(令和5年6月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、共同相続人の一人に係る滞納相続税を徴収するため、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)に連帯納付義務があるとして連帯納付義務の納付通知処分をしたのに対し、請求人が、当該納付通知処分の基となった課税処分が無効であること、また、仮に当該課税処分が無効でないとしても、当該納付通知処分は制限納税義務者である請求人に対し連帯納付義務者として非居住無制限納税義務者である共同相続人に課税された相続税の納付を求める違法なものであることなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項本文は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定している。
  • ロ 相続税法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)第1条の3《相続税の納税義務者》第1項第2号イは、相続又は遺贈(以下「相続等」という。)により財産を取得した日本国籍を有する個人(当該個人又は当該相続等に係る被相続人が当該相続等に係る相続の開始前5年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがある場合に限る。)であって、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないものは、相続税を納める義務がある旨規定している(以下、この規定に該当する相続税の納税義務者を「非居住無制限納税義務者」といい、同項第1号及び第2号ロの各規定に該当する相続税の納税義務者と併せて「無制限納税義務者」という。)。
  • ハ 相続税法第1条の3第1項第3号は、相続等によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの(同項第2号に掲げる者を除く。)は、相続税を納める義務がある旨規定している(以下、この規定に該当する相続税の納税義務者を「制限納税義務者」という。)。
  • ニ 相続税法第2条《相続税の課税財産の範囲》第1項は、同法第1条の3第1項第1号又は第2号の規定に該当する者については、その者が相続等により取得した財産の全部に対し、相続税を課する旨規定し、同法第2条第2項は、同法第1条の3第1項第3号の規定に該当する者については、その者が相続等により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、相続税を課する旨規定している。
  • ホ 相続税法第34条《連帯納付の義務等》第1項本文は、同一の被相続人から相続等により財産を取得した全ての者は、その相続等により取得した財産に係る相続税について、当該相続等により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定し(以下、この規定により当該相続税について連帯納付の責めに任ずる者を「連帯納付義務者」といい、当該連帯納付の責めを「連帯納付義務」という。)、同項ただし書は、同項各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める相続税については、この限りでない旨規定している。そして、同項第1号は、納税義務者の同法第33条《納付》又は通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項若しくは第3項の規定により納付すべき相続税額に係る相続税について、相続税法第27条《相続税の申告書》第1項の規定による申告書の提出期限(当該相続税が更正又は賦課決定に係る相続税額に係るものである場合には、当該更正又は賦課決定に係る通知書を発した日とする。)から5年を経過する日までに税務署長(通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により国税局長が徴収の引継ぎを受けた場合には、当該国税局長。以下同じ。)が相続税法第34条第1項本文の規定により当該相続税について連帯納付義務者に対し同条第6項の規定による通知を発していない場合における当該連帯納付義務者は、当該納付すべき相続税額に係る相続税の連帯納付義務を負わない旨規定している。
  • ヘ 相続税法第34条第5項は、税務署長は、納税義務者の相続税につき当該納税義務者に対し通則法第37条《督促》の規定による督促をした場合において当該相続税が当該督促に係る督促状を発した日から一月を経過する日までに完納されないときは、同条の規定にかかわらず、当該相続税に係る連帯納付義務者に対し、当該相続税が完納されていない旨その他の財務省令で定める事項を通知するものとする旨規定している。
  • ト 相続税法第34条第6項は、税務署長は、同条第5項の規定による通知をした場合において同条第1項本文の規定により相続税を連帯納付義務者から徴収しようとするときは、当該連帯納付義務者に対し、納付すべき金額、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による通知をしなければならない旨規定している。
  • チ 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10)34−1《「相続等により受けた利益の価額」の意義》(以下「本件通達」という。)は、相続税法第34条第1項に規定する「相続等により受けた利益の価額」とは、相続等により取得した財産の価額から同法第13条《債務控除》の規定による債務控除の額並びに相続等により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額を控除した後の金額をいうものとする旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の父であるF(以下「本件被相続人」という。)は、平成○年○月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件被相続人は、○○(以下「○○」という。)を有しており、また、日本国内に住所を有していなかった。
