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(令和5年11月15日裁決)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、G税務署長に対し所得税の青色申告承認申請書の提出期限の延長申請をし、G税務署長が当該提出期限を令和2年8月5日まで延長する旨承認していたところ、原処分庁が、請求人には当該申請にいう事情があったとは認められないとして当該承認の取消処分及び所得税等の更正処分等をしたことから、請求人が、原処分の全部の取消しを求めるとともに、延滞税の取消しを求めた事案である。
(2) 関係法令
- イ 国税通則法関係
- (イ) 国税通則法(以下「通則法」という。)第11条《災害等による期限の延長》は、税務署長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収(以下「申告等」という。)に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から2月以内に限り、当該期限を延長することができる旨規定している。
- (ロ) 国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》第1項は、国税庁長官は、都道府県の全部又は一部にわたり災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、地域及び期日を指定して当該期限を延長するものとする旨規定している。
また、国税通則法施行令第3条第3項は、税務署長は、災害その他やむを得ない理由により、通則法第11条に規定する期限までに同条に規定する行為をすることができないと認める場合には、国税通則法施行令第3条第1項及び第2項の規定の適用がある場合を除き、当該行為をすべき者の申請により、期日を指定して当該期限を延長するものとする旨規定し、同条第4項は、同条第3項の申請は、通則法第11条に規定する理由がやんだ後相当の期間内に、その理由を記載した書面でしなければならない旨規定している。 - (ハ) 通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
また、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨規定している。
- ロ 所得税法関係
- (イ) 所得税法第143条《青色申告》は、事業所得を生ずべき業務を行う居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書を青色の申告書により提出することができる旨規定している。
- (ロ) 所得税法第144条《青色申告の承認の申請》は、その年分以後の各年分の所得税につき同法第143条の承認を受けようとする居住者は、その年3月15日までに、所定の事項を記載した申請書(以下「青色申告承認申請書」という。)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
- (ハ) 所得税法第147条《青色申告の承認があったものとみなす場合》は、青色申告承認申請書の提出があった場合において、その年分以後の各年分の所得税につき青色申告の承認を受けようとする年の12月31日までにその申請につき承認又は却下の処分がなかったときは、その日においてその承認があったものとみなす旨規定している。
(3) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
- イ 請求人は、H社に勤務する傍ら、エンジニアリング兼コンサルタント業を行っていた。
- ロ H社は、令和2年2月18日付で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に備え、従業員等の健康と安全等を確保する目的で、全社的に在宅勤務体制へ移行する旨広報した。
- ハ 令和2年3月6日付国税庁告示第1号により、所得税法その他の所得税に関する法令の規定に基づき税務署長に対して申告、申請、請求、届出その他書類の提出又は納付(その期限が令和2年2月27日から同年4月15日までの間に到来するものに限る。)をすべき個人が行うこれらの行為については、その期限を同月16日とすることとされた。
また、当該延長に基づき国税庁から発表された「青色申告をはじめませんか」と題する文書には、令和2年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)から青色申告をする場合には、令和元年分の所得税等の確定申告期限までに所得税の青色申告承認申請書を提出する必要があるところ、令和2年4月16日以前に令和元年分の所得税等の確定申告書を提出した者についても、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により外出を控えるなど、同日までに所得税の青色申告承認申請書を提出することが困難な場合には、同月17日以降であっても、同申請書を提出することが可能である旨記載されていた。 - ニ 内閣総理大臣は、令和2年4月7日、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(令和3年法律第5号による改正前のもの。以下「新型インフル特措法」という。)第32条《新型インフルエンザ等緊急事態宣言等》第1項の規定に基づき、緊急事態宣言をした。
