(令和5年12月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の職員の調査を受けて、法人税等及び消費税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の売上げの計上漏れについては、隠蔽又は仮装の事実が認められるとして法人税及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装に該当する事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定している。
  • ロ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、平成29年1月○日に建築工事等を目的として設立された法人であり、設立時の代表取締役はG、取締役はEであった。
    • (ロ) Eは、令和4年11月30日に代表取締役を辞任したGに代わり、同日、代表取締役に就任した。
  • ロ 原処分に係る調査の状況について
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、令和4年8月31日、請求人の令和2年1月1日から令和2年12月31日まで及び令和3年1月1日から令和3年12月31日までの各事業年度(以下、順次「令和2年12月期」、「令和3年12月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税、令和2年1月1日から令和2年12月31日まで及び令和3年1月1日から令和3年12月31日までの各課税事業年度(以下、順次「令和2年12月課税事業年度」、「令和3年12月課税事業年度」といい、これらを併せて「本件各課税事業年度」という。)の地方法人税並びに令和2年1月1日から令和2年12月31日まで及び令和3年1月1日から令和3年12月31日までの各課税期間(以下、順次「令和2年12月課税期間」、「令和3年12月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
    • (ロ) 請求人は、本件調査において、本件調査担当職員から、請求人が請け負った別表1の工事7件(以下「本件各工事」という。)について、帳簿に記載されておらず、売上げとして計上されていない旨の指摘を受けた。なお、本件各工事に係る売上金額(税込み)は、別表1のとおり、令和2年12月期が4件で○○○○円、令和3年12月期が3件で○○○○円であり、合計○○○○円(以下「本件工事代金」という。)である。
    • (ハ) 請求人は、本件調査担当職員から、現金で受領した本件工事代金を総勘定元帳に計上せず、受領した金員をEが個人的に費消したことを認める旨の書面の提出を求められ、当該書面の文案を示された。そこで、請求人は、令和4年11月17日、本件調査担当職員から示された文案に修正を加えた「申立書」と題する書面(以下「本件申立書」という。)を作成し、原処分庁に提出した。
       本件申立書には、Eの署名と代表取締役印が押印され、要旨、次のとおり記述されていた。  
      • A 本件工事代金については、Eが現金で受領した際、領収証の発行を失念したことから、売上げに計上するための原始記録がなく、帳簿に記載することができなくなり、総勘定元帳に計上していなかった。
      • B 本件工事代金として受領した金員の管理が不十分であったため、どのようにしたか分からないが、個人的に費消したと思われても仕方がない。
      • C 売上げに計上していなかったのは、当社の書類の整理がずさんであったために起きてしまったことだが、悪気がないということを理解していただきたい。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税について、青色の確定申告書にそれぞれ別表2及び別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
     なお、法人税の各確定申告書に添付された損益計算書の「完成工事高」には、令和2年12月期は○○○○円、令和3年12月期は○○○○円と記載されていた。
  • ロ 請求人は、本件各課税期間の消費税等の確定申告書に別表4の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ハ 請求人は、本件調査担当職員から上記(3)のロの(ロ)のとおり指摘を受けたことから、令和4年11月30日、本件各事業年度の法人税、本件各課税事業年度の地方法人税及び本件各課税期間の消費税等について、別表2から別表4までの「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書(以下「本件各修正申告書」といい、このうち法人税の各修正申告書を「本件法人税各修正申告書」という。)を提出した。
     なお、請求人は、本件法人税各修正申告書において、本件各工事に係る売上計上漏れの処分として、社外流出欄に賞与と記載している。
  • ニ 原処分庁は、令和4年12月16日付で本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、本件各賦課決定処分に係る各賦課決定通知書(以下「本件各通知書」という。)には、処分の理由として、要旨、次のとおり記載されていた。
    • (イ) 別表1の売上げは、請求人の専務取締役であるEが現金で受領したこと
    • (ロ) Eは、当該売上げに係る原始資料を作成、保管しなかったこと
    • (ハ) 請求人が記帳代行を委託しているH商工会に当該売上げを報告しないことにより、総勘定元帳に計上せず、益金の額に算入しなかった、又は課税標準額に計上しなかったこと