  • ロ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男であるG(以下「本件長男」という。)、同二男であるH、同長女である請求人、同二女であるJ、同三男であるK及び同三女であるLの合計6名である(以下、上記共同相続人6名を併せて「本件相続人ら」という。)。本件長男は、○○を有していたが、本件相続の開始日時点において、日本国内に住所を有していなかった。また、本件長男を除く本件相続人らは、いずれも日本国籍を有しておらず、本件相続の開始日までの間、日本国内に生活の本拠がなかった制限納税義務者である。
  • ハ 本件被相続人は、本件相続の開始日において、日本国内のみならず、○○をはじめとする日本国外にも財産を有していた。
  • ニ 本件相続人らは、平成○年○月○日、本件被相続人の財産のうち、日本国内に所在する不動産等の財産の一部について遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」という。)を成立させ、本件長男を除く本件相続人らで当該財産を取得した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 本件相続人らによる本件相続に係る相続税の申告状況
     本件相続人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を法定申告期限までに共同してM税務署長に提出して申告をした(以下、この申告を「本件申告」という。)。
     なお、本件申告は、本件遺産分割協議に基づいて分割した日本国内の財産についてのみ申告するものであり、請求人の申告の状況は、別表1の「申告」欄のとおりであった。
  • ロ 本件長男の死亡とその納税義務の承継
     本件長男は、令和○年○月○日に死亡し、その子でありかつ唯一の相続人であるE(以下「本件納税者」という。)は、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定に基づき、本件長男に課されるべき本件相続税の納付義務を承継した。
  • ハ N税務署長による更正処分等と不服申立て
     N税務署長は、本件相続税について、令和2年6月29日付で、本件納税者に対し、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「N更正処分等」という。)をした。なお、N更正処分等については、請求人に対する下記ホ(ニ)の納付通知書による通知の前までに審査請求がされた。
  • ニ M税務署長による更正処分等と不服申立て
    • (イ) M税務署長は、本件相続税について、本件長男は○○を有し、平成27年6月26日に日本を出国するまでは日本国内に住所を有していたから非居住無制限納税義務者に該当する旨認定した上で、本件被相続人が所有していた日本国外に所在する未分割の土地及び建物のうち本件長男の法定相続分相当額が、本件申告における課税価格の合計額に算入されていないなどとして、令和3年7月6日付で、請求人に対し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「M更正処分等」という。)をした。
    • (ロ) 請求人は、M更正処分等を不服として令和3年10月6日に審査請求をした。
  • ホ 本件納税者に係る本件相続税の滞納と原処分
    • (イ) N税務署長は、N更正処分等に基づく本件納税者に係る本件相続税がその納期限までに完納されなかったことから、通則法第37条第1項の規定に基づき、本件納税者に対し、令和2年8月3日付の督促状によりその納付を督促した。
    • (ロ) 原処分庁は、通則法第43条第3項の規定に基づき、令和2年8月21日、上記(イ)の督促に係る滞納国税について、N税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
    • (ハ) 原処分庁は、上記(イ)の督促後一月を経過しても上記(イ)の督促に係る滞納国税(令和4年4月27日現在の明細は別表2のとおりであり、以下「本件滞納国税」という。)が完納されなかったことから、相続税法第34条第5項の規定に基づき、令和3年12月6日付で、請求人に対して、1本件相続税について、請求人以外の相続人に対して督促がされたが完納されていないこと、2請求人には同条第1項本文に規定する連帯納付義務が課されていること、3連帯納付義務の制度により実際に請求人に相続税の納付を求める場合には、改めて「納付通知書」が送付されることなどを記載した「相続税の連帯納付義務について」と題する文書により通知をした。
    • (ニ) 原処分庁は、本件滞納国税を請求人から徴収するため、相続税法第34条第6項の規定に基づき、令和4年4月27日付で、請求人に対して、1請求人が負う連帯納付義務に係る国税が本件滞納国税であること、2納付場所が日本銀行本店等であること、3本来の納税義務者及び他の相続人と連帯して納付すべき限度の額(以下「連帯納付責任限度額」という。)は相続等により受けた利益の価額に相当する金額である○○○○円(以下「本件限度額」という。別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり。)であることなどを記載した納付通知書により通知をした(以下、この通知処分を「本件通知処分」という。)。
  • ヘ 審査請求
     請求人は、本件通知処分を不服として令和4年7月27日に審査請求をした。
  • ト 本件通知処分後の事実等
    • (イ) 国税不服審判所長は、M更正処分等に係る上記ニ(ロ)の審査請求について、令和○年○月○日付で、別表1の「裁決」欄のとおり、その一部を取り消す裁決(○裁(諸)令○第○号。以下「前回裁決」という。)をした。なお、その後、M更正処分等の全てが取り消された事実はない。
    • (ロ) 国税不服審判所長は、N更正処分等に係る上記ハの審査請求について、令和○年○月○日付で、その一部を取り消す裁決をした。なお、その後、N更正処分等の全てが取り消された事実はない。

