(令和5年6月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、売買により一括して取得した土地及び建物について、これらの売買代金の総額から路線価を基に算出した当該土地の売買代金相当額を差し引く方法によって算定した当該建物の売買代金相当額に基づき、法人税の減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算して確定申告をしたところ、原処分庁が、当該建物の売買代金相当額については、これらの売買代金の総額を当該土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比であん分する方法によって算定すべきであるとして、これを基に更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 法人税法施行令第54条《減価償却資産の取得価額》第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定している。
  • ロ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》(令和元年9月30日以前に国内において事業者が行う課税仕入れについては、平成27年法律第9号による改正後の平成24年法律第68号による改正前のもの。)第1項柱書及び同項第1号は、事業者が、国内において課税仕入れを行った場合は、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定し、同条第6項は、同条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額(以下「支払対価の額」という。)とは、課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡すなどする事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)をいう旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 請求人について
     請求人は、不動産の所有、賃貸及び管理業等を営む法人であり、平成30年3月1日から平成31年2月28日まで、平成31年3月1日から令和2年2月29日まで及び令和2年3月1日から令和3年2月28日までの各事業年度(以下、順に「平成31年2月期」、「令和2年2月期」、「令和3年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色申告の承認を受けていた。
     また、請求人は、本件各事業年度において、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の経理処理につき税抜経理方式を採用していた。
  • ロ 請求人が売買により一括して取得した土地及び建物について
    • (イ) 請求人は、平成30年12月25日に、簡易宿所の用に供する目的で、e市f町○−○の土地(地目:宅地、地積:84.52平方メートル。以下「本件土地1」という。)及び本件土地1上の建物(家屋番号:○○○○、構造:木造瓦葺2階建、延床面積:108.39平方メートル。以下「本件建物1」といい、本件土地1と併せて「本件物件1」という。)を売買により一括して取得し、売買代金15,000,000円並びに固定資産税及び都市計画税の精算金6,192円を売主に支払った。
       また、請求人は、平成30年12月25日に、本件物件1の売買に係る仲介手数料550,800円を不動産仲介業者に支払った。
       なお、本件物件1の売買契約上、本件土地1及び本件建物1の各々の売買金額並びに消費税等相当額は明らかではない。
    • (ロ) 請求人は、令和元年5月24日に、簡易宿所の用に供する目的で、g市h町○−○の土地(地目:宅地、地積:102.74平方メートル。以下「本件土地2」という。)及び本件土地2上の建物(家屋番号:○○○○、構造:鉄骨造陸屋根2階建、延床面積:113.42平方メートル。以下「本件建物2」といい、本件土地2と併せて「本件物件2」という。)を売買により一括して取得し、売買代金149,000,000円並びに固定資産税及び都市計画税の精算金187,989円を売主に支払った。
       なお、本件物件2の売買契約上、本件土地2及び本件建物2の各々の売買金額並びに消費税等相当額は明らかではない。
    • (ハ) 請求人は、令和元年5月24日に、簡易宿所の用に供する目的で、g市i町○−○の土地(地目:宅地、地積:107.97平方メートル。以下「本件土地3」という。)及び本件土地3上の建物(家屋番号:○○○○、構造:木造亜鉛メッキ鋼板ぶき2階建、延床面積:86.43平方メートル。以下「本件建物3」といい、本件土地3と併せて「本件物件3」という。)を売買により一括して取得し、売買代金75,000,000円並びに固定資産税及び都市計画税の精算金169,565円を売主に支払った。
       また、請求人は、令和元年5月24日に、本件物件3の売買に係る仲介手数料1,620,000円を不動産仲介業者に支払った。
       なお、本件物件3の売買契約上、本件土地3及び本件建物3の各々の売買金額並びに消費税等相当額は明らかではない。
       おって、以下、本件土地1ないし本件土地3を併せて「本件各土地」といい、本件建物1ないし本件建物3を併せて「本件各建物」といい、本件物件1ないし本件物件3を併せて「本件各物件」という。
  • ハ 本件各物件の取得年度の固定資産税評価額等について
    • (イ) 平成30年度のe市の固定資産課税台帳に係る名寄帳によれば、本件土地1の固定資産税評価額は○○○○円、本件建物1の固定資産税評価額は○○○○円である。
    • (ロ) 平成31年度のg市の固定資産課税台帳に係る名寄帳によれば、本件土地2の固定資産税評価額は〇〇〇〇円、本件建物2の固定資産税評価額は○○○○円であり(以下、これらの固定資産税評価額の価額比を「本件物件2固定資産税評価額比」という。)、また、本件土地3の固定資産税評価額は○○○○円、本件建物3の固定資産税評価額は○○○○円である(以下、これらの固定資産税評価額の価額比を「本件物件3固定資産税評価額比」という。)。
