令解釈
       租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決・集民152号93頁参照)。
    • (ハ) 検討
       上記1の(2)のロの(ニ)のとおり、平成28年分以降、国外居住親族に係る扶養控除の適用をする場合には、親族関係書類及び送金関係書類を控除対象扶養親族の各人別に確定申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際提示しなければならない旨規定されたところ、原処分庁所属の担当職員が請求人に対し、平成28年分ないし令和2年分の確定申告に当たって、国外居住親族に係る扶養控除の適用をする場合に添付又は提示を要する書類に関し、上記規定とは異なる誤った見解を表示し、請求人がその誤った見解を信頼して本件各年分に係る所得税等の確定申告をしたと認めるに足りる証拠はない。
       すなわち、請求人の平成28年分ないし令和元年分の所得税等の確定申告に関して言えば、そもそも、原処分庁所属の担当職員が請求人に対し、上記規定に関して何らかの見解を表示した事実を認めるに足りる証拠がない。
       また、請求人の令和2年分の確定申告について言えば、上記(イ)のとおり、原処分庁所属の担当職員が請求人に対し、一旦は上記規定とは異なり、送金関係書類に該当しない書類の添付又は提示をもって国外居住親族に係る扶養控除が適用できる旨の誤った教示をしたものの、その4日後には、上記教示を訂正し、上記規定に沿って、送金関係書類は資金移動業者を含む国送金金融機関の書類でなければならない旨の誤りのない教示をしている。そして、請求人は、上記規定に沿った誤りのない教示を受けながら、同教示を受けてから7ないし12日後になって、国送金金融機関には該当しないイラン国内銀行を利用したイラン国内送金をして、同送金によって作成された本件各インターバンク支払指示書翻訳文を令和2年分の確定申告書に添付したのであって、請求人が原処分庁所属の担当職員の誤った見解を信頼して令和2年分に係る所得税等の確定申告書に本件各インターバンク支払指示書翻訳文を添付したわけではなかった。
       以上からすれば、原処分庁所属の担当職員の誤った見解の表示がされ、請求人がその誤った見解を信頼したことで国外居住親族に係る扶養控除の適用をし、あるいは、送金関係書類に該当しない書類を添付したとは認められないから、本件各更正処分に信義誠実の原則に反する違法はない。
    • (ニ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のとおり、平成28年分の確定申告をするに当たって税務相談をし、国外居住親族に係る扶養控除の適用をして確定申告をしたが税務署から何ら調査、指摘又は指導を受けなかった旨主張している。
         しかしながら、そもそも、請求人が平成28年分の確定申告に当たって税務相談をした事実を認めるに足りる証拠はない上、請求人の主張によっても、その税務相談等において、国外居住親族に係る扶養控除の適用に関して何らかの誤った見解の表示があった旨をいうものでもないから、請求人の平成28年分ないし令和元年分の所得税等の確定申告に関し、信義則の法理を適用すべき特別の事情となり得る点は見当たらないというべきである。
         したがって、請求人の主張に理由はない。
      • B 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のとおり、令和2年分の確定申告に当たって、原処分庁所属の担当職員からは、内閣総理大臣の免許を受けたV銀行を利用した海外送金もできるのではないかと示唆を受けたにとどまり、金融機関に問い合わせても明確な回答がなかった旨を同担当職員に報告し、イラン国内銀行での送金をすることを伝えたところ、同担当職員から、同銀行による送金で構わない旨の回答を受けたことから、本件各インターバンク支払指示書翻訳文に係る送金をした旨主張する。
         しかしながら、請求人自身が作成した上記(イ)のCの書類においても、原処分庁所属の担当職員が同A記載の誤った教示を同Bのとおり訂正した後に、更に同Aの誤った教示に沿った送金をもって国外居住親族に係る扶養控除が適用できる旨の教示がされたことを示す記載はない。
         また、上記(イ)の経緯からすれば、原処分庁所属の担当職員が同Aの教示が誤っていたことに気付き、同Bのとおり訂正しておきながら、その後、同Aの教示が誤っていたことに気付きつつ、更に同Aの誤った教示に沿った送金で「構わない」旨を請求人に伝えるとは考え難いというべきある。
         そうすると、原処分庁所属の担当職員の誤った教示により請求人が本件各インターバンク支払指示書翻訳文に係る送金をしたとは認められないから、請求人の主張に理由はない。
  • ロ 租税公平主義について
    • (イ) 課税の平等とは、「課税の根拠となる法を適用すべき者に対しては等しく適用すべし」とすることであって、仮に法の適用を免れる者があったとしても、そのことを理由に、他の者に対して法を正しく適用することができなくなるわけではなく、また、法を正しく適用することが課税の平等に反することにはならないことも明らかというべきである。
    • (ロ) これを本件各更正処分についてみると、そもそも、請求人以外の者が送金関係書類を確定申告書に添付又は提示せずに国外居住親族に係る扶養控除の適用を受けていることを示す証拠は見当たらない。
       また、仮に、請求人が上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり主張するように、送金関係書類の添付又は提示をせずに国外居住親族に係る扶養控除の適用を受けた者がいるのだとしても、上記(イ)で述べたことからすれば、請求人の主張する事情をもって直ちに、所得税法の規定を正しく適用してされた本件各更正処分が租税公平主義に反し違法となるということはできない。
       したがって、本件各更正処分に租税公平主義に反する違法はない。