2 争点

(1) 本件通知処分は、無効なM更正処分等に基づく違法なものか否か(争点1)。

(2) 本件通知処分の基となったM更正処分等が無効でない場合、本件通知処分は、日本国外に所在する相続財産について相続税の納付義務を負わない制限納税義務者に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める違法なものか否か(争点2)。

(3) 本件通知処分は、その基となった各課税処分に係る審査請求中にされたことを理由に違法となるか否か(争点3)。

(4) 本件通知処分は不当な処分であるか否か(争点4)。

(5) 本件限度額は過大であるか否か(争点5)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件通知処分は、無効なM更正処分等に基づく違法なものか否か。)について

請求人 原処分庁
行政処分の重大かつ明白な瑕疵については、行政処分の無効事由となり、課税処分が無効である場合にはそれに基づく徴収処分も無効になるから、徴収処分の不服申立てにおいて、課税処分が無効であることを主張することは許されるべきである。
 ところで、本件通知処分によって請求人から徴収しようとする本件滞納国税の額の計算は、N更正処分等における相続財産全体の課税価格と同額のM更正処分等における課税価格を根拠に行われている。
 そして、M更正処分等には、以下のイのとおり、そもそも制限納税義務者である本件長男を非居住無制限納税義務者と判断して日本国外に所在する財産への課税を行った点で明らかな相続税法第1条の3の規定違反があるから、重大かつ明白な瑕疵があるか、又は処分の前提を欠くという処分の根幹の過誤があり、また、以下のロのとおり、当該財産への課税に当たり過大な評価額を算定した点においても重大かつ明白な瑕疵があるから、M更正処分等は無効である。
 したがって、M更正処分等に無効事由があることにより、本件通知処分も違法無効となる。
課税処分と滞納処分とは、それぞれの目的及び効果を異にする別個の独立した行政処分であるから、これらが先行処分と後行処分の関係にある場合においても、課税処分にこれを無効といい得る瑕疵が存するか又はそれが権限ある機関により取り消された場合でない限り、当該課税処分の瑕疵は滞納処分の効力に影響を及ぼすものではない。
 しかるに、本件相続税に係る各課税処分の基礎とした法律関係や連帯納付責任限度額と常に連動する相続等により取得した財産の評価額に関する請求人の主張は、請求人又は本件納税者の固有の相続税額を争うことにつながるのであるから、先行する課税処分に係る不服申立てによるべきであり、これを連帯納付義務に係る徴収処分の違法事由として主張することは認められない。
 なお、以下のイ及びロのとおり、M更正処分等について、重大かつ明白な瑕疵は認められず、また、本件相続税に関するM更正処分等と同一の理由に基づくN更正処分等についても、重大かつ明白な瑕疵は認められず、かつ、N税務署長又は国税不服審判所長により取り消された事実もない。
 したがって、M更正処分等は当然に無効ではないから、これに基づく本件通知処分も違法ではない。
イ M更正処分等においては、本件長男が非居住無制限納税義務者に該当するとして日本国外の財産への課税が行われており、原処分庁は、本件長男が平成27年6月に日本を出国するまで日本国内に生活の本拠があったとする前回裁決の理由を引用の上、本件長男が非居住無制限納税義務者に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件相続の開始日の5年前である平成○年○月○日から平成27年6月までの期間(以下「本件期間」という。)において、1本件長男は日本国内に居住用の土地建物を所有せず、他人所有の建物を賃借して滞在先を転々とし、本件期間中の日本国外滞在日数は約200日であり、滞在先のほとんどが身内のいる○○であったこと、2本件長男は二つの株式会社の平取締役であったほかは定職に就かず、本件納税者からの仕送りを中心として生活し、当該平取締役の役務は、日本国内に生活の本拠がなくとも務めることができるような態様であったこと、3本件長男は病気のため生計が立たず、借金もあり日本国内に十分な資産を有していなかったことなどから、本件長男の生活の本拠は日本国内になかったのであり、そのほか、本件長男が日本国内に所在する本件被相続人の財産を遺産分割によって取得しなかったのも、日本国内に生活の本拠を置かず、日本国内の財産に関心がなかったことの証左である。したがって、本件長男は制限納税義務者であるから、M更正処分等は相続税法第1条の3の規定に明らかに違反する。
イ 本件相続の開始日において○○を有し、日本国内に住民登録があり、平成27年6月26日に日本を出国するまでは1年の大半を日本国内で過ごしていた本件長男が、非居住無制限納税義務者に該当することは、前回裁決における国税不服審判所の調査審理の結果によっても認められていて、M更正処分等の全額が取り消された事実もない。なお、前回裁決によれば、M更正処分等には、請求人が本件相続により取得した財産の価額に1円の計算誤りがあったが、これは重大かつ明白な瑕疵とまではいえない。
ロ 本件滞納国税は、日本国外に所在する財産について誤って算定された過大な評価額に基づいたものであって、当該財産が所在する○○の法律、規制及び現実的な市場の状況に応じて課税対象の不動産価値を見直し、相続財産評価額が大幅に変動する場合には、請求人の連帯納付責任限度額に影響を及ぼす可能性がある。当該評価額の算定誤りは、請求人が納付を余儀なくされる連帯納付責任限度額に直接影響を及ぼすものであるから、M更正処分等に重大かつ明白な瑕疵がある場合に当たる。 ロ 本件被相続人が所有していた日本国内及び日本国外の財産の評価額は、前回裁決によっても、M更正処分等の評価額と同額であったことから、M更正処分等に重大かつ明白な瑕疵はなく、本件通知処分の適法性に影響を及ぼすものではない。

(2) 争点2(本件通知処分の基となったM更正処分等が無効でない場合、本件通知処分は、日本国外に所在する相続財産について相続税の納付義務を負わない制限納税義務者に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める違法なものか否か。)について

原処分庁 請求人
相続税は、同一の被相続人から相続等により財産を取得した者(以下、相続等により財産を取得した相続人又は受遺者を「相続人等」という。)に対し当該相続に基因する遺産の総額を基礎として計算されるから、本来の納税義務者が相続税を納付しない場合に他の共同相続人に連帯納付義務を全く追及しない場合には、租税債権が満足されないことになる。そこで、相続税法は、本来の納税義務者以外の共同相続人に相続税の連帯納付義務を課すこととしたのであり、連帯納付義務は、相続税法が相続税徴収の確保のため各相続人等に相互に課した特別の責任であって、制限納税義務者を連帯納付義務者から除くとする法令の規定はないし、連帯納付義務の意義を制限納税義務者についてのみ別異に解すべき理由はないから、請求人が本件相続により受けた利益の範囲で連帯納付義務を負うことに変わりはない。
 したがって、制限納税義務者である請求人に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める本件通知処分は違法なものではない。
相続税法第2条第2項の規定によれば、制限納税義務者には、日本国内に所在する相続財産に対してのみ相続税が課税される。
 ところが、本件通知処分は、非居住無制限納税義務者である本件長男が本件相続により取得した日本国外に所在する財産に対して課税された相続税の納付の不履行に基づいてされており、結果的に、日本国外に所在する財産に対する相続税を制限納税義務者である請求人に課税していることになる。連帯納付義務は無制限納税義務者である納税者に対してのみ適用されるべきであって、制限納税義務者に適用を拡大するべきではない。
 したがって、本件通知処分は、制限納税義務者である請求人に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める違法なものである。

(3) 争点3(本件通知処分は、その基となった各課税処分に係る審査請求中にされたことを理由に違法となるか否か。)について

原処分庁 請求人
課税処分は、国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする処分であるのに対して、滞納処分はその具体化した納税義務の強制的な実現を目的とする処分であるところ、通則法第105条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定しているから、課税処分に係る審査請求中であっても、その課税処分の効力は妨げられることなく納付すべき税額は確定し、その国税が完納されなければ不服申立て中であっても滞納処分をすることも妨げられない。
 また、連帯納付義務は、本来の納税者の納税義務の確定とともに法律上生じており、補充性がないから、原処分庁は、本来の納税者とは別個に、請求人に対して本件滞納国税の徴収手続を行うことができるというべきである。
 したがって、本件通知処分は、M更正処分等及びN更正処分等の各課税処分が審査請求中である事情等をもって違法とならない。
本件長男が本件相続により取得した○○所在の土地についてM更正処分等及びN更正処分等において算定された評価額等には誤りがあり、これらは○○の法律、規制及び現実的な市場の状況に応じて見直す必要がある。そして、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれについて審査請求がされており、これらの審査請求が認められ、相続税の課税価格が減少して本件通知処分の基になる相続税の額が減少すれば、請求人の連帯納付責任限度額も減少する可能性がある。ところが、このように最終的な課税財産の金額が確定していないにもかかわらず、本件通知処分は、本件納税者の納税義務が確定し連帯納付義務も確定したと一方的に解釈して行われたものである。
 したがって、本件通知処分は、その基となった各課税処分に係る審査請求中にされた違法なものである。