       なお、以下、土地及び建物を売買により一括して取得した場合において、これらの売買代金の総額を何らかの方法によって算定した土地と建物の価額比であん分して当該土地及び建物の各々の売買代金相当額を算定する方法を「あん分法」といい、本件各物件の売買代金を各物件ごとに本件各土地及び本件各建物の取得年度の各々の固定資産税評価額の価額比であん分して本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額を算定する方法を「本件固定資産税評価額比あん分法」という。
  • ニ 本件各土地の取得年分の路線価等について
    • (イ) 平成30年分のa県の路線価図によれば、本件土地1の面する路線に付された路線価は97,000円である。
    • (ロ) 令和元年分のj県の路線価図によれば、本件土地2の面する路線に付された路線価は370,000円であり、また、本件土地3の面する路線に付された路線価は270,000円である。
       なお、以下、土地及び建物を売買により一括して取得した場合において、まず、その土地の面する路線に付されたその土地の取得年分の路線価にその土地の地積を乗じることによりその土地の売買代金相当額を算定した後、これを当該土地及び建物の売買代金の総額から差し引くことによりその建物の売買代金相当額を算定する方法を「本件差引法」という。
  • ホ 本件建物1に関し、請求人が原処分庁に提出した資料等について
    • (イ) 請求人の税務代理人である税理士法人J所属のK税理士は、令和3年6月8日に、本件建物1の再建築価格(評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費をいう。以下同じ。)を示すものとして、内装工事業等を営むL社が作成した工事見積書を原処分庁に提出した。
       上記工事見積書には、現場名が「f町○丁目新築工事」、工事の見積額が56,700,000円(以下「本件見積額」という。)と記載されている(以下、当該工事見積書を「本件新築見積書」という。)。
    • (ロ) 税理士法人J所属のM税理士は、令和3年6月29日に、本件土地1の時価を示すものとして、N社が作成した査定報告書を原処分庁に提出した。
       上記査定報告書には、本件土地1の査定価格(市場での売買取引を目的とした目安価格をいう。)が8,700,000円(以下「本件査定価格」という。)と記載されている。
       なお、本件見積額に5%を乗じて計算した額と本件査定価格との価額比を「本件見積額等比」といい、本件物件1の売買代金(上記ロの(イ))を本件見積額等比であん分して本件土地1及び本件建物1の各々の売買代金相当額を算定する方法を「本件見積額等比あん分法」という。
  • ヘ P(L社の取締役)が原処分庁所属の調査担当職員に提示した資料等について
    • (イ) Pは、令和4年5月12日に、原処分庁所属の調査担当職員から本件新築見積書について質問を受けた際、本件物件1に係る工事見積書の控えとして保管しているものは改築工事に係るものだけであるとして、現場名が「f町○丁目改築工事」と記載されている工事見積書(以下、「本件改築見積書」という。)を同調査担当職員に提示した。
       本件改築見積書は、請求人からの依頼によりPが作成したものであり、工事の見積額は35,750,000円と記載されている。
    • (ロ) Pは、上記(イ)の質問を受けた際、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件改築見積書に記載された見積額35,750,000円について、「今ある建物を柱だけ残して全面的に改築し、宿として使えるような仕様に変える工事の金額であるから、今ある建物と同等の建物を新築した場合に要する費用よりも高い金額であり、知人の大工及び一級建築士と相談して概算の金額を算出したものである」旨申述した。
  • ト 本件建物2及び本件建物3に関し、請求人が当審判所に提出した資料等について
     請求人は、令和4年12月5日に、Q社所属の不動産鑑定士(以下「本件鑑定士」という。)が作成した本件物件2に係る同年11月18日付の不動産鑑定評価書及び本件物件3に係る同日付の不動産鑑定評価書を当審判所に提出した(以下、本件鑑定士が行った本件物件2及び本件物件3の各々の不動産鑑定評価を「本件各鑑定」という。)。
     なお、本件物件2に係る不動産鑑定評価書には、令和元年5月1日を価格時点とし、本件建物2につき原価法(価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法をいい、この手法による試算価格を積算価格という。以下同じ。)による積算価格が26,100,000円(以下「本件建物2積算価格」という。)、本件土地2につき取引事例比較法(まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法をいい、この手法による試算価格を比準価格という。以下同じ。)による比準価格に基づき算出した積算価格が57,200,000円(以下「本件土地2積算価格」という。)と記載されている。
     また、本件物件3に係る不動産鑑定評価書には、令和元年5月1日を価格時点とし、本件建物3につき原価法による積算価格が17,000,000円(以下「本件建物3積算価格」という。)、本件土地3につき取引事例比較法による比準価格に基づき算出した積算価格が43,400,000円(以下「本件土地3積算価格」という。)と記載されている。
     おって、以下、本件土地2積算価格と本件建物2積算価格に令和元年5月当時の消費税等相当額を加算した額との価額比を「本件物件2積算価格比」といい、本件土地3積算価格と本件建物3積算価格に同月当時の消費税等相当額を加算した額との価額比を「本件物件3積算価格比」といい、本件物件2の売買代金(上記ロの(ロ))を本件物件2積算価格比であん分することにより本件土地2及び本件建物2の各々の売買代金相当額を算定する方法並びに本件物件3の売買代金(同(ハ))を本件物件3積算価格比であん分することにより本件土地3及び本件建物3の各々の売買代金相当額を算定する方法を「本件積算価格比あん分法」という。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税及び令和2年3月1日から令和3年2月28日までの課税事業年度(以下「令和3年2月課税事業年度」という。)