- ホ J県知事は、令和2年4月10日、新型インフル特措法第45条《感染を防止するための協力要請等》第1項の規定に基づき、a県の住民に対し、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請した。
- ヘ G税務署長は、令和2年4月15日、K税務署の総合窓口を利用した者の新型コロナウイルス感染症の感染を理由として、同日午前11時から午後2時まで同署の確定申告会場及び総合窓口を一時閉鎖した。
- ト 請求人は、令和2年6月3日、H社株式に係る新株予約権を行使し、H社株式を取得した。
なお、当該新株予約権は、租税特別措置法第29条の2(令和5年法律第3号による改正前のもの。)《特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》の要件を満たさない、いわゆる税制非適格ストックオプションに該当する。 - チ 請求人は、令和2年6月8日から同月23日にかけて上記トで取得したH社株式を売却し、売却代金から支払手数料を控除した後の565,494,419円がL社の請求人名義口座に入金された。
- リ 請求人は、令和2年9月24日付で、M社との間で、M社からマイニングマシンとなる機械学習高性能パソコン164台(以下「本件機器」という。)を268,960,000円で購入する旨の商品売買契約を締結し、同年12月に本件機器を取得するとともに事業の用に供した。
(4) 審査請求に至る経緯
- イ 請求人は、給与所得及び上記(3)のイの事業により生じた所得について、令和元年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出をN税理士法人(以下「本件税理士」という。)に依頼し、令和2年4月16日、本件税理士は国税電子申告・納税システム(以下「e-Tax」という。)を利用して代理送信により青色の申告書以外の申告書をG税務署長に提出した。
- ロ 請求人は、令和2年8月5日、令和2年分以降の所得税の申告を青色申告によりたいとして、自ら所得税の青色申告承認申請書(以下「本件青色申請書」といい、本件青色申請書による申請を「本件青色申請」という。)を作成し、K税務署の総合窓口に提出した。
なお、本件青色申請書の「(3)その他」欄には「新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で提出が遅れました」と記載されていた(以下、当該記載により本件青色申請書の提出期限を令和2年8月5日まで延長する申請を「本件期限延長申請」という。)。 - ハ G税務署長は、上記ロと同日に、本件期限延長申請を承認し(以下「本件延長承認」という。)、本件青色申請書は提出期限内に提出された申請書となった。
なお、G税務署長は、令和2年12月31日までに本件青色申請の承認又は却下の処分を行わなかったことから、所得税法第147条の規定により本件青色申請は承認があったものとみなされた。 - ニ 請求人が、e-Taxにより受信した令和2年分の「確定申告等についてのお知らせ」と題するG税務署長からのお知らせには、令和3年1月12日時点の請求人に係る情報として、「申告の種類」欄に「青色」と表示されていた。
- ホ 請求人は、令和2年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出を本件税理士に依頼し、令和3年4月15日、本件税理士は、請求人の同年分の所得税等の確定申告書について別表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、e-Taxを利用して代理送信により原処分庁へ提出した(以下、本件確定申告書に係る申告を「本件確定申告」という。)。
また、本件確定申告書に添付された所得税青色申告決算書(一般用)には、本件機器の取得価額として合計268,960,000円、所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項に規定する償却費の額として合計5,603,332円及び租税特別措置法第10条の5の3(令和3年法律第11号による改正前のもの。)《特定中小事業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除》第1項に規定する特別償却限度額(以下、同項に規定する特別償却限度額に係る償却を「本件特別償却」という。)として合計263,356,668円の記載があり、本件機器の取得価額の合計額に相当する金額が事業所得の必要経費に算入されていた。
なお、本件特別償却の適用に当たっては、青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法(令和2年法律第58号による改正前のもの。)第19条《経営力向上計画の認定》第1項に規定する経営力向上計画の認定を受けた同法第2条《定義》第2項に規定する中小企業者等に該当するものであることなどが要件とされている。 - ヘ 請求人は、令和3年7月2日、納税地をa県e市f町○−○から肩書地に異動する旨の届出書をG税務署長に提出した。