(4) 争点4(本件通知処分は不当な処分であるか否か。)について

請求人 原処分庁
本件通知処分が違法でないとしても、請求人は本件長男が取得した○○所在の土地の評価額等の算定に誤りがあるとしてM更正処分等について審査請求中であり、また、本件納税者もN更正処分等について審査請求中であるところ、これらの審査請求が認められれば、本件滞納国税の額及び請求人の連帯納付責任限度額のいずれも減少する可能性があるにもかかわらず、当該減少部分の是正が行われないうちに原処分庁が本件通知処分を行ったのは不当である。
 また、原処分庁が、本件納税者に対して納付能力の調査を積極的に行っておらず、本件納税者が日本国外に居住していることを理由に本件納税者と接触を図ることなく本件滞納国税の負担を請求人に求めていることは、租税負担の公平性を阻害するものであり、不当である。
相続税法第34条第6項は、同条第5項の規定による通知をした場合において連帯納付義務者から徴収しようとするときは、当該連帯納付義務者に対し、所定の事項を記載した納付通知書による通知をしなければならない旨規定し、さらに、同条第1項ただし書においては、相続税に係る更正又は決定通知書を発した日から5年を経過する日までに、国税局長が連帯納付義務者に同条第6項の規定による通知をしない場合には当該連帯納付義務者においては連帯納付義務を負わない旨規定していることから、同条第6項に規定する納付通知書による通知を行う時期は国税局長の裁量に委ねられている。そして、本件相続税について審査請求中であるなどの事情があったとしても、N更正処分等及びM更正処分等により本件納税者及び請求人の固有の相続税の納税義務は確定し、その確定の事実に照応して請求人の連帯納付義務は法律上当然に生じていると解されるから、本件通知処分は、連帯納付義務者に不意打ちの感を与えるなどの事態を防止するという同条項の趣旨及び目的に照らして不合理なものとはいえず、不当な処分ではない。
 また、各相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対してその履行を求めて徴収手続を行うことが許されるから、原処分庁は、請求人に対し、本件滞納国税に係る連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を行うことができるのであり、本来の納税義務者である本件納税者に徴収手続を尽くした後でなければできないというものではない。したがって、請求人が主張する本件納税者に対する納付能力の調査の有無等は本件通知処分の適法性及び妥当性に影響を及ぼすものではない。

(5) 争点5(本件限度額は過大であるか否か。)について

原処分庁 請求人
相続税法第34条第1項に規定する「相続等により受けた利益の価額」は、本件通達の定めのとおり、相続等により取得した財産の価額から、相続税法第13条の規定による債務控除の額及び相続等により取得した財産に係る相続税額を控除し、さらに相続登記に要した登録免許税額を控除した後の金額をいう。
 そして、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるべきであるから、「相続等により受けた利益の価額」も、相続開始時を基準として算定されるべきものと解される。しかし、相続登記に係る司法書士報酬及び相続税申告等のための税理士報酬は、相続開始後の事後的支出であって、それらは性質上請求人が負担する費用であり、また、相続税法第13条の債務控除の額、相続税額及び登録免許税額のいずれにも該当しないから、控除の対象にならない。
 また、登録免許税の納税義務は登記時に成立し同時に納付すべき税額が確定するところ、請求人は本件通知処分時において本件遺産分割協議により取得した日本国内に所在する不動産について相続登記手続をしていないから控除すべき登録免許税額がない。
 したがって、本件限度額は過大ではなく適正である。
相続税法第34条第1項の規定の趣旨は、相続によって取得した利益を超える課税によって、相続が発生しなかった場合よりも損失を被る結果は連帯納付義務者に酷であることから、これを回避する点にある。
 本件通達によれば、相続後に発生する葬式費用や登録免許税額も相続等により取得した財産の価額から控除する対象に含まれており、連帯納付義務の適用自体が相続開始後の事後的なものであることからすれば、相続開始後の事後的支出である相続財産の不動産登記に係る司法書士報酬及び印紙税等、相続税申告等のための税理士報酬、更には課税処分及び滞納相続税に係る連帯納付義務の納付通知処分に対応するための弁護士報酬までも控除される必要がある。
 また、本件通達は、控除される登録免許税額について、登記の実施の有無や支払の有無について定めておらず、登記が未済であったとしても登録免許税額の算定は可能であり、実際に登記した際の救済方法が不明確であることから、登記の実施の有無や支払の有無にかかわらず、登録免許税額は請求人の連帯納付責任限度額の算定に当たり控除されるべきである。
 そして、本件相続により請求人が取得した日本国内に所在する不動産に係る登記費用の見積額は、別表4の「司法書士報酬」欄及び「登録免許税等」欄のとおりであり、また、本件相続に関して請求人が負担した税理士報酬は同表の「税理士報酬」欄のとおりであるところ、これらの額は請求人の連帯納付責任限度額の算定に当たり控除されるべき金額である。
 したがって、これらを控除せずに算定された本件限度額は過大である。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件通知処分は、無効なM更正処分等に基づく違法なものか否か。)について