の地方法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     また、請求人は、平成30年3月1日から平成31年2月28日まで及び平成31年3月1日から令和2年2月29日までの各課税期間(以下、順に「平成31年2月課税期間」、「令和2年2月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、それぞれ確定申告書に別表3の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     なお、請求人は、上記の各確定申告書を作成するに当たり、本件差引法によって本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額をそれぞれ算定した上で、本件各建物の取得価額がそれぞれ別表4のとおりであるとして本件各建物の減価償却費の額をそれぞれ別表5のとおり計算するとともに、本件各建物の取得に係る支払対価の額をそれぞれ別表6のとおり計算した。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、令和4年1月31日付で、別表1ないし別表3の各「更正処分等」欄のとおり、1平成31年2月期及び令和2年2月期の各事業年度の法人税の各更正処分並びに令和3年2月期の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、2令和3年2月課税事業年度の地方法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに3平成31年2月課税期間及び令和2年2月課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件更正処分等」という。)をした。
     なお、原処分庁は、本件更正処分等において、本件固定資産税評価額比あん分法によって本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額をそれぞれ算定すべきであるとした上で、本件各建物の取得価額がそれぞれ別表7のとおりであるとして本件各建物の減価償却費の額をそれぞれ別表8のとおり計算するとともに、本件各建物の取得に係る支払対価の額をそれぞれ別表9のとおり計算した。
  • ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、令和4年3月30日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年6月24日付で棄却の再調査決定をした。
  • ニ 請求人は、再調査決定を経た後の本件更正処分等の一部に不服があるとして、令和4年7月12日に審査請求をした。
     なお、請求人は、令和4年12月15日に、商号をF社からE社に変更した。

2 争点

 本件各建物の減価償却費の額及び本件各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、本件各建物の売買代金相当額をどのように算定すべきか。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
次のとおり、本件各建物の減価償却費の額及び本件各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、本件各建物の売買代金相当額の算定に当たっては、いずれも本件固定資産税評価額比あん分法を用いるべきである。 次のとおり、本件各建物の減価償却費の額及び本件各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、本件各建物の売買代金相当額の算定に当たっては、いずれも本件差引法を用いるべきである(主位的主張)。仮に、本件差引法が認められない場合も、本件建物1については本件見積額等比あん分法を、本件建物2及び本件建物3については本件積算価格比あん分法を用いるべきである(予備的主張)。
(1) 本件固定資産税評価額比あん分法について
 土地及び建物を売買により一括して取得する場合において、あん分法は、売買代金に上乗せされた利益を土地及び建物の双方について反映させることが可能であり、取引の実態に合致するものである。
 また、固定資産税評価額は、土地については地価公示価格や売買実例等、建物については再建築価格を基に決定されたものであって、その算出機関及び算出時期も同一であるから、いずれも同一時期の時価を反映したものである。そして、特に建物が中古物件の場合には、あん分の比率に固定資産税評価額の価額比を用いることで、簡易、迅速に土地及び建物の各々の売買代金相当額を把握できるといえる。
 したがって、本件各建物の売買代金相当額を算定するに当たり、本件固定資産税評価額比あん分法は、合理的な算定方法であると認められる。
(1) 本件固定資産税評価額比あん分法について
 本件各物件についてみると、各々の土地及び建物に係る固定資産税評価額の合計額と実際の売買代金の総額との間に大きな乖離が生じていることなどからすれば、本件各建物は、実際の売買において収益性が重視される個別性の高い資産であるといえる。他方、固定資産税評価額は、本件各建物にみられるような資産の個別的な事情が反映されないものである。
 また、本件固定資産税評価額比あん分法を用いた場合、例えば本件物件1については、本件建物1の売買代金相当額があまりに僅少となって、その金額で実際に建物の再建築や売買がなされるとは到底考えられないし、本件土地1の売買代金相当額もその路線価の価額や固定資産税評価額を大きく超過することになるから、不合理な結果となる。
 したがって、本件各建物の売買代金相当額を算定するに当たり、本件固定資産税評価額比あん分法は、合理的な算定方法とは認められない。
(2) 本件差引法について
 路線価は、毎年1月1日を評価時点とし、売買実例価額、地価公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額及び精通者意見価格等を基として評定した価格の80%程度を目途に、相続税や贈与税の申告の便宜や課税の公平を図る観点から設定されるものであり、売主の利益や各種手数料の諸経費等も反映されていないことから、土地の売買代金相当額がその時価に比して低額になる一方、本件差引法を用いた場合には、建物の売買代金相当額がその時価に比して高額になるといえる。
 したがって、本件各建物の売買代金相当額を算定するに当たり、本件差引法は、合理的な算定方法とは認められない。
(2) 本件差引法について
 本件差引法は、路線価が土地の相場をおおむね反映していることから、その土地の売買代金相当額の算定方法として合理的なものである。そして、本件差引法によって本件各建物の売買代金相当額を算定した場合に、本件各土地に係る売主の利益や諸経費等が本件各建物の売買代金相当額に転嫁される場合があったとしても、それは請求人が本件各建物の取得を主たる目的としていることからして当然の結果というべきものであるから、この点をもって不合理ということはできない。