- ト 原処分庁は、令和2年分の所得税等について、予定納税額に誤りがあるとして、令和3年10月29日付で、別表の「更正処分」欄のとおり減額の更正処分をした。
- チ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員による調査に基づき、令和4年3月10日付で、請求人が令和2年4月16日までに本件青色申請書を提出できなかったことについて、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由」があったとは認められないとして、本件延長承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をした。これにより、本件青色申請書は提出期限後に提出された申請書となったため、原処分庁は、本件取消処分と同日付で、令和2年分の所得税等の確定申告書は青色の申告書以外の申告書であるとして、別表の「再更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件再更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
- リ 請求人は、令和4年3月17日、本件再更正処分により納付することとなった所得税等についてその全額を納付し、それにより確定した令和2年分の所得税等に係る延滞税〇〇〇〇円(以下「本件延滞税」という。)を同年4月11日に納付した。
- ヌ 請求人は、本件取消処分、本件再更正処分及び本件再更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、令和4年6月10日に再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、令和4年10月18日付で、別表の「再調査決定」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分の一部取消しの再調査決定をし(以下、再調査決定によりその一部が取り消された後の過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)、その決定書謄本を請求人に対し令和4年10月25日に送達した。
- ル 請求人は、本件取消処分、本件再更正処分及び本件賦課決定処分並びに本件延滞税に不服があるとして、令和4年11月24日に審査請求をした。
2 本件延滞税の取消しを求める審査請求の適法性について
請求人は、本審査請求において、本件延滞税の取消しを求めているが、延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項及び通則法第60条《延滞税》の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
したがって、本件延滞税の取消しを求める審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらずされたものであって、不適法なものである。
3 争点
(1) 本件取消処分は適法か否か。具体的には、本件延長承認が、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由により、申告等をその期限までにすることができないと認めるとき」に該当しないにもかかわらずされたものであるか否か。
(2) 本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。
4 争点についての主張
(1) 争点1(本件取消処分は適法か否か。具体的には、本件延長承認が、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由により、申告等をその期限までにすることができないと認めるとき」に該当しないにもかかわらずされたものであるか否か。)について
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
次のとおり、本件延長承認は、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由により、申告等をその期限までにすることができないと認めるとき」に該当しないにもかかわらずされたものであるから、本件取消処分は適法である。 | 次のとおり、本件延長承認は、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由により、申告等をその期限までにすることができないと認めるとき」に該当するからされたものであり、本件取消処分は違法である。 |