  • イ 法令解釈
     課税処分と徴収処分とはそれぞれ目的を異にする別個独立した行政処分であるから、前者の違法性は後者に承継されるものではなく、仮に課税処分に瑕疵があったとしても、その瑕疵が重大かつ明白であるために課税処分が無効であるか、又は権限ある機関によって課税処分の全てが取り消されない限り、課税処分は有効であるから、課税処分の違法を理由として徴収処分の取消しを求めることはできないと解するのが相当である。
     そして、課税処分が当然に無効となる重大かつ明白な瑕疵とは、処分の要件の存在を肯定する課税庁の認定に重大かつ明白な瑕疵がある場合を指し、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に一見して看取し得るほど明白である場合を指すものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 当審判所は、前回裁決において、本件長男が○○を有しており、本件相続の開始日時点において、日本国内に生活の本拠がなかったものの、平成27年6月に出国するまで日本国内に生活の本拠があった非居住無制限納税義務者である一方、本件長男を除く本件相続人らは、いずれも日本国籍を有しておらず、日本国内に生活の本拠がなかった制限納税義務者である旨を争いのない事実として認定した上、本件被相続人が所有していた日本国外に所在する未分割の土地の評価に誤りがあるとする請求人の主張に対して、その評価額は、M税務署長の主張額と同額となる旨判断した。
    • (ロ) 本件長男の所在地の大半は、平成19年7月29日以後平成27年6月26日に日本を出国するまでの間、日本国内であった。
    • (ハ) 本件長男は、平成22年10月23日から本件相続の開始日以後である平成○年○月○日まで○○の妻との婚姻を継続し、平成23年3月30日から平成27年2月23日までは同人と同じ日本国内の住所地に住民登録を有しており、同年2月24日に日本国内において住所を移転した後も、同年6月26日に日本を出国するまでの間、継続して日本国内に滞在していた。
  • ハ 検討及び請求人の主張について
    • (イ) 上記1(4)ト(イ)及び上記ロ(イ)のとおり、当審判所は、前回裁決において、本件長男が非居住無制限納税義務者に該当する旨認定しており、また、上記1(4)ト(イ)のとおりM更正処分等が取り消された事実もないことに照らすと、本件長男が非居住無制限納税義務者であることを前提としたM更正処分等が無効となり、その結果、本件通知処分が無効となると認めることはできない。
    • (ロ) これに対し、請求人は、上記3(1)の「請求人」欄イのとおり、本件通知処分の基となったM更正処分等において本件長男が非居住無制限納税義務者と認定された点に対する各事情を挙げ、本件長男は本件期間中においても生活の本拠が日本国内になかった制限納税義務者であり、M更正処分等には日本国外に所在する財産への課税を行った点で明らかな相続税法第1条の3の規定違反があるから、M更正処分等は、重大かつ明白な瑕疵があるか又は処分の前提を欠くという処分の根幹の過誤があることを理由として無効であり、これに基づく本件通知処分は違法無効となる旨主張する。
       しかしながら、上記ロ(ロ)及び(ハ)のとおり、本件長男には、少なくとも本件期間を通じて○○の妻と婚姻を継続し、日本国内に住民登録を有し、本件期間の大半は日本国内に所在し、かつ、滞在もしていたという外形的事実があり、平成27年2月24日に日本国内において住所を移転した後も、同年6月26日に日本を出国するまでの間、継続して日本国内に滞在していたことからすれば、本件長男は、生活の本拠を日本国内に有していたと考えるのが自然かつ合理的である。
       これらによれば、上記1(3)ロのとおり○○を有していた本件長男は、本件相続の開始日である平成○年○月○日(上記1(3)イ)の前5年以内の時点において、日本国内に住所を有していたということができ、非居住無制限納税義務者であると認められ、本件長男が制限納税義務者に該当することの根拠として、請求人が挙げる上記3(1)の「請求人」欄イの各事情は、直ちに本件長男が制限納税義務者に該当することを基礎付けるものではない上、上記ロ(イ)のとおり、請求人が、M更正処分等に係る審査請求において、本件長男が非居住無制限納税義務者に該当することを争っていなかったことをも踏まえれば、上記1(4)ニ(イ)のとおり、本件長男が非居住無制限納税義務者であるとのM税務署長の認定が誤りであったとは認められない。
       そして、上記1(3)ハのとおり、本件被相続人は、本件相続の開始日において、日本国外にも財産を有しており、上記1(3)ニのとおり、本件遺産分割協議は、本件被相続人が有していた財産全部に関するものでもないことからすると、本件長男は、本件相続によって財産を取得したと認められ、これを前提としてM更正処分等は行われたということができる。
       そうすると、M更正処分等において、M税務署長の認定に重大な瑕疵は認められず、そうである以上、M更正処分等の成立の当初から、外形上、客観的に一見して看取し得るほど明白な誤認があるとも認められない。また、上記検討によれば、M更正処分等がその前提を欠き、その根幹に過誤があるという請求人の主張を踏まえても、M更正処分等には、課税要件の根幹についての内容上の過誤は認められないから、M更正処分等がその前提を欠き、その根幹に過誤があるということはできない。
       したがって、請求人の主張は理由がない。
    • (ハ) また、請求人は、上記3(1)の「請求人」欄ロのとおり、本件滞納国税は、日本国外に所在する財産について誤って算定された過大な評価額に基づくものであり、課税対象の不動産価値を見直し、相続財産評価額が大幅に変動する場合には、請求人の連帯納付責任限度額に直接影響を及ぼすものであるから、M更正処分等には重大かつ明白な瑕疵がある旨主張する。
       しかしながら、上記ロ(イ)のとおり、前回裁決において、当審判所は、日本国外に所在する財産の評価額は、M税務署長の主張額と同額となる旨の判断をしており、他方で、請求人は、日本国外に所在する財産の評価額について見直しを行えばその評価額が減額される可能性があることを主張するのみで、M税務署長が行った評価額の算定に外形上、客観的に一見して看取し得るほど明白な認定の誤りがあったことについて具体的な主張をしておらず、請求人が主張する当該瑕疵を認めるに足りる証拠もないから、請求人の主張は理由がない。
       なお、請求人は、M更正処分等における財産の過大評価により本件通知処分は違法無効となる旨主張するが、上記イのとおり、課税処分の違法性は徴収処分に承継されるものではないところ、上記1(4)ト(イ)のとおり、M更正処分等が取り消された事実はなく、M更正処分等は有効であるから、M更正処分等の違法を理由として本件通知処分が違法無効となるものではない。
    • (ニ) 以上のとおり、請求人が主張するいずれの点においても、M更正処分等は当然に無効な処分ということはできないから、本件通知処分は、無効なM更正処分等に基づく違法なものとはいえない。