 したがって、本件各建物の売買代金相当額を算定するに当たり、本件差引法は、合理的な算定方法であると認められる。
(3) 本件見積額等比あん分法について
 本件見積額(56,700,000円)を本件建物1の延床面積108.39平方メートルで除すと1平方メートル当たりの工事単価は523,110円となるが、これは国土交通省が公表している平成30年度計分のa県の木造建築物の工事費予定額における1平方メートル当たりの平均工事単価169,993円を大きく上回るものである。また、本件見積額は、P(L社の取締役)が原処分庁所属の調査担当職員に提示した本件建物1に係る改築工事の見積額35,750,000円よりも更に高額となっている。これらのことなどからすれば、本件見積額が本件建物1の適正な再建築価格であるということはできず、本件見積額等比を用いることは相当ではない。
 したがって、本件建物1の売買代金相当額を算定するに当たり、本件見積額等比あん分法は、合理的な算定方法とは認められない。
(3) 本件見積額等比あん分法について
 仮に、本件建物1の売買代金相当額の算定方法として本件差引法が合理的とは認められないとしても、本件査定価格は本件土地1の時価を示すものであるし、本件見積額も本件建物1の再建築価格を示すものである。そして、減価償却資産について生じた評価損を損金算入する場合において、法人税基本通達9−1−19《減価償却資産の時価》の定めが資産の再取得価額に旧定率法を適用した場合の未償却残高(取得価額の5%)を時価と認めていることからすれば、本件建物1の時価については、本件見積額の5%相当額が妥当であり、本件見積額等比を用いることには合理性がある。
 したがって、本件建物1の売買代金相当額を算定するに当たり、本件見積額等比あん分法は、合理的な算定方法であると認められる。
(4) 本件積算価格比あん分法について
 本件各鑑定では、建物の再調達原価の査定において、既存部分の再調達原価と改築部分の再調達原価の合計額をもって建物の再調達原価が計算されていることから、1平方メートル当たりの工事単価が著しく高額な査定となっている。また、建物の減価修正においても、建物の既存部分の耐用年数が長く査定され、残存価額が高額となっているほか、減価率も過少な数字が採用されるなど、特に建物の既存部分において積算価格が不自然に高額に査定されているといえる。そうすると、本件物件2積算価格比及び本件物件3積算価格比を用いることは相当ではない。
 したがって、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額を算定するに当たり、本件積算価格比あん分法は、合理的な算定方法とは認められない。
(4) 本件積算価格比あん分法について
 仮に、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法として本件差引法が合理的とは認められないとしても、本件各鑑定は、高度な知識と豊富な経験及び的確な判断力を有する専門家が行ったものであり、本件各鑑定における建物の再調達原価や、建物の既存部分の耐用年数及び減価率についても、データや実情に即したものであって、資産の個別的な事情が反映されたものである。そうすると、本件物件2積算価格比及び本件物件3積算価格比を用いることには合理性がある。
 したがって、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額を算定するに当たり、本件積算価格比あん分法は、合理的な算定方法であると認められる。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 法人税法施行令第54条第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定している。そうすると、建物(減価償却資産)及び土地を一括して購入した場合において、売買契約書等により建物の売買金額が明らかであれば、通常、これに基づき当該建物の取得価額が算定されるが、その売買金額が明らかでないときは、租税負担の公平及び実質主義の観点から、これらの資産の売買代金の総額を租税法の基本原則に合致する合理的な方法によって建物の売買代金相当額と土地の売買代金相当額とに区分して建物の取得価額を算定する必要があるものと解される。
  • ロ 消費税法第30条第6項は、同条第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額とは、対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等の額(当該課税仕入れに係る消費税等相当額を含む。)をいう旨規定している。そうすると、建物(課税資産)及び土地(非課税資産)を一括して購入した場合における建物に係る支払対価の額についても、売買契約書等により建物の売買金額が明らかでない場合には、これらの資産の売買代金の総額を合理的な方法によって建物の譲受けの対価の額と土地の譲受けの対価の額とに区分して建物に係る支払対価の額を算定する必要があるものと解される。そして、その区分の基準についても、法人税と消費税との間で異なるものではないと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 国土交通省公表の建築着工統計調査の結果について
     a県における平成30年度計分の建築着工統計調査の結果によれば、a県の木造建築物の工事費予定額は121,505,500,000円であり、床面積の合計は714,767平方メートルである。
  • ロ 本件建物2及び本件建物3の取得年度前の固定資産税評価額について
    • (イ) 本件建物2の固定資産税評価額は、平成29年度が○○○○円であり、平成30年度が○○○○円である。
    • (ロ) 本件建物3の固定資産税評価額は、平成29年度が○○○○円であり、平成30年度が○○○○円である。
  • ハ 本件建物2及び本件建物3に対して行った改修工事について
    • (イ) 本件建物2には、平成30年10月頃から平成31年2月頃までの期間において、○○○○風の内装を施した簡易宿所施設へと改修する工事(以下「本件建物2改修工事」という。)が実施された。
    • (ロ) 本件建物3には、平成28年12月頃から平成29年5月頃までの期間において、○○○○風の内装を施した簡易宿所施設へと改修する工事(以下「本件建物3改修工事」という。)が実施された。