    • (ニ) 上記(イ)から(ハ)までのとおり、仮装又は隠蔽の事実が認められたため、通則法第68条の規定により計算した重加算税を賦課決定したこと
  • ホ 請求人は、上記ニの処分に不服があるとして、令和5年1月12日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か(争点1)。

(2) 請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件各賦課決定処分の理由には、原処分における課税要件となる法令と当該法令に係る事実関係が記載されていることから、請求人は原処分庁の判断過程を検証することは可能であり、原処分庁は請求人に対し、不服の申立てのために必要な材料を提供している。
 したがって、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備はない。
処分理由の記載については、重加算税の賦課要件である「隠蔽又は仮装」の事実について、納税者がその意思に基づき売上除外など特定の事実を隠匿し、あるいは脱漏した事実を記載する必要があるところ、本件各賦課決定処分の理由は、本件工事代金について、計上漏れとなった経緯を外形的に記載しているだけで、故意に売上げを除外したという事実の記載を欠いており、理由の提示に明白な不備がある。

(2) 争点2(請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のとおり、請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実がある。 次のとおり、請求人に「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実がない。
イ Eは、本件工事代金に係る見積書又は請求書を作成した上で、取引先から本件工事代金を現金で受領していたにもかかわらず、取引先に対して領収証を発行せずに、本件工事代金を売上げに計上するための領収証の控えも保存していない。 イ Eは、領収証を持参していない時に別の用件で取引先を訪問した際に本件工事代金を現金で受領したが、金額も大きくないため、その後、領収証の作成を失念したものである。
ロ Eは、本件工事代金に係る金員について「請求人の費用に充てたとも思えず、個人的に使ってしまったかもしれない」旨を申述し、また、本件申立書には「どのようにしたか分からないが、個人的に費消したと思われても仕方がない」旨を記述している。
 そして、本件法人税各修正申告書には、売上計上漏れの処分の社外流出欄に、賞与と記載されていることに加え、請求人は本件工事代金について、請求人がEに対して支給した給与であるとして、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税を納付していることから、Eは、取引先から現金で受領した本件工事代金について、個人的に費消したと認められる。
ロ 本件申立書において、Eが「個人的に費消したと思われても仕方がない」と記述したことについては、受領した金員は私的に費消したものではなく、請求人の支払か何かに充てたのではないかと思うが、証明もできないので、Eが私的に費消したと思われても仕方がないという意味で記述した。
 なお、役員賞与は上記のとおり、本件工事代金の使途について、請求人の支払に充てた分もあると思うが詳しいことまでは覚えておらず、経費の支払を証明することができなかったため、Eが個人的に費消したものと推認されてもやむを得ないとして甘受したもので、「隠蔽又は仮装」の存否とは別異のものである。
ハ 請求人は、本件工事代金を受領した事実を日計帳に記載せずに総勘定元帳にも計上しておらず、現金で受領した本件工事代金をEが個人的に費消していることからも、請求人が主張するような単なる事務処理上の誤りとは認められない。
 これは、国税庁長官発遣の「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課法2−8ほか3課共同)(以下「本件事務運営指針」という。)の第1の1の(2)の3の帳簿書類への記録をせず、売上げの脱漏をしている場合に該当し、通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」に該当する。
ハ 本件工事代金は、請求人のチェック体制の不備などを原因とする事務処理上の誤りにより売上げの計上が漏れたと認めるのが相当であり、意図的に売上げを除外したとは認められない。
 なお、本件事務運営指針は、行政機関の内部規定であって、その運用に当たっては、法令の規定の趣旨に沿い、具体的な事実関係や証拠を正確、かつ、客観的に精査し総合的に判断すべきところ、原処分庁は、事実関係全般を軽視し、帳簿書類への記録がないという事実を短絡的に捉え結論付けているものといわざるを得ない。
ニ Eは、請求人の現金管理及び経理の全てを行っており、本件工事代金を受領しているのであるから、本件工事代金を受領した時点において、これが請求人に帰属する金員であることを十分に認識しているにもかかわらず、上記ロ及びハのとおり、日計帳に記載することなく、個人的に費消していることが認められる。そして、請求人は、Eが本件工事代金を個人的に費消したことについて、請求人からEに対して簿外資金をもって役員賞与を支出したとして追認し、これに基づいた本件法人税各修正申告書を提出していることから、これらの行為は故意に行われたと認められる。 ニ Eは、本件工事代金が計上漏れとなったことについての明確な記憶がないことから、領収証の発行を失念したことが原因であると思うとして、売上げの計上漏れを容認したものにすぎない。