(2) 争点2(本件通知処分の基となったM更正処分等が無効でない場合、本件通知処分は、日本国外に所在する相続財産について相続税の納付義務を負わない制限納税義務者に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める違法なものか否か。)について

  • イ 法令解釈
     相続税の課税は、相続税法第15条《遺産に係る基礎控除》、同法第16条《相続税の総額》及び同法第17条《各相続人等の相続税額》の各規定によって、遺産全体を各相続人が民法に定める相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に所定の税率を適用して相続税の総額を算出した上、その相続税の総額を、各相続人等の取得した財産の価額に応じてあん分する制度を採用している。
     このような制度によれば、課税の面における相続人等の負担の公平は図られるが、共同相続人中に無資力の者があったときなどには租税債権の満足が図られなくなり、共同相続人中に無資力の者がいない他の納税者との間での公平が保てなくなる。そこで、相続税法第34条第1項は、各相続人等に対し、自らが負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに、他の相続人等の固有の相続税の納税義務について、当該相続等により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯納付義務を負担させたものであり、この連帯納付義務は、同法が相続税の徴収確保を図るため、共同相続人中に無資力の者があることに備え、相互に各相続人等に課した特別の責任であると解される。
  • ロ 検討及び請求人の主張について
     請求人は、上記3(2)の「請求人」欄のとおり、本件通知処分は、非居住無制限納税義務者である本件長男が本件相続により取得した日本国外に所在する財産に対して課税された相続税の納付の不履行に基づいてされており、結果的に、日本国外に所在する財産に対する相続税を制限納税義務者である請求人に課税していることになるから、連帯納付義務は無制限納税義務者である納税者に対してのみ適用されるべきであって、制限納税義務者に適用を拡大するべきではない旨主張する。
     しかしながら、相続税法第34条第1項本文は、同一の被相続人から相続等により取得した財産に係る相続税に関して互いに連帯納付義務を負う者について、上記1(2)ホのとおり、「同一の被相続人から相続等により財産を取得した全ての者」である旨規定し、制限納税義務者を除外する旨の規定を特に設けていないこと、及び連帯納付義務が、上記イのとおり、相続税の徴収確保を図るため、共同相続人中に無資力の者があることに備えて相互に各相続人等に特別の責任を課す趣旨に基づくものであることからすれば、連帯納付義務を負う者を無制限納税義務者である納税者のみに限定して解釈すべき理由があるとは認め難く、制限納税義務者か無制限納税義務者かを問わず、連帯納付義務を負うものというべきである。そうすると、本件通知処分は、制限納税義務者である請求人に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める点において違法なものとはいえない。
     したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(3) 争点3(本件通知処分は、その基となった各課税処分に係る審査請求中にされたことを理由に違法となるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法第105条第1項本文は、上記1(2)イのとおり、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定している。ここにいう「処分の効力」とは、不服申立ての目的となった処分の有する種々の法律上の効力の総称であり、「処分の効力を妨げない」とは、更正や決定等に係る納付すべき税額が確定すること及び所定の期限までに納付すべきであること等の効力が不服申立てによって影響されないことをいうものと解される。次に、「処分の執行」とは、その処分について、執行行為を必要とする場合において、その執行行為として行われる法律行為又は事実行為をいい、「処分の執行を妨げない」とは、更正や決定等に係る税額が所定の期限までに納付されない場合に不服申立てがされても、督促や滞納処分を執行し得ることをいうものと解される。
    • (ロ) 相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務は、上記(2)イのとおり、相続税法が相続税の徴収確保を図るために各相続人等に相互に課した特別の責任であって、その義務履行の前提条件となる連帯納付義務の確定は、各相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して、法律上当然に生ずるものとされており、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができると解される。なお、連帯納付義務については、保証人や第二次納税義務者の場合のように補充性を認めた規定(通則法第52条《担保の処分》第4項、国税徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第4項)がないことから補充性がないと解される。
  • ロ 検討及び請求人の主張について