  • ニ 本件各鑑定について
    • (イ) 本件土地2積算価格及び本件土地3積算価格について
       本件鑑定士は、本件土地2及び本件土地3の鑑定評価に際して取引事例比較法を適用し、要旨次のとおり、本件土地2積算価格及び本件土地3積算価格をそれぞれ査定した。
      • A 本件土地2積算価格について
         本件土地2に係る比準価格の1平方メートル当たりの価格を求めるに際し、比較対象として正常取引であると判断した3つの取引事例を選択し、これらに係る取引価格に時点修正、建付減価補正、事例地等の個別的要因の標準化及び地域要因の比較を行って求められた価格の比較考量において、それぞれの価格を関連付けるために中庸値を採用して、当該比準価格の1平方メートル当たりの価格557,000円を求めた。そして、当該価格557,000円については、本件土地2の近隣土地の平成31年の地価公示価格を規準とした1平方メートル当たりの価格(476,000円)を上回るものの、昨今の市場特性を鑑みて適切と判断し、当該価格557,000円に本件土地2の地積102.74平方メートルを乗じて、本件土地2積算価格を57,200,000円と査定した。
      • B 本件土地3積算価格について
         上記Aと同様の手法により、本件土地3に係る比準価格の1平方メートル当たりの価格402,000円を求めた。そして、当該価格402,000円については、本件土地3の近隣土地の平成31年の地価公示価格を規準とした1平方メートル当たりの価格(353,000円)を上回るものの、昨今の市場特性を鑑みて適切と判断し、当該価格402,000円に本件土地3の地積107.97平方メートルを乗じて、本件土地3積算価格を43,400,000円と査定した。
    • (ロ) 本件建物2積算価格及び本件建物3積算価格について
       本件鑑定士は、本件建物2及び本件建物3の鑑定評価に際して原価法を適用し、要旨次のとおり、本件建物2積算価格及び本件建物3積算価格をそれぞれ査定した。
      • A 本件建物2積算価格について
         上記ハの(イ)のとおり、本件建物2には本件建物2改修工事が実施されていることに鑑み、本件建物2を既存部分と改築部分とに区別し、既存部分の再調達原価については、j県における平成30年度計分の建築着工統計調査の結果を基に、本件建物2の所在地及び精通者意見等も勘案して1平方メートル当たりの工事単価298,000円を求めた上、これに本件建物2の延床面積113.42平方メートルを乗じて33,800,000円と査定し、改築部分の再調達原価については、本件建物2改修工事の内容及び精通者意見等を踏まえた検討を行い、14,200,000円と査定した。次いで、減価修正を行うに当たり、耐用年数に基づく方法(対象不動産の耐用年数を基礎として減価額を把握する方法をいう。以下同じ。)及び観察減価法(対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求める方法をいう。以下同じ。)を併用し、実地調査を経て耐用年数や物理的損耗・機能的陳腐化の程度を判断の上、既存部分の減価額については、耐用年数41年及び減価率30%として19,900,000円と査定し、改築部分の減価額については、耐用年数25年及び減価率10%として2,000,000円と査定した。そして、本件建物2につき、再調達原価からこれらの減価額を控除することにより、既存部分の積算価格を13,900,000円、改築部分の積算価格を12,200,000円とそれぞれ査定し、その合計額をもって本件建物2積算価格を26,100,000円と査定した。
      • B 本件建物3積算価格について
         上記Aと同様の手法により、本件建物3の既存部分の再調達原価を20,600,000円と査定し、改築部分の再調達原価を21,400,000円と査定した。次いで、既存部分の減価額については、耐用年数72年及び減価率80%として19,300,000円と査定し、改築部分の減価額については、耐用年数25年及び減価率20%として5,700,000円と査定した。そして、本件建物3につき、再調達原価からこれらの減価額を控除することにより、既存部分の積算価格を1,300,000円、改築部分の積算価格を15,700,000円とそれぞれ査定し、その合計額をもって本件建物3積算価格を17,000,000円と査定した。
      • C なお、本件建物2積算価格及び本件建物3積算価格には、これらの価格時点(令和元年5月1日)における消費税等相当額はいずれも含まれていない。

(3) 検討

上記1の(3)のロのとおり、請求人が取得した本件各物件については、いずれも本件各土地及び本件各建物の各々の売買金額並びに消費税等相当額が売買契約上明らかでないことから、上記(1)のとおり、本件各建物の減価償却費の額及び本件各建物の取得に係る支払対価の額の計算上、合理的な方法によって本件各物件の売買代金を本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額に区分することが必要となる。
 そして、この点につき、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のとおり、本件各建物の売買代金相当額の算定に当たってはいずれも本件固定資産税評価額比あん分法を用いるべき旨主張するのに対して、請求人は、主位的に、同「請求人」欄の(2)のとおり、本件各建物の売買代金相当額の算定に当たってはいずれも本件差引法を用いるべき旨主張するとともに、予備的に、同「請求人」欄の(3)及び(4)のとおり、本件建物1の売買代金相当額の算定に当たっては本件見積額等比あん分法を、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定に当たっては本件積算価格比あん分法を用いるべき旨主張するので、以下、これらの算定方法の合理性について検討する。

  • イ 本件差引法(請求人の主位的主張)について