(2) 争点2(本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用があるか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 上記1の(2)のロの(ハ)のとおり、所得税法第120条第3項柱書及び同項第2号並びに同法第122条第3項は、確定申告書に、非居住者である親族に係る扶養控除に関する事項の記載をする居住者が当該申告書を提出する場合には、政令で定めるところにより、同控除に係る非居住者である親族が当該居住者の親族に該当する旨を証する書類及び当該非居住者である親族が当該居住者と生計を一にすることを明らかにする書類を当該申告書に添付する旨規定している。そして、所得税法施行規則第47条の2第6項は、上記1の(2)のロの(ニ)のB及び(ホ)のとおり、送金関係書類は、1国送金金融機関の書類又はその写しで、当該国送金金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住親族に支払をしたことを明らかにするもの、又は、2クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで同項第2号に規定する内容のもののいずれかであって、確定申告書を提出する居住者がその年において国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするものと規定している。
       上記法令の趣旨は、国内に居住している扶養親族については、市町村長等と国税当局との連携により扶養控除の要件を満たしているかの確認を税務署において行うことができる一方で、国外居住扶養親族については事実確認や実態把握が容易であるとはいえない状況にあることを踏まえ、国外に居住している親族に係る扶養控除の適用を受ける際には、確定申告書等に法令で定められた親族関係書類及び送金関係書類の添付又は提示を義務付けるものである。
       したがって、国外居住親族が所得税法第84条に規定する扶養控除の対象者となるためには、親族関係書類及び送金関係書類を確定申告書に添付しなければならない。
    • (ロ) そこで、本件請求人提出書類が送金関係書類に該当するか否か検討すると、1本件各インターバンク支払指示書翻訳文は、上記1の(3)のニの(イ)のとおり、請求人がイラン国内に有する口座から本件対象者らの一部の口座に振替をした旨が記載された書類、2本件ロゴ指示書翻訳文は、同(ロ)のとおり、請求人が本件対象者32のイラン国内にある口座に預金をした旨が記載された書類、3本件現金受取書は、同(ハ)のとおり、本件対象者2が請求人の300万円を受け取った旨が記載された書類、4本件預金通帳は、上記1の(3)のヌの(イ)のとおり、請求人が本件預金口座から現金を引き出し、「イランの家族」に送金した旨並びに本件対象者19、本件対象者32及び本件対象者38に交付した旨が記載された書類、5本件税関申告書は、同(ロ)のとおり、本件対象者19、本件対象者38及び本件対象者ら以外の者である「T」が国外へ現金を持ち出す旨が記載された書類、6本件各宣誓供述書は、同(ハ)のとおり、本件対象者らの一部の者が、平成22年以降、請求人から経済的支援を受けていると供述した旨が記載された書類である。しかしながら、いずれの書類も、所得税法施行規則第47条の2第6項第1号に規定する国送金金融機関が行う為替取引によって当該居住者から当該国外居住親族に支払をしたことを明らかにする書類又はその写しには該当せず、同項第2号に規定するクレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しにも該当しない。
    • (ハ) そうすると、本件請求人提出書類は、所得税法施行規則第47条の2第6項各号のいずれにも該当しないから、送金関係書類には該当しない。
       また、本件請求人提出書類は、上記(ロ)の1ないし6の内容が記載されたものであるところ、その記載内容を踏まえても、所得税法施行規則第47条の2第6項柱書に規定する「国外居住扶養親族の生活費又は教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの」(上記1の(2)のロの(ホ))であるとは言い難い。