     請求人は、上記3(3)の「請求人」欄のとおり、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれに係る審査請求がされており、これらの審査請求が認められ、相続税の課税価格が減少して本件通知処分の基になる相続税の額が減少すれば、請求人の連帯納付責任限度額も減少する可能性があるところ、最終的な課税財産の金額が確定していないにもかかわらず、本件納税者の納税義務が確定し連帯納付義務も確定したと一方的に解釈して行われた本件通知処分は違法である旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれの処分の効力、すなわち、当該各処分によって請求人及び本件納税者それぞれに固有の相続税の納付すべき税額が確定して所定の期限までに納付すべきであること等の効力は、当該各処分によって既に生じているものであり、本件納税者の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して請求人の連帯納付義務も法律上当然に生じており、これらの確定等の効力は当該各処分に係る各審査請求によって影響されることはない。また、不服申立ては、その目的となった処分の執行を妨げず、連帯納付義務には補充性がないことからすれば、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれに係る審査請求がされていても、そのことによって直ちに原処分庁の請求人に対する本件滞納国税の徴収手続が妨げられることにはならないから、本件滞納国税を徴収するために行われた本件通知処分は、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれに係る審査請求中にされたことを理由として違法となることはない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件通知処分は不当な処分であるか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 上記(3)イ(ロ)のとおり、相続人等の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができることになる。
       他方で、各相続人等の事情は一様ではなく、連帯納付義務を負う相続人等が、他の相続人等の履行状況について分からない場合や、納付すべき金額、納付期限その他連帯納付義務の具体的内容を知ることができない場合もあるから、そのまま徴収手続を行うと、連帯納付義務者にとって不意打ちとなり、連帯納付義務者を困惑させる事態が生じる可能性がある。
       このような事態を生じさせないために、相続税法は、本来の納税義務者が相続税を完納しないときは、本来の納税義務者が円滑に相続税を納付している場合に比して連帯納付義務の履行を求められる可能性が高まったものとして、相続税法第34条第5項の規定に基づき、連帯納付義務者に対してその旨を通知するとした上、その後、実際に連帯納付義務者から徴収しようとするときには、同条第6項の規定に基づき、連帯納付義務者に対して納付すべき金額、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による通知をしなければならないとしたものと解される。
    • (ロ) 処分の不当とは、処分を行うにつき、法の規定から処分行政庁に裁量権が付与されていると認められる場合において、処分行政庁の行った処分が、裁量権の逸脱又は濫用として違法であるとまではいえないが、当該処分の基礎となる法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理であることをいうと解するのが相当である。
  • ロ 検討及び請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3(4)の「請求人」欄のとおり、本件通知処分時において、M更正処分等及びN更正処分等のいずれについても審査請求がされており、これらの審査請求が認められれば、本件滞納国税の額及び請求人の連帯納付責任限度額のいずれも減少する可能性があるにもかかわらず、これらの是正がされないうちに行われた本件通知処分は不当である旨主張する。
       しかしながら、M更正処分等及びN更正処分等の各処分の効力並びに請求人の連帯納付義務がいずれも既に生じており、当該各処分の効力及び請求人に対する本件滞納国税の徴収手続が当該各処分に係る各審査請求によって影響されず、本件通知処分が当該各処分に係る各審査請求中にされたことを理由として違法とならないことは、上記(3)ロのとおりである。
       このように、M更正処分等及びN更正処分等のそれぞれに係る審査請求がされていても、請求人に対する本件滞納国税の徴収手続を法律上適法に行うことができるという状況下において、原処分庁は、本件納税者に対する上記1(4)ホ(イ)の督促後一月を経過しても本件滞納国税が完納されなかったことから、請求人が連帯納付義務の履行を求められる可能性が高まったものとして、請求人に対して相続税法第34条第5項の規定に基づく上記1(4)ホ(ハ)の通知をした上で、請求人から本件滞納国税を徴収することも考え、その徴収に先立ち、請求人が不意打ちを受けるなどの事態を避けるために、同条第1項第1号に規定する時期の範囲内で同条第6項の規定による本件通知処分をしたものと認められる。そうすると、本件通知処分は、上記(2)イ及び上記(3)イ(ロ)で説示した相続税の徴収確保を図るために各相続人等に課された特別の責任である連帯納付義務に関する相続税法の趣旨及び目的に照らして不合理なものであるということはできない。
    • (ロ) また、請求人は、上記3(4)の「請求人」欄のとおり、原処分庁が、本件納税者に対する納付能力の調査を積極的に行っておらず、本件納税者が日本国外に居住していることを理由に本件納税者と接触を図ることなく本件滞納国税の負担を請求人に求めることは不当である旨主張する。
       しかしながら、上記(3)イ(ロ)のとおり、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務については補充性がないものと解されることから、原処分庁は、本来の納税義務者である本件納税者に対する徴収手続と連帯納付義務者である請求人に対する徴収手続のいずれの手続からも本件滞納国税を徴収することが可能であって、原処分庁が、本件納税者に対する積極的な納付能力調査、接触等を行わなかったとしても、そのこと自体が本件通知処分の妥当性に影響を及ぼすものではなく、これをもって本件通知処分を不当と評価することはできない。
    • (ハ) したがって、本件通知処分は不当な処分ではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 争点5(本件限度額は過大であるか否か。)について