     一般に、路線価は、地価公示価格と同水準の価格の80%程度を目途として設定されている上、土地に係る売主の利益及び販売手数料等の諸経費が反映されないものであるから、これに基づき土地の売買代金相当額を算定した場合には、土地の客観的な時価に比して低額となるのが通例であるといえる。そうすると、本件差引法を用いて本件各物件の売買代金を本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額に区分した場合には、本件各土地の売買代金相当額に反映されるべき価額(路線価との差額部分に相当する価額や本件各土地に係る売主の利益及び販売手数料等の諸経費相当額)がこれに反映されないことから、本件各土地の売買代金相当額が客観的な時価に比して低額になる一方で、当該価額が本件各建物の売買代金相当額に転嫁され、本件各建物の売買代金相当額が客観的な時価に比して高額になる。そのため、本件各物件の売買代金の総額を本件差引法を用いて本件各土地と本件各建物の各々の売買代金相当額に区分した場合には、本件各土地及び本件各建物の各々の売買代金相当額の間には看過し難い不均衡が生ずることになり、このことは、請求人が本件各物件を取得した主たる目的が本件各建物にあったという点によって解消し得るものではない。
     したがって、請求人が主位的に主張する本件差引法は、本件各建物の売買代金相当額の算定方法として合理的とは認められない。
  • ロ あん分法について
     一般に、実際の売買代金は、売主の利益及び販売手数料等の諸経費を踏まえて形成されることから、本件のようなケースで、土地及び建物の売買代金の総額を土地及び建物の各々の売買代金相当額に区分するに当たっても、このような売主の利益及び販売手数料等の諸経費をその双方に合理的に反映させる必要がある。そして、あん分法は、実際の売買代金の総額を土地及び建物の各々の価額の価額比であん分する方法であるから、当該価額比を用いることに合理性があると認められる限り、売主の利益及び販売手数料等の諸経費についても、その価額比に応じて土地及び建物の各々の売買代金相当額の双方に合理的に反映されることになり、合理的な方法といえる。
     そこで、以下、1本件見積額等比あん分法(本件建物1に係る請求人の予備的主張)、2本件積算価格比あん分法(本件建物2及び本件建物3に係る請求人の予備的主張)及び3本件固定資産税評価額比あん分法(原処分庁の主張)が本件各建物の売買代金相当額の算定方法として合理的であると認められるか否かについて、それぞれのあん分法で用いられている価額比の合理性を踏まえて順に検討する。
    • (イ) 本件見積額等比あん分法(本件建物1に係る請求人の予備的主張)について
       本件見積額等比あん分法で用いられている本件見積額等比が合理的といえるためには、少なくとも、本件見積額が請求人による取得時点における本件建物1の再建築価格として合理的に見積もられたものであることが必要である。
       この点について検討すると、a県における平成30年度計分の建築着工統計調査の結果(上記(2)のイ)によれば、木造建築物の1平方メートル当たりの工事単価は約169,993円(=工事費予定額121,505,500,000円÷床面積の合計714,767平方メートル)にすぎず、これに本件建物1の延床面積108.39平方メートル(上記1の(3)のロの(イ))を乗じた額(18,425,541円)は本件建物1の本件見積額(56,700,000円)を大幅に下回る。
       さらに、上記1の(3)のヘの(ロ)のとおり、P(L社の取締役)が、本件改築見積書に記載された見積額35,750,000円について、「今ある建物を柱だけ残して全面的に改築し、宿として使えるような仕様に変える工事の金額であるから、今ある建物と同等の建物を新築した場合に要する費用よりも高い金額であり、知人の大工及び一級建築士と相談して概算の金額を算出したものである」旨申述していることも踏まえれば、請求人による取得時点における本件建物1の再建築価格は、少なくとも35,750,000円を下回ることが優にうかがわれる。
       そうすると、この金額を大幅に超過した本件見積額を本件建物1の再建築価格とみることはできないから、ほかの点を検討するまでもなく、本件見積額等比を用いることに合理性があるとは認められない。
       したがって、請求人が予備的に主張する本件見積額等比あん分法は、本件建物1の売買代金相当額の算定方法として合理的とは認められない。
    • (ロ) 本件積算価格比あん分法(本件建物2及び本件建物3に係る請求人の予備的主張)について
       当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件鑑定士が行った上記(2)のニの本件各鑑定は、不動産鑑定評価基準に沿って鑑定評価を実施したものと認められ、その実施過程に不適切ないし不合理な点は見当たらない。また、本件鑑定士への依頼は請求人自身が行っていることを考慮しても、本件鑑定士が公平な鑑定評価を実施したことに疑いを持たせるような事情も認められない。そうすると、本件土地2積算価格と本件建物2積算価格との価額比については、請求人による取得時点における本件土地2及び本件建物2の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、一定の合理性が認められるというべきであり、また、本件土地3積算価格と本件建物3積算価格との価額比についても同様である。
       そして、上記(2)のニの(ロ)のCのとおり、本件建物2積算価格及び本件建物3積算価格にはこれらの価格時点である令和元年5月当時の消費税等相当額がいずれも含まれていないことに照らせば、この点を加味した本件物件2積算価額比及び本件物件3積算価額比を用いることには合理性があると認められる。
       したがって、請求人が予備的に主張する本件積算価格比あん分法は、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法として合理的であると認められる。
    • (ハ) 本件固定資産税評価額比あん分法(原処分庁の主張)について
      • A 固定資産税評価額は、土地の場合は地価公示価格や売買実例等を基に評価され、建物の場合は再建築価格を基に評価されたものであって、土地及び建物の各々の時価を推認する手がかりとして一般的な合理性を有するものであるから、同一年度における土地及び建物の各々の固定資産税評価額の価額比についても、これらの価額が同一の公的機関によって同一時期に評価されたものであることに照らし、同一時点における土地及び建物の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、同じく一般的な合理性を有しているというべきである。そうすると、原処分庁が主張する本件固定資産税評価額比あん分法は、土地及び建物の売買代金の総額を土地及び建物の各々の売買代金相当額に区分する方法として、一般的には合理的な方法であると認めることができる。