イ 国税庁の発表内容において、期限の個別延長により令和2年4月17日以降であっても所得税の青色申告承認申請書を提出することが可能としているのは、同月16日までに同申請書を提出することが困難な場合とされているところ、請求人が本件青色申請書を期限までに提出できなかった具体的な理由が明らかではない。 | イ 国税庁の発表内容によれば、令和2年4月16日以前に令和元年分の所得税等の確定申告書を提出した者についても、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により外出を控えるなど、同日までに所得税の青色申告承認申請書を提出することが困難な場合には、同月17日以降であっても、同申請書を提出することが可能であるとされていた。 |
ロ 請求人は、令和2年1月31日から同年5月31日にかけて、事業上の外出を複数回行っていたことから、税務署の窓口に直接提出したり、時間外収受箱に投かんしたりすることも可能であった。 また、K税務署の総合窓口が一時閉鎖されていた時間帯はあるものの、その時間帯を除けば、令和2年4月16日までに本件青色申請書を提出することは可能であった。 |
ロ 請求人は、H社の在宅勤務体制への移行により令和2年2月18日以降は在宅勤務をしており、また、緊急事態宣言やP県からの外出自粛要請により、週1回の必要最低限の外出を除き外出を自粛していた。このほか、新型コロナウイルス感染症の感染を理由にK税務署の総合窓口が一時閉鎖されていた。 |
ハ 請求人が令和2年8月5日に本件青色申請書を提出したのは、「災害その他やむを得ない理由」により本来の期限までに提出できなかったのではなく、本来の期限後に、M社との間でされた本件機器の取得による節税に関するやり取りを契機としたものであることが強く推認される。 |
ハ 請求人は、もともと仮想通貨事業に精通しており、令和2年中に収入が大幅に増えることは令和元年の確定申告期限前に分かっていたことであり、マイニング事業に転身していくことも令和2年の年初以前から考えていた計画である。 また、本件青色申請書の提出が令和2年8月5日になったのは、本件機器の取得による節税を意図したものではなく、上記イの国税庁の発表内容からすれば、令和2年4月17日以降の提出でも問題ないと考えたためである。 |
ニ 請求人は、本件税理士に依頼し、令和元年分の確定申告書をその提出期限である令和2年4月16日に提出しており、同じ日付を期限とする本件青色申請書についても、本件税理士に依頼し、又は請求人自身で作成して郵送することも可能であった。 現に、請求人は自ら作成した本件青色申請書を令和2年8月5日にK税務署に持参して提出しており、同年4月16日において本件青色申請書を自身で作成できなかったと認められる事情もない。 |
ニ 令和元年分の確定申告については、本件税理士にスポットでの依頼をしているものであって、本件税理士に青色申告承認申請書の提出を追加で依頼することで経済的な負担を請求人に強いることまで税務署が介入することは不自然である。 また、G税務署長は、本件青色申請書を確認、受理しておきながら、2年以上経過した後になってより具体的な理由を求めるのは合理的ではない。 |
(2) 争点2(本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について
請求人 | 原処分庁 |
---|---|
本件確定申告が過少申告となったのは、![]() ![]() |
請求人は、「災害その他やむを得ない理由」がなかったにもかかわらず、当該理由があったものとして本件青色申請書を期限後に提出し、これに基づいて本件確定申告をしたところ、請求人の本件青色申請書は適正に認められたものと認識していた旨の主張は、請求人の税法の不知又は法令解釈の誤解という主観的な事情にすぎず、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しない。 |
5 当審判所の判断
(1) 争点1(本件取消処分は適法か否か。具体的には、本件延長承認が、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由により、申告等をその期限までにすることができないと認めるとき」に該当しないにもかかわらずされたものであるか否か。)について
- イ 法令解釈等
- (イ) 個別の根拠規定によらない職権による取消しは、法律による行政の原理の回復であるため、特段の法的根拠は必要なく、原処分の根拠規定に含まれていると解される。そして、一般に、その取消しにより名宛人の権利又は法律上の利益が害される行政庁の処分につき、当該処分がされた時点において瑕疵があることを理由に当該行政庁が職権でこれを取り消した場合において、当該処分を職権で取り消すに足りる瑕疵があるか否かが争われたときは、この点に関する審理判断は、当該処分がされた時点における事情に照らし、当該処分に違法又は不当(以下「違法等」という。)があると認められるか否かとの観点から行われるべきものであり、そのような違法等があると認められないときには、行政庁が当該処分に違法等があることを理由としてこれを職権により取り消すことは許されず、その取消しは違法となるというべきである。