       加えて、本件請求人提出書類のほか、当審判所の調査によっても、ほかに請求人が本件国外居住親族と生計を一にすることを明らかにする書類の存在を認めるに足る証拠も見当たらない。
       以上からすれば、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用はない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、親族関係書類及び送金関係書類は、扶養控除の要件該当性を立証するための書類であり、添付又は提示すること自体が扶養控除の適用要件になっているわけでなく、扶養親族であることの立証が別の方法によりなされ、同控除の適法性が確保されるのであれば、同控除の適用が排斥されるものでないと解すべきである旨主張した上で、本件請求人提出書類を提出しており、送金関係書類を提出できなかったことをもって、扶養控除の適用を否認すべきではない旨主張する。
     しかしながら、上記イの(イ)のとおり、所得税法等において、国外に居住している親族に係る扶養控除の適用を受けるためには、送金関係書類の添付等を必要とする旨規定しており、その例外を認める法令の規定もないから、送金関係書類には該当しない本件請求人提出書類の添付等をもって本件国外居住親族に係る扶養控除の適用を受けることはできない。
     また、請求人の主張を踏まえて検討しても、本件請求人提出書類は、上記イの(ロ)のとおり、請求人が本件対象者らのうちの一部の者に対して、イラン国内で振込みをし、あるいは、現金を交付するなどした旨などが記載された書類にすぎず、請求人と本件国外居住親族が同一の生活共同体に属し、日常生活の資を共通にしているとは認められないから、これをもって、居住者である請求人が国外にいる親族である本件国外居住親族と生計を一にすることが明らかになっているということもできない。
     したがって、請求人の主張に理由はない。

(3) 争点3(本件充当処分は適法か否か。)について

請求人は、争点3について、上記3の(3)の「請求人」欄のとおり、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用があることを前提に、本件各更正処分等は取り消されるべき違法があるので、本件充当処分も同様に違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、本件各年分の請求人の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用はなく、本件充当処分には請求人の主張する違法事由はない。
 また、本件充当処分のその他の部分については、後記(6)のとおり、これを不相当とする理由は認められず、本件充当処分は適法である。

(4) 本件各更正処分の適法性について

以上のとおり、本件各年分の所得税等の計算上、本件国外居住親族に係る扶養控除の適用はなく、これに基づき本件各年分の納付すべき税額を算定すると、いずれも、本件各更正処分の金額と同額となる。また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められない。そして、本件各年分の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる事実及び計算方法を争わず、当審判所においても、本件各年分の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分の金額といずれも同額となると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(6) 本件充当処分について

請求人には、上記1の(3)のチ並びに上記(4)及び(5)のとおり、本件充当処分のときにおいて、本件還付金及び本件国税が存在しており、本件充当処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件充当処分は適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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