      • B この点につき、本件建物1の売買代金相当額の算定方法としてみると、上記Aのとおり、本件固定資産税評価額比あん分法は一般的には合理的な方法であると認められる一方、上記イ及び上記(イ)のとおり、請求人が主張する本件差引法及び本件見積額等比あん分法はいずれも合理的な算定方法とはいえず、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件固定資産税評価額比あん分法以外に合理的な方法は認められない。
      • C また、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法としてみると、上記(2)のハのとおり、本件建物2には平成30年10月頃から平成31年2月頃までの期間において本件建物2改修工事が実施され、本件建物3にも平成28年12月頃から平成29年5月頃までの期間において本件建物3改修工事が実施されているところ、当審判所の調査及び審理の結果によれば、いずれの工事も相応の規模のものであり、本件建物2及び本件建物3の各々の時価を増加させるものであったと認められる。しかし、上記1の(3)のハの(ロ)及び上記(2)のロのとおり、本件建物2の固定資産税評価額が平成29年度は○○○○円、平成30年度及び平成31年度は○○○○円であり、本件建物3の固定資産税評価額が平成29年度は○○○○円、平成30年度及び平成31年度は○○○○円であることからして、本件物件2固定資産税評価額比及び本件物件3固定資産税評価額比には、本件建物2改修工事及び本件建物3改修工事による本件建物2及び本件建物3の各々の時価の増加が反映されていないと認められる。
         他方、本件物件2積算価格比及び本件物件3積算価格比については、上記(2)のニの(ロ)のA及びB並びに上記(ロ)のとおり、本件建物2改修工事及び本件建物3改修工事の実施を踏まえた価額比であると認められ、請求人による取得時点における本件土地2及び本件建物2の各々の時価の価額比並びに本件土地3及び本件建物3の各々の時価の価額比を推認する手がかりとして、本件物件2固定資産税評価額比及び本件物件3固定資産税評価額比に比してより精緻なものといえる。そうすると、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法としては、本件固定資産税評価額比あん分法よりも本件積算価格比あん分法によることがより合理的であるというべきである。
      • D したがって、本件固定資産税評価額比あん分法は、本件建物1の売買代金相当額の算定方法として合理的であると認められるものの、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法として合理的とは認められない。
  • ハ 小括
     以上によれば、本件で争われている本件各建物の売買代金相当額の算定方法のうち、本件建物1の売買代金相当額については、本件固定資産税評価額比あん分法を用いることが合理的であると認められるから、これにより算定すべきであり、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額については、本件積算価格比あん分法を用いることがより合理的であると認められるから、これにより算定すべきである。

(4) 請求人及び原処分庁の主張について

  • イ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のとおり、固定資産税評価額には資産の個別的な事情が反映されておらず、本件固定資産税評価額比あん分法を用いて本件各建物の売買代金相当額を算定した場合にはその結果も不合理となるとして、本件固定資産税評価額比あん分法は、本件各建物の売買代金相当額の算定方法として合理的であるとは認められない旨主張する。
     しかしながら、本件固定資産税評価額比あん分法については、上記(3)のロの(ハ)のAで述べたことに加え、特に建物が中古の場合には、簡易、迅速に土地及び建物の各々の売買代金相当額を区分することが可能となり、徴税費用の削減等にも資するということができるから、本件各土地及び本件各建物の各々の固定資産税評価額の価額比を手がかりとして本件各土地及び本件各建物の各々の時価の価額比を推認することがおよそ不合理であるとまではいえない。
     そして、本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定に当たっては、上記(3)のロの(ハ)のCのとおり、より精緻な価格比を用いた本件積算価格比あん分法によることがより合理的であると認められるものの、本件建物1の売買代金相当額の算定に当たっては、同Bのとおり、本件固定資産税評価額比あん分法以外に合理的な方法は認められない。
     したがって、上記請求人の主張のうち、本件建物1に関する部分には理由がない。
  • ロ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(4)のとおり、本件積算価格比あん分法の基となる本件各鑑定は、建物の再調達原価の査定において、既存部分の再調達原価と改築部分の再調達原価の合計額をもって建物の再調達原価が計算されていることから、1平方メートル当たりの工事単価が著しく高額な査定となっているとともに、建物の減価修正においても、建物の既存部分の耐用年数が長く査定されているほか、原価率も過少な数字が採用されるなど、特に建物の既存部分において積算価格が不自然に高額に査定されているとして、本件積算価格比あん分法は本件建物2及び本件建物3の各々の売買代金相当額の算定方法として合理的とは認められない旨主張する。
     しかしながら、上記(2)のニの(ロ)のA及びBのとおり、本件各鑑定において、建物の既存部分の再調達原価と改築部分の再調達原価のいずれについても個別に減価修正がなされた上で積算価格が算出されていることに照らせば、建物の再調達原価が既存部分と改築部分の再調達原価の合計額をもって計算されているからといって、これが直ちに不適切ないし不合理であるとまで断ずることはできないし、本件全証拠によっても、本件各鑑定において査定された耐用年数及び減価率が不適切ないし不合理であるとまでは認めるに足りない。
     したがって、上記原処分庁の主張には理由がない。

(5) 本件更正処分等の適法性について

  • イ 本件各事業年度の法人税の各更正処分について
    • (イ) 当審判所において、上記(3)のハに基づき本件各建物の売買代金相当額を算定し、これを基に本件各建物の取得価額を計算すると、それぞれ別表10のとおりとなるから、本件各建物の減価償却費の額は、それぞれ別表11のとおりとなる。