そして、本件取消処分は、個別の根拠規定がない職権による取消しに該当することから、本件取消処分の適否の判断に当たっては、本件延長承認がされた時点における事情に照らし、本件延長承認に違法等が認められるか否かを審理判断すべきであり、具体的には、本件延長承認が通則法第11条に適合するものであったか否かを検討すべきである。 - (ロ) 通則法第11条は、税務署長は、災害その他やむを得ない理由により、申告等の行為をその期限までにすることができないと認めるときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、当該期限を延長することができる旨規定しているところ、「災害」とは、自然災害のほか、火災、ガス爆発等の人為的災害を含み、「その他やむを得ない理由」とは、交通、通信の途絶その他社会通念上、申告等の行為ができないと認められる真にやむを得ない理由、すなわち、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づく理由であることを要し、その申請者の責めによって申告等の行為ができないと認められる主観的な理由はこれに含まれないと解するのが相当である。
- (ハ) 青色申告の承認の申請は、事業所得等を生ずべき業務を行う居住者が、その年分以後の各年分の所得税につき税務署長から青色申告の承認を受けようとするときにするものであり、青色申告の承認を受けることができる居住者が青色申告の承認の申請をするか否かは、その居住者の選択に委ねられている。
- (ニ) 本件延長承認は、上記1の(4)のロのとおり、「新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で提出が遅れました」と記載されていた本件期限延長申請を受けて、これを承認したものであったところ、上記(イ)ないし(ハ)を踏まえると、本件延長承認が通則法第11条に適合するものであったか否かの検討においては、本件青色申請をその期限までにすることができなかった理由を特定した上で、当該理由が「災害その他やむを得ない理由」に該当するか否かが問題となる。
- (イ) 個別の根拠規定によらない職権による取消しは、法律による行政の原理の回復であるため、特段の法的根拠は必要なく、原処分の根拠規定に含まれていると解される。そして、一般に、その取消しにより名宛人の権利又は法律上の利益が害される行政庁の処分につき、当該処分がされた時点において瑕疵があることを理由に当該行政庁が職権でこれを取り消した場合において、当該処分を職権で取り消すに足りる瑕疵があるか否かが争われたときは、この点に関する審理判断は、当該処分がされた時点における事情に照らし、当該処分に違法又は不当(以下「違法等」という。)があると認められるか否かとの観点から行われるべきものであり、そのような違法等があると認められないときには、行政庁が当該処分に違法等があることを理由としてこれを職権により取り消すことは許されず、その取消しは違法となるというべきである。
- ロ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。- (イ) 請求人は、上記1の(3)のイのとおり、エンジニアリング兼コンサルタント業を行っていたところ、平成27年分、平成30年分及び令和元年分にも事業所得を有しており、いずれの年分も当該所得について青色の申告書以外の申告書を提出していた。
- (ロ) M社は○○○○(以下、M社が推奨するスキームを「最先端マイニング節税」という。)。
- (ハ) 請求人は、令和2年8月4日、M社の執行役員であったQ氏から、「【先ほどはお話しいただき有難うございました/M社Q】」との件名で、要旨次の内容の電子メールを受信するとともに、メールに添付されている「最先端マイニング節税について」等の各種資料を受領した。
- A 先ほど話をさせていただきましたM社のQでございます。
- B サービス資料を添付いたします。ご確認のほど宜しくお願いいたします。
- (A) 最先端マイニング節税について
- (B) 技術・サポート資料
- (C) 顧客管理画面イメージ
- (ニ) Q氏は、令和2年8月7日、経営力向上計画の取得手続を行うR税理士法人のS税理士に対し、「【新規ご依頼】E様」との件名で、要旨次の内容の電子メールを送信した。
- A 一括償却の新規お客様のご依頼です。
- B 一括償却が問題なく申請できるか分かってから契約に進みたいそうです。
- C ストックオプションにて利益が出ていると聞いています。
- D 今回一括償却と通常の顧問契約を希望されております。
- (ホ) S税理士は、令和2年8月7日、請求人に対し、「即時償却のお手続について」との件名で、要旨次の内容の電子メールを送信した。
- A M様からご連絡いただきまして、メール差し上げております。
- B 弊事務所は、M様のマイニングマシンの即時償却に必要となる経営力向上計画の取得手続を行っております。
- (ヘ) 上記(ホ)に対し請求人は、令和2年8月8日、S税理士に対し、昨年までは白色申告だったが、今年分の申告に関しては、青色申告承認申請書を提出済みである旨の電子メールを返信した。
- ハ 請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかった理由について