  • イ 法令解釈等
     相続税法第34条第1項は、上記1(2)ホのとおり、同一の被相続人から相続等により財産を取得した全ての者は、その相続等により取得した財産に係る相続税について、当該相続等により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責めに任ずる旨規定している。これは、上記(2)イのとおり、同法が相続税の徴収確保を図るため、相互に各相続人等に課した特別の責任であるが、その連帯納付義務を「相続等により受けた利益の価額に相当する金額」の範囲に限定したのは、各相続人等に対し相続等により受けた経済価値を超える負担を課すことがないようにするためであると解される。そうすると、同項に規定する「相続等により受けた利益の価額に相当する金額」とは、相続人等が現実に取得した利益の価額に相当する金額であると解するのが相当であって、当該相続人等が現実に取得した利益の価額に相当する金額とは、相続等により取得した財産の価額から当該財産を取得したことに伴って現実に支払義務が生じた金額を控除した後の金額と解するのが相当である。
     ところで、上記1(2)チのとおり、本件通達は、「相続等により受けた利益の価額」とは、相続等により取得した財産の価額から、1相続税法第13条の規定による債務控除の額、2相続等により取得した財産に係る相続税額、及び3相続等により取得した財産に係る登録免許税額を控除した後の金額をいう旨定めている。
     このような本件通達の定めは、1相続人(包括受遺者を含む。以下同じ。)は被相続人(遺贈者を含む。以下同じ。)の権利義務を承継すること、2納税義務が生じる相続等により財産を取得した者は当然に当該財産に係る相続税額(本税)を負担すること、及び3相続等により不動産を取得した場合には、権利に関する法的安定性の観点から売買により不動産を取得したときと同様に所有権の移転登記手続を行うことが一般的であり、相続等による財産の取得を基因として登記する際に納税義務が生じる登録免許税についても、相続等により不動産等を取得する際には通常生じるものであることを踏まえたものであり、本件通達の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件相続により本件長男を除く本件相続人らが、本件遺産分割協議により取得した日本国内に所在する不動産については、本件通知処分の時点において、いずれも相続による権利の移転の登記がされていなかった。
    • (ロ) 請求人が本件相続により取得した日本国内に所在する財産の価額は、前回裁決で認定された別表1の「裁決」欄の請求人に係る「取得財産の価額」欄の○○○○○円と同額である(別表3の「審判所認定額」欄1の金額のとおり。)。
    • (ハ) 本件相続において、請求人に係る相続税法第13条の規定による債務控除の額は、前回裁決で認定された別表1の「裁決」欄の請求人に係る「債務及び葬式費用の金額」欄の○○○○円と同額である(別表3の「審判所認定額」欄2の金額のとおり。)。
    • (ニ) 請求人が本件相続により取得した上記(ロ)の財産に係る相続税額は、前回裁決で認定された別表1の「裁決」欄の請求人に係る「納付すべき税額」欄の○○○○円と同額である(別表3の「審判所認定額」欄3の金額のとおり。)。
  • ハ 検討及び請求人の主張について
     本件相続において、請求人には、上記ロ(ハ)及び(ニ)のとおり、相続税法第13条の規定による債務控除の額である○○○○円及び相続税額である○○○○円が生じているところ、これらは、相続等により財産を取得したことに伴って現実に支払義務が生じた金額であり、かつ、本件通達にも定められたものであるから、相続税法第34条第1項に規定する「相続等により受けた利益の価額」の算定に当たって控除されるものである。
     これらに加え、請求人は、上記3(5)の「請求人」欄のとおり、連帯納付義務の適用自体が相続開始後の事後的なものであり、相続後に発生する葬式費用等が相続等により取得した財産の価額から控除する対象に含まれていることを理由に、1不動産登記を行う場合の司法書士報酬、登録免許税及び印紙税等の各見積額、並びに2相続税申告等のための税理士報酬並びに課税処分及び滞納相続税に係る連帯納付義務の納付通知処分に対応するための弁護士報酬の各負担額(ただし、弁護士報酬の具体的な負担額についての主張はない。)もそれぞれ本件相続により取得した財産の価額から控除されるべきである旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、「相続等により受けた利益の価額に相当する金額」の算定に当たり、相続等により取得した財産の価額から控除すべき金額は、相続等により財産を取得したことに伴って現実に支払義務が生じた金額と解するのが相当であるところ、上記ロ(イ)のとおり、本件長男を除く本件相続人らが取得した日本国内に所在する不動産については、いずれも相続による権利の移転の登記がされておらず、請求人がその連帯納付責任限度額の算定に当たって控除されるべき旨主張する司法書士報酬等の各見積額は、そもそも請求人に現実に支払義務が生じたものとは認められないから、これらの各見積額の内容について検討するまでもなく、請求人の連帯納付責任限度額の算定に当たり、これらの各見積額を控除することはできない。
     また、請求人が控除されるべき旨主張する税理士報酬等は、請求人に現実に支払義務が生じているとした場合でも、これらはいずれも請求人が任意で相続税申告書作成等の業務を税理士又は弁護士に委任することにより生じるものであり、相続等により財産を取得する場合において、相続税額のように納税義務に基づいて当然に負担が生じるものではないし、登録免許税額のように一般的に生じるものとは必ずしも言い難いものであり、本件通達に定める「相続税法第13条の規定による債務控除の額」及び「相続等により取得した財産に係る相続税額及び登録免許税額」のいずれにも該当しないから、請求人の連帯納付責任限度額の算定に当たり、これらの報酬額を控除することはできない。
     なお、相続税法第13条第1項において、相続税の課税価格に算入すべき価額の算定上、被相続人の債務の金額のほかに被相続人に係る葬式費用のうちその者の負担に属する部分の金額の控除も認められているが、これは、被相続人に係る葬式費用が、被相続人の相続開始に伴い必然的に発生し、社会通念上も、相続財産そのものが担っている負担ともいえることを考慮して控除が認められたものとされており、本件通達も、このような法令の趣旨に沿って定められたものであって、相続開始後に発生した事後的支出を「相続等により受けた利益の価額」から一律に控除することを認める趣旨と解することはできない。
     したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
  • ニ 請求人の連帯納付責任限度額について
     以上に基づき、請求人が本件相続により受けた利益の価額に相当する金額についてみると、請求人は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、本件相続により請求人が取得した財産の価額である○○○○円(上記ロ(ロ))から、相続税法第13条の規定による債務控除の額である○○○○円(上記ロ(ハ))及び本件相続により請求人が取得した上記ロ(ロ)の財産に係る相続税額である○○○○円(上記ロ(ニ))を控除した後の○○○○円相当の金額について本件相続により利益を受けていると認められる。したがって、請求人は、○○○○円を限度として本件滞納国税に係る連帯納付義務を負うものと認められる。
     そうすると、本件通知処分の時点において、本件限度額は、当審判所が認定した請求人の連帯納付責任限度額を下回り、過大ではないから、これを取り消すべき理由はない。
     なお、原処分庁は、本件限度額の算定に当たり、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり、請求人に係る上記ロ(ニ)の相続税額に請求人が本件通知処分の時点までに納付した延滞税の額及び過少申告加算税の額を含めて、これらを本件相続により請求人が取得した財産の価額(上記ロ(ロ))から控除しているが、延滞税及び加算税は、相続後における相続人等の納税義務や申告義務が適正に果たされなかったことに基づき生じるものであり、上記イのとおり、相続税額(本税)のように相続等に基づき当然に租税負担が生じるものではないから、相続税額(本税)と同様に取り扱うことはできず、これらを相続等により取得した財産の価額から控除すべき相続税額に含めることは相当ではない。

(6) 本件通知処分の適法性について

以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することができず、上記1(4)ホの経緯のとおり行われた本件通知処分は、相続税法第34条第6項の規定に基づきされている。
 また、本件通知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件通知処分は適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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