    • (ロ) そして、本件各事業年度の法人税の各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらないところ、上記(イ)を前提に、当審判所において、本件各事業年度の所得金額、納付すべき税額、繰越欠損金の当期控除額及び翌期へ繰り越すべき欠損金額を計算すると、別表12のとおりとなり、平成31年2月期については更正処分の金額と同額である一方、令和2年2月期については翌期へ繰り越すべき欠損金額が更正処分の金額を上回り、令和3年2月期については法人税の納付すべき税額が更正処分の金額を下回る。
       したがって、平成31年2月期の法人税の更正処分は適法であるが、令和2年2月期及び令和3年2月期の法人税の各更正処分については、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ロ 令和3年2月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分について
     上記イの(ロ)のとおり、令和3年2月期の法人税の更正処分については、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い令和3年2月期の法人税に係る過少申告加算税の計算の基礎となる税額は〇〇〇〇円となるところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。これを前提に、当審判所において、請求人の過少申告加算税の額を計算すると、別表12のとおりとなり、賦課決定処分の金額を下回る。
     したがって、令和3年2月期の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙2「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 令和3年2月課税事業年度の地方法人税の更正処分について
     上記イの(ロ)のとおり、令和3年2月期の法人税の更正処分については、その一部を取り消すべきであるところ、これに基づき、当審判所において、令和3年2月課税事業年度の地方法人税の課税標準法人税額及び納付すべき税額を計算すると、別表13のとおりとなり、更正処分の金額を下回る。
     また、地方法人税の更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、令和3年2月課税事業年度の地方法人税の更正処分については、その一部を別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ニ 令和3年2月課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分について
     上記ハのとおり、令和3年2月課税事業年度の地方法人税の更正処分については、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い令和3年2月課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の計算の基礎となる税額は〇〇〇〇円となるところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。これを前提に、当審判所において、請求人の過少申告加算税の額を計算すると、別表13のとおりとなり、賦課決定処分の金額を下回る。
     したがって、令和3年2月課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ホ 本件各課税期間の消費税等の各更正処分について
    • (イ) 当審判所において、上記(3)のハに基づき本件各建物の売買代金相当額を算定し、これを基に本件各建物の取得に係る支払対価の額を計算すると、それぞれ別表14のとおりとなる。
    • (ロ) そして、本件各課税期間の消費税等の各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は見当たらないところ、上記(イ)を前提に、当審判所において、本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表15のとおりとなり、平成31年2月課税期間については、更正処分の金額と同額である一方、令和2年2月課税期間については、更正処分の金額を下回る。
       したがって、平成31年2月課税期間の消費税等の更正処分は適法であるが、令和2年2月課税期間の消費税等の更正処分については、その一部を別紙4「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ヘ 本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分について
    • (イ) 上記ホの(ロ)のとおり、平成31年2月課税期間の消費税等の更正処分は適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。これを前提に、当審判所において、請求人の過少申告加算税の額を計算すると、別表15のとおりとなり、賦課決定処分の金額と同額となる。
       したがって、平成31年2月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
    • (ロ) 他方、上記ホの(ロ)のとおり、令和2年2月課税期間の消費税等の更正処分については、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い令和2年2月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は〇〇〇〇円となるところ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由」があるとは認められない。これを前提に、当審判所において、請求人の過少申告加算税の額を計算すると、別表15のとおりとなり、賦課決定処分の金額を下回る。
       したがって、令和2年2月課税期間に係る消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙4「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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