客観証拠である上記ロの(ハ)ないし(ヘ)の電子メールの内容及び客観状況である上記1の(4)のロの本件青色申請の経緯等からすれば、請求人が本件青色申請をその期限である令和2年4月16日までにすることができなかった理由は、以下のとおり認められる。
すなわち、上記ロの(イ)のとおり、請求人は平成27年分、平成30年分及び令和元年分にもエンジニアリング兼コンサルタント業による事業所得を有していたが、令和元年分までは青色申告の承認の申請をしてこなかったところ、請求人が、令和2年分については、上記ロの(ハ)のとおり、Q氏から令和2年8月4日に「サービス資料を添付いたします。ご確認のほど宜しくお願いいたします。」旨の電子メール及び同メールに添付された最先端マイニング節税の資料を受信し、その翌日である同月5日に本件青色申請をした上で、上記ロの(ヘ)のとおり、同月8日には、S税理士に対し、電子メールで「昨年までは白色申告でしたが、今年分の申告に関しては、青色申告承認申請書を提出済みです。」旨返信したこと、上記ロの(ニ)のとおり、Q氏が、同月7日に、S税理士に対し、「一括償却の新規のお客様からのご依頼です。」、「一括償却が問題なく申請できるか分かってから契約に進みたいそうです。」、「ストックオプションにて利益が出ていると聞いています。」旨の電子メールを送信したことからすれば、同月4日頃に初めて、請求人がM社から最先端マイニング節税に関する説明を受け、最先端マイニング節税による本件特別償却ができるようにするために青色申告の承認を受ける必要が生じ、その翌日である同月5日に本件青色申請をしたと認められる。
このことは、上記1の(4)のイのとおり、請求人が、本件青色申請の期限と同一の期限であった令和元年分の所得税等の確定申告については、実際にe-Taxを利用した本件税理士による代理送信により申告をしており、本件青色申請をその期限までにすることが物理的に不可能であったわけではなかったというべき事情からも裏付けられているといえる。
また、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が最先端マイニング節税による本件特別償却以外に、令和2年分の所得税につき青色申告の承認を受けようとする具体的な事情があったとは認められない。
そうすると、請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかったのは、当該期限の後になって、最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由によるものであり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由とするものではなかったというべきである。 - ニ 検討
- (イ) 上記イのとおり、本件取消処分の適否の判断に当たっては、本件延長承認が通則法第11条に適合するものであったか否かを検討すべきであり、これについては、上記ハで特定した本件青色申請をその期限までにすることができなかった理由が「災害その他やむを得ない理由」に該当するか否かが問題となるため、以下検討する。
- (ロ) 上記ハのとおり、請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかったのは、当該期限の後になって、最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由によるものであったと認められる。
- (ハ) そこで、請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかった上記(ロ)の理由について、通則法第11条に規定された「災害その他やむを得ない理由」に該当するか否かを検討するに、上記イの(ロ)で述べたとおり、「災害その他やむを得ない理由」とは、客観的にみて申告等の行為が物理的に不可能であることに直接因果関係を有する事実に基づく理由であることを要するところ、本件青色申請の期限の後になって最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由は、請求人の主観的な理由そのものというべきである。
- (ニ) したがって、請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかったことについて、通則法第11条に規定する「災害その他やむを得ない理由」はなかったと認められ、本件延長承認は同条に適合しないにもかかわらずされたものであるから職権により取り消し得るものといえる。また、職権により取り消し得る場合であっても、取り消す処分が本件延長承認のような授益処分である場合には、信頼保護の見地から一定の場合に職権による取消しは制限されるものの、本件のように事実とは異なる理由を記載して本件延長承認がなされたという事実関係の下においては、これを取り消した本件取消処分は適法である。
- ホ 請求人の主張について
- (イ) 請求人は、上記4の(1)の「請求人」欄のロのとおり、令和2年2月18日以降は在宅勤務をしていたこと、緊急事態宣言やP県からの外出自粛要請を受けて外出を自粛していたこと及びK税務署の総合窓口が一時閉鎖されていたことを掲げ、これらは「災害その他やむを得ない理由」に該当する旨主張する。
しかしながら、上記ハのとおり、請求人が本件青色申請をその期限までにすることができなかったのは、当該期限の後になって、最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由によるものであり、請求人が上記主張で指摘する各事情に係る理由により本件青色申請をその期限までにすることができなかったとは認められない。
したがって、請求人の主張には、理由がない。 - (ロ) 請求人は、上記4の(1)の「請求人」欄のハのとおり、令和2年の年初以前からマイニング事業に転身することを考えており、本件青色申請書の提出が令和2年8月5日になったのは、本件機器の取得による節税を意図したものではなく、「災害その他やむを得ない理由」によるものである旨主張する。
しかしながら、上記ハのとおり、客観証拠である電子メールの内容及び客観状況である本件青色申請及び本件期限延長申請がされた経緯等からすれば、請求人が、令和2年8月4日頃に初めてM社から最先端マイニング節税に関する説明を受け、最先端マイニング節税による本件特別償却ができるようにするために青色申告の承認を受ける必要が生じ、その翌日である同月5日に本件青色申請をしたと認められる。
したがって、請求人の主張には、理由がない。 - (ハ) 請求人は、上記4の(1)の「請求人」欄のニのとおり、G税務署長は本件青色申請書を確認、受理しておきながら、2年以上経過して具体的な理由を求めるのは合理的ではない旨主張する。
この点、本件延長承認がされて本件青色申請書の提出を受けたのは、請求人が本件青色申請書に「新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で提出が遅れました」と付記して本件期限延長申請をしたことに起因するものであるところ、その後の調査等に基づいて行われた本件取消処分が適法であることは上記ニのとおりであり、請求人が主張する本件青色申請書の提出から2年以上経過している事実は、本件延長承認が通則法第11条に適合するか否かの判断に関わるものではない。
したがって、請求人の主張には理由がない。 - (ニ) このほか、請求人は、上記4の(1)の「請求人」欄のイ及びニのとおり、本件青色申請書を令和2年4月17日以後に提出したのは国税庁の発表内容を信じた結果、問題ないと考えたからである旨及び本件税理士に青色申告承認申請書の提出を追加で依頼することで経済的な負担を請求人に強いることは不自然である旨、主張する。
しかしながら、国税庁の発表内容は、申告等の期限徒過が感染拡大による外出自粛を理由とするものであれば通則法第11条に該当するという趣旨のものであり、請求人のように、申告等の提出期限の後になって、最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由による申請を許す趣旨のものでないことは明らかであるし、本件税理士に青色申告承認申請書の提出を依頼することは、請求人の判断に委ねられる事項であり、原処分庁は対応の一つとして示したにすぎないから、請求人の主張には理由がない。
- (イ) 請求人は、上記4の(1)の「請求人」欄のロのとおり、令和2年2月18日以降は在宅勤務をしていたこと、緊急事態宣言やP県からの外出自粛要請を受けて外出を自粛していたこと及びK税務署の総合窓口が一時閉鎖されていたことを掲げ、これらは「災害その他やむを得ない理由」に該当する旨主張する。
(2) 争点2(本件確定申告が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項柱書及び同項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。)について
- イ 法令解釈
通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
上記の過少申告加算税の趣旨に照らせば、過少申告があっても、例外的に過少申告加算税が課されない場合として通則法第65条第4項第1号が定めた「正当な理由があると認められる場合」とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。 - ロ 検討
本件確定申告が過少申告となった経緯についてみると、上記(1)のハのとおり、請求人が本件青色申請をその期限までにできなかったのは、実際には、当該期限の後になって最先端マイニング節税による本件特別償却のために青色申告の承認を受けようとしたという理由によるものであったにもかかわらず、本件青色申請書に「新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で提出が遅れました」などと記載して本件期限延長申請をすることにより本件延長承認を受け、その後、本件取消処分により、請求人は確定申告書を青色の申告書により提出することができないこととなったことから本件機器に係る本件特別償却を必要経費に算入することができなくなったことにより、本件確定申告が過少申告となったというものである。