 したがって、「隠蔽又は仮装」の故意は存在しない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第14条第1項は、国税に関する法律に基づき行われる処分についても適用があり、同項本文により、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、当該不利益処分の理由を示さなければならない。
     そして、行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁)ところ、不利益処分の理由の提示については、上記の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものであれば、不備はないものと解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
     これを本件についてみると、上記1の(4)のニのとおり、本件各通知書に記載された本件各賦課決定処分の理由として、別表1に記載された売上げを請求人の専務取締役であるEが受領したにもかかわらず、その原始資料の作成や保管をせずに、請求人が記帳代行を委託するH商工会に報告しなかったことにより総勘定元帳に計上されていなかったことが通則法第68条に規定する仮装又は隠蔽の事実と認められた旨が記載されており、これらの記載内容に照らせば、本件各賦課決定処分の理由となった事実等を具体的に示しているというべきであり、行政庁の判断の慎重と合理性を担保するという点について欠けるところはなく、恣意抑制という趣旨目的を損なうことはないというべきである。さらに、不服申立ての便宜という面からの要請に対しても、必要な材料を提供するものということができるものである。
     これらによれば、本件各通知書に記載された処分の理由は、理由提示の趣旨目的を充足する程度に処分の理由を具体的に明示したものと認めることができ、行政手続法第14条第1項本文の要求する理由提示として不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件各通知書には、本件工事代金が計上漏れとなった経緯を外形的に記載しているだけで、故意に売上げを除外したという事実の記載が欠けていることから、本件各賦課決定処分には理由の提示の不備がある旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、本件各通知書には、Eが、別表1に記載された売上げを受領したにもかかわらず原始資料の作成や保存をしなかったことや、記帳代行を委託するH商工会に報告しなかったことにより、総勘定元帳に計上しなかった旨が記載されており、請求人が故意に売上げを除外した事実が記載されていると認められる上、本件各通知書に記載された本件各賦課決定処分の理由は、行政手続法第14条第1項本文の趣旨を充足する程度に具体的に明示され、理由の提示として欠けるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿あるいは故意に脱漏することをいい、「仮装し」とは、所得、財産、あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲することをいうものと解される。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人の現金管理と経理は、全てEが行っている。
    • (ロ) 請求人は、通常、売上代金を現金で受領した際に取引先に対して領収証を発行し、その控えを保管している。
    • (ハ) 請求人は、現金の入出金等について日計帳に記録しており、当該日計帳の作成をEの知人に依頼している。Eは、当該日計帳の作成に当たり、預金通帳、上記(ロ)の領収証の控え、経費に係る領収証及びレシートをその年の12月と翌年1月に知人へ引き渡している。
    • (ニ) 請求人は、H商工会に記帳代行を委託し総勘定元帳を作成しており、預金通帳、上記(ロ)の領収証の控え、上記(ハ)の日計帳、経費に係る領収証及びレシートを1年分まとめてH商工会へ引き渡している。
    • (ホ) 請求人の本件各事業年度における本件各工事以外の工事には、各売上金額が1,000万円を超えるものも多くあり、これらと比較すると、本件各工事の各売上金額はいずれも低額の部類に属する。
  • ハ 検討及び原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、Eが、本件工事代金を請求人に帰属する金員であると認識して受領した上で、その受領につき日計帳や総勘定元帳などの帳簿に記載せず、個人的に費消したと認められ、当該費消について、請求人が、本件法人税各修正申告書において、本件工事代金をEに対し役員賞与として支出したとして追認していることからも、これらの行為は故意により行われたと認められる旨主張する。
    • (ロ) この点、請求人は、上記ロの(ロ)のとおり、通常、売上代金を現金で受領した際に、取引先に領収証を発行して、その控えを保管し、同(ハ)のとおり、現金の入出金等については、領収証の控えなどをまとめてEの知人へ引き渡して、日計帳の作成を依頼して作成していた上、同(ニ)のとおり、日計帳や領収証の控えなどを1年分まとめて総勘定元帳の作成を委託しているH商工会へ引き渡して作成しているところ、領収証の控えが存在しながら故意に日計帳に記載がされず、総勘定元帳に計上がされなかったことをうかがわせる証拠はない。
       そうすると、本件工事代金が日計帳に記載されず、総勘定元帳に計上されていなかったのは、上記の通常の場合とは異なり、請求人が、本件工事代金に係る領収証を故意又は過失により発行しなかったか、その控えを故意又は過失により破棄したことによるものと認められる。