そうすると、請求人は、事実と異なる理由を記載した本件期限延長申請により本件延長承認を受け、さらに、本件青色申請をすることで令和2年分の所得税の青色申告の承認を受けて、本件機器に係る本件特別償却を必要経費に算入した本件確定申告をしたのであるから、請求人の責めに帰すべき事情により過少申告となったというべきであり、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告の趣旨に照らしても、なお、請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するとはいえない。
したがって、本件確定申告が過少申告になったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しない。 - ハ 請求人の主張について
請求人は、上記4の(2)の「請求人」欄のとおり、本件確定申告が過少申告となったのは、令和2年8月5日にK税務署に本件青色申請書が無事に受理され、確定申告前に届くお知らせに令和2年分は青色申告の適用がある旨が表示されていたことから、本件青色申請書が適正に認められたものと認識していたこと、
令和4年3月10日付でされた本件取消処分が分かるまでのおよそ1年7か月の間、当該事実を知らされなかったことが原因である旨主張する。
しかしながら、請求人の主張する上記及び
の各事情は、要するに、本件確定申告の当時は本件青色申請書が受理されていたことを指摘するものであるところ、本件延長承認がされて本件青色申請書が受理されたのは、上記ロのとおり、請求人が本件青色申請書に「新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛の影響で提出が遅れました」などと、事実とは異なる記載をして本件期限延長申請をしたという請求人の責めに帰すべき事情によるものである以上、請求人の主張する各事情をもって、真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があったということはできない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(3) 原処分の適法性について
- イ 本件取消処分について
上記(1)のニのとおり、本件延長承認は通則法第11条に適合しないものであるから、これを取り消した本件取消処分は適法である。 - ロ 本件再更正処分について
請求人は、上記1の(4)のロのとおり、令和2年8月5日に本件青色申請をしているところ、同ハのとおり、G税務署長が同年12月31日までに本件青色申請の承認又は却下の処分を行わなかったことから、一旦、所得税法第147条の規定に基づき本件青色申請は承認があったものとみなされたのであるが、同法第144条に規定する法定の提出期限は、青色申告の承認の申請の適法要件であるので、同法第147条において青色申告承認申請書の提出があった場合とは、青色申告承認申請書が法定の提出期限内に提出された場合を前提にしていると解するのが相当であり、青色申告承認申請書の提出が法定の提出期限に遅れた場合には、同条に規定するみなし承認を適用する余地はないところ、上記(1)のニの(ニ)のとおり、請求人に通則法第11条が適用されない以上、本件青色申請は提出期限に遅れたものとなり、本件青色申請は承認があったものとみなされることはない。そうすると、本件確定申告書は青色申告書以外の申告書と認められる。
そして、これに基づき算出した請求人の令和2年分の所得税等に係る事業所得の金額、総所得金額及び所得税等の納付すべき税額は、別表の「再更正処分等」欄のとおりとなり、当審判所においても、本件確定申告に係る所得税等の額は本件再更正処分における所得税等の額と同額であると認められる。
また、本件再更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
したがって、本件再更正処分は適法である。 - ハ 本件賦課決定処分について
上記ロのとおり本件再更正処分は適法であり、上記(2)のロのとおり、本件再更正処分による納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件再更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しない。
そして、当審判所においても、本件再更正処分に係る過少申告加算税の額は、本件賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
したがって、本件賦課決定処分は適法である。
(4) 請求人のその他の主張について
請求人は、令和3年分の所得税等について青色申告書以外の申告書により申告しているところ、当審判所に対し令和3年分の所得税について青色申告の適用を求めるが、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であるから、青色申告の適用に係る主張は、当審判所の権限に属さず審理の限りではない。
(5) 結論
よって、原処分に対する審査請求は理由がないからこれを棄却し、その他の審査請求は不適法なものであるからこれを却下することとする。
別表 審査請求に至る経緯(省略)