    • (ハ) そして、本件工事代金の領収証を発行しなかったことについては、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、Eが領収証の発行を失念した旨の記述のある本件申立書があるものの、同記述からは、同人が、過失により本件工事代金について領収証の発行を行わなかった事実が認められるだけで、同人が、故意に本件工事代金に係る領収証を発行しなかった事実まで認められるものではない。
       また、上記1の(3)のロの(ロ)及び1の(4)のイのとおり、本件工事代金は、令和2年12月期が○○○○円、令和3年12月期が○○○○円であって、請求人の本件各事業年度における売上高の0.2%弱にとどまり、その余の売上げに係る所得は確定申告がされていたのであるから、請求人が確定申告において過少に申告した所得の額や割合が、本件工事代金を故意に計上しなかったことを推認させる事情とはならない上、ほかの工事代金については領収証の作成や帳簿への記載がなされる一方で、本件工事代金についてのみ領収証の作成や帳簿への記載がなされなかったことが意図的なものであるとうかがい得るような規則性・共通性なども見いだし難い。
       そのほか、請求人が、本件工事代金について、故意に領収証を発行しなかったこと、あるいは、領収証を作成しながらその控えを故意に破棄したことなどにより、故意に帳簿に記載しなかったことを裏付ける証拠は見当たらない。
    • (ニ) また、Eが本件工事代金として取引先から受領した金員について、個人的に費消した旨や、請求人が、本件法人税各修正申告書において、本件工事代金をEに対し役員賞与として支出したとして同費消を追認した旨の原処分庁の主張についても、確かに、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、本件申立書には、本件工事代金として受領した金員の使途が不明であるためにEが個人的に当該金員を費消したと思われても仕方ない旨の記述があり、また、請求人は、本件法人税各修正申告書において、本件工事代金の処分として社外流出欄に賞与と記載している。
       しかしながら、これらの記述などからは、Eが、取引先から受領した本件工事代金の使途が不明であることから個人的な費消として取り扱われてもやむを得ない旨を同人が事後的に承諾したことや、請求人も事後的に売上計上漏れと判明した本件工事代金相当額についてEに対する賞与の取扱いとしたことが認められるとしても、Eが、手元にある現金を本件工事代金であると認識した上で個人的に費消したとまで認められるものではない。
       確かに、Eは請求人の現金管理及び経理の全てを行っており、自ら本件工事代金を取引先から受領しているから、同人は、本件工事代金に係る現金を受領した時点では、それが請求人に帰属する金員であると認識していたとしても、上記(ハ)のとおり、Eが故意に本件工事代金に係る領収証を発行しなかったとまでは認められないこと、上記ロの(ハ)のとおり、現金の入出金等に係る日計帳の作成をまとめて知人に依頼していたこと、同(ホ)のとおり、本件工事代金に係る売上金額が、請求人が行っていたほかの工事の売上金額と比較しても、低額の部類に属することなどからすれば、Eが、本件工事代金に係る現金の受領後、自らの所持金と混同することなどにより、請求人に帰属する金員との認識を欠いた状態となり、手元にあった本件工事代金の受領に係る現金を個人的用途に費消した可能性を否定できず、そのほか、Eが、本件工事代金を請求人に帰属する金員であると認識した上で、個人的に費消したことを認める証拠もない。
    • (ホ) そうすると、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、隠匿あるいは故意に脱漏したとまでは認められないことから、本件工事代金が請求人の申告漏れとなったことは、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当するとは認められない。
    • (ヘ) 以上に照らすと、原処分庁の主張には理由がなく、そのほか当審判所における調査及び審理の結果によっても請求人に通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認めることはできない。

(3) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のハのとおり、請求人に事実の隠蔽又は仮装の行為があったと認めることはできないことから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。他方、本件各修正申告書に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号に規定する正当な理由があるとは認められない。
 以上のことから、本件各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも違法であり、また、本件各修正申告書について、通則法第65条第1項の規定により過少申告加算税の額を計算するといずれも5,000円未満となり、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により加算税が5,000円未満であるときはその全額を切り捨てることとなるから、本件各賦課決定処分のいずれもその全部を取り消すこととなる。

